• 検索結果がありません。

中高英語教科書で用いられる二重目的語構文の頻度分析 ―用法基盤モデルに基づいて―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中高英語教科書で用いられる二重目的語構文の頻度分析 ―用法基盤モデルに基づいて―"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)『中国地区英語教育学会誌』 No. 50(2020). 中高英語教科書で用いられる二重目的語構文の頻度分析 ―用法基盤モデルに基づいて―. 広島大学大学院. 升田. 智紀. Many Japanese EFL learners don’t have enough knowledge about usage of verbs. Pedagogical approaches based on theories in cognitive linguistics can be a solution to this problem.. Based on two of these theories, Construction Grammar (Goldberg, 1995) and the. Usage-Based Model (Langacker, 2000), the present study aims to clarify the frequency effect in the textbooks on learners’ construction of knowledge about ditransitive constructions. The study analyzed fourteen English textbooks, and found that (a) the skewed input of ‘give ’ in textbooks for junior high school students can facilitate learners’ acquisition of ditransitive constructions, (b) low-variance across the construction types can hinder learners' acquisition of the constructions, and (c) textbooks for high school students exemplify more linguistic instances of the construction extension than those for junior high school students.. 1.. 序論 学習者が言語知識を構築する上で,学習者が触れるインプットが重要な役割を担うこ. とは数々の研究によって主張されてきた。その代表的のものの1つに,Langacker( 2000) らが提唱した,「用法基盤モデル(Usage-Based Model)」がある。用法基盤モデルは,. 母語話者が具体的な場面において,言語を実際に聞いたり使用したりするという身体的 な言語経験を通じて,そこからボトムアップ式にインプット内の共通項を抽出すること (スキーマ化)によって言語習得がなされると主張する。この言語習得理論を日本の英 語教育に当てはめると,中高英語教科書は中高英語学習者へのインプットとしての代表 性が顕著に高く,学習者の言語知識構築に大きな影響を与えていると予想される。 本研究は,学習者の言語知識の中でも,構文(construction)の知識に注目し,とりわ け中高生が多く目にするであろう二重目的語構文(ditransitive construction)を研究対 象とする。日本の主要な検定英語教科書は,二重目的語構文を 5 文型のうちの第 4 文型 (SVOO)と位置付け,高校 1 年生対象教科書の初期段階において,構文としての明示. 的な記述をしている。実際の指導場面では,日本語のニ格ヲ格にこの構文を対応させ, 「O 1(人)に O 2(もの)を V する」と示し,それぞれのスロットに当てはまる動詞や名 詞を挿入させる指導が一般的である(中森, 2009)。 しかし,このように日本語と英語それぞれの言語形式を短絡的に結びつける指導は, 学習者への負担という点で問題があると考えられる。例えば,当該の指導を受けた学習 者は,日本語の助詞の意味に依存して英文を捉えてしまい,英語の構文そのものが持つ 多様な意味についての理解を欠くことが予測される。英語の構文自体が持つ多様な意味. - 11 -.

