俳句の美的評価を予測する心理状態と個人特性の検討
How Individual States and Traits Predict Aesthetic Appreciation of Haiku Poetry
〇櫃割仁平・野村理朗
〇Jimpei HITSUWARI and Michio NOMURA
京都大学大学院教育学研究科
key words:aesthetic appreciation, emotion, haiku poetry
目的
詩歌の美的な評価は何によって規定されているのだろう か.近年,美的な評価と感情の関わりに注目が集まっており (e.g., Menninghaus et al. 2019),絵画や音楽に関わる知見が蓄積 されている.これに対して,詩歌の心理学的研究は限られ萌 芽的段階にある (Jacobs, 2015). Belfi et al. (2018) は俳句等の詩歌を題材として,詩歌のイメ ージの鮮明性と俳句の感情価が俳句の美的魅力を予測するこ とを示した.しかし,詩歌のイメージの鮮明性が美的評価に 繋がる心理的メカニズムは明らかになっていないため,本研 究は,鑑賞者の直接的な感情評定を行うことで,その解明を 試みる.加えて,従来,美術作品とパーソナリティの関係も 研究が進められており,絵画や音楽刺激を題材として開放 性,視覚イメージ能力,畏敬の念やノスタルジアの感じやす さなどと美的評価の相関が示されてきたことをふまえ,本研 究は,不明点の多い詩歌とパーソナリティの関係を明らかに する. 方法 参加者: Crowdworksで300名を募集し,脱落したデータを省いた 277名(Mage=38.68, SD=10.24, 女性209名) のデータを分析した. 手続き: 1日目,俳句1句と6つの質問項目(イメージの鮮明性×2, 俳句の感情価,覚醒度,美的評価,感情状態)がPC画面上に呈 示され,100件法のスライダーバーで1人37句を評定した.2日目 (1日目の評定が終了した1~3日後)に個人特性を測定する質問 紙調査を実施した.
尺度: 開放性 (TIPI-J: Oshio et al., 2014),視覚イメージ能力
(VVIQ: Marks, 1973),畏敬・畏怖の感じやすさ (DPES-awe: Shiota
et al., 2006),ノスタルジア傾向 (なつかしさ傾向尺度: 楠見, 2014) 等を測定した. 結果と考察 重回帰分析ステップワイズ法 (イメージの鮮明性,感情価, 覚醒度を投入)を用いて,俳句の美的評価の予測因を測定し, 第1段階で,感情価が投入され (R2=.40, β=0.64, SE=0.06, p<.001), 第2段階でイメージの鮮明性が投入された (R2=.52, β valence=.42,
βvividness=.41, SEvalence=0.07, SEvividness=0.05, p<.001).(図1) また,イメ
ージの鮮明性が感情評定を媒介して,俳句の美的評価を予測し た.(図2) イメージの鮮明性と俳句の感情価が俳句の美的評価を予測 するというBelfi et al. (2018) の結果を再現するとともに,イメー ジの鮮明性が感情評定を媒介して、美的評価に繋がるというメ カニズムを新たに明らかにした.メンタルイメージは感情の喚 起を促進し,抱いた感情と美的な評価に関しては,ポジティブ 感情を抱く人はそうでない人に比べて,美的な体験について高 い評価を下した (Holmes & Mathew, 2005; Prinz, 2007) と考えら れる. 図1.3予測因と俳句の美的評価の回帰直線 図2.イメージの鮮明性,美的評価,感情評定の媒介分析結果 個人特性と美的評価の相関を見ると,開放性と俳句の美的評 価には相関は見られなかった(r=.10, p=.11)一方で,視覚イメ ージ能力(r=.35, p<.001),畏敬・畏怖の感じやすさ(r=.30, p<.001), ノスタルジアの回想傾向(r=.24, p<.001)と美的評価に中程度の 相関が見られた. 畏敬と美的評価の関連には,開放性が介在しているが (Shiota et al., 2006; Silvia et al., 2015),本研究では開放性との相関がみら れず,畏敬とのみ相関したことから,畏敬特有の効果が示唆さ れた.従来の絵画や音楽といった刺激との相違,例えば,17文 字という限られた俳句の様式,あるいは日本人は自己と他者の 関係性や自然災害等に畏敬をより感じる (Nomura et al., in press) といった文化差が介在する可能性が考えられる.また,ノスタ ルジア回想傾向についても,絵画を題材にした先行研究 (Specht & Kreiger, 2016) と一致し,俳句の題材や切れ字等の修 辞的な要素がノスタルジアを喚起した可能性が考えられる.以 上のように,本研究により,俳句の美的評価を予測する心理状 態,個人特性の検討を通じて,美的評価のプロセスへの新知見 が得られた。