旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開
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(2) No.58. 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開. 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動による オルタナティブな地域学習の展開 尚 之 (北海道教育大学旭川校). A Report of Regional Learning Program by Community Musium Activity inSORACHIOldCoalMiningArea NaoyukiKON. たものであった。その活動は,同時期に空知支庁が取り. 1.は じめに. 組んだ炭鉱の記憶推進事業と,そこであるべき地域活性. 北海道空知地方は,明治以降,日本近代化の中で,エ. の姿として提唱されたコミュニティ・ミュージアム活動. ネルギー源,鉄鋼原料として石炭を日本国内に僕給し続. を,結果として先導するものとなり,また大人が地域を. けてきた。特に,道外の大手資本による炭鉱開発は,気. 学ぶ活動に地域の子どもらが状況的に参加するという地. 候が厳しく険しい山間地を急速に都市化させ,第二次世. 域全体での学びの枠組みを持ちつつ展開されたもので. 界大戦後の経済復興の中で,炭鉱には手厚い保護がなさ. あった。. れたことからこの地方の人口は急増した。. 過疎地域においては,子どもたちが学校の中だけで学. しかしながら,わが国のエネルギー政策転換による炭. ぶのではなく,社会創造に向けた大人の学習活動の中に,. 鉱の相次ぐ閉山は,急激な炭鉱離職者を増加させ,その. 地域主体の一員として共に参加する取り組みが不可欠で. 受入れ先となる他の産業を持たない地域である空知地方. ある。本報告は夕張市南部地区で取り組まれたオルタナ. では人口吸収が困難となり,離職者の多くが家族を伴っ. ティブ注1. て札幌や本州方面に移住したことから,空知地方では急. 題を報告するものである。. としての地域理解学習の実践とその活動の課. 激な過疎化が進行した。この結果地域コミュニティの活 力は大幅にそがれ,また若年層の就業機会も減少したこ. 2.夕張市南部地区における地域理解学習の実践. とから,より一層の過疎化,高齢化が進行するなど,社 会的,経済的な問題を抱えることとなった。. (1)本報告が対象とする夕弓長市南部地区の概要. この結果,炭鉱産業を基礎とした地域の歴史そのもの. 本報告が対象とした夕張市南部地区は,北海道空知支. が「負の遺産」として捉えられてしまい,炭鉱産業によっ. 庁管内の南端に位置する夕張市の南東部に拡がり,夕張. て発展・繁栄した独自の歴史を持つ,自分たちが住い,. 川本流の河谷に沿った河岸段丘上に人家が並んでいる。. 暮らす地域に対する理解を欠くようになり,地域を育み. この地区は,明治末から石炭生産が始まり,昭和初期. 次世代に引き継ぐ諸活動が低調となった。. に御料林の伐採が開始されるなど,資源開発によって地. そのようななか,炭鉱産業によって発展・繁栄した独. 域が拓かれた,北海道開発の縮図ともいえる地域である。. 自の歴史=地域の記憶を,地域の継承すべき記憶として. 両産業が栄えた昭和30年代には隣接の鹿島地区あわせて. 再認識した大人たちにより,子どもたちと共に学ぶ地域. およそ3万人が生活をしていたが,炭鉱の閉山,林業の. 理解学習の実践が夕張市南部地区で展開された。この活. 動は,学校や行政の働きかけが始まりではなく,地域住. 注1オルタナティブに対する解釈はそれぞれあるところであ. る。ここでは,行政や学校教育の枠組みではなく,地域住. 民の自発的なつぶやきとして始まったものであった。そ. 民が自発的に取り組む諸活動を意味する。それはある時は. れは,教育行政はもとより地域振興政策とも別なもので. 行政施策に反対しつつ対案を出すアドボケイドプランニン. あり,当時夕張市は残すべきものはすべて残してあり,. グなどの要素を持つ他,少数の利益を代表したり,対処の. 後は除却すべき負の遺産であるとの評価を行なってい. 遅れがちな行政施策に対し,先取りした形で実行されるも. た。これに対して地域からオルタナティブとして始まっ. のとしても位置づけられるものである。. − 83 −. 2003.12.