(2) についての理解をしない限り,学習者は,動詞が持つ統語情報と意味情報のみを頼りに 文全体の意味を推測することになる。その結果,学習者にとって予期せぬ動詞が二重目 的語構文で用いられた際に,その文全体の意味を推測することが困難になり,学習者は その構文の動詞スロットにどのような動詞が当てはまるかを逐一項目学習することにな る。そのような学習法は,結果的に学習者に負担をかけることになりかねない。例えば, 動詞 ‘deny’ を 1 つの目的語を取る他動詞としか認識していない学習者は, “My father. denied me a cookie.” という文の意味を動詞から推測することができず,「deny + O 1 +. O2(O1 に O 2 を与えない)」という動詞の語法と意味を個別に記憶しなければならない。 この学習者負担の問題について,Goldberg( 1995)が提唱する「構文文法(Construction. Grammar)」の観点から文法を捉え,構文自体が意味を持つことを認めることは,第二. 言語学習者にとっても体系的で理にかなった解決策となりうる(Tyler, 2012)。学習者 がある英文の意味を動詞の意味からだけでは推測できない際に,構文文法の観点から言 語表現を捉えることで,すでに見聞きした類似の統語情報を持つ構文の意味を頼りに, 意味理解を試みることができる。なお,構文文法は,同様の統語規則を持つ構文間に共 通の意味が存在することを認めるという点で,ボトムアップ式のスキーマ化を重視する 用法基盤モデルとの親和性が高いとされている。 本研究では,二重目的語構文の知識を学習者が構築するために,中高英語教科書から 得られるインプットがどのような役割を果たすか,用いられる動詞の頻度を用法基盤モ デルの観点から分析することで明らかにすることを目的とする。教科書から得られるイ ンプットのみでは不十分となる例には,当該の例を指導の重点課題として提案すること ができると期待される。 2.. 先行研究. 2.1. 構文としての二重目的語構文. 2.1.1 構文文法の考え方 構文は,広義には「形式と意味の直接的な対応物(Goldberg, 1995)」を表すが, Goldberg(1995)は構文を(1)のようにさらに狭義に定義している 1。 (1)C is a CONSTRUCTION iff def C is a form-meaning pair <F i, Si> such that. some aspect of F i or some aspect of Si is not strictly predictable from C’s component parts or from other previously established constructions.(Goldberg, 1995, p.4). 認知言語学の考え方では,全ての言語単位はミクロ(形態素)であれマクロ(文法) であれ,部分の総和から単純に予測できず,ゲシュタルト的な単位として機能する(山 梨, 2009)。すなわち,ある言語表現の構成要素(形態素や語)の意味を規則に即して合. 成すればその言語表現全体の意味が得られるとする,「構成性の原理(the principle of compositionality)」に当てはまらない事例が多く存在することを認めている。構文文法 における構文もそのようなマクロな言語単位の一例であり,文全体の意味が,構成性の 原理から予測できない場合,構文が動詞とは別にゲシュタルト的な意味を持つというこ とを認めている。構文文法では,構文の持つ意味を動詞が具現化することによって,構 文と動詞が融合し,言語表現全体の意味が得られるとしている(Goldberg, 1995)。. - 12 -.

(3) Goldberg が 定 義 す る , 意 味 − 形 式 の 対 応 を 持 つ 構 文 は , 項 構 造 構 文 ( Argument Structure Construction)と呼ばれ,その代表的な構文は表 1 に示す通りである。これ らの中でも,日本の中高生の学習者が英語教科書で目にする機会が特に多いであろう二 重目的語構文を,本研究の研究対象とする。 表 1.. 基本的な項構造構文(Goldberg, 1995, p.3) 構文. 構文の意味. 構文の形式. 1. 二重目的語構文. X CAUSES Y to RECEIVE Z Subj V Obj Obj 2. 2. 使役移動構文. X CAUSES Y to MOVE Z. 3. 結果構文. X COUSES Y to BECOME Z Subj V Obj Xcomp. 4. 自動詞移動構文. X MOVES Y. 5. 能動構文. X DIRECTS ACTION at Y. Pat faxed Bill the letter.. Subj V Obj Obl. Pat sneezed the napkin off the table. She kissed him unconsciousness. Subj V Obl. The fly buzzed into the room.. Subj V Obl at. Sam kicked at Bill.. 2.1.2 二重目的語構文の典型的意味と意味拡張 Goldberg(1995)によると,二重目的語構文自体が持つ意味として,典型的には“Agent. successfully causes recipient to receive patient.” すなわち <CAUSE-RECEIVE> が対 応するとされている。この < CAUSE-RECEIVE> という意味は,二重目的語構文が表す 事態の最も典型的な意味(プロトタイプ)である。 (2)英語の二重目的語構文の多義性 : 'X CAUSES Y to RECEIVE Z’ (central sense) a. Actual transfer 例: Joe gave Sally the ball. 動詞: give, pass, hand, throw, toss, bring など b. Obligated transfer : Conditions of satisfaction imply 'X CAUSES Y to RECEIVE Z’ 例: Joe promised Bob a car. 動詞: guarantee, promise, owe など c. Facilitated transfer : 'X ENABLES Y to RECEIVE Z’ 例: Joe permitted Chris an apple. 動詞: permit, allow d.Prevented transfer : 'X CAUSES Y not to RECEIVE Z’ 例: Joe refused Bob a cookie. 動詞: refuse, deny e. Intended transfer : 'X INTENDS to CAUSE Y to RECEIVE Z’ 例: Joe baked Bob a cookie. 動詞: bake, make, build, get, earn, win など. f. Future transfer : 'X ACTS to CAUSE Y to RECEIVE Z at some future point in time’ 例: Joe bequeathed Bob a fortune. 動詞: bequeath, leave, allocate, reserve など g. Knowledge transfer : Metaphorical extension from 'X CAUSES Y to RECEIVE Z’ 例: Joe told me his secret. 動詞: teach, tell など (Goldberg, 1995, p.75; Tyler, 2012, p.191 を一部改変) 構文文法は,(2)のように,構文においても中心的な意味から周辺的な意味へと意味拡 張をする多義性を持つと仮定する。このように,二重目的語構文が <CAUSE-RECEIVE>. - 13 -.

