GIS を活用した千葉県における潜在的水害脆弱地域の抽出 -災害時要援護者と救助活動可能者の関係にも着目して-
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(2) 国際ICT利用研究学会論文誌 第3巻第1号 2019. ような地域では浸水に対するリスクを低減させるため工. れている用語であり,地形や地盤に関する情報を意味す. 学的適応による水害対策に基づき河川に沿って高い堤防. る。平野の地形は洪水時に形成されているため破堤,氾. が築かれることとなるが,これらの堤防が一度決壊をす. 濫があった場合,それぞれの地形を形成した時と同じ洪. ると近隣住民の生活に甚大な被害を与えることとなる。. 水の状態が見られるはずである [11]。したがって,平野. たとえば,2018 年 7 月に西日本を中心に猛威を振るっ. の地形分類から洪水のリスクを推定することが可能であ. た豪雨(いわゆる平成 30 年 7 月豪雨)では,全国で死. る。また,洪水に対する脆弱度を知るために,過去の土. 者 200 名以上,建物の全半壊および一部損壊 20,000 棟. 地利用から洪水に対する脆弱度の判読を行なう手法は地. 以上,床上・床下浸水 29,000 棟以上といった平成最悪. 理学分野における基本的知識の一つである。このような. と呼ばれるほどの大規模な水害を引き起こしたが,堤防. 情報を適切に活かすことができれば,浸水に伴う人的被. の決壊や越水も被害拡大の大きな要因となっていること. 害をある程度軽減をすることが可能であると考えられる. が知られている [6]。また 2015 年 9 月に関東地方や東北. [12]。. 地方などで猛威を振るった関東・東北豪雨では,もっと. 以上のことから,本研究では千葉県全域を研究対象地. も被害が大きかった常総市において堤防の決壊により市. 域(図 1)とし,水害に対して潜在的に脆弱な地域の抽. 2. の面積の 3 分の1に相当する約 40km が浸水し,死者. 出を試みることとした。対象とする地形は水害に対して. 2 名,建物の全半壊 5,000 棟以上,床上・床下浸水 3,000. 脆弱性が大きいことが知られている沖積低地である。ま. 棟以上といった被害を引き起こした [7]。さらに,2000. た,千葉県は東京大都市圏に含まれていることから多く. 年 9 月の東海豪雨では愛知県内の河川において 45 箇所. の沖積低地が市街地化されており,過去の土地利用が不. が破堤し,死者 7 名,建物の全半壊 100 棟以上,床上・. 明になっている地域も多い。特に,千葉県における水田. 床下浸水 68,000 棟以上の被害を引き起こした [8]。特に. の耕地面積中の面積は明治末期において全国平均よりも. 野並地区では野並ポンプ所が水没し,排水機能が麻痺し. 高かったことが知られているが [13],市街地の拡大に伴. たことによって著しい被害となったと指摘されている. い多くの水田が埋め立てにより消失している。水田は元. が,氾濫の著しい部分は,1960 年代後半まで水はけの. 来重力を利用して水を溜める施設であることから埋め立. 悪い広大な水田地帯で住家の存在しない地区であったこ. てられた後でもその土地は水が集まりやすい,すなわち. とがわかっている [9]。このように過去の水害被害を振. 水害リスクを抱えている土地であると考えられる [14]。. り返ると,いわゆる想定外の降水が発生した場合には従. また,埋め立てられた水田の跡地に市街地が形成される. 来までの工学的適応による水害対策では治水安全度向上. と,市街地の表面はアスファルトを代表とする不浸透面. のための十分な投資を行っているとは言えず,したがっ. で形成されることが多いことから,排水処理能力を超え. て浸水に対するリスクは浸水想定区域内に依然残された. る豪雨が発生した場合「過去は水田であり現在は市街地. ままであることがわかる。そのため,工学的適応による. となっている地域」では,大規模な水害が発生する可能. 水害対策のみならず上述した環境的適応による水害対策. 性がある。そこで本研究では,まず地形分類図を用いて. についても今後十分に考えていく必要がある。このこと. 研究対象地域の沖積低地の抽出を行うこととした。次. は,平成 27 年 9 月に発生した関東・東北豪雨を踏まえ. に,過去の土地利用情報と現在の土地利用情報を用いて. て平成 27 年 12 月 10 日に答申がなされた「大規模氾濫. 沖積低地における水田から市街地へと変化した地域(本. に対する減災のための治水対策のあり方について∼社会. 研究では以降,このような地域を潜在的水害脆弱地域と. 意識の変革による「水防災意識社会」の再構築に向けて. 記す。 )の抽出を行うこととした。さらに,水害の発生を. ∼」にて「施設の能力には限界があり,施設では防ぎき. 前提とした対策を立案するためには,避難時に補助を必. れない大洪水は必ず発生するものへと意識を変革し,社. 要とする住民,いわゆる災害時要援護者と救助活動を行. 会全体で洪水氾濫に備える必要がある。」[10] と記載さ. うことができる住民,いわゆる救助活動可能者の分布に. れていることからも明らかである。したがって,住民は. ついて知っておく必要がある。そこで,本研究では潜在. ますます自ら居住している地域の環境や土地条件につい. 的水害脆弱地域の抽出と千葉県における災害時要援護者. て理解する必要性に迫られている。ここで,土地条件と. および救助活動可能者の関係について総合的に考察し,. は国土地理院発行の 2 万 5 千分の1土地条件図で使わ. 将来想定される洪水発生時における対策立案に資する情. 12.
