農業経営に求められる組織変革 環境変化への適応に関する理論的検討
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(2) 農業経営に求められる組織変革 11 (人). 20,000. 昭和ヒトケタ 第2次ベビーブーム. 18,000. 1990年. 16,000 昭和20年代. 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000. 昭和20年代. 2010年. 4,000 2,000 0. 15∼19 20∼24 25∼29 30∼34 35∼39 40∼44 45∼49 50∼54 55∼59 60∼64 65∼69 70∼74(歳). 第1図 年齢階層別の男子農家世帯員数(北海道) 資料:農業センサス 注:1)1990年は総農家,2010年は販売農家の数値。 2)1990年の「70~74歳」の数値は,1995年センサスの掲載値。 3)14歳以下と75歳以上は図示せず。. 代生」である。それに次ぐのが同じ世代の65~69. を迎えている反面,親世代は加齢とともにリタイ. 歳層,さらに直近下位世代である55~59歳層とな. ア期にさしかかっており,それと共に労働力不足. る。このような年齢分布にあるため,北海道の中. 問題に陥る懸念が大きい。③50代の経営主が20代. 核地帯といえども農業就業人口の平均年齢は59歳. の後継者を確保しているという世代間の繋がりで. となっている。. あり,このセンサス時点では700人ほどが積み上. 次に,センサス統計による男子農業経営者(以. がっているものの,確保率という点ではこれも半. 下,経営主)は全体で4,205人であり,農業就業. 分程度に留まっている。最後に,経営主が65歳以. 人口から経営主を差し引いた経営主以外が2,683. 上の層をひとまず世代交代が困難な層と捉えてお. 人となる。両者の年齢分布を並べて見ておくと. く。. (第2図) ,経営主以外は高年齢層と若年層の両端 に出てくることになる。 ここで見ておきたいのは,世代間の繋がりであ る。まず,①中心年齢層である60~64歳層の後継 者が,ここから30歳を差し引いた30~34歳層のと ころに確保されているのだとすれば,それは比較. 以上のように,現局面の農業者の年齢構成と後 継者の確保状況から見て,さらなる農家戸数の減 少は避けられない状況にある。 3 農家減少の正確な見通し:畑作・酪農中核 地帯の予測. 的高いヤマを形成しているものの,確保率はおよ. 同じオホーツク地域の A 農協は,2003年に管. そ半分というところであろう。次に,②親世代と. 内8農協が合併した広域合併農協であるが,2019. の二世代経営を形成している繋がりについて,経. 年に入って管内3ブロック単位で「地域の将来像. 営主は30代後半および40代,親世代はこれに30歳. 協議」に着手し,その出発点として積み上げ方式. を足し合わせた60代後半および70代に位置づくと. による農家(組合員)戸数の将来予測を示した. 見てよい。家族経営として最も充実したステージ. (第1表)。.
(3) 12 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号) (人). 900. ①. 800 ③. 700. ③ ③. 600 経営主以外. 500. 経営主. ② ②. 400. ①. ②. ②. 300. ②. ②. 200 100 0 15∼29 30 ∼34 35 ∼39 40 ∼44 45 ∼49 50 ∼54 55 ∼59 60 ∼64 65 ∼69 70 ∼74 75 ∼79 80 ∼84. 85 ∼(歳). 第2図 経営主・経営主以外の農業就業人口(男子)の年齢構成(北海道オホーツク地域, 2015年) 資料:2015年センサス(販売農家の数値) 注:1)農業経営者を経営主,農業就業人口から農業経営者を差し引いた数値を経営主以外としている。 2)丸数字は世代間の繋がりをあらわすもので,意味は本文参照。. 2019年時点の戸数は995戸(農家以外の農業事. 耕地面積はおよそ2万6,000ha であり,2019年時. 業体17経営体を含む)であるが,経営主年齢が51. 点の平均は戸当たり26.4ha である。これが5年刻. 歳以上の後継者不在農家がすでに413戸,全体の. みで拡大していくことになるが,10年後に平均. 42%を占めている。ここではリタイア年齢を71歳. 30ha を超え,20年後には41.6ha となる予測であ. と仮定し,5年刻みで20年後の2039年までの予測. る(なお,5年ごとに2%の農地減少を織り込ん. 値を示しているが,5年後:862戸(13%減) ,10. でいる)。. 年後:777戸(22%減) ,15年後:681戸(32%減) , 20年後:582戸(42%減)である。他方,管内の. 