教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて ― 学部卒院生の授業づくりに関する振り返りを通じて ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて ― 学部卒院生の授業づくりに関する振り返りを通じて ― 中村 吉秀*1・山口 好和*2. 概 要 函館校での学部卒院生による「学校課題俯瞰実習」において、授業場面(写真)をもとに、 実習生、 指導教諭、実習担当教員、指導教員らによる重層的な振り返りを行った。院生と指導教諭各2名への インタビュー結果から、それぞれの立場での授業への視点や気づきが得られた。加えて、今後の実習 における学習環境について手がかりを見出した。. 1.問題と目的 「会計」「公共政策」 「法科大学院」など8分野からなる専門職大学院の一つである「教職大学院」 は、発足当初(2008、2009年度)の25大学から、ここ2、3年で設置校が激増している。専攻数は 2017年5月の時点で、国立46大学46専攻(入学定員1171名) 、私立7大学7専攻(入学定員205名)と なっており、全県設置がほぼ実現した1。高等教育政策および教員養成政策としての是非を論じるの は容易ではないが、教員の不規則な世代構成への対策も含めて、教師教育の制度整備や学習環境をめ ぐる問題群が、いわば「次のステージ」を迎えていることは確かである。 教職大学院の「成果と課題」を確かめる事業として、すでに何件かの報告がなされ始めている。文 部科学省は、兵庫教育大学への委嘱により「今後の教職大学院におけるカリキュラムイメージに関す る調査研究」を組織して、全国の教職大学院と教育委員会への調査を実施した。そこでは、アンケー ト調査によってカリキュラムの中で重視する内容の分布が確認されるとともに、訪問調査を通じて得 られた教員・院生の「生の声」が報告書にまとめられている(兵庫教育大学 2014)2。愛知教育大学 でも、文科省特別経費「教員養成機能の充実プロジェクト事業」によって国内19大学の比較調査を実 施しており、調査先の各大学院で「理論と実践の融合・往還」がカリキュラムにどう具体化されてい るかを報告している(愛知教育大学 2014)3。また沖野ら(2016)も、早期に設置された教職大学院 7機関への訪問調査を通じて、大学院での「理論と実践の往還」についての実態把握と望ましい関係 性を論じている4。これらの報告を眺めてみると、地域との緊密な関係構築を前提としたカリキュラ ム構成とその運用が各地でなされており、一定のバリエーションがうかがえる。これは、どんな手段 で「実践的指導力」を形成すべきかは、各大学院で独自に考案する必要があるということだろう5。 ところで、教職大学院での教育方法の特色の一つは、 「学校における実習」の履修が10単位以上設 けられていることだが、 その具体的な設計・運用についても各大学院の工夫が求められる。現職院生、 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. *2. 北海道教育大学教育学部函館校 国際地域学科地域教育専攻. 1.
(3) 中村 吉秀・山口 好和. 学部卒院生(以下では院生と略記)の双方にとってそれぞれの難しさはあるが、とりわけ院生にとっ ては、学部との違いや院生間の経験差などの問題があり、萩原ほか(2014)は長期型と集中型のそれ ぞれで長短所をまとめている6。 教職大学院において院生が学ぶことに関連しては、幾つかの報告がなされている。ごく大まかに分 類したうえで、それらの意義と課題を簡単に確かめてみよう。 まず、院生にとって、教職大学院でどのような学びが得られたかを総括する報告がある。 山口・新藤(2015)は学部卒院生への修了時点のインタビューを通じて、教職大学院で学ぶ意義を 具体的に聞き出している7。特に学部の教育実習との違いについては、実習校内での役割や業務量が 校内の一員として組み込まれていたおかげで、児童の実態把握や関係性の構築が円滑になり、使命感 を持つことができたと語られている。また吉田 (2016) が行った院生9名へのインタビューによれば、 教職大学院で学修する成果は、個々の進路希望や性格によって大きく異なるとされている8。木村・ 森崎(2014)の報告では、院生の学びの積み重ねを「授業観の変容」という概念を用いて説明してい る9。それによれば、教材や生徒、授業に対する見方や考え方が、学部時代、院生時代、学校に就職 後と進むにつれて、質的に変化していると報告されている。石井(2012)も、院生との関わり方を克 明に振り返りながら、指導教員と院生のいわば協同的な気づきについて「1人称」の記述を行ってい る10。また、院生自身がどのような力を得たと感じているかは、松本(2014)や河野(2014)に詳し い11。 一方で、院生が乗り越えるべき課題がどこにあるのか、整理しようとする論考もある。 例えば小松(2014)は、大学院での授業経験を通じて(おそらく学部卒)院生が抱える課題を指摘 している。そこでは、見通しが不明瞭な問題場面に耐える力( 「考える力」 )の不足、異論に対して自 分の考えの固執・撤回という極端な反応や他者の話に聴き入ることの困難さ( 「対話する力」 ) 、異質 なもの・他者への不安や恐れ( 「関係を育む力」 ) 、学びへの「構え」の意義を感じない( 「学ぶ力」) などの傾向が見られるとある。12 森田(2011)は京都連合教職大学院での経験から、院生が教職に就くまでに得た学修成果について 実感を述べている。院生には私立大一般学部からの進学生も多く、経験レベルや力量差も大きいが、 学校現場での臨床的な学びの機会を豊富に持つことで成果につながるとしている13。 さらに、学部の教育実習との違いを明らかにして、大学院での指導の要点を絞ろうとする試みもあ る。 例えば小柳(2010)は、新設後間もなくの教職大学院において、院生の教育実習が学部時代のもの とどのように異なるかについて、試行錯誤の様子を紹介している。そこでは「実習内容・実習で身に 付ける力を明確にしておく」 「評価内容と評価方法を具体化しておく」 「授業力向上に向けた教科指導 の力の継続指導体制を検討する」など、実習の成果を得るための視点が5つ列挙されている14。また 小柳(2009)は、授業観察のための視点作成と学生実習での試行を通じて、学部段階と大学院段階と で授業の見方にどのような得手不得手があるのかを示しており、暫定的に9カテゴリー47項目からな る授業観察の「視点」を整理・提案している15。徳岡(2013)も同様に、教職大学院における教育実 習の役割と課題を論じている16。 翻って本学での取り組みを確かめてみよう。本院における院生の実態把握については、 藤森 (2013) 「研究紀要」第6号でも特集が組まれている。中でも院生が教 や大久保(2014)らの報告17に続き、 材や授業をどうとらえているかは、藤森(2016)や森(2016)の報告18が参考になる。前者は学級経 営に関する「振り返りシート」の内容分析であり、後者は学部卒・現職を含めた院生が講義で記述し 2.
