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母親の育児感情の構造に関する研究

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Academic year: 2021

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(1)139. 母親の育児感情の構造に関する研究 浅川潔司'・鎌田陽世=・横川和章'・古川雅文‥' (平成10年9月21[]受理). 問題と目的 育児に悩み,不安をいだく母親の存在が,社会的に注 目を集めるようになって久しい.テレビのコマーシャル の合間にすら, 「お母さん,自分一人で悩まないで」と, 子どもの虐待ホットラインの電話番号が流れるようになっ たが,かつてそのような母親の姿に焦点が当てられるこ とはほとんどなかった。その理由としては,母親が愛情 豊かに子どもを育てていくのは,あたりまえのことであ り,女性ならばだれでも本能として母性を持っていると いうステレオタイプの母性観が,深く浸透していたため である。. られてきた。しかし, 「育児不安」や「育児困難」 「児童 虐待」などが社会的な問題となり,母親や育児に関する 研究においても, 「子どもの発達に影響を及ぼす要因」 としての母親を論じるのではなく,母親の意識的・感情 的側面そのものを捉えようとする研究が多くなされるよ うになってきた。これらの研究の中でも,特に育児場面 で経験される母親の感情に着目し,測定可能な尺度を構 成しようとするものが多く見られる。それらには例えば, 次のような研究がある。 牧野(1982)は,越河(1970)による「蓄積的疲労徴 候調査」を参考に,育児に関わるポジティブな感情を問 う6項E],ネガティブな感情を問う8項目から成る育児. 大E]向(1988)は,このステレオタイプ的な母性概念. 不安尺度を作成し,乳幼児を持っ母親を対象に調査を行っ. が人間の育児における文化依存的側面を検討することを. た。野津(1989)は,親業(parenting)ストレスを測. 疎外してきたという。そして,母性の普遍性・画一性を. て育児機能に混乱を生じさせるのではないかと危供する。. 定するために作成されたParenting Stress Index (PSI) (Abidin, R. Rっ1983)の邦訳・改訂を行い,親業に対 する自信因子,子どもの行動特徴についての関心因子, 子どもの発達に対する懸念因子,親役割による欲求不満. またSwigart (1991)は,近代の乳幼児研究が幼少時 の子育ての重要性を明らかにしたことによって,子育て. 因子,親の身体的・精神的健康因子,配偶者との関係因 千,子どもと親の愛着因子,子どもの行動特徴に対する. の姿勢に倫理的な要素が深く浸透し,母親の「あるべき. 懸念因子といった8因子, 94項目からなるKGPSIを作 成するとともに,尺度の妥当性を確認した。佐藤・菅原・. 強調することから生じる母性概念と実態との帝離が,家 族をめぐる状況の変化が著しい今日では,従来にもまし. 姿」や「成すべきこと」のみが強調されるようになった と述べ,その反面育児の担い手である母親の情緒や内的 世界への理解はなおざりにされてきた,と指摘している。 女性の社会進出の増加と価値観の多様化・核家族化・ 少子化・地域社会の崩壊といった社会状況の変化は,覗. 戸田・島・北村(1994)は,育児に関連するストレスに ついての28項目から成る質問紙を作成し,育児関連スト レスの中には,子ども関連育児ストレスと母親関連育児 ストレスという,質的に異なるストレスが存在すること. 育児の問題を考えるにあたっては,このような社会的変. を指摘している。首藤・馬場(1995)は,充実感因子・ 疲労感因子・否定感因子の3つの因子から成る育児感情. 化をふまえ,育児は一つの人間関係能力であり,生得的. 測定尺度を作成し,母親の育児感情と愛着スタイルの関. な適性に支えられるとともに,学習され発達するもので. 連を検討した。猪野・久野・松本(1995)は,秦(母親) の育児感情や悩みの程度を問う, 11項昌から成る育児感 情尺度を用い,妻の育児の負担感情や悩み,不安感情を. 代の母親の心性に大きな変化をもたらしている。今Elの. あるという視点や,育児不安や子どもの虐待といった母 性の暗い部分を母性機能不全だといって切り捨てない視 点,そして,育児の担い手である母親の主観的な現実に 寄り添っていく観点からのアプローチが不可欠であろう。 青木・松井・岩男(1986)が指摘したように,これま での母親に関する心理学的研究は母子関係の研究の中に 位置づけられ,子どもの望ましい発達にとって母親はど のような環境であるべきか,といった視点から主に進め *兵庫教育大学第1部(幼児教育講座) * *兵庫教育大学大学院・研究生 * 辛 *兵庫教育大学学校教育研究センター. 測定する尺度を構成している。 上述したような数種類の尺度は,育児に伴う感情に関 する研究としては,育児不安や育児ストレスといった, 母親の育児行動を阻害するような否定的感情について明 らかにしようという姿勢が強調されている。このような 育児不安や育児ストレスがあまりに強調されすぎること.

