1.問題の所在並びに研究目的 本研究は通常学級において特別なニーズを有する子ども たちの支援にあたる特別支援教育支援員の日々の実践をエ ピソードで記述し,支援の背景にある意味や当事者の思いを 検討する。それにより支援員の実践が対象児の自立や問題解 決行動にどのような意味を持つのか,実践の特徴とその意義 を明らかにすることを目的とする。 1-1.支援を必要とする子どもたちの現状 学校生活を送る上でニーズを有する子どもたちに関して, 文部科学省(2012)が公表した「通常の学級に在籍する発達 障害の可能性のある特別な教育支援を必要とする児童生徒 に関する調査」によると,小・中学校で通常学級に在籍する 学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒は現在推 定で6.5%いるとされている。しかし,その後実施された補 足調査では82.7%の小学校教員,76.6%の中学校教員が,「困 難を抱える児童生徒割合は調査結果が示す6.5%よりも多い」 と回答した(文部科学省,2016)。通級指導を受けている児 童生徒数は2006 年度の調査時,公立小学校で6,228 人,中 学校で666 人であったが,7 年後に実施された2013 年度の 調査ではその数は5倍近く上昇し,公立小学校で28,570人, 中学校で4,831 人となった。 この2つの結果が示すのは通常学級において生活する上 で何らかの支援を必要としている子どもが相当数存在する ということと,ニーズを有する児童生徒が年々増加傾向にあ るということである。さらに,こうした児童以外にも実際に 診断は受けていないが学校生活において困難を抱えている 子どもや,他の子どもたちと共に生活をすることに難しさが あるが特別支援学級や通級指導を受けるほどではない,とし て通常学級に在籍する子どもたちも多く存在している(伊藤 ら,2015)。こうした子どもたち一人ひとりのニーズに的確 に応えるために,教員だけではなく,子どもたちの学びを支 える特別支援教育支援員やスクールカウンセラーなど,多様 なアクターが各々の専門性を活かし子どもたちの指導や支 援にあたっていくことが重要となっている。 1-2.「特別支援教育支援員」の役割と課題 本稿はこうした「通常の学級に在籍する発達障害の可能性 のある特別な教育支援を必要とする児童生徒」の増加や,そ うした子どもたちへの支援ニーズの高まりを踏まえ,通常学 級でニーズを有する子どもたちの支援を行う特別支援教育 支援員に着目する。特別支援教育支援員(以下,支援員と表 記)は発達障害を含む様々な障害のある児童生徒に対する学 校生活上の介助や学習活動の支援をすることを目的として 2007 年に文部科学省によって設置されたもので,これによ って児童生徒は必要に応じて個別の支援を求められるよう になった。支援員は日常生活の介助や学習支援,学習活動, 学校行事における介助に加えて,健康・安全管理や他の児童 生徒の障害児理解促進も求められており,2011 年の段階で は小・中学校に36,512 名の支援員が配置され,子どもたち の生活や学習の支援にあたっている(文部科学省,2011)。 これらの支援員にはニーズを有する子ども一人ひとりが抱 えている生きづらさを理解し,担任教諭などと連携をとりな がら学校生活を支援していくことが求められている。 しかし,こうした重要な役割が期待される支援員ではある
通常学級における特別支援教育支援員の実践
―エピソード記述法を用いて―
小田 郁予(東京大学大学院) 本稿は通常学級でニーズを有する子どもの支援にあたる「特別支援教育支援員」の実践をエピソードで記述し, 支援員の実践が対象児の自立や問題解決行動をいかに支援し,それが子どもたちの自立にどのような意味を持つ のか,実践の特徴とその意義を明らかにすることを目的とする。公立小学校1 年の通常学級に在籍する男児 2 名 に対する支援を1 年間観察し事例を描写し,エピソード記述によって分析した。その結果,学級の他児らとの関 係や学級規範など通常学級の環境を活かし,子どもの特性や思いを尊重した支援により対象児らの主体的な問題 解決を促していることを明らかにした。対象児-環境―支援員の相互作用を活かした支援は対象児が置かれた状 況の中で自分の行為可能性を判断し行動する経験を促し,他者と共に生きる上での学びの経験を提供する支援で あった。本稿は通常学級における支援実践の特徴と子どもの自立支援の意味について再考する視座を提供する。 キーワード: 特別支援教育支援員 エピソード記述 障害理解 自立支援 通常学級における支援 教師学研究23(1).1-10,2020 原著論文が,支援員は特別支援学校教諭や特別支援学級の担任などと は異なり養成課程や資格要件などが規定されているわけで はない。さらに採用に関しても都道府県や自治体ごとにその 採用や運用の仕方,研修や業務支援制度が異なっており,支 援員の職務内容や責任に関する理解が浸透しているとは言 い難い現状がある。支援員制度導入に際しては支援員と現場 教員との連携促進,人材の有効活用に向け「特別支援教育支 援員活用のために」とするガイドラインが文科省より発行さ れており,支援員の職務内容や研修,効果的活用にあたって の留意点,学校現場での活用例が示されている(文科省, 2007)。自治体レベルでも同様に制度の理解向上や連携促進 を図るためにガイドラインを示す動きがあるが支援員の具 体的な職務内容や支援の在り方,責任の範囲など不明な点は 多く,現場の不安は解消しきれていない現状がある。こうし た課題の側面に着目した研究の中では「自立を見据えた支援」 や,「他児の障害児理解」「職員間連携」などといった曖昧な 目標に困難を抱く現場支援員の声が挙げられ,具体的な対応 の仕方や職務内容に関する研修を欲していることが示され た(武田ら,2011;小方,2014)。また,支援員対象の研修 に関しては,その研修機会に制限があることや,研修内容と 現場実践との乖離に支援員が悩みを抱えていることが明ら かにされている(大志田,2016)。これらの知見は研修にお いて現場実践で活用可能で且つ具体的な支援方法を知りた いといった思いを抱いている現場の支援員が少なくないこ とを示している(細谷・北村・五十嵐,2014)。 1-3.「特別支援教育支援員」をめぐるこれまでの研究動向並 びに本研究が示す解決策 こうした支援員に関する研究は大きく2つに分けること ができる。