経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対する看護実践上の課題
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(2) 38. 千葉県立保健医療大学紀要 第7巻 第1号. 2.対象選定の手順 日常的に経口抗がん剤による治療が実施されて. シーが確保できる場所を設定することなどを説明 した.. いる「がん診療連携拠点病院」または「一般総合 病院」で,本研究の実施に協力を得られた施設の 責任者(看護部長等)から外来師長を紹介して頂. 結 果. き研究の主旨を説明した.その後,対象基準を満 たす対象者を紹介していただき,文書と口頭で説 明を行い,研究協力を依頼した.なお,対象者の 研究協力の可否については外来師長・施設責任者 には伝えないことを双方に説明した. 3.調査方法 データはインタビューガイドを用いた半構造化 面接により収集した.具体的には経口抗がん剤治 療を受けている患者への看護における難しさや大 変さ,看護を実践する上で妨げになっていると感 じていることなどを自由に語ってもらい,語りの 内容は対象者の承諾を得て IC レコーダーに録音 した.なお,録音の承諾が得られない場合は口述 筆記の承諾を受けて語りの内容を記述した. 4.分析方法 インタビュー内容から逐語録を作成し,経口抗 がん剤治療を受けている患者への看護の難しさや 大変さ,看護を実践する上での妨げになっている ことに関する部分を抜き出し,簡潔な一文にし た.次にその一文を類似することでまとめて「看 護実践上の課題に関する具体的内容」を示し,さ らにそのことを引き起こしている本質の観点から 類似性を比較検討して整理し, 「看護実践上の課 題」として命名した.なお,分析過程において は,共同研究者間で検討を重ね,分析結果の妥当 性の確保に努めた. 5.倫理的配慮 本研究は,研究代表者が調査当時に所属してい た機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した. 対象者には,研究目的・具体的な協力内容・倫理 的配慮等について文書と口頭で説明し,十分な理 解が得られたことを確認した上で研究協力への同 意の可否を確認した.研究依頼では,①研究への 参加は自由意思であること,②研究参加の拒否・ 中断によって不利益を被ることはないこと,③得 られたデータは研究のためだけに使用し,個人が 特定される情報は記号に置き換え匿名化を図り, プライバシーを保護すること,④研究対象者から 得られたデータ・記録は厳重に保管し,研究終了 後は消去・破棄すること,⑤面接にはプライバ. 1.対象者の概要 4施設から協力が得られ,対象者は13名であっ た.対象者の看護師経験年数は平均17.7年,その うち外来勤務経験年数は平均6.8年で,雇用形態 は常勤が12名,非常勤が1名であった. 2.経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対 する看護実践上の課題(表1) 分析の結果,経口抗がん剤治療を受けている外 来患者に対する看護実践上の課題は,5項目に集 約された.以下,看護実践上の課題は【 】,具 体的内容は〈 〉,対象者の語りの簡潔な一文は 「 」で示す. 1)【関わりたくても介入そのものを阻む業務の 多忙さ】 この課題は経口抗がん剤治療を受けている患者 に対し,看護介入の必要性を感じながらも多忙で 介入時間を確保することが難しく,必然的に介入 が難しい状況を示している.この課題は多くの対 象者が語っていたことであり,対象者たちは「話 を聴いて継続的に関わりたいと思っても時間がと れない」「点滴や処置をスムーズに実施するため の業務におわれる」などと述べ,看護実践上の中 心的課題であった. 2)【業務体制や組織の取決めによる,経口抗が ん剤治療を受けている患者と関わる機会そのも のの限界】 この課題は,点滴による治療や処置のある患者 への対応が優先されることにより,経口抗がん剤 治療を受けている患者は看護の対象として外れた り軽視され,関わる機会そのものが少ないという 状況を示している.対象者は「診察ブースにはク ラーク(医療事務補助者)がつく体制をとってい て,経口薬のみで治療している患者には看護師が 直接関わる機会がほとんどない」「継続看護の対 象が入院中にトラブルがあった患者に限定される ので,経口抗がん剤治療の患者はシステム的に関 わる対象に入らない」などとその状況を述べてい た.なお,この課題は一般総合病院に勤務してい る対象者たちの語りから導かれた. 3)【外来看護の専門性を発揮していくことへの 組織的障壁】 この課題は外来看護師として求められる本来の.
