保育園児の言語生活に関する研究
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.1. 平成16年9月. September,2004. 保育園児の言語生活に関する研究 滝本 幸世・川連 淳子 北海道教育大学大学院教育学研究科旭川校 北海道教育大学旭川校・家政教育講座. StudyofLanguageLifeforChildrenintheDayNursery TAKIMOTOYukiyoandKAWABEJunko. 1.目 的 近年,子どもたちを取り巻く環境が大きく変化している.少子化にともなってきょうだい数が減少し,地 域社会の希薄化もあいまって,近所の子どもたちが集まって遊ぶということも少なくなった. このような社会背景の中で,子どもたちの言語面に関する環境が,大きく変化しているのではないかと感 じた.言語は子どもたちの生活の中で,最も重要な位置を占めているものの一つであり,その発達を見てい くことによって,それに影響を及ぼしていると考えられる社会的な要因についても知ることができるのでは ないかと思った.. そこで本研究では,1968(昭和43)年に国立国語研究所によって実施された「就学前児童の言語能力調査」 を参考にしながら,現代との比較調査を行うことによって,その変化を明らかにしたいと考えた.この調査 は全国規模の調査であり,当時はテレビを中心とするマスコミの様々な影響が論議されるようになった時期 でもあり,その社会状況の幼児に与える影響を検証するためのものであった.この調査を取り上げた理由と しては,約30年の間の社会や家庭,その中で育つ子どもたちの変化を知ることが比較的容易ではないかと考 えたからである.. 2.調査の概要 前回と今回の調査の比較にあたって,その調査内容の違いについて以下に示す.. 前回の調査では,性状語(「大きい」「/トさい」等,対象物の大きさ,高さ等を比較形容する形容詞),時間・ 空間語(「朝」「昼」「夜」,「左」「右」等),動詞に関する語彙調査(面接方式による)にともなう形で,今. 回同様のアンケート調査が行われた.今回の調査ではさらに,前回と比べて社会的に変化していると思われ る事項,さらにその変化が子どものことばの発達に影響を与えているであろうと考えられる事項を新た8;付 け加えて実施した.. (1)前回の調査概要. a.調査年度:昭和43年度. 205.
(3) 滝本 幸世・川連 淳子. b.調査対象: * 性状語テスト. ‥・東京・宮城(仙台)・岩手の3地域の18幼稚園 4・5歳児の園児194名の保護者. * 時間・空間語テスト … 東京・京都・和歌山の3地域の18幼稚園 4・5歳児の園児228名の保護者 C・調査内容:性状語,時間。空間語,動詞の各テストを行い,テスト終了御こ言語生活アンケート調. 査を行った.アンケート調査の内容としては,家族構成,テレビや絵本との関わり方, 子どもの言語活動,子どものことばや生活についての指導に関する基本的な事項等. (2)今回の調査概要. a.調査年月:平成14年8月. b.調査対象:旭川市内丁保育所 3・4・5歳児の園児55名の保護者 C.調査内容:前回の調査内容とほぼ同様であるが,一部加筆・修正を行った.. 3.結果および考察 前回の調査は,4・5歳児を対象としたものであったため,前回の調査との比較は4・5歳児を対象とし ており,3歳児に関しては,今回の調査における年齢別の比較という形で分析を行った.. 以下では,前回の調査との比較において,その差異が顕著であった項目のみを取り上げた.また,前回の 調査に加筆・修正した部分に関しては,すべての項目を分析の対象とした.. 前回の調査の被験者は年齢別に分けられているのではなく,性状語テストの被験者,時間・空間語テスト の被験者というように行われたテスト毎に分けられている.それぞれのテストの被験者は幼稚園の4・5歳 児から構成されており,また,動詞テストに関しては,性状語,時間・空間語テストと異なった基準で分析 されており,今回の調査との比較が困難であったので,ここでは比較の対象としていない.. (り 家族について 1)家族の人数・きょうだいの数. 家族の人数に関して,4人以下であると答えた割合が最も高くなっているのは前回と今回に共通してい たが,今回は前回に比べて,2人である場合がかなり増加しており,また,7人以上である場合がかなり 減少していた.. きょうだいの数に関しては,1人っ子の割合が増加し,2人きょうだいの割合が減少していた. 2)父親・母親の年齢. 父親の年齢に関して,前回の調査では性状語,時間・空間語とも35歳以下の割合が急に高くなって40歳 以下でピークを迎えていたが,今回の調査で最も高い割合を示したのは4・5歳児とも35歳以下であった. 母親の年齢に関して,前回の調査では性状語,時間・空間語とも35歳以下がピークであったのに対し,. 今回の調査においては5歳児では前回とほぼ同じ分布を得られたが,4歳児では25歳以下,30歳以下の割 合が多く,30歳以下と35歳以下の割合は同じであった. 3)父親・母親の就業形態. 前回は幼稚園を対象とした調査であったため,今回の保育園の調査との比較は困難であるが,参考のた めに前回の調査結果を示しておく.前回の調査において「共働きである」と回答した割合は,性状語テス. 206.