(4) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. たノートの分析である。いずれもテキストマイニングによって、院生が「学級の主体性」や「実践的 指導力」をどうとらえているのかを視覚化している。 しかし、いわゆる「学校における実習」が教職大学院での大きな割合を占めている以上、実習にお ける授業づくりで院生自身が感じたり考えたりした内容を、実際の授業場面に即して確かめる必要が ある。また「理論と実践の往還」を単なるキャッチフレーズで留めないためには、院生の授業づくり に何らかの分析の眼を向けざるを得ない。それらの作業は、これまで実習校の担当者に依拠してきた というのが正直な姿だろう。 本院のカリキュラムでは、院生が「学校課題俯瞰実習」 (以下では「俯瞰実習」と略記)と呼ばれ る教育実習を約1か月間行うことになっている。ここでは、学部での経験をベースにして、主に「子 ども理解に基づく授業計画力、授業指導力、授業分析力」の養成を目指すとされている。 本院の院生が最初に経験するフィールドワークは、 1年次に附属校で実施する 「学校課題俯瞰実習」 (5単位)である。それを受けて2年次に公立学校を連携協力校として「自己課題解決・検証実習」 (5単位)をそれぞれ行うとされている。ガイダンス等では、 「俯瞰実習」のねらいが以下のように 示されている。19 ⑴ 附属学校の組織・運営等を自らの実習テーマに基づき観察・調査して学校全体の機能を俯瞰す るとともに、共通科目で学ぶ教科指導、生徒指導、教育相談、学級経営、学校経営に関する理論 と関連付けて理解できるようにする。 ⑵ 異校種一日訪問実習、学校研究会参加を通して、様々な学校の教育活動の実際を学び、広い視 野から学校教育活動全般を俯瞰する。 ⑶ 自己の専門性を生かした教科・領域等の授業実践を通して、教師としての使命感・自覚を身に 付けるとともに、子ども理解に基づく授業計画力、授業指導力、授業分析力を養う。また、計画 的・意図的な学級運営、 児童生徒理解に基づく生徒指導等について基礎的な実践的指導力を培う。 当然これらは⑴⑵⑶と順に学ぶものではなく、むしろ渾然一体となった教育活動の中から院生が学 び取る要素を網羅したものと言えよう。院生にとってその「入り口」にあたるのは、 「子ども理解に 基づく授業計画力、授業指導力、授業分析力」ではないだろうか。. 図1 「俯瞰実習」における“俯瞰”のイメージ. 3.
(5) 中村 吉秀・山口 好和. 院生が行う「授業研究」についての全体イメージを、筆者らは図1のように捉えている。まず学部 の学びをベースに実習が行われている。次に授業の様子について、大学教員、指導教諭、院生が一緒 に振り返る。さらに、授業の様子を大学教員と院生が一緒に振り返り、この2つの振り返りを概観し 整理する。このように、重層的に振り返りに取り組むことを“俯瞰”と捉えたい。 期間中、院生の実習場面に立ち会えば、学びが深まる様子をたしかに実感できる。現場の慌しい空 気の中で、教師に求められる業務や振る舞いに徐々に馴染んでいることを感覚的にはつかめる。しか し例えば「~のような発言が出れば“授業指導力の向上”とみなす」と指標を設けることは、技術的 な困難も予想されるし、そもそも学校課題を俯瞰するための実習にそうした指標の設定が適切なのか は、原理的にも疑問である。 そこで本稿では、今年度「俯瞰実習」に取り組む院生2名の授業実施経験と振り返りの内容をもと にして、本院での今後の実習を展望する手がかりを得たいと思う。具体的には、 「子ども理解に基づ く授業計画力、授業指導力、授業分析力」の問題に対して、授業場面を振り返りながら“発問・振る まい・指示・助言・表情・考え”等を切り口に、院生と指導教諭へのインタビューを試みた。そこか ら、院生にとっての現場学習(OJT)の意義と、より適切な学習環境(期間、課題、手法・道具)を 考えたい。. 2.函館キャンパスにおける「俯瞰実習」の概略 キャンパス共通に設定された「俯瞰実習」のねらいとその捉えは、前述のとおりである。 表1 今年度の「俯瞰実習」をめぐる動向 4月28日(金) 俯瞰実習事前指導(目的、学校組織、現場の機能についての講義、. 実習テーマについてキャンパス間で交流・討議、6・7講) 5月15日(月) 附属中教務主任から、院生が事前指導を受ける 5月19日(金) 俯瞰実習事前指導(小・中学校課題とリーダーの役割、レポートの書き方、テーマの整理、実 習の計画づくり(授業、異校種訪問、研究会参加)、6・7講) 5月23日(火) 附属中教務主任から、院生が事前指導を受ける 5月24日(水)~ 6月16日(金) 「学校課題俯瞰実習」 (1日おきに週3日) 6月23日(金) 俯瞰実習事後指導(観察、資料収集、調査、実践等を通して明らかになったことをテーマと関 連付けて発表・討議、旭:教育課程の編成及び教科等 釧・函:学級経営、札:授業実践からの課題、6・7講) 7月6日(木) 教職大学院教員会議で俯瞰実習についての反省及び協議 7月12日(水) 附属中副校長、教務主任と教職大学院教員3名で反省・協議 10月4日(水) 附属中副校長、教務主任と教職大学院教員3名で協議 10月30日(月) 附属中教務主任から、院生が事前指導を受ける 11月1日(水)~ 11月30日(木) 「学校課題俯瞰実習」 (月曜から金曜まで終日) 11月20日(月) 異校種一日実習(附属函館小学校で) 12月8日(金) 俯瞰実習事後指導(キャンパス間で実習テーマや授業に関して発表と討議) 12月15日(金) 俯瞰実習事後指導(担当教員と院生). 各キャンパスで次年度の「自己課題解決・検証実習」のテーマを展望する今回の実習に対する 省察(未着手). 4.
(6) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 表1は、函館キャンパスで行った2017年度の実習に関する動き(事前協議・事前指導・事後指導・ 事後協議)である。連絡調整は実習委員が中心となり、各院生の担当教員と共に進めた(太字は本院 全体の計画に記載のあった行事を示す) 。 函館キャンパスでは、7月初旬に実習校である附属函館中学校との協議をもち、11月の実習にむけ て「第1・2クォーターで触れていなかった学級指導や部活動指導に少しでも取り組ませること、生 徒との関わりを持たせること、毎日実習を行うことなど」を合意した。協議内容は、大学院側と中学 校の職員会議とにそれぞれ持ち帰って課題を整理した。 また実習前の10月初旬にも、翌月の「俯瞰実習」について協議を行った。生徒指導の場面ではそば で聞いて院生の学びとすることや、部活動指導は17時まで任せること(18時から大学院での予定が入 るため)などが合意された。第1・2クォーターでの取り組みからフルタイムでの実習に懸念もあっ たが、実際に始まってみるとその方が院生たちにとって生き生きと学校課題を学ぶ機会となったこと が、担当者(第1著者)からも実感できた。. 3.前期「俯瞰実習」における院生の学び 今回は院生2名の学びに注目した。協力者は、中高数学の免許をもつ院生М(教員養成課程・数学 教育専攻出身)と、中学校社会科、高校地歴・公民の免許を持つ院生Y(人間地域科学課程・地域創 生専攻出身)である。表2は、第1・2クォーターでの「俯瞰実習」 (5、6月)で設定したテーマ と実習生が得た振り返りの骨子である。 当時は、 附属函館中と大学の協議も少ないまま実習期間に入っ てしまった。テーマ等は決めていたが、学部の教育実習とどのように異なるのか、実習を通してどの ような資質・能力を向上させるのか、共有する場面を設定できなかった。 表2 「俯瞰実習」(第1・2クォーター)でのテーマと指導教諭の指摘. 実習テーマの概要. 院生Mの記録. 院生Yの記録. 次期学習指導要領でポイントとなる「見方・考え方」. 「4領域の観点」(【教育課程の編成及び教科等の指. について、数学科ではどのような手立てをもって生. 導】 【学級経営】 【生徒指導・教育相談】 【学校経営】 ). 徒に「数学的な見方・考え方」を育んでいるかを俯. を基に学校の教育活動全体を俯瞰し、広い角度から. 瞰する。特に「実社会との関わりを意識した数学的. 教員として身につけるべき資質や能力を理解するこ. 活動の充実」がどのように行われているか、 「事象を. とで自らが取り組むべき課題を明確化、具体化する。. 数量や図形およびそれらの関係などに着目して捉え、 その上で今後取り組んでいきたいと考えている社 論理的、総合的、発展的に考えること」を育成する. 会の授業開発にかかわって、現行学習指導要領での. ためにどのような手立てがなされているかを俯瞰し、 課題のひとつとされる「主体的に社会に参画する態 様々な情報収集と資料をもとに読み取った情報を分. 度」の育成について具体的にどのような手立てを打っ. 析し、テーマの設定につなげる。. ているのか観察を通して分析する。特に、学習課題 の設定における工夫、具体的な社会事象や地域課題 の教材化の方法について得た情報をもとに調査し、 現代的な諸課題に対して「地理」 、 「歴史」 、 「公民」 の各分野で学ぶ内容を横断的に活用しながら考察し 表現していく授業のあり方を考える。. 5.
