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ゲオルク・カイザーの『平行』について

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(1)88. ゲオルク・カイザ-の. 『平行』、について. Uber"Nebeneinander"GeorgKaisers. 二. に書かれたと考えられている). の諸作品や. 演劇全体の流れ、ないしは広がりから見れば、彼のこの作品での新し. このドラマ上演当時の成功不成功はひとまず脇においても、その後の. という意味での社会性がまった-失われていたからである。しかし、. に手を染め始めたという批評もなされた。一貫した理想を持った批判. ShojiIMOTO. 拍. ら夜中まで』などのいわゆる社会派的な作品の後に、一九二三年に突. ゲオルク・カイザ-はヴェ-デキン-的な肉体観を扱ったご-初期. 本. 如として. る。本稿で取り上げる所以である。. い試みは、その影響力において決して小さ-ないものがあったと考え. に傾向が分類されて、変わり身の跡を正確にたどれるものではないが、. -変わり身の速いカイザ-であった。もちろん必ずしも作品の発表順. れを体系づけることな-、並べ替えて見ているようなところがある。. りしたのではな-、言わばい-つかの骨そのものは残しておいて、そ. を骨組みから解体したことにある。しかも、ただ無視したり破壊した. その第一にあげるべきは何よりも、ドラマの筋を中心にした完結性. むしろ、作品の形式に関しても内容に関しても、図式化されることを. あげている。大物指向のカイザ-がいかに見栄っ張りでも、アリス-. どはともか-、プラーン、ニ-チェ'ショ-ペンハウア-などの名を. カイザ-は徹底して体系化を嫌った作家である。「傾向」すら嫌ったと 「進歩性」. 極端に嫌ったカイザ-であるから、変わり身そのものも目的のひとつ 『平行』はそれまでの彼の社会劇の. 言えよう。(自分の読書傾向を聞かれたアンケ--にも彼は'理解のほ. これ以前にも、これ以降にも、創作の内容と形式に関して'とにか. の-ルッぺ劇団。一九二六年には日本でも築地小劇場が上演している。. 『平行』と題する一種の風俗劇を発表する。初演はベルリン. (それらは実際には彼の作品が世に認められるずっと以前 『ガス』三部作、『カレ-の市民』 『朝か. 井 だったかもしれない。 いずれにせよ、この. 『平行』について. 右. を支持していた側から見れば、大きな期待はずれであった。レヴユゲオルク・カイザ-の. 井本.

(2) 87. ゲオルク・カイザ-の. カイザ-が従来のドラマの筋を構成する必須条件たる「幕」形式を. としてしか表現できない、そういう認識が広まりつつある時代でも. なく、いくつかの視点を重ね合わせることで現実を表現しょう、そう. 『平行』について. 破って、スーリンドベリの開拓したシュタツィオ-ネン・ドラマと呼. キユ-ビズムが生まれ'音楽では(転調はあっても基本的には)不動. も、いや、自然科学の理論においてさえ、不動の何かに立脚するので. ばれる形式のドラマを書いたことは拙稿においても何度か論じたが、 『平行』においては、それが言わば逆説的に貫徹されている。形. の立脚点たる調性を構成し直す考えが生まれ、自然科学でも時間と場. あった。絵画ではい-つかの視点を同時に一つの画面に構成する. の上では五幕という、まさに数まで揃った伝統的な暮形式になってい. というそれまで無条件の前提だったものが相対化されつつあった。も. この. ながら、内容は一筋の進行で貫かれてはいないからである。各暮は三. おのこと'後世からはそこに一つの時代を形作る新しい傾向が見るこ. 互いに直接に関係し合ったものではなかっただろう。しかしだからな. 本稿では便宜上、この場面名の前に括弧して第一場、第二場、第三場. とができるのである。当時の文学上のダダイズムにせよ絵画上の. えば「質店」. という数を入れたが、同じ暮の三つの場は現実には言わば同時進行な. キユ-ビズムにせよ、ただ形式を破壊した、伝統をぶち壊したという. 現方法の萌芽は何だったのか。同時代的な評論、ないしは場合によっ. のである。だから序数が入っていないのである。実際の上演に当たっ. 同じ序数の場がそれ. だけの評論からは何も生まれてこない。何を破壊したのか、新しい表. (本稿の上での). ては作者自身の意図とさえも、後世の見方が異なることがあるのは当. な三つが平行しているのではない。あれこれの登場人物の関係はドラ. 方が揺らいだときに起こる傾向とは言えまいか。つまり、全体性とは. ある意味ではこれは、各分野においてその「全体性」に対する考え. 然である。. マが始まる前にはい-つか存在していた。それが、ドラマが始まると. その中にいるときには決して意識されないが、それが疑問視されだし. ろうが、文化の多-の分野で複眼的な見方、表現方法が探求された時. 