(4) という単一の抽象的な意味とだけ結びついているのではなく,様々な動詞が用いられる ことにより,中心的なものから拡張的なものへと構文レベルの比喩的拡張を起こしてい る。さらに,この意味拡張は一方向的なものではなく,(2a)を中心として放射状に広 がるものとされ,Tyler はこの意味拡張を図 1 のように示している。. (b) Obligated transfer. (f) Future transfer. (a) Actual transfer. (e) Intended transfer. (g) Knowledge transfer. (c) Facilitated transfer. (d) Prevented transfer. 図 1. 二重目的語構文の意味拡張(Tyler, 2012, p.199 を一部改定) また,二重目的語構文の意味拡張は,以下のような名詞(参与者)の比喩的拡張も見 られる。二重目的語構文の動作主(agent)になり得る語は典型的には意思を持つ有生物 ではあるものの,(3)のように無生物を主語とした言語表現も容認される(動作主の有 生性)。また,受容者(recipient)は典型的には有生物であるものの,(4)のような言 語表現は容認される(受容者の有生性)。さらに,被動作主(theme / patient)は移送 物であるため,典型的には接触が可能な(tangible)「物」であるものが多いが,(5) のように接触が不可能で抽象的(intangible)な「モノ」(概念や出来事)でも表される (被動作主の具体性)。 (3) a. The medicine brought him relief.. (Goldberg, 1995). b. The missed ball handed him the victory on a silver platter. (Goldberg, 1995) (Goldberg, 1995) (4) a. The paint job gave the car a higher sale price. (山梨, 2009) b. I must give the room a good airing. (山梨, 2009). (5) a. Jan gave Chris a punch.. (山梨, 2009). b. He allows himself no rest.. 2.2. 用法基盤モデルと構文の習得. 2.2.1 用法基盤モデル 用法基盤モデル(usage-based model)は,母語話者の言語知識が成立するまでのプロ セスを認知言語学の観点から説明するために,Langacker や Tomasello らが提唱した理 論である。用法基盤モデルは,認知主体の言語使用や言葉の習得過程に関わるボトムア ップ的アプローチを重視する(山梨, 2009)。すなわち,母語話者は,ある場面において 言語を実際に聞いたり使用したりするという身体的な言語経験を通じて,そこからパタ ンを抽出し(スキーマ化),言語を習得するのである。2.1 において紹介した構文文法も 用法基盤モデルの考えに則っており,構文の習得においても,個々の事例 1 つ 1 つを動 詞の語法として個別に記憶するのではなく,それぞれの事例から共通のスキーマを抽出 して,構文としての知識を体系化することが求められる。. - 14 -.

(5) 2.2.2. 頻度効果. 用法基盤モデルの考えは,言語知識の構築が,具体的な個々の言語表現の頻度効果に よって動機付けられるとしている。頻度はトークン頻度とタイプ頻度に分類され,これ ら 2 つの頻度の相互作用によって言語習得は促進される。 トークン頻度とは,特定の語や言語表現が同じ形式で何回出現したかを表す頻度であ る。Casenhiser and Goldberg(2005)は,未知の構文を学ぶ際には,特定の動詞のトー クン頻度が高い(skewed input)ほど学習効果が高いことを示した。第二言語習得にお. いても,トレーニングの初期段階で十分なプロトタイプの事例を含むインプットを供給 することの有効性は認められている(Goldberg & Casenhiser, 2008)。 一方,タイプ頻度とは,ある言語表現やパターンが同じスロット内でどれだけ異なる 形式で現れたかを表す頻度である。同一タイプ内において様々な形式で現れる言語表現 については,学習者はその言語表現に規則性を見出し(スキーマ化),共通のカテゴリ ーとして認識することができる。さらに,学習者がある構文について多様な事例に遭遇 することで,その構文はより生産的(productive)になりうる(Bybee, 2008)。なお, ここでの生産性(productivity)とは,ある規則が新しい言語表現を認可することができ る度合いについて表している(Langacker, 2000)。話者がより多くの種類の事例に遭遇 するにつれて,話者が持つ構文知識のスキーマの生産性が高くなっていき,未知の言語 表現に対しても意味拡張を行いやすくなる(Bybee & Thompson, 1997)。 本研究では,これらの 2 つの頻度が及ぼすであろう影響を考慮し,中高等学校の英語 教科書に見られる二重目的語構文の動詞の頻度について分析し,英語教科書を通じて学 習者が構築する構文知識について考察を行う。 3. 研究課題 本研究は,以上の先行研究をもとに,学習者が日本の中高英語教科書から得るインプ ットが,学習者の構文知識の構築を助けるものとなっているかどうかを検証するために, 頻度効果の観点から日本の中高英語教科書に用いられる二重目的語構文の分析を行った。 それぞれの動詞のトークン頻度の観点から,初期学習者の学習効果を高める特性は見 られるか(RQ1),そしてタイプ頻度の観点から,学習者の構文のスキーマ化を促すほ ど十分な動詞の多様性は見られるか(RQ2),中学教科書から高等学校教科書へ対象学 年が上がるにつれて,より拡張度の高い言語表現が多く用いられているか(RQ3)につ いて考察するため,以下の 3 つの研究課題を設定した。 RQ1. 中学校英語教科書内の二重目的語構文において,プロトタイプ動詞 give が多 く割合を占めているか。. RQ2. 中高英語教科書内の二重目的語構文に見られる動詞のカテゴリー別タイプ頻 度に,多様性が見られるか。. RQ3. プロトタイプ動詞 give を用いた英文のうち,名詞の意味拡張が見られる言語 表現の割合は中高英語教科書間で差が見られるか。. - 15 -.