(7) 中村 吉秀・山口 好和. 指導教諭の指摘. ・板 書について考えた時に、基礎・基本を徹底する. ・図 表などの資料を用いた活動を展開した場面にお. にあたって、まとめをしっかり書いて、内容の定. いて、単純な読み取り作業終始するのではなく、. 着をしっかり図ること。生徒が塾等で身につけた. 読み取った結果から生徒自身が何を考えたか、ど. テクニックを発揮させる場ではなく、意味や構造. んな感想を持ったかという点にまでつながるよう. をしっかり理解させることを重点とした。. な発問の工夫をするべき。. ・今 回授業実践を行った計算問題が主となる範囲に. ・テ ストの出題の仕方によって、生徒の学習の仕方. ついて、確かに演習を行うことも重要であるが、. が変化する。一問一答式の問題に偏れば生徒が暗. その答えがなぜそうなるのかという部分も重要に. 記を重視するようになる。何を身につけさせたい. なっている。. のかによって問題も使い分けていく必要がある。. 4.院生による授業づくりの実際 4−1.授業場面の写真を利用した振り返りの概要 筆者らが行った院生2名とその指導教諭に対するインタビューは、概ね以下のとおりである。題材 としたのは、院生Мによる数学「平面図形」の授業(11月14日実施)と、院生Yによる「社会 地理 的分野」 「近畿地方」の授業(11月15日)である。これらは特別な研修や公開など外的な制約のない、 ごく通常の授業である。院生たちは毎回A4版1, 2枚程度の指導計画を作成していた。なお聞き取 りに際して、授業場面を撮影した写真の利用を試みた。筆者らが撮影した中から、授業の展開に沿っ て一瞥しやすいものとして、院生Мの数学授業では30枚を、院生Yの社会科授業では20枚をそれぞれ 選んだ(枚数差に特別の意図はない) 。写真を卓上に時系列で並べて、協力者がそれを見ながら質問 に答える形式を採った。 インタビューは、院生、指導教諭に対してすべて個別に実施した。聞き取りの様子をICレコーダー とビデオカメラで収録しておき、発言内容の主旨を歪曲しない範囲(語句の重複や補足など)で箇条 書きに整理した。主な質問事項は表3に示した通りである(ただし、協力者の発言内容に応じて、質 問事項の例示や説明、詳細や背景の再質問を行った場合もあるため、全員に全く同一の文言を用いた わけではない)。 表3 院生と指導教諭への質問内容 指導教諭への質問. 院生への質問. ①この授業をみて、総合的な印象について. ①学部の教育実習を振り返ってどうだったか. ②写真の授業場面から「うまくいっている場面」 「よく. ②第 1・2クォーターの俯瞰実習で、1番力がついた. なかった場面」について. と思われることは何か. ③実習生にどのような「資質・能力」をつけたいか. ③「授業技術」の中で大切だと思う点は何か. ④写真を見ながらの振り返りについて. ④今回の授業を振り返って、イメージしていたこと ⑤写真にある授業場面から「よかったところ」 「うまく いかなかったところ」について. 4−2.院生Мの授業づくりとその振り返りから ⑴ 授業のあらましと院生Мの振り返り 院生Мが取り組んだのは、教科書(東京書籍『新編新しい数学1』 ) 「第5章 平面図形」の単元冒 6.
(8) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 頭にある「第1節 図形の移動」(pp. 145-146)である。筆者らは11月14日に、単元前半で移動の基 本(平行移動、回転移動、対称移動)のうち回転移動に関する知識・技能の習得をねらいとした授業 を参観した。 院生Мが用意したA4版1枚の指導計画メモには、 「本時の目標」として、 「 (3/13)ある図形を回 転移動させた図形をかくことができる(技能) 」とされていた。また「本時の展開」欄の計画では、 「前 時の確認(正六角形の作図) 」 (5分間)を行った後に、いわゆる例題にあたる「Q 考えてみよう」 (教科書p. 145上部)の解答・解説に前半20分で取り組み、 後半25分で「問4」 「問5」 (同ページ下部) を解く計画が立てられていた。前・後半いずれにおいても、 「⑵どのように移動させれば…重ね合わ せることができるでしょうか」 「問4⑴…どんな関係がありますか」という、やや抽象的な問いが示 されているため、 「⑵については、どの方向に、どれだけという考え方」や「問4の⑴については、 …質問の意味を理解させる。 (答え方、等しい関係、平行、垂直など) 」が、指導上の「留意点」欄に 明記されていた。また、前・後半のそれぞれで、 「回転移動(の性質)について、実際に動いている 様子を見て…」という記述があり、コンピュータによる回転移動の描画提示を指すことが授業観察か ら理解できた。また授業時には、前半「Q 考えてみよう」での作業と解説に時間を要したので、指 導計画で最後に予定していた「問5」への取り組みは、次時に持ち越しとなった。 以下で、院生Мによる振り返りの内容と、それに対する筆者らの解釈を述べてみたい。聞き取りの 所要時間は正味50分であった。 まず、「①学部時代の実習」について問われた際には、以下の内容を話していた(7分間) 。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・中学1年生の配属で、3週目から授業を担当した。週に2, 3時間ずつ合計10回ほど。扱った単 元は「方程式」の導入から終盤近くまで。 ・ (実習先が附属校なので)生徒の学力はある程度高く、問題解決型の授業(問題→予想→課題解決) を試みていた。 ・生徒たちが口裏を合わせて、発問時に授業者(院生М)の想定と全く異なる回答を示したので、 動転して対応に苦慮した。生徒の意見の修正を借りて、強引に授業を進めたことが印象に残っ ている。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 附属校に複数名での配属という事情もあって、授業展開の詳細よりも教育実習の全般的な状況説明 と、研究授業時に直面した生徒の実態に応じた課題設定の難しさが、素朴に語られていた。 次に、「②第1・2クォーターでの実習を振り返って一番力がついたと思うこと」については、以 下の回答が得られた(およそ2分間弱) 。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・MOBのテーマでもある「発問」と「子どもにどうやって考えさせるか」。前期でも出来ていなかっ たが、一問一答ではなくて、発問にいろいろ思考があって、(それを拾って)さらに思考を深め るというような指導ができれば(よい)。学部生の時よりは意識的にやっていることなので。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 続いて、「③授業技術の中で大事と思うものは何か」については、以下の回答を得た(8分間ほど)。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・机間指導の中で思考をくみ取って、どうやって授業の中に、指名計画、生徒の考えをどれだけ 予測できるか、予想の大きさ、器の広さを大きくできれば授業の余裕もできるので、生徒がこ. 7.