(2) ilサ. は,育児の中で親と子が双方向に与えあう肯定的な相互. 示したものがFigurelである。自由記述から直接得た項. 作用の側面を無視しがちになるという問題点も,同時に 示唆するものともいえる。その一方で,育児における肯. 目を長方形によって,それらの項目をまとめた上位カテ. 定的な感情に,特に焦点をあてた研究は見あたらない。 そこで,本調査では就学前の子どもを持っ母親の育児. ている。. に関する感情を,肯定的・否定的側面の双方から把握し,. 布置していくことによって, 「子どもと自分(母親)の. 構造化することを主たる目的とした。そのために本研究. 心理的な距離」と「その行動を行っているのが,子ども. では,子育てにおける異体的な出来事について自由記述 による回答を採取し, KJ法による分析を行うこととし. か,自分(母親)自身か」という, 2つの軸が兄いださ. た。. ると,子どもと自分(母親)の心理的距離が大きく保た. ゴリーとして研究者が命名した項目を楕円によって表し 次に,類似性の高いと思われるカテゴリーを平面上に. れた。ここでカテゴライスされた主なカテゴリーを挙げ れ,行動の主体が親である位置に, 「親としての世界の. 方法. 広がり」 「夫婦の一体感」という内容が,行動の主体が 子どもである位置に「子ども独自の世界への気づき」. 調査対象者. 「育児の成果・充実感」がある。また,前述のカテゴリー. 名古屋市内の私立幼稚園に子どもを通わせている母親 171名が,本研究に被調査者として参加した。その属性. よりは,子どもとの心理的距離が近く,行動の主体が子. はTablelに示すとおりであった。 Tablel回答者の属性. ′どもである位置に「まなざし」が布置している。 子どもを見ているのはもちろん母親自身なのであるが, 子どもが何かに取り組んだり遊んだりしている姿を見る という,母親にとってはきわめて受動的な事柄がこれら. 母親の年齢22-46歳(M-33.15). に集約されている。そして,遊ぶといった行動を行って. 家族形態核家族: 139人(81.3),同居: 25人(14.6) その他:7人(4.1) 就労形態専業主婦: 114人(66.7),有職者57人(33.3) 子どもの数1人:22人(12.9), 2人:112人(65.5) 3-6A:37A (21.7). いる主体は子どもであるということから, 「まなざし」. ( )内の数字はパーセント. は,ここに位置している。 また,子どもと自分(母親)の心理的距離が近く,千 どもと自分(母親)がともに行動の主体である事柄とし て, rレクリエーション」「親子の触れ合い」 「共感・一 体感」といったカテゴリーが, Figurelの下部・中央に. 調査実施時期. 位置している。また,子どもと自分(母親)がともに行. 1996年9月17日∼9月20日 妬萱iim. 動の主体でありながら,これらの項目よりは,子どもと. 子育てにおける具体的な出来事についての質問,およ. 自分(母親)の心理的な距離が保たれている位置に, 「相互理解」というカテゴリーが布置している。最後に,. び回答者の属性にかかわるフェイスシートからなる質問 紙を使用した。. 「子どもが近寄ってくる」 「後をっいてくる」 「甘えてく. 現代の母親が抱えている育児感を捉えるために,子育 てにおける異体的な出来事について「子育てをしていて. 感」は,行動の主体が子どもであり,子どもと自分(母. 楽しいと感じるときはどんな時ですか」 「子育てをして いて楽しくないと感じるときはどんな時ですか」という 質問に,自由記述形式で回答を求めた。 諏査手続き 幼稚園の担任教師を通じて,各家庭に質問紙を配布し, 回収した。回収率は91.3%であった。. る」といった項目を含むカテゴリーである「信頼感の実 親)の心理的な距離は近い, Figurelの下部・左に位置 している。 次に, 「子育てをしていて楽しくないと感じる」事柄 を整理したものをFigure2に示す。それぞれの因果関係 から各カテゴリーを付置していくことによって, Figure 2のような内容構造を得た。子育てをしていて楽しくな いと感じる事柄は主に,次の2つのカテゴリーに大きく 分けた。 1つ目は「子どもの将来-の不安」 「理想の子. 結果. ども像からの逸脱」といった母親の心的な状況について の項目,そして, 「子どもの体調が悪い」 「時間・空間の. 質問紙に対する自由記述による回答は,ひとつの内容. 拘束感」といった物理的状況についてに項目を含む「母. ごとに一枚のカードに転記された後,心理学を専攻する 大学院生3名(男性1名,女性2名)によってKJ法を 用いてカテゴライズされ,その構造化が試みられた。. 親の心的・物理的状況」と命名したカテゴリーであった。. まず,子育てに関わる楽しさに関しての反応内容を図. 「母親の心的・物理的状況」が背景となって「母親のス. 2つ目は, 「きょうだいげんか」 「夜泣き」などを含む 「E]常生活のトラブル」と命名したカテゴリーであった。.

