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セメントの水和解析に基づく養生計画立案手法

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Academic year: 2021

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(1)コンクリート工学論文集 第 32 巻,35-47,2021 年. セメントの水和解析に基づく養生計画立案手法 福留. 和人*1・齋藤. 淳*2. 概要:現行のコンクリート標準示方書における養生の位置付けに基づいて「セメントの水和解析に基づく養生計画立 案手法」を提案した。提案する手法は,設計で設定したコンクリートの特性値を満足するために達成すべき目標の水 和率を設定し,水和解析によって求めたセメントの水和率が目標の水和率に到達するように養生計画を立案するもの である。本論文では,提案する手法の基本的な考え方および具体的な養生計画の立案方法を紹介する。さらに,各種 条件における養生計画立案事例を示し,構造物条件,コンクリート条件および施工環境条件に応じて養生計画を合理 的に立案することが可能であることを確認した。 キーワード:養生,養生計画,水和解析,目標水和率,必要養生期間. 1. はじめに. 潤状態に保たなければならないとしている。さらに,使 用するセメントの種類や養生期間中の環境温度に応じて. 所要の強度・耐久性等の品質を有するコンクリート構. 適切に定める必要があるとしているが,全ての工事にお. 造物を構築する上で,養生は極めて重要な作業である。. いて試験等で確認するのは困難であるとして通常のコン. コンクリートが十分に硬化するまで有害な作用を受けな. クリート工事における湿潤養生期間の標準が示されてい. いように保護することに加え,コンクリートが所要の品. る。ただし,湿潤養生期間の標準は,コンクリートの強. 質を発揮するためにセメントの水和反応を十分に進行さ. 度発現や初期凍害に及ぼす養生の影響を検討した実験結. せる必要がある。そのためには,打込み後,所要期間コ. 果等を参考に設定されたものである. ンクリートを湿潤状態と適切な温度に保つ必要があり,. ら,主として脱枠時に必要なコンクリート強度の確保,. 構造物の条件,コンクリートの条件および施工時の環境. すなわち有害な作用からの保護の観点から設定されてい. 条件等を考慮して,養生計画,すなわち養生の具体的な. ると思われ,セメントの水和反応を十分に進行させるた. 方法および期間を適切に選定することが重要である。近. めに必要な湿潤養生期間としての考慮は,必ずしも十分. 年,様々な養生材料,養生工法が開発されており,適切. ではないのではないかと推察される。. 1)としていることか. に用いれば,セメントの水和反応を十分に進行させ,所. 一方,コンクリート構造物の品質確保の観点から養生. 要の品質を有するコンクリート構造物を施工することが. の重要性が再認識され,学会の委員会においても養生計. 可能な状況にある。しかしながら,工事費の上昇,工期. 画の立案に関する様々な検討がなされている. の遅延に繋がることも懸念されることから,養生効果を. 学会 336 委員会,コンクリート構造物の養生効果の定量. 適切に評価して養生の具体的な方法および期間を合理的. 評価と各種養生技術に関する研究小委員会では,養生期. に決定する必要があると考えられる。. 間の決定に関するいくつかのケーススタディーを実施し. 土木学会 2017 年制定コンクリート標準示方書 1) (以下,. ている. 2),3)。土木. 3)。いずれも耐久性等の品質の確保やひび割れ抑. 標準示方書)【施工編】(以下,施工編)では,構造物の. 制の観点等からの検討であり,セメントの水和を十分に. 耐久性を左右するコンクリート表面近くの品質やひび割. 進行させるという観点は見られない。コンクリートの配. れ抵抗性は,養生の影響を受けやすいとし,養生の具体. (調)合は,セメントの水和を十分に進行させれば,設. 的な方法および期間は,個々の工事における条件に応じ. 計で設定した強度,耐久性等の品質が確保されるように. て適切に定めることが重要であるとしている。標準示方. 設計されていることが前提であることから,品質を直接. 書では,養生の種類,対象,方法および具体的な手段を. 照査するのではなく,セメントの水和の程度を照査する. 示し,コンクリートの打込み後のコンクリートは,その. ことが合理的であると考えられる。. 部位に応じた適切な養生方法により一定期間は十分な湿. 以上の背景から,著者らは,現行の標準示方書におけ. *1 石川工業高等専門学校 教授 環境都市工学科 博士(工学) (正会員) 〒929-0392 石川県河北郡津幡町北中条 *2 (株)安藤・間 技術研究所 主任研究員 博士(工学). (正会員) 〒305-0822 茨城県つくば市苅間 515-1. 35.

(2) 図-1. 現行のコンクリート標準示方書における養生の位置付け. る「養生の位置付け」に基づいて,セメントの水和を十. おける強度試験に基づいて定めるものとする。」とし, 【解. 分に進行させるという観点から, 「セメントの水和解析に. 説】において「コンクリートが適切に養生されている場. 基づく養生計画立案手法」を提案した 4),5),6)。提案する手. 合,その圧縮強度は材齢とともに増加し,一般の構造物. 法は,設計で設定したコンクリートの特性値を満足する. では,標準養生を行った供試体(以下,供試体)の材齢. ために達成すべき目標の水和率を設定し,水和解析によ. 28 日における圧縮強度以上となることが期待できる。」. って求めたセメントの水和率が目標の水和率に到達する. と記述されている。標準示方書では,その他の特性値に. ように養生計画を立案するものである。これまでの検討. ついては,明確な記述はないが,基本的には,コンクリ. により,構造物条件,コンクリート条件および施工環境. ート強度の特性値と同様の考え方が適用されると考えら. 条件に応じて養生計画を合理的に立案することが可能で. れる。すなわち,現行の標準示方書では, 「構造物では,. あることを確認している. 7)。. 設計で設定されたコンクリートの特性値が満足されてい. 本論文では,提案するセメントの水和解析に基づく養 生計画立案手法の基本的な考え方および提案する手法に. ることが前提となる。」と理解される。 これらの記述を養生の観点から言い換えると,「標準. よる具体的な養生計画の立案方法を紹介する。さらに,. 養生を行った供試体の材齢 28 日における圧縮強度,すな. 各種条件における養生計画立案事例を示し,各種条件に. わち,設計で設定したコンクリートの特性値が構造物で. 応じた養生計画を合理的に立案することが可能であるこ. 満足されるように,適切に養生しなければならない。」と. とを確認する。. いうことになる。 2.2 標準示方書における養生の位置付け. 2. 現行の標準示方書における養生の位置付け. 図-1 に現行の標準示方書における養生の位置付けを 模式的に示す。. 提案する「セメントの水和解析に基づく養生計画立案. まず,設計編 8)に従って,耐久性,安全性,使用性等. 手法」は,現行の標準示方書における「養生の位置付け」. に関する照査,初期ひび割れに対する照査等を実施し,. に基づいていることが前提となる。そこで,標準示方書. コンクリートの特性値が設定される。次に,施工編の施. における養生の記述および位置付けを確認する。. 工標準の 2 章コンクリートの品質に基づいて,ワーカビ. 2.1 標準示方書【設計編】における養生の記述. リティーと強度発現性の設定および設計で設定されたコ. 標準示方書【設計編】 (以下,設計編)の本編 5 章材料,. ンクリートの特性値の確認の後,これらの設定値を満足. 5.3. 強度のコンクリート強度の. するように,3 章材料および 4 章配合設計に基づいて,. 特性値に関する【条文】(1)の【解説】において,「養. 使用材料の選定および配合設計を行う。さらに,5 章製. 生」に関する記述がある 8)。すなわち,【条文】(1)で. 造,6 章レディーミクストコンクリートに基づいて,所. 「コンクリート強度の特性値は,原則として材齢 28 日に. 要の品質を有する安定した品質のコンクリートが製造さ. 36. コンクリート,5.3.1.

