談 話 会
人 間 系を 含 む制 御 シ ス テム の信 頼 性 向上 につ い て
中 村 静 香
1. は じめ に 人間 系 を含 む制 御 シス テ ム の信 頼 性 は,そ の シス テ ムの 設計 ・製 作 ・運 用 ・保 守 の す べ て の 段 階 に係 る 人 間系 の信 頼 度 に大 き く依 存 して い ま す が,こ こで は,運 用 段 階 に お け る人 間 系 に係 る制 御 シス テ ムの 信 頼 性 向 上 対 策 につ き, ・ 制 御 シス テ ム の信 頼 度 を決 定 す る3要 素 ・ 現 状 の 人 間 系 を含 む制 御 シス テ ム の 問題 点 ・ 運 用 支 援 機 能 の現 状 と今 後 の発 展 ・ 運 用 訓 練 機 能 の現 状 と今 後 の発 展 ・ マ ンマ シ ン イ ンタ ー フ ェイ ス の 各 視点 か ら,代 表 的 な 人間 系 を含 む制 御 シ ス テ ムで あ る電 力 用 リアル タ イ ム制 御 シ ス テ ム を 例 に と り,述 べ て み た い と 思 い ます 。 2. 制 御 シス テ ム の信 頼 度 を 決定 す る3要 素 人 間 系 を含 む 制御 シス テ ム の信 頼 度 は,図1に 示 す 通 り,制 御 シ ス テ ム全 体 の基 本 構 想 を 決定 す る 「トー タル シス テ ム デ ザ イ ン」,狭 義 の信 頼 度 を 決定 す る 「ハ ー ドウ ェア ・ソ フ トウ ェア信 頼 度 」,人 間 系 の信 頼度 を 決定 す る 「制 御 シス テ ム運 用 時 の 人 間 系 の 信 頼度 」 の3要 素 に よ り決 定 さ れ,こ の い ず れ が 欠 け て も制 御 シ ス テ ムの 信頼 性 は大 き く低 下 す る こ とと な りま す。 近 年 の 制 御 シス テ ム の発 展 は,対 象 シス テ ム の大 規 模 化 ・制 御 目的 の 高度 化 等 の 方 向性 を 示 して お り,こ れ らの発 展 に伴 い 計 算機 を含 む機 械 系 の 役 割 は図2の 右 上方 向 に広 が りつ つ あ りま す。 一 方,こ の 流 れ か ら人 間系 の役 割 も,よ り高度 な 知 的能 力 を 要求 され る,よ り責任 の重 い もの へ と変 って 来 て お り,特 に緊 急事 態 発 生 時 の 人 間 系 の信 頼 性 を い か に確 保 す るか が,非 常 に 重要 な制 御 シス テ ム 設 計上 の課 題 と な って 来 REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通巻48号)6
て い ま す 。
図1. 制 御 シ ス テ ムの 信頼 度 を 決定 す る3要 素
3. 現 状 の 人 間 系 を 含 む 制 御 シス テ ム の問 題 点 制 御 シス テ ム運 用 時 の 人 間 系 を と りま く環 境 は,概 ね図3に 示 す よ うな もの とな り き ます 。 この様 な 環 境 下 で の 現 状 の 制 御 シス テ ム の 人間 系 に係 る問 題 点 を,文 献(1)に示 され た ア ンケ ー ト結 果 よ り抽 出 す る と,下 記 の よ うに な ります 。 (1) 系 統 監 視 盤 の 表 示 の 過 密 化,視 認 性 の低 下 (2) 系 統 監 視 盤 の メ イ ンテ ナ ンス 労 力 の増 大(対 象 シス テ ムの 発 展 に起 因) (3) CRTの 表 示 範 囲 の制 約 に 起 因 す る視 認 性 の低 下 (4) CRT画 面 操 作 の 複 雑 化 (5) CRT表 示 速 度 の 低 下 (6) 表 示 内容 ・印字 内 容 の理 解 しに く さの 増 大 (7) 異 常 時 の情 報 の多 さ に起 因 す る状 況 判 断能 力 の 低 下 (8) 要監 視項 目 の能 力 を超 え る増 大 (9) 不良 デ ー タ に対 す る判 断 能 力 の 低 下 (10) 異 常 状 況 に対 す る対 応 能 力 の 低 下 (11) 制 御 ・操 作 の信 頼 性 の低 下 (12) 運用 計 画 立 案 の困 難 さの 増 大 (13) 対象 シス テ ム の発 展 に伴 う ソ フ トウ ェ ア メ イ ンテナ ンス の 増大 (14) よ り高 度 な対 象 シス テ ム運 用 能 力 の 要 求 図3. 制 御 シ ス テ ム 運 用 時 の 人 間 系 を と り ま く 環 境 REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通 巻48号)