化というだけなら、むしろほとんどあらゆる時代に共通の出来事であ. は言わば重ね合わせの理論に基づいていると言えよう。価値観の多様. 起承転結も、まとまった全体としての意味も指向していない。これ. 内容は様々に変えながら'一つの筋を五暮という場で展開して見せて. もう一つの完結した全体を提供するのが演劇の使命であり、具体的な. な五暮形式はもちろん完結した一つの全体であるo現実世界とは別に. しい全体性の可能性が希求されているのである。演劇で言えば伝統的. るものである。だから、一つの全体性が見えたときにはすなわち、新. たときにこそ見えて-る。全体性とは不完全性においてのみ意識され. 代だった。絵画や音楽などの芸術だけでな-、社会的な理論において. ある。. 同時に、もう二度と交わることな-、それぞれの結末へと向かうので. している。それが. ぞれに関連した筋をもつことになる。つまり'三つの筋が同時に進行 「平行」たる所以である。もちろんまった-無関係. 考えられよう。そして、各暮の. ては広い舞台上の場を使うことによって、その表現に様々な可能性が. のように具体的な場面名が指定されているだけである。. ちろん、それらのいずれも、それぞれの分野の人々の営みであって、. テレス、ヘ-ゲルの名はあげなかった。). 一八. つの場から成っている。ただし、第一場とか第二場の名称はな-、例. 井本.

(3) 86. 違いな-必要条件だった。. きた。五という数は必須条件ではないまでも、筋が一つというのは間. からさっそ-都会生活の裏面が覗ける。そこへ立派な身なりのノイマ. 的な表現であろう.寝具1式を預けようとする健吉な女客などの台詞. と画期的な試みとも言える。カイザ-の創作技法上の変わり身もそう. 開による起承転結を無視するシュタツィオ-ネン・ドラマよりも、もっ. を質入れしようってんだからね。とっとと車でお帰りよ。」. 質草の値が下がる訳だよ。ちょっと一杯やるために、ダイヤの指輪. 女客「おや、成金さんのご到来だ。これだからね、気をつけなきや0. ンが客として現われる。. いう意味で'この際は結果からそういう複眼化の時代の中に置いて、. ノイマンもへらず口では負けない。「おかみさん、どうせなら'ギリ. その筋を複数にしようというのだから、これはある意味で、幕の展. 考察してみたい。. いね。」. シャのカレンダ-だと、正月はいつかなんてことを訊いてもらいた. は暮形式という完結性を解体してシュタツィオ-ネン・ドラマ化し、. インテリ崩れのノイマンは終始、口先だけで世間を渡り歩-。これ. 『平行』で名だけは残しながらも、事実上. かつ、各シュタツィオーンの流れさ、生二本にして、複数の視点を導入. が第二の主人公になる。彼は燕尾服とそろいのチョッキを質入れする0. つまり、カイザ-はこの. したのである。これはその後例えばオムニバス形式ともなって、演劇. 質屋は服のシミを見つけるが、取り引きは四万マルクですぐに成立す. とになる。カイザ-がどのドラマでもいつも用いる入念に仕組まれた. として、誤って大量にかけてしまう。この偶然がすべての悲喜劇のも. 客が帰った後、質屋は混州尾服のシミを取るためにベンジンを塗ろう. 師の本能であった。. る。ノイマンは住所は正確に申し出るが、名はニ-マンと偽る。詐欺. 以外の様々なジャンルでも風俗描写などにしばしば用いられた。目の 前で、相互に関連のない筋がい-つか同時に進行して、あちこちで随. 『平行』において見てみ. 時にクライマックスが起きては'また収まって行-、そういう形式の 言わばはしりである。 そういうカイザ-の試みの実際をこれから. よう。何がどのように成功し、失敗しているだろうか。. こる事態という認識からは出発しない。書き始めない。これも彼が社. 偶然である。彼は決して、これは社食のどこかでいつかは必然的に起. 第一幕(第1場)質店.(ベルリンの1角と思われる.). 会劇を多数書きながら'それが政治劇にならなかった所以のひとつで. あろう。反戦劇を書いても、反戦思想はどこにもなかった。社会への 目はいつもシニカルでしかなかった。. 手紙を発見する。それも、しみ通ったベンジンにぬれている。注意探. ベンジンにぬれた燕尾服を調べるうちに'内ポケッ-に入っていた. -ハンカチで拭-が、そのためになおのこと、手紙の宛名が消えてし 『平行』について. 一九. 屋はある意味で作者カイザ-の分身である。作中で質屋を通して何度. ゲオルク・カイザ-の. 井本. も作者自身の叫び声が聞こえる。「半端者」はカイザ-自身の1種賓晦. かし、1貫してまっとうな、あるいはまっとうすぎる行動をとる。質. 質店主には都合にありがちな「半端者」との表現がついている。し. どの事務を担当している。. 第一の主人公である質店の主人とその娘。娘は身体障害者。帳簿な. *.

