1)くらしき作陽大学子ども教育学部/The Faculty of Childhood Education, Kurashiki Sakuyo University 2) 岡山大学大学院教育学研究科教育科学専攻/Graduate School of Education(Master s Course),Okayama
University
3)岡山大学教育学部/Faculty of Education,Okayama University
研究報告
フレーベル『人間の教育』に見る 「身体」 と保育内容 「健康」 領域との
関連性(第二報)
―「第二 幼児期の人間(前編)」を中心として―
Relevance between body and childcare details, health field shown in
human education by Frobel (2nd report)
―Focusing on chapter 2 human in early childhood (first part) ―
馬 場 訓 子
1)横 田 咲 樹
2)髙 橋 敏 之
3)Noriko Baba
Saki Yokota
Toshiyuki Takahashi
Abstract
This paper was subject to Chapter 2 Human in Early Childhood (First Part) of Human Education (1826) written by F. Frobel [1782-1852], extracted writing concerning body , and considered the modern meaning in relevance with childcare details, Health field. The results showed an issue that modern childcare requires reconsideration.
Of particular interest in Froebel s writings is firstly, his emphasis on facial expressions in childcare and upbringing and play with body , and its relevance to childcare and upbringing in Japan can be indicated. It is suggested that Froebel's body expression through facial expressions can be seen in daily childcare at childcare centers of contemporary Japan as well. Secondly, the indications made about educational passivity and nature and necessity of childcare should be consistent and harmonious with contemporary Japanese childcare thought. The universality of Froebel's writings can be confirmed in such points as well. It can be said that intellectual education, virtue education, and beauty education, which Froebel refers to as spiritual childcare, are difficult issues to promote research on, even though their importance has been indicated in the current research on childcare. Thirdly, it should be noted that there are few points in common between Froebel's expectations for children s play and the current Japanese childcare. We could say that Froebel was thinking about what children can learn through play from a different standpoint than us. It will be necessary to delve deeply into this point as an important research subject for future research in childcare science.
Generally, Kindergarten Education Guidelines rarely describes link with spirit in sentences about body in Kindergarten Education Guidelines . Frobel considers and focuses on relevance and circulation between body and spirit, which leaves a vivid impression. Human Education is more specific for specific sentences and more conceptual for conceptual sentences than public notices concerning childcare education. Accordingly, it strongly leaves impression that it writes a lot about where the relationship with education or children will reach as human. Frobel writes about relevance and circulation between body and spirit
Ⅰ.フレーベル『人間の教育』の現代的意味
1 .フレーベルの考えた「身体」の再検討 日本で最初に設立された東京女子師範学校付属幼稚 園は,フレーベル教育を中心に保育実践し,その後の 幼稚園教育の模範となった.したがって,創設当初か ら現在に至るまで,日本の幼児教育の基本理念とフ レーベル教育は,深く関連している.また,F.フレー ベル[1782-1852]の著書『人間の教育』(1826)は, 出版から193年を経た現代にあっても,保育関係者に 読み継がれる古典的名著である.そこで本研究は,『人 間の教育』を研究対象にして,彼の幼児教育の本質に 迫る著述を,日本の保育・養育・教育に投影して再検 討・再吟味する.研究の第一段階は,「第一 全体の 基礎づけ」を対象に「身体」に関する著述を抜粋し,「歩 行と自立」「最初の微笑」「人間の発達」「身体活動と 感覚」について,その現代的意味を保育内容「健康」 領域との関連性において考察した.その結果,身体性 と精神性の緊密な関連性や現代日本の保育を振り返る 必要性のある課題が見出された.研究の第二段階とし て本論(第二報)では,「第二 幼児期の人間(前編)」 を対象として,「身体を使った遊び」「身体の保育と精 神の保育」「遊びと遊具」等の課題について分析・考 察する.具体的な研究手法としては,フレーベルの著 述と幼児教育関係告示文との照合によって整合性を再 検討したり,関連研究を概観しながらフレーベルの先 見性が見られる著述を再吟味したりする.本論で考察 対象とする文献範囲は,学術論文に限定し,保育図書 等の啓蒙書は含めない. 2 .保育内容「健康」領域の概要 本論では,フレーベル『人間の教育』の保育におけ る現代的意味を考える上で,関連する先行研究を概観 すると同時に,『幼稚園教育要領』(2017)『保育所保 育指針』(2017)を対照文献とし,該当箇所を引用し て比較検討する.必要がある場合は,『幼稚園教育要 領解説』(2018)『保育所保育指針解説』(2018)も対 象とする.『幼稚園教育要領』及び『保育所保育指針』 に示される保育内容「健康」領域の内容は,ほぼ同じ であるため,乳児保育の健康への言及がある『保育所 保育指針』の記述を以下に掲げた.本研究の主題と密 接に関わる「体」に関して様々な記述があることが確 認できる.本論の考察及び論述に関連性のある部分ま たは項目に対して,ゴシック体と強調文字と下線を付 した.ゴシック体文字は「体」,強調文字は考察との 関連が強い用語,下線は本論において重要な文節等を 意味している. 『保育所保育指針』乳児保育に関わるねらい及び内容「健 やかに伸び伸びと育つ」 〔健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活をつくり出 す力の基盤を培う.〕 (ア) ねらい ① 身体感覚が育ち,快適な環境に心地よさを感じる. ② 伸び伸びと体を動かし,はう,歩くなどの運動をしよ うとする. ③ 食事,睡眠等の生活のリズムの感覚が芽生える. (イ) 内容 ① 保育士等の愛情豊かな受容の下で,生理的・心理的欲 求を満たし,心地よく生活をする. ② 一人一人の発育に応じて,はう,立つ,歩くなど,十 分に体を動かす. ③ 個人差に応じて授乳を行い,離乳を進めていく中で, 様々な食品に少しずつ慣れ,食べることを楽しむ. ④ 一人一人の生活のリズムに応じて,安全な環境の下で 十分に午睡をする. ⑤ おむつ交換や衣服の着脱などを通じて,清潔になるこ との心地よさを感じる. (ウ) 内容の取扱い 上記の取扱いに当たっては,次の事項に留意する必要があ る. ① 心と体の健康は,相互に密接な関連があるものである ことを踏まえ,温かい触れ合いの中で,心と体の発達 を促すこと.特に,寝返り,お座り,はいはい,つか まり立ち,伝い歩きなど,発育に応じて,遊びの中で 体を動かす機会を十分に確保し,自ら体を動かそうと する意欲が育つようにすること. ② 健康な心と体を育てるためには望ましい食習慣の形成 が重要であることを踏まえ,離乳食が完了期へと徐々 に移行する中で,様々な食品に慣れるようにするとと もに,和やかな雰囲気の中で食べる喜びや楽しさを味 わい,進んで食べようとする気持ちが育つようにする こと.なお,食物アレルギーのある子どもへの対応に ついては,嘱託医等の指示や協力の下に適切に対応す ること.more deeply and selectively. It is true he writes about inner and outer sides and intention and extension with strong comparison.