1つは質問紙調査やインタビュー調査による実態 調査から支援員活用の課題を析出するもので,もう一方は, フィールド調査や参与観察によって得られる具体的な実践 内容や連携の在り方から支援実践の課題や効果を示すもの のである。前者は質問紙調査やインタビューの内容をKJ 法 やグラウンデッド・セオリー・アプローチなどを用いてカテ ゴリー分析し,その結果から実践の特徴や課題を導き出し支 援員の活用実態や職務内容,課題や困難などを明らかにして いる。これらは学校での支援体制構築や支援をめぐる研修の 在り方を再考する契機となるものとして位置づけられてき た(細谷ら, 2014;岩永ら,2017)。そして後者はフィール ド調査を通し,支援の様子や実際の現場における実践改善に 向けた取り組み,またその効果を検証し,現場で活用可能で 且つ効果的な実践を共有するものとして位置付けられてき た。たとえば,黒住(2016)は,支援記録を介した支援員間 のミーティングに着目し,意見交換により包括的な子ども理 解や効果的実践が生まれることを明らかにした。支援員間で 情報や支援実践を共有することによって支援方法に関する 視野が拡大されたり,自分の持つ子どもの情報が他者により 補完されたりすることでより深い子ども理解に繋がること を明らかにしている。こうした支援員の支援記録自体を分析 対象にカテゴリー分析によって支援実践が子どもの学びに いかに貢献しうるかを検討したものもある(本田, 2014)。 参与観察を通して支援の在り方を検討した研究には打越・丸 山(2014)があり,この研究では支援員と対象児との相互作 用や子どもの変化が検討されている。その結果支援対象児の 完全受容により欲求を満たすことが子どもの主体性,自律性, 創造性の基盤となることを明らかにしている。 これらの研究は支援員の置かれている社会的文脈の中で 彼らの職務内容や同僚間連携について理解することを助け るもので,具体的な職務内容が見えず不安を持つ現場実践者 らの要請に応える重要な研究知見を提出している。しかし, その視点が支援対象児に対する具体的な支援方法や支援員 の役割のように支援員から対象児への働きかけや子どもの 変化に焦点が向けられる傾向にある。子どもたちの行動や変 化の背景にはそれまでの支援の経過や他者との関係性など, 様々な要因が相互に関連する。そのため通常学級においてニ ーズを有する子どもたちへの支援を検討する際には,学級の 他児らや担任教師など,本人と周りの環境との相互作用を捉 えていくことが重要となる(柘植,2013)。本研究はこの点 を検討するために「支援対象児-支援員」の関係を超え,広 く子どもが置かれている環境全体を射程に入れ,その中で起 きる多様な相互作用を観察する。彼らと生活文脈や経験を共 有する中で個別の事例中に見られた支援員の具体的な支援 や支援の背景,子どもたちの経験について具体的なエピソー ドを記述する。対象児,支援員や彼らを取り巻く多様な他者 と同じ時間や空間を共有しながら観察を行う関与観察によ って支援実践の背景や当事者の思いを検討し,対象児になさ れる支援が彼らの自立や問題解決行動にどのような意味を 持つのか,支援実践の特徴と意義を探究する。 2.方法 2-1.フィールドエントリー 北関東圏内にある公立みどり小学校(以下個人名を含めて 全て仮名)を研究対象とした。フィールドとなった小学校へ のエントリーは,元々筆者が「教師の学びあい,協働が見ら れる学校」として市教育委員会から紹介を受け,学習支援ボ ランティアとしての活動を継続する中で実現した。 調査内容に関しては,調査開始前に校長,教頭,教務主任 に対して研究概要の説明を行った上で,終日の児童と教師の
やり取りに関する筆記記録(フィールドノーツ),1 日 1 授 業時間のビデオ録画記録,長期休業中の教職員対象のインタ ビューの3 点を許可された。調査の開始にあたり,教職員に 対し収集したデータを研究成果として公開させてもらうこ と,その際,児童,教師のプライバシー保護に努めることを 書面にて伝えインフォームドコンセントを得た。全校児童の 保護者に対しては研究概要ならびにみどり小学校における 児童とのかかわり方を書面にて提示し,観察対象児の保護者 には別途口頭説明によりインフォームドコンセントを得た 後,書面にて承諾を得た。観察は朝の登校指導から授業,給 食や清掃活動など,日中の様々な活動に児童らと共に参加す る形で行った。 2.-2. 研究対象 対象校:公立みどり小学校 研究対象となるみどり小学校は,北関東圏内に位置する公 立小学校で,教職員22 名,児童数228 名,6 学年10 学級, 特別支援学級2 学級から成る。本研究は筆者が学習支援ボラ ンティアとして年間を通して支援に入った1 年 2 組(男子 11 名,女子 10 名,担任教諭 20 代男性)に在籍する男児 2 名とその支援にあたる支援員の小桜和香先生を観察焦点化 対象とする。1 年生を対象とするのは,園生活から学校生活 に移行し,集団での生活の幅の広がりに加えて学習活動への 適応も求められる中で支援が重要な役割を担うためであり, 学校生活の早期から子どもたちの発達段階に応じた規範の 醸成や支援を一貫して行っていく事がその後の学校生活に おいても重要となるためである。 対象児1:飯塚太一君 太一君は幼稚園の年長にあたる年度の途中に母親と2人 で市内に転居してきた。そのため卒園時に転入後の園での在 籍期間が短く,太一くんの生活の様子に関しての引継ぎが園 から特になされない状態で新学期が始まった。発達障害など の診断を受けているわけではないものの,就学前健康診断や 入学式当日,会場や体育館から飛び出している。式典中や授 業中など,会場内や教室を動き回る多動性があるほか,教室 で突然歌を歌いだしたり,授業中突然黒板にチョークで何か を書こうとしたり,大きな声を出したりする衝動性も見られ る。しかし衝動性はあっても攻撃性はなく,友達との意見が 食い違って興奮状態にある時や衝動的に動き回っている時 でも他者に攻撃的にふるまうことはない。初めて経験するこ とや普段と様子が違うことに対しては敏感で,少しの違いで あっても新しいことに適応することを苦手とする。 対象児2:橋本玲一君 玲一君は入学前に既に注意欠陥・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断を受けている。3 歳年上の 姉と一緒に学童野球に所属しており,活発で性格も明るい。 授業中時々教室後方を歩いたり,別の児童が離席をするとつ られて席を離れたり,みんなの前で踊ったりすることがある。 しかし担任教師に一対一で話しをされると自分の席に戻っ たり,話すのをやめたりし,その場の状況や問題を理解して 行動することができる。