原著論文
マイマイサンゴムシの自然界における終宿主の初記録
The first record of the natural definitive host of Brachylaima ezohelicis
(Trematoda: Brachylaimidae)
佐々木瑞希
*・中尾 稔
Mizuki Sasaki* and Minoru Nakao
Around a hundred of brachylaimid trematodes were found from the small intestine of a carrion crow (Corvus corone) in Hokkaido, Japan. Based on the result of mitochondrial DNA barcoding, the parasites were identified as Brachylaima ezo-helicis Nakao, Waki and Sasaki, 2017. This is the first record of a natural definitive host for B. ezohelicis. Although most of them were at the gravid adult stage, their body sizes var-ied widely. This species was described by using the speci-mens from experimentally infected mice. When compared with the original description, the crow-derived specimens were longer in total body length and has smaller testes and a wider uterine space, probably due to better development in the suitable host. The difference provides a cautionary tale about the plasticity of morphology in trematodes. Our find-ing strongly suggests that birds are more suitable than mam-mals in serving as definitive hosts for B. ezohelicis.
Key Words: Brachylaima ezohelicis, Corvus corone,
defini-tive host, Ezohelix gainesi, Hokkaido
はじめに 寄生性の扁形動物である吸虫類の多くは,2つの 中間宿主と1つの終宿主を必須とする複雑な生活史 をもつ.そのため,幼虫だけあるいは成虫だけが記 録され,多くの種で発育ステージや宿主が不明な場 合が多い.また,幼虫を実験動物に投与して成虫を 得ることもできるが,この場合,自然界における真 の終宿主は不明であることが多い.
マイマイサンゴムシBrachylaima ezohelicis Nakao, Waki and Sasaki 2017はエゾマイマイEzohelix gainesi
を第1および第2中間宿主とする吸虫で,北海道旭 川市を基産地として2017年に記載された種である (Nakao et al., 2017).第1中間宿主から放出された セルカリア幼生がその周囲のマイマイに侵入し,終 宿主への感染形であるメタセルカリア幼生となる. 終宿主はメタセルカリアを保有するマイマイを捕食 することで感染し,その消化管で成虫となる.ステ ロイド剤で免疫を抑制したマウスに実験的に幼虫 (メタセルカリア)を経口接種するとその回腸で成 虫になるが,野ネズミ類の調査では成虫は検出され ておらず,自然界における終宿主は不明であった (Nakao et al., 2017). 我々は,2020年北海道留萌市において拾得した ハ シ ボ ソ ガ ラ スCorvus coroneの 轢 死 体 か ら Brachylaima属吸虫の成虫を検出し,ミトコンドリ アcytochrome c oxidase subunit 1 (cox1)と核28Sリボ
ソームDNA (rDNA) の塩基配列に基づいて,この吸 虫をB. ezohelicisと同定した.自然界における終宿 主からの本種の分離は本報告が初めてである.今回 ハシボソガラスから検出した成虫は,原記載のマウ ス感染実験で得られたもの (Nakao et al., 2017) と形 態学的に異なる点が見られたため,両者を比較し た. 材料と方法 2020年6月13日, 北 海 道 留 萌 市 留 萌 村 旭川医科大学医学部寄生虫学講座 〒078–8510 北海道旭川市緑が丘東2条1丁目 Department of Parasitology, Asahikawa Medical
Universi-ty, Midorigaoka-Higashi 2–1, Asahikawa, Hokkaido 078– 8510, Japan
* Author for correspondence (E-mail: mizuki_sasaki@asa-hikawa-med. ac.jp)
(43.888611, 141.717861) においてハシボソガラスの 轢死体1個体(メス幼鳥,体重450 g)を回収した. 検体は解剖時まで-20℃にて保管した. 解凍後に臓器を摘出し,消化管を実体顕微鏡下で 切 開 し た. 検 出 さ れ た 寄 生 虫 はPBSで 洗 浄 後, DNA解析用に70%エタノールで保存した.また, 一部は形態観察のためにスライドグラスとカバーグ ラスで緩く圧平して中性ホルマリンで固定した. 70%エタノールで保存した虫体のうち5個体(大 型のもの