(4) 85. ゲオルク・カイザ-の. 『平行』について. の決心も、これでどうかなかったことにしてお-れ。最近私が突然. 返し書いているところだ。私から便りがなければ自殺するという君. だった。手紙はまった-同じ内容のものが無事にル-のもとに届いて. 質屋が前の場で読んだのと寸分違わぬ物。ル-とはルイ-ゼのこと. ら、私たちの関係はもう終わったのだと書-しかない。こう書-の. での都会生活を語る。ノイマンに嫌われて死ぬ気になったことも。し. した、かつての姉達との生活をなつかしむ。荒涼としていたベルリン. 姉はベルリンでの妹の生活振りを想像する。ルイ-ゼは土地に根ざ. も'君の取り返しのつかない、と同時に馬鹿げた最後の一歩を思い. かし、案外に彼女はさっばりした様子。姉は妹をやさし-迎える。夫. の水門官が現われたので、あわてて妹の手紙を引き裂-。夫も義妹に 好意的。. でも君は物事を悪い方へ. 悪い方へと考えているようだ。カジノでの君とのい-晩かは忘れら. ポルジヒとノイマン。. が、現在は破産状態。ノイマンはみずからあやしげなプロ-カ-. 出す度に、なつかしい気持ちになるのだ。君のオッ--・Nより。」. たおかげで、当人が出し忘れた手紙が見つかった幸運を、自分のこと. ジュン-、代理業だと名乗る。女に関してもだらしないことを自認す. 両者は行きずりの知り合いらしい。ボルジヒは映画製作を企画する. のように喜ぶ。是非とも本人に手紙を返さねば、そして、手紙が無事. る。ルイ-ゼのことも語り始める。彼女に関してだけは、しかしなが. ら浮ついた気持ちではなかった。本気になりかかっていたが、そこで. 仕事に失敗して夜逃げする。ただ、次の幕で登場するかつての安宿に. 手紙を出したことで投宿先が分かったのだろう、ルイ-ゼからの手紙. 投函するのを忘れたことに気づ-。彼は同じ日に同じ内容の手紙をも. をそこで受け取ったらしいが、この時点では観衆にはまだその事情は. う一度書いて、今度こそ投函したと言う。彼は出した手紙の写しをい. のか。」. 水門調節官、その妻'妻の妹ルイ-ゼ。. 分からない。そこで例の返事を書いたのだが、ポケッ一に入れたまま. 水門調節官は実直な下級役人。仕事に忠実で、新しいモ-タ-ボ-. (第二場)水門調節官の家。(ベルリンから遠い田舎と思われる。). ただ中で。なぜだか、誰にも分からない。罪なのか、それとも啓示な. 質屋「我々にはこんな災難が降りかかるんだ。ふだんの生活のまっ. 人者になってしまうと、本気で考える。. に女性のもとに届-ようにしてもらわねばと思う。でないと自分が殺. 質屋は服のシミのおかげで、そして自分がそれにベンジンをこぼし. (第三場) ボルジヒ宅。(ベルリン内のどこかと思われる)0. もちろんl暗も疑ったことすらない.. 止まらせるのが、私の義務と思えばこそなのだ。君が本気なことは、. きりした事情を知りたい、それなしでは生きていられないと一亭ブな. いたのだ。. かる姉に、妹ルイ-ゼは一通の手紙を見せる。姉が声に出して読む。. にべルリンから姉のもとに帰ったところ。急に帰ってきた事情をいぶ. -で水路の見回りをするのを楽しみにしている。ルイ-ゼは久しぶり. ニ○. 消息を絶ったのには、それなりにわけがあったのだ。しかし、はっ. て読み直す。 「愛するル-よ。十四日付けの君の手紙は確かに受け取った。折り. まう。ためらった後、彼はついにそれを開封する。娘の前で声に出し. 井本. れない。特にあの右手の特別席のことは。あの席と君のことを思い. -. 、エ-.