(3) 図-2 にセメントの水和解析に基づく養生計画立案手 法のフローを示す。提案する手法は,セメントの水和率 を解析的に予測し,さらに,設計で設定したコンクリー トの特性値を満足するために達成すべき目標の水和率 (以下,目標水和率)を設定し,目標水和率が得られる ように養生計画を立案するものである。ここで,養生計 画立案とは,養生の具体的な方法および期間(以下,必 要養生期間)を決定することである。 まず,養生方法および施工環境条件に応じて境界条件 を設定後,水分供給・逸散解析により養生過程および養 生終了後における構造物中の水分分布履歴を予測する。 得られた水分分布履歴を基に水和解析を行い,部位ごと のセメントの水和の進行,すなわち水和率を算定する。 水和解析で得られた所定の材齢(以下,達成材齢)およ び所定の部位(以下,評価深さ)における水和率とコン クリート品質を確保するために必要な目標水和率を比較 することによって養生の適否を照査し,適切な養生計画 を立案する手法である。 図-2 セメントの水和解析に基づく養生計画立案手法4),5),6). なお,図-2 は,必要養生期間の算定までのフローを 示したものであり,実施工では,さらに経済性,工期へ. れ,7 章運搬・打込み・締固めおよび仕上げ,に基づい. の影響等を考慮して,使用材料・配合変更,養生工法の. て,コンクリートの打込み・締固めおよび仕上げがなさ. 変更等も含めて総合的に検討し,養生計画を決定するこ. れる。前述のとおり,構造物でコンクリートの特性値を. とになる。. 満足することが前提になることから,仕上げが終了した 段階で供試体と同等のコンクリートが打込まれることに. 3.2 解析プログラム (1)概要. なる。つまり,施工編の 3 章~7 章を遵守すれば,構造. 水和解析には,熱力学連成解析システム DuCOM for. 物で,供試体と同等の密実で均一なコンクリートが打込. Structural Design9),10)(以下,DuCOM)を用いることとし. まれることになる。. ている。DuCOM は,コンピューター上の仮想空間にバ. 次の工程が養生,すなわち,養生の役割・位置付けと. ーチャルコンクリート構造を製造・建設する総合シミュ. いうことになるが,最終的に「構造物で,コンクリート. レーション技術である。任意の配合と粉体・配合条件を. の特性値が満足される。」ように,養生を実施することに. もとに,コンクリート構造物/部材レベルの特性が時間. なる。施工編の 8 章養生,8.1 一般の【解説】の記述の. 軸上で算定される。. とおり,養生では, 「セメントの水和を十分に進行させる. DuCOM は,任意の材料・配合および環境条件におい. 必要がある。」ことになる 1)。具体的には, 「セメントの. て,構造物の供用開始までのコンクリートの形成過程と. 水和を供試体と同等程度まで進行させれば,構造物で,. 供用後の環境下における劣化進行を時間空間軸上で追跡. コンクリートの特性値を満足することができる。」と考え. 可能な有限要素解析プログラムである。構造物部材表面. られる。すなわち,セメントの水和を供試体と同等程度. から内部方向へ向かう 1 次元場における物質移動や温度. まで進行させることが, 「養生の役割・位置付け」という. 変化を考慮し,セメントの水和反応,空隙構造形成,水. ことになる。. 分保持移動モデルの基本モデルの相互連関を連成して解 析するものであり,部位ごとの水和率の追跡が可能であ. 3.. セメントの水和解析に基づく養生計画立案 手法の概要. る。すなわち,DuCOM は,養生過程の水分供給・保持 挙動,養生終了後の水分逸散挙動の解析により,部材深 さ方向の含水状態の追跡が可能である。さらに,水和発. 3.1 基本的な考え方. 熱モデル 11)では,自由水(水和物析出空間)の減少によ. 2.で述べた現行の標準示方書における養生の位置付け. る発熱速度の低減がセメント粒子の反応面と自由水の接. に基づいて,構造物中のセメントの水和を供試体と同等. 触機会が減少することで定式化されており,養生過程お. 程度まで進行させるように養生の具体的な方法および期. よび養生終了後の含水状態が水和進展に及ぼす影響を考. 間を決定するというのが,提案する「セメントの水和解. 慮した水和解析が可能である。ここで,水和発熱モデル. 析に基づく養生計画立案手法」の基本的な考え方である。. により算定された 4 種類のセメント鉱物(C3S,C2S,C3A,. 37.