日頃から周りの友人や担任,支援員 など大人の動きをよく見ており,何かいつもとは違うことが あるとそれを指摘したり,不公平だと思うことには抗議した りする。特に公平性には敏感で,楽しく遊んでいても理不尽 なことには強く反応し,泣きながらそれを言葉で抗議するこ ともある。周りの状況に過敏に反応し興奮気味になることも あるが,その場合理路整然と何が不公平だと感じているか, 言葉で的確に相手に説明することが出来る。 支援員:小桜和香先生 和香先生は支援員歴16 年,みどり小学校での勤務歴9 年 の経験を持つ50 代の支援員で,これまで市内近隣の学校3 校で勤務経験がある。毎年支援に入るクラス全体の子どもた ちの学習や生活の支援にあたりつつニーズを有する児童3, 4名の支援を担当してきた。みどり小学校の在籍期間が教職 員の中で最も長くみどり小学校の教育活動の流れや学区内 の子どもたちの特性や家庭環境を熟知している。支援員とし ての複数校での勤務経験から豊富な知識をもつことに加え, 休暇や勤務時間後の時間を利用して公開セミナーや研究会 を受講したり,自己研鑽のため遠方で行われている研修にも 参加したりしている。自分自身の研鑽だけでなく,若手の支 援員に書籍やセミナーなど学びの機会を紹介し,若手育成に も尽力している。日ごろから「否定するのではなくて,良さ を伸ばす支援,支援する側もされる側も『楽しい』かかわり 方を大切にしている」,と語り,支援にあたる子どもの得意 なことや好きなことを尊重し育む支援を行っている。また, 子どものよりよい支援につなげるため,教員との連携を重視 し,ちょっとした変化やその時の子どもの動きや発言など, 些細なことであっても子どもに関して気づいたことや感じ たことを担任教師や他の教職員に伝え,同僚間で情報が行き かう環境を作っている。 普段は教室全体が見渡せる少し離れたところから子ども たちを見守り,個々の子どもたちの得意,不得意や生活のリ ズムなどを考慮し,子どもたちが自分で考えて行動できるよ うな声掛けを行っている。普段はにこやかにゆったりとした 口調で児童に話しかけるが,時に厳しく,するどい指導も行 う。豊富な経験や自己研鑽,子どもたちに対する思いから生 まれる支援に担任教師や管理職も信頼を寄せている。 2-3.データ収集 1年2組に在籍し通常学級での生活においてニーズを有す
る 2 名の男児と彼らの支援にあたる支援員の和香先生との やりとりを中心に以下の3 段階でデータ収集を行った。 第1に201X 年 4 月より 1 年間,週 1 回平均 9 時間の関 与観察を37 回行い,和香先生や担任教師,対象児 2 名との やり取りや教室での観察内容をフィールドノーツに記録し た。フィールドノーツの教師名,児童名は全て仮名で記入し, 終日の観察内容は教室内で起きた出来事を中心に時系列に 記録した。特に対象児らが落ち着きのなさを見せたり,困り 感を表出したりした時や,トラブルが生じた時の和香先生の 対応に焦点化し,支援員や担任教師らの働きかけ,学級の他 児との関係の中で対象児がどう反応し行動したかを記録し た。学校内で見聞きし感じた点に関して観察中に廊下や職員 室の自席で簡単なメモを取り,帰宅後にメモと筆者の記憶を たどりながらフィールドノーツへとまとめた。各フィールド ノーツには日付のタグをつけ,繰り返し子どもたちや担任教 師,支援員の指導の流れを時系列に振り返ることができるよ うにしたほか,フィールドノーツに記載した事例ごとに「徹 底した危機管理」のようにその場で筆者が一番強く感じたこ とを表すタイトルを付し,別の事例で見られた類似のエピソ ードとの比較ができるようにした。 第2 に実践中に筆者自身が和香先生や他の教職員に支援 方法について尋ねた内容や,担任教師らに指導や支援の意図 を尋ね感じたことを観察日記として別途記載した。具体的に は教師や支援員の実践や子どもの様子を見て感じたことを 中心に記述したほか,フィールドノーツを記述する過程で生 じた違和感や筆者が教職員から頂いた助言など,感じたこと を記録した。 第3 にこれらのフィールドノーツや観察日記をエピソー ドごとにまとめなおしたものを和香先生に示し,実践を一緒 に振り返りながらその時の実践の意図やその背景にある自 身の教育理念,それに至る経験を語ってもらうインタビュー を行った。インタビューのやり取りは許可を得た上でボイス レコーダーにて録音し,全発話を逐語化した。 2-4.分析方法ならびに手順 支援の背景や当事者の思いを検討することにより支援員 の実践が対象児の自立や問題解決行動にどのような意味を 持つのか,実践の特徴とその意義を明らかにするため,本研 究ではエピソード記述法を採用した。エピソード記述は,研 究者自身が一人の生きる人間としてその場に関わり,人と人 の接面において間主観的に把握した対象者の体験をその背 景や時間の流れと共に記述し,人が人と共に生きることの意 味を探る(鯨岡, 2013)。まず研究者が感受した対象者の情動 や事象の意味を反省的に振り返りエピソードとして記述し, 次にその事象が対象者にとってどのような意味を持つのか, なぜその事象が見られたかを分析し,より広い文脈に位置づ けることによってメタ意味を明らかにしていく(鯨岡, 2005)。これによって相手の行動を変える働きかけや変化し た行動だけではなく,当事者にとっての当該事象の意味を明 らかにしていくことができる。人とのかかわりあいの中で生 きる子どもや実践者,双方にとって支援とは何で,成長する とはどういうことなのか,当事者にとっての意味を明らかに することが可能となる。これは日々の支援実践の特徴と,子 どもの自立や問題解決行動にとっての支援の意味を明らか にしようとする本研究の目的と合致する。よって本研究は鯨 岡(2005, 2013)を参照し,筆者が関与観察者として捉えた 事象を以下の手順で論じる。 【背景】対象児と支援員が置かれている環境や彼らが生活し ている背景文脈を記述する。エピソードで提示する事例の意 味を読者と共有する為に,支援員の実践や対象児の行動がど のような空間や時間の流れの中で生じているかを記述する。 【エピソード】フィールドノーツならびに観察日記を元に, 対象児-支援員間の相互作用場面において筆者が支援とは 何かを考えさせられたり,支援について新たな気づきを得た り,心を揺さぶられたりした経験を抽出した。とりわけ対象 児に衝動的な行動や混乱が見られた時の支援員の支援や,彼 らが自力で問題解決行動をとった場面の出来事を抽出した。 