1 はじめに 東日本大震災における遺体関連業務に従事した職員を対象 とした研究に、発生直後から2カ月間に延べ1カ月にわたり、 被災地の遺体安置所における遺族支援に従事した警察官を対 象とした、遺体確認時の遺族への支援を記述したもの(藤代 2012)、被災した自治体職員へ被災半年後に半構造化面接を行 い、有事の業務と思いを分析したもの(岩本 2015)、身体的 精神的健康に影響する苦痛を分析したもの(岡本 2016)など がある。 これらの研究から警察、消防、医療関係を除けば、遺体対応 という非日常業務に、一般行政職が従事することは少ないとい える。遺体関連業務は、一般行政職にとって、危機的状況への 対応を組織的に訓練された警察や消防、自衛隊とは違い、通常 業務とは全く異質なものであり、やるしかない状況下で、公務 員としての責任感と、助かった命、残った人員として懸命に遂 行していたものであった(岡本 2016)と述べている。岡本や 藤代の研究は、遺体関連業務に従事した個人を対象に質的帰納 的分析がなされている。 一方、災害時に組織が直面する問題として、ダインズとクワ ランティリ(Dynes,R.R. & Quarantelli, E.L.,1968)は、① 不確実性の増大、②緊急性の増大、③一般的コンセンサスの成 立、④自律性の低下、⑤参加・動員の調整基盤の変化を指摘 している(山本 1981)。災害時に活動する組織を分析すると、 容易に上記の課題が抽出される(高橋 2006)。災害関連組織 にとって、「災害時」(とくに緊急期および復旧期)という状況は、 対応にあたって「不確実性の増大」、「緊急性の増大」、「相互依 存性の増大(自律性の低下)」など、タスク環境の急激な変化と、 その中で自組織に負荷される諸要請の量の増大・質の変化が生 じる状況である(野田 1997)としている。 「不確実性の増大」とは、人・物・情報などの諸資源に関す る予測・制御可能性の低下のことであり、「緊急性の増大」とは、 早急に対処しなければならないタスク(課業)が増大するため、 通常の伝達構造・意思決定構造のままでは間に合わないという 問題が生じることであり、「相互依存性の増大」とは、災害に よる被災社会全体にとっての災害対応諸資源の絶対量の低下に より、各組織がお互いに所有する資源への依存を高めざるを得 ない状態をいう(野田 1997)と表現している。災害時に組織 で業務する一般行政職の直面する課題の分析においても、「不 確実性の増大」、「緊急性の増大」、「相互依存性の増大(自律性 の低下)」の分類に沿って分析することが可能ではないかと考 える。 本研究では、東日本大震災において遺体対応関連業務に従事 した一般行政職の行動や言動から、遺体対応関連業務の課題を 分析することを目的とした。 2 本論 災害時における遺体の取り扱いには、①行方不明者の捜索、 ②遺体の処置(収容、検案、洗浄・縫合・消毒等、一時保存、 身元確認、引取り)、③遺体処置に関する書類(死亡検案書) の作成、整理、④遺体の埋火葬などがある。行方不明者の捜索 においては、警察、消防、自衛隊が担うところが大きく、遺体 の処置においては警察が中心となり活動する。 一方、遺体処理に関する書類の作成、整理においては、警察 と医師及び都道府県市町村が、遺体の埋火葬に関する業務は都 道府県市町村が主体となって担っている。 本研究では、遺体対応関連業務を、災害発生直後からの遺体 の搬送、検視・検案、一時的な保存、遺体の洗浄、死体検案書 の交付、死亡届の受理、火葬許可証の交付等の関係法令に基づ く手続き、埋火葬に係る業務と定義した。また、一般行政職員 とは、地方公務員と呼ばれ各都道府県及び市町村で勤務してい る職員の内、教育、警察、消防職を除く、地域住民の生活や産 業に密着した行政サービスを行う仕事に従事している者と定義 した。 (1)研究方法 1)インタビュー対象者 インタビュー対象者は、東日本大震災の被災自治体で、死者・ 行方不明者数が確認された自治体の一般行政職員9名である。 調査の際、自治体の長に、調査目的と内容を記入した調査協力 依頼書を送付し、承諾が得られた後、自治体の担当者が遺体対 応業務に従事した経験がある職員に対して、インタビューへの 協力を依頼した。