(4) C4AF)および混和材(高炉スラグ微粉末,フライアッシ. 表-1 養生条件 16). ュ)ごとの積算発熱量の最終発熱量に対する比からそれ. 養生期間(日). ぞれ水和率を算定し 11),さらに,鉱物組成を考慮した式. 養生方法. (1)による平均水和率が水和率として算定される 12)。. 水和率=∑. 各鉱物の積算発熱量 ×鉱物組成 (1). 早強. 中庸熱. 低熱. N. H. M. L. 封. 示方書. 5. 3. 9. 12. 緘. 短縮. 3. 2. 5. 7. 各鉱物の最終発熱量 DuCOM では,養生条件および養生終了後の環境条件. 普通. 水中養生. 7,14,21,全期間(91). 養生終了後. 気中暴露(温度 20℃,湿度 60%RH). は,熱および水の出入りに関する境界条件,すなわち, 熱境界条件および水分境界条件を与えることで設定可能 である。水分境界条件では,コンクリート表面に接する 空気の相対湿度,つまり,コンクリート表面と養生材料 の間の空間の相対湿度を与えることが基本である。その 他として, 「理想湿潤」と「封緘」を設定可能である。 「理 想湿潤」とは,コンクリート表面(境界)が完全に湿潤 状態が保持され,空隙は液状水で満たされている理想的 な湿潤養生に相当し, 「封緘」とは水分の出入りが完全に 遮断されている養生条件を意味している。これらは,施 工編で示されているコンクリート表面に給水する方法 (以下,給水養生)とコンクリート中の水分が逸散する ことを抑制する方法(水分逸散抑制)が理想的に実施さ れた場合を想定している。しかしながら,それぞれに分 類される各種工法は,必ずしも理想的ではなく,養生工. 図-3. 法によって水分供給・保持性能が異なることが明らかと. 圧縮強度比の実測値と解析値の比較. なっている 13),14),15)。したがって,提案する養生計画立案 手法を各種養生工法へ適用する場合には,養生工法の水. 質で評価する必要があること,また,材齢 91 日以降の強. 分供給・保持性能に応じて境界条件を適切に設定する必. 度の伸びがほとんど見られないことから, 材齢 91 日にお. 要がある. 13),14),15)。. (2)解析プログラムの適用性の確認 DuCOM の提案する手法への適用性を確認するために,. ける圧縮強度比とした。既往の研究では,4 種類のポル トランドセメント(以下,普通 N,早強 H,中庸熱 M お よび低熱 L)を使用した水セメント比 55%のコンクリー. 16)の実験データを用いて予測精度を評価し. トを用い,養生温度 20℃一定で表-1 に示す広範な条件. た。ここで,提案する手法では,養生中および養生終了. で湿潤養生を行った時の強度発現を調べ,湿潤養生条件. 後のセメントの水和の進行の予測が必要であるが,湿潤. が強度発現に及ぼす影響の定量評価を試みている。ここ. 養生条件が各種セメントを用いたコンクリートの水和進. で,表中の示方書とは,施工編で示されている湿潤養生. 行に及ぼす影響に関するデータは,十分ではない。その. 期間の標準であり,中庸熱 M と低熱 L の場合,セメント. ため,セメントの水和レベルと圧縮強度発現は,ほぼ一. の圧縮強さが普通 N の材齢 5 日と同等となる材齢として. 対一に対応していると考え,圧縮強度への影響を評価し. いる。短縮とは,標準の 60%程度に短縮した期間である。. た既往の実験データに基づいて適用性を評価することと. 図-3 に圧縮強度比の実測値と DuCOM による圧縮強. した。DuCOM では,セメントの水和の進行に伴う空隙. 度比の解析値の関係を示す。図から,湿潤養生条件によ. 形成を空隙構造形成モデルにより追跡し,さらに,算定. って強度発現が異なること,また,その影響は,セメン. された空隙構造に基づく各種モデルにより,圧縮強度発. トの種類に大きく依存し,中庸熱 M および低熱 L の低熱. 現,収縮挙動,透水係数等の特性が算定される。ここで. 型セメントほど,湿潤養生条件の影響が大きいことがわ. は,算定された圧縮強度と実験結果を比較することによ. かる。. 既往の研究. り評価することとした。なお,圧縮強度の絶対値による. 水中養生では,いずれのセメントを用いた場合でも実. 評価は,難しいことから,理想的な養生条件である水中. 測値と解析値の相関は高く,湿潤養生条件の影響が±5%. 養生における圧縮強度に対する各種養生条件における圧. 以内で精度良く予測されている。圧縮強度のばらつきを. 縮強度の比(以下,圧縮強度比)を比較することで予測. 考慮すれば,実用上十分な精度で湿潤養生条件の影響が. 精度の評価を行った。なお,養生の効果は,長期的な品. 評価されているものと考えられる。ただし,早強セメン. 38.

(5) トでは水中養生より水中養生 7~21 日以降気中暴露の方. ート表面近くに求められる品質に関する特性値であるこ. が圧縮強度は,若干大きくなっている。早強セメントで. とから,今後,明確に設定することが望まれる。なお,. は,水中養生 7 日でセメントの水和は十分進行し,水中. 設計編の 5.3.13 中性化速度係数の【条文】で,実験ある. 養生との差は小さいものと考えられるが,水中養生終了. いは既往のデータに基づくとし, 【解説】において,材齢. 後の乾燥による見かけの強度増加の影響が若干残留して. 14 日まで水中養生した供試体の暴露試験のデータに基. いる可能性も考えられる 16)。. づいて求めた回帰式から予測してもよい,としている。. 一方,封緘養生では,普通 N と早強 H の場合,水中養. この記述から,物質移動抵抗性に関わる特性値を実験に. 生と同程度に精度良く予測されているが,中庸熱 M およ. 基づいて定める場合の供試体の養生条件として 14 日間. び低熱 L では,実測値より高く予測されている。その差. 標準養生を一つの目安とするのが良いと言える。. は,養生期間が短いほど大きくなっており,不十分な養. (2)達成材齢の設定. 生による影響が過小評価されていると言える。中庸熱 M. 必要養生期間を算定するためには,いつまでに目標水. および低熱 L の封緘養生で予測値との乖離が生じるひと. 和率を達成するか(以下,達成材齢と呼ぶ)を決定する. つの理由に,DuCOM では自由水の減少による水和速度. 必要がある。供用開始後も降雨等によって水和が進行す. の低減に関する予測モデルを全ての鉱物で共通としてい. る可能性もあるが,不確定要素も大きく,養生計画立案. 11)ことが考えられる。すなわち,発熱速度の遅い鉱物. 時において,その効果を期待すべきではない。したがっ. では,自由水の減少が水和速度に及ぼす影響が大きくな. て,供用開始までに所要の品質が確保されていることが. ることも考えられ,低熱型セメントで予測精度が低くな. 基本となる。コンクリートの施工から構造物の供用開始. った可能性がある。したがって,低熱型セメントの封緘. までの期間を考慮して工事毎に設定すればよいが,施工. の条件では,適用に当って留意が必要である。これらを. 時期の異なる部材毎に設定するのは,繁雑となるため,. 除いた条件では±5%程度の誤差で予測されており,圧縮. 安全側に材齢 91 日~半年程度に設定するのが妥当と考. 強度のばらつきを考慮すれば実用上十分な精度を有して. える。. る. いると考えられる。. (3)評価深さの設定. 以上から,DuCOM は提案する「セメントの水和解析. 適用する養生工法の水分供給・保持性能によって,養. に基づく養生計画立案手法」に十分適用可能であると言. 生中の深さ方向の含水状態は異なる。つまり,給水養生. える。. では,内部まで水が浸入するのに時間を要し,水分逸散. 3.3 必要養生期間算定にあたっての基本条件の設定. 抑制の方法では,水分保持性能によっては,表面近くで. 必要養生期間の算定にあたって,以下に示す基本的な. は水分が逸散することになる。また,養生終了後はコン. 条件を設定することが必要である。 (1)目標水和率を規定する材齢の設定. クリート表面から水分の逸散が進むことから,表面から の深さによって含水状態が異なる。したがって,表面か. コンクリートが所要の品質を確保するために達成す. らどの程度までの深さ(以下,評価深さ)の部分の水和. べき水和のレベル(以下,目標水和率)を決定する必要. 率で評価するかを決定する必要がある。評価深さの設定. がある。2.で述べた現行の標準示方書における養生の位. にあたっては,コンクリートに要求される品質,すなわ. 置付けから,目標水和率は,設計で定めたコンクリート. ち,圧縮強度,塩化物イオンの侵入に対する抵抗性,中. の特性値の評価に用いる供試体の養生条件で到達する水. 性化に対する抵抗性,劣化(凍害,化学的浸食等)に対. 和率とするのが妥当である。たとえば,圧縮強度の特性. する抵抗性等を考慮する必要があり,また,鉄筋のかぶ. 値を評価する供試体の養生条件は,標準養生(20℃水中. り,構造物の寸法等も考慮する必要がある。たとえば,. 養生)材齢 28 日としていることから,材齢 28 日が目標. 塩化物イオンの侵入に対する抵抗性が要求された場合は,. 水和率を規定する材齢(いわゆる,設計材齢)となる。. 表面から鉄筋のかぶりまでを評価深さに設定することに. したがって,目標水和率は,標準養生を 28 日間実施した. なり,凍害に対する抵抗性を確保する場合では,表面か. 時点で達成されるセメントの水和率を目標水和率に設定. ら数 cm 程度を評価深さとすることになる。. することになる。. 設定した評価深さにおける水和率が目標水和率を満. 設計編では,コンクリート強度の特性値以外について. 足するかどうかを照査することになる。深さ方向に水和. も,実験に基づいて定めることを原則としており,実験. 率は一様ではないため,水和率をどのように算定するか. に用いる供試体の養生条件,実験を実施する材齢におけ. が課題であるが,現状では,設定した評価深さにおける. る水和率が目標水和率となる。しかしながら,現行の設. 水和率の平均値とすることとしている。. 計編では,実験に基づいて定める際の供試体の養生条件. 3.4 必要養生期間の考え方. および材齢は明確に示されていない。塩化物イオン拡散. 図-4 に必要養生期間の考え方を示す。図-4 では,特. 係数,中性化速度係数等の物質移動抵抗性に関わる特性. 性値の評価に用いる供試体の養生条件を標準養生 28 日. 値は,養生の影響を大きく受けると考えられるコンクリ. 間,達成材齢 91 日の場合を示している。全期間標準養生. 39.