Key words: F.Frobel,play with body,body expression through facial expressions,children s play,
health field
『保育所保育指針』3歳以上児の保育に関するねらい及び内 容「健康」 〔健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活をつくり出 す力を養う.〕 1 ねらい ⑴ 明るく伸び伸びと行動し,充実感を味わう. ⑵ 自分の体を十分に動かし,進んで運動しようとする. ⑶ 健康,安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け,見通 しをもって行動する. 2 内容 ⑴ 保育士等や友達と触れ合い,安定感をもって行動する. ⑵ いろいろな遊びの中で十分に体を動かす. ⑶ 進んで戸外で遊ぶ. ⑷ 様々な活動に親しみ,楽しんで取り組む. ⑸ 保育士等や友達と食べることを楽しみ,食べ物への興味 や関心をもつ. ⑹ 健康な生活のリズムを身に付ける. ⑺ 身の回りを清潔にし,衣服の着脱,食事,排泄などの生 活に必要な活動を自分でする. ⑻ 保育所における生活の仕方を知り,自分たちで生活の場 を整えながら見通しをもって行動する. ⑼ 自分の健康に関心をもち,病気の予防などに必要な活動 を進んで行う. ⑽ 危険な場所,危険な遊び方,災害時などの行動の仕方が 分かり,安全に気を付けて行動する. 3 内容の取扱い 上記の取扱いに当たっては,次の事項に留意する必要があ る. ⑴ 心と体の健康は,相互に密接な関連があるものであるこ とを踏まえ,子どもが保育士等や他の子どもとの温かい 触れ合いの中で自己の存在感や充実感を味わうことなど を基盤として,しなやかな心と体の発達を促すこと.特 に,十分に体を動かす気持ちよさを体験し,自ら体を動 かそうとする意欲が育つようにすること. ⑵ 様々な遊びの中で,子どもが興味や関心,能力に応じて 全身を使って活動することにより,体を動かす楽しさを 味わい,自分の体を大切にしようとする気持ちが育つよ うにすること.その際,多様な動きを経験する中で,体 の動きを調整するようにすること. ⑶ 自然の中で伸び伸びと体を動かして遊ぶことにより,体 の諸機能の発達が促されることに留意し,子どもの興味 や関心が戸外にも向くようにすること.その際,子ども の動線に配慮した園庭や遊具の配置などを工夫するこ と. ⑷ 健康な心と体を育てるためには食育を通じた望ましい食 習慣の形成が大切であることを踏まえ,子どもの食生活 の実情に配慮し,和やかな雰囲気の中で保育士等や他の 子どもと食べる喜びや楽しさを味わったり,様々な食べ 物への興味や関心をもったりするなどし,食の大切さに 気付き,進んで食べようとする気持ちが育つようにする こと. ⑸ 基本的な生活習慣の形成に当たっては,家庭での生活経 験に配慮し,子どもの自立心を育て,子どもが他の子ど もと関わりながら主体的な活動を展開する中で,生活に 必要な習慣を身に付け,次第に見通しをもって行動でき るようにすること. ⑹ 安全に関する指導に当たっては,情緒の安定を図り,遊 びを通して安全についての構えを身に付け,危険な場所 や事物などが分かり,安全についての理解を深めるよう にすること.また,交通安全の習慣を身に付けるように するとともに,避難訓練などを通して,災害などの緊急 時に適切な行動がとれるようにすること.
Ⅱ.「第二 幼児期の人間(前編)」に見る
「身体」
『人間の教育』「第二 幼児期の人間」には,項目 24から項目44までの21項目中9項目で「身体」に関す る著述がある.それらの中から,考察の対象になり得 る現代的意味のある著述を順に見てみよう.本論では, 前半の3項目について考察する.引用文のゴシック体 と強調文字と下線と[ ]書きは,筆者らによる.ゴ シック体文字は「身体」,強調文字は考察との関連が 強い用語,下線は考察するにおいて重要な文節等を意 味している.ページ数は,調査対象の文献のものであ る.以下,同様とする. 1 .身体を使った遊び 27 [1]感覚の発達につれて,同時に,またそれとつりあ うように,身体の,特に四肢の使用が,幼児のなかに発達 してくる.[p.63]/[2]立つということは,四肢の使用 や身体の使用全部の,ひとつの,しかも最も完全な綜合で ある.それは,身体の重心を発見することである.身体的 に立つということは,この段階にとっては,きわめて重要 な意味を持っている.それは,ちょうど微笑すなわち身体 的(自然的)な自己発見が,以前の段階にとって重要な意 味を持ち,道徳的,宗教的に立つということが,人間発達 の最後の段階にとって,重要な意味を持っているのと同様 である.[p.64]/[3]この発達段階においては,地上に 現われ,成長しはじめたばかりの人間にとっては,まだ身 体や感覚器官や四肢を使用することだけが,いや純粋にこ れらのものを使用し,応用し,練習することそのことだけ が,問題なのであって,この身体や感覚や四肢の使用から, またそれを通して,生じてくることがらは,かれにとって は問題ではない.[p.64]/[4]そこから,この段階にお いて,自分の身体つまり手や指や唇や足やさらには眼や顔 つきなどで遊ぶということが,始まるのである.[p.64] /[5]ところで,いま述べたばかりのことだが,なるほ どはじめは,外的なものにおける内的なものの表現という ことが,顔や身体の運動として現われるところの上述の顔 つきや身体を使っての遊戯の基礎になっているわけではな い.