エピソードでは当時の状況や対象児と学級他児の様子,時間 的背景などと共に支援実践と対象児の様子を記述する。 【考察(メタ観察)】支援員の日々の実践や子どもにとって の支援の意味を明らかにする上でなぜ本エピソードを選出 するに至ったか,特定の場面を切り出し,提示することの意 義を論じる。また,エピソードを提示して行った研究協力者 (支援員)に対するインタビューでの語りの内容も踏まえ, 支援員の支援理念や子どもにとっての支援の意味,通常学級 における支援とは何かについて考察を加える。 3.結果と考察 以下に1年2組に在籍する太一君と玲一君2人に対して 和香先生が行った直接的,間接的支援を4つのエピソードで 提示し,支援の特徴と支援対象児の自立や問題解決行動にと って支援行為の持つ意味について検討する。 3-1.環境の力を活用した支援 エピソード1:判断する場所ときっかけのみを提示する 【背景】5月9日,運動会のダンス練習の初日,初めて1, 2年合同で運動会練習をした時のことである。この日から合 同でのダンス練習ということで,体育館に入った時から普段 とは様子が違っていた。普段は一緒に体育をやらない2 年生 が体育館に入ってきたばかりか,普段のクラスごとの隊列で
はなく,実際の運動会のように紅組,白組に分かれて隊列を 組みなおすことになった。さらに,いつもは児童の前に立っ て同じ高さで指導をする担任教師が,振り付けの全体指導を するために体育館正面の舞台に上がっていた。 【エピソード】体育館に来てから太一君はずっとズボンの中 に手を入れたりその場でくるくるとまわってみたりと落ち 着きがなかった。他の子どもたちはいつも通り体育係の号令 に合わせて準備体操を始めていた。担任の先生はいつもとは 違い,児童から少し離れた舞台上から子どもたちの準備体操 を見守っていた。太一君に近寄って様子を見てみるとズボン の裾からハーフパンツの紐が片方だけ長く出ていた。太一君 はこの長く出た紐を膝で蹴るようにしながら,他の子どもた ちが準備体操をする間体育館をきょろきょろしながら走り 回っていた。その様子を見て和香先生は何度か太一君に声を かけたが,当の本人はニコニコと笑いながら軽い足取りで逃 げ,このやり取りが何度か続いていた。 周りの子どもたちが準備運動を終えていよいよダンスの 練習に入ろうかという時,太一君は声をかける和香先生から すり抜けるようにまた逃げようとした。それに対し,和香先 生は突然キュっと追いかけるスピードを速めて彼の両肩を ぎゅっと掴んだ。普段はどちらかというと子どもたちと少し 距離をおいて,離れたところから全体を見渡している和香先 生だが,この時は太一君が見せた一瞬の隙を見逃さずに彼を 捕まえ彼を体育館の左後方の隅に積まれている体操用マッ トの所に連れて行き,そこに座らせた。自分はダンス練習を している子どもたちに背を向け,太一君の正面よりは少し左 側に,太一君と視線が合う高さで,そして太一君が和香先生 越しに体育館全体を見渡せるように向かい合ってしゃがん で,体操をするクラスメイトの方を見ながら話をしていた。 ほどなくして太一君は小走りにダンス練習をする子どもた ちの隊列に合流し,その後は隊列からはみ出ることなくダン ス練習に参加した。 【考察】この事例の特徴は太一君の特性を理解した上で,意 図的に空間を活用した支援を行っている点にある。太一君は 初めての経験に敏感に反応をする特性を持つものの,落ち着 くことができれば自分で状況判断をして行動することがで きる。そのため,和香先生は整列体型が変わったことで,自 分の前後や左右の顔ぶれが変わり落ち着きを失う太一君を 見て彼をその場から引き離し,その上で太一君を体育館全体 が見渡せる体育館の後方に座らせて話をした。自分が太一君 の斜め前にしゃがみ半身になって声をかけることで,太一君 が和香先生越しに他児らの全体の状況,すなわち自分が置か れている状況を客観的に見つめることができる場を提供し たのである。和香先生によればあの場面では太一君本人がど うしたいかのみを尋ね,その後の判断は彼に委ねたというこ とだった。つまり,この時和香先生が提供したのは太一君自 身が自分の置かれている状況と向き合う場と,これからどう したいか,を考えるきっかけのみであった。和香先生は学級 の他児らが体操をしている風景が彼に働きかける力を活用 し,彼自身がその風景の中に普段の体育との類似点を見出し たり,自分が身を置くことのできる可能性を見出したりする ことを支援していた。どこで何をしたいかはその時の状況が 働きかける力と太一君自身の判断に委ねられていた。この支 援実践は状況の働きかける力を活用し,子どもの意思や特性 を尊重しながら主体的な問題解決を促進する支援実践であ るといえる。 エピソード2:主体的判断を促す環境を醸成する 【背景】5 月 30 日,朝読書の時間,玲一君が一日の自分の 目標を記入する「行動チェック表」を記入しようとした時の できごとである。このチェック表はA5サイズの用紙に時間 割のマスだけが印刷されている。玲一君は毎朝そこに1 時間 目:「こくご:せんせいのはなしをよくきく」のように科目 名とその時間の自分の目標を記入し,授業が終わるごとに担 任の先生と1 時間を振り返り,目標が達成できていたらスタ ンプやシールをもらうことができる仕組みになっている。玲 一君は5月のはじめからこのシートを使い始めた。 支援員の和香先生は「朝読」の時間になると学級文庫の中 から子どもたちと同じように1冊本を選んで教室後方で立 ったまま絵本を読むことを日課としている。130 冊ほど置か れた学級文庫は,5,6冊ずつ置かれている必読書や推薦書 もあり実際の種類はそれほど多くはない。長年低学年の支援 に入ってきた和香先生にとってこれらの本は馴染みのある もので,絵本の内容に触れることは本を読む目的ではない。 【エピソード】朝読の時間になり,子どもたちが本を選んで 席に着くころ,和香先生は自身も本棚から本を選び,立った まま教室全体が見渡せる場所に立って絵本を読み始めた。こ の日も子どもたちはランドセルがうまくロッカーに入らな いとか連絡帳に家庭から連絡があるとか,少し困ったことが あって,でも担任の先生に言いにいくようなことではないこ とで和香先生の所にやってきていた。しかし和香先生は子ど もたちの声に反応はするものの無言で自分の本に目をやり, 自席に戻るように促すことで読書の時間であることを伝え た。まだ新しい学校生活が始まって1 か月だったが,和香先 生が何も言わずに子どもたち同様読書をする日常の中で子