8 これ らの 問題 点 の 多 くは,制 御対 象 シス テ ムの 大 規 模 化,制 御 目的 の高 度 化 に伴 う 人 間系 へ の負 荷 の増 大 に起 因 して い る と考 え られ,近 年 の 一般 的 な 人間 系 を含 む 制 御 シス テ ム に共 通 す る問題 点 と考 え られ ま す 。 これ らの問 題 点 の 解決 に は,制 御 シス テ ムの 運 用 に携 わ る人員 に対 す る,意 思 決 定 支 援 機 能,運 用 訓 練機 能,良 質 の マ ンマ シ ンイ ンター フ ェ イス の提 供 が 必 須 の もの と 考 え られ,各 方 面 で 精 力 的 に研 究 ・開 発 が 行 わ れ て い るの が現 状 で す 。 4. 運 用 支 援 機 能 の 現状 と今 後 の発 展 上 述 の問 題 点 に対処 す るた め の意 思 決定 支援 機 能 を含 む 運用 支 援 機 能 の 現 状 と今 後 の 発展 方 向 を 表1に ま とめ る とと もに,補 足説 明 を 以下 に記 述 します 。 4.1 監 視 機 能 監 視 機 能 は,人 間 系 の信 頼 度,特 に状 況判 断能 力 に大 き な影 響 を与 え る機 能 で あ り, 従 来 の状 態変 化 検 出,上 下 限 監 視 等 の 単 純 な機 能 に加 え,下 記 の諸 機 能 が 実 用 期 を 迎 え つ つ あ りま す。 (1) 状 態 推定 カ ル マ ン フ ィル タ,最 小 二 乗 法 等 を 用 い て シス テ ム の 内部 状 態 を 推 定 し,非 計 測 テ レメ ー タ値 の作 成,不 良 計 測 デ ー タ検 出,シ ス テ ム構成(接 続 状 態)誤 認 識 検 出 等 を 行 う機 能 。 (2) ア ラー ム プ ロセ ッシ ン グ フ ォ ー ル ト トリー アナ リシス,エ キ スパ ー トシス テ ム ア プ ロー チ 等 に よ り,多 数 の ア ラー ム情 報 の中 か ら真 の一 次原 因 に絞 り人間 に伝 え る こ とに よ り,人 間 の 判 断 を 支 援 す る機 能 。 (3) 信 頼 度 評 価 想 定 事 故(全 設 備 に対 す る単一 事 故 な らび に特 定 の 複数 設 備 の 同 時 事 故 を 考 え る場 合 が 多 い)に 対 す る制 御 対 象 シス テ ム の挙 動 を シ ミュ レー シ ョ ンに よ り評 価 し,そ の 時 点 で事 故 が 発生 す る と仮 定 した場 合 の影 響 度 を評 価 す る機 能 。 さ らに 高 度 な 機能 と して,上 記 の 評 価 によ り問 題 とな る事 故 ケ ー スが 検 出 され た 場 合 に,現 状 の 運用 状 態 を ど う変 更 す れ ば事 故 の 影 響 を小 さ く抑 え られ るか を 立 案 す る信 頼度 向上 対 策立 案機 REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通巻48号)
能 が あ り ま す 。 4.2 制 御 ・操 作 機 能 制 御 ・操 作 機 能 は,人 間 系 が 行 う制 御 ・操 作 の 信 頼 度 に 大 き な 影 響 を 与 え る 機 能 で あ り,こ れ らを 支 援 す る 下 記 の 諸 機 能 が 実 用 期 を 迎 え つ つ あ り ま す 。 (1) 復 旧 方 針 立 案 エ キ ス パ ー トシ ス テ ム ア プ ロ ー チ 等 に よ り,事 故 に対 す る復 旧方 針 を 立案 し,人 間 を 支 援 す る機 能 。 (2) 制 御 ・操 作 手 順 立 案 エ キ スパ ー ト シ ス テ ム ア プ ロ ー チ 等 に よ り,復 旧方 針 等 が示 す 到 達 した い シス テ ム 状 態 へ 移 行 す る た め に 必 要 と な る 制 御 ・操 作 手 順 を 立 案 す る 機 能 。 (3) 制 御 ・操 作 実 習 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ り制 御 ・操 作 手 順 の 妥 当 性 を 事 前 に チ ェ ッ ク す る 機 能 。 (4) 制 御 ・操 作 実 行 時 チ ェ ッ ク 制 御 ・操 作 を 実 行 す る 直 前 に,そ の 時 点 の 制 御 対 象 シ ス テ ム の 状 況 よ り判 断 し,そ の 制 御 ・操 作 の 妥 当 性 を チ ェ ッ クす る 機 能 。 4.3 計 画 機 能 計 画 機 能 は,日 間 ・週 間 ・月 間 等 の 制 御 対 象 シ ス テ ム の 運 用 計 画 立 案 を 支 援 す る機 能 で あ り,下 記 の 諸 機 能 が 実 用 期 を 迎 え つ つ あ り ま す 。 (1) 計 画 立 案 支 援 計 画 立 案 手 法 と して は,最 適 化 手 法 を 用 い る ア プ ロ ー チ,エ キ ス パ ー ト シ ス テ ム ア プ ロ ー チ 等 が あ り ま す 。 最 適 化 手 法 と して は,LP,QP ,DP等 の ア プ ロ ー チ が 用 い られ ま す が,現 実 の 問 題 に 対 し これ ら の 最 適 化 手 法 を 直 接 用 い る こ と は 演 算 量 的 に 現 実 的 で な い 場 合 が 多 く,エ キ ス パ ー ト シ ス テ ム ア プ ロ ー チ と の 組 合 せ 等 の 形 で 用 い られ る こ とが 一 般 的 で す 。 ま た,エ キ ス パ ー ト シ ス テ ム ア プ ロ ー チ に は 開 発 期 間 が 長 期 化 す る 傾 向 に あ る,知 識 の 普 遍 性 に 疑 問 が 残 る 等 の 問 題 が 残 さ れ て お り,知 識 を 必 要 と しな い ニ ュ ー ラル ネ ッ トワ ー ク 等 を 用 い た 新 し い ア プ ロ ー チ の 今 後 の 発 展 が 期 待 さ れ て い ま す 。 REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通 巻48号)
(2) 計 画 評 価 シ ミュ レー シ ョン等 に よ り計 画 内容 を評 価 す る機 能 。 人 間 の 持 つ広 範 な判 断 力 の 機 械 化 は 長 期 的 な 課題 。 4.4 ソ フ トウ ェア メイ ンテ ナ ンス ソ フ トウ ェ ア メ イ ンテ ナ ンス は,制 御 対象 シス テ ム が時 間 と と も に発 展 して 行 き, しか も機 能 停 止 が許 され な い制御 シ ステ ム に と り必 須 の 重要 機 能 で あ り,制 御 対 象 シ ス テ ム の変 化 を制 御 シ ス テ ム に知 らせ る機 能(主 と して デ ー タ の メ イ ンテナ ンス に よ り行 わ れ る)で す 。 人 間 系 に よ り行 わ れ る ソフ トウ ェ ア メ イ ンテナ ンスの 信 頼性 が,制 御 シス テ ム の信 頼 性 に大 きな 影 響 を与 え るた め,ソ フ トウ ェ ア メ イ ンテ ナ ンスを支 援 す る下 記 の諸 機 能 の 実 用 化 が 強 く望 ま れ て い ます 。 (1) 一 般 デ ー タ作 成 ・変 更 デ ー タ 間 の継 承 関 係,よ り広 い デ ー タ間 の 相 互 関 連 等 を用 い た高 度 な デ ー タ チ ェ ッ ク ・デ ー タ類 推 等 が 今 後 の 課 題 と して 発 展 が 期 待 され て い ま す。 (2) 図面 デ ー タ作 成 ・変 更 図面 の読 取 ・意 味認 識,一 般 デ ー タか らの画 面 デ ー タ生 成 等 が 期 待 さ れ て い ます 。 5. 運 用 訓 練 機能 の 現 状 と今 後 の発 展 運 用 訓 練 機 能 の 現 状 と今後 の発 展 方 向 を 表2に ま とめ ま す。 制 御 シス テ ムの 運 用 訓 練 機 能 は,前 述 の 運 用 支援機 能 と同様 に,近 年 の 制 御 対 象 シ ス テ ム の大 規 模 化 ・複 雑 化,な らび にハ ー ドウ ェ ア等 の 高信 頼 度 化 に伴 う事 故 体 験 の 減 少 に起 因 す る制 御 シス テ ム運 用 者 の 異 常 時 対 応 能 力 の 低 下を補 う もの と して,必 須 の もの とな りつつ あ ります 。 運 用 訓 練機 能 は表2に 示 す よ う に,シ ミュ レー シ ョ ン,ト レー ナ 支 援,ト レー ニ支 援 の各 分 野 に及 び ます が,こ れ らの 諸 機 能 の 内,ト レー ナ支 援 機 能 で あ る下記 の諸 機 能 の実 用 化 が 強 く望 ま れ て い ます 。 (1) 訓 練 問 題 作 成支 援 前 述 の復 旧 方 針 立 案 機能 と制 御 ・操 作 手 順 立案 機 能 とを結 合 し,あ る事 故 に対 す る REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通巻48号)