自治体の概要は、人口 34 万人(2010 年国 勢調査)、一般行政職員数約 1,700 人(2011 年)であり、被 害の態様は、震度6弱、死者行方不明者約 300 人、建物全半 壊約 25,000 戸(2011 年8月)である。 2)データ収集方法 調査は、1 グループ4~5人のフォーカスグループインタ ビューで行った。インタビューは、自治体の会議室で、勤務時 間中に業務に差し支えない時間に実施し、1グループ 60 分~ 70 分とした。 調査項目は、基本的属性として、現在の年齢、東日本大震災 当時の年齢、現在の所属課、震災当時の所属課・職位、震災当 時に行った業務、その業務を担当した期間とし、遺体対応関連 業務に関する内容は、「どのような流れで業務を遂行したか」、 「業務を命じられたときはどのような気持ちだったか」、「ご家 族がご遺体を確認されるまでにどのような経緯があったか」、
研究ノート
東日本大震災被災自治体における遺体対応関連業務に
従事した一般行政職が直面した課題
中
なか川
がわ武
たけ子
こ (九州看護福祉大学)No 性 震災当時 の年代 震災当時の所属課 職位 震災当時に行った業務 業務を担当した期間 1 男性 40歳代 観光に関する課 主査 遺体安置所従事業務 2011年3月20日頃~3月30日頃 2 男性 30歳代 住民と窓口で直接対応する課 主査 火葬場従事業務 2011年3月11日~5月6日 3 男性 30歳代 観光に関する課 係長 遺体安置所従事業務 2011年3月20日頃~3月31日頃 4 男性 30歳代 住民と窓口で直接対応する課 主任 遺体安置所従事業務 2011年3月15日~3月30日 5 男性 40歳代 住民と窓口で直接対応する課 主幹 火葬場従事業務 2011年3月12日~4月10日 6 女性 30歳代 住民と窓口で直接対応する課 主査 死亡届受付等に関する業務 2011年3月14日~ 7 男性 40歳代 住民と窓口で直接対応する課 主幹 遺体安置所従事業務 2011年3月16日~3月30日 8 男性 50歳代 住民と窓口で直接対応する課 主幹 遺体安置所従事業務 2011年3月14日~覚えていない 9 男性 20歳代 住民と窓口で直接対応する課 主任 死亡届受付等に関する業務 2011年3月14日~ 3)分析方法 分析は次の手順で行った。①インタビュー対象者に承諾を得 て録音したインタビュー内容の逐語録を作成した。②逐語録か ら、遺体対応関連業務に関した発言と思われる部分を取り出し、 語りの意味がくみ取れるように文脈毎にとりだした。③データ の言葉を活かして要約し、意味を損なわないように類似点、相 違点を比較しながら分類した。④要約した文脈を、「不確実性 の増大」「緊急性の増大」「相互依存の増大(自律性の低下)」 に着目して分類した。⑤それぞれに属する文脈をさらに、共通 する項目に分類し記述した。 4)倫理的配慮 インタビュー対象者には、本調査の趣旨、調査内容、調査方 法、インタビューの録音、録音データの取り扱い、参加は自由 意志であること、個人情報は厳守されることなどを口頭と文書 で説明し、文書による同意を得た。調査では研究参加者の心理 面に配慮し、話したくないことは話す必要はないことも説明し た。調査実施にあたり、事前に九州看護福祉大学の「九州看護 福祉大学倫理委員会」承認を得た(承認番号 26-022)。 (2)結果 1)インタビュー対象者の属性 参加者は男性が8名、女性が1名で年代は、20 歳代から 50 歳代までであった。対象者の東日本大震災発災当時の所属は、 住民と窓口で直接対応する課7人と観光に関する課2人であっ た。参加者の職位は、主任、主査、係長、主幹が含まれてい た。発災当時に従事した業務は、火葬場従事職員2人、死亡届 受付などに関する業務2名、遺体安置所従事職員5人であった。 業務を担当した期間は、東日本大震災発災直後の 2011 年3月 11 日~5月上旬で、覚えていない対象者もいた。(表1) 事者(No 1. 3. 4. 6. 7. 8. 9)と火葬場従事者(No 2. 5) に分け、「不確実性の増大」「緊急性の増大」「相互依存の増大 (自律性の低下)」分類した。遺体安置所従事者の分類を表2に、 火葬場従事者の分類を表3に示した。 遺体安置所従事者は次のように分類することができた。