[pp.64-65]/[6]しかし,この遊戯こそ,子どもが, 内面的な根拠がなにもないのに身体を動かしたり,特に表 情をかえたりする,たとえば眼をむいたり,口をまげたり する習慣を身につけたりしないように,したがって,きわ めて幼いころから,表情と感情との間に,身体と精神との 間に,すなわち外的なものと内的なものの間に,分裂や, 分離がしのびこんだりしないように,注意したり,保護を 加えたりするために,子どもの表現として,最初に与えら れるものである.[p.65]/[7]そのうえ,身体の虚弱化 を避けるためにも,このような扱いをされてはならないの である.というのは,身体の虚弱化は,必ず精神の虚弱と柔弱をうみだすものであり,またその原因となるものだか らである.上述の後のほう,すなわち身体の虚弱化を防ぐ ためには,子どもたちの寝床は,早くから,いや生れると すぐから,余り柔かでないもののほうがよい.[p.65] ( 1 )感覚の発達 項目27は,「第二 幼児期の人間」の中で「身体」 に関する著述が,最も多い項目である.フレーベルは, 第1・2・3引用文では,「感覚の発達」とそれに連動し た「四肢を使う身体の発達」を指摘し,「直立が,身 体使用の完全な総合」であると規定し,「第一 全体 の基礎づけ」項目19で言及したことを別の表現で述べ ている.先ず,「直立」によって「身体の重心の発見」 が,重要であることを繰り返し強調している.次に,「道 徳的,宗教的」自立が,「人間発達」の上で重要な意 味があると説いている.最後に,「感覚器官や四肢」 を「使用・応用・練習」することが,大切だと述べて いる.また,「微笑=身体的自己発見」であることを 指摘している.これも,項目20で触れたことへの再言 及である.以上の事柄は,本研究の第一報で論考した ので,ここでは詳述を避ける. フレーベルの著述と幼児教育関係告示文との関連性 を見てみよう.現行の保育・幼児教育は,保育内容5 領域が相互補完的に位置付いており,例えば「自然」は, 「環境」「人間関係」「表現」に有機的に関連している. したがって本論は,保育内容「健康」領域との関連性 を中核にするが,必要がある場合は,前文や総則や他 領域との関連や語数の比較を行う.フレーベルが身体 との関連を説いている「感覚」は,保育内容「健康」 には見当たらないため,調査範囲を『幼稚園教育要領』 と『保育所保育指針』の全体に拡大すると,『幼稚園 教育要領』には,「感覚の発達」に関する記述はないが, 「数量」「図形」「標識」「文字」「物の性質」「言葉」等 に対する「感覚」として7箇所で言及されていること が確認できる.一方,『保育所保育指針』では,以上 の記述に加えて,「遊びを通して感覚の発達が促され る」が2箇所と,「感覚の働き」「場所的感覚」「環境を 捉える感覚」「言葉に関する感覚」「身体の諸感覚」「様々 な感覚」「物の性質や数量,文字に対する感覚」「視覚, 聴覚などの感覚」「身体感覚」「生活のリズムの感覚」 のような記述が14箇所ある.これら合計16箇所のうち 15箇所は,3歳未満児の保育についての記述であり, 感覚に関する教育は,3歳以上児よりも3歳未満児の方 が重視されていることが確認できる.また,「身体」 に関しては, 『幼稚園教育要領』は「健やかな身体を 養う」との記述が1箇所あるのみである.一方で,『保 育所保育指針』には,「身体的発達」「身体感覚」「身 体の諸感覚」「身体的機能」「生理的・身体的な育ち」 等の言及が6箇所ある.以上のように,「感覚」と「身 体」の関連性については,『保育所保育指針』の方が, 養育の観点から熟考して記述していると指摘でき,さ らには,フレーベルの著述に近いと言える. 学術研究の動向を見てみよう.例えば,論文検索サ イトCiNii(以下の検索も同様)では,「保育」and「感 覚」の検索語で,最近30年間(1991∼2020年)に200 件の文献を検索できる(検索日:2020年1月17日).「保 育」and「感覚の発達」では,5件である.論文題目 に「保育」と「感覚」が含まれる文献は,最近30年間 に51件がヒットする.「保育」and「感覚の発達」では, 0件である.第1・3引用文でフレーベルが述べている「感 覚の発達」「感覚器官」「感覚の使用」の「感覚」は,「外 界からの刺激を感受して神経系に伝える器官.視覚・ 聴覚・嗅覚・味覚・触覚器官など」を指すものと思わ れ,それに関連する最近10年間(2011∼2020年)の研 究を俯瞰してみると,「感覚的世界」「触感覚」「感覚 統合」「共感覚」「感覚あそび」「感覚間協応」「感覚特 性」「感覚運動経験」等が考察対象になっている.現 在の保育においても「感覚の発達」を促す保育の実践 と研究は,重要な研究主題であることに変わりはない. ( 2 )身体で遊ぶ 第4・5・6引用文では,「自分の身体で遊ぶ」つまり, 身体表現による自己表現活動について述べている.フ レーベルは,「表情と感情」「身体と精神」「外的なも のと内的なもの」等の対比を使って,「表情遊び」を 表現遊びとして位置付けている. 『幼稚園教育要領』には,フレーベルの著述にある 「手」「指」「唇」「足」「眼(目)」「顔」「顔つき(付き)」 「表情」に関する記述は,全くない.一方,『保育所保 育指針』には,「手」は「表情や手足」「手や指を使っ て遊ぶ」「手足や体を動かして楽しんだりする」「簡単 な手遊びや全身を使う遊び」のような形と意味合いと して4箇所で記述され,「指」は「手や指を使って遊ぶ」 「指先の機能も発達し」として2箇所に登場し,「足」 は「表情や手足」「手足や体」の2箇所で使われている. ただし,「指」「手」「足」の記述は,「乳児保育に関わ るねらい及び内容」と「1歳以上3歳未満児の保育に関 わるねらい及び内容」の中で確認でき,3歳以上児を 対象とはしていない.「唇」「眼(目)」「顔」「顔つき(付 き)」に関する記述は,全くない.また,「表情」に関 する記述は4箇所あり,「表情や手足」「体の動きや表情」 等の文言で記述されている.したがって,フレーベル の著述と,『保育所保育指針』の「手遊び」「全身を使 う遊び」「手や指を使って遊ぶ」には,整合性が見られ,