(3) GIS を活用した千葉県における潜在的水害脆弱地域の抽出 -災害時要援護者と救助活動可能者の関係にも着目して-. 地において既往最大の降水量が記録され,死者 6 名,床 上・床下浸水 6,000 棟以上という甚大な被害をもたらし たことを筆頭に [19], これまで水害の発生規模の大小 関わらず千葉県各地で河川の氾濫が発生している。. 研究方法. 3 3.1. 潜在的水害脆弱地域の抽出方法. 本研究では,まず千葉県における沖積低地の分布状況 を知るために国土交通省国土政策局国土情報課によって 提供されている 20 万分の 1 土地分類基本調査の地形分 類図(以下,20 万分の 1 地形分類図と記す。)から得ら 図 1 研究対象地域 (●は県内および周辺の代表的な駅名を示している). 表 1 関東地方における過去 10 年間(平成 20 年∼平成 29 年)の水 害被害(被害総額計,死者・行方不明者数,負傷者数). れる低地の分布情報を利用した(図 2)。なお,この地 形分類図は地理情報システム(以下,GIS と記す。)に て解析可能な形式(ベクタデータ)にて提供がなされて いる。また,この低地の分布情報は三角州性低地と自然 堤防・砂州・砂丘の 2 つに情報に分類することができる が,一般的に自然堤防や砂州,砂丘は低地の中でも比較 的標高が高く排水も良いことが知られており,三角州性 低地は平坦で排水が悪いことが知られている。洪水の常. ※水害統計調査より作成 (https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00600590&result_page=1). 報の提供を試みた。. 襲地域である沖積低地のうち,自然堤防のような周辺と 比べて比較的小高い微高地は以前からの居住者に占めら れているため,新たな住民が居住する場合は残されたよ り水害に対して脆弱な低平地を選択せざるを得ない状況. 2. 研究対象地域の概要. となっている [20]。そこで,本研究では低地の中でも特 に水害に対して脆弱な低平地である三角州性低地に着. 千葉県は,首都圏の東側に位置し太平洋に突き出た. 目し,過去の土地利用情報として旧版地図から作成され. 半島であり,2015 年度の国勢調査による県の総人口は. た土地利用図(図 3)を,現在の土地利用情報として国. 6,222,666 人である [15]。また,平成 27 年度の県内総生. 土数値情報から得られた土地利用図(図 4)を利用する. 産量は約 20 兆 2190 億円であり,日本の都道府県の中で. ことで潜在的水害脆弱地域の抽出を行なった。ここで旧. も 7 番目の経済規模を有している県でもある [16]。近年. 版地図とは,国土地理院が発行している新刊地図に対し. における千葉県の水害被害は,関東の中でも際立ってい. て,過去に刊行あるいは作成して絶版になった地図のこ. る訳ではない(表 1)。しかしながら千葉県における過. とである。本研究では過去の土地利用情報の取得に利用. 去に発生した水害を見てみると,たとえば 1910 年(明. した旧版地図として既往研究 [21] によって作成されて. 治 43 年)8 月に発生し,利根川沿岸のみならず印旛沼. おり,GIS にて解析が可能な状態(国土地理院発行の 5. や手賀沼流域の内陸部まで大規模な被害をもたらした水. 万分の 1 地形図からデジタイズを行うことで作成された. 害,いわゆる庚戌の大洪水(死者 79 名)[17] や,1947. ベクタデータ)となっている明治末期の土地利用情報を. 年(昭和 22 年)9 月に発生したカスリーン台風の影響. 用いることとした。なお,分類されている土地利用情報. によって死者 4 名,床上・床下浸水 900 棟以上の被害を. は畑,田,桑畑,茶畑,果樹園,草地,森林,竹林,荒. もたらした水害 [18] など,これまでに大規模な被害を受. 地,建物用地,内水面,海水域,干潟の 13 項目である。. けていることがわかる。近年においても,1996 年(平. また,現在の土地利用情報の取得に利用した国土数値. 成 8 年)9 月に発生した台風 17 号の影響により県内各. 情報とは,昭和 49 年の国土庁発足に伴って行なわれた. 13.