(9) 中村 吉秀・山口 好和. ぼれ落ちちゃったら元も子もないけど、その中でどれだけ活動させるかが、これから身に付け て伸ばしていきたいところだと思います。 ・質問とか発問の内容ですね。あまりにも意味不明な発問をしても答えてくれないし、簡単すぎ ても短答で終わるし。 (その課題は、発問や課題の設定に依るところが大きいのでは?という質 問に対して)その問題に関連した図書(水谷尚人(2008) 『中学校数学科 授業を変える「発問」 と「課題提示」の工夫71』明治図書出版)をいま借りて読んでいる。ここにいろいろ書かれて いるが「71」だけではないと思うので、発問や課題提示を自分のスタイルにしていきたい。 ・前期の授業でも、わりと考えやすい、悪く言えば簡単で飽きやすい課題設定をした。(MOBの) 副題として、学力の低位な子もちゃんと考えられる授業にしたいという背景があって。確かに 低学力は考えてくれたけど、上位層は飽きちゃって思考が止まるという課題があった。 ・ (生徒とのやりとりで違和感はあるか?うまく伝わらないとか、の問いに対して)「なんで伝わ らないんだろう」というよりも「あ、伝わらなかったな」という事実の方が強い。自分でも何 を言っているのかわからない時もある。言い回しや発問の仕方で、「考えにくいこと言っちゃっ たな」という時に違和感というか、 (生徒が)変な顔してるなと。僕の性格もあって「(不具合 があれば)何かが悪かったかな?」となる。前期に扱っていた教材は「数と式」で、(計算の) 技能的な部分。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― この後に「④今回の授業に際してイメージしていたこと」 「⑤授業場面で『よかったところ』 『うま くいかなかったところ』 」について尋ねた。表4は、院生Мが寄せたコメント内容と、参照した授業 場面である。 表4 院生Mが選んだ授業場面とコメントの概要 授業の様子. 本人のコメント ④今回の授業を振り返ってイメージしていたこと(約4分) ・実習直後に「比例・反比例」の最終3、4ページを扱っ てから、この単元(図形の移動)に入った。 ・事前の意識には3点あった。1つめは「発問をどうするか」 「考え方をどうさせるか」 。MOBのテーマでもある。こ れは実習全体を通して念頭にあること。 ・2つめは、授業後の週末に中間テストの予定があり、こ の授業までが試験範囲だった。一番教えたいことは、技 能面。指導案にもそう書いた。「回転移動ができる」 「性 質を言うことができる」となっている。 ・この授業は、実習に入って5回目か6回目のもの。指導 教諭とも「できる生徒との対話を中心に授業を進めたく ない」と話していた。これが3つめ。 (全体に) 「どう思う?」 と聞くと、必ず発言する男子が2名いるので、授業は進 めやすいが(そのままでは問題)。 ・たとえば窓側の女子はあまり発言しないが、写真に載って いないということは、 僕も窓側に行っていないということ。 ・発言をしない生徒もしっかり意識しようと思っていた。. 8.
(10) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. . ⑤この授業の写真を見て(約25分) ・正六角形の作図について、二等辺三角形を使った説明を したことは、逆に難しくしてしまった。専門的には、 「半 径で正三角形だから」と済ませるべきところ。生徒がきょ とんとした表情で、授業に入るのはよくなかった。 ・プロジェクター使用の授業は本時が2度目。描画ソフト (GRAPES)を利用した。ソフトは学部時代にも、実習 ではないが(大学の)授業で扱ったことがあった。 ・自分でも図形領域はさほど得意ではないので、低位の生 徒にも興味・関心を引き付けられるようにと考えた。 ・普段この学年を担当する教諭は、プロジェクタを用いな いので新鮮味が感じられたこともある。 (生徒たちも)図. ・導 入の段階で正六角形の作図方法を説明し、 「何 故、正六角形なのか」を証明しようとしていた。 . 形の動きを眼で追って見ていたので、使って良かったな と感じて授業を進めていた。 ・本時のあとも3, 4回利用機会があり、生徒からも「動き がよくわかる」という声が聞こえてきたので、使ってよ かったと思う。 ・ (担当の)1年生は、言葉で説明することを苦手としてい る生徒が多い。前期の実習から感じていたこと。式で書 けるけど、式の意味を問うと「なんだっけ?」となる。 だから意識的に「言葉で説明しよう」という発問にして いる。 ・机間指導の時も、図は描けていても言葉でどう説明すれ ばいいかを意識させたいと思いながら、周っていた。ど の場面か判然としないが、 「回転させる」と書いた生徒も 結構いたが、 「どっちの方向に、どれくらい回転?」とい. ・回転移動のまとめを板書し、ノートに写させる。 ・回転移動の跡を映し出す。. うやりとりがあった。 ・授業中考えていたことと言えば、GRAPESを使ったとこ ろに主を置いてたので、後半になってしまうが(軌跡が) 「円の一部になるよね」ということを重要視したかった。 (授業の展開はどれくらい頭に入れて臨むのか?この授業 では、授業中にどんな判断をしていたか?に対する回答). . ・ (教科書を持ち出して)この日は最低「性質」まで行けれ ばいいと思っていた。プロジェクターを使った説明を始 めた時点で、時間が不足する感覚はあった。最初(ソフ トで)さらにと説明するつもりだったが、 (指導案の最後 まで届かないことを見越して)ゆっくりと説明をするよ うにした。 (回転移動への)反応もよかったので、少々時. ・黒板で120度回転させるところを示す。 ・2つの三角形の回転移動を、プロジェクターで映 し出す。. 間をかけてしまった。 ・今回の実習では、僕の見積もりが甘くて、最後まで終わ らないことが多い。 ・学部の時には、用意した指導案をこなす感覚があった。 週に2時間ほどの授業で準備の時間があったことと、他 クラスの先行授業を見て臨んだので、ある程度構想を頭 に入れてできた。一般的にはそうしたい。 ・今回の実習では、「教科書を」ではなく「教科書で」教え る感じが強い。現職になれば、1つの授業の指導案を何. 9.
(11) 中村 吉秀・山口 好和. . 日もかけて練るのは難しい。それを考えれば、ある程度 教科書に沿った流れにしているが、僕自身の考えとして、 教科書を逸脱はしないが、生徒の実態やここは押さえた い!という意向に合った問題を自作したり、拾ってきた り、それをもとに授業をしたいという気持ちがあるので、 今回こういう一つの新しい価値観を貰えたのでありがた. ・図形描画ソフト(GRAPES)を利用して回転移動. い。. の様子を示し、 図形の動きと軌跡を説明している。 ・僕の求めるスタイルは、これに近いわけではない。僕の やりたい授業は、ひとつの問題がどんとあって、それを もとにいろんなことを考えていくというもの。 ・今回のように、ポンと問題があって、またポンと問題が あって、区切れ区切れができちゃう授業は、あまり良い と思ってない。一つ中心に問題、課題があって、それを 基に学んでいきましょう、というのがいい。 ・指導教諭との振り返り時に、 (授業冒頭で) 「なんであん ・教科書のP145「考えてみよう」で「どのようにす ると、重なるのか」をそれぞれで取り組む。. な説明したの?」という話題があった。プロジェクター の使用は目的化していないか注意もしつつ、反応は良かっ たと確認しあった。ちなみに2年生は毎時間プロジェク ター(デジタル教科書)で学習するが、反応は良くない らしい。 ・回転移動で、 「どのような図形ができるか」と聞いたら、 約5人を除いてほぼ全員が“おうぎ形”と書いていた。 厳密には「円の一部」として徹底すべきであった。指導 教諭から「あそこで“おうぎ形”だったらここも“おう ぎ形”になるのは当たり前」と言われて、はっと気づいた。 ・たしか授業では「 “おうぎ形”でもいいし“円の一部”で もいい」という遠回しな回答をしてしまった。逆に“お うぎ形”と多くが書いたなら「 “おうぎ形”はダメ!」と しておいて、 「だとしたら何だろう?」と思考させて、定 着につなげるべきだった。数学的に正しいか、生徒をど う思考させるかができた(機会だった)。 ・ 「反時計回り」と教科書に書かれており、たぶん塾で既習 の生徒がそう発言するので僕もつられてしまった。本来 自然な感覚の「左回り、右回り」と一般的な話の方がいい。 「反時計回り」って何?とか、一度使った言葉はそれで 統一するとかの話題が出ていた。 ・ここは書かせすぎかも、教科書に線を引かせるとか(手 間を省く)方法もあったね、とも話題になっていた。. 10.