農協はこの予測値を「字区(あざく)」(農事組 合に相当する基本的なコミュニティ単位)ごとに. 第1表 農家(組合員)戸数の将来予測(オホーツク地域 A 農協) (単位:断らない限り戸・経営体数). 区分(経営主年齢等) 後継者不在. 71歳以上 66~70歳 61~65歳 56~60歳 51~55歳. 51歳以下+51歳以上後継者あり 農家以外の農業事業体 合計. 戸数・経営体数 農地面積(ha) 1戸当たり農地面積(ha). 現状 (2019年). 5年後 (2024年). 10年後 (2029年). 15年後 (2034年). 20年後 (2039年). 71 62 85 96 99. 0 0 85 96 99. 0 0 0 96 99. 0 0 0 0 99. 0 0 0 0 0. 565. 565. 565. 565. 565. 17. 17. 17. 17. 17. 995. 862. 777. 681. 582. 26,248 26.4. 25,723 29.8. 25,209 32.4. 24,705 36.3. 24,211 41.6. 資料:A 農協作成(2019年6月に組合員へも公表済み) 注:リタイア年齢を71歳と仮定。また,5年ごとに2%の農地減少が生じるとの前提を置いている。.
(4) 農業経営に求められる組織変革 13. 示しており(表出等略) ,これが「将来像の検討」. じく後継者不在問題がある。以下では2019年(調. につながっていく。例えば,ブロックⅠ(西地域). 査)時点で設立されていた2法人を取り上げる。. では31の字区があるが,20年後までとると戸数が ゼロとなる字区が3つあり,平均が戸当たり50ha. 1 事例①:第三者継承支援組織. を超える字区が15,そのうちほぼ100ha を超える. 北海道・上川北部地域の酪農地帯において,後. 字区も3つある(農地流動化は字区内で完結する. 継者不在の酪農家8戸(会員と称する)が第三者. と仮定,以下同じ) 。同様に,ブロックⅡ(南地域). への継承を実現することを目的として2003年に設. では26字区のうち戸数ゼロが2,平均50ha 超が. 立した B 組織である(組織化のエリアは旧村単. 8,うち100ha 超が2である。ブロックⅢ(東地. 位) 。設立を主導したのは,上川管内の良質乳生. 域)では27字区のうち戸数ゼロが2,平均50ha. 産者として表彰経験(2013年度)もあるトップク. 超が8,うち100ha 超が1となっている。農地流. ラスの酪農家である(設立当時50代前半)。. 動化に関連して,後継者不在農家の保有農地は年. B 組織が構築した就農支援の仕組みは,基本的. 齢層が若いほど大きく,2019年時点の管内全体の. には「居抜き」型の第三者継承であり,それは次. 平均値は71歳以上:10.0ha(戸当たり,以下同じ) ,. の3つの手順で進められることになっている。①. 66~70歳:16.8ha,61~65歳:21.5ha,56~60歳:. 会員農家は年齢の高い順に,順次移譲者となって. 23.1ha,51~55歳:23.2ha となっている(表出等. いく。②継承者(新規参入者)の研修期間は2年. 略)。時間の経過と共に流動化の単位も大きくな. とし,1年目は会員農家の全員をローテーション. り,受け手のいない農地が発生する懸念も高ま. する「巡回研修」,2年目は移譲者のところに絞っ. る。. た「併走研修」とする。③継承者の負担を軽減す. 繰り返しになるが,ここで示されているのは,. るため,就農時に農場リース事業を利用する。こ. 地域維持の限界を超えて農家減少が進むリアルな. の3つの原則はひじょうに理に適ったものであ. 見通しであり,その帰結として極端な大規模化や. り,創設メンバーが考え抜いてあらかじめ設定し. 「消滅集落」の発生可能性を含んでいる。. Ⅲ 若干の理論的検討:後継者不 在農家の協働による新たな組織 形成. たものである。B 組織で新規参入の実績が生まれ ると共に所在する自治体の支援も本格的に整えら れ,研修生に対する「営農実習助成金」,就農後 の「経営安定補助金」など,比較的手厚い措置が 用意されている。 設立から10数年を経過した2016年(調査)時点. 上述した「地域維持の限界を超えて進む農家減. の組織の実態について触れておくと,この B 組. 少」という大きな環境変化の見通しを受け止める. 織と関わりをもった農業者は計15名となってい. かたちで,注目すべき対応が現れている。後継者. た。内訳は,創設メンバー8名,途中加入が2名. 不在農家の協働(cooperation)による新たな組. (いずれも後継者不在),新規参入者が4名(当. 織形成の動きであり,その意味合いを考えたい。. 時),研修中の1名(同)である。この時点で4. 以下ではふたつの事例を取り上げる。. 名の新規参入の実績を生み出していた。. 第1に,酪農の第三者継承支援組織であり,道. 