どもたちは徐々に和香先生に援助を求めることをせず自分 も本を開いたり,何とか一生懸命ランドセルをロッカーに押 し込んだりしてやりくりするようになってきていた。和香先 生は「静かに本を読みなさい」などと指示することなく,こ の日もただ教室後方で学級文庫を読んでいた。 玲一君は「朝読」の時間になるといつも通り「行動チェッ ク表」を書き始めた。記入する目標のことで和香先生に何か 相談したかったのか,行動チェック表を手に,玲一君が一瞬 だけ彼の左斜め後ろにいた和香先生を見あげた。けれど自分 が振り返っても絵本を読み続けている和香先生を見ると前 に向きなおって,自分でチェック表に何かを書き始めた。し ばらくすると,教卓で連絡帳のチェックをしていた担任の先 生の所にチェック表を持っていき2人で話し始めた。しばら くすると「え?自分で考えて書いたの?すごいじゃん!」と 褒められ,行動チェック表を手に満面の笑みを浮かべて自分 の席に戻ってきた。見ると手にしていたチェック表の1時間 目の欄には,大きくて濃く,太い,しっかりとした字で「し っかりすわってはなしをきく」と書かれていた。周りの子ど もたちは,絵本を指でなぞりながら読んだり,目はどこかを 向いたままページだけをパラパラとめくったりしながら「朝 読」の間,絵本と時間を過ごしていた。和香先生は相変わら ず他の子どもたちと同じように読書を続けていた。 【考察】この事例の大きな特徴は,「朝読」の時間は静かに 本を読むという雰囲気をクラスの中に意図的に醸成するこ とによって対象児の自力での問題解決を間接的に支えてい る点にある。和香先生は低学年,とりわけ1 学年に重点的に 支援員を配置する支援員配置の現状から今後,2 年や3 年と 学年が上がるにつれて支援員の支援が得られなくなること も見据え,学級他児らのもたらす相互作用の力を活かしなが ら長期的な視点で対象児らへの支援を行っている。重要な点 は,対象児の自立を促す支援を日々ルーティンに位置づいて いて何をする時間かが分かりやすい場面で提供している点 である。和香先生はこれについて以下のように語っている。 子どもたちが回りを見て動けるように,自分たちの力で, っていうことをできるだけ後押しするようにはするんで す。でも一方で彼らが困りすぎちゃだめなんですよ,だか ら困りすぎない場面で自分で考えさせるんです。(201X 年 12 月 22 日) 和香先生は「朝読」の間はクラス他児の援助要請にも手を 貸さず,子どもたちそれぞれが静かに過ごす空間を作ること で玲一君の自力での問題解決を促している。玲一君が援助を 要請しようと振り返った時に目に入ったクラスの他児らの 様子や和香先生の様子は,今は静かにやるべきことをする時 間である,ということを伝え,玲一君が自力で問題を解決し ていくことを後押ししたと考えられる。子どもたちの長期的 な成長や自力での問題解決行動を促すために彼ら自身の思 いや判断を尊重しながらも,自主的判断を迫られた子どもた ちが困惑しないよう行為選択がしやすい場面での自立促進 を図る配慮ある支援実践であるといえる。 3-2.自立と共生を重視した支援 エピソード3:タイミングを見て支援する 【背景】7 月 11 日,夏休みが1週間後に迫ったとても暑い 日のできごとである。この日は4月から生活科の授業の一環 で育ててきたアサガオの花びらを使って色水作りをするこ とになっていた。子どもたちは授業が始まる前からその日の 持ち物になっていた色水用のビニール袋をランドセルから 取り出して机の上に準備し5時間目が始まるのを嬉しそう に待っていた。太一君の手元にはビニール袋はなかった。 【エピソード】子どもたちも先生たちも終業式を目前に控え 夏休みまでのカウントダウンを始める中,これまで子どもた ちが一生懸命育ててきたアサガオの花びらを使って色水作 りをする生活科の時間がやってきた。子どもたちは朝からこ の5時間目の「せいかつ」の時間をとても楽しみにしていて, 女児らは朝の水やりの時からどのアサガオを使おうか相談 していた。みんな嬉しくて待ちきれず,5時間目が始まる前 から家庭から持ってきた色水作り用のビニール袋を机に出 していた。子どもたちが持参したビニール袋は家庭によって まちまちで,ジップ式のビニール袋を持ってくる子どももい れば,色水作りには少し大きすぎると思われる大きなスーパ ーの買い物袋を持ってきている子どももいた。担任の先生が 予備の袋を給食の時のごみ袋に,と回収を始めた時,何も持 たない太一君が少しふざけた様子で「俺,ビニール袋な~い」 と言った。教室の一番隅にいた私の所にもはっきり聞こえた その声に誰が反応するわけでもなく,先生の色水作りの説明 も終わり,いよいよ色水作りの時間になった。子どもたちが ベランダへ移動し始めたが太一君は完全に相手にされてい なかった。いよいよ自分は色水作りができないと思い始めた のか太一君が体を左右にふりながら周りをきょろきょろ見 始めた。他の子どもたちがベランダに出て教室からいなくな ると和香先生がそっと太一君に近づいて一言,「自分でお話 ししましたか?」と尋ねた。「まずはそこから始めないと」 とだけ付け加えると和香先生はさっと彼の元を離れた。 その後,直接担任の先生と話した太一君は先生からもらっ たビニール袋を手にベランダへ向かった。周りの子どもたち
も太一君が遅れてきたことなど全く気にしていない様子で, 自分の作った色水を見せたり,「どれ(どの花びら)にする?」 と話しかけたりして,まるで何もなかったかのように太一君 はみんなの輪に溶け込んでいった。 【考察】ふざけた様子で教室に向けて発した「俺,ビニール 袋な~い」は彼なりの困り感の表出であったと考えられるし, ビニール袋がなくて困っている状況を打破しようと取った 積極的な行動であったともとれる。和香先生は太一君が自分 だけ袋を持っていないということに困り感を表出する一部 始終を見届けた上で,「自分でお話しましたか?」と,他児 がベランダに出払ったタイミングで問いかけ,「まずはそこ から始めないと」と自力でこの状況を打破することを促した。 この支援は通常学級の中で対象児らが学び,自分のできるこ とを増やせるよう支援する上で重要となる4つの視点を提 供している。第1に,対象児の状況を理解した上で適切なタ イミングで声掛けがなされている。和香先生は困り感とその 理由を太一君自身が理解しているものの,解決に向けた行動 がうまくとれない,彼自身が支援を必要とするタイミングで 声掛けを行っている。第2に,あくまでも彼自身の主体的な 問題解決を促すため,「担任の先生に話しに行く」という解 決に向けた方向性のみを示し,その後彼がどのように話すか は彼にその意思決定を委ねている。