(4) 保育園児の言語生活に関する研究. トで26%,時間・空間語テストで29%であった.. 今回の調査では,4歳児の父親16名,5歳児の父親10名すべてがフルタイムで働いていると回答してお り,また,4歳児の母親19名のうち47%がフルタイム,37%がパートタイム,16%が働いていない,5歳 児の母親14名のうち36%がフルタイム,57%がパートタイム,7%が働いていないと回答していた・ (2)子どもの家庭生活について. 1)子どもの食事時における家族員のそろい方(図1−1・1−2). 朝の食事に関して,家族全員がそろうと回答した割合は,3歳児で50%,4歳児で47%,5歳児で43% であった.一方,夜の食事に関しては,3歳児で68%,4歳児で42%,5歳児で64%となっており,朝よ りも夜の食事で家族全員がそろう割合が高い傾向にあることがわかった. また,そろわない場合の構成員に関しては,大部分が父親が不在であると回答していた.. 図1−1.子どもの食事の時は家族全員がそろう(朝)図1−2.子どもの食事の時は家族全員がそろう(夜). 2)家族内のコミュニケーションのあり方(図2−1・2−2) 全体のコミュニケーションでは,子どもを交えて家族全体で話す割合は,子どもの年齢が上昇するほど 減少し,夫婦だけで話す割合は増加していた.. 食事場面のコミュニケーションでは,子どもを交えて家族全体で話す割合は,3歳児で64%,4歳児で 58%,5歳児で64%となっており,年齢間の差異はそれほど見られなかった.4歳児は3・5歳児と比べ て減少しているように見えるが,その分子どもと父親もしくは母親とのかかわり方は平均しており,結果 としては,家族全体でコミュニケーションを図っていることがわかった.全体を通じて,子どもを交えて 家族全体で話す割合が最も高く,母親と話すことが多いという項目がその後に続く傾向にあった.(ただし, 4歳児の食事場面は例外となっている). その他 父親と 母親と 子どもだけ 夫婦だけ 家族全体. 0. 20 40 60 80(%). 図2−1.家族内のコミュニケーションのあり方 (全体). 図2−2.家族内のコミュニケーションのあり方 (食事). 207.