(6) 表-2 設定条件 各種条件. 設定条件. セメントの種類. 普通ポルトランドセメント. 水セメント比. 50 %. 目標水和率を規定す. 28 日. る材齢(設計材齢). 図-4. 達成材齢. 91 日. 評価深さ. 5 cm. 必要養生期間の考え方. 環境温度および環境湿度等の環境条件は,施工期間中に 変化する。そのため,環境温度および湿度の変化に応じ て必要養生期間の補正ができるように,環境温度および 環境湿度を種々変化させた時の必要養生期間も算定する こととしている。. 4. 必要養生期間の算定事例 一般的な鉄筋コンクリート造の構造物を想定し,提案 する養生計画立案手法に基づいて養生計画の立案を行っ た。すなわち,以下に示す構造物条件,施工条件,コン 図-5. 給水養生期間と達成材齢91日の水和率の関係. クリート条件から必要養生期間算定にあたっての条件を 設定(表-2)して水和解析を行い,必要養生期間を算定. の場合の水和率を黒色の実線としており,目標水和率は 材齢 28 日における水和率(破線)となる。図中の灰色の. した。以下,各種条件の詳細と設定条件の考え方を示す。 4.1 構造物条件および施工条件. 実線は,一定期間湿潤養生を実施後,気中暴露した場合. 一般的な環境下に建設される鉄筋コンクリート構造. の水和の進行を表しているが,達成材齢 91 日で目標水和. 物を想定し,鉛直面(型枠面)の養生計画を対象とする。. 率に達しており,この湿潤養生期間以上実施すれば,目. また,施工場所は,日本の平均的な気象条件の地域とし,. 標水和率が満足されることになる。この湿潤養生期間が. 通年施工を想定した。初期凍害の懸念はなく,また,建. 必要養生期間であり,目標水和率と達成材齢の 2 つを決. 設地は内陸部であり,耐久性の照査は,中性化による鋼. 定すれば,水和解析によって求めることができる。. 材腐食に対する照査のみ実施とし,鉄筋のかぶりは,. 3.5 必要養生期間の算定方法. 50mmに設定した。なお,初期ひび割れに対する照査は,. 図-4 で必要養生期間の考え方を示したが,この図か. 別途実施されているものとする。. ら必要養生期間を直接的に算定することは困難である。. ここで,標準示方書で示される湿潤養生期間の標準は,. 実際には,養生期間を種々変化させて水和解析行ってそ. 十分な給水を行った場合を想定して設定されていること. れぞれの到達材齢における水和率を算定し,養生期間と. から,給水が十分な理想的な養生条件を想定した。すな. 水和率の関係から到達材齢において目標水和率と一致す. わち,養生中の境界条件は「理想湿潤」である。このこ. る養生期間を算定する。以下,具体例で説明する。. とから,養生方法は,型枠取りはずし後コンクリート表. 水セメント比 50%,養生条件:給水養生,環境温度 20℃,. 面に給水する方法17)(給水養生)を適用することを想定. 環境湿度 60%RH の条件で,給水養生期間を変化させて. した。また,施工環境条件として平均的な条件(温度20℃,. 水和解析を行い,達成材齢 91 日における水和率を求める。. 湿度60%RH)を中心に以下に示す3水準設定した。ここ. その結果,図-5 に示すように,給水養生期間と達成材. で,環境温度は,全期間一定として熱境界条件として設. 齢 91 日における水和率の関係が得られる。標準養生で. 定し,環境湿度は,養生終了後の水分境界条件として設. 28 日間養生した時の水和率を目標水和率とし,図-5 に. 定した。. 破線で示す。この図から,目標水和率を満足するために. 1) 養生条件:十分な給水を行う養生(「理想湿潤」). は,給水養生が 8 日間必要である,すなわち,必要養生. 2) 環境温度(℃). 期間 8 日と算定されることになる。なお,実施工では,. 3) 環境湿度(% RH): 30, 60, 80. 40. : 10, 20, 30.