(3) 今. 尚 之. 規模縮小,営林署の廃止などにより,2001年の国勢調査. では人口が1,200人を下回るなど急激な過疎に見舞われ た。このため,自分達が住む地域への自信の喪失や地域 共同体が崩れ去って行く過程でのアノミー状態を経て, 新たな方向性を見し1だせずにいた。 このよう別犬況のなか,夕張川にシェーバロダム建設 の計画が浮上し,隣接する鹿島地区からは住民がすべて 立ち退き,南部地区は後背地を失ない地域の先行きに対 する不安はさらに高まった。南部地区ではダム対策協議 会を組織し,ダム建設に伴う問題点の解決や将来に向け. た環境整備を行政当局に訴えてきた。この地区は,夕張. 市内でも炭鉱の閉山が他地域に比べ遅く,公共投資の少 なさなどから社会基盤の整備が遅れていることもあり,. 写真1積雪により転倒した客車. 市当局に対し,地区からは一方的な施設や設備の充実を. に愛着を持つ人々と,かつて南部地区と鹿島地区で生活. 求める声が強かった。また,急激な過疎化,事業の遅れ などから一部町内会レベルでは南部地区からも,住民は. をしていた人々の間で,客車を解体から守り,保存した. すべて立ち退くべきとの声も出されるなどした。. いという声(つぶやき)があがるようになった。その過. た地域への自信を取り戻し,再び愛着を持つことへの取. 程の中で,客車を守る活動が無く,南部地区の歴史や魅 力について地域に住む,あるいは出身とする自分達の関. り組みを模索している状況にある。. 心が薄かったことに反省が持たれるに至った。そして,. しかし,地域への高い愛着を持つ人たちも多く,失っ. なお,南部地区には小学校1校(児童23名),中学校. 地元小学校の郷土学習室に収蔵,整理された資料の見学. 会を通し,地域の多様性が改めて見直された。そこから. 1校(生徒14名)がある(2001年現在)。しかし,中学 校の統廃合も検討される状況となり,地域で唯一の医療. 荒廃,転倒した客車復旧という単目的ではなく,地域を. 機関である診療所も医師が高齢であることから,現状で. 学ぶことから,地域の記憶として炭鉱や林業の遺産の保. は近い将来に閉鎖することになるなど,地域の生活環境. 存や今後のまちのあり方を考えたまちづくりに取り組む. はより厳しいものとなっている。. ことが確認され,学習活動を主体とする活動目的が打ち 出された。. (2)地域理解学習実践の背景と主体 ② 地域理解学習によるまち育て主体としてのシュー. ① 地域の記憶の喪失と地域理解学習活動へ取り組み. 南部地区では,ダム建設計画にともない隣接する鹿島. バロ塾の結成. 以上の経緯から「地域の魅力や歴史,問題点を『たん. 地区のすべての施設や住宅が除却されたほか,未利用の 炭鉱施設の除却が進み,地域の記憶が急激に失われつつ. けん(探検)』して『はっけん(発見)』することによっ. あった。この中で唯一の交通機関であった炭鉱鉄道の車. て『ほっとけん(放って置けない)』の活動」に取り組. 両だけは,かつての駅構内に残置されていたが,鉄道廃. む活動主体として,シューバロ塾という名称の生涯学習. 止後10年間にわたり手当てがされず車両の荒廃が進み,. ボランティア団体が結成された。そのきっかけは,まち. 1998(平成10)年冬の大雪で写真1のように,一部車両. の記憶としての客車の保存問題であったが,その間題解. が転倒し,夕張市は安全面から撤去を検討するなど,南. 決のみに当たるのではなく,むしろ,いままで関心が持. 部地区にとって,残り少ない地域の記憶の喪失間道が大. たれずにきた,自分たちが住い,暮らす地域を理解する. きく浮上した。. ことを目的とすることから,地域全体という広範なテー マを取り上げることによる,まちづくり,まち育ての基. また,北海道空知支庁では産炭地振興法失効後の地域 振興政策に向け,産炭地独自のアイデンティティを創出. 礎体力を養成することに主眼がおかれていることが特徴. し,地域活性化に結びつける「そらち炭鉱(やま)の記. である。シェーバロ塾結成までの経緯について図1に示. 憶発掘事業」に取り組み始め,管内の旧産炭地を対象に,. した。. 炭鉱に関係し,現在も地域に残存している建造物や工作 物,諸記録などの所在調査に取り組み,その結果を報告 するシンポジウムなどが開催されていた。. それらのことをきっかけにして,南部地区住民で地域 − 84 −.