(5) 滝本 幸世・川遽 淳子. 3)家事・育児の父親・母親の分担(図3−1・3−2) 概して,平日よりも休日の家事・育児に父親が参加する割合が増加傾向にあった.3・4・5歳児すべ てにおいて父親の家事・育児参加度には,2つの規則性があることがわかった. 1点日は,「絵本を読んであげる」,「遊んであげる」という項目では,平日に比べて休日における父親. の参加度がかなりの割合七増加するのに比べて,「家事をする」,「ごはんを作る」という項目では,前者 ほどの増加は見られないということであった.父親の就業形態が100%フルタイムであるのに対して,母 親の就業形態はフルタイムとパートタイムの割合が半々であるという要因も多いに影響しているとは思わ. れるが,共働きの現代においても,「家事をする」,「ごはんを作る」といったことは依然として女性の仕 事として行われる傾向が強いことが明らかになった. 2点日は,子どもが低年齢であるほど,特に「絵本を読んであげる」,「遊んであげる」という項目で, 休日における父親の参加度が高いということであった.5歳児でも「母親が行う」という項目でかなりの 減少が見られる部分があったが,その減少は「主として母親が行う」という項目の増加という形を取る場 合が多く,父親の参加は依然として母親の補助的なものに留まっていると考えられる. このことは,子どもが低年齢であるほど,母親だけでなく父親による子どもへの関わりを重視している 家庭が多く,またその必要性を感じている家庭が多いということを示唆している.. 図3−1.家事を行うのは(平日). 図3−2.家事を行うのは(休日). 4)子どもと会える時間が少ない分工夫していること 子どもと会える時間が少ない分,工夫していることに関しては,以下に示す2つのカテゴリーに分けら れた. a.. 精神的な触れ合いの重視. (ア)子どもとの対話を重視する. け)一緒にいる時間をできるだけ作るようにする (ウ)絵本を読んであげる 回 一緒にいる問は子どもを中心とする ㈹ 家族全員で過ごすようにする. b.. 身体的な触れ合いの重視. (カ 休日は家族で外出する. い)体を使って遊ぶ (ウ)串風呂に一緒に入る等してスキンシップを図る. これらの内容については,3・4・5歳児において共通に見ることができた.. 208.
(6) 保育園児の言語生活に関する研究. 5)子育ての方針. 子育ての方針に関しては,子どもの側に立った方針と親の側から立った方針とが挙げられた. a.. 子どもの側に立った方針. (ア)道徳的なもの. → 悪いことは悪いと教える,うそはつかない,約束は守る,人にやさしくする;人のいやがる ことをしない,礼儀こ上下関係をしっかり教える 材)生活的なもの. → あいさつをする,早寝早起,もの(おもちゃ・おやつ等)の与え方,言葉遣い,自分でできる ことは自分でさせる. b.. 親の側に立った方針. 子どもとの対話を重視する,夫婦でしつけの方針を同じにする, 一貢性のある子育てをするようにする. (3)このごろ(1∼2ケ月)の子どもの家庭生活について 1)テレビの視聴. 3・4.・5歳児の比較においては,「毎日かかさずみている」という項目で年齢が上昇するほどその割 合が減少しているのに対し,「毎日ではないが好き.な番組はよくみている」という項目で増加していた. このことから,低年齢であるほど,その番組を見たいかどうかということに関わらず,テレビを視聴する ことが日常生活の一部分である傾向が強く,また,年齢が上昇するほど,自分が見たいと思う番組に焦点 を当ててテレビを視聴する傾向が強いことがわかった.. このことは,「新聞のテレビ番組欄から自分の好きな番組名をさがす」という設問において,年齢が上 昇するほどその割合が増加している事実とも関連していると思われる. 前回と今回の調査の比較においては,「毎日かかさずみている」という項目で「はい」と答えた割合が 前回に比べてかなり減少していた.(表1)この設問は「子どもがどんなテレビ番組を見るかどうかは子 どもの自由にまかせている」という設問と関連している.さらに,前回に比べて子どもに見たい番組を自 由に見せると回答した割合は減少しており,このことは,テレビ視聴の減少の∴因として考えられる. (表2)すなわち,テレビ視聴が子どもに与える影響について,親が以前よりも関心を持つようになり, その結果,実際のテレビ視聴が減少しているのではないかと推測できる. 表1.テレビは毎日かかさずみている はい 性状語. 前回 時間・空間 4歳児. 今甲. 92. (%). いいえ 無回答 4. 4. 90. 7. 3. 79. 21. O. 64. 36. P. 表2.どんな番組を見るかどうかは子どもの自由にま かせている. (%). はい. いいえ 無回答. 性状語. 78. 22. 時間「空間. 84. 15. 4歳児. 68. 32. 0. 5歳児. 71. 29. 0. 前回. 今回. 0. 209.