「不 確実性の増大」には、<突然の配属命令>、<遺体安置所のあ やふやな情報と運営>、<検案担当医師の不足>、<担当職員 の過重労働>などの項目があり、「緊急性の増大」には、<死 体検案書の記載内容の確認>、<死体検案書の遺族への受け渡 し>、<死体検案書発行手数料の一時的預かり>、<遺体収容 数の確認・報告>などの項目があり、「相互依存の増大(自律 性の低下)」には、<災害救助法の適用範囲の判断>、<住民 からの苦情やトラブル>、<職員の不満>などの項目に分けら れた。 火葬場従事者は次のように分類することができた。「不確実 性の増大」には、<燃料不足>、<担当職員の労働>などの項 目があり、「緊急性の増大」には、<火葬場が使用できるかの 確認>、<火葬場の稼働状況の確認・報告>などの項目があり、 「相互依存の増大(自律性の低下)」として<災害救助法の適用 範囲の判断>、<現場裁量での判断>などの項目に分けられた。 (3)考察 災害時における遺体の取り扱いには、①行方不明者の捜索、 ②遺体の処置(収容、検案、洗浄・縫合・消毒等、一時保存、 身元確認、引取り)、③遺体処置に関する書類(死亡検案書) の作成、整理、④遺体の埋火葬などがある(舩木 2006)。行 方不明者の捜索においては、警察、消防、自衛隊が担うところ が大きく、遺体の処置においては警察が中心となり活動する。 ここでは、遺体安置所従事者が直面した課題と火葬場従事者が 直面した課題に分けて考察する。 表1 対象者の特性
研究ノート 東日本大震災被災自治体における遺体対応関連業務に従事した一般行政職が直面した課題 1)遺体安置所従事者が直面した課題 遺体安置所は被災した住民が、災害により行方不明となった 者との出会いの場であった。またそこは、一般行政職にとって はじめて経験する業務を行う場でもあった。 「不確実性の増大」に分類した<遺体安置所のあやふやな情 報>の項目は、災害時の情報収集や情報伝達の問題に起因する ものである。さらに<生活物資の不足>、<電気・ガス・水道 などのライフラインの不通>の項目は、<遺体安置所の遺族待 合室の環境>の項目へ影響し、行政サービスの質を低下させて いたと推測する。加えて、<突然の配置命令>、<検案担当医 師の不足>、<担当職員の過重労働>などの項目は、慣れない 業務の遂行、業務の遅れ、身体的精神的疲労の増大につながっ ていたといえる。 遺体処理の流れは、災害時の場合、遺体の収容・安置、検視・ 検案、遺族による身元確認、死亡診断書(死体検案書)の取得、 遺族の遺体の引取り、死亡届の提出、火葬許可の申請、遺族の 埋火葬許可証の取得、火葬場の予約・搬送、火葬、火葬証明書 の取得、遺骨の引取りとなっている(梅原 2014)。「緊急性の 増大」に分類した<死亡診断書(死体検案書)の記載内容の確 認>、<死亡診断書(死体検案書)の遺族への受け渡し>、< 遺体収容数の確認・報告>などの項目は、遺体処理の初期段階 である。 本調査の遺体安置所では、平時は庁舎内でコンピュータによ り行っていた「死亡診断書(死体検案書)」の記載項目(氏名・ 住所など)が、電気不通のためコンピュータが使えなかった。 そのため、遺体安置所と庁舎が電話で連絡を取りつつ戸籍台帳 と死亡診断書(死体検案書)」の内容が同じであるかを確認す る業務に時間を要した。 日に日に増える「死亡診断書(死体検案書)」の確認、一般 行政職の業務以外の<死亡診断書(死体検案書)の発行手数料 の一時預かり>など、早急に対処を求めれた必要なタスク(課 業)が増大していた。死亡診断書(死体検案書)に関する業務 は、医師または歯科医師の業務である。本来の業務と直接関係 ない活動を、一般行政職は受ける必要はなかったが、緊急時で あり検死に携わる医師が不足していた状況であったため<死亡 診断書(死体検案書)の発行手数料の一時預かり>の業務を引 き受けざるを得なかった。本来業務にタスクが加わり、業務遂 行に影響が生じていたいといえる。今回の調査では、この項目 に分類できる記述が多く見られた。一般行政職が、本来業務以 外のことを引き受けたために生じた課題といえよう。 死亡診断書(死体検案書)について、厚生労働省は、平成 23 年3月 29 日付で、岩手県、宮城県、福島県医療主管課及 び災害救助法担当課宛に「死体検案書の作成料に関する災害救 助法の適用について」の通知を出している。