(4) 国際ICT利用研究学会論文誌 第3巻第1号 2019. されたものである [22]。本研究では,これらの数値デー タのうち,2014 年(平成 26 年)の土地利用細分メッ シュ(3 次メッシュ 1/10 細分区画,ベクタデータ)を用 いた。土地利用分類は田,その他農用地,森林,荒地,建 物用地,道路,鉄道,その他の用地,河川地および湖沼, 海浜,海水域,ゴルフ場の 12 項目である。また,後述 する通り災害時要援護者や救助活動可能者の関係評価に おいて 500m メッシュを用いているため,これらの土地 利用情報はそれにあわせて作成することとし,メッシュ 内の最頻値をそのメッシュの代表値として扱うこととし た。なお,本研究で扱っている地図情報は全て日本測地 系 2000(JGD2000: Japan Geodetic Datum 2000) に 図 2 千葉県全域の地形分類図(500m メッシュにリサンプリング) (20 万分の1土地分類基本調査・地形分類図より作成). 変換を行った上で作業を行っていること,土地利用区分 の「田」を「水田」に読み替えて処理していることを追 記する。. 3.2. 災害時要援護者数と救助活動可能者数の関係評価 方法. わが国における災害時要援護者は,1987 年に国土庁 の防災白書により災害弱者として取り上げられた。これ によると,災害弱者とは災害時に一連の行動に対して ハンディを負う人々と総称し, (1)自分の身に危険が差 し迫った場合,それを察知する能力が無い。又は困難。 (2)自分の身に危険が差し迫った場合,それを察知し 図 3.明治末期における千葉県全域の土地利用図 (500m メッシュにリサンプリング). ても救助者に伝えることができない。又は困難。(3)危 険を知らせる情報を受けることができない。又は困難。 (4)危険を知らせる情報が送られても,それに対して行 動することができない。又は困難。といった問題を持つ 人々のことを言う [23]。水害は他の災害と同様に,高齢 者が逃げ遅れる例が多くみられる。たとえば,2004 年 7 月の新潟豪雨では,死者 15 人のうち 60 歳以上が 14 人 に上った [24]。これは,独り暮らしや寝たきりの高齢者 も含まれており,災害時要援護者への対応が注目を集め た。また,2004 年から 2009 年までの豪雨災害による犠 牲者の特徴として高齢者に偏在していることも明らかに なっている [25]。そのため,本研究では上述した災害弱. 図 4.2014 年における千葉県全域の土地利用図 (500m メッシュにリサンプリング). 者の定義に当てはまる人々のうち特に高齢者に着目し, これを本研究における災害時要援護者とした。 本研究では,年齢による災害時要援護者の分布情報. 国土情報整備事業により整備された情報であり,土地利 用,自然条件,国土骨格などの情報を 2 万 5000 分の 1 地形図をベースとして位置計測が行われ,数値データ化. を得るために 2015 年の国勢調査 4 次メッシュ(500m メッシュ)を用いることとした。ここで国勢調査とは調. 14.