(12) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 院生Mは、具体的な指導場面での授業スキル等についてふれることが多く見られた。例えば「プロ ジェクター使用の授業は本時が2度目」 「ソフト(GRAPES)を使用して…生徒からも『動きがよく わかる』という声が聞こえてきた」 「今回の実習では『教科書を』ではなく『教科書で』教える感じ が強い」等である。 ⑵ 院生Мの指導教諭によるコメント 指導教諭は、通常2学年の数学科を担当しており、第3・4クォーターから院生Мの指導にあたっ ている。授業から1週間後(11月21日)の放課後に、ちょうど30分間振り返りのインタビューを実施 した。表5は、院生Мの指導教諭が振り返りの際に選んだ授業場面と、コメントの概要である。 表5 院生Mの指導教諭が選んだ授業場面とコメントの概要 授業の様子 . 指導教諭によるコメント ①この授業をみて、総合的な印象について ・この授業は次に控えた作図をイメージしながらの回転移 動についての指導。流れとしてはよかった。 ・後の作図はコンパスと定規のみで行うが、 (今回は)それ が無い中での作図。「次にこういうのがあるので」 ・前半に時間をとったので、もう少し「回転移動」に力を. ・黒板で120度回転させるところを示す。. 入れてほしかった。そして、授業の重点がどこにあるのか、. ・回転移動について、教科書をもとに説明をする。. 生徒に分かるようにするともっとよい。. ・図形描画ソフト(GRAPES)を利用して回転移動 の様子を示し、 図形の動きと軌跡を説明している。. ・ (事前の指導の有無については)指導案を見て事前にどう こうすることせずに、授業をやってみて、どういう流れ になるのか考えてみて、と伝えている。. . ②授業で「よかった場面」「よくなかった場面」 ・生徒を指名して、黒板に書かせた場面があった。回転移 動は角度が重要になる。わかっている子どもを、机間指 導の中で確認していた。もう少し「線と線に注目」と話 せたらいいけど、生徒に書かせるのはとても重要。なる べく時間がかからないようにしたのかな。. ・導入の段階で、院生主導で正六角形の作図方法を. ・ス ライド(ICT)を使って、跡を残して、軌道が見える. 説明し、 「何故、正六角形なのか」証明しようと. ように説明していた。次に、跡がどうなるかという問題 (円. していた。そして、 生徒同士の話し合いをさせる。. 周の一部)が出てくるので、生徒のイメージも残り良かっ た。 「おー、動いた動いた」っていう生徒の言葉で、興味. . 関心が高まる場面となっていた(ことがわかる)。 ・ 「おうぎ形」 (という生徒の発言)を「円周の一部」と言 うべき。後には「弧」として習うがここではまだ。次の 指導をもう少し意識できると、今の指導の在り方を考え ることができるようになる。 ・毎回の授業でも丁寧に子どもたちを見ているなと思う。. ・回転移動の問題(教科書p. 145問4)について、 生徒の学習状況をまわりながら確認する. 細かいところをチェックできている。 (それを使って)次 にどの順番であてようとか、この子はどう答えるか(予 測する)といったところが見えてくるとよい。授業(全体) の流れを考えて周れるともっとよい。 ・ 「 (生徒の)いいミスだな」と思える部分も、授業の中に 取り入れていくべき。それがまだ見取りきれていない。 11.
(13) 中村 吉秀・山口 好和. ・予定以上に説明をしてしまい、本人が困っていた。 ③院生にはどのような「資質・能力」をつけたいか ・教育実習生(学部)は、教え方まで指導しているが、院 生には、自分でどのように教えて行きたいのかを見つけ てほしい。指導教諭の真似ではなくて、自分の核になる ものを学んでほしい。「自分がこうしたい」 (という意向) ・ 「どのようにすると、 重なるか」 を生徒に考えさせ、 発表させながら黒板で説明をしていった。. を伝えてもらえれば、それに応じて指導する。 ・今回の(定期)テスト返却の際にも、解答用紙から配っ たのは特に意図が無かったとのこと。生徒の修正点を意 識するには、配る順序を考えるべき。もう少し実践に近 いもの。 ・数学を教えるという「教え方」ではなくて、僕も教員に なる前は「授業をこうしたい」というイメージ(だけし かなかった) 。 (でも院生には)テスト返却や自習の時間 などにしても、意欲・関心を高めるような、教科指導の みではない、生徒指導にちょっと入ったような内容を考 えてほしいと思う。 ・本 来は、生活指導や部活指導の中で教科指導に入る。 ちょっとした瞬間に生徒指導に入ったような、どうやっ たら(生徒が)意欲的に(なるかを) 、教科指導でないと ころで考えられるかなと話をしている。テスト前日の6 時間目や体育の授業直後など、生徒や学級の状況を把握 して、例えば導入なりを考えられればよい。 ・授業中に「反時計回り」で考えた生徒もいたはず。それ を取り上げて思考させるところが増えればもっとよい。 ・このクラスは右側にいる男子が積極的に発言する。発問 をうまくしないと、全部それで授業が進んでしまう。(院 生が)立つ位置も工夫したほうがいいねと話をしている。 彼はよく話す生徒の側に立つことが多い。他の生徒を指 名して確認するとか。 ・ (授業中に)生徒の手が動くか動かないかも、教科指導を 超えたところかなと思う。逆に附属には、できてて(わかっ ていて)手が動かないという生徒も多いので、どう声掛 けするか、 「240度だとだめなの?」と尋ねるとかすれば、 もっと考える(機会になる)。学部ではそれは難しいので、 院生には頑張ってほしい。 ・板書や授業の流れはスムーズなので、生徒が思考すると ころを増やせれば、意欲的に活動できてなおよい。 ・一つ上のレベルの課題としては、平行、回転、対称の各 移動を組み合わせて解く問題がある。 ④写真を見ながらの振り返りについて ・自分でも大事なところは写真で残している。写真はイメー ジをもちやすい。数学は、視覚的な部分が多いので、写 真で残すことは大切だと思う。. 12.