(7) 4.2 コンクリート条件. 表-3. DuCOM では,使用材料の特性とコンクリートの配合. 材料. が入力条件となる。ここでは,以下に示す具体的な材料. セメ ント C. および配合で検討した。 (1)使用材料 表-3 に使用材料を示す。セメントは,普通ポルトラ ンドセメントとした。表-4 にセメントの鉱物組成を示 す。ここで,鉱物組成は,蛍光 X 線分析で測定した化学 組成からボーグ式により算定した値である。DuCOM で は,骨材の吸水率および粗骨材の最大寸法以外は,使用. 細 骨 材 S. 種. 使用材料 4),5). 類. 仕. 密度 3.15g/㎠,. 普通ポルトランドセ メント(普通 N). 比表面積 3250 ㎠/g 密度 2.51g/㎠,. S1. 能登産 山砂. S2. 能登産 安山岩砕砂. 粗骨材 G. 吸水率 3.12% 密度 2.57g/㎠, 吸水率 2.65% 密度 2.61g/㎠,. 能登産 安産岩砕砂. 吸水率 2.07%. 材料の条件として入力する。 (2)コンクリートの配合. 表-4. 表-5 にコンクリートの配合を示す。圧縮強度の特性 値(設計基準強度)は,30N/mm2 程度を想定し,水セ メント比は,50%とした。 4.3 必要養生期間算定にあたっての基本条件. セメント種類 普通 N. 様. セメントの鉱物組成 4),5) 鉱物組成 mi(%) C3 S. C2 S. C3A. C4AF. 54. 21. 9. 9. (1)目標水和率を規定する材齢の設定 表-5. 圧縮強度の特性値を評価する供試体の養生条件は,標 準水中養生,材齢 28 日としていることから,材齢 28 日 が目標水和率を規定する材齢(いわゆる,設計材齢)と なる。一方,中性化速度係数の特性値を評価する試験方 法および供試体の養生条件は明確に規定されていない 8)。 以上のことから,目標水和率は,圧縮強度の特性値に基. 水セメ ント比 W/C (%) 50. 水 W 177. コンクリートの配合 4),5) 単位量(kg/m3) 細 細 セメ 骨 骨 ント 材 材 C S1 S2. 粗 骨 材 G. 354. 992. 543. 181. づいて設定することとし,標準養生(20℃水中養生)を 28 日間実施した時点で達成される水和率を目標水和率 に設定することとする。図-6 に全期間「理想湿潤」と した時の材齢と水和率の解析値の関係を示す。設計材齢 (材齢 28 日)における水和率が目標水和率となる。 (2)達成材齢の設定 コンクリートの施工から構造物の供用開始までの期間 を考慮して部材毎に設定すればよいが,施工時期の異な る部材毎に設定するのは,繁雑となる。ここでは,安全 側に材齢 91 日に設定した。 (3)評価深さの設定 コンクリートに要求される品質,すなわち,圧縮強度, 塩化物イオンの侵入に対する抵抗性,中性化に対する抵. 図-6. 材齢と水和率の関係(20℃理想湿潤). 抗性,劣化(凍害,化学的浸食等)に対する抵抗性等を 考慮する必要があり,また,鉄筋のかぶり深さ,構造物 の寸法等も考慮する必要がある。ここでは,中性化によ. が高いほど,環境湿度が高いほど達成材齢 91 日における. る鋼材腐食に対する照査のみ実施していることから,鉄. 水和率が高くなることがわかる。. 筋のかぶりから評価深さを設定することとし,鉄筋のか ぶり 50mm から評価深さは,50mm とした。. これらの図から環境温度毎に破線で示した目標水和 率となる給水養生期間,すなわち,必要養生期間を算定. 4.4 必要養生期間算定結果. した。ここで,水和率のプロットを結ぶラインは,目標. 施工環境温度および湿度毎に養生期間を種々変化させ. 水和率のラインとの交点を算定するための回帰式のライ. て水和解析行い,到達材齢における水和率を算定した。 図-7~図-9 に,それぞれ,環境湿度毎の給水養生期間. ンである。 図-10 に算定結果を示すが,実施工における利用,す. と達成材齢 91 日における水和率の解析値の関係を示す。. なわち環境温度および環境湿度の変動に対する補正を可. 図に示すように,給水養生の延長に伴って達成材齢 91. 能とするための環境温度と必要養生期間の関係を示すラ. 日における水和率は,高くなっている。また,環境温度. インを環境湿度毎に示している。環境温度 20℃,環境湿. 41.

(8) 度 60%RH の平均的な環境条件で,必要養生期間が 7~8 日程度と算定されている。標準示方書で示されている湿 潤養生期間の標準では,普通ポルトランドセメントで日 平均気温 15℃以上の場合,5 日となっている。標準示方 書の解説によれば,表中の数値は,十分な給水を行った 場合を対象として設定されているとしている。また,実 施工では,標準示方書で示されている湿潤養生期間の標 準は,最低限実施しなければならない期間であると認識 されていると考えられる。これらのことから,算定され た必要養生期間 7~8 日程度は,おおよそ妥当な養生期間 と考えられる。 なお,標準示方書で示される湿潤養生期間の標準は,. 図-7. 給水養生期間と達成材齢91日の水和率の関係. 図-8. 給水養生期間と達成材齢91日の水和率の関係. 図-9. 給水養生期間と達成材齢91日の水和率の関係. 十分な給水を行った場合を想定し,また,算定結果も十 分な給水を行う「理想湿潤」の養生条件で算定された必 要養生日数である。したがって,コンクリート中の水分 が逸散することを抑制する方法(水分逸散抑制)による 養生条件では,給水養生に比べて必要養生期間が長期と なることに留意しなければならない. 4),5)。提案する養生. 計画立案手法の実用性を高めるためには,実用化が進ん でいる各種養生工法への適用性を高めることが必要とな る。そのためには,水和解析において養生工法の水分供 給・保持性能に応じて境界条件を適切に設定する必要が ある。今後,各種養生工法の水分供給・保持性能を把握 するとともに,性能に応じた境界条件の設定手法を確立 することが課題となる 13),14),15)。 図-10 から施工環境条件に応じた必要養生期間の算 定が可能となる。図より,環境温度が低いほど,環境湿 度が低いほど,必要養生期間が長くなるという合理的な 結果となっている。ただし,標準示方書で示されている 湿潤養生期間の標準の普通ポルトランドセメントで日平 均気温 5℃以上の場合の 9 日より相当長期の養生が必要 であるという結果となっている。 環境温度が低くなるとセメントの水和の進行が遅れ, コンクリートの品質を確保するためには,長期間の養生 を実施する必要があることが示されたと言えるが,養生 期間の延長は,生産性低下に繋がることから必ずしも望 ましいとは言えない。そこで,以下のような対応と併せ て検討することで,養生による品質確保と生産性向上と の両立を図ることを提案する。 環境温度が低い場合には,目標水和率を規定する材齢, すなわち,設計材齢を短く設定することで必要養生期間 を延長することなく目標水和率を満足することが可能で ある。つまり,短い設計材齢で特性値を満足する必要が あるため,水セメント比の低い配合が選定されることに なり,養生期間を延長することなく特性値を満足できる のである。つまり,養生による品質確保と生産性向上の 両立が可能となるのである。 一方,環境温度および環境湿度が高い場合には,給水 養生が不要,あるいは,短期の必要養生期間となる。水. 42. 図-10. 環境温度と必要養生期間の関係.