(3) 小坂他:経口抗がん剤治療を受けている患者への外来看護. 39. 表1 経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対する看護実践上の課題 看護実践上の課題. 看護実践上の課題に関する具体的内容 関わりたいと思っても忙しさのために患者と関われない 多くの患者に対応するため,表立って問題のない患者は関わりが後回しに なってしまう. 1.関わりたくても介入そのものを阻 む業務の多忙さ. 即座に対応しなければならないことが外来には多く,患者の話や関わりを 中断せざるを得ない 看護介入に向けた情報収集やアセスメントのための時間の確保が難しい 経口抗がん剤治療を受けている患者よりも優先せざるを得ない患者・業務 が多い 業務上,処置のある患者への対応が優先されるため,経口抗がん剤の内服 のみの患者とは結果的に関わりが乏しい. 2.業務体制や組織の取決めによる, 経口抗がん剤のみで治療をしている患者は,組織の取決め上,継続看護の 経口抗がん剤治療を受けている患者 対象から外れる と関わる機会そのものの限界 配置人数が少ないため担当する看護師が固定されず,継続的に関わること が難しい 組織として外来が重視されておらず,看護介入に必要なマンパワーが充足 されていない 3.外来看護の専門性を発揮していく ことへの組織的障壁. 外来で看護介入をするための環境が整っていない 外来看護師の雇用形態や請け負う業務の煩雑さにより,外来看護の専門性 が発揮しにくい 外来看護に対する組織としての評価やサポート体制が低く,モチベーショ ンがあがらない 現実的に副作用が出る患者が少ないため,関わる必要性を感じにくい. 4.外来看護師として経口抗がん剤治 療を受けている患者に関わる必要性 を意識することの難しさ. 5.服薬コンプライアンスの不備やセ ルフケアの確立が難しい患者の存在. 経口抗がん剤は注射剤による治療よりも楽であり,看護師の「患者に関わ る」という意識そのものが薄い 医師との関わりで治療が進んでいる現状から,看護師が積極的に関わらな くても問題はないと感じてしまう 患者が自分なりの判断基準で抗がん剤の中断・服用をしてしまうことがあ る 薬の必要性や副作用について十分に理解できず,なかなか自己管理が確立 できない患者がいる. 役割・機能を果たそうとしても,妨げる組織的な. 況を示している.ある対象者は「経口抗がん剤は. 要因がある状況を示している.このような状況を 対象者たちは, 「病棟に比べ外来の人員を十分に. 点滴と比べて楽なので,スタッフも関わることへ の認識が薄くなる」と述べていた.. 満たす,外来看護を大事にするという感覚が感じ られない」 「外来で行っていること(看護)に対 する評価がなく,士気が上がらない」「自分がし たいことができずストレスになり,なかなか業務. 5)【服薬コンプライアンスの不備やセルフケア の確立が難しい患者の存在】 この課題は,経口抗がん剤治療の成否には患者 の自己管理が重要となるが,実際には薬の管理や. 改善・向上に向けたモチベーションが上がらな い」などと述べていた.. 副作用の対応が十分にできていない患者が存在す る状況を示している.患者の中には,副作用の出. 4) 【外来看護師として経口抗がん剤治療を受け ている患者に関わる必要性を意識することの難 しさ】 この課題は,経口抗がん剤治療の副作用は一般. 現やその軽減に応じて薬の内服・中断を自己判断 している者や,服薬指導を受けていても理解が乏 しく,副作用に対して適切な対応がとれていない 者もいる現状が述べられていた.. 的に注射剤よりも軽い現状から,外来看護師とし て患者に関わるという意識が希薄になっている状.
(4) 40. 千葉県立保健医療大学紀要 第7巻 第1号. 考 察. いった思い込み・レッテルを外すような意識変容. 1.経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対 する看護実践上の課題. も必要と考える. そして,《患者側の要因》としては【服薬コン プライアンスの不備やセルフケアの確立が難しい. 分析の結果,経口抗がん剤治療を受けている外 来患者に対する看護実践上の課題は5項目に集 約された.この課題が生じている背景をふまえ,. 患者の存在】がある.経口抗がん剤は投与法が簡 便であることが特徴であり,社会生活を中断させ ることなく治療を継続できるという点で患者に. 《組織的要因》《看護師側の要因》《患者側の要因》 の3側面から考察する. 《組織的要因》としては,【関わりたくても介入. とって大きなメリットとなる.しかし,‘経口抗 がん剤の内服’は,他の薬剤で‘薬を飲む’とい う行為と動作そのものは同じであり,『抗がん剤』. そのものを阻む業務の多忙さ】 【業務体制や組織 の取決めによる,経口抗がん剤治療を受けている 患者と関わる機会そのものの限界】【外来看護の. という薬剤特性による厳密な服薬コンプライアン スの必要性が患者に理解されにくく,他の経口薬 と同等の扱いがなされる可能性がある.また,経. 専門性を発揮していくことへの組織的障壁】が該 当する.この要因に起因すると考えられる課題 は,看護師個々が問題状況の改善を図ろうとして も容易ではなく,他部門・他職種との関係,業務. 口抗がん剤においても治療の中断が必要となる副 作用が生じうることから,副作用のセルフモニタ リング・マネジメントが必要となる.よって,経 口抗がん剤治療を受ける患者に対しては,経口抗. 体制,マンパワーなど組織体制や組織の姿勢に関 連する課題である.