(14) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 指導教諭は「教科指導のみではない、生徒指導にちょっと入ったような内容を考えてほしい」とコ メントしている。この点は、 学校での経験が浅い院生にとって、 すぐには実感しづらいかもしれない。 「生徒指導の機能」や「それを生かした指導の在り方」等の場面を瞬時に思い浮かべなければならな いからである。 ただ事前指導の段階で、幾つかのケーススタディを重ねることは可能だろう。実務家教員の持つ豊 富な事例や、同じ授業を履修する現職教員院生との関わりの中から、特定の学習場面や教育活動がど れだけの「周辺情報」に取り囲まれているのかを、学年・教科・活動スタイル等の種類を変えながら 豊富に検討を重ねることで、院生にとっての疑似的な体験を増やすことが望まれる。 最後に、院生Мと指導教諭のコメントの双方を聞いてみて、筆者らが考えた点を略述してみたい。 指導が随時行われて、単元のねらいも見解が共有されており、良好な関係性がうかがえた。どんな 環境であれば、院生が心理的にも実務的にも安定して、 実習中の出来事を記録し振り返りやすいのか、 たとえ事後的であっても検討に値するだろう。 授業展開に関わって、院生Мの指導教諭は、数学の学習内容から見た「言葉遣い」と、生徒の直観 や生活経験、日常感覚との架橋を、 教室内のコミュニケーションにうまく組み込むよう要求している。 このことは、回転移動の向きを「反時計回り」と機械的に使うのはよくない、 「 (生徒の)いいミスだ な」と思える部分も取り入れるべきという意見や、あるいは生徒の大半がノートに「おうぎ形」と記 述した状況を授業展開に生かすべきだなどの声に、如実に示されている。 かたや院生Мは、こうした指導教諭の意見について振り返りの中で充分な理解を示しながら、素朴 な「問題解決型」授業へのあこがれを語る。筆者らの授業研究の立場から見ると、院生Мの意図する 「問題解決」を志向した学習活動には、 「素朴概念」や「認知的葛藤」など生徒の思考内容・様式に 関する視点が、構成要素の一つとして欠かせない。学習活動を大きな「問題解決」のプロセスとする には、指導教諭の言うように「授業状況の判断と即応的な展開の修正」が必要になるのだが、院生М にとっては、そこが切り離されて捉えられているきらいがある。 また、院生Мの参照した授業場面は、教師の指示や説明の場面が大半を占めていたのに対して、指 導教諭の選んだ授業場面は、生徒とのやりとりやノートに目を向ける場面が半数に及んでいた。加え て、院生Мは大事な授業技術について「発問の仕方」 「言い回し」 「短答」など言語の応答に関わる用 語を多用している。 これらのことから、院生Мは、授業目標への接近や学習の水準向上を、授業者自身が言語情報の量 や様式の調節を図ることで実現しようとしていることがうかがえる。 4−3.院生Yの授業づくりとその振り返りから ⑴ 授業のあらましと院生Yの振り返り 院生Yが取り組んだのは、教科書(東京書籍『新編新しい社会 地理』 ) 「第2編第3章 日本の諸 地域」の中の、 「第3節 近畿地方 2近畿地方の人々の営み」(pp. 206-207)である。筆者らは11 月15日に、近畿地方の大都市圏と産業の特色(工業地帯、近郊農業、伝統工芸など)に関する知識・ 技能の習得をねらいとした授業を参観した。 院生Yが作成したA4版2枚の指導計画メモでは、「目標」欄に「近畿地方の都市や産業について その特色を理解する」 「近畿地方の都市や産業の特色と歴史的な事柄のつながりについて捉える」と 記されていた。また「本時の展開」欄には、 「 【学習課題】近畿地方の都市や産業の特色と歴史との関 係を捉えよう」と題目があり、横軸には「時間/学習活動/教師のかかわり/留意点」の項目が、縦 13.
(15) 中村 吉秀・山口 好和. 軸には指導プロセスがそれぞれ示されていた。学習指導は「人口集中地域と地形の関わり、大都市圏 の形成」「都市(神戸)の国際色」 「工業地帯の特徴(生産額割合の変化、 工場規模)の読み取り」「近 郊農業、伝統的工芸品」の順に学ぶとされており、これらのうち3, 4か所に「個人→ペア→発表」 という活動スタイルが組み込まれていた。 授業の中では、白地図とワークシートを利用した作業、自作のスライドによる解説を丁寧にすすめ ていた。 以下で、院生Yによる振り返りの内容と、それに対する筆者らの解釈を述べてみたい。トータルし て42分ほどの聞き取りであった。 まず、「①学部時代の実習」について問われた際には、以下の内容を話していた(7分半ほど)。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・中学2年生を担当して、社会科「四国・中国地方」を題材にした授業であった。 ・実習ではじめて教室に入り、何もわからないところから始まった。今振り返ると、そもそも授 業のつくり方も分からない。 ・ 「ここを分からせたい、達成すべき目標は何か」を考えず、方法や活動の設定を先行させていた。 ・何か変わったことをしようとしていたので、地理の授業(四国・中国地方)の中で交通網(橋) ことに共通性があると思い、(開通間近の)北海道新幹線につなげて取り組んでみた。 ・全国的な交通網の特色は理解できた一方で、四国・中国地方ならではの特色に、あまり目を向 けさせられなかったな、と反省した記憶がある。 ・何かと他の地域や「函館」と結び付けるなど、その頃は「身近な地域」の方が考えやすいと思っ ていたが、きちんと四国・中国地方について理解させることが大切だなと、指導教諭と反省し ていた。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 授業に関して困っていた状況を具体的に回想できている様子を見ると、いわゆる「新課程」に所属 する学生が、教育実習を取り巻くリソース(情報、人、機会など)が不足したままに、実習の場に臨 むことを余儀なくされるという厳しい状況が、非常によくわかる。 次に、「②第1・2クォーターでの実習を振り返って一番力がついたと思うこと」については、以 下の回答が得られた(5分ほど) 。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・授業の作り方の基礎の基礎がわかっていなかったので、「何を理解させればいいのか」を出発点 として考えて、そこに到達できるためには生徒が何をできればいいのかを、順序立てて考える。 それに毎回繰り返し取り組めたところは、自分なりに実践できた。 ・2回目の実習ということもあって、学部(の経験)を思い出す機会が自分でもあったが、前期 の授業の際にも、 「目的がどこにあるのか」という話になって、指導教諭と話す中で「なるほど」 とつながった所があった。 ・前期は12、3回の授業を行った。今回と同様にA組からC組まで3クラス担当した。扱った単 元は歴史の「敗戦からの復興」のあたり。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 続いて、 「③授業技術の中で大事と思うものは何か」については、 以下の回答を得た(2分半ほど)。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ・何度も言われて自分でできないところだが、抑揚を、表情とか声とかでメリハリをつけて、単. 14.