(6) 4. 分析対象,分析手法 分析対象は,2018 年 2 月 16 日刊行の『内外教育(時事通信社)』において,全国で. の採択率が 5 位以内の中高英語教科書である。中学校英語教科書からは第 2 学年第 3 学 年用の教科書を 2 社 4 冊,高等学校コミュニケーション英語教科書からは 2 社 6 冊,高 等学校英語表現教科書からは 2 社 4 冊,合計 14 冊(表 2)を分析した。 表 2. 分析対象の検定教科書 教科書. 出版社. 発行年月日. ページ数. SUNSHINE ENGLISH COURSE 2. 開隆堂. 2016 年 2 月 5 日. 151. SUNSHINE ENGLISH COURSE 3. 開隆堂. 2016 年 2 月 5 日. 143. NEW CROWN 2 ENGLISH SERIES New Edition. 三省堂. 2017 年 2 月 20 日. 159. NEW CROWN 3 ENGLISH SERIES New Edition. 三省堂. 2016 年 2 月 25 日. 159. Revised ELEMENT English CommunicationⅠ. 啓林館. 2017 年 12 月 10 日. 207. Revised ELEMENT English CommunicationⅡ. 啓林館. 2017 年 12 月 10 日. 223. ELEMENT English CommunicationⅢ. 啓林館. 2017 年 12 月 10 日. 183. CROWN English CommunicationⅠ New Edition. 三省堂. 2019 年 3 月 30 日. 192. CROWN English CommunicationⅡ New Edition. 三省堂. 2019 年 3 月 30 日. 216. CROWN English CommunicationⅢ. 三省堂. 2017 年 3 月 30 日. 192. DUALSCOPE English ExpressionⅠ. 数研出版 2018 年 1 月 31 日. 143. DUALSCOPE English ExpressionⅡ. 数研出版 2018 年 1 月 31 日. 143. Revised Vison Quest English ExpressionⅠ Standard 啓林館. 2017 年 12 月 10 日. 143. Revised Vison Quest English ExpressionⅡ Ace. 2017 年 12 月 10 日. 151. 啓林館. まず,14 冊の英語教科書のうち,構文知識の構築に影響を及ぼすと考えられる全ての 本文と特別企画(Try, My Project, Let’s Talk, Review, Comprehension, 文法まとめ, 巻 末資料など)を対象に,二重目的語構文に用いられる動詞の個別頻度を集計した(RQ1)。 この段階での,個々の動詞が用いられた頻度を,本研究におけるトークン頻度と定義し た。集計に当たっては,動詞の派生(例えば give, gives, gave, given)は同一トークン. とみなした。進行相(be giving),完了相(have given),法助動詞(can give)など のモダリティによる区別は考慮に入れず,同一トークンとみなし,分析の対象とした。 受動態を用いた文,疑問文などにおいて,その句構造が二重目的語構文であると判断で きる言語表現については分析の対象とした。従属節内に含まれる動詞についても,主節 内の動詞と同様,分析の対象とした。なお,直接目的語に that 節をとるものについては, 構文文法で議論されることが少ないため,分析の対象からは除いた。 次に,それらの動詞を 2.1.2 に挙げた(2a)から(2g)の二重目的語構文の 7 つのカ テゴリーに分類し,どれほど多様な動詞カテゴリーが二重目的語構文に用いられている かを集計した(RQ2)。この段階での,どれほど多様なカテゴリーの動詞が二重目的語 構文に用いられているかという,そのカテゴリーの頻度を本研究におけるタイプ頻度と 定義した。英語教科書内に見られる二重目的語構文のタイプ頻度(実測値)を Zipf の法 則による予測値と比較し,予測値と実測値における決定係数を求めた。Zipf の法則は, 自然に存在する出現頻度の特徴を記述する言語法則の 1 つであり,あるテキストの中で 最も頻度の高い語が全トークン数に占める割合を x%とすると,2 番目に頻度の高い語は. - 16 -.