(7) 滝本 幸世・川連 淳子. 2)絵本とのかかわり. 3・4・5歳児の比較において,3歳児では「毎日みている」という項目が最も多く,その後に「毎日 ではないがよくみている」という項目が続くのに対し,4・5歳児ではその道となっていた.. 前回と今回の比較において,前回は「毎日みている」,「毎日で古まないがよくみている」の2項目の割合 がほぼ同じであるのに対し,今回は「毎日みている」よりも「毎日ではないがよくみている」の方が若干. 多くなっていた.. 絵本をみる頻度の減少に関しては,情報を得る手段が書物だけであった時代においては,書物は人々に とって貴重なものであったが,時代を経る毎に,情報を得る手段は多様化し,現代では必ずしも書物を通 して情報を得る必要がなくなったことも,一因として考えられる.このような社会背景が、,子どもの絵本 とのかかわりにも影響を与えているのではないかと思われる. 3)前回の調査との比較でその差異が顕著であった設問. その他の項目で,「はい」と回答する割合か増加していた項目としては,「電話のベルがなったとき,そ の応対に出ることがある」(表3),「幼児音が残っている」(表4),「どちらかといえばおしゃべりな方で. ある」(表5)が挙げられる.一方,減少していた項目としては,「なぞなぞ遊びをする」(表6)が挙げ られる.. 電話の応対に関しては,電話に対する意識の琴化が影響しているのではないかと考えられる.すなわち, 以前は必要なことを伝えるためだけに用いられていた電話が,携帯電話の普及によって人々にとってより 身近なものとなり,そのことが子どもの電話に対する意識にも変化を与え′ていると思われる.. 幼児音が残っている子どもの増加に関しては,以下の3つの理由が考えられる. 1つ目はきょうだい数の減少である.自分より小さい子どもの存在は,子どもに責任感の必要性を感じ させ,そのことが言葉の発達にも大きな影響を与えているように思われる. 2つ目は,大人との言葉のふれあいが減少するのと同時に,子ども同士の言葉のやりとりが増加してい. ることである・子どもと大人の言葉は質的に大きく異なっており,発達途上にあるもの同士の会話では, ある言葉の正確な形を把握することは困難である.そのような環境の中で,言葉の発達が遅れる傾向にあ るのではないかと思われる.. 3つ目は,親とすごす時間の減少である.保育所の生活では自立を要求されるため,大人に甘えたい気 持ちを制御せざるを得ない.よって,自分が甘えることのできる大人,すなわち父親・母親とすごすこと ができる時は,甘えたい気持ちが言葉にも表れるのではないかと考えられる. おしゃべりである子どもが増加していることに関しては,以下のような理由が考えられる.大人にとっ ての生活に比べて,子どもにとっての生活は新しい事柄との出会いの連続である.よって,自分の考えて いることや経験したことなギを人に聞いてもらいたいという気持ちを常に持っている.保育所はそのよう な子どもたちの集まりであるので,それぞれが皆自分の気持ちを希望通りに伝えるのは困難である.家庭. では自分だ捌こ注目して話を問いてくれる大人がおり,そのことが子どもの話したいという欲求をさらに 強めているのではないかと思われる. なぞなぞ遊びに関しては,メディアの多様化と情報機器の発達にともなって,得られる情報量が飛躍的 に増加したことが関連しているのではないかと考えられる.前述の「絵本とのかかわり」と同様に,以前. は人々にとって重要な価値を持っていた言葉がそれほど価値あるものであると感じられなくなり,そのこ とが子どもの言葉に対する興味に反映しているように思われる.. 210.