(16) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 調にならないようにしなきゃいけないと思っている。指導教諭から「落ち着きすぎ」と言われ ていた。 ・今、気を付けていることとしては、何か発問で問いかけるとして、生徒から返答が帰ってきて、 僕の場合そこで1回で終わってしまう。そこで思考を深めたり、違う人に振ってみたりして全 体で思考を深めていくのが大事であり、自分の課題だと思っている。大学院の担当教員からも 指導を受けた。. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― この後に「④今回の授業に際してイメージしていたこと」 「⑤授業場面で『よかったところ』 『うま くいかなかったところ』 」について尋ねた。表6は、院生Yが寄せたコメント内容と、参照した授業 場面である。 表6 院生Yの授業場面と振り返りでのコメント 授業の様子. 本人のコメント ④今回の授業でイメージしていたこと(5分ほど) ・内容については、近畿地方の授業で、歴史とのかかわり で取り組むのが目標であった。 ・学年の中で、反応がよいクラスだった。前の授業で、思 いのほかのってしまい、収拾がつかなくなった。学力面 で課題があるとの話を聞いた。 (発問で)同じ聞き方をし ても他クラスに比べて(反応が)出ないことがあった。 あまり盛り上がらないような工夫が必要だなと思った。 ・指示や、書かせる内容など、何をすればいいかを明確に しないといけないなと意識をして、他クラスよりも丁寧 に説明をしようとした。 ・授業中は、いつもと雰囲気が違うなと感じていた。僕の 緊張が伝わってしまったかもしれない。ビデオカメラが あったからかも(授業の記録を撮られるのは初めての経 験だった)。. . ⑤この授業の写真を見て ・前回の授業で自然環境(気候、地形)を扱った。その際、 プロジェクターで白地図を映し、重ねるように地形を書 き込み、大阪平野など平らな土地を赤くなぞった。生徒 も白地図に(平野を)描いた。それで、人口密度の高い ところが平野部と重なっているので、 (冒頭で)そこに気. ・ 「近畿地方の人々の営み」についてプロジェクター を使用して説明している。 ・作業時に生徒の様子を確認している。. づかせたかった。記憶に残っているのか、すんなり言葉 が出てきて書けた。 ・「失敗したな」と思う所は多々ある。 ・現在の近畿の特徴を示す重要語句が多く出てきて、その. . 意味をしっかり伝えようとしたあまり、「歴史的な背景」 が薄くなった。全体的な「歴史的な背景から考察させる」 という単元目標が甘くなった。 ・自由に反応を促す場面を幾つか設定したが、特定の生徒 が先に言うことがあった。全員を巻き込んだ雰囲気が作 れていなかったのが反省点。. 15.
(17) 中村 吉秀・山口 好和. ・阪神工業地帯が日本の三大工業地帯であり、資料. ・机間指導の中で、より突っ込んだ質問をして考えを深め ることができなかった。書けているかの確認だけではな. 等をもとに説明をする。. く、甘いところがあればそれを聞きながら言葉で書ける. ・記入していることについて助言している。. ように働きかけるなど。 ・全体的にしゃべり過ぎた。人口や工業のところは生徒が 書いて発表、で大丈夫だったが、後半時間も詰まって、 農業、伝統工芸のところは、生徒の声を拾わずにほぼ(授 業者)1人でしゃべっていたという印象がある。 ・計画段階から、指導教諭と「ここはボリュームが多い」 という話は出ていた。 (重要語句に)逐一何かを入れれば 終わらないから、どこに重点を置くかと。人口、工業は. ・ 「大阪大都市圏」の農業について学習することを. 資料読みで(必ず)やって、後半は説明的になっても仕. 伝える。. 方ないかと。でも同じ話すにしても簡単な質問とか、生. ・近郊農業が盛んである理由をまとめる。. 徒の声を拾いながら話すこともできたかなと。 (とりあえ ず計画した)流れ通り話すことはできていたけど。 ・聞いている方はきつかっただろうと、指導教諭とも(授 業後に)話をしていた。 ・学部の時ならば、自分がたくさん話すことへの「怖れ」 があったので、伝えなきゃいけないことも押さえ切らず に活動メインでやってたかもしれない。 (でも今回は)教 えなきゃいけない用語・内容を最初に意識していたので、 しゃべりが多くなっても仕方がない組み方になったと思う。 ・ 「近郊農業」は、小学校と中学校でも前の単元「日本の農 業」ですでに出ている。 ・他地域にも歴史が地理を作っている部分はあるが、近畿 地方の場合はそれが強い、色濃く歴史の影響を受けてい ること。3時間目は「景観」を扱ったが、区画整理にも 平城京、平安京の名残が今なお見られるなど、近畿地方 の特色として繋げて理解できる(ことが大事)。. 院生Yは「学年の中で、反応がよいクラスだった。自分自身が思ったよりものってしまい、収拾が つかなくなった。と盛り上がりを“考えを深める場面”につなげていこうと発想するより、 まずは“静 かにさせる”ことが重要だと捉えていた。 」生徒たちの意欲の高まりを受け止め、思考を展開させる パワーにつなげることを学んでほしいと感じた。 ⑵ 院生Yの指導教諭によるコメント 指導教諭は、主として2学年の社会科を担当しているが、第2クォーターでは別の社会科教諭が院 生Yの指導を担当していた。こちらも題材とした授業実施から6日後(11月21日)の放課後に、振り 返りの機会を得た。所要時間は、約37分であった(前半で数分間、授業回数や担当学級の配置など実 習運営の基礎情報と、単元の全体計画について確認を行ったため、授業そのものへの振り返りはこれ よりも少し短い) 。表7は、指導教諭が振り返りの際に選んだ授業場面とコメントの概要である。. 16.
(18) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. 表7 院生Yの授業場面と指導教諭のコメント 授業の様子 . 指導教諭によるコメント ①この授業をみて、総合的な印象について ・ (他クラスでの同じ課題での)授業は、生徒への指示が不 明瞭だったので、生徒たちに分かるような提示を促した。 (対応策として)スライド等を準備することで、生徒の 作業に入るタイミングがよくなった。 ・授業態度が堅く、自信がなさそうに見えることもあった。. ・ 「近畿地方の人々の営み」についてプロジェクター を使用して説明している。 ・人口が集中している地区をワークシートに書き込 む活動をさせる。. 説明で自分から「みえづらい」 「わかりづらい」等の前置 きをするので、やめるように助言した。 ・説明の時間が長くなりがちだった。生徒に考えさせられ る場面があったが、指摘をすれば(同一学年内での)3 回目の授業では修正できている。. . ・生徒が作業を通じて得た内容の確認で済むところも、余 計に詳しく全部説明するので、生徒には「それが答え」 と受け取られてしまいかねない。 ②「うまくいっている場面」「よくなかった場面」 ・机間指導の際に、丁寧に声をかけるべき生徒に関わって いなかった気がする。 「ペアで話してみようか」の場面は、. ・ 「大阪大都市圏」が形成されている。その概要に ついて説明している。 ・近郊農業が盛んである理由をまとめる。 ・国際色が豊かなことを、神戸市の中華街、異人館 等を示しながら説明を加えている。. ペアの必要があったかが疑問。 ・他クラスで、中華街との共通点のヒントは「開港」と明 かしてしまったので、本時は修正して考えさせた。 ・黒板の空いているところに生徒の発言を記入するなどし て、生徒とのやりとりを増やすべき。余裕がないのかも。 ・農業による野菜づくりも、近畿地方では歴史的な背景が. . あると思い( 「京野菜」など)仕組んだが間に合わなかっ た。最後の「伝統工業」まで、駆け足になってしまった。 ・この単元の主題から見てキーワードにあたるものを、各 単位時間に割り振っていけば、最後5時間の単元が終わっ た時に「歴史的背景」に結びつくことになる。 ・その日に押さえたい(授業の)ポイントはどこかを考えて、. ・作業時に生徒の様子を確認している。 ・資料集を使用して、伝統工芸の西陣織、京友禅、. 時間配分を行うのは大切と伝えている。 ③院生にはどのような「資質・能力」をつけたいか. 高級刃物が歴史とかかわりがあることを説明する。 ・現場に出れば一人なので、自分なりに大筋でも授業を構 成していく力を身に付けてほしい。でも実習中は、いろ いろな先生から真似もして吸収してほしい。 ・学部実習生から「学習指導要領は見るものなんですね」 と言われた(ことに驚いた) 。つけたい力を確認する時の 指針になると助言しても、学部生は反応が鈍い。院生には、 それは言わなくてもいい。 ・院生は授業の反省のポイントが見えている。 (気づきが自 分と)近い点は、学部生よりも多い。 ・ 「次にこうしたい」という修正案も出てくるので、こちら も「じゃあこれはどう」と意見を交流し指導にあたるこ とができる。その意味では“楽”である。授業の流れの 中で一番大事な点を(既に)わかっていることが大きい。. 17.