(4) No・58. 2003.12. 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開. (目的). 第2条本会は、「ひと」・「やま」・「まち」 口. 塾. やl. / ﹁ 萱⋮⋮ 11︼・・・・ヰ. ・「みち」などのシューバロ地域の魅力を 「タンケン」・「ハツケン」する学習活動を 行うことにより、シューバロびとを育て、 「ホットケン」として、まちづくりに つなげる諸活動を行うことを目的とする。. 地域の主体的な担い手 づくり指向. 行政依存からの脱却 指向. 発足:1999(平成11)年6月26日 会員(塾生):28名(賛助会員2名含む) 平成11年7月31日∼8月1日 鹿島・南部の生活と石炭を運んだ三菱大夕張鉄道客車探検会。 31日は客車周辺環 境美化で草刈り実施⊃1日は,遠幌から廃線跡探検遠足。. 10月:シューパロ(南部・鹿島)の銘木探検会 10月晋活動−−−−増匝‖月:シューバロの橋探検会. ・平成11年8月29日 三菱大夕張鉄道客車の補修。台風シーズンを迎え,はがれていた屋根のトタンを鉄 道ファンらとともに修繕. 1月0「2月:夕張岳の高山植物勉強会. 図1 シューバロ塾結成までの経緯. 機会を見つけての活動紹介,基礎自治体への地域の歴史. (3)シューバロ塾の地域理解学習活動内容 ① 地域理解学習活動学習活動のあらまし. 的建造物や工作物の保存への理解と保存の協力要請など. 表1は,シェーバロ塾が1999(平成11)年度に取り組. が積極的に行われた。翌2000年度ではそれらの活動に加. んだ地域理解学習活動や地域遺産の保護活動などを一覧. えて,市内外の他団体への協力や協働などが積極的に取. にしたものである。1999年度では地域遺産の保全活動や,. り組まれるようになった。特に地元ダム対策協議会との. ー 85 −.
(5) 尚 之. 表11999年度におけるシューバロ塾の地域理解学習活動他一覧 月. 学 習 の 内 容. 学習会主題. 活動拠点づく・り. 客車保存活動. 炭鉱とまちと鉄道を 学習の取り組み庵認。南部地区や鹿島地区を舞台にした 現地の見学により保存の u. 映画のVTR上映をアイメイクとして,地域の活性化に. 4語る会. 対する日頃の思いを意見交換し,共有を行った m 】. L. 室見学会. 小学校教諭)のインタープリテーションによって見学。【. 5. 川 のでのづについての. 【 n H ”. 】 旧若葉坑探検会 6. 大正時代に開坑した旧若葉坑の坑口ならびに炭鉱住宅跡 地の見学会。マップライティングによる見学結果の共有. 旧三菱大夕張鉄道探 明治末製造の貨物車両や第二次世界大戦膳製造の客車に 保存現地の草刈りや清掃 ついての鉄道史から見た価値評価に関する説明と,保存 検会(]−). 車両周辺の環境美化活動 1. 7 ‖ ‖. と旧三菱大夕張鉄道探 弓検会(;三) 8 1. 旧三菱大夕張鉄道遠幌駅から南大夕張駅間約4kmに渡 屋根の修繕活動. る,インタ ̄プリテーション付きの遠足0当時の鉄道員 Lや地元の高齢者からの解説を要所で受けながら,炭鉱鉄. 弓. 喜道が地域で果たした役割を再認識 シェーバロ展 9. 10. 住民主体の地域文化祭として毎年開催されているシュー. バロ展への協力と,学習成果の披露. 名木・巨木探検会 南部・鹿島地区の巨木や銘木を,林業専門家のインター プリテーションを受けながら観察 南大夕張鉄道学習会 旧三菱大夕張鉄道の沿革についての講義を地元郷土史家 冬季間の積雪保護用に から受ける. 】ソート掛け作業の実施. 夕張岳の麓に展開した森林鉄道の沿革や特徴的な土木構 11L森林鉄道学習会 u. 造物について講師からのレクチャーを受けた後,参加者 間で振り返りと世代間による情報共有を目的としたワー クショップ実施 傾いた客車の引き上げ作 ち. 12. 業の実施(夕張市による. 弓. 重機の導入). オープンハウス候補物件 の見学. 客車の屋根に堆雪した雪 の除雪作業の実施. の清掃作業. 夕張岳の高山植物学 夕張岳の高山植物の希少性とその保護の必要性,並びに 自然保護活動の経緯などを,自然保護活動の担い手から 2. レクチャーを受け,翌年度の夕張岳登山学習会への基礎 と 知識とした. 弓. 連携がなされたことなどはシェーバロ塾が,南部地区に. 会の集会所を兼ねた活動拠点づくりが行われた。活動拠. おけるまちづくり活動団体として定着し,地域から理解 されるにいたったものといえよう。また,鉄道車両につ いては別な保存会組織ができ,裾野が広がる形で役割分. 点(オープンハウス)では学習会活動をまとめたA2版. 担が見られるようになった。さらに,学習成果を地域に. シェーバロ塾の地域学習活動の対象を「人工一自然」「街. のパネルを壁面に展示するなど,活動の公開を行なった。. 図2は,1999年度∼2000年度にかけて取り組まれた. 還元すること,人が集うことと情報を提供することが周. (生活)−やま(産業:炭鉱・森林)」の二軸上に配置. 辺的な参加をもたらすことなどの考えにより,オープン. したものである。地域の主要産業であった,炭鉱にかか. ハウスづくりも取り組まれた。1999年度に一度取り組ま. わる歴史学習のほか,もう一つの主要産業であった営林. れたが他団体との共用でトラブルが発生したことから改. 事業,1950年代後半から60年代にかけて水資源開発のた. めて2000年度の秋から廃業した食堂を改修し,地元老人. めに建設されたダムなどが学習の対象とされ,生活の舞. − 86 −.