(8) 保育園児の言語生活に関する研究. 表3.電話のベルがなったとき,その応対に出ること がある. (%). はい 性状語. 由回. いいえ 無回答. 75. 23. 2. 71. 29. 0. 4歳児. 84. 16. 0. 5歳児. 79. 21. 0. 時間・空間 今回. 表4.幼児音が残っている. (%). はい 性状語. 前回. いいえ 無回答. 8. 86. 6. 9. 88. 3. 4歳児. 37. 63. 0. 5歳児. 14. 79. 7. 時間・空間. 今回. 表5.どちらかといえばおしゃべりな方である(%) はい. 性状語 前回. いいえ 無回答. 69. 28. 3. 75. 24. 4歳児. 89. 11. 0. 5歳児. 86. 14. 0. 時間・空間 今回. 表6.なぞなぞ遊びをする. (%). はい. いいえ 無回答. 80. 16. 4. 83. 14. 3. 4歳児. 47. 53. 0. 5歳児. 71. 29. 0. 性状語 前回 時間・空間. 今回. (4)このごろ(1∼2ケ月)の子どもの活動について. 「はい」と回答する割合が増加していた項目としては,「絵本に書いてある文章を声に出して読んでいる」. (表7)が挙げられ,減少していた項目としては,「自分の名前だけでなく,家族のものの名前を書いたり する」(表8)が挙げられる. 文章を声に出して読む子どもの増加に関しては,以下のような理由が考えられる.保育所の生活では,全 体の読み聞かせの時間以外に個人的に絵本を読んでくれる大人はいないので,自分だけで読むことが必然的. ■ に多くなる.読み聞かせは音声による言葉との触れ合いであり,よって,保育所ですごす間は音声による文 字とのかかわりが必然的に減少することになる.音読には,文字と音声と意味を結びつける働きがあり,子. どもたちは自分で声に出して読むことによって,言葉の理解を深めようとしているのではないかと思われる. 家族のものの名前を書く子どもの減少に関しては,以下のように考えられる.父親・母親の共働きの増加 にともなって,子どもたちは家庭で家族とすごす時間の減少を余儀なくされている.このことが,子どもの 家族に対する意識の変化をもたらしているのではないかと考えられる.すなわち,以前は子どもにとって最 も身近であ. と,子どもたちはいつも一緒にすごしている友だちの名前に親近感を感じているかもしれない.. 211.
(9) 滝本 幸世・川連 淳子. 表7.絵本に書いてある文章を声に出して読んでいる (%). はい 性状語. 前回. いいえ 無回答. 62. 36. 2. 67. 30. 3. 4歳児. 68. 32. 0. 5歳児. 77. 23. 0. 時間・空間 今画. 表8.自分の名前だけでなく,家族のものの名前を書 いたりする. (%). はい. いいえ 無甲答. 性状語. 73. 25. 2. 時間・空間. 76. 21. 3. 前回. 今. 4歳児. 42. 58. 0. 5歳児. 6年. 29. 7. (5)子どものことばや生活についての指導. 1)父親・母親の子どもへの言語に関する関わり方(図4−1・4−2). 全体と食事場面の関ゎり方を比較すると,3・ という項目の割合が減少し,「両者とも同じぐらい」の割合が増加していた(ただし,4歳児には変化は. 見られなかった).母親との関わりが大部分を占めているのは3・4・・5歳児に共通しており,また,食 事場面では父親との関わりが増加傾向にあることがわかった.「子どもの食事の時は家族全員がそろいま すか」という設問において,朝夜共に約半数の家庭が「そろわない」と回答しており,その場合の構成員 には父親が不在していることが多いにもかかわらず,食事場面での父親の関わりが全体と比べて増加傾向 にあるのは興味深いことである.父親が不在であるのは,当直の時や帰りが遅い時など特定の場合に限ら れていると回答している家庭があり,そのような家庭では父親が家族と共に食事をとることができる際に, できるだけ家族とのコミュニケーションを大切にしようとしているのではないかと考えられる.食事場面 は,特に共働きの家庭において家族で共有できる数少ない場であり,その場における家族間のコミ土ニケー ションを大切にしようとしている人が多いことが明らかになった.. 図4−1.子どもへの言語に関する関わり方 (全体). 212. 図4−2.子どもへの言語に関する関わり方 (食事).