第3に,和香先生自身は すぐその場を離れることで,太一君自身がその場の状況を判 断し,主体的な問題解決行動を後押ししている。彼の元をす ぐに離れた和香先生の行為は,何をどう伝えたらよいかを和 香先生に尋ねるという可能性を彼から奪い,彼自身が状況を 踏まえてとるべき行動を考え,実行することを間接的に後押 ししている。第4に,こうした一連の支援が太一君の自尊心 を尊重し,クラスの他児らが周りからいなくなったタイミン グを見計らってされている。クラスの他児がいる状況では彼 は大きく高めの声で「俺,ビニール袋な~い」と発言してい る。彼の周りにまだクラスメイトがいる状況で声掛けがなさ れていたら彼が落ち着いて考えたり,冷静に担任の先生と話 したりすることを阻んだ可能性も十分考えられる。この支援 はクラスの友人たちからどのように思われるかといった彼 の自尊心にも配慮した支援であるといえる。こうした場面で の支援のタイミングに関して和香先生はインタビューの中 で支援の背景にある思いを次のように語っている。 注意をする時には,担任の先生が子どもたちみんなの前 で注意を促した方が良い場合と,個別にその子にだけ言っ た方が良い場合があると思うんです。担任の先生が子ども たちの気になる言動を度々指摘していたらクラスの雰囲 気にも関わるし,注意される子どもたちにも段々とプライ ドが芽生えてきています。(中略)今はどちらのタイミン グなのかと考えています。タイミングを見誤ることもあり ますけど…(201Y 年 4 月 4 日) 支援は,時にそのタイミングを見誤れば支援を受ける子ど もが自分で考える機会を奪ってしまったり,周囲の子どもた ちが対象児をどのように認識するかに影響を及ぼしたりす る。この事例は支援対象となる子どもの主体的問題解決を促 すタイミングと,支援員の位置取り,声掛けの仕方に配慮し た支援事例であり,同時に通常学級における自立的生活を支 援する上で重要な配慮がなされた支援実践であるといえる。 エピソード4:子どもが混乱しないよう他教員と連携する 【背景】以下は担任教師の対象児らに対する関り方に変化が 観察されるようになった頃の事例である。子どもたちが入学 したばかりの4月,「それはいけません!」と太一君の行動 に対して強めに注意することが多かった担任の先生が彼ら の行動や発言を授業に織り込んでいくようになってきた事 例の1つである。和香先生は,連携不足により複数の先生か ら異なる指導がなされ対象児らが混乱することを避けよう と日頃から教員間の連携を重視している(インタビュー, 201Y 年 5 月 23 日)。その為日常的に教室内外で隙間時間を 活用して情報交流をしたり,校務専用PC 上の専用ファイル に子どもたちの様子や指導内容,反応,支援意図を記載した りしている。こうすることでなかなか担任教師らと情報交換 の時間が取れない中でも対象児らに関わる教職員と支援の 方向性を共有するようにしている。以下はそうした実践が継 続される中で,担任の先生の指導にも変化が見られ,「ダメ を繰り返すのではなく,できることを増やす指導・支援」, 「クラスの中で浮かないような指導・支援」が実践されるよ うになった時の事例である。 【エピソード】6 月 27 日,4 時間目,『おむすびころりん』 の学習単元の最終回,この単元のまとめとして皆で本文全体 を音読することになった。クーラーが効いているとは言え, 外の暑さと2 時間目のプール,廊下で準備が始められた給食 のカートが到着する音に,空腹も加わってか,太一君は廊下 や窓の外を見たり,落ち着きのない様子で教室を歩いたりし ていた。『おむすびころりん』の単元のまとめとして担任の 先生が範読を始め,その後に子どもたちも続くと,落ち着か ず歩く太一君に担任の先生はただ一言「ついてこい」とだけ 言って範読を続けた。節ごとにリズムよく読まれる音読のリ ズムに合わせて担任の先生は教室を歩いて回った。するとそ
れに合わせて,太一君もおどけた様子でその後をついていっ た。そのリズムはきちんと音読に合っていて,「すっとんと ん」の所で太一君はリズムに合わせて自分のシャツを捲し上 げてお腹をみんなに見せながらリズムよく歩いて行った。担 任の先生も太一君の動きや話のリズムに合わせるように「お むすび ころりん すっとん とん」と1歩1歩踏みしめる ように,子どもたちの机の合間を縫いながら教室全体を回る ようにして音読を続けた。するとしばらく自分の席で音読を していたクラスの子どもたちも,2人の行く方向に体を向け, 音読を始め,その内に1人,2人,3人,と子どもたちが太 一君の後に続き,楽しそうにリズムを刻みながら,彼の振り を真似ながら,音読を楽しんだ。担任の先生と太一君を先頭 にした列はあっという間に教室中に広がった。 【考察】本事例は支援員が支援の意図や支援の経緯を日々積 極的に伝える姿勢が担任の指導に影響を及ぼし,共に学ぶ学 級の雰囲気醸成にも繋がる可能性を示している。和香先生は 日頃から「自分の支援の流れと意図」を担任教師や他の教職 員に伝えることは「支援員-対象児」という支援の枠を超え た支援として重要な意味を持つ,と語っている。子どもたち はある場面でよしとされた行動が別の場面で叱責の対象や 指導の対象となる事に大きく混乱する。教員間の連携や一貫 した支援は対象児らが集団の中での規範理解を促すばかり か,見通しのきく中で生活をすることの支援にもなる。これ に関して長年様々なクラスや学校で支援にあたってきた和 香先生は広く教職員間で方向性共有や一貫した支援を行っ ていく必要性を以下のように語っている。 例えば運動会の練習だってそうです。P 君は全体練習で ずっとはみんなと同じようにしていられない,じゃぁ体操 の時と自分の種目の時だけはみんなと一緒にやろうね,っ て3人(P 君,担任教師,支援員)で話し合っていざ練習 に行った。でも途中で他の先生方が「はい,立って皆の所 で並ぼう」とか「はい,一緒に移動!」とか,声掛けちゃ うんです。悪気はないんですよ,支援してくれようとして るんです,でもそうすると彼は混乱します。で,結局その 後の競技の練習にも影響が出てしまうんですよね…。 (201Y 年 5 月23 日インタビューより) こうしたうまく行かなさも含め和香先生は教室移動の途 中やPC 上の引継ぎを活用して支援状況を共有し,「支援員 -対象児」の関係を超えて学級全体,学校全体で対象児らを 支える環境を醸成し,異なる方向性による支援や指導で子ど もが混乱しないよう努めている。