(6) No.58. 2003.12. 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開. 街(生活) ・地域のお年寄りの お話を聞く会(00.3). ・巨木・名木探検学習会. ー鹿島・南部郷土資料室見学. (99.10). (99.6.5)(00.2). 人.. 自然 」■. lL ・大夕張ダム探検学習∃ ・化石学習会. (00.10). ‘00■12). ・旧三子許 ・砂金堀探検学習会. 愚胡瓜. (00・8). ・旧三菱大夕張鉄道探検. l. (00,2). ・森林鉄道学習会 (99.11). ・夕張岳登山学習会 触7). 若葉坑探検学習会. やま. 写真2 マップライティング法による学習の 振り返りと情報共有. (99.6.26)(00.5.8). (炭鉱■営林). 図21999∼2000年度にかけて実施された学習会の分類. 台となった街並やそこで展開された生活などについての 学習が少ないことなどがわかる。地域理解のためには地. 域の主要産業のみならず,生活文化に関する主題の設定. とその学習も重要であり,それらのテーマの学習が課題 として指摘できよう。. ② シューバロ塾の地域理解学習の一例としての森林 鉄道学習会 (1)学習会の概要. 夕張市南部地区は,三菱による石炭資源開発で始ま 写真3 作製された地図の発表風景. り,発展したといわれてきている。しかし,ユ920年代 からの帝室林野局による御料林開発もまた,地域の開. 同 学習会のプログラムとねらい. 発にさまざまな影響を与えて来た。この学習会は,従 来の石炭産業一辺倒であった地域の主要産業に対する. 題材およびテーマ:. 認識を改め,新たな発見や再発見と,各自が知る南部. 森林鉄道探検会,シューバロの森のハツケン・. 地区における森林やまちの魅力,問題をワークショッ. シソテルさがし. プによって共有(分かち合い)し,今後の「ほっとけ. 日時および場所:. ん」活動の方向を検討することを目的とした。. 1999.11.28(日)13:00∼16:30. 学習会は二部構成として前半を営林事業や森林鉄道. 夕張市南部コミュニティセンター. に関する講演とした。また,後半を参加者同士で講座. 参加対象者:. 内容を振り返ると同時に,各自が持つ情報を共有しあ. シェーバロ塾会員その他31名(講師3名,中学. うワークショップとした。ワークショップでは,テー. 生3名,北海道教育大学旭川校学生3名,報道関. マを『シューバロの森のハツケン・シッテルさがし』. 係者3名を含む) 学習会のねらい:. として,参加者を2班に分け,マップライティング法. 地域の歴史・生活環境について学習会を通じ. によるグループミーティングとした。. また,作成したマップについては,発表の時間を与. て,新しい知識を得て,それをワーークショップを. え各班から選ばれた代表者による説明を通し,全員で. 通じて「興味・関心さがし」や「ひとさがし」な. 情報共有を行うものとした。. どシューバロの宝さがしを促進させることによ. 写真2∼3は学習会のワークショップの様子であ. り,参加者間で多くの情報を共有する。. る。. − 87 −.