(10) 保育園児の言語生活に関する研究. 2)前回の調査との比較でその差異が顕著であった設問. 「はい」と回答する割合が増加していた項目としては,「文字は特別に指導しないで,子どもが自然に おぼえるのにまかせている」(表9),「よく,子ども.といっしょに絵本を読んだり,聞かせたりする」(表 10),「朝・寝る時のあいさつはいつも言わせるようにしている」(表12・13),「『きょう保育所で何があっ たの?』ということはたずねるようにしている」(奉14)の4項目が挙げられる. 一方,減少していた項目としては,「童話は特別に聞かせないで保育所にまかせている」(表1り,「おと なの世界についてのむずかしい質問にはとりあわない」(表15)の2項目が挙げられる. 表9・10に関して,家庭ですごす時間が圧倒的に多かった以前の子どもたちとは違って,1日の大部分 を保育所ですごす子どもたちは,家庭におけるように常にまわりの大人たちの注意を集めることはできな い.多くの子どもたちの1人として扱われるため,全体の読み聞かせの時間以外には個人的に絵本を読ん でもらうことも,また,自分だけに向けられる言葉による働きかけを受けることも困難である.子ども同 士の会話による語嚢獲得は多く行われていることが予想されるが,言葉の種類によっては意図的な働きか けを必要とするものもある.例えば,場面に応じた言葉づかいや相手とスムーズに会話を進めるためのマ ナーといったようなもので奉る・以上のようなことを考慮して,文字を特別に指導する必要性や絵本を読 み聞かせる必要性を感じるようになったのではないかと思われる.絵本の読み聞かせに関しては,子ども 上の精神的なつながりを深めたり,また,その内容によって道徳的な事柄を伝えたり,想像力を養ったり するという意図も含まれていると考えられる. 表12・13に関して,あいさつは人と人とが交流を図るために基本的な要素の1つである.あいさつを家 庭で習慣づけることは,社会においてよりより人間関係を築くための基礎を作ることであり,また,家庭. における家族とのつながりを深めることにもつながる.特に早期かち保育所という社会集団ですごさなけ ればならない子どもたちにとって,あいさつは重要なものである.日常の中で習慣的にあいさつを交わす ことによって,簡単なものではあっても人と人とが言葉を交わす重要性を自然のうちに学ばせようと考え ているのではないかと思われる.. 表14・15に関して,子どもとの会話を大切にしている様子がうかがわれる.外であったことをたずねる ことに関しては,親が見ていない間に子どもがどのようなことを経験しているのかということを知るため だけでなく,子どもの声に耳を傾けることで,子どもとの精神的なつながりを深めようとしているように 思われる.大人の世界についての質問に関しても同様のことが言える.さらに,大人が子どもにはまだ難 しいから教えるのはまだ早いといったような判断を容易にすることはできず,’また,難しい.からと言って 教えないということは,子どもにとって良いことセはないと考える親が増加していることがわかった. 以上の考察から,父親・母親は子どもが家庭ですごす時間を以前と同じように確保できない分,一緒に すごすことができる時には意識的な言葉による働きかけをしたり,交流を図ったりしていることが明らか になった.. 表9.文字は特別に指導しないで,子どもが自然にお ぼえるのにまかせている はい 性状語. 前回 時間・空間. (%). いいえ 無回答 0. 8・9. 90. 9. 1. 4歳児. 84. 16. 0. 5歳鬼. 79. 21. 0. 今回. 213.
(11) 滝本 幸世・川連 淳子. 表10.よく,子どもといっしょに絵本を読んだり,聞 かせたりする. (%). はい 性状語. 前回 時間・空間. 66. 4歳児. 89. 5歳児. 71. 今回. いいえ 無回答 26. 3. 34. 0 0. 29. 0. 表11.童話は特別に聞かせないで保育所にまかせてい る. (%). はい 性状語. 42. 時間・空間. 前回. いいえ 無回答. 56. 2. 47. 51. 2. 4歳児. 1・1. 89. 0. 5歳児. 43. 50. 7. 今回. 表12.朝のあいさつはいつも言わせるようにしている (%). 鱒い. いいえ 無回答. 性状語. 71. 7. 2. 時間・空間. 69. 29. 2. 4歳兎. 100. 0. 0. 5歳児. 93. 7. 0. 前回. 今回. 表13・寝るときのあY、さつはいつも言わせるようにし ている. (%). はい. 前回. いいえ. 無回答. 性準語. 80. 18. 2. 時間・空間. 76. 22. 2. 4歳児. 100. 0. 0. 5歳児. 86. 14. 0. 今回. 表14.「きょう保育所で何があったの?」ということ はたずねるようにしている はい. (%). いいえ 無回答. 性状語. 77. 21. 2. 時間・空間. 79. 19. 1. 84. 16. 0. 100. 0. 0. 前回 4歳児. 今甲 5. 表15.おとなの世界についてのむずかしい質問にはと りあわない. (%). はい. 45. 50. 5. 時間・空間. 45. 50. 5. 4歳児. 21. 74. 5. 5歳児. 36. 57. 7. 前回. 今回. 214. いいえ 無回答. 性状語.