内容は、遺体の検 案に要する費用及び検案書の作業料が実費弁償の対象となるこ と、遺体の検案を行っている医師に対し、検案に要する費用及 び検案書作成料が公費負担の対象になることの周知と、ご遺族 に対し、遺体の検案に要する費用及び検案書の作成料を請求し ないことなどであった。 この通知が届くまで、遺体安置所職員は、<災害救助法の適 用範囲の判断>をする管理職がいない中、管理職に現場の声を 訴えても聴いてもらえず、淡々と課せられた業務を遂行せざる 状況にあったといえる。その結果、「相互依存の増大(自律性 の低下)」につながり<職員の不満>、<住民からの苦情やト ラブル>の項目につながったと推測する。 一方、過酷な状況にありながらも、<住民への配慮>、<僧 侶による読経>、<ご遺体を弔う場>などの項目が確認でき、 精神的な住民サービスを提供していたことが明らかになった。 岡本(2016)の研究によれば、遺体対応業務に関する語り は極めて少なく、中には遺体と関わった事実を自分からは語ら なかった者もいたと述べている。その上で、自治体職員が語っ た遺体対応業務に対する思いに関する内容を次のようにまとめ ている。 遺体安置所への配置について「役場職員として遺体安置所に いた.仕事の立場上そういうことをしていた」、「遺体安置所の 担当になった.避難所対応の人や本部張り付けの人がいる中で、 (間)自分は遺体安置所の係だった」、「遺体安置所は警察の管 理下であるが、住民票の管理は町なので職員が配置された」、「遺 体安置所というところに、ずっといた」という思いを記述して いる。 遺体安置所での業務について「特にすることはなかった」、「業 務的には大変ではなかった」「特に判断に困ったということは なかった」と記述している。一方、思いについて、職員は「精 神的にもうやられた」、「それはもうきつかった」、「(遺体の中 に)同僚とかもいたので、結構つらかった」とその期間のいた たまれぬ心情を語っていたと記述している。また、住民からの 苦情で厳しい言葉を受ける一方で、遺族にありがとうございま したと声をかけられ「まずはよかったとも思った」という感情 を経験していたことが語られたことを記述している。本研究で は、遺体安置所従事者が「特にすることはなかった」と表現す る対象者はいなかった。 2)火葬場従事者が直面した課題 火葬場は、自治体に死亡届を提出した後、火葬許可の申請、 遺族の埋火葬許可証の取得、火葬場の予約・搬送、火葬、火葬 証明書の取得、遺骨の引取と、遺体処理の流れの後半の部分を 担う場である。 ここでは「不確実性の増大」に、<燃料不足>、<担当職員 の労働>、<火葬場を訪れるご遺族>など災害への対応量が増 える中に<火葬場の職場環境>、<業務遂行の満足感>という 対応の質が向上する項目があった。 「緊急性の増大」では、<火葬場が使用できるかの確認>、 <火葬場の稼動計画を立てる>、<火葬場の稼働状況の確認・ 報告>などの項目がみられた。これらは、火葬場の役割を理解 した上で、非常事態にありながら業務を遂行するために、限ら れた資源を利用し何ができるか、何をすべきかを、職員自身が 自主的に行動していた結果であった。「相互依存の増大(自律 性の低下)」では、遺体安置所とおなじ<災害救助法の適用範 囲の判断>の項目があったが、<現場裁量での判断>という項 目もみられた。 火葬場が直面した課題で特徴的だったのは、<業務遂行 の満足感>、<現場裁量での判断>の項目である。火葬す
突然の配属命令 ・ 震災の翌日、上司から、遺体安置所を担当するからって、行かされまして ね。とにかく行けと言われて。 ・ 15 日に、上司から□□という場所が遺体安置所なるから、行って勤務し てくれということで。 ・ 20 日ぐらいに、当時はガソリンがないため、通勤で遺体安置所に近い人 が行ってくれっていうことだったので行ったのです。 ・ 上司から突然、遺体安置所と言われたとき、特に何も感じず「ああ、そう か」ぐらいしか思わなかったですね。 ・ 遺体安置所って言われたら、あまりいい感じしませんよ、やっぱり。 「えー!」っていう感じだったです。 遺体安置所のあやふやな情報と運営 ・ 震災翌日に指定された遺体安置所に行ったが、誰もいなかった。警察や医 者がいてそのまま業務に入ったような感じでしたね。 ・ 最初、死亡届がいっぱい出ると予想して、安置所で死亡届を受ける予定だっ たけど、葬儀屋が家族から死体検案書を預かり、庁舎に持って行くように なったから遺体安置所で検案書を受け取ることはなかった。 