(9) 和の進行が早く,目標水和率に容易に達するためである. 表-6 設定条件. が,実用上は,最低養生期間を設定して図示することも. 各種条件. 設定条件. 検討する必要がある 18)。 なお,環境温度および環境湿度は,全期間一定として 水和解析を行ったが,実施工では,季節に応じて環境温. 今後,様々な環境条件でケーススタディーを行い,合理. 混合セメント(BB,FAB) 40,60 %. 水セメント比. 度および環境湿度は変化することから,一定期間経過後 は,平均的な環境条件とする必要があるとも考えられる。. 中庸熱 M,低熱 L. セメントの種類. 目標水和率を規定す. 14,21,36 日. る材齢(設計材齢). 的な条件設定方法を確立することが課題となる。 4.5 基本条件の設定値の妥当性の検討. 達成材齢. 56,182 日. 評価深さ. 1,3,8 cm. 必要養生期間算定にあたっての基本条件である,目標 水和率を規定する材齢,達成材齢および評価深さの設定 値によって算定される必要養生期間は,異なることが想 定される。したがって,これらの基本条件は,構造物条 件,コンクリート条件および施工環境条件に応じて適切 に設定しなければならない。以下,これらの設定値の妥 当性について検討する。 目標水和率を規定する材齢については,コンクリート. 表-7 使用材料 材料 ポル トラ ンド セメ ント. の特性値を定める際の実験に用いる供試体の養生条件,. 混. 実験を実施する材齢が基準となるが,圧縮強度以外の特. 合. 性値については,明確に定められていない。今後,明確. 材. 種. 類. 仕. 様. 密度 3.21g/㎠,. 中庸熱 M. 比表面積 3150 ㎠/g 密度 3.22g/㎠,. 低熱 L. 比表面積 3530 ㎠/g. 高炉スラグ微粉末. 密度 2.91g/㎠,. (混合率 42.5%). 比表面積 4400 ㎠/g. に設定することが望まれる。なお,算定された必要養生. フライアッシュ. 密度 2.26g/㎠,. (混合率 15%). 比表面積 4740 ㎠/g. 期間がおおよそ妥当であることから,標準示方書で設定 表-8. されている圧縮強度の特性値を評価する場合の材齢 28 日の妥当性が改めて確認されたと言える。達成材齢は,. セメントの鉱物組成 鉱物組成 mi(%). セメント種類. コンクリートの施工から構造物の供用開始までの期間を. C3 S. C2 S. C3A. C4AF. 考慮して工事毎に設定すればよいが,施工時期の異なる. 中庸熱 M. 42. 36. 4. 13. 部材毎に設定するのは,繁雑となるため,安全側に材齢. 低熱 L. 29. 53. 3. 9. 91 日程度に設定した。また,評価深さは,鉄筋のかぶり から 50mm に設定した。これらの設定値も算定された必. 表-9. 要養生期間の妥当性から,おおよそ妥当な設定となって いると考えられる。. 5. 各種条件が必要養生期間に及ぼす影響. セメ ント の 種類. 水セメ ント比 W/C (%). ポル. 40. コンクリートの配合 単位量(kg/m3). 水 W. セメ ント C. 細 骨 材 S1. 細 骨 材 S2. 粗 骨 材 G. 443. 495. 165. 981. 354. 543. 181. 992. 295. 584. 195. 981. 必要養生期間算定にあたっての基本条件である目標. トラ. 水和率を規定する材齢,達成材齢および評価深さの設定. ンド. 値によって算定される必要養生期間は,異なることが想. セメ. 定される。したがって,これらの基本条件は,構造物条. ント. 件,コンクリート条件および施工環境条件に応じて適切. FAB. 50. 177. 354. 537. 179. 981. BB. 50. 180. 360. 537. 179. 976. かつ合理的に設定しなければならない。ここでは,基本 条件の設定の妥当性を検討するために,コンクリート条. 50. 177. 60. 件および基本条件が必要養生期間に及ぼす影響を評価し た19)。 さらに,算定された必要養生期間を既往の知見に. である,水和率を規定する材齢,達成材齢および評価深. 基づいて検証し,提案する養生計画立案手法の妥当性の. さを変化させた。ここで,各種条件の影響を把握する観. 検討を行った。. 点から,変化させた条件以外は,4.の設定条件(表-2. 5.1 条件設定. 参照)と同一とした。表-6に必要養生期間算定にあたっ. コンクリート条件としてセメントの種類および水セ. ての設定条件を取りまとめて示す。以下,各種条件の詳. メント比を,必要養生期間の算定にあたっての基本条件. 細と設定条件の考え方を示す。. 43.