(7) そのテキストの x/2%,3 番目は x/3%を占めるというものである(Taylor, 2012)。計量 言語学において,あるテキストにおいて出現する要素の頻度分布は一般的にこれに従う とされている。本研究では,この Zipf の法則により予測される頻度を,自然の言語使用 において出現する二重目的語構文の頻度(予測値)と仮定し,英語教科書内で計上され た実測値と比較した。 最後に,中高英語教科書それぞれに見られる二重目的語構文のうち,プロトタイプ動 詞 give を用いた言語表現を抽出し,それらを動作主の有生性(animacy),受容者の有 生性(animacy),被動作主の具体性(tangibility)という 3 つの観点から,拡張の有無 を集計した。その結果を,観点ごとにクロス集計表にまとめ,中学校英語教科書と高等 学校英語教科書で拡張事例が占める割合に差があるのか,Fisher の正確確率計算を用い て有意差を判別した(RQ3)。 5. 結果と考察 5.1. 中学校英語教科書における動詞のトークン頻度(RQ1). 中学校英語教科書における動詞のトークン頻度を,表 3 に示す。半数近く(42.42%). にプロトタイプの動詞( give )が用いられていることがわかる。この観測的事実は,第. 二言語習得においてトレーニングの初期段階で十分なプロトタイプの事例を含むインプ ットを供給することは<意味−形式>の習得を促す点で有効(Goldberg & Casenhiser, 2008)とする先行研究と合致した。したがって,中学校英語教科書は初期学習者にとっ. て二重目的語構文の基本概念<CAUSE-RECEIVE >の理解を促す効果があると示唆される。 表 3. 中学校英語教科書内の二重目的語構文に用いられる動詞のトークン頻度 二重目的語構文に用いられる動詞. give tell show teach send ask 2 buy award hand sing write make promise wish. トークン数. 割合. 42 42.42% 16 16.16% 14 14.14% 8. 8.08%. 3. 3.03%. 3. 3.03%. 2. 2.02%. 1. 1.01%. 1. 1.01%. 1. 1.01%. 1. 1.01%. 5. 1. 1 計. 99. - 17 -. 5.05%. 1.01%. 1.01%.

(8) 5.2. 中高英語教科書における動詞のタイプ頻度(RQ2). 中高英語教科書における動詞のタイプ頻度は,表 4 のとおりである。全カテゴリーの. うち,半数以上(50.86%)を Actual transfer が占めており,Knowledge transfer( 38.62%), Intended transfer( 6.88%)がそれに続いた。それ以外の Obligated transfer,Facilitated transfer,Prevented transfer,Future transfer については,中高英語教科書ではほと んど用いられていなかった。 表 4. 中高英語教科書における多義性カテゴリー別頻度 多義性カテゴリー. 動詞. 頻度. 266 (give ;203, send ;24, lend ;12, bring ;10, offer ;4, 50.86%. a. Actual transfer. b. Obligated transfer c. Facilitated transfer d. Prevented transfer e. Intended transfer. pass ;3, award ;3, sell ;2, spare ;2 hand ;2, throw ;1) 1 (promise ;1). 0.19%. 0. 0.00%. 0. 0.00%. 36 (buy ;14, do ;6, get ;6, make ;4, find ;2, call ;1,. 6.88%. pack ;1 sing ; 1, write ;1) f. Future transfer 1 (leave ;1) 0.19% g. Knowledge transfer 202 (tell ;87, ask ;45, show ;39, teach ;30, train ;1) 38.62% 判別困難 17 (wish ;4, take ;4, cause ;2, save ;3, cost ;2, 3.25% kiss ;1, drop ;1) この結果を,Zipf の法則によって求めた予測値と比較すると,図 2 および図 3 のような. 150 100 50 0. 頻度. 200. 250. 結果が得られた。. 1. 2. 3. 4. 順位. 5. 6. 7. 8. 図 2. 英語教科書内カテゴリー別頻度と順位の関係. - 18 -. 3.