(5) GIS を活用した千葉県における潜在的水害脆弱地域の抽出 -災害時要援護者と救助活動可能者の関係にも着目して-. 査時に外国人を含む日本に居住するすべての人を対象と. 表 2 2 時期(明治末期および 2014 年)の土地利用変化 (数値はピクセル数を示す). し,人口や世帯に関し,男女,年齢,国籍,就業状態, 仕事の種類,世帯員の数などを調べる国の最も基本的 で,規模の大きな 5 年毎に行う調査である [26]。しかし ながら,国勢調査 4 次メッシュは一定規模以下の人数と なっているメッシュには秘匿措置がなされており(人口 総数,世帯総数など一部の情報については秘匿措置が行 われていない),合算先のメッシュの数値に足し上げら. れるため [29],これらの荒地は主に入会地としての茅場. れている。そこで,本研究では秘匿措置がなされている. と考えられる。. 各メッシュの人口総数とその人口総数の合計値,65 歳. しかしながら 2014 年には東京に隣接した北西部にお. 以上の人数(合算先のメッシュにのみ入力されている数. いて,東京大都市圏の拡大が要因と考えられる建物用地. 値)を用いて按分計算を行い一定規模以下の人数となっ. の増加を明瞭に確認することができ,さらにその建物用. ているメッシュの情報を推定した。なお,本研究におけ. 地の増加は南部にまで至っている様子が見て取れる。こ. る災害時要援護者の年齢層は国勢調査 4 次メッシュから. こで,表 2 に GIS を用いた解析によって得られた 2 時. 判断可能な 65 歳以上および 75 歳以上とした。また,災. 期(明治末期および 2014 年)の土地利用変化について. 害対策の観点からは,消防機関や防災関係機関の体制整. 示す。これによると,多くの土地利用が建物用地へと変. 備の必要性は言うまでもないが,阪神・淡路大震災の時. 化している様子を見ることができる。特に,本研究で対. の近隣住民の相互協力が力を発揮したように,地域住民. 象としている水田においては干潟,建物用地,果樹園,. が連携し,地域ぐるみの防災体制を確立することも重要. 畑および竹林に次いで 22.9 %が建物用地に変化してい. である [27]。本研究では若年者は災害発生時において正. ることがわかるが,ピクセル数を見てみると森林に次い. しい判断を行うことが困難であると考え,国勢調査 4 次. で多くの田が建物用地に変化している様子が見て取れ. メッシュから判断可能な 0−14 歳を除く 15 歳 −64 歳を. る。これは,前述した通り東京大都市圏の拡大に伴う劇. 救助活動可能者数として考察を行うこととした。なお,. 的な土地利用改変が大きな要因であると考えられる。. 年齢による災害時要援護者,救助活動可能者は個人差が 存在するため定義は便宜的なものである。. 次に,潜在的水害脆弱地域を図 5 に各地域(市および 郡)における潜在的水害脆弱地域の面積および割合を表. 次に,上述した方法で得られた災害時要援護者数と救. 3 に示す。これによると,上述した通り県北西部および. 助活動可能者数の関係の面的な評価手法として本研究で. 県西部,すなわち東京大都市圏の拡大に伴う建物用地の. は年齢逆転指数を用いることとした。ここで年齢逆転指. 増加の影響を受けたと考えられる地域(たとえば,市川. 数とは,メッシュごとの災害時要援護者数と救助活動可. 市や松戸市,流山市,浦安市など)に潜在的水害脆弱地. 能者数の比であり,1 を上回ると災害時要援護者数が救. 域が広がっている様子が見て取れ,市の面積に対する割. 助活動可能者数を超えたと判断することができる。. 合も極めて高いことがわかる。しかしながら,東京大都 市圏の拡大に直接的に関係を持たないと考えられる東部. 4. 結果および考察. にも潜在的水害脆弱地域が点在している様子が見て取 れる。. 先に示した図 3 および図 4 の土地利用図を見てみる と,明治末期では千葉県内における多くの地域にて水田 や森林が広がる一方,建物用地の占める割合は極めて少 ないことがわかる。また,県南部には荒地が広がってい る様子も見て取れるが,5 万分の 1 地形図における荒地 は「野草か低い木が生えている土地または裸地」と定義. これらの地域は「長生・山武・夷隅地域」 「成田周辺地 域」として知られており,長生・山武地域は水稲やネギ, メロンやトマトなどのハウス栽培が,夷隅地域は水稲や タケノコなどの生産が,成田周辺地域(印旛・香取・海 匝地域)ではスイカやサツマイモ,キャベツの栽培,水 稲などが盛んに行われていることが知られている。その. がなされており [28],入会地もこれに含まれると考えら. 15.