12 模 範 的 な 対 応方 法 を立 案 す る こ と に よ り,訓 練 問 題 の作 成 を支 援 す る機能 。 (2) 訓 練 時外 部 人間 系 模 擬 支 援 運 用 訓練 時 に トレーナ は外 部 人間 系 を代 行 す る必 要 が あ り,ト レー ニ よ りの電 話 に よ る問 合 せ に答 え る,制 御 ・操作 依 頼 を実 行 す る等 は トレーナ の 大 き な負 荷 と な り ま す 。 この た め,訓 練 時 の 外 部 人 間系 の定 型 的 な 対 応,な らび に 非定 型 な対 応 を模 擬 あ る い は支 援 す る機能 の 実現 が強 く望 まれ て い ます 。 (3) 訓 練 結 果 評 価支 援 模 範 的対 応法 との 比 較 評価,問 題 点 の 自動 抽 出等 が 今 後 の課 題 と して発 展 が 期 待 さ れ て い ます 。 表2. 運 用 訓 練 機能 の現 状 と今 後 の発 展 6. マ ン マ シ ン イ ン タ ー フ ェ イ ス 人 間 系 を 含 む 制 御 シ ス テ ム の 信 頼 性 を 考 え る場 合,運 用 支 援 機 能 等 が シ ス テ ム の 信 頼 度 に 大 き な 影 響 を 与 え る こ と は す で に述 べ ま し た が,よ り基 本 的 に は これ らの 機 能 を 実 現 す る た め の マ ンマ シ ン イ ン タ ー フ ェ イ ス の あ り か た が,シ ス テ ム の 信 頼 度 に 大 き な 影 響 を 与 え ま す 。 マ ン マ シ ン イ ン タ ー フ ェ イ ス を 考 え る上 で の 要 考 慮 事 項 ,主 要 デ バ イス の技 術 動 向 を 表3に ま と め ま す 。 REAJ誌'91 Vol.13,No.1(通 巻48号)
表3. マ ン マ シ ン イ ン タ ー フ ェ イ ス の 要 考 慮 事 項 と 技 術 動 向 7. む す び 計 算 機 能 力 の 向 上,計 算 機 利 用 技 術 の 発 展 に 伴 い,制 御 シ ス テ ム に お け る 計 算 機 を 含 む 機 械 系 の 役 割 は 今 後 ま す ま す 広 が っ て 行 く も の と考 え られ ま す 。 一 方,こ の 流 れ か ら 人 間 系 の 役 割 も,よ り高 度 な 知 的 能 力 を 要 求 され る も の へ と 変 っ て 行 く も の と考 え られ ま す 。 こ の よ う な 状 況 よ り,人 間 の 高 度 な 判 断 を 支 援 す る た め の 各 種 支 援 機 能 の 充 実,こ
14 れ らを 支 え るマ ンマ シ ンイ ンタ ー フ ェ イス の ハ ー ド ・ソフ ト両 面 か らの 技 術 進 歩 が 強 く望 ま れ て お り,こ れ らの技 術 進 歩 に支 え られ,人 間系 を含 む 制 御 シ ス テ ムの 信 頼 度 は 向 上 して 行 くもの と期 待 され て いま す 。 (な か む ら しず か/三 菱 電 機) 参 考 文 献 (1) 「電 力 用 リア ル タ イ ム制 御 シ ス テ ムの信 頼 性 向上 に関 す る調 査 研 究 報 告 書 」,日 本 電 機 工業 会(平 成2年3月)
(2) Dy Liacco T. E., Rosa D. L.:"Survey of System Control Centres for Generation-Transmission Systems", Jan. 1986.
(3) K. Hanson:"Some Aspects of Computer Loading Problems in Modern Control Centres", CIGRE, 1987, Paper No. SC 87-01.