(9) 250 200 150. 予測値. 100 50 0 0. 50. 100 150 実測値. 200. 250. 図 3. 英語教科書内カテゴリー別頻度(実測値)と Zipf の法則(予測値)の散布図 中高英語教科書での二重目的語構文のタイプ頻度は,Zipf の法則による予測値とある程 度近似(決定係数 R 2 = .88)しているものの,第 1 位(Actual transfer)と第 2 位 (Knowledge transfer)以外は,Zipf の法則で期待される予測値よりも実測値の方が下. 回る傾向にある。すなわち,第 3 位以下のカテゴリーについては,自然に存在する頻度 よりも少ない可能性がある。個々の動詞トークンだけ見れば,多くの種類の動詞(34 種) が用いられているように思われるが,カテゴリーごとに分けてみると,同一カテゴリー に偏っていることがわかる。頻度が低いタイプ,特に Obligated transfer, Facilitated transfer, Prevented transfer, Future transfer について学習者がより多くの英文に触 れることで,拡張的な意味理解が可能になるのではないかと期待される。 5.3. 中高英語教科書間における名詞拡張事例の差(RQ3). 中高英語教科書内の二重目的語構文のプロトタイプ動詞 give を用いた英文(中学 42. 例,高等学校 161 例)のうち,名詞の意味拡張がどれほど見られるか,動作主の有生性. (animacy),受容者の有生性,被動作主の具体性(tangibility)の 3 つの観点からクロ ス集計表を作成した。その結果,以下の表 5 から表 7 のような結果が得られた。 表 5. 中高英語教科書における,動作主の有生性の意味拡張 教科書 \ 拡張 中学校 高等学校 計. プロトタイプ(animate). 拡張事例(inanimate). 合計. 39 (92.86%) 128 (79.50%). 3 (7.14%) 33 (20.50%). 42. 167. 36. 203. 161. 表 6. 中高英語教科書における,受容者の有生性の意味拡張 教科書 \ 拡張 中学校 高等学校 計. プロトタイプ(animate) 38 (90.48%) 153 (95.03%). 拡張事例(inanimate) 4 (9.52%) 8 (4.97%) 12. 191. - 19 -. 合計 42 161 203.

(10) 表 7. 中高英語教科書における,被動作主の具体性の意味拡張 教科書 \ 拡張 中学校 高等学校 計. プロトタイプ(tangible). 拡張事例(intangible). 合計. 31 (73.81%) 53 (32.92%). 11 (26.19%) 108 (67.08%). 42. 84. 119. 203. 161. 動作主の有生性(表 5)について,中学校英語教科書では,動作主が有生物である英文 (二重目的語構文のプロトタイプ)が 39 例(92.86%),動作主が無生物である英文(拡 張事例)が 3 例(7.14%)見られた。一方,高等学校英語教科書では,動作主が有生物で ある英文(プロトタイプ)が 128 例(79.50%),動作主が無生物である英文(拡張事例) が 33 例(20.50%)見られた。 受容者の有生性(表 6)について,中学校英語教科書では,受容者が有生物である英文. (プロトタイプ)が 38 例(90.48%),受容者が無生物である英文(拡張事例)が 4 例 (9.52%)見られた。一方,高等学校英語教科書では,受容者が有生物である英文(プロ トタイプ)が 153 例(95.03%),受容者が無生物である英文(拡張事例)が 8 例(4.97%) 見られた。 被動作主の具体性(表 7)について,中学校英語教科書では,被動作主が「物」である 英文(プロトタイプ)が 31 例(73.81%),被動作主が「モノ」である英文(拡張事例) が 11 例(26.19%)見られた。一方,高等学校英語教科書では,被動作主が「物」であ る英文(プロトタイプ)が 53 例(32.92%),被動作主が「モノ」である英文(拡張事. 例)が 108 例(67.08%)見られた。. それぞれの観点について,中学校英語教科書と高等学校英語教科書間で拡張事例数は 互いに独立であるという帰無仮説のもと,有意水準 5%で Fisher の正確確率計算によっ て有意性を検討した。その結果,表 6 における受容者の有生性において,検定は有意で はなかった( p = .28, OR = 0.50)ものの,表 5 における動作主の有生性( p = .04, OR =. 3.34)及び,表 7 における被動作主の具体性( p < .01, OR = 5.69)においては,いずれ も有意であった。このことから,高等学校教科書では,中学校英語教科書に比べ,同じ. give を用いた英文であっても動作主の無生物化,被動作主の抽象化という意味拡張が多 く見られると言える。すなわち,学習者は,中学校から高等学校へと学習段階が上がる につれて,意味的拡張がより進んだ構文に段階的に触れていると考えられる。 5.4 結論. 5.4.1 結果の総括 本研究では,中高英語教科書が学習者の構文知識の構築に与える影響について,頻度 効果の観点から分析を行った。RQ1 に関して,中学校英語教科書が二重目的語構文のプ ロトタイプ動詞( give )を比較的多用するということは,入門期において二重目的語構 文の基本的な意味の定着を促すのに適切であるという証拠になる。しかし,第二言語習 得において,学習者が二重目的語構文の特定の動詞( give )について偏りのあるインプ ットを得ることは,必ずしも全ての学習者の構文知識の構築を助けるとは限らない (Year & Gordon, 2009)。習得の入門期においては特定の動詞について多量のインプ ットを得ることは有効であるが,学習段階が進むと特定の動詞についてのみ過剰に多量 のインプットを与えることは,かえって学習者の構文知識の構築の妨げとなりうる. - 20 -.