外来の多忙さは広く知られて. がん剤の正しい知識の提供やセルフケアの獲得に 向けた支援を対象特性に応じて継続的に行ってい. いることではあるが,特筆すべきは対象者たちが 思うような看護を実践できない要因として組織的 問題が関与しているととらえ,外来看護師として の役割や専門性,仕事のモチベーションにも影響 を及ぼしている点にある.さらに,外来看護師は 常勤・非常勤,パートなど様々な形態で就業して おり看護に対する姿勢や考えにも差が生じやすい 状況にあり,このことがチームとして患者に関 わっている感覚や外来看護師としての役割意識に. く必要があり,患者が疑問に思ったり気がかりな ことを気後れせず,遠慮なく尋ねられる雰囲気や 環境づくりが組織的取り組みとして必要と考え る.. も影響していた.このような課題は経口抗がん剤 治療を受けている患者に対してだけではなく,他 の外来患者にも共通しうる課題であり,外来看護 師がその役割・専門性を踏まえて看護を展開して. 部門であるはずの外来は看護人員の配置基準が長 年変わらず,外来看護師が担う業務は煩雑化する ばかりである.このような環境下では,患者の ニーズの把握や問題状況への早期対応,家族を含. いくには,組織的視点にたった問題状況の理解と 対応の検討が必要と考える.. めた療養生活の支援は難しい.そして,必要十分 な看護実践に向けては看護人員を確保するだけで. 《看護師側の要因》としては,【外来看護師とし て経口抗がん剤治療を受けている患者に関わる必 要性を意識することの難しさ】があり,これは前 述の業務の多忙さや患者と関わる機会の限界とも. はなく,専門職としての看護の機能が発揮できる ような組織体制・マネジメントが重要と考える. そのためには,まず外来看護師・組織が「経口抗 がん剤治療を受けている患者への看護」の必要性. 関連し,表だって問題がないと思われがちな経口 抗がん剤治療を受けている患者は看護の対象とし ての意識が薄くなっていると考えられる.さら. の理解を深め,看護の意義を明確にして各施設の 状況に応じた看護過程の展開,システム構築を図 ることが求められる.あわせて,看護師自身が外. に,このようなとらえ方は患者の表面化していな い問題やニーズを取りこぼしてしまい,適切な看 護介入の機会を見過ごすことにつながりかねな. 来における看護の本質,つまり専門職としての 『看護』に向き合い,組織的認識の変容に向けて 看護の重要性を組織内外に発信していくことも望. い.よって,経口抗がん剤治療を受けている患者 に対する看護実践においては,単にマンパワーの 確保や業務改善を図るだけでなく,看護師自身の. まれる.そして,この課題は組織的要因が大きい ことからも看護組織の運営を担う看護管理者の認 識強化と,外来看護師の専門性を発揮できるよう. ‘問題のない患者’‘関わりは必要のない患者’と. 2.経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対 する看護実践に向けた示唆 がん治療は入院治療から在宅,通院治療へと変 化しているが,がん治療を支える重要なサービス. な組織マネジメントが重要であると考える..
(5) 小坂他:経口抗がん剤治療を受けている患者への外来看護. 最後に,本研究にご協力頂きました対象者の皆 様と施設関係者の方々に心より感謝申し上げま す.なお,本研究は平成23∼26年度 JSPS 科研費 (23593265)の助成を受けて実施した研究の一部 である.. 和文要旨. 41. への理解を深め,看護の専門性が発揮できるよう な意識変容や組織マネジメントの必要性が示唆さ れた. キーワード:経口抗がん剤治療,外来患者,外来 看護. 引用文献 経口抗がん剤治療を受けている外来患者に対す る看護実践上の課題を明らかにすることを目的と し,外来看護師13名に半構造化面接を実施した. 分析の結果,看護実践上の課題は,【関わりたく ても介入そのものを阻む業務の多忙さ】【業務体 制や組織の取決めによる,経口抗がん剤治療を受 けている患者と関わる機会そのものの限界】【外 来看護の専門性を発揮していくことへの組織的障. 1)Moore, S. Facilitating oral chemotherapy treatment and. compliance through patients/family-focused education. Cancer Nursing. 2007, vol. 30, no.2, p.112-124. 2)Vinson, M. Thomas-Welch, K. Wen, L. Stein, B. Selfassessment of patients’knowledge and adherence to oral chemotherapy medications. Oncology Nursing Forum. 2009, vol.36, no.3, p.60-61.. 壁】 【外来看護師として経口抗がん剤治療を受け ている患者に関わる必要性を意識することの難し さ】 【服薬コンプライアンスの不備やセルフケア の確立が難しい患者の存在】の5項目に集約され. 著者連絡先: 〒261-0014 千葉市美浜区若葉2-10-1. た.この看護実践上の課題は組織的要因が基盤に あることから,組織内・外での外来看護の重要性. 小坂 美智代. 千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科. TEL:043-272-2892 E-mail:[email protected].
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