フレーベル教育の継承が確認できる. 『幼稚園教育要領』と『保育所保育指針』において, 「顔」という用語は使用されていない.「表情」につい ては,『保育所保育指針』の「乳児保育に関わるねら い及び内容」に4箇所あるのみである.そこで,調査 範囲に『幼稚園教育要領解説』と『保育所保育指針解 説』を含める.『幼稚園教育要領解説』には,「顔」が 5箇所で,「表情」が15箇所で使用されているが,身体 表現としての言及ではない.『保育所保育指針解説』 には,「顔」が23箇所で,「表情」が38箇所で使用され ている.それらは主に,「子どもの何気ない仕草や表情」 「子どもの表情や仕草」「声や表情」「表情や体の動き」 等である.しかし,1箇所だけ「子どもは,感じたり, 考えたりしたことを身振りや動作,顔の表情や声など 自分の身体そのものの動きに託したり」の文章がある. これは,フレーベルの言う「顔つきや身体を使っての 遊戯」に整合する記述であると指摘でき,保育所保育 において,フレーベルの「表情による身体表現」が, 現代日本の保育においても,日常的な保育場面で見ら れる可能性を示唆している. 第4引用文の「手」「指」「唇」「足」「眼」「顔つき」 等で「遊ぶ」という著述から,私達は,「手遊び」「指 遊び」「唇遊び」「足遊び」「眼遊び」「顔つき遊び」と いう用語を作り出すことができる.この中で「手遊び」 は,現代保育における日常語である.学術用語として も定着しており,学術論文も多く発表されている.「保 育」and「手遊び(あそび)」の検索語で,最近30年 間(1991∼2020年)に84件の文献を検索できる(検索 日:2020年1月20日).論文題目に「保育」と「手遊び (あそび)」が含まれる文献は,最近30年間に43件がヒッ トする.その中で,「保育」と「手遊び(あそび)」を 「歌」との関連性で研究したものは,17件である.そ の中の11件が,最近10年間(2011∼2020年)の研究成 果である. 言葉としては,「手遊び歌」「歌と手遊び」 等である.保育における手遊びは,歌いながら実践さ れることが多いことが,このことからも分かる.その 他の文献は,「手遊びの意義」「手遊びと紙芝居の組み 合わせ」「手遊びの多様性」「集中力に及ぼす手遊びの 効果」等を研究主題にしている. 保育における「指遊び(あそび)」を考察対象にし た文献は,最近30年間に4件あり(検索日:2020年1月 30日),研究内容は,領域「健康」や「言葉」と関連 している.身体との関連がある文献は,山口(2003)「幼 児の成長と体育―体育学からの考察―」の1件で,保 育者養成に関するものである.それ以外の「唇遊び(あ そび)」「足遊び(あそび)」「眼(目)遊び(あそび)」 「顔つき(付き)遊び(あそび)」は全く検索できず, 学術研究の考察対象には,なっていないようである. また,荘司(2009)「フレーベルの恩物研究(第21報) 作業としての活動遊び(身体遊び)」,平松(2018)「幼 児期の身体をはぐくむ実践とは―体育に関する愛好的 態度測定の試行―」等の文献が,「身体遊び」や「身 体を使った遊び」に言及しており,荘司(2009)は,「フ レーベルの活動遊びは,旅行遊びと表現遊び,競争遊 びと歩行遊びの四種類で構成されている」と述べ,平 松(2018)は,幼稚園5歳児を観察対象にした「こお り鬼」「ばなな鬼」「じゃんぷ鬼」等の「鬼遊び」を考 察している.「唇遊び」「顔つき(付き)遊び」につい ては,保育の日常語にも学術用語にも見出すことがで きない. 以上のように,文献検索の感触としては,保育にお ける身体遊びの研究成果は,予想に反して現実には余 りないと言えそうである.この直感の落差を生じさせ るのは,保育実践の現場では,「いっぽんばし」や「ちゃ つぼ」のような,指や手を用いた遊びが,日常的に実 践されているからであろう.今後は,フレーベルの「手」 「指」「唇」「足」「眼」「顔つき」の視点から,童歌や 伝承遊びを再検討することが,学術研究として必要で あると考えられる. 第5・6引用文にある「顔つきや身体を使っての遊戯 こそ…子どもの表現として,最初に与えられるもので ある」の理由をフレーベル自身が述べている.それを 分かりやすく言い換えると,「子どもが,内面的な根 拠が何もないのに,身体を動かしたり表情を変えたり するのは,良くないことである.特に,目を剥いたり 口を曲げたりする違和感のある習慣を身に付けたりし ないように,配慮する必要がある.したがって早期幼 児期から,表情と感情との間に,身体と精神との間に, 外的なものと内的なものの間に,分裂や分離が起きな いような注意と保護が必要である」となるだろう.つ まりフレーベルは,「表情と感情」「身体と精神」「外 的なものと内的なもの」の一致や整合性の重要性を指 摘している. ( 3 )身体と寝床 フレーベルは,第7引用文で「身体の虚弱化防止の ために,寝床を余り柔らかくしないように」と忠告し ている.幼稚園教育には,午睡そのものがないので,『幼 稚園教育要領』には,「寝床」「ベッド」「布団」に関 する言及はない.一方,『保育所保育指針』には,「午 睡」についての記述は3箇所あるが,「寝床」「ベッド」 「布団」についての言及は全くない.フレーベルは, 根拠を明確に示していないので,不明な点も残るが, 子ども用のベッドや布団は,余りにも柔らかいものは, 避けた方が良いと考えていたようである.