生活物資の不足 ・ あまり考える余裕なかった。物資がなく店も全部やってない。とても厳し い状態だった。着るものもない。 ・ 避難所に配られたパンや食糧品が回ってくるわけではなく、自分で調達し なきゃならない。 電気・ガス・水道などのライフラインの不通 ・ 仕事が終わって帰ると洗濯のために、給水車に並んで。寒い中、服を洗っ て、干して、寝るその繰り返しでした。 ・ ガソリンが無いので遠くまで買出しにいけない 検案担当医師の不足 ・ 警察嘱託の自治体の医者が 1 人と、近隣自治体の医師が 1 人。10 時ぐら いに来て、検案室に行って検案をしてました。 担当職員の過重労働 ・ 勤務時間は、朝 8 時半から夜 8 時半までの 2 交代制だった。 ・ 夜は警察官の方が 2 人ずつ来て、一緒に夜泊まっ a てくれた感じでしたね。 ・ 15 日から、3 人が交替で勤務してくれと上司にいわれた。 遺体安置所のご遺族待合室の環境 ・ ご遺族は、辛そうで、沈んでいました。暗い感じでした。「本当なのか」 みたいな、そんな感じでした。 ・ 遺体安置所の待合室には、ストーブもなく警察が用意した毛布を身にま とって寒さをしのいでいる感じでした。 ・ 待合室には全然火の気がないですよね。寒いし悲しいっていう感じじゃな いですか、ご遺族の方は。 ・ トイレは、近くのプールで汲んだ水をポリタンクに入れ、使う分の水をバ ケツにいれトイレに持っていき、流す形でした。 遺体安置所の職場環境 ・ 受付の事務室で「中で下手に笑ったりすると不評をかうから気を付けてな」 と言われたこともありましたね。 ・ 他の人から「変な臭いするね」って言われました。遺体の臭いが移るんで しょうね、この建物に入った人に。 緊急性の増大 ご遺体が本人であるかの確認 ・ 警察官が、ご遺体を捜索して、毎日護送車みたいな車に乗せてご遺体を持っ てきて、検死をして、棺に入れて安置するのです。警察の方がそのときに 撮った写真を持って、避難所を回っていました。 ・ 警察の方が避難所を回るとき、顔や持ち物とかの写真をもって、「○○さ んに該当しそうな人なんだけど」と、ある程度絞り込んでから家族に来て もらって、ご遺体を確認してもらってました。ご家族は、地震と津波が来 た後、家族の中で行方が分かっていない人を警察に届けているので、警察 は年齢や性別などをずっとリストアップしていますから。 死亡診断書(死体検案書)の記載内容の確認 ・ やったことは、死体検案書の記載に必要な住所・名前・年齢・性別とかを、 住民票・戸籍とつなぎ合わせるみたいなことですね。 ・ 家族にご遺体の確認がとれたら、警察から「きちんと名前とか住所とか、 漢字まで含めて確認ほしい」っていうふうに連絡が来るので、自治体の戸 籍・住民票の文字と間違いない細かく確認していました。 ・ 死体検案書を書くのは、お医者さんの署名が必要なので、お医者さんの手 伝いですね。 死亡診断書(死体検案書)の遺族への受け渡し ・ 死体検案書を医者に書いてもらっている間、ご遺族はホールの長椅子で 待ってもらってました。 ・ 死体検案書を渡す時、先生がご遺族に「この方はこういう理由により、こ うやって亡くなっています」と説明してました。 ・ 死体検案書をもらう時、ご遺族は特に質問することなく、ポワーンと感じ で「そうですか」って感じでした。その説明が終わると、「検案書料とし て○万円いただきます」って、話になりいきなり現実に引き戻されるって いう感じでした。 ・ ×× 医者から「お金預かんないうちは(死体検案書を)渡さないで」と言 われたので、ご遺族の中にはお金の準備ができない方もいました。 ・ お金のことですごく怒っていました。「家も被害にあっているのにどうやっ て払うんだ」って。そのときは、葬儀屋に立て替えてもらっていました。 ・ △△医者は、「お金なかったら、後でいいから」って言っていましたね。 ・ 住民と接していて印象に残ったことは、やっぱりこの○万円を取るのが嫌 でしたね。それに尽きますね。 ・ 厚生労働省からの通達が、安置所のほうに FAX が来て、先生怒りました ね「なに!」って。 遺体収容数の確認・報告 ・ 今日現在、ご遺体が何体あるのか、それの報告ですね。警察に毎日「何体 ですか」って数えてもらいました。 ・ 毎日、電話で検案書に関する問い合わせだけでなく、集計の記録もあって、 業務日誌のようにつけていました。 