組織設立以降の継承の実績を改めてまとめてお. 内では最も先発かつ先進的な取り組みとして知ら. くと,移譲候補となる既存の農業者は途中加入も. れる上川北部地域の事例である。第三者継承に依. 加えて10名であったが,2016年時点では,継承を. 存せざるを得ない状況をもたらしている基本的な. 実現した農業者が4名,継承の途中経過にある農. 背景は,前述した「昭和20年代生」世代のバトン. 業者が1名(当時) ,それ以外で移譲候補者とし. リレーの困難性である。第2に,前述したオホー. て留まっている農業者が1名で,残る4名は継承. ツク地域・A 農協管内で進められている複数戸法. を果たせずにリタイアしていた。. 人の事例である。新たな組織形成の背景には,同. すべてのメンバー(会員)で継承を果たしたわ.
(5) 14 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). けではないが,結果的にその半数で継承を実現し. して法人が一括して集積するかたちをとってい. たことになる。さらに,B 組織の所在している自. る。農協は法人設立の前段で,法人が所在する地. 治体調べによれば,旧村に相当する地区の人口は. 区で機構事業の説明会を開催し,その場を利用し. 182名であるが(2015年12月末時点) ,このうち. て地区(先の字区に相当)の将来予測を示した。. 12%にあたる22名が新規就農者家族であり(研修. それによれば,2015年時点の畑作農家の戸数は16. 生家族を含む) ,中学生以下の子供(11名)も全. 戸,保有面積は477ha であるが,10年後(2025年). 員が新規就農者家族であった。地域の人口維持に. には9戸に減少,20年後(2035年)には5戸にま. 果たしている役割も大きい。ここで注目している. で減少し,戸当たり平均は現在のおよそ30ha か. 「後継者不在農家の協働による新たな組織形成」 の取り組みが生み出した具体的な成果である。 なお,この B 組織の活動には地域内への波及. ら約100ha に拡大すると見通されていた。 法人設立を主導したのは2名の農業者であり (現在の法人の役員),代表をつとめる農業者(設. 効果があり,その後同じ自治体内において B 組. 立時50代後半)は当時55ha の普通畑作経営で,. 織とは別に,一定のエリアを単位とした3つの第. 地域でもトップクラスであったが「このままでは. 三者継承支援組織が立ち上がり(畑作が優勢な2. 個人経営は立ち行かない」と強く感じたという。. 地域を含む),新規就農支援の活動を継続してい. 結果的に,当面の営農継続を見通していた畑作農. ることを付言しておきたい。この意味でも,B 組. 家の全戸が参画して,法人が設立されたのである。. 織は北海道における第三者継承支援組織の先駆者. 現在の構成員12名の年齢分布は,60代前半:2名,. 的な存在である。. 50代:3名,40代:2名,30代:4名,20代:1. 2 事例②:複数戸法人 前述したオホーツク地域・A 農協管内で進め. 名となっている(平均年齢46歳)。50代以上の5 戸のうち,後継者を確保しているのは1戸に留ま り,後継者不在が2戸,残る2戸は未定である。. られている複数戸法人化の事例である。農家減少. 構成員以外の常時雇用は4名であり,設立時に. の将来予測値も示しながら,地区(字区)に対し. 60歳を超えていたため出資を伴う構成員とならな. て「将来像の検討」を提起しているが,そのひと. かった農業者2名(現時点でいずれも65歳以上),. つの帰結として想定しているのが複数戸法人化で. 設立時に採用した事務職員が1名に加えて,2年. ある注1). 目の2017年に採用した男子従業員(30代,同地区. 。. 前後するが,農協は2014年度の農地中間管理事. 出身)が1名である。法人設立以降も後継者不在. 業(以下,機構事業)のスタートをきっかけにし. の構成員はリタイアしていくため,今後も従業員. て,大面積を集積する複数戸法人の設立支援を進. の採用に取り組み,法人自体の担い手育成機能を. めてきた経過がある。2019年度から農協の全エリ. 充実させることが課題として意識されている。. アで進めている「将来像の検討」もこの流れの延. もうひとつ,管内3法人のなかでもっとも直近. 長線上にある。そして,2019年末時点で管内には. に設立された D 法人(同じく農事組合法人)は. 3つの複数戸法人が立ち上がっている。. 5戸・7名の組織である。出資構成員は3名で,. そのうち,先発の C 法人(農事組合法人)は. 1人当たり100万円の平等出資である。年齢構成. 2016年に営農をスタートしており(法人設立は. は先の C 法人より高く,60代:2名,50代:2名,. 2015年10月) ,4年目に当たる2019年は12戸・16. 40代:1名である(平均年齢58歳) 。設立時に60. 名の組織となっている。出資構成員は12名で,1. 歳を超えていた2名は出資を伴う構成員ではない. 人当たり70万円の平等出資である。経営は普通畑. が,以下では実態を踏まえて同列に扱う。50代以. 作経営であり,畑作物面積は438ha に達する(秋. 上の4戸は,現時点でいずれも後継者不在である。. 小麦・春小麦・加工用スィートコーン,小豆・高. 法人の設立は2019年6月であり,これも「将来像. 級菜豆,移植および直播ビート,生食用・加工用. の検討」にやや先立ったプロセスがある。. ばれいしょ) 。構成員の農地は中間管理機構を通. 法人の設立に際して農協が示した地区(字区).