本事例は通常学級でニーズ を有する子どもたちが学級の他児らと共に生活することを 支援する支援員にとって,学級の他児らや学校生活の様々な 場面で接する機会をもつ教職員も視野に入れた支援を行っ ていくことの重要性とその可能性を示している。 4.まとめ 以下,通常学級において支援ニーズを有する子どもたちに 対してなされる支援の特徴とそれが対象児の自立や問題解 決行動に対して持つ意味を概観する。 4-1.通常学級における支援の特徴 通常学級においてニーズを有する児童を支援する支援員 の支援の特徴として,対象児らの自立や主体的問題解決を支 援する3つの特徴を明らかにした。第1に,対象児らが自力 での問題解決経験を積むことが出来るような機会を提供し ていた。支援員は対象児らが問題に直面した時,状況を客観 視できるような場所や時間,対処行動を主体的に判断して行 動するような声掛けを適宜行い,学級他児らの様子や学級の 規範,その場その時での学級の動きなどを見て対象児らが自 力で判断して行動する経験を積んでいけるよう支援を行っ ていた。子どもたちが持つ困り感に対して具体的な解決法を 示すのではなく,通常学級で他児らと学ぶ環境の中で彼らが 自ら主体的,自立的に判断して問題に対処していく経験が積 めるよう支援していた。第2に,そうした対処行動の負担が 大きくなりすぎないよう,負担コントロールを意識した支援 を行っていた。意思決定場面で本人の中に行動の選択肢が見 えていない場合や学級他児とのその場における関係が判断 に影響する場合など,様々な要素が意思決定や問題解決の負 担となり得る。支援員は意思決定や対処行動に係る負担が少 しでも軽減されるよう,教室規範やクラスの他児らの状況か ら対処行動をとりやすい場面や時などに配慮し負担を軽減 していた。第3に彼らの自力での対処行動や意思決定を学級 全体,教職員全体で支えられるよう自身の支援意図を発信し 他者と共有し続けていた。これは対象児らが混乱しない環境 を作る,という支援行為を広い視野で捉えた支援であり,教 室では学級の他児らにも一貫した支援姿勢を見せ,彼らと共 に学級規範を醸成し対象児らが行動選択をしやすい環境を 作っていた。教職員との連携においても日ごろから支援意図 の共有や情報共有を行い,そうした支援が担任教師の対象児 への関わり方の変化にも影響を及ぼしていた。 これら3つはいずれも支援員と対象児,という支援の関係 を超え,広く対象児が置かれている環境全体を射程に入れ, 通常学級における多様な相互作用の中での自力での問題解 決経験を積めるよう支援する実践であると言える。 4-2.対象児の自立や問題解決に対して持つ意味
通常学級におけるこうした支援員の実践は支援ニーズを 有する子どもたちが日々の生活の中で自分の置かれている 状況やその時に抱いている思いと向き合い,その中で自分自 身の行為可能性を判断して行動する主体的な問題解決経験 を積むことを支援する実践である。自己の置かれた状況を理 解し,主体的に意思決定をしていく力は,ニーズを有する子 どもたちが通常学級において他児らと共生することのみな らず,より長期的な彼らの成長,自立を支援する上でも重要 であるといえる。子どもたち一人ひとりが辛さやうまく行か なさ,分からなさなど,様々な感情を抱えつつ自分の置かれ ている状況や問題と向き合う時,考える方向性が見えること や,自分の意思決定が尊重される環境があることの意味は大 きい。 5.本研究の意義ならびに残された課題 最後に本研究の意義ならびに課題を述べる。 本研究の意義は通常学級において生活するニーズを有す る子どもたちへの支援実践の特徴を現場文脈に即して明ら かにしたことにある。本研究は子どもたちの学びや自立を対 象児-支援員の枠を超え,通常学級という社会的文脈に即し て明らかにした。これは支援員から対象児への直接的働きか けに焦点が向けられる傾向にあった従来の研究視点を超え 通常学級における多様な相互作用を活かした,通常学級なら ではの支援のありようとその特徴を明らかにした点におい て学術上の意義を持つ。また,本研究は通常学級において子 どもたちを支える支援員ならではの視点や実践を具体的に 描き出した。これは支援員の職能開発や研修の課題が指摘さ れる中,知識やスキルを超えて子どもの自立を支える支援の 意味を再考する機会を提供するものとして,支援の質向上に 向けた視点を提供する実践上の意義も持つものといえる。 本研究に残された課題は以下の通りである。本研究は,ニ ーズの高まりはありつつもその職務内容,具体的な実践がよ く知られていない支援員の実践の特徴や意味を明らかにす ることを目的とした。そのために本研究では筆者が関与した 学級内での支援行為に焦点化して検討を行った。しかし,支 援ニーズを有する子どもたちの学びは多様な教職員との関 係性の中や,他学年も含む児童らとの相互作用の中でも生じ, 学級内のみに限定されるものではない。学級担任や養護教諭, 管理職,特別支援学級担任など,異なる立場や異なる経験, 指導・支援理念を持つ多様なスタッフと子どもの関わりを検 討していく事も重要な課題である。またそうした多様なスタ ッフが,それぞれの支援に関する意見をどのように交流し, 意思疎通をしながら支援を行っているか,教職員間の連携も 重要な課題である。その時々での個々の立場や状況により多 様な支援のありかたや抱える葛藤も異なることが予想され る。対象を広げた検討を今後行っていく必要がある。今後の 課題としたい。 引用文献 本多祐子 2014 「看護師が通常学校特別支援教育支援員 として従事することの貢献可能性と課題 ―連絡ノー トの分析を通して-」『東京福祉大学・大学院紀要』5(1), 51-61. 細谷一博 北村博幸 五十嵐靖夫 2014 「特別支援教育 支援員の現状と課題:函館市内の支援員への調査を通し て」『北海道教育大学紀要 教育科学編』65(1), 157-165. 伊藤由美 柘植雅義 梅田真理 石坂務 玉木宗久 2015 「『通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別 な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査』の補 足調査の結果からみた通級指導教室の役割と課題」 『国立特別支援教育総合研究所研究紀要』42, 27-39. 岩永悟 中尾聡彦 三好智恵 白川智子 2017 「個と集団 の教育活動の活性化を図る特別支援教育支援員の活用」 『佐賀大学教育実践研究』34, 225-232. 