(7) 尚 之. 今. (ii〕学習会の評価. ⑨ 学習会への参加による学びの結果. 学習会では森林開発と森林鉄道が南部地区に与えた. 学習会に参加したことによって得られた学びの結果と. して,いままで知らなかった地域の魅力を改めて知るこ とができたという回答がもっとも多く,地域の魅力など. 影響の大きさが再認識された。また現在未使用となっ ている森林鉄道の橋梁構造物が土木技術上特徴的な構. 造物であり,わが国でも南部地区にしか残っていない. を再認識したという回答が次いでいる。また,異年齢と. ことなどが新たな情報として提供され,参加者に理解. の学習体験が,好ましい結果を招いているとする回答も. された。ワークショップでは戦後の緊急開拓の思い出. 多く選択された。. と森林鉄道とのかかわりや普段から気にかけている風 景などがマップ上に記載されるなど高い参加性が見ら. ④ 子どもとともに学ぶことについての意識. ところ,中学生3名と教員の参加があった。シューバ. 18歳以上の回答者を対象に,子どもとともに地域を学 ぶことについて質問を行なった。自分の知っていること. ロ塾の学習活動には地域の高齢者やかつて南部地区な. を子どもたちに教えることができるとした回答数より. れた。地元小中学校に児童・生徒の参加を呼びかけた. どに居住していた大人が多く参加しているが,地域の. も,子どもから教わることもあるという回答数が上回っ. 子どもたちも共に学ぶよう学校側に呼びかけを行なっ. た。. ている。このため年齢層によって,まちへの視点や「お. また互いに良い刺激となるとした回答数も多く,先の 学習結果についての質問とあわせてみると,大人と子ど. もい」に違いを改めて知ることもできた。. もが共に学習する形式に対して,肯定的な評価がなされ たものと考えられる。. 3.シューバロ塾による地域理解学習活動に対 する評価 (1)学習会参加者対象調査の実施. 学習会などへの参加理由(複数回答). 以上実践例を述べてきた地域住民主体. のオルタナティブとして,地域理解学習. 地域のことを学ぶことば重要. 活動に取り組んだシューバロ塾の活動評. 価や要望調査を会員を対象に行なった。 質問項目は,回答者属性のほか,学習. 自分の教養を高めるため. 時間があるから(暇があるから). 会などへの参加状況と理由,参加により 得たこと,学習成果の分かち合い,今後. の活動内容に対する要望,子どもととも. 友達を増やしたいから. おもしろそう、楽しそうだから. に学ぶことに対する意識などであった。 ただ何とな〈. (2)調査結果. 0. 10. 5. ① 調査票の回収. 15. 20. 25. 回答数. 図3 学習会などへの参加理由. 調査票は2000年1月においてシューバ ロ塾の正会員として登録されている52名. 学習会などへ参加による学びの結果(複数回答). を対象に,質問票の郵送配付,郵送回収 により行われた。回答者は32名で回収率. 地域の歴史や魅力などを再認識. は61.5%で,男性が24名,女性が8名で あった。. 地域について知らなかったことを新たに学習 地域を学ぶことの楽しさ・意欲が沸いた. ② 学習会などへの参加理由. 学習会などへの参加の目的については. 図3に示した結果となった。地域のこと. 幅広い年齢層の人達が一緒に活動するので 学ぶことも多く楽しい 友人関係が広がった、深まった 特にない. を学ぶことは重要であるという回答が. もっとも多く選ばれ,次いで,おもしろ. 0. うそう,楽しそうという回答も多く選ば れた。. 5. 10. 15 回答数. 図4 学習会などへの参加による学びの結果. − 88 −. 20. 25.
(8) No.58. 2003.12. 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開. 子どもと一緒に学習をする瞭、自分達にできること(1る歳以上のみ。複数回筈). への取り組みが欠如していた。そこで,北 海道空知支庁では1998(平成10)年より支. 自分の知っていることを子どもに 敢えてあげることができると思う. 庁独自の政策推進事業「そらち・炭鉱(や. 逆に子どもから教えられることも あると思う. ま)の記憶推進(発掘)事業」として,産 炭地域に語り継がれている炭鉱遺産の数々. お互いによい刺激となり、学習へ の意欲が沸<と思う. を「産炭地域の将来の可能性を開く新しい. 子どもの学習の手助けをしてあげ たいと思う. 地域資源」と位置づけ,その実態や具体的 な活用の可能性などを調査・検討すること. 学習内容は別として、地域みんなの手で. 子供たちを育てていきたいと思う. に取り組んだ。この事業は単に炭鉱遺産を. 何もしてあげることはない 0. 5. 10. 15. 20. Z5. 