(3) 母親の育児感情の構造に関する研究. トレス」が生C,また, 「日常生活のトラブル」と「母 親のストレス」は,双方が原因・結果と成りうるような 関係にあるのではないかと考えられる。一方, 「日常生 活のトラブル」が「叱る」という行動に関連し, 「叱る」 ことによって,母親が「自責の念」にかられ,それが再 び「母親のストレス」を増大させるのではないかという 関連が示唆された。 考察 育児感情の構造について KJ法を用いることにより, 「子育てをしていて楽しい と感じること」についてはFigurel, 「子育てをしてい て楽しくないと感じること」についてはFigure2のよう にまとめられた。 Figurelでは,各カテゴリーを付置し ていくことによって, 「子どもと自分(母親)の距離」 と「その行動を行っているのが,子どもか,自分(母親) 自身か」という, 2つの軸を持っ2次元平面を得た。ま た, Figure2では,それぞれの因果関係から各カテゴリー を付置していくことによって,図のような構造が得られ た。このことから, 「子育てをしていて楽しいと感じる こと」は2次元的な構造を持ち, 「子育てをしていて楽 しくないと感じること」は因果関係的な,換言すれば,. ieii. に異なったものである可能性が示唆された。 先行研究で用いられた育児感情に関する尺度と「育児の 楽しさ」との関連 育児に伴う感情を測定する尺度としては,先にあげた 育児不安尺度(牧野, 1982), KGPSI (野津, 1989), 育児関連ストレスについての項目(佐藤ら, 1994),育 児感情測定尺度(首藤ら, 1994),育児感情や悩みの程 度について問う項目(猪野ら, 1995)などがある。特に, 育児不安尺度(牧野, 1982), KGPSI (野揮, 1989), 育児関連ストレスについての項目(佐藤ら, 1994)は, 主に育児におけるストレスを生み出すような負荷事象や ネガティブな感情に焦点があてられており, Figure2に おいて示されている「母親の心的・物理的状況」や「日 常生活のトラブル」 「母親のストレス」といった内容が 取り上げられている。母親の育児不安や育児ストレス, 子どもへの虐待といった問題が,社会問題となった現代 では,育児に対する不安やストレスを尺度化して測定し ようとする試みが,積極的に行われていると言えよう。 「育児の楽しさ」を取り扱った尺度は稀少ではあるが, そのうち,育児不安尺度(牧野, 1982)には「育児によっ て自分が成長していると感じられる」という項目が含ま れている。これは本結果で示した「親としての世界の広. プロセスとして考えると理解しやすい構造を持っ,質的. がり」と命名されたカテゴリ-に属する諸項目と対応す るものと言えよう。ただし,牧野(1982)のこの項目は. Figurel 「子育てをして糞しいと感じること」についての自由記述の構造図. Figure2 「子育てをしていて菓しくないと感じること」についての自由記述 の構造図.