(6) 国際ICT利用研究学会論文誌 第3巻第1号 2019. と救助活動可能者数との関係は可能最大値であり,絶対 的な値ではないことに注意しなければならない。そのた め,住民は身近な災害時要援護者の状況について常に注 意し,有事の際に備えた地域ぐるみの防災活動を促進し ていく必要がある。. 5. おわりに 本研究では千葉県全域を研究対象地域とし,まず 20. 万分の1土地分類基本調査の地形分類図から得られた 三角州性低地の分布情報,明治末期および 2014 年の土 図 5.千葉県における潜在的水害脆弱地域の分布. 地利用情報を用いて,特に「過去は水田であり現在は市 街地となっている地域」を潜在的水害脆弱地域と定義し. 表 3 各地域(市および郡)における 潜在的水害脆弱地域の面積および割合. GIS を用いて抽出を行なった。その結果,東京大都市圏 の拡大に伴う土地利用変化が著しい千葉県北西部のみな らず,千葉県東部や南部にも潜在的水害脆弱地域が点在 している様子を見てとることができた。また,それらの 地域における災害時要援護者数と救助活動可能者数との 関係においては,現在のところその数が逆転している地 域,すなわち災害時要援護者数が救助活動可能者数を上. 一方で長生・山武・夷隅地域は先端技術産業とスポーツ・ 健康志向レジャー産業が集積する地域,成田周辺地域は 空港関連産業・国際物流・新ロジスティック産業が集積 する地域としての側面も持っている [30]。これらの地域 は東京大都市圏に生活する住民の食生活や住生活,ある いは娯楽と密接な関係があるため,アクセスの良い都市 圏近郊にて発展したものと考えられるが,これらの地域 の商工業としての役割は東京大都市圏が拡大するととも に増大することが容易に考えられるため,これに伴う建 物用地の増加,すなわち潜在的水害脆弱地の増加が懸念 される。 最後に,図 6 に千葉県における災害時要援護者数と救 助活動可能者数の関係(年齢逆転指数の分布)を示す。 これによると,多くの地域で災害時要援護者と救助活動 可能者の人口に逆転現象が起こっておらず,65 歳以上, あるいは 75 歳以上を災害時要援護者としたどちらの場 合であっても災害時要援護者 1 名に対して 1 名以上の 救助活動可能者数を確保することが可能である様子が伺 える。特に前述,あるいは図 5 に示した通り潜在的水害 脆弱地域が広がっている地域(県北西部および県西部) においては十分な救助活動可能者数(災害時要援護者 1 名に対して 1 名以上)がいることがわかる。しかしな がら,本研究手法で示すことができた災害時要援護者数. 回っている地域は極めて少なく,災害時要援護者 1 名に 対して 1 名以上は確保できる様子を確認することがで きた。しかしながら,本研究では以下のような課題も残 されている。まず,本研究では 20 万分の 1 地形分類図 を用いて沖積低地や三角州性低地の分布情報を得ている が,より詳細な潜在的水害脆弱地域を推定するためには 精度の高い 5 万分の 1 都道府県土地分類基本調査より 得ることが可能な地形分類図(国土交通省国土政策局国 土情報課によって提供。以下,5 万分の 1 地形分類図と 記す。)を用いることが望ましい。しかしながら,20 万 分の 1 地形分類図とは異なり,5 万分の 1 地形分類図は 一部の図幅を除いて GIS にて解析可能な形式での提供 がなされていない。そのため,今後は千葉県全域の 5 万 分の 1 地形分類図を GIS にて解析可能な形式へ変換し, 今後の解析に活用していく予定である。また,本研究で は潜在的水害脆弱地域の分布を図化し考察を行なった が,これらの地域における水害対策についての考察は行 なっていない。たとえば,本研究において潜在的水害脆 弱地域が広く分布していた市川市においては防災関係機 関や災害時協定事業者などが参加のもとで積極的な総合 防災訓練やボランティア団体による PR や啓発が行われ ている [31]。これらの開催頻度や住民の防災への意識な. 16.