「保育」and「寝床」「ベッド」「布団」で検索でき る文献は,全くない(検索日:2020年2月19日).「保育」 and「寝具」で検索すると かに4件ヒットするが, 掲載誌は,保育系の学術雑誌ではない(検索日:2020 年6月23日).啓蒙を目的とした保育図書で扱われる「午 睡中の乳幼児突然死」との関係で,「小児保健」また は「保育保健」and「事故」に掛け合わせて,「寝床」「寝 具」「ベッド」「布団」をそれぞれ検索しても,フリー ワードでも論文題目でも1件もヒットしない.日本の 現代保育では,寝具は,現在のところ学術研究の対象 にはなっていないようである. しかし,「小児」and「寝具」を 言葉に検索する と最近30年間に23件がヒットし,その中で,論文題目 に「小児」と「寝具」が含まれる文献は,5件である(検 索日:2020年6月20日).それらは,主にアレルギー関 連の掲載誌であり,寝具管理による疾病との関わりと いう観点から,保育学とは異なる医学分野の研究題目 として取り扱われている.フレーベルの言説は,「寝床」 の質感と心身の健康との関連を指摘していると考えら れ,乳幼児の身体健康に関わる重要な研究課題と言え る.今後は,保育学と医学の複合領域における研究の 発展が望まれる. 2 .身体の保育と精神の保育 28 [1]感覚器官や身体や四肢の活動が発達して,子ども が,つぎに内的なものを,外部に,自発的に,表現し始め るようになると,人間発達の乳児の段階が終り,幼児の段 階が始まる.[p.66]/[2]さて,幼児期の段階,すなわ ち内的なものを,外的なものにおいて,また外的なものを 通して,目に見えるものにし,さらに両者の合一を,両者 を結合する統一を,求め,志向するこの段階から,人間の 本来の教育,すなわち身体の保育や保護という面はなるほ ど減少するが,精神の保育や保護の面は増大するところの 教育が,始まる.[p.67] ( 1 )幼児期の始まり フレーベルが,項目28の第1引用文で述べているの は,「感覚器官と身体活動の発達を前提にして,内面 の表出や表現が始まり,乳児期から幼児期へと移行す る」ということである.領域「健康」の「感覚器官」 への言及について,「食べ物の名前や味,色,形など に親しみながら食べ物の興味や関心を持つようにする ことが…」といった,味覚(口,舌)や視覚(眼), 触覚(皮膚等)の感覚器を通して幼児の興味や関心を 醸成するという記述内容が見出せる.また,身体活動 においても「いろいろな遊びの中で十分に体を動かす」 や「進んで戸外で遊ぶ」という項目がある.しかし, それらの発達を前提とした「内面の表出や表現」とい うことまでは言及されていない. フレーベルは,「第一 全体の基礎づけ」の項目7 において,「それゆえ,教育,教授,および教訓は, 根源的に,またその第一の根本特徴において,どうし ても受動的,追随的(たんに防禦的,保護的)である べきで,決して命令的,規定的,干渉的であってはな らない[p.18]」と述べ,教育の受動性について言及 している.この教育理念は,現代日本の保育思想とし て,「援助」「支援」「環境構成」というような用語と 共に生き続けていると言える. ( 2 )身体と精神の保育 フレーベルは,幼児期は「身体の保育や保護」が減 少し,「精神の保育や保護」が増大するとしているこ とから,幼児期には「精神の保育や保護」の方を重視 していたと考えられる.第2引用文から 言葉として 取り上げられる「身体の保育」と「精神の保育」につ いて,幼児教育関係告示文における認識を確認してみ ると,『幼稚園教育要領』『保育所保育指針』には,全 く記述されていない用語であることが判明する.それ は,調査範囲を『幼稚園教育要領解説』と『保育所保 育指針解説』に広げても同様である.一方で,保育内 容5領域は,心情・意欲・態度の観点から,いずれの 領域も「身体」と「心」の両側面が内包された記述と なっており,総合的な活動や学びを前提として実践さ れる.また,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」 では,主体的・対話的学び,理解や納得,意欲を育む 「深い学び」といった,本論でいうところの「精神の 保育」に根差す思想やそうした点への着目はより深 まっていると解釈できる. 関連する学術研究を概観してみよう.「身体の保育」 又は「精神の保育」の検索語でヒットする文献は,過 去にない.論文題目に「身体の保育」又は「精神の保 育」が含まれる文献も,全くない.そこで,「身体の 保育」と「精神の保育」を「体育」「食育」「知育」「徳 育」「美育」に置き換えて検討する.論文題目に「保育」 and「知育」が含まれる文献は,最近30年間(1991∼ 2020年)に5件がヒットする.同様に,「保育」and「徳 育 」 は2件,「 保 育 」and「 体 育 」 は164件,「 保 育 」 and「美育」は1件,「保育」and「食育」は352件であ る(検索日:2020年2月24日).以上の調査から,知育・ 徳育・美育を総体として研究対象にするのは困難であ るが,体育・食育は,研究対象にするのは比較的容易 であると言えよう.体育・食育は「精神の保育」より も「身体の保育」に,知育・徳育・美育は「身体の保 育」よりも「精神の保育」に強い対応関係を見出せる. 幼児期に「精神の保育や保護」を重視したフレーベル の思想と現在の保育学研究の動向においては,差があ
ると言えそうである. フレーベルは,「第一 全体の基礎づけ」の項目15 において,「人間はたれでも,すでに幼時から,人類 の必然的,本質的な一員として,認識され,承認され, かつ保育されるべきである.したがって,両親は,保 育者として,神や,子どもや,人類に責任を感ずべき であるし,また,その責任を認識すべきである[p.29]」 と,「保育」を定義付ける著述をしている.この前半 部分は,幼児期の保育の本質と必要性を指摘している. また後半部分は,日本の『教育基本法』が「家庭教育」 について定めた「第10条 父母その他の保護者は,子 の教育について第一義的責任を有するものであって, 生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに, 自立心を育成し,心身の調和のとれた発達を図るよう 努めるものとする」に整合・調和する著述になってお り,ここでもフレーベルの先見性に注目することがで きる. ( 3 )保育者の身体性 フレーベルは,項目28の第2引用文で「身体の保育」 と「精神の保育」について著述している.「身体の保育」 を実践するには,その反射・反映として「保育者の身 体」が,鏡映像として浮かび上がる.国内研究を俯瞰 してみよう.