保存し再供用することが目的では無く,地 域の記憶の掘り起こしプロセスを通した, 地域の主体回復とブランド化などを,地域. 回答数. 住民主体による「炭鉱の記憶再生塾」活動. 図5 子どもとともに学習することへの意識. などによって形作ることを主たる目的とさ 今後の活動内容についての希望(複数回答). れたものであった。1998年度では炭鉱遺産 の現状調査が実施されたが,その結果をど のような施策に反映するのかが1999年度か. 学習会や探検全. ら2000年度にかけての課題となった。その 炭鉱の記憶をつなげるグループ や地域づくリグループとの交流・ 共同学習. 課題への取り組みの中で,コミュニティ・ ミュージアム構想が立てられることとなっ. 地元の小・中学校と連携した 学習プログラム. た。. 地元の社会教育施設(石炭 博物館や美術館等)と連携 した学習プログラム. 一般的に,コミュニティ・ミュージアム. という場合は,都市の一角で芸術家などが. その他. 0. 5. 10. 15. 20. 25. 自宅ヤアトリエを公開し,自分の作品を展 示することをいう。 それに対して空知支庁の取り組みは,地. 回答数. 図6 今後の活動に対する要望 ⑨ 今後の学習に関する要望 今後の学習活動の展開として,他の学習グループやま ちづくりグループとの交流学習に対する希望のほか,地. 元の社会教育機関(博物館や美術館)との連携プログラ ムが強く希望された。地元の小・中学校と連携した学習. プログラムの実施を選択する回答もあったが,先の2点 に比べ選択は少なく,オルタナティブな学習形態の指向 が強いのではないかと思わる。. 4.コミュニティ・ミュージアム構想. 地域コミュニティが. 全勝で漫鴇・叢営班る. 空知支庁管内では,閉山後の荒廃した炭鉱関連施設に 象徴されるマイナスの地域イメージや地域アイデンティ ティの喪失,特に急激な離職者増に伴う過疎化によるコ ミュニティの崩壊など,経済的・社会的に多くの課題を. 抱えている市や町が多い。特に,炭鉱産業を基礎とした 地域の歴史そのものが「負の遺産」として捉えられてし. まい,炭鉱産業によって発展・繁栄した独自の歴史=地. 図7 そらち・炭鉱(やま)の記憶コミュニティ・. 域の記憶を「地域ブランド」として認識した地域づくり. ミュージアム構想概念図. − 89 −.
(9) ′・→. 1■. 尚 之. 城理解とその運動による地域の主体性回復を目指したも. なった。このことは半年ほど遅れて始まった行政主導に. のであり,具体的な経済支援施策に欠けるものの「地域. よる炭鉱の記憶再生塾活動との比較材料ともなり,コ. 社会の人々の生活と,そこの自然環境,社会環境の発達. ミュニティ・ミ. 過程を史的に探究し,自然遺産および文化遺産を現地に. ととなった。. ュージアム構想の概念整理に寄与するこ. おいて保存し,育成し,展示することを通して,当該地 域社会の発展に寄与することを目的とする(ジョル. 5.地域理解学習におけるまち育て視点の必要性. ジュ・アンリ・リヴェール)」エコ・ミュージアムの考. え方が基盤となったものであった注2。. (1)生活環境の変化とまち育て学習. 以上,旧産炭地における,住民主体のオルタナティブ. エコ・ミュージアム活動は,1960年代フランスで始 まった。当時の高度経済成長は都市と農村の経済格差を. としての,地域住民による地域理解学習の展開事例を見. 拡げ,農村は急速に過疎化した。その経済格差を埋める. てきた。. 現在,地域の生活環境は,少子高齢化などの進行,情. ためにも,都市では提僕できない農村文化を基盤とした 地域再編として取り組まれ,その後スウェーデンなど欧. 報社会への移行などにより大きく変容している。このよ. 州各国に広まった概念と活動である。. うな状況下において,地域づくりは従来の画一的なハー. しかし,空知支庁での取組み活動では,エコ・ミュー. ドウェア整備を主体とするものから,地域の実情をふま. ジアムの「エコ」は環境としての周辺を意味せずに,「自. えた柔軟なハードウェア整備とソフトウェアを重視した. 然生態」の意味としてのみ捉えられてしまったこと,空. 整備に対する関心が高くなってきた。さらに地方分権と. 知支庁の施策が道立の炭鉱博物館建設につながるものと. いわれる中で,画一的な生活環境づくりから,地域の実. いう誤解などが一部で持たれたり,イギリスにおける. 情や特徴を活かした生活環境づくりへと視点が推移して. オープンエア・ミュージアムと混同されるなど,地域の. いる。このようなことは地域づくりに対して歓迎すべき. 記憶の掘り起こしと,その活用取り組みを目指す概念の. ことであるが,その一方,参加・協働のデザインの考え. 理解はなかなか進まないものがあった。このことは,地. 方のもとで,地域住民の主体的なまちづくり意識を高め. 