アジ研図書館利用者"一愛好者のつぶやき" (アジ研
図書館を使い倒す 第5回)
著者
保科 秀明
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
212
ページ
44-44
発行年
2013-05
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003718
日頃よりアジア経済研究所・付属図書館を利 用しています。 私自身今はすでに退職しましたが、かつては JICAの国際協力専門員として長く勤務して いたこともあり、現役時代は開発途上国問題に ど っ ぷ り と 浸 っ て い ま し た。 し か し 退 職 後 は、 時間が自由になった割には途上国問題に触れる 機会は激減し、ほかに趣味もないので暇を持て 余していました。そんな時にアジ研の図書館に 出会ったのです。 ア ジ 研 は 昔、 東 京・ 市 ヶ 谷 に あ り ま し た が、 現在はJR京葉線「海浜幕張」にあります。そ こ は 住 ま い か ら 近 い こ と も あ っ て、 自 転 車 に 乗って通い始めました。 はじめのころは取り留めもなくアジアやアフ リカの図書に触れていましたが、ふと在職中に 書き留めていた備忘録があったことに思い当た りました。その備忘録は単なる書き散らかしで したが、アジ研図書館に収納されている膨大な 資料を見ているうちに、これらの資料の助けを 借 り て“ 何 か シ ナ リ オ 作 り に つ な が ら な い か ” と考えるようになりました。それからいっそう 熱心に通うようになりました。 アジ研図書館には開発途上国を中心に国別資 料や時系列資料が蓄積されています。同時に途 上国に関する最新の出版物や国際機関統計など もそろっています。また専門領域も多様で、政 治、経済、地理はもとより、ビジネス業界や貧 困問題、WID、開発と子供、安全保障といっ た、ほぼありとあらゆる分野がカバーされてい るといっていいでしょう。 現場から離れた私にとって、毎月追加される 最近の出版物にも触れられることは大きな刺激 になりました。 私 の 関 心 領 域 は 開 発 途 上 国 の 都 市 問 題 で す。 政治、経済、農業といったほかの専門分野から 見ると、都市問題というのは研究領域として確 固たる分野を示しているとは言い難い、何かヌ エ 的 な 領 域 に も 思 え ま す。 あ え て い え ば、 “ 国 家か都市か”という対比のほうがわかりやすい のではないかとも思っています。今風にいえば 地方自治の問題と重なります。日本では幕藩体 制の時から幕府のもとで、各藩はかなり主体的 な藩の運営を任されていたようです。 一方、開発途上国では大半が植民地行政のも と、地方自治といった体制は整っていなかった のではないでしょうか。そんななかで都市問題 に取り組む事は容易なことではありません。し たがって、 取っ掛かりは大都市問題でした。 かっ て途上国の大都市問題といえば、各国の首都問 題だったといえます。国家にとって首都はその 顔であり、 外国大使館の置かれるところであり、 中央官庁の集積地でした。途上国の都市問題は 首都問題から出発したといっても過言ではあり ま せ ん。 ア ジ ア 諸 国 で は 政 治 の 安 定 を 背 景 に、 首都部で盛んな企業活動が起こり、それに伴い 人口が集中し始め、都市の交通問題が深刻化し ました。これに伴って、郊外の農村地帯に市街 地が広がり、住宅や工場、また大型のショッピ ング・センターなどが建設されていきました。 このような、 いわば“近代化”が進むなかで、 一九七〇年代後半から九〇年代まで、取り残さ れたスラムやスクヲッターと呼ばれる劣悪な居 住地区問題が社会問題として取り上げられまし た。特に国連や国際機関の大きな関心を引き付 けたのです。しかしなぜか二〇〇〇年代、脱冷 戦 時 代 に 入 る と そ の 熱 が 急 速 に 引 き 始 め ま す。 地球環境問題は引き続き関心を持たれています が、それは経済先進国・途上国に限らず共通の 問題であり地球的な課題だという認識が広がっ たからです。その陰で、スラム・スクヲッター 問題はそれぞれの地域の問題であるとして、わ きに追いやられてしまった感があります。 しかし、アジ研図書館に収集される図書の中 にはこれに関連した出版物が営々と収集されて います。ただし、 出版物の著者の関心は “貧困” 、 “格差” 、“女性” 、“子供” といった着眼点に代わっ てきているようです。 いずれにしても、 開発問題の在り様は“都市” か“農村”か、という視点からまさに“グロー バル”な視点に移ってきているようにも見えま す。 こんな仮説が妥当であるかどうかはわかりま せんが、今後も折を見てアジ研図書館に通いな がら、自己検証に努めたいと思います。 (ほしな ひであき/開発問題研究者)