先ず,無藤(1996)は,「身体知の獲得 としての保育」を考察し,「幼児を対象とする保育の 根底には,多様な動きを可能にするということがあり, そのための場が幼稚園の環境であり,保育は,それを 環境設定を通して援助することだ」と述べた.次に, 榎沢(1997)は,「園生活における身体の在り方」を 解明しようとし,「保育者は,自分の身体が自ずから 動きだす身体でなければならないが,同時に,自分の 身体をもって,子どもの身体がそのような身体である ように支えなければならない」と結論付けている.ま た,西(2001)は,「保育者と身体性」を主題に,「柔 らかなからだを保育者の専門性のひとつと位置づけ」, そのような身体性を考察した結果,「保育者は,自分 自身の身体性から子どもを理解する新しい視点を築 き,からだを通して子どもとのかかわりをつくりだし ていった」と述べている.さらに,新山・髙橋(2003) は,「保育者としてふさわしい身体」を主題に,「保育 者養成校における身体表現の授業内容を再検討」した 結果,「身体的コミュニケーション育成を包括した授 業内容が不可欠であり,その視点に立った授業内容の 見直しが必要である」との見解を得た.最後に,西・ 野口(2005)は,「保育者としての身体的感性を育て る教育」を主題に,「量的な検討と質的な検討を試みた」 結果,「保育者養成の授業での身体表現の体験によっ て,保育者としての身体的な感性の一つの側面が,一 定の割合で育成される可能性が示唆された」.以上が, 近年の研究成果の概要である.子どもの身体性を保育・ 養育・教育するためには,保育者自身が身体性を獲得 する必要があることが,強く示唆される. 以上の研究成果は,「保育者の身体」について考察 する中で,「子どもの身体」についても触れており, 例えば「多様な動きを可能にするということ」「自分 の身体が自ずから動きだす身体」等を育成することが, 現代における子どもの身体の保育であると述べられて いる. 3 .遊びと遊具 30 力いっぱいに,また自発的に,黙々と,忍耐づよく, 身体が疲れきるまで根気よく遊ぶ子どもは,また必ずや逞 しい,寡黙な,忍耐づよい,他人の幸福と自分の幸福のた めに,献身的に尽すような人間になるであろう.[p.71] ( 1 )保育における遊び フレーベルは,項目30において,子どもの遊びと学 びと育ちについて著述している.ここで「遊ぶ」と「遊 び」に着目してみると,『幼稚園教育要領』には,「遊 ぶ」が6箇所で「遊び」が17箇所で記述されている. また『幼稚園教育要領解説』には,「遊ぶ」が74箇所 で「遊び」が295箇所で触れられている.同様に『保 育所保育指針』では,「遊ぶ」が9箇所で「遊び」が40 箇所で,『保育所保育指針解説』では,「遊ぶ」が73箇 所で「遊び」が392箇所で言及されている.これらの 調査結果から,日本の現代保育が,子どもの遊びを如 何に重要視しているかを読み取ることができる.『幼 稚園教育要領』の2頁目には,「前文」において「幼児 の自発的な活動としての遊びを通して総合的な指導を する[p.2]」と早くも「遊び」が登場し,「第1章 総則」 においても,「幼児の自発的な活動としての遊びは, 心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であ る[p.3]」と記述されている.これに対して,『保育 所保育指針』では,15頁目の「第1章 総則」の「4 幼児教育を行う施設として共有すべき事項」「(2)幼 児期の終わりまでに育ってほしい姿」「オ 社会生活 との関わり」に「保育所内外の様々な環境に関わる中 で,遊びや生活に必要な情報を取り入れ…[p.15]」 として,漸く「遊び」が登場する.これは,保育所保 育においては,「養護に関する基本的事項」の「生命 の保持」や「情緒の安定」等が,何よりも優先される ことを示しており,食事・睡眠・情緒が充足・安定し ていないと,遊びや教育は,開始できないことを意味 している. 現在の日本の保育が基本的な理念として,子どもの
生活は遊びを中心にしており,その遊びの中に学び(学 習)があると考えていることを前提にすると,「保育」 and「遊び」の検索語で,最近30年間(1991∼2020年) に2,734件の文献を検索できることは,当然の結果で あると言える(検索日:2020年2月27日). 論文題目に「保育」と「遊び」が含まれる文献も, 最近30年間に1,316件がヒットする.しかし,フレー ベルが項目30で述べている「力一杯」「自発」「黙々」「忍 耐」「疲れ切る」「根気」を検索語にして,「保育」と「遊 び」に掛け合わせて最近30年間の文献検索をすると, 「力一杯」0件,「自発」59件,「黙々」0件(「没頭」10 件),「忍耐」1件,「疲れ」「疲れ切る」0件(「疲労」5 件),「根気」0件である.「自発」59件も,論文題目に 含まれる文献は10件である.最近の主な研究としては, 「自発遊び」「自発的な遊び」「自発的に没頭できる遊び」 「自発的な活動としての遊び」等が,考察の対象になっ ている.「黙々」を「没頭」に言い換えた10件も,論 文題目に含まれる文献は1件のみで,それは,門(2018) 「子どもが自発的に没頭できる遊びの本質とは―ある 幼稚園の環境にかける保育の取り組みから―」である. この論文の主張は,「子どもたちが自発的に一つのこ とに没頭して遊ぶという経験を重ねていくことは,子 どもの自己実現を導き,さらに新たな経験の糸をたぐ り寄せることにつながる」という点である.「忍耐」 の1件は,吉川ほか(2014)「木育における地域の子育 て支援活動としての可能性」であり,論文題目に「忍 耐」は含まれないが,「保育者は子どもが木に触れ, 木を使うことを通して,創造力や表現力,忍耐力や集 中力など様々な力を楽しみ育むことができる点を強調 していた」との論述が確認できる. 上述の「没頭」「疲労」のように類語にまで調査範 囲を広げることは,考察対象となる文献範囲が不明瞭 になる可能性があるが,項目30のフレーベルの著述に 近い概念として,例えば,論文題目に「熱中」「集中」 「充実」を検索語にして,「保育」と「遊び」に掛け合 わせて最近30年間の文献検索をすると,「熱中」0件,「集 中」2件,「充実」15件である.「集中」の2件は,今井 (2016)「幼保連携型認定こども園教育・保育要領の「遊 び」 の取り扱いに関する一考察― 「集中して遊ぶ場」 に着目して―」と目久田・越中(2018)「保育活動に 対する幼児の集中力に及ぼす導入としての手遊びの効 果」である.「充実」が論文題目に含まれる15件のう ち12件は,「遊びの充実」が 言葉になっており,さ らに保育内容「人間関係」との関連性の中で考察され ているものが多い. 以上の調査から注目すべきは,フレーベルが子ども の遊びに期待していたものと,現在の日本の保育との 間に相違点が見出されることである.