(6) 農業経営に求められる組織変革 15. の将来予測では,2017年の19戸が5年後には12戸,. のなかでもトップクラスの農業者であることも特. 10年後には11戸,20年後には7戸にまで減少する. 徴的である。彼らはそれぞれ旧村(B 組織) ,字. ことが見通された(この時点では65歳でリタイア. 区(C 法人・D 法人)という特定のエリアを単位. すると仮定) 。戸当たり面積は2017年当時が平均. とする組織を立ち上げており,そこに参画してい. 34ha であるのに対し,5年後には早くも50ha を. るメンバーも同一エリア内である。ここでは,最. 超え,20年後には92ha となることも示された。. 初のエリアを越えた「広域化」の発想はない。. 設立のプロセスにおいて,地区の全戸(19戸)に. その上で,彼らは地域維持に対して並々ならぬ. 参加が呼びかけられたが,前向きな姿勢を示した. 情熱をもったリーダーである。組織理論のパイオ. のは9戸,最終的にそこから4戸が離脱し(うち. ニアであるバーナードは「組織の発生方法」のひ. 2戸は高齢であることが理由) ,結果的に5戸で. とつとして「ある個人の組織しようとする努力の. 法人を設立した。代表は50代前半の農業者がつと. 直接的な結果」を挙げているが,今進められてい. めるが,個人経営時代はおよそ50ha の普通畑作. る組織化はまさにこれに該当するだろう(バー. 経営であり,この農業者も地域のなかではトップ. ナード,1968) 。その設立プロセスや設立後の運. クラスである。. 営の内実を見ても,決して「自然発生的」なもの. 2019年の経営面積はおよそ160ha であり,水稲 (もち米)に加えて畑作4品(秋小麦・春小麦,. ではない。 彼らリーダーはもともと家族経営のすぐれた経. 大豆・小豆,移植および直播ビート,生食用・加. 営者(主)であるが,後継者不在により家族経営. 工用ばれいしょ),ニンジン(加工用)およびシ. の存続という選択肢を失っている。逆説的かもし. ソを作付けしている。特徴的なこととして,設立. れないが,家族や家の存在こそが利潤追求の原動. と同時に20代の男子従業員を雇用しており(関西. 力であり,その源泉である。このことを説いたの. 出身) ,2020年からまた新たに30代の男子従業員. は碩学・シュンペーターであった(シュンペー. を採用する予定である。創業メンバーの年齢層が. ター,2016)。シュンペーターはこれを「資本主. 比較的高くなっているため,世代交代へのプレッ. 義の自滅」という文脈のなかで説いていることは. シャーは先の C 法人より強い。法人は定年年齢. 良く知られているが,のちに支配的となる経営者. を70歳に定めており,従業員の定着と育成が順調. 資本主義の時代とは異なり,中産階級(ブルジョ. に進むならば,今後数年の間に最初のバトンタッ. ア)のリーダーシップが経済発展を導いていた時. チがおこなわれることが見通される。いずれにし. 代の資本主義のエンジンは,まさしく「家族動機」. ても,本報告の着目点である「後継者不在農家の. であった。ここでは資本主義の「多様性」という. 協働による新たな組織形成」の成果は,複数戸法. 理解がベースにあるが,中産階級のリーダーシッ. 人の設立当初からの外部人材の確保というかたち. プが発揮されていたのは「オーナー資本主義」の. で実を結びつつあり,法人組織内部での円滑な継. 段階であり,続く「経営者資本主義」の時代にな. 承が進められることが期待される。. ると家族動機は失われるだろう(コッカ,2018)。. 3 若干の理論的検討: 「家族動機」から「地 域維持動機」への転換. しかし,家族農業は依然として資本家=企業家の オーナー資本主義の段階にあり,シュンペーター が「自分が果実を手にするかどうかにかかわらず. 以上見てきたように,地域維持の限界を超えて. 将来のために働くことを命じる資本主義の倫理. 農家減少が進むというかつてない事態が進行しつ. 観」と賛美した「家族動機」は失われていない。. つある下で,後継者不在農家の協働(cooperation). 主題に引き戻すと,ここで着目したリーダーや. による新たな組織形成が進められており,地域農. メンバーは「離農」を前提として行動している。. 業の「持続性の危機」に対処しようとする動きが. 第三者継承組織への参加は自らの牧場を「物件」. 生まれていることを述べてきた。. とし(B 組織) ,複数戸法人への参加は不可逆的な. ここで中心的な役割を果たしているのが,地域. 「農家」としての「離農」を選択することを意味す.