相互依存性の増大(自律性の低下) 災害救助法の適用範囲の判断 ・ 死体検案料を預かるかたちでした。返金するのは楽だけど、徴収するのは 難しくなるからね。後で徴収すると、余計にもめるという上の判断でした。 ・ 個人的には「死体検案書や火葬費用を全部減免したほうがいい」と話をし ました。上の方の会議で、災害関連死であれば減免という話も出たんです けど、死亡届(災害救助法の適用が)までは読み取れなかったですね。 ・ あのとき、死体検案書の作成が、災害救助法に適用になるという判断を誰 もしてくれなかったんだね。 ・ 最終的には、国から費用が出て住民に返還したんでしょうけど、その判断 が正直、遅いなって思いました。 職員の不満 ・ 上の人に「遺体安置所に来て、この役割をやって頂戴。受けて頂戴」って 言いたくなるんですけど。 ・ 結局、現場と現場を管理している人の意見や、現場の声が通してもらえな いんですよ。 ・ 遺体安置所の業務は、通常業務に特異なものが加わったというだけで、ど こかに派遣されているわけではないため、細かく報告する場所もなかった。 住民からの苦情やトラブル ・ (死体検案書ことは)一番嫌な仕事でしたね。「(お金を取るなんて)とん でもないことでしょうよ」っていうのが正直なところです。 ・ 「遺体安置所で死体検案書を書くのにもお金が取られた」っていう住民さ んからの苦情が、自治体の窓口にたくさんはいってました。 ・ お金のことは、その当時、すごくもめたんです。 ・ 死体検案料の取り扱いについて、厚生労働省から岩手県と宮城県、福島県 の医療主管部に出したのが、3 月 29 日で、私らの手元に来たのはもっと 遅いです。もっと早く通知をもらえれば、こんなトラブルっていうか、嫌 な思いをお互いにしなくてよかったのに……。 電話の応対 ・ 自治体の災害対策本部や住民票・戸籍係とのやり取りをしました。 ・ 自治体用と警察の電話は別だったのですが、誤って自治体用にかかってき たものについては、いろいろ取り次いだりもありましたね。 ・ 多分、お母さんかお父さんか、ご家族から子ども遺体の問い合わせが毎 日ありました。1 日何度も何度も。「子どものご遺体は、残念ながら、今、 出ていません」っていうのがありましたね。それは記憶に残っている。 葬儀業者との関係 ・ 葬祭業者も、最初は遺体安置所の中に無断で入り、警察から苦情や遺族と やり取りがあり、ちょっと問題があって遺体安置所の外に出されたみたい ですけど。 ・ 葬祭業者にいろいろ頼んないと、棺桶だってなかなか準備できない状況で すし。ドライアイスなんかも必要でしょうし……。 住民への配慮 ・ あまり顔に表情を出さないような顔をしてたような気がします。 ・ 言葉遣いにも気をつけました。遺体安置所で業務をやると思ってなかった んで…。 ・ 最初の頃は、「ご遺体」のことを「死体」って言ってました。「死体検案書」 には「死体」と書いてあるし、でも家族にしてみたら「ご遺体」なんですよね。 ・ 本当に申し訳ないけど、ご遺族に対しての心配りという、心の余裕とかそ ういうのはありませんでした。自分自身のことで超ギリギリでした。 僧侶による読経 ・ 3月 20 日ごろ、他県からきたお坊さんが「お経をあげさせてもらいたい」 と、きたので、警察官と相談して、安置室でお経をあげてくれたんです。 ・ 普通だったら、亡くなったらお通夜やって告別式やって、そのたびお坊さん、 お経をあげるじゃないですか。ここではそういうの全然ないですからね。 ・ 私はホッとしましたよ。警察官も何となくホッとしたなと思って見ていま したね。 ご遺体を弔う場 ・ 安置所に、焼香する線香はあったと思う。誰かが持ってきたのかな。 ・ 私たちは準備していないので、警察が臭い消しのために持ってきていたの かな。 ・ 焼香台のことなんてあまり考えてる余裕なかったですね。物資がなかった