フレーベルの著 述と比較すると,現代保育では「忍耐」や「疲れ切る」 といった否定的な視点で,遊びを捉えない傾向にある と言えよう.この保育課題は,日本の幼児教育の基本 理念が,子どもの主体的な活動によって行うものであ ることが背景要因となっていると考えられる.主体的 な活動を引き出すためには,子どもの興味関心に沿っ た教材や環境を設定する必要がある.その際,保育の 意図や省察は,子どもが楽しんでいるかどうかが重要 な観点になる.したがって,否定的な保育の「ねらい」 や題材が議論の対象になりにくいことは,回避できな い状況として想定できる.しかし,フレーベルの言説 によると,遊びや保育教材を否定的な側面から捉える ことも,子どもの学びにおいて有用であることが考え られる.子どもが負の印象を持つ題材や活動を議論の 対象外とすることが,子どもの学びや育ちを制限して いるかどうか,あるいは,そういう観点が子どもの成 長や発達を考える上で不必要であるのかどうかは,今 後の課題として検討することが求められる. ( 2 )保育における遊具 子どもの遊びに不可欠である「遊具」に着目してみ ると,『幼稚園教育要領』には,「遊具」が4箇所で記 述されている.また『幼稚園教育要領解説』では,「遊 具」が57箇所で述べられている.同様に『保育所保育 指針』では,「遊具」が7箇所で言及され,『保育所保 育指針解説』では,「遊具」が65箇所で触れられている. これらの結果から,日本の現代保育が,「遊び」と同 様に「遊具」を重要視していることを読み取ることが できる. 「保育」and「遊具」の検索語で,最近30年間(1991 ∼2020年)に168件の文献を検索できる(検索日: 2020年3月4日).同様に,「保育」and「玩具」は88件, 「保育」and「おもちゃ」は92件である.論文題目に「保 育」と「遊具」が含まれる文献は,最近30年間に72件 がヒットする.同様に,「保育」and「玩具」は26件,「保 育」and「おもちゃ」は46件である.30年間の研究の 蓄積としては,上述のように,保育における玩具・お もちゃ・遊具の重要性を考えると,学術研究の成果と しては,低調であると言えよう.最近の研究主題を見 てみると,「遊具の活用」「固定遊具」「室内遊具」「家 型遊具」「遊具制作」「玩具の製作」「玩具の微生物(細 菌)汚染」「自然物と玩具」「おもちゃの取り合い」「お もちゃの宅配」「おもちゃ作り」「東京おもちゃ美術館」 「手作りおもちゃ」「おもちゃ遊び」等である.日本語 の語感として「玩具」と「おもちゃ」は,小型で乳幼 児との関連性を連想させる.「遊具」は,大型の固定 遊具も含めて指し示す範囲がやや広くなる.
フレーベルの引用文の,子どもが「力一杯に,自発 的に,黙々と,忍耐強く,身体が疲れ切るまで根気よ く遊ぶ」時の遊び方や遊具について考えてみよう. Newson and Newson(1979)は,普遍的な遊具に ついて述べている.第1に,身体的遊びのための運動 遊具である.ぶらんこ,滑り台,ジャングルジム等の ことで,園庭や公園などに大型固定遊具として据え付 けてある.これらの遊具は,力動的な遊びを通してバ ランス感覚等の身体感覚や筋力を鍛える.第2に,小 型遊具があり,積み木やブロック等がそれに該当する. 小型遊具は,子ども自らが生活する三次元空間内に造 形作品を構築することができ,これは,絵画表現など の平面作品とは,本質的に異なる点である.特に積み 木は,上手く積まないと崩れる等の,子どもにとって 適度な失敗経験が必ず含まれている点が優れている. 様々な物に見立てて遊ぶことができ,想像力も創造性 も育てることができる.第3に,人形や縫いぐるみな どの愛玩遊具は,子どもに優しさの感情を育て,社会 生活を営む人間に不可欠な精神的な繋がりの基盤を形 成することができる.具体的な遊具の名称を検索語「保 育」との掛け合わせで,最近30年間の文献検索をして みると,「ぶらんこ」1件,「ブランコ」4件,「滑り台」 5件,「すべり台」0件,「ジャングルジム」3件,「積み 木」22件,「ブロック遊び」2件,「人形遊び」3件,「ぬ いぐるみ」7件が表示される(検索日:2020年6月20日). Newson and Newsonが普遍的遊具であると指摘して いることと考え合わせると,「積み木」以外の遊具に 関しては,研究の蓄積が不十分であると言えよう. 日本の保育を振り返ってみると,先ず固定遊具は, 身体的な発達を促すことや安全教育・人間関係能力の 育成に効果的である.また,挑戦しないとできないこ とを達成する機会を設け,挑戦意欲を育てることが可 能である.生きる力の基盤となる心情・意欲・態度を 育てるためには重要なものであると考えられる.次に, 積み木・ブロックは,取り合いがあったり,友達と一 緒に使ったり遊んだりする必要がある.社会性の発達 を促し,仲良く遊ぶ能力の育成に繋がると考えられる. 最後に,人形・ぬいぐるみは,愛着行動の基礎を培う. 遊具を使用した一人遊びやごっこ遊びは,自分の世界 に入り込んだ即興的な創作活動が行える.これらの普 遍的な遊具によって子どもが遊ぶことは,フレーベル の思想と整合するであろう. ( 3 )遊びによる学びと育ち フレーベルは,引用文の後半部分で,そのような遊 び方をした子どもが,やがて必ず「逞しい,寡黙な, 忍耐強い,献身的な人間」に成長するであろうと述べ ている.「逞しさ」「寡黙」「献身」の3つの用語は,『幼 稚園教育要領』『幼稚園教育要領解説』『保育所保育指 針』『保育所保育指針解説』には,記述がない.「忍耐」 は,『幼稚園教育要領』『幼稚園教育要領解説』『保育 所保育指針』には記述がないが,『保育所保育指針解説』 「序章」「3 改定の背景及び経緯」に,「様々な研究成 果の蓄積によって,乳幼児期における自尊心や自己制 御,忍耐力といった主に社会情動的側面における育ち が,大人になってからの生活に影響を及ぼすことが明 らかとなってきた」との記述がある.これは,近年注 目されている自信・意欲・忍耐力・創造性等の非認知 能力の研究が背景にあると思われる.「保育」and「非 認知能力」を検索語にして文献検索すると,最近30年 間に24件の文献を検索できる(検索日:2020年3月9日). その全てが,2016∼2019年の研究である. 「逞しさ」「寡黙」「忍耐」「献身」を検索語にして,「保 育」と「遊び」に掛け合わせて最近30年間の文献検索 をすると,「逞しさ」0件,「寡黙」0件,「忍耐」1件,「献 身」0件という結果が得られる.「忍耐」1件は,前述 の吉川ほか(2014)の研究である.ここでもフレーベ ルが,遊びを通して子どもの未来に働きかけると考え ていたものと,現代の保育学研究とは,合致点を見出 せない.この言説は,直感的洞察によって書かれた文 章であるので,科学的実証性や根拠を明確にして行く ことが,私達後世の保育関係者の課題であると言える.