(19) 中村 吉秀・山口 好和. ・普段は指導計画の原案が出たら、1時間ないし1時間半 ぐらいを使って、授業の流れとまとめをどうしたいかを 確認する。何が必要か(資料や活動など) 、どんな手段が あるかを示してみて、最後は院生が決める。あれこれ言っ ても消化できないとだめなので、自分の中で落ちること (納得)が大切。社会は3回試すことができるので。 ・授業の資料等は、8割方実習生が用意した。本時につい ては「工業の面は、推移はわかるが歴史的背景につなが らない」という声を聞き、他社の資料集から、関連した 情報源をスキャンするなどしてアドバイスした。 ④写真を見ながらの振り返りについて ・時系列で授業の流れを確認するのはビデオが適している が、ポイントを絞って協議するためには写真で授業場面 を示すのが最適である。 ・忘れてしまう場面を、指導案や(授業者)本人の感想な どで補うのがよい。写真を見ながら授業を振り返るのは、 (指導教諭自身にとっても)今回が初めてだった。. その指導教員のコメントの中で「自分の中で落ちることが大切」と指摘しているのは興味深い。自 分の中で納得でき他者からの助言や意見も重視するという柔軟さを指導すべきだろう。そのことを忘 れてしまうと、ついつい独りよがりになってしまう。 4−4.院生2名と指導教諭の振り返りを通じて得られた知見 担当教科が異なる2名の院生と各指導教諭による振り返りから、幾つかの点がうかがい知れた。大 まかには、授業展開の組み立ての問題と、狭義の「授業技術」を捉える授業者の姿勢の問題、そして 方法面の工夫にかかわる問題である。それらの意味を、簡単に書きとどめておこう。 院生たちは異口同音に、 「一問一答ではない形」 「発問から思考を拾い、次の問題へつなげる」とい う授業スタイルの実現を自らに求めている。数学、社会ともに、指導教諭が院生たちに接する際のス タンスは、自分で工夫・考案したものに対して指導にあたるというものである。しかし「発問から… 次の問題へ」の授業づくりは、教科書の課題のいわば「再編集」を求めるものである。 (選択と集約 とも呼べるし、主要課題の重点化とも呼べる)これは非常に難しい段階であろう。 次に、授業者の院生たちが、振り返りの際にどんな視角で自分の授業を見つめるかの問題である。 筆者らの印象では、今回の授業観察から、第1・2クォーターの実習時よりも落ち着いた授業展開と 分かりやすい説明がされていたという印象を抱いた。しかし院生によるコメントは「改善すべき点」 が先立っていた。これは“改善点”から授業を振り返り、次回につなげていこうとする思いが、その ように仕向けているのではないだろうか。これでは「どのようにして、うまくいったのか」を理解す ることが難しくなってしまう。 そのこと自体に充分に共感を寄せた上で、筆者たちが感じるのは、 「テンプレート」や「チェック リスト」風のアプローチである。しかしこれは、別の矛盾を抱えることにもなる。つまり、ある種の 「成長点」を自認できるためにはそれを明示的に示す枠組みを設けることになり、そうするとその枠 組みの中に留まってしまう懸念を自ら抱えることになるからである。おそらく現実的な解決策として は、必要以上に枠づけされない形での課題設定と、自己課題の設定・実行・評価・再試行のプロセス 18.
(20) 教職大学院の「学校課題俯瞰実習」に求められる教育的な手だて. をどのように内実的に支援できるかという、それこそ「システム的」な発想に立った実習環境のセッ ティングが望まれるのだろう。 最後に、振り返り作業時における写真活用の問題である。インタビュー時の授業場面の参照は、活 動過程の若干の混乱(カメラの時刻設定のずれによる)を除いてほぼ順調であった。ただし授業者で ある院生が、教室側方や後方から撮影した場面を見ても、それが指導プロセスのどこに位置するかを 瞬時に回想・再生できるとは限らないこともわかった。 何をどこからどのように見るのか、誰にとっての視点なのかは、 「授業の見方・見え方」に関わる 非常に深遠なテーマである。少なくとも院生の振り返りに際して、どうしてもイメージを喚起しづら いのであれば、授業場面(写真)を拡大した指導計画の横に並べるなど、道具の工夫を講じた方が良 いと言える(一方で、授業の状況を客観視できる練習も、並行して行うべきである) 。. 5.まとめと課題 本稿では、 「俯瞰実習」 における院生2名の授業づくりから得られた示唆をまとめてみた。その結果、 筆者間で確認できたこととして、以下の3点があげられる。 まず、 「俯瞰実習」で扱われる情報量がきわめて膨大であることである。授業実施に際して行った 教材づくりやその情報源、授業観察の記録、授業内外での生徒とのやりとり、週単位で実施される「セ ミナー」(振り返り)でのディスカッション内容など、 “俯瞰”の範囲を広げるほど扱うべき情報量が 増加していく。おそらく現実的な対応策は、指導場面での課題設定とそれに適合する「振り返り」の ための情報の精選である(しかし過度の切り分けは、ホリスティックな問題解決の機会を奪うことに なるので慎むべきと思われる) 。一つの案として、指導教諭の同意・協力を得て、院生の授業から主 要な場面を数枚写真に収めておき、週ごとの「セミナー」において、院生がもっとも気になった授業 場面に関連した情報を添えながら、指導教員との対話を重ねる。その様式を予め作成しておき、ポー トフォリオとして蓄積する、といった手だてが、院生にとっても現実的で扱いやすい情報量なのでは ないだろうか(図2中の〈ポイントA〉 ) 。 2点目として、 院生たちの授業に対する「視点」ないしは「メタ認知」は、 学部時代、 第1・2クォー ター、第3・4クォーターと経験を積むごとにより精緻化していくが、基本的な「視座」については 一定の構えが形成されていることである。院生Мでは、説明の手段をより広範に習得し、かつ丁寧な 技法を磨く方向での授業づくりに強い意識が認められる。院生Yでも、重要な概念事項の(教師自身 による)解説が量的に確保されることで、授業の体裁への安心を得る傾向にあることが垣間見えた。 院生たちの学びを豊かにする上で、予め抱いている「授業観」や「学習観」は各院生の「持ち味」と しては生かすべきだが、その一方で実践的指導力の幅を広げるためには乗り越えるべき「自分の殻」 として、実習課題の中に盛り込むべきだろう(図2中の〈ポイントB〉 ) 。 3点目として、 「授業の見方」を得るための課題設定に、どんな手段が講じられるのか、もっとも 現実的な手法を採るにはどうするか。今回の取り組みに限って言えば、数学、社会ともに、院生が自 らの意向を示さないと次の学びに進めない(ある意味では厳しい)指導教諭の立場が共通して見られ た。例えば院生Мの指導教員が述べた「指導教諭の真似ではなくて、自分の核になるものを学んでほ しい」のコメントがそれにあたる。 “自分の核”ということは、 教員自身が「私は何を学びたいのか」 という内面的な問いにそって課題設定を行うことを意味しており、非常に難しい問題である。 奈良教育大学では、学部卒、社会人ともに入学直後の「授業力基礎演習(1単位) 」を集中的に受 19.
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