(7) GIS を活用した千葉県における潜在的水害脆弱地域の抽出 -災害時要援護者と救助活動可能者の関係にも着目して-. 謝辞 本論文を作成するにあたり,匿名の査読者の方々から 大変有用な御意見を頂いた。ここに記して謝意を表す。. 参考文献 [1] 国土交通省河川局治水課,洪水ハザードマップ作成の手 引き,. http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/05/050705 _2/04.pdf,(2018-9-12 参照). [2] 総務省東北管区行政評価局,洪水ハザードマップの作成 等支援対策に関する行政評価・監視,. http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/hyou ka_kansi_n/pdf/saikin_071023_1.pdf,(2018-9-12 参照).. [3] 国土交通省水管理・国土保全局,水防法等の一部を改正 する法律の施行について,. http://www.mlit.go.jp/common/001189346.pdf, (2018-9-12 参照). [4] 上野鉄男(2002)治水事業をめぐる諸問題とこれからの 治水の課題と展望.京都大学防災研究所年報,45,1−16. [5] 国土交通省,治水・利水等の必要性とダム事業の役割、 効果,. 図 6.千葉県の年齢逆転指数分布(上図:65. http://www.mlit.go.jp/river/dam/main/shinngik ai/kondankai/dam/pdf2/01-16.pdf, (2018-9-20 参照). [6] 非常災害対策本部,平成 30 年 7 月豪雨による被害状況 歳以上,下図 75 歳以上). どによって,潜在的水害脆弱地域の割合が高い地域にお いても有事の際の被害状況は大きく変わっていくものと 考えられる。今後はこれらについても調査しながら,総. 等について,. http://www.bousai.go.jp/updates/h30typhoon7/p df/300905_1700_h30typhoon7.pdf, (2018-8-15 参照). [7] 常総市水害対策検証委員会,平成 27 年常総市鬼怒川水. 合的に地域における潜在的水害脆弱地域の危険性につい. 害対応に関する検証報告書,. http://www.city.joso.lg.jp/ikkrwebBrowse/mater ial/files/group/6/kensyou_houkokusyo.pdf, (2018-8-15 参照).. て論じることが必要であると考えられる。さらに,本研 究にて推定した潜在的水害脆弱地域について過去の水害 記録と比較を行うまでには至っていない。そのため,今 後は過去の水害記録について精査し,潜在的水害脆弱地 域との関係について検証を行っていく予定である。 わが国は世界に先駆けた超高齢社会へと突入してい る。そのため,多世代混住型の地域社会の構築なしで は,市街地の拡大はもはや不可能となっている。災害時 において,自己完結型の防災計画から,災害時要援護者 の所在情報を地域に対して開示し,地域全体で災害に立 ち向かうという地域完結型のコミュニティーを形成して いくことが地域防災計画に必要となってくると考えら. [8] 愛知県,過去の水害・浸水実績, https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kasen/kakosuigai.html,(2018-8-15 参照). [9] 海津正倫(2003)2000 年 9 月東海豪雨野並地区水害の 微地形学的検討.名古屋大学文学部研究論集・史学,49, 71−80. [10] 社会資本整備審議会,大規模氾濫に対する減災のための 治水対策のあり方について − 社会意識の変革による「水 防災意識社会」の再構築に向けて −, http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/sh aseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/daikibohanra n/pdf/1512_02_toushinhonbun.pdf,(2018-9-20. れ,本研究の結果がその一助となれば幸いである。. 参照).. 17.