3個体,小型のもの2個体)を用いて,Mi-ura et al. (2017)の方法でゲノムDNAを抽出した.1
個体につき50 μlのDNA溶液を作成し,そのうち 1 μlをPCR用テンプレートとして使用した.PCRお よびダイレクトシークエンスはNakao et al. (2017) の方法に従って実施し,cox1と28S rDNAの塩基配 列 を 決 定 し た.cox1配列(811塩基)については DDBJ/ENA/GenBankデータベースに登録した(ac-cession nos. LC576474–LC576478, LC579926). 圧平固定した成虫は酢酸カーミンあるいは鉄ヘマ トキシリンで染色し,エタノール系列により脱水し たのちクレオソートで透徹し,カナダバルサムで封 入して永久標本とした.観察および計測は光学顕微 鏡に付属したデジタル撮影装置 (Axio Imager, Zeiss, Germany) ならびに専用ソフトウェア (Axio Vision, Zeiss, Germany) を使用した. 結果 ハシボソガラス小腸の中部から下部にかけて,合 計105個体の吸虫を回収した.大部分が虫卵を保有 する成熟虫体であったが,虫卵を持たずメタセルカ リアの形態に近い未熟な個体も少数検出した.ま た,成熟虫体においても大きさにばらつきが見られ た(図1).大型および小型虫体を含む5個体のcox1 塩基配列(811塩基)を比較したところ,互いに 99.6–99.9%の高い相同性を示した.BLAST検索を 行ったところ,北海道旭川市のエゾマイマイから検 出 さ れ たB. ezohelicisメタセルカリアのcox1配列 (accession nos. LC198311–LC198315) と99.5–100%一 致した(786塩基).また,B. ezohelicisと最も近縁 とされ,形態学的な識別が困難な種であるオカモノ アラガイサンゴムシBrachylaima succini Nakao,
Sasa-ki and WaSasa-ki, 2020とは86.3–87.4%の相同性を示した (786塩 基). ハ シ ボ ソ ガ ラ ス 由 来 の 成 虫 は28S rDNA配列においてもB. ezohelicisのものと100%, B. succiniとは98.4%一致した(1268塩基). 十分に成熟した大型の成虫6個体について,形態 観察および各部位の計測を行った(図1).形態学 的特徴は以下の通りである.各部位の長さは平均値 (最小値–最大値),単位は記載のないものについて はμmで示した. 全 形 は 細 長 く, 体 長7.0 mm (6.5–7.7 mm),体幅 0.8 mm (0.7–1.0 mm).口吸盤は体前端に位置し,長 さ350 (303–411),幅347 (305–386).腹吸盤は体の 前側おおむね1/4に位置し,長さ359 (328–384),幅 356 (316–391).口吸盤と腹吸盤の大きさはほぼ等し い. 咽 頭 の 長 さ は197 (184–214), 幅 は242 (213– 275).消化管は咽頭直下にて分岐し,体後端まで達 する.消化管表面はわずかに起伏がある.縦列した 2つの精巣の間に卵巣が存在する.頭側精巣は長さ 463 (386–541),幅427 (378–502),尾側精巣は長さ 475 (424–523),幅386 (304–499)で,いずれも球形 図1. ハシボソガラス小腸より検出されたマイマ イサンゴムシ成虫.虫卵を有する成熟虫体 のうち,大型のものと小型のものを同じス ケールで示した.スケールバー,1 mm.
から卵形,時に表面に凹凸が見られる.陰茎嚢は卵 形 な い し は 長 球 形 で, 長 さ300 (257–339),幅122 (111–146),頭側精巣の前部に位置する.卵巣は辺 縁がなめらかな球形で,長さ239 (207–316),幅269 (239–299),2つの精巣の中間に存在する.受精嚢は 球形で長さ95 (72–118),幅98 (81–114),卵巣の左 側に位置する.長く蛇行しながら上行した子宮は咽 頭後縁より下行して前側精巣前縁に達し,消化管左 右盲嚢の間を占める.左右体側にみられる胞状の卵 黄腺は口吸盤中部あるいは下端域から伸び,頭側精 巣前縁域に達する.排泄嚢は左右腸盲端の間に位置 し,排泄孔は体後端に開口する. 本 研 究 に お い て 見 出 さ れ た 成 虫 はNakao et al. (2017)による免疫抑制マウスを用いた感染実験で得 られた成虫とは形態学的に異なる点があった (Table 1).ハシボソガラス由来の成虫は体長が長く,精巣 が小さかった.体長が長くなれば子宮が占めている 部位も大きくなるため,その中に存在する虫卵数も 多くなった.精巣は表面なめらかな球形ないしは長 球形のものが多く,ときに弱く分葉するものが見ら れた.感染実験で得られたものでは精巣は弱く分葉 することが多いが,分葉の程度は多様とされている (Nakao et al., 2017).その他の器官の大きさは両者 の間でおおむね等しかった.また,全体における腹 吸盤の位置や,雌雄生殖器が占める割合は一致し た. 考察 北海道に分布するBrachylaima属吸虫として,マ イマイサンゴムシB. ezohelicis, パツラマイマイサン ゴムシBrachylaima asakawai Nakao, Sasaki and Waki, 2018, キノボリマイマイサンゴムシBrachylaima lig-nieuhadrae Waki, Sasaki and Nakao, 2020, およびオカ モノアラガイサンゴムシB. succiniの4種が報告され て い る (Nakao et al., 2017, 2018, 2020; Waki et al., 2020).一般に,Brachylaima属吸虫は第1中間宿主