域住民主体による地域理解学習をもとにした,コミュニ. る取り組みが不可欠であるといえよう。特に,生活環境. ティの再編活動の実践事例が,身近に存在しなかったこ. の整備は長期間にわたるものであり,世代を超えて引き. とにもよる。. 継がれてゆくべき息の長い取り組みである。人が成長す るがごとく,地域というコミュニティが育つものとして,. しかしながら,夕張南部地区で活動するシューバロ塾. の活動取り組みが,実践事例として概念共有の参考と. いわば「まち育て」とでもいうべき視点からの取り組み. なった。「探検・発見・ほっとけん」というわかりやす. が必要といえ,主体者としての意識の高まりを待った,. いキャッチフレーズのもと,学習活動と地域の記憶装置. 自律したコミュニティ構成者としての地域住民が育つこ. ともいえる工作物の保存活動に定期的に取り組み,地域. とが重要と指摘できる。. 内の幅広い年齢層の参加と,地域内住民と地域外住民と. 従来,このような学習は成人を中心とした学習であり,. の協働の場を提供していることなどが,具体的なイメー. 社会を創る学びとして,社会教育の対象として考えられ,. ジをつかむことに役立った。そして芸術家などが自らの. 例えば,公民館を中心として学習活動が取り組まれるな. 作品を地域内で公開したり,ワークショップを主催する. どしてきた。しかし,1970年代以降,社会の中で豊かさ. ことにより,地域住民とのつながりをつくるコミュニ. を享受する方向が好まれるようになり,地域課題の学習. ティ・ミュージアム活動と,都市計画などで注目されて. やその解決よりも,趣味・教養に対する教育需要を満た. いるコミュニティ・リフォーム活動注3概念との重ね合. す方向が,公民館活動や社会教育の主題となってきたこ. わせの理解が可能となった。また,オルタナティブとし. とは多くが指摘しているところである。また,高度経済. て取り組むシェーバロ塾の地域理解学習活動に対する行. 成長下における産業構造の変化や地方の過疎化が進行す る中で,いわゆる地域おこしなどとして,地域課題の解. 政や学校教育の関わりなどの諸課題も提示されることと. 決は行政機関の主要課題となり,地域の経済産業政策や 注2大原一興:「エコ・ミュージアムへの旅」,鹿島出版会。. 都市計画政策など,いわゆる地域振興策として扱われる. 注3大規模な開発による地域再編ではなく,地域内の身近な. ことが多くなった。. 課題解決により,地域内のつながりと自己再生能力を高め. このことは往々にして短期的な目標下での取り組みを. るという取り組み。多くは地域のNPOやコミュニティ・ ビジネスの担い手たちによる,オルタナティブな活動とし. 招来することとなったことは,すでに多くが経験してき. て取り組まれる。サンフランシスコのダウンタウン再生な. ていることである。補助金など,いわゆる物,金,制度. どがある。. の枠組みの中で即効的な効果を求めることになり,長期. − 90 仙.
(10) 旧産炭地におけるコミュニティ・ミュージアム活動によるオルタナティブな地域学習の展開. No.58. 2003.12. に渡る継続的な取り組みが必要である,育ちの視点から. 問に関する議論を育成する能力,すなわち知識や理解を. 地域づくりがかけ離れてしまうことが,往々として見ら. 深め,現実的な活動,意思決定およびコミュニティの中. れることとなった。その結果として,地域の力を弱めて. での個人間の相互関係を信頼すること」注4として,市民. しまい,主体者としての意識を持った,自律したコミュ. 教育や他のテーマと密接なつながりを持って展開されて. ニティ構成者である,地域住民の育成を妨げてきたこと. おり,クロスカリキュラムの一つとして,環境教育が捉. は否めない。. えられている。さらに環境教育では,環境を認知するこ. 夕張市南部地区の事例に限らず,旧産炭地においてま. ととあわせて,環境をデザインすることについて学ぶ視. ちづくり意識が低迷した背景には,人口の急激な減少に. 点が盛り込まれている点に注目すべきであろう。. より担い手の数が減ったことにあわせて,補助金などに よる保護行政がパターナリズム的な手当てとなり,地域. KenB。yneS注5によると 「何か知識や技術を習得する ためというよりは,これからの世の中の変化に自身を. が持つ潜在的な能力を,エンパワメントし,顕在化する. 持って対処して行けるような情操やイマジネーション,. 方向に働らかなかったことと推測される。子どもたちに. 考え方のプロセスを身に付けることに意味がある」のが. 対する地域理解の学習は学校数育の中で行われたとして. 環境教育であり,「既存の状況を改善すること」そのた. も,それは社会に出るための学びとしての理解のもとで. めに「既存の状況を理解する必要があり」「それをどの. の展開であったであろう。