(10) (1)セメントの種類 養生の延長が必要とされる中庸熱,低熱ポルトランド セメントおよび混合セメントB種(高炉セメントB種: BB,フライアッシュセメントB種:FAB)で検討した。 セメント以外の使用材料は,4.と同様とした。表-7およ び表-8にセメントの品質および鉱物組成を示す。混合セ メントは,普通ポルトランドセメント(表-3および表- 4)に表-7の混合率で混合したセメントとした。 (2)水セメント比 水セメント比は,一般的な強度のコンクリートを想定 し,40%および 60%とした。表-9 にコンクリートの配. 図-11. 給水養生期間と達成材齢91日の水和率の関係. 図-12. エーライト C3S 含有率と必要養生期間の関係. 合を示す。 (3)目標水和率を規定する材齢 基本的には,コンクリートの特性値の評価に用いる供 試体の養生条件,材齢における水和率とするのが妥当で ある。標準示方書では,圧縮強度の特性値を評価する供 試体の養生条件は,標準水中養生,材齢28日としている。 ここでは,設計材齢を基準条件の材齢28日より短く設定 することを想定して,材齢14,21および35日に設定した。 4.において,低温時に必要養生期間が延長すること対し て設計材齢を短く設定することを提案した。そこで,環 境温度および環境湿度の影響も評価した。 (4)達成材齢 基本的に,供用開始時に所要の品質を確保する必要が あることから供用開始時の材齢を基準とするのが妥当と 考えられるが部材ごと設定することは難しいため,基本 条件では,安全側を考慮して91日に設定した。ここでは, 材齢91日を基準として,材齢56および182日に設定した。 (5)評価深さ 評価深さの設定にあたっては,コンクリートに要求さ れる品質,すなわち,圧縮強度,塩化物イオンの侵入に 対する抵抗性,中性化に対する抵抗性,凍害に対する抵 抗性を考慮する必要があり,また,鉄筋のかぶり深さ, 構造物の寸法等も考慮する必要がある。表面の劣化に対 する抵抗性が求められる場合,あるいは,部材寸法が大 きくかぶりを大きく設定することが可能な場合等を考慮. 図-13 混合材混合率と必要養生期間の関係. して,1,3 および 8cm に設定した。 5.2 各種条件が必要養生期間に及ぼす影響 (1)セメントの種類の影響 図-11 に低熱型セメントを用いた場合の給水養生期 間と達成材齢 91 日における水和率の関係を示す。低熱型 セメントでは,水和の進行が遅くなることから目標水和 率および達成材齢 91 日における水和率ともに低くなる が,必要養生期間は,中庸熱 M,低熱 L ほど長くなると いう,合理的な結果となっている。図-12 にエーライト C3S 含有率と必要養生期間の関係を示す。 低熱型セメントによるひび割れ抑制効果を確保する ためには,設計材齢を長期とする必要があるが,その場 合には,目標水和率が高くなり,養生期間がさらに長く. 44. 図-14 水セメント比と必要養生期間の関係.

(11) なることも想定される。したがって,一般的な構造物に ひび割れ抑制を目的に低熱型セメントを使用する場合に は,確実な湿潤養生期間の確保が肝要であると言える。 標準示方書では,低熱型セメントを用いた場合の湿潤 養生期間の標準は示されていないが,提案する手法でセ メントの鉱物組成の影響を考慮した解析を行えば,任意 の鉱物組成のポルトランドセメントを用いた場合の必要 養生期間の算定が可能であることが示唆された。 図-13 に混合セメントを用いた場合について,混合材 混合率と必要養生期間の関係で示した。混合セメント B 種では,2~3 日程度の養生期間の延長が必要であるとい う結果が得られた。標準示方書では,混合セメント B 種. 図-15. 目標水和率を規定する材齢と必要養生期間の関係. を用いた場合の湿潤養生期間の標準は,普通ポルトラン ドセメントより 2 日間長くなっており,おおよそ妥当な 算定結果であったものと考えられる。 (2)水セメントの影響 図-14 に水セメント比と必要養生期間の関係を示す。 水セメント比が小さいほど必要養生期間は短くなるとい う結果が得られた。水セメント比が小さいほど反応物質 であるセメントの濃度が高くなるため,水和反応速度が 速くなることによると考えられる。ただし,水セメント 比の低減は,コンクリートの要求品質が高くなった結果 であることを考慮すれば,低水セメント比においては, 十分な養生が必要であると言える。図-14 は,その他の 条件を一定とした場合の水セメント比の影響であること. 図-16. 達成材齢と必要養生期間の関係. 図-17. 評価深さと必要養生期間の関係. に留意が必要である。 (3)目標水和率を規定する材齢の影響 図-15 に目標水和率を規定する材齢と必要養生期間 の関係を示す。材齢を短期にするほど目標水和率が低く なるため,必要養生期間が短くなっている。 この図より, 気温が低くなると長期間の養生を実施する必要があるこ とになるが,生産性向上の観点では望ましいとは言えな い。4.4 において養生による品質確保と生産性向上の両 立を図ることを提案したが,その観点から,図-15 は, 重要な示唆を与えるものである。すなわち,気温が低い 場合は,設計材齢を短くすることで,20℃と同等の養生 期間で所要の品質を確保できることを示している。今後, 様々な条件におけるケーススタディーによる検討と実験 による検証を進め,養生による品質確保と生産性の向上 の両立,さらには経済性等も考慮した養生計画立案手法 を開発することが課題となる。 (4)達成材齢の影響. も半年(182 日)以内に設定することが望ましい。 (5)評価深さの影響 図-17 に評価深さと必要養生期間の関係を示す。表面. 図-16 に達成材齢と必要養生期間の関係を示す。養生. ほど水分逸散が生じやすいことから,評価深さが小さい. 終了後も水和反応は継続することから,達成材齢を延長. ほど必要養生期間は長くなるという結果となった。この. するほど必要養生期間は短くなるという結果となってい. ことは,コンクリート表面の劣化に対する抵抗性等の確. る。3.3(2)で記述のとおり,供用開始後も降雨等によ. 保が求められる場合ほど長期間の養生が必要であるとい. って水和が進行する可能性もあるが,不確定要素も大き. うことを示している。表面の品質の確保が求められる場. く養生計画立案段階においては期待すべきではない。養. 合,長期間の養生を実施することが望ましいと言えるが,. 生による品質確保の観点からは,材齢 91 日程度,最大で. 生産性向上の観点から,図-15 に基づいて設計材齢の短. 45.