(7) 16 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). る(C・D 法人) 。シュンペーターは「家族動機」. ず,第三者継承支援組織(B 組織)の場合は,移. を失えば「個人主義的実利主義」が支配的になる. 譲候補者となっていた会員農家の継承がすべて実. ことを嘆くが,ここで着目した組織の行動原理は. 現すれば,組織は「共通目的」を達成したことに. 違う。バーナードは組織の要素として「伝達(com-. なる。この段階で,組織は「消滅」という選択肢. munication) 」 「貢献意欲」 「共通目的」の3つを挙. を取ることもあり得る。バーナードもこの点につ. げるが,ここで着目した組織の共通目的はいずれ. いて,組織は「その目的を達成することによって. も「地域維持」に置かれている。先に紹介したオ. 自ら解体する」と述べている。. ホーツク地域の C 法人はそのことを,策定した法. もうひとつの複数戸法人の場合は,言ってみれ. 人の「綱領」のなかで「安定した農業経営を目指し,. ば地域農業の「最後の担い手」であり,そのよう. 地域農業の維持と発展を重視し,地域の活性化に. な選択はもとより想定されていない。前節で取り. 努めます」と表現し,掲げている。この点につい. 上げた複数戸法人の事例はいずれも設立して間も. てもバーナードは,共通目的は「それ自体,協働. なく,本格的な世代交代はこれからの課題である。. (cooperation)の産物」であり「協働的努力の目. そこで,同じオホーツク地域に所在し,設立から. 的と個人の目的を完全に区別することは重要であ. 20年を経過して世代交代を順調に進めつつあるモ. る」と指摘していることを付け加えたい。. デル的な畑作の複数戸法人(E 法人)を取り上げ,. 本報告は地域農業の「持続性の危機」を問題と. その内実と特徴を押さえておくこととしたい。. するところから出発した。ここで「家族動機」の. E 法人は1999年4月に有限会社形態で設立され. 重要性を強調したのも,それが地域農業の持続性. た複数戸法人で,出資を伴う構成員は現在も変わ. (持続的発展)を深いところで規定している原理. らず4戸である。1戸当たり15口(額面で1口5. だと理解しているからである。しかしながら,か. 万円)の平等出資で設立され,現在も基本的には. つてない事態が見通されている下で, 「家族動機」. 変わっていない。タマネギを導入した畑作経営に. は一定の範域を単位とした新たな組織形成を通じ. なっており,創業時は170ha であったが,その後. て「地域維持動機」に変換されている。後継者不. やや拡大し,2019年時点は200ha になっている。. 在農家による卓越したリーダーシップの下で進め. 2019年の作付けは,畑作4品(秋小麦・春小麦,. られている組織化の本質は,そのように理解すべ. 菜豆,移植・直播ビート,加工用ばれいしょ)に. きである。. 加えて,タマネギ(およそ16ha)となっている。 創業時のメンバー4名のうち,設立時から代表. 注1)細山(2015)は北海道水田地帯の「協業法人」 の実態分析を行い,その基本的な性格を「農家 の連合体」と規定している(第9章「協業法人 の展開と経営継承,農地の団地化」)。本稿では 複数戸法人(協業法人と同義)を,経営学で言 うところの「組織」として捉えるところから出 発しており,このような観点は採用していない。. をつとめていた E1農家(60代後半,以下断らな い限り2019年時点)はすでに引退しており,2006 年に離職就農のかたちで U ターンしてきた娘婿 (当時20代後半,現在40代前半)が持分を継承し て構成員となっている。現在,代表をつとめる E2農家(60代前半)には後継者がおり,2011年 に同じく離職就農のかたちで U ターンしている. Ⅳ おわりに:組織の存続・継続 問題に関する考察. (当時30代前半,現在40代前半)。創業メンバーで. 本報告の主題にかかわっては,以上のような結. 代前半,現在30代後半),E3農家の継承者のポジ. 論を提示しておきたい。 最後に,本報告で着目したふたつの組織の存 続・継続にかかわる問題を考察しておきたい。ま. ある E3農家(50代後半)については,2017年に 甥にあたる青年が離職して法人に就農し(当時30 ションにある。最後に,創業メンバーのなかで最 年少の E4農家は,40代後半の現役農業者である。 そして,前後するがこの E 法人には同じ地域 内で個人経営を継続していた農家が2015年に新規.