それよりも,急激な社会変化. ように変化させてし1かなければならないかということ. に対応し,社会を創るべき大人たちに対する地域理解学. を,自分でイメージし」「イメージを実現するために行. 習の機会が充分でなかったことと,その影響については. 動に移し」「その新しい環境を再び評価する」ことがデ. 改めて検証がなされるべき事柄と指摘されよう。. ザイン学習であると述べられている。. (2)大人と子どもが共に学ぷ環境. の学習は,現代的な課題として大人と子ども双方にとっ. 社会を創る学びの一つとして環境をデザインすること. 現在,学校教育現場において子どもたちは「将来の担 い手」とい. て必要であるといえよう。 環境のデザイン学習はその必要性などを体系的に学ぶ. う観点から,将来に備えた地域理解学習への. 取り組みの対象として認識され,多くの学習活動が取り. と同時に,具体的な課題を事例として,状況の中で参加. 組まれている。しかし,そこには大人と子どもが共に地. することによって学ぶものといえる。いかなる状況がそ. 域を学び,理解する考え方は少なく,学校に地域の成人. こに存在し,または学習の場として形作られ,その中で. が訪問するかあるいは子どもたちが訪問して敢えてもら. 何を学び取っているのか,地域理解学習の次なるステッ. う形の,大人が子どもを教授する学習形態の取り組みが. プとして,デザイン概念の導入は地域全体で学ぶことに. 主となっている。. とって,不可欠なものとして実践事例の検討が必要とい. しかし,例えば,イギリスにおいては,子どもと大人. えよう。. が共に学ぶ場や仕組みが作られ,共に学ぶことにより, 互いにさまざまな影響を及ぼし合い,自己学習力の育成. 6.ま と め. や生きる力の育成とともに,ひとが育ち,地域が育つこ. 北海道空知地方の旧産炭地で取り組まれてきた地域住. とへとつながると考えた環境教育が展開されている。こ. のような展開の背景には,子どもも,地域社会の構成員. 民によるオルタナティブな地域理解学習活動の事例報告. であるとの認識と,地域全体で学習プログラムを進める. と今後の考察について報告した。. にあたり,子どもの参加について,日本の「将来の担い. 大人が学ぶ活動に,子どもが共に参加することは,同. 手だから」ではなく,イギリスでは「子どもは子どもな. じ学習者としての立場と同時に,現代的な意味を持つ正. りの見方があり,子どもにしか気付かない物や事がある」. 統的周辺参加の一形態であるのではないか。特に過疎地. という観点が影響していることが指摘できよう。. などにおいては役割の担い手が少ないこともあり,一人 ひとりの力の発揮が地域の存立に向けて,重要な課題と なるであろう。. (3)社会を創る学びとしての環境のデザイン. イギリスでは1995年に教育改革法が改定され,環境教. 地域課題解決を目指した学習では,どうしても既存の. 育の推進基盤が整備され,「価値観や信念についての疑. 教育,学習の枠組みでは制度的に対応できなかったり,. 注4小津紀美子:日英カリキュラムの違いと日本の環境(ま. 注5. KenBaynes:子どもの力を引きだす,環境改善の体験学. ち)教育の課題,子どもと進める環境(まち)学習・まち. 習,子どもと進める環境(まち)学習・まちづくり’97,. づくり’97,p.26,まちワーク研究会,1997。. p.28,まちワーク研究会,1997。. 一 口l−.
(11) 尚 之. 今. 即応性に欠ける。あるいは,既存の枠組み自体の批判と ならざるを得ない場面が多くでる。その意味からもオル タナティブな取り組みとならざるを得ないであろう。 市民教育の取り組みや状況的な学習論も踏まえた実践. 事例の考察が本報告の今後の展開として指摘できよう。 【謝辞】. 本報告は,北海道教育大学へき地教育研究施設の研究 助成によるものである。助成申請時においては地域の学 校数育との関わりを実践的に分析するものであったが諸 般の事情により,助成申請に至るまでの取り組み事例中 心に報告させていただいた。また試論的な記述が多く不 完全なものである。このような形での報告を了解いただ けたこととに深く感謝をしつつ,ここに至るまでの不備 を深謝するものです。. また,夕張市南部地区を拠点とする生涯学習ボラン ティアグループ「シェーバロ塾」の皆様には実践などに 対し常にご協力をいただいた。ダム建設によるさまざま な社会問題に揺れながらもまちの将来に向け地道なご努 力を重ねていることに敬意を示すと同時にここに記して 改めて謝辞と致します。. − 92 −.
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