(11) (Boyd & Goldberg, 2009)。RQ2 に関して,学習者が中高英語教科書から得るインプ ットのカテゴリーのタイプ頻度には偏りが見られる。限られた言語表現のみ高頻度で経 験することは,構文のカテゴリー化を狭めてしまい,学習者は未知の言語表現について 認可することが困難になってしまうという指摘もある(Goldberg, 2019)。ある程度学 習段階が進んだ高校生にとっては,より様々なカテゴリーの動詞が用いられた用例をイ ンプットとして経験することが重要であると考えられる。一方で,名詞の比喩的拡張と いう観点から見ると,RQ3 に関して,中学校から高等学校へと学習段階が上がるにつれ て,同じ give を用いた構文でも,名詞の比喩的拡張がなされた構文をインプットとして 経験することが多くなるという結果も得られた。これにより,学習者は段階的に構文の 意味拡張の知識を広げることが可能であると考えられる。 5.4.2 教育的示唆 本研究の結果は,教師が構文指導を行う際の手助けとなりうる。構文指導における教 師の役割の 1 つとして,特定のインプットが言語習得を促進するものかどうかを評定す ることがあげられる(Littlemore, 2009)。本研究に関して言えば,生徒が英語教科書か ら構築するであろう二重目的語構文の知識を予測するために,教師が英語教科書が持つ その構文のインプットの頻度の特徴を把握することが重要である。そのことを経て,教 師は指導における重点課題を明確化することができる。学習段階が進んだ高等学校にお ける構文指導において,中心的カテゴリー(actual transfer)以外の用例を教師の発話 や教科書以外のインプットから与えること,または,構文文法に基づく明示的指導を行 うことによって 4 ,生徒の構文への意識づけを促すことができるのではないだろうか。 なお,本研究では二重目的語構文を構文の一例として取り上げたが,他の構文につい ても,構文指導における留意点は同様のことが言える。教科書が持つインプットの特徴 を知り,生徒の構文への意識づけを促すことで,語彙の意味からだけでは意味を推測が 困難な事例に生徒が遭遇した際に,その意味理解の手助けとなることを期待する。 謝辞 本研究は,中国地区英語教育学会による CASELERs 研究費助成を受けたものである。 注 (1)の定義において,Fi とは言語形式(Form),Si とは意味(Sense)を表してい る。なお,Goldberg は後にこの定義を緩め,構成性の原理に従う場合にも,そのパタン が高頻度で生起する場合には「構文」であると認めている。(Goldberg, 2006, p.5) 2 動詞 ‘ ask’ を用いた用例について,伝統文法では,to 与格を取らないという点におい て,他の二重目的語構文とは区別されることが多い。しかし,構文文法では二重目的語 構文と与格構文は別の構文として扱われるため,二重目的語構文において与格構文での 振る舞いは必ずしも議論されない。従って,本研究では動詞 “ ask” を用いた用例に情報 の移送があること認め,二重目的語構文の一例(Knowledge transfer)として分析の対 象とした。 3 点は頻度,破線は Zipf の法則による予測値を表す。 4 構文文法に基づく明示的指導の有用性は,Tyler(2012)により示されている。 1. - 21 -.