(8) 農業経営に求められる組織変革 17. 加入しており(当時30代後半,現在40代前半) , 近いうちに出資構成員となることが予定されてい る(2019年末時点) 。このように,法人設立以降 に4名の青年層が新たに加わっており,30代・40 代が5名と厚い層をなしている(男子構成員・従 業員計7名の平均年齢は46歳) 。本報告で着目し ている「後継者不在農家の協働による新たな組織 形成」の一形態としての複数戸法人の目指すとこ ろは,まさにこの E 法人のような青年農業者の 確保と,円滑な世代交代の実現にある。 E 法人の場合は,整理して捉えてみると,法人 設立以降に①他出子弟の U ターン,②外部人材 の雇用就農,③既存農家の新規加入,という3つ のルートで青年農業者の確保がおこなわれてい る。ただし,その結果として構成員の出自は多様 化せざるを得ない。 そのことと関連して,E 法人がさしあたり意識 している問題は,農地所有の問題である。特に② の外部人材の場合,出資構成員になる上で農地取 得が必ずしも要件化されているわけではない。そ の場合,農地を保有(相続)する農家子弟と,農 地をもたない「土地なし構成員」が生まれること. 業を利用して集積しており(予定を含む) ,開始 後10年間は権利関係を動かすことはできない。 事業の終期と共に法人が全農地を買い取ること も想定されるが,現時点では予断を避けたい。 注3)農業法人の自社株(持分)の継承問題に焦点 を当てた先行研究として,迫田(2009) ,梅本・ 山本(2019)がある。迫田(2009)ではアグリ ビジネス投資育成株式会社(アグリ社)を活用 するスキームが,梅本ほか(2019)では額面で の譲渡となったことが紹介されているが,本報 告で取り上げた法人には当てはまらない。特に, 梅本ほか(2019)の対象法人の場合は「繰り越 し損失の存在から純資産が出資総額をやや下回 る状況にある」ことが紹介されており,これが 額面での譲渡を可能にした理由であると推察さ れる。本報告で取り上げた法人のうち,例えば 設立から20年を経過している E 法人の場合を見 ても,年々の当期利益を内部留保するかたちで 貸借対照表上の純資産(=自己資本)は膨らん でおり,原則的には純資産価額方式(非上場株 式の場合)が採用されることで,継承時の株式 評価は額面を大きく上回らざるを得ない。この ことが,法人の創業メンバーから次世代への継 承を図る際の新たなハードルとして浮上している。. になり,このことは収益の分配にも関連すること が想定される(ただし,E 法人の場合は構成員と の間は使用貸借契約であるため,現時点では直接 の問題にはならない) 。このような事情も考慮し て,E 法人では将来的に構成員の農地をすべて法 人が取得する方針が組織内で共有されており,す でに一部が実施に移されている注2)。いずれにし ても,創業時とは異なり,この「出自多様化」は 時間の経過と共に,複数戸法人の新たな特徴とし て付け加わる。この「多様化」に対応した農地の 継承と,さらには構成員が保有する法人の自社株 (持分)の継承をどのように図れば良いのかは, 今後に残された課題である注3)。 注2)Ⅲ節で取り上げた事例法人の場合は,機構事. [引用文献] チェスター・I・バーナード(1968) 『新訳 経営者の 役割』 (山本安次郎ほか訳)ダイヤモンド社. 細山隆夫(2018) 『農村構造と大規模水田作経営:北 海道水田作の動き』農林統計出版. ユルゲン・コッカ(2018) 『資本主義の歴史:起源・ 拡大・現在』 (山井敏章訳)人文書院. 迫田登稔(2009) 「稲作を基幹とする農企業における 『非農家型経営継承』プロセスの分析:㈱六星にお けるケース・スタディ」 『農業経営研究』47⑵:1- 17. ヨーゼフ・シュンペーター(2016) 『資本主義,社会 主義,民主主義』 (大野一訳)日経 BP 社. 梅本雅・山本淳子(2019) 「農業法人における非家族 型継承の特徴と課題」 『農業経営研究』57⑵:11-16..
(9) 18 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). Joint efforts of family farms without successors to secure the next generation for leading regional agriculture -A case study on land-extensive farming in Hokkaido- Kan HIGASHIYAMA (Hokkaido University) In this paper, we take up the problem that the number of farm households