研究ノート 東日本大震災被災自治体における遺体対応関連業務に従事した一般行政職が直面した課題 表3.火葬場従事者の分析 不確実性の増大 燃料不足 ・ 火葬の予約は受けることができても、燃料が入ってこないと、遺体 を火葬できないから、燃料のことはいつも気にしていた。 ・ その日より、先の燃料の見込みが立ってないんで。燃料探しをやっ ていた。 ・ 燃料が入ってこないと火葬場は止まるので燃料のことは心配でした。 ・ 火葬用だけでなく非常用発電機のほうにも、○○リットルは欲しい かったけど、なかなか手に入らなかった。 担当職員の労働 ・ 震災直後以降の火葬場の安定稼働の管理等で、2 人ずっと火葬場に こもっていた。 ・ 通常通りに仕事をしたね。 ・ 余震の中の業務は続いた。 火葬場を訪れるご遺族 ・ 火葬に参列する人はあまりなかった。身内もいないし、自分の生活 がっていうところもあったから火葬どころじゃなかった。 ・ 火葬場に来ている人たちは悲しんでいるって様子ではなくて、疲れ てるっていう顔でした。 ・ 中には泣いている人もいたけど、それよりも「水がある」って、喜 んでたよね、トイレが流せると、そっちのほうで。 ・ 印象深いのは、「わっ、水が出る」とか、「トイレが使えるよ」とか という言葉ですね。水道が復旧してないにもかわらず水が出てるっ ていうのを不思議がってました。 ・ 収骨にも人がほとんど来てないから。 火葬場の職場環境 ・ 委託業者さんがやりやすいように、いろいろ考えてやった。 ・ 普段は火葬場の仕事じゃないけれど自治体が火葬場を委託している のでうまく稼働するか管理していた。 ・ 委託業者が葬家の対応をするので、自治体職員は直接、住民とは接 しなかった。 業務遂行の満足感 ・ 終わってみて気がかりなことはないよね。多分、火葬場はうまく行 き過ぎちゃって、何も引っ掛かってこないんだ。 ・ 火葬場は業務が、うまく行き過ぎたっていうよりは、火葬場が独立 してたからだと思う。 ・ 「うまく稼動させるしかないな」みたいなことを考えていた。 緊急性の増大 火葬場が使用できるかの確認 ・ 火葬場を管理している課に所属していたので発災した直後から、火 葬場どうなっているのか、その日の夜からチェックに入りました。 ・ 次の日から、動かせるかどうか。すぐ調べに行きました。「テレビで ○○自治体△△人の犠牲者が……」というの聞いて、「△△人いっぺ んに火葬場に来たらどうすんだ」と思いました。" 火葬場の稼働計画を立てる ・ 3 月 11 日にこれからのだんとりをつけて、あとはやるだけにしまし た。 ・ 火葬場が動くことが確認できたので 1 日何体ぐらい火葬できるか計 画をたてました。 ・ 3 月 11 ~ 13 日の頃は、通常の予約で動いてけれど、14 ~ 15 日か ら 20 日ぐらいにかけ稼働時間を上げた。 ・ 14 日から 1 週間くらいは、普段の 2 倍近くを火葬した。 ・ だんだん炉が傷んでどうにもならなくなり、普段通りの数に戻して いきました。 ・ なるべく火葬の受付して、1 週間先ぐらいまでで収まるようにして いた。 火葬場でのご遺族への対応 ・ 葬家同士がバッティングしないように、「火葬のどこ段階まで進んで る?」トランシーバーで連絡取り合いながら、時間を調整して動か していた。 ・ ○○葬家が火葬中は△△葬家はお別れの部屋に入ってもらい、ライ ンがかぶんないように、通常通りの方法で、同じように対応してい ました。 火葬場の稼働状況の確認・報告 ・ 毎日、何体火葬したかを記録していた。 ・ 過日、斎苑協会が訪ねて来たときに、その時のデータをグラフにし て渡しました。 相互依存性の増大(自律性の低下) 災害救助法の適用範囲の判断 ・ 死体検案書や火葬費用が災害救助法の適用だって、上の方の誰かが 判断してくれればよかったのに……。誰も判断しなかったからね。 ・ それに合わせてご遺族からお金取らないんだけど。 現場裁量での判断 ・ 11 日に火葬場のことが気になり、上司に相談し行くことになりまし た。「1 人では駄目だから 2 ~ 3 人連れて行きます」と許可をもらっ て火葬場に行きました。 ・ 12 日からはうちらは「火葬場チームを結成します」と言って、火葬 場に行きました。 ・ 1 日 40 体の火葬にすると勝手に決めました。誰の断りもなく勝手に 決めて、現場裁量です。 電話の応対 ・ 電話で、「今日なら火葬できる」とか、「明日の午前中なら空いてい るよ」という電話連絡を庁舎としていました。 ・ 棺がないから、2 体一緒に火葬してほしいっていう電話がかかって きたの覚えている。「2 体一緒は駄目です」って断った。棺桶がない 時だからそういう電話もしかたなかったのかな? ・ 葬儀社が、絶えず火葬場に来てるので。葬儀社とは連携というより、 通常業務の流れの一環でいろ情報交換をしてました。 