(5) 84. 師同然の男のすることとは考えられない。ノイマンがその手紙をボル. 難点と言わざるを得ない。都会人の一典型、ほとんど口先だけで詐欺. つも取ってお-のだと語るが'ここはこのドラマの筋の上で、唯一の. る。白鳥の小舟に乗ってさっそうと登場する若き騎士。義妹ルイ-ゼ. い語らい。水門官はこの新人の到来を、ロ-エングリ-ンになぞらえ. べ-派遣された新人である。三人で水門監督の仕事などについて楽し. クリユ-ガ-は学士の資格を取って、これから水門監督の仕事をす. うな時代だった。質屋は三日目にやっと彼女に合える。しかし最初か. ない女優。身なりだけは派手で、見栄えがする。ノイマンは彼女をお. る。始めから詐欺まがいの手段を考える。ボルジヒの妹はあまり売れ. ノイマンはポルジヒの借金返済と新たな映画会社設立を目論んでい. ボルジヒ、ノイマン、ボルジヒの妹。. (第三場) ボルジヒ宅。. にさっそ-義妹を要わせようと考える。. はもちろんエルザ・フォン・ブラバン-である。水門官はクリユ-ガ-. ジヒに読んで聞かせる。観衆にはまった-同じ三度目の朗読である。 両者で映画作りの話しが始まる。. 第二幕(第一場)安宿エルヴィラ.(ベルリンの1角と思われる) 質屋とその娘がニ-マンが申し出ていた住所の安宿を訪ね当てるが、. ら険悪な雰囲気である。安宿の主人は客の秘密を守るつもりでいる。. だて上げて映画作りに協力させ、そのための資金を彼女の「友達」に. 女主人は留守だった。こんな宿の主人でも「保養」に出かけられるよ. 質屋が見せた例の手紙を読んで、それがニ-マンではな-、ノイマン. 出させることを思いつ-。ポルジヒの妹は役に立ちそうな男をすぐに. (ベルリンの一角であろう). のものだとすぐに確信する。筆跡にも覚えがある。しかしニ-マンな. カジノ. 思いつ-0. 第三暮(第1場). る人物は泊めた覚えがないと言い張る。質屋はある決心をして宿を出. 質屋が去った後、主人と女中がしばしノイマンの思い出話。女中は. は違いない。女中は「あんな黄色な醜男なんか、私には関係ないわ」. 本人を登場させるが、単なる異国人趣味の域を出ない。珍しかったに. 囲気。この時期'カイザ-はまれに時代の風俗表現程度にちらっと日. を言うべきじやないでしょうか」と一人言のように言う。不気味な雰. Mansol)vi.elleichtimmerdieWahrheitsagen.. 長口舌になる。手紙を渡して思い止まらせねば、自分が殺人者になる. に自殺を思い止まらせようとの気持ちが高まって、質屋は何度も一人、. の目論見である。ひょっとしたらニ-マンも現れるかもしれない。ル-. で待てば、きっとル-なる女性が現われるに違いないというのが質屋. を着て、あの手紙に書いてあった思い出のカジノの'そのまた特別席. る。毛皮のコ--はタロ-クに預ける。ニ-マンが質入れした燕尾服. 質屋が娘を連れてカジノを訪れている。身なり服装は全部質草であ. と言う。. との妄想が深まる。. カジノの客がタロ-クで偶然に、かつて盗まれた自分の毛皮のコ-. ≡. 水門官、妻、クリユ-ガ-。 ゲオルク・カイザ-の. 『平行』について. (第二場) 水門官の家。. ノイマンに気がある様子。そこへ投宿中のある日本人が通りかかり、 「やはり本当のこと. る。. 井本.