の特異性が高く,これら4種の第1中間宿主はそれ
ぞれエゾマイマイE. gainesi,パツラマイマイDiscus pauper,Euhadra属マイマイならびにオカモノアラ ガ イSuccinea lautaである (Nakao et al., 2017, 2018, 2020; Waki et al., 2020).第2中間宿主も同じ種の陸 貝である場合が多いため,それぞれの陸貝の捕食に 適した生態・食性・体サイズを持つ脊椎動物が終宿 主 に な る と 考 え ら れ る. 北 海 道 に 分 布 す る Brachylaima属吸虫のうち,自然界において成虫が 見出されているのはパツラマイマイサンゴムシのみ であり,その終宿主はアカネズミApodemus specio-sus,ヒメネズミApodemus argenteus,エゾヤチネズ ミMyodes rufocanusと さ れ て い る (Nakao et al., 2018).これらの野ネズミからはパツラマイマイサ ンゴムシ以外のBrachylaima属吸虫は検出されてい ない.その他の3種は自然界における終宿主は不明 であるが,免疫抑制マウスを用いた感染実験によっ 表1. ハシボソガラスおよび実験感染マウス由来マイマイサンゴムシ成虫の形態比較(計測値については平均 値を示した). ハシボソガラス由来成虫 (n=6) 実験感染マウス由来成虫 (n=20) 体の大きさ 7.0×0.8 mm 6.2×1.0 mm 口吸盤の大きさ 350×347 μm 390×361 μm 腹吸盤の大きさ 359×356 μm 360×369 μm 腹吸盤の位置 頭側1/4 頭側1/4 咽頭の大きさ 197×242 μm 209×245 μm 頭側精巣の大きさ 463×427 μm 703×654 μm 尾側精巣の大きさ 475×386 μm 740×585 μm 精巣の形 球形,ときに弱く分葉 弱く分葉 卵巣の大きさ 239×299 μm 290×431 μm 卵巣の形 球形–長球形 球形に近いが不規則 陰茎嚢の大きさ 300×122 μm 308×112 μm 受精嚢の大きさ 95×98 μm 109×98 μm 文献 本研究 Nakao et al., 2017
て成虫を得ることで形態が記載されている (Nakao et al., 2017, 2020; Waki et al., 2020).
Brachylaima属吸虫の終宿主は哺乳類あるいは鳥 類とされている (Yamaguti, 1971).本研究において ハシボソガラスから見いだされたマイマイサンゴム シ成虫は,実験感染で得られたものと比較して大型 の虫体が多く見られた.これは,ハシボソガラスが 好適な宿主であることを示し,成虫の発育期間が実 験感染のものよりも長いことが示唆された.成虫の 大きさが大小多様であったことから,何度も感染が 起こったことも考えられた.北海道の哺乳類からマ イマイサンゴムシ成虫が検出されていないことか ら,本種に好適な終宿主はハシボソガラスをはじめ とする鳥類と考えられた.マイマイサンゴムシの中 間宿主となるエゾマイマイは北海道において最大の 陸貝であり,おもに地表近くに生息する(図2). このような大型の陸貝を捕食する動物としては地上 採餌性で雑食の哺乳類や鳥類が挙げられる (Barker, 2004; 三沢,1979; Morii and Wakabayashi, 2017).北
海道で陸貝を捕食する鳥類として,キジバト
Strep-topelia orientalisや ド バ トColumba livia, エ ゾ ラ イ チョウTetrastes bonasiaが報告されているが (中尾, 1984; Fujimaki, 2002; 藤巻,2002),本研究の結果か ら,ハシボソガラスも陸貝を捕食していることが明 らかとなった.移動能力が低い陸貝と,ハシボソガ ラスのように渡りを行わない留鳥の間で発育史が完 成することは,マイマイサンゴムシが日本固有の吸 虫である可能性を支持している. Brachylaima属に含まれる種類は形態学的によく 似ており,鑑別が困難である.加えて本研究におい て,好適宿主と非好適宿主,もしくは感染時期に よって同種であっても形態に大きな違いが見られる ことが明らかとなった.従って,種同定には形態学 的情報に加え,DNAバーコード法を利用する必要 がある.北海道に分布する4種のBrachylaima属吸 虫はすべて28S rDNAおよびcox1配列に基づいた DNAバーコードが付与されているため,本研究で は容易に種同定することができた. キノボリマイマイサンゴムシおよびオカモノアラ ガイサンゴムシについても,陸貝から得られたメタ セルカリアのcox1配列ハプロタイプの多様性が高 く,遠隔地間で同一のハプロタイプが見られること から,終宿主が鳥類である可能性が示唆されている (Nakao et al., 2020; Waki et al., 2020).キノボリマイ マイサンゴムシについては北海道のみならず本州に も分布するため (Waki et al., 2020),長距離を移動す る渡り鳥が終宿主の役割を果たしているかもしれな い.今後,それぞれの種の中間宿主となる陸貝を捕 食する可能性のある鳥類あるいは哺乳類より成虫を 探索し,DNAバーコードを用いた種同定により終 宿主を決定する必要がある. 文献
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の動物に捕食されると考えられた.北海道 旭川市内公園で夜間にストロボ撮影.
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