(12) 参考文献 Boyd, J., & Goldberg, A. E. (2009). Input effects within a constructionist framework.. The. Modern. Language. 4781.2009.00898.x. Journal,. 93,. 418–429.. doi:. 10.1111/j.1540-. Bybee, J. (2008). Usage-based grammar and Second Language Acquisition. In P.. Robinson & N. C. Ellis (Eds.), Handbook of Cognitive Linguistics and Second. Language Acquisition (pp. 216–236). New York: Routledge.. Bybee, J., & Thompson, S. (1997). Three frequency effects in syntax. Berkeley. Linguistic Society, 23, 378–388. doi: 10.3765/bls.v23i1.1293. Casenhiser, D., & Goldberg, A, E. (2005). Fast mapping of a phrasal form and meaning.. Developmental. 7687.2005.00441.x. Science,. 8,. 500–508.. doi:. 10.1111/j.1467-. Goldberg, A, E. (1995). Constructions: A Construction Grammar Approach to. Argument Structure. University of Chicago Press.. Goldberg, A, E. (2006). Constructions at Work: The Nature of Generalization in. Language. Oxford University Press.. Goldberg, A, E. (2019). Explain Me This: Creativity, Competition, and the Partial. Productivity of Constructions. Princeton University Press.. Goldberg, A, E., & Casenhiser, D. (2008). Construction learning and Second Language Acquisition. In P. Robinson & N. C. Ellis (Eds.), Handbook of Cognitive Linguistics. and Second Language Acquisition (pp. 197–215). New York: Routledge.. Langacker, R, W. (2000). A Dynamic Usage-Based Model. In M. Barlow & S. Kemmer (Eds.),. Usage-Based Models of Language (pp.1–64). Stanford: CSLI Publications.. Littlemore, J. (2009). Applying Cognitive Linguistics to Second Language Learning. and Teaching. Basingstoke, Hampshire: Palgrave Macmillan.. Taylor, J, R. (2012). The Mental Corpus: How Language is Represented in the Mind. Oxford University Press.. Tyler, A. (2012). Cognitive Linguistics and Second Language Learning: Theoretical. Basics and Experimental Evidence. New York: Routledge.. Year, J., & Gordon, P. (2009). Korean speakers’ acquisition of the English ditransitive. construction: The role of verb prototype, input distribution, and frequency. The. Modern Language Journal, 93, 399–417. doi: 10.1111/j.1540-4781.2009.00898.x. 中森誉之. (2009). 『学びのための英語学習理論−つまずきの克服と指導への提案』 東京: ひつじ書房. 山梨正明. (2009). 『認知構文論−文法のゲシュタルト性』 東京:大修館書店.. - 22 -.

(13)

表 4.  中高英語教科書における多義性カテゴリー別頻度
図 3.  英語教科書内カテゴリー別頻度(実測値)と Zipf の法則(予測値)の散布図
表 7.  中高英語教科書における,被動作主の具体性の意味拡張 教科書 \ 拡張 プロトタイプ( tangible ) 拡張事例( intangible ) 合計 中学校 31  ( 73.81% ) 11  ( 26.19% ) 42  高等学校 53  ( 32.92% ) 108  ( 67.08% ) 161  計 84    119    203      動作主の有生性(表 5 )について,中学校英語教科書では,動作主が有生物である英文 (二重目的語構文のプロトタイプ)が 39 例( 92.86

参照

関連したドキュメント

Lexical aspect and L1 influence on the acquisition of English verb tense and aspect among the Hong Kong secondary school learners. Dissertation Abstracts International, A:

A tendency toward dependence was seen in 15.9% of the total population of students, and was higher for 2nd and 3rd grade junior high school students and among girls. Children with

明治33年8月,小学校令が改正され,それま で,国語科関係では,読書,作文,習字の三教

Compared to working adults, junior high school students, and high school students who have a 

解析の教科書にある Lagrange の未定乗数法の証明では,

FSIS が実施する HACCP の検証には、基本的検証と HACCP 運用に関する検証から構 成されている。基本的検証では、危害分析などの

The hypothesis of Hawkins & Hattori 2006 does not predict the failure of the successive cyclic wh-movement like 13; the [uFoc*] feature in the left periphery of an embedded

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”