鯨岡峻 2005 『エピソード記述入門 実践と質的研究の ために』東京大学出版会 鯨岡峻 2013 『なぜエピソード記述なのか 「接面」の心 理学のために』東京大学出版会 黒住早紀子 2016 「特別支援教育に関わる支援員の役割 理解に関する事例研究-支援員による活動記録と支援 ミーティングの分析―」『駒沢大学教育学研究論集』32, 79-106. 文部科学省初頭中等教育局特別支援教育課 2007 『「特別 支 援 教 育 支 援 員 」 を 活 用 す る た め に 』 www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/0 02.pdf 2019 年 5 月3 日閲覧 文部科学省特別支援教育課 2012『通常の学級に在籍する 発達障害の可能性のある特別な教育支援を必要とする 児童生徒に関する調査』 文部科学省中央教育審議会 2011 『特別支援教育の在り方 に 関 す る 特 別 委 員 会 ( 第 13 回 )配布 資料』 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chuky o3/044/attach/1312984.htm 2019 年 5 月3 日閲覧 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 2016 『平 成27 年度発達障害の可能性のある児童生徒等に対する 支援事業報告会(資料1)』 2019 年 5 月 3 日閲覧 小方朋子 2014 「香川県高松市における特別支援教育支援
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The Daily Practice of Special Needs Education Support Staff in Standard Classes: An analysis
through the method of episode description
Ikuyo Oda (Graduate School of Education, The University of Tokyo)
The number of special needs students in standard classrooms are increasing so it is vital to understand how to provide them with the proper support for success. Unfortunately, support staff in standard classes are often unsure of their role or how to give effective aid and the classroom teachers are not familiar with the role needs of the support staff. The aim of this study is to describe the daily practice of “special needs education support staff” (tokubetsu shien kyōiku shienin) who support students with special needs attending standard classes. Using analysis of episode description (Kujiraoka, 2005; 2013), this study clarifies the reality of support work and the meaning it brings to children’s learning. The subject of the study was a staff member supporting two first grade boys who are attending a standard class at public primary school. The author participated in classroom activities as a volunteer teacher and observed the daily interactions between the support staff and students. Interviews with the support staff which clarified their intention and philosophy confirmed the results of the analysis of episode description which revealed three features of support. Support staff are intended to prove consistent aid with an emphasis on “appropriate timing,” “respecting students’ self-esteem,” and “respecting students’ independence.” They also encouraged the children to become independent by taking advantage of their interaction with the environment, such as the relationship with classmates and the situation at the place. Support with these intentions not only leads students with special needs to gain a sense of self-efficacy and belonging, but also enables them to prepare for problem-solving situations that they may face in the future.
Keywords: Special needs education support staff episode description understanding of disability independence support support in standard classes