(12) 保育園児の言語生活に関する研究. 3)絵本を選ぶ基準. 絵本を選ぶ基準に関しては,子どもの観点に立った基準と親の観点に立った基準とが挙げられた. a.. 子どもの観点に立った基準. 子どもが興味を持つもの,子どもがこわがらないような絵の本であること,子どもの発達や 生活にあったもの,年齢に合っているもの等 b.. 親の観点に立った基準. 文章にリズム感がある,挿し絵がマンガ調でないもの,友情・やさしさ等子どもに理解させ たい内容を含むもの,わかりやすく書いてあるもの,自分が読んで心温まるもの,名作であ る,ハッピーエンドである,絵がきれい,物語に夢があるといった様々な基準が挙げられた. 4)おもちゃを選ぶ基準. おもちゃを選ぶ基準に関しては,以下の2つのカテゴリーに分けられた. a.. 道徳的なもの. 欲しいものは何でも与えない,誕生日・クリスマス等行事の時に与える b.. おもちゃの性質. ・値段,流行がない,子どもが飽きないもの,場所をとらない,使い勝手がよい,●危なくない,. 乱暴ではない,想像性がある(1人で遊ぶのにも想像が広がるもの等),友だちと遊べるもの (テレビゲーム等は好ましくない). その他としては,本人が本当に欲しいと思うもの,親がよいと思うもの,また購入せず家にある新聞等 でおもちゃを作る等も挙げられた. 5)テレビ番組を選ぶ基準. l テレビ番組を選ぶ基準に関しては,以下の3つのカテゴリーに分けられた. a.. 子どもに真似させたくない内容を含まないもの. 残酷ではない■,弱いものいじめをしない,暴力的ではない,言葉が汚くない b.. 子どもに学ばせたい内容を含むもの 学習的である. C.. 子どもの生活。発達に適したもの 時間・内容が子どもに合ったもの(大人向けではなく,教育テレビやアニメ等). 6)保育所に行くようになって使うようになったことば. 保育所に行くようになって使うようになったことばに関しては,以下の3つのカテゴリーに分けられた. a.. 男言葉. オレ,バカヤロー,死ね等のことばを使うようになった.これは男の子に限らず女の子にも みられた現象である. b.. 大人びた言葉 形容詞や副詞等. C.. 保育園特有の言葉. 「ごめんねは?」「いいよ,もうしないでね」といったような友だちとの関係における言葉や, 「寝る時は服をたたむんだよ!こうやってね」「自分のことは自分でね」といったような保 育園での生活に関係する言葉があった.. 上記甲他にも,超∼,むかつく,最悪,うち(「私」の意),あっちいけ,きらい,もう遊んであげない, ベ一等という記述があり,保育園で学んでいると思われることばが数多くあることがわかった.. 215.