(8) 国際ICT利用研究学会論文誌 第3巻第1号 2019. [11] 大矢雅彦・丸山裕一・海津正倫・春山成子・平井幸弘・熊 木洋太・長澤良太・杉浦正美・久保純子・岩橋純子(1998) 地形分類図の読み方・作り方.古今書院,118pp. [12] 片田敏孝・児玉真(2002)2000 年東海豪雨災害における. iples/principles.html,(2018-10-10 参照). [28] 日本国際地図学会編(1991)地形図図式の手引き.日本 地図センター,56pp. [29] 原田一平・松村朋子・原慶太郎・近藤昭彦(2011)近代. 家財被害の実態と被害軽減行動に関する研究.水工学論 文集,46,313−318.. [13] 大槻功(1974)明治末?大正期における千葉県農業の展開 過程.土地制度史学,62,36−68. [14] 中口幸太・小森大輔・井上亮・風間聡(2018)大阪市に おける内水氾濫頻発区域の分布とその特性.水文・水資 源学会誌,31(1),9−16.. 化の過程における日本の森林変遷に関する空間解析.景 観生態学,16(1),17−32. [30] 千葉県,千葉県の産業, https://www.pref.chiba.lg.jp/kouhou/profile/sang you.html,(2018-10-10 参照). [31] 市川市,市川市の災害対策, http://www.city.ichikawa.lg.jp/gen06/1521000001.html, (2018-10-25 参照) .. [15] 千葉県総合企画部統計課,平成 27 年国勢調査 -人口等基 本集計結果の概要 (千葉県版)-, https://www.pref.chiba.lg.jp/toukei/toukeidat 著者紹介 a/kokuseichousa/documents/27kokucyo-gaiyou.pdf, 白木 洋平 (2018-8-20 参照). 2008 年千葉大学大学院自然科学研究科修了。博士(理 [16] 内閣府経済社会総合研究所,平成 27 年度県民経済計算 について,. http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_li st/kenmin/files/contents/pdf/gaiyou.pdf, (2018-8-20 参照). [17] 千葉県,防災誌「風水害との闘い」, https://www.pref.chiba.lg.jp/bousai/bousaishi /documents/zenbun_2.pdf,(2018-9-14 参照). [18] 国土交通省関東地方整備局,カスリーン台風の被害, http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_ bousai00000006.html,(2018-9-14 参照). [19] 千葉県,平成 8 年県政 10 大ニュース, https://www.pref.chiba.lg.jp/kouhou/houdou/new s/h8.html,(2018-9-20 参照). [20] 岸井徳雄(2001)平成 10 年 8 月末豪雨による阿武隈川 の洪水災害について.北関東・南東北地方 1998 年 8 月 26 日∼31 日豪雨災害調査報告,91−105. [21] 在奎・中井正一・石田理永・児玉大輔(2006)微地形分 類に基づく千葉県の表層地盤震動特性に関する研究.日 本建築学会技術報告集,23,507−511.. 学)。総合地球環境学研究所プロジェクト研究員,立正 大学地球環境科学部助教,立正大学地球環境科学部講 師を経て,2016 年より立正大学地球環境科学部准教授。 リモートセンシングや地理情報システムを活用した環境 動態解析の研究に従事。国際 ICT 利用研究学会会員。 秋山 萌江. 2018 年立正大学地球環境科学部環境システム学科卒業。 在学中はリモートセンシングや地理情報システムを利用 した防災研究に従事。 近藤 昭彦. 1985 年筑波大学大学院地球科学研究科修了(理学博士)。 東京都立大学理学部地理学教室助手,筑波大学地球科学 系講師を経て,1995 年より千葉大学環境リモートセン シング研究センター助教授,2004 年より同教授。専門 は地理学・水文学。. [22] 国土交通省国土政策局国土情報課,国土数値情報ダウン ロードサービス,. http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/,(2018-10-5 参照). [23] 国土庁(1987)防災白書.国立印刷局,395pp. [24] 牛山素行(2005)2004 年台風 23 号による人的被害の特 徴.自然災害科学,24(3),257−266. [25] 牛山素行・高柳夕芳(2010)2004?2009 年の豪雨災害に よる死者・行方不明者の特徴.自然災害科学,29(3), 355−363. [26] 総務省統計局,国勢調査, http://www.stat.go.jp/data/kokusei/index.htm, (2018-9-12 参照). [27] 内閣府防災情報のページ,南関東地域直下の地震対策に 関する大綱,. http://www.bousai.go.jp/jishin/shinsai/princ. 18.
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