(4) 142. 育児意欲の低下を測定するための逆転項目として扱われ. 焦点化されて取り上げられることは少ない。その意味で,. ている。また, KGPSI (野樺, 1989)では, 「子供の気. 本研究の結果は,育児の持っ肯定的な側面が幅広く認め. 持ちがよく分かり,一心同体のように感じられる」 「子. られることを示しており,育児に関しては,ストレス研. 供にいろいろなしつけをしてきたがだいたいうまくいっ. 究とともに肯定的側面についての研究も推進されるべき. ていると思う」 「この子は私が一番好きで,誰よりも私. であることを示唆している。. になっいていると思う」など,本研究において「親とし 引用文献. ての世界の広がり」や「育児の成果・充実」 「信頼感の 実感」と命名されたカテゴリーに対応する項目が含まれ ている。しかし, KGPSIの本来の目的は,親業に伴う. 青木まり・松井豊・岩男寿美子1986母性意識から見た母親. ストレスを測定することであり, 「育児における楽しさ」. の特徴-ライフ・ステージ,自己評価,充実感との関係から-. を特に取り出して測定しているものとはいえない。一方,. 心理学研究, 57, 4, 207-213.. 育児感情測定尺度(首藤ら, 1994)は, 「日常の育児場. 猪野郁子・久野美和子・松本律子1995夫は妻の育児感情を. 面で経験される母親の感情」を広く測定するために子育. どう認識しているか(第3報) -妻のゆとりと育児感情-島. てに付随するプラスとマイナスの感情を取り上げている。 そのため「子育てが楽しい」 「子どもと一緒に遊ぶと, 子どものユニークさ,アイデアの豊かさに感動する」, 「子育てを通して自分が成長していると思う」 「子育てに ついて夫婦で話し合い,協力することが多くなった」と. 根大学教育学部紀要(人文・社会科学) , 29, 33-37. 牧野カツコ1982乳幼児をもつ母親の生活と<育児不安> 家庭教育研究所紀要, 3, 34-56. 野津みつえ1989親業ストレスに関する基礎的研究教育学 科研究年報, 15, 35-56.. いった,子育ての喜びや感動,自己の成長感などについ. 大日向雅美1988母性の研究川島書店. て取り上げている。しかし, 「子どもが甘えてくる」と. 佐藤達哉・菅原ますみ・戸田まり・島悟・北村俊則1994育. いった「信頼感の実感」や「共感・一体感」, 「話し相手. 児に関するストレスとその抑うつ重症度との関係心理学研. になる」「コミュニケーションがとれる」といった「相 互理解」, 「遊んでいる姿を見る」といった「まなざし」. 究, 64, 6, 409-416. 首藤敏元・馬場康宏1995母親の育児感情と幼児の社会的コ. などのカテゴリーにあてはまる内容は,取り上げられて. ンピテンスに関する研究埼玉大学紀要教育学部(教育科. いない。. 学) , 44, 1, 53-67.. したがって,これらの尺度は, Figurelで示されてい. Swigart, J. 1991 The Myth of Bad Mather. Bantam. るような「育児における楽しさ」を取り上げてはいるも. Doubleday Dell Publishing Group, Inc. (斉藤学監訳 1995バッド・マザーの神話誠信書房). のの,母親の不安・負担・ストレスを測定するための逆 転項目として扱っているか,あるいは漠然とした「育児 の楽しさ」や,その一部を捉えており,育児という行為 によって喚起される肯定的な感情そのものに焦点をあて, 検討していこうとするものではないといえる。 本研究は,探索的になされた試みであって,限定的な 標本, KJ法の窓意性など,いくつかの問題点を含んで いる。しかしながら, 「育児の楽しさ」と一口に言って ら,その内容には多様な様相を含んだものである可能性 が示された。本研究が,これまでの育児感情に関する研 究において,このような「育児の楽しさ」を考える際の, ひとつの契機になるものと思われる。例えば,肯定的な 育児感情をも測定し得る質問紙を新たに作成し,検討す ることによって,育児期の子どもを持つ母親の内的世界 を理解するための一助となることも期待できよう。とい うのも,現代の少子化等の問題改善について考えるとき, ややもすれば,育児労働の軽減が強調されるきらいがあ る。その点に関して母親等の労働,育児環境の整備や支 援のありかたを考えることは重要にちがいない。他方, 子どもを産み,育てることが,人間にとって大きな喜び であるという認識は,それが当たり前であ.るかのように.

(5) 小学生の自己調整学習方略及びそれに影響を及ぼす要因の研究. 143. The structure of mothers feeling toward child-rearing. Kiyoshi Asakawa, Haruyo Kamada, Kazuaki Yokogawa, and Masafumi Kogawa The purposes of this study were to examine the structure of the feeling of preschoolers'mothers to-. ward child-rearing. We survey the both aspects of the child-rearing feeling, positive and negative. 171 mothers of kindergarten children attended this survey. They were asked to describe the events or experiences about child-rearing which they feel happy or unhappy. The data were analyzed with KJ method which developed by J. Kawakita. The analysis revealed that the structure of happy and unhappy events or experiences are different: the happy events were consisted of two dimensions, unhappy events have a structure of causal relationship. This result implies that the usual scales for the child-rearing feelings include almost only unhappy aspects: child-rearing anxiety, child-rearing stress. Even though they have some items for the happy aspects of child-rearing, they include only a part of it, or they were used to be negative items for unhappy aspects..

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