住民への配慮 ・ トイレ用の水をため池からポンプでくみ上げて。トラックにいれて 必死にやった。 ・ 水をもらいに来た人には、「雑排水だけど、持って行っていいよ」っ て声をかけました。 ・ 葬家の人とは普段の対応の仕方と同じように対応をした。 ・ 震災と関係なく、常日頃と同じようなことを震災時にも続けられる かっていうのが大事かな。普段と変えようっていうのではなくて、 いつもと同じように対応するというか接するっていうのが大事だね。 何があっても……。 住民による判断 ・ 家族や親族が県外にいる人は県外で火葬する人もいた。 るための燃料不足があったものの、自治体の火葬場が震災 の被害がなく稼動できたことは、業務遂行を促進する大き い要因であった。遺体安置所は、遺体処置の流れの初期段 階であること、遺体数が予想つかないこと、不慣れな業務で あったことなどは業務遂行を促進しづらい状況であった。一方、 火葬場では、遺体処置の流れの最後の段階であること、火葬の 体数が明らかであること、平時の状況が把握できていたことな どは、業務遂行の後押しにつながったと推測する。つまり「不 確実性の増大」につながる直面する課題があっても、先見をも ち計画的に行動することにより「緊急性の増大」が抑制され、 <現場裁量での判断>をゆだねることにより「相互依存の増大 (自律性の低下)」が生じにくく、<業務遂行の満足感>が得ら れたといえる。この背景には火葬場の管理職がリーダーシップ をとり、臨機応変に対応したことも関係していたと推測する。 今回、組織に所属する一般行政職の語りを「不確実性の増大」 「緊急性の増大」「相互依存の増大(自律性の低下)」に分類し た後、それらを詳細に項目分けすることにより、個人が抱えた 類似点、相違点の項目を明らかにすることができた。 3 おわりに 本論文では、一般行政職の行動や言動から、遺体対応関連業 務の課題を「不確実性の増大」「緊急性の増大」「相互依存の増
1) <突然の配置命令>、<担当職員の過重労働>、<遺体安 置所のあやふやな情報>は「不確実性の増大」につながり、 それには<生活物資の不足>、<電気・ガス・水道などの ライフラインの不通>、<遺体安置所の遺族待合室の環境 >などの環境要因なども影響する。 2) 緊急時に、一般行政職の本来業務以外のタスク(課業)が 増大することは、「緊急性の増大」の要因になり、「相互依 存の増大(自律性の低下)」に影響する。その結果、<職 員の不満>、<住民からの苦情やトラブル>などを生じさ せる。 3) <燃料不足>、<担当職員の労働>など「不確実性の増大」 につながる課題があっても、予測した行動、計画性と現場 裁量での判断により「緊急性の増大」や「相互依存の増大 (自律性の低下)」の項目を抑制し、<業務遂行の満足感> を得ることができている。 本研究において、個人に焦点を充てたインタビューを「不確 実性の増大」「緊急性の増大」「相互依存の増大(自律性の低下)」 の視点で分類することで、課題を明らかにすることが可能であ ることが示された。しかし、本研究はある自治体の限られた対 象へのインタビューであるため、遺体対応関連業務の基礎資料 とするには課題がある。 本研究は、文部科学省科学研究費助成金(課題番号 :26670949)の助成 を受け実施した。調査にご協力くださいました自治体の皆様に深くお礼申 し上げます。 なお、開示すべき利益相反はありません。 引用・参考文献 ・ 電 子 政 府 の 総 合 窓 口「 地 方 公 務 員 法 」http://elaws.e-gov.go.jp/search/ elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC0000000261 ・ 電 子 政 府 の 総 合 窓 口「 災 害 対 策 基 本 法 」http://elaws.e-gov.go.jp/search/ elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=336AC0000000223 ・Dynes,R.R. & Quarantelli,E,L.“Group Behavior under Stress : A Required
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