in Hokkaido is expected to decrease rapidly to the extent that rural areas may find it difficult to sustain agriculture. Indeed, it could be asserted that rural agriculture faces a sustainable farming crisis. We now have to pay attention to new organizations designated to address this critical problem in land-extensive farming. Considering this situation, we have selected two types of organizations for study. One is a support organization for non-family-type farm succession of dairy farming in northern Hokkaido. A second is some incorporated groups of farming organizations for upland farming in eastern part of Hokkaido. The common features of these two types are their organizational structure based on cooperation by farmers without successors, and their shared objective to generate new farmers by ensuring either trainees to become new farmers or employees for incorporated farms. At the same time, accession to such organizations for members farmers leads to their retirement from farming. Paradoxically, the source of capitalism viability has originated from family existence (citing Shumpeter), hence the farmers without successors seem to lack optimism for their family continuance. However, it is crucial that these member farmers share a desire for rural community continuance within the area of their organizations. Thus, we conclude that the momentum to establish new organizations by farmers without successors indicates a meaningful conversion in motive for continuance from family to rural community within certain specific areas. In addition, we find from the perspective of understanding typical incorporated group farming that there are three types of new farmers ; (1) sons of charter members who returned back as employees, (2) youth hoping for farming other than family employees, and (3) nonmember farmers within the same area who are new to incorporated group farming organizations. At present, newly established incorporated group farming is expected to ensure successors of the organization from such three types of entrants into farming..
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