(6) 83. ゲオルク・カイザ-の. 『平行』について. 女性から無理やりにそのコ--を預けた男の人相風体を聞き出した客. 質屋、娘、カジノの客、警部、巡査など。. 第四暮(第1場)警察署o. た。騒ぎを大き-して、噂を広めれば、尋ね人ル-が気がついて-れ. は、すぐに質屋を見つけ出す。巡査が呼ばれる。質屋は容易に語ろう. 閉じこもってしまった質屋は、新たに出現した事態にはすぐに反応で. るかもしれないと思ったのだ。観衆がすでに見て知っている現実の尋. 質屋が警察署に連れて来られるに当たっては、彼なりの計算もあっ. きない。反応しょうとしない。言葉は断片的でしかない。この傾向は. ね人ルイ-ゼとの格差は広がるばかりである。しかし彼はなかなか順. 序立てて自分が質草を着てカジノにいた理由を説明することができな. い。今やまった-別の筋になってしまったノイマンが常にとうとうと. が途切れ途切れになる。カイザ-が初期のドラマでしばしば用いた「電. まくし立てるのに対して、この質屋は自分の思いのたけを吐露すると. 彼女にプロポ-ズする。都合ではない、こういう田舎の生活の美しさ. 文体」と言われる台詞になる。明らかにカイザ-はここでこの二つの. きにはほとんど快惚となって弁じ立てながら、問答となると急に言葉. を賛美する。ルイ-ゼは自分は過去のある女だ'ベルリンで別れさせ. 口調を意図して対比的に用いている。後のプレヒーならばもちろん異. 水門官、妻、妹ルイ-ゼ、クリユ-ガ-0. られた男がいたのだと告白する。びっ-りしたクリユ-ガ-が去った. れた意図はない。三つの筋を平行させながら、質屋の言葉づかいの中. 化効果と呼ばれるものであろうが'カイザ-にはまだそんな定式化さ. と言う。. を申し出る。ノイマンに小切手を渡そうとするタラハ-に対して、ノ. と、「芸術家」としての才能を十分に発揮してもらう目的で資金の提供. イマンは言葉巧みに彼を誘い込もうとする。クラハ-は彼女への思い. 妹がタラハ-を連れて-る。自分に首ったけのパ-ロンである。ノ. ボルジヒ、その妹、ノイマン、タラハ-. あ」。客二「願い下げだね」。警部「ル-とやらに、なんでそんなに. な」.質屋「ル-をご存じありませんか」.客一「思い浮かばないな. らないんです」。警部「みなさんはカジノでル-つて女をご存じか. のかね」。質屋「まるで知らないご婦人です。ル-つて名としか分か. という名のご婦人を探しに」。警部「街角にたたずむ娘さんでもいる. 警部「なぜ質草に着飾ってカジノなんかに行ったのだ」。質屋「ル-. でも二つの調子の会話を平行させている。. イマンはボルジヒの妹に渡して-れと言う。ノイマンは映画制作さえ. 止めていただかねばなりません」。警部「ル-が殺されるだと-」。. 熟を上げているんだ」。質屋「急を要するんです。警部さん。殺人を のだった。. できればいい。そのためにはボルジヒの妹を確実に使える方が得策な. (第三場) ボルジヒ宅。. かったの」. 後で、ルイーゼは姉に、「私は自分が愛している人に嘘なんかつけな. クリユ-ガ-はルイ-ゼとモ-タ-ポ--の楽しみを語るうちに、. (第二場) 水門官の家。. 連行される。コ--を盗まれたと主張する客も同行する。. 次の幕でさらにエスカレ--するが、いずれにせよ質屋と娘は警察に. としない。娘は真相を言えと主張するが、自分の目論見だけの世界に. -が預けられているのを見つける。客の数はそんなに多-ない。係の. 井本.

(7) 82. 部「酔ってるのか-」。質屋「一滴もやっていません」。警部「じゃ. 国中を-まな-結びつけているじやありませんか。この手紙を何千. こう分かるんですが」。客二「カジノの十倍もむずかしいや」。警部. 1度では分からん。みなさんはどうかね」o客一「他のことならけっ. です」。警部「わしの理解力を総動員しても、とても君の言うことは. -れ」。質屋「私がル-を見つけないと、彼女を殺したことになるん. けないと'彼女を殺したことになるんです」。警部「もう一度言って. 警部「じゃあ、どうやって殺そうってんだ」。質屋「私がル-を見つ. す」.警部「ナイフでか、ビス-ルでか」。質屋「いい、え、いいえ」。. ん」.警部「いったいどこでだ.往来か-」.質屋「いい、え、違いま. たのではないか。こういう場面では、叫ぶ人間の回りに必ずそれを冷