(12) 縮を検討することも可能である。つまり,凍害に対する. た。標準示方書では,低熱型セメントを用いた場合. 抵抗性のようなコンクリート表面の品質が求められる場. の湿潤養生期間の標準は示されていないが,任意の. 合においても,設計材齢を短くすることによって,養生. 鉱物組成のポルトランドセメントを用いた場合の. 期間の延長によらず品質確保が可能となる。過去に凍結. 必要養生期間の算定の可能性が示唆された。. 融解抵抗性試験の開始材齢の標準が材齢 14 日であった. (7) 目標水和率を規定する材齢,すなわち,設計材齢を. ことは,凍害による表面損傷に対する抵抗性の確保の観. 短く設定するほど,必要養生期間は短くなるという. 点から合理的であったとも考えられる。. 結果が得られた。このことは,設計材齢を適切に設 定することで,養生期間の延長によらず品質確保が. 6. まとめ. 可能となることから,養生による品質確保と生産性 向上の両立が可能であることを示唆している。. 現行のコンクリート標準示方書における養生の位置付. (8) 評価深さが小さくなるほど,すなわち,凍害に対す. けに基づいて「セメントの水和解析に基づく養生計画立. る抵抗性等,コンクリート表面の品質が求められ場. 案手法」を提案した。本論文では,提案する手法の基本. 合ほど必要養生期間が長くなるという結果が得ら. 的な考え方および具体的な養生計画の立案方法を紹介し. れた。. た。さらに,各種条件における必要養生期間の算定事例 を示し,構造物条件,コンクリート条件および施工環境. 謝辞:本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金基盤. 条件に応じて養生計画を合理的に立案することができる. 研究(C) (研究代表者:福留和人,課題番号:26420445. ことを確認した。本論文を要約すると以下のようになる。. および 19K04563)の援助を受けて行ったものである。こ. (1) 提案する手法は,設計で設定したコンクリートの特. こに記して謝意を表する。. 性値を満足するために達成すべき目標の水和率を 設定し,水和解析によって求めたセメントの水和率 が目標の水和率に到達するように必要養生期間を. 参. 土 木 学 会:2017 年 制 定 コン クリー ト 標 準示 方書【 施 工 編】,. 2). 日本コンクリート工学会:コンクリート基本技術調査委員会養生. 3). 土木学会:コンクリート技術シリーズ 122,コンクリート構造物の. pp.124-128,2018.3. 算定することで,養生計画を立案するものである。 (2) 必要養生期間の算定にあたって,目標水和率を規定 する材齢(設計材齢),目標水和率を達成すべき材 齢(達成材齢)および表面からどの程度までの深さ. WG 報告書,コンクリートの養生の基本,pp.34-55,2017.12. 養生効果の定量的評価と各種養生技術に関する研究小委員会成果. の部分の水和率で評価するか(評価深さ)を基本条 件として適切に設定する。. 報告書,pp.136-167,2019.9 4). (3) 水和解析には,熱力学連成解析システム DuCOM for. V-122,pp.243-244,2017.9 5). 性は十分高いことを確認した。. pp.1305-1310,2018.7 6). 報告書,pp.180-184,2019.9 7). 福留和人,梶山優,齋藤淳:水和解析に基づく養生計画立案手法の. を算定した。その結果,環境温度 20℃,環境湿度. 低熱型ポルトランドセメントへの適用検討,コンクリート構造物の. 60%RH の平均的な環境条件で,必要養生期間が 7〜. 養生効果の定量的評価と各種養生技術に関するシンポジウム論文. 8 日程度と算定された。標準示方書で示されている 湿潤養生期間の標準の 5 日間より若干長い程度であ り,本手法の妥当性が確認された。 (5) 環境温度および環境湿度が低いほど必要養生期間 が長くなるという合理的な算定結果となったが,標 準示方書で示されている湿潤養生期間の標準の日 平均気温 5℃以上の期間より相当長期の養生が必要 であるという結果となった。 (6) 低熱型セメントや混合セメントを用いた場合,普通 ポルトランドセメントを用いた場合に比べて必要 養生期間が長くなるという合理的な結果が得られ. 46. 土木学会:コンクリート技術シリーズ 122,コンクリート構造物の 養生効果の定量的評価と各種養生技術に関する研究小委員会成果. (4) 一般的な環境下に建設される通常のコンクリート 構造物を想定して基本条件を設定し,必要養生期間. 大島美穂,福留和人,齋藤淳:コンクリート構造物の養生計画立案 手法に関する研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.40,No.1,. て予測精度を確認した結果,実用的な範囲では,精 度の高い評価が可能であり,提案する手法への適用. 大島美穂,福留和人,連亮也,齋藤淳:コンクリート構造物の養生 計画立案手法に関する研究,土木学会第 72 回年次学術講演会,. Structural Design を用いることとしている。湿潤養生 の影響を評価した既往の研究の実験データを用い. 考 文 献. 1). 集,土木学会,pp.201-206,2019.9 8). 土木学会:2017 年制定コンクリート標準示方書【設計編】,pp.38-53,. 9). 前川宏一,岸利治,R.P.Chaube,石田哲也:セメントの水和発熱・. 2018.3. 水分移動・細孔組織形成の相互連関に関するシステムダイナミクス, セメントコンクリートの反応モデル解析に関するシンポジウム論 文集,日本コンクリート工学協会,pp.45-52,1996 10) 石田哲也:微細空隙を有する固体の変形・損傷と物質・エネルギー の生成・移動に関する連成解析システム,東京大学学位論文,1999.3 11) 岸利治,前川宏一:ポルトランドセメントの複合水和発熱モデル, 土木学会論文集 No.526,Vol.29,pp.97-109,1995.11 12) DuCOMS CO.Ltd:DuCOM-SD ユーザーズマニュアル.

(13) 13) 冨田充宏,帯刀香乃,福留和人,山村准平,齋藤淳:各種養生工法 の水分供給保持性能がコンクリートの性能に及ぼす影響,令和 2 年度土木学会全国大会第 75 回年次学術講演会,V-53,2020.9 14) 山村准平,福留和人,帯刀香乃,齋藤淳:水和解析に基づく養生計 画立案手法の各種養生工法への適用検討,令和 2 年度土木学会全国 大会第 75 回年次学術講演会,V-54,2020.9. 会論文集 E2,Vol.68,No.1,pp.26-37,2012.2 17) 古川幸則,福留和人,庄野昭:コンクリートの浸水養生システム- 型枠取りはずし後の給水養生工法の実用化と効果-,コンクリート 工学,Vol.49,No.3,pp.21-28,2011.3 18) 福留和人,木下慶人,高田莉里,齋藤淳:セメントの水和解析に基 づく養生計画立案支援プログラムの開発,令和 2 年度土木学会全国. 15) 福留和人,山村准平,帯刀香乃,齋藤淳:各種養生工法の水分供給 保持性能がコンクリートの耐久性に及ぼす影響,コンクリート構造. 大会第 75 回年次学術講演会,V-268,2020.9 19) 高田莉里,福留和人,木下慶人,齋藤淳:各種要因が必要養生期間. 物の補修,補強,アップグレード論文報告集,第 20 巻,pp.89-94,. に及ぼす影響に関する研究,令和 2 年度土木学会全国大会第 75 回. 2020.10. 年次学術講演会,V-267,2020.9. 16) 福留和人,古川幸則,庄野昭:ポルトランドセメントを用いたコン クリートの強度発現に及ぼす湿潤養生条件の影響評価手法,土木学. (原稿受理年月日:2020 年 7 月 1 日). Planning Method of Curing Plan Based on Hydration Analysis of Cement By Kazuto Fukudome and Atsushi Saito Concrete Research and Technology, Vol.32, 2021. Synopsis: We proposed a "curing plan planning method based on hydration analysis of cement" based on the positioning of curing in the current standard specifications for concrete. In the proposed method, first, the target hydration rate to satisfy the characteristic values of concrete is set. Then, a curing plan is designed so that the hydration rate of the cement obtained by the hydration analysis reaches the target hydration rate. This paper introduces the basic concept of the proposed method and the method of planning a curing plan. Furthermore, it shows examples of curing plans for various portland cements. The feasibility of rationally formulating a curing plan according to the structural conditions, concrete conditions, and construction environment conditions was confirmed. Keywords: Curing,Curing plan,Hydration analysis,Target hydration rate,Required curing period. 47.

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