(13) 滝本 幸世・川蓮 淳子. 7)子どものことばの発達に関して気になる点. 発達の遅れが気になっているとの記述が多く,その記述の約半数が3歳児の保護者によるものであった. その具体的な内容としては,以下の3点が挙げられていた. a.. 発音面. さしすせそがうまく言えない,発音がはっきりできない所がある,会話にならない,吃音, 幼児音が多い. b.. 筆記面 字があまり書けない. C.. 関心面 字に関心がない. 4.ま と め 現代の子どもたちは,家族人数,きょうだい数の減少によって,家庭内において様々なことばに触れる機 会を失い,また,共働き、の増加によって,家庭で家族と過ごす時間・家族とコミュニケーションを図る時間 を,以前と同じように確保することが困難になりつつあることがわかった.しかし,家庭で過ごす時間が減 少するのと同時に,保育園という社会集団で過ごす時間が増加し,このことが,子どものことばの発達に大 きな影響を与えているのではないかと考えられる. 保育園で生活していく中で,その生活自体から友だちと遊ぶ時何をして遊ぶのか相談したり,時には問題 が生じる中で,また,保育士との対話の中で,子どもたちは従来は家族との触れ合いから学んでいたことば やその使い方を,多く学ぶようになったのではないかと思われる.保育園での生活は,多くの子どもたちと の共同生活であり,子ども同士のコミュニケーションがその言語活動の大部分を占めており,そのことから, 家庭で父親・母親等の大人と過ごす場合とは,異なった言語獲得が行われていることを容易に推測すること ができる.. 大人は子どもよりもはるかに多くの語桑を有しており,また,話す相手によってその話し方を変化させる 等言葉を使う際の規則−−一丁例えば,子どもに対しては,難しい言葉の使用を避けたり,教育上好ましくない 言葉を避けたりする等も併せ持っている.一方,言葉を覚えて間もない子どもたちは,何でも吸収し,家庭 での会話や絵本やテレビの中の言葉に触れる中で,試行錯誤をしながら,自分の表現したい内容を表現しょ うと努力している段階にある。 以上のように,大人と子どもを取り巻く言語環境の違いを考慮すると,大人とのコミュニケーションの中 で言葉を学ぶのと子ども同士のコミュニケーションの中で学ぶのとでは,学ばれる言葉の質に大きな違いが. あることが明白である.例えば,1人っ子の子どもがきょうだいのいる子どもとの会話の中で,年上の子ど ものことばを覚えたりノ家庭では子どもの言語の発達面において好ましくないテレビの視聴を禁じていたと. しても,様々な家庭で育つ子どもとの接触で,新たなことばを覚えたりすることが予想される.良い意味で も悪い意味でも,子ども同士の会話によって,多様な語彙獲得が行われていることが予測される. ところで,家庭で家琴と過ごす時間の減少については,既に述べた通りであるが,土のことに関して,興 味深い結果を得ることができた.一緒に過ごす時間は減少しているにもかかわらず,子どもに対する意識的. な働きかけは増加していることである.時間の減少はその質の向上をもたらし,結果として子どもとの関わ りが以前よりも有意義なものになっていることが明らかとなった.. 全体の調査結果から,以下の3点について言及したい.. 216.
(14) 保育園児の言語生活に関する研究. 1点目は,年齢間の違いについてである.言語活動に焦点を当てると,年齢が上がるほど言語発達に関し て肯定的な回答を多く得ることができた.また,4歳を境に変化が見られる項目が多く,このことから,4 歳児は言語発達において重要な時期にあることが明らかになった.. 2点目は,親と子の関わりについてである.子どもが低年齢であるほど,家族全体のコミュニケーション を重視したり,また,父親とのかかわりが増加傾向にあることがわかった.全体としては,保育所で1日の 大半をすごすために親子のかかわりは,時間的には減少しており,その分密接性も失われつつあるが,それ を取り戻すために,限られた時間内で意識的な働きかけを行おうとする家庭が増加していることが明らかに なった.. 3点目は,30年の間に子どもたちの言語環境が大きく変化したことである.やはり家庭で家族とすごす時 間が減少し,早期から社会において様々な人々と関わるようになったことが,子どもの言語発達に大きな影 響を与えていると考えられる.家庭において学んでいた言葉を保育園という社会集団の中で学ぶようになり, 子どもたちの言語は従来よりも多様化していることが推察された.. 謝 辞 最後に,本研究の調査にご協力いただきました保育園のスタッフの皆様,保育園児の保護者の方々に,感 謝申し上げます.. 引用文献. 国立国語研究所:国立国語研究所報告66「幼児の語彙能力」,東京書籍(1980). 土屋 澄男 広野 威志:「新英語科教育法入門」,研究社出版(2000). 217.
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