Ⅲ.『人間の教育』の現代保育への投影
本論では,F.フレーベルの著書『人間の教育』「第 二 幼児期の人間(前編)」を対象に,「身体」に関す る著述を抜粋し,その現代的意味を保育内容「健康」 領域との関連性の中で考察した結果,現代保育が再検 討を要するような課題が見出された. 1 .フレーベルの著述と現代保育の関連性と相違点 フレーベルの著述で特に注目されるのは,第1に,「保 育及び養育における表情」や「身体を使った遊戯」を 重要視している点であり,我が国の保育及び養育と関 連性を指摘できる.第2に,「教育の受動性」や「保育 の本質と必要性」に関する指摘が,現代日本の保育思 想と整合・調和することである.ここでもフレーベル の著述の普遍性を確認できる.第3に,フレーベルが 子どもの遊びに期待していたものと現代保育との間に は,不整合な側面があることである.第4に,身体と 精神の関連性における認識の相違点である.領域「健 康」のねらいの「明るく伸び伸びと行動し,充実感を 味わう」や,内容「①保育士等の愛情豊かな受容の下 で,生理的・心理的欲求を満たし,心地よく生活をする」や,「(1)保育士等や友達と触れ合い,安定感をもっ て行動する」等は,身体と精神の連動性を射程に入れ て表現されていると解釈することができる.しかし, 身体への言及箇所には「心と体」の併記以外に直接的 な記述はなく,フレーベルの方が,身体と精神と密接 な関連性や循環性を考え重視していることは,鮮烈な 印象を与える. 2 . 幼児教育関係告示文との比較によるフレーベルの 著述の特色 フレーベルの『人間の教育』と『幼稚園教育要領』『保 育所保育指針』等を読み比べると,幼児教育関係告示 文は,概念的・分析的ではなく,保育者に分かり易い ように,具体的・表面的なことが書かれていることが, 改めて確認できる. 『人間の教育』は,幼児教育関係告示文と比較して, 具体的な部分はより具体的で,概念的な部分はより概 念的であった.概念的であるとは,行う教育や子ども との関わりが,人間としてどこに行き着くのかが,多 く著述されていることを意味する.フレーベルは,身 体と精神の関連性や循環性をより深く,重点的に著述 している.内面と外面,内包と外延について,強い対 比で描いていると言える.子どもと関わる時の,大人 の内面も含めて書かれている.保護者(親)を対象に, 言い聞かせるように書いているような著述である. 榎沢良彦(1997)園生活における身体の在り方―主体身体 の視座からの子どもと保育者の行動の考察―,保育学 研究,35(2),38-45
Fröbel F(1 8 2 6)Die Menschenerziehung,die Erziehungs, Unterrichts, und Lehrkunst, angestrebt in der allgemeinen deutschen Erziehungsanstalt zu Keilhau. (荒井武/訳(1971)人間の教育,岩波書店)本論では, 『人間の教育』(上)が,調査対象の文献である. 平松美由紀(2018)幼児期の身体をはぐくむ実践とは―体 育に関する愛好的態度測定の試行―,中国学園紀要, 17,127-133 今井康晴(2016)幼保連携型認定こども園教育・保育要領 の「遊び」の取り扱いに関する一考察―「集中して遊 ぶ場」に着目して―,東京未来大学実習サポートセン ター紀要,3,1-8 門道子(2018)子どもが自発的に没頭できる遊びの本質と は―ある幼稚園の環境にかける保育の取り組みから―, 教職課程・実習支援センター研究年報,1,39-54 厚生労働省(2017)保育所保育指針,フレーベル館 厚生労働省(2018)保育所保育指針解説,フレーベル館 目久田純一,越中康治(2018)保育活動に対する幼児の集 中力に及ぼす導入としての手遊びの効果,梅花女子大 学心理こども学部紀要,8,1-9 文部科学省(2017)幼稚園教育要領,フレーベル館 文部科学省(2018)幼稚園教育要領解説,フレーベル館 無藤隆(1996)身体知の獲得としての保育,保育学研究, 34(2),8-15
Newson J and Newson E(1 9 7 9)Toys and Playthings. Allen and Unwin, Penguin Books.(三輪弘道ほか/訳 (1992)おもちゃと遊具の心理学,黎明書房,97-135)邦 訳書初版刊行1981年. 西洋子(2001)保育者と身体性,保育学研究,39(1),12-19 西洋子,野口晴子(2005)保育者としての身体的感性を育 てる教育―授業での身体表現の体験による 共振 の形 成とその段階の変化―,保育学研究,43(2),42-51 新山順子,高橋敏之(2003)保育者としてふさわしい身体 を養成する身体表現の可能性とその実践,保育学研究, 41(2),16-23 荘司泰弘(2009)フレーベルの恩物研究(第21報)作業と しての活動遊び(身体遊び),常磐会学園大学研究紀要, 9,25-38 髙橋敏之,馬場訓子,横田咲樹(2019)フレーベル『人間 の教育』に見る 「身体」 と保育内容 「健康」 領域との 関連性(第一報),日本幼少児健康教育学会誌,5(2), 73-82 山口延子(2003)幼児の成長と体育―体育学からの考察―, 東大阪大学・東大阪短期大学部教育研究紀要,1,53-57 吉川はる奈,渡辺麻子,浅田茂裕(2014)木育における地 域の子育て支援活動としての可能性,日本家政学会研 究発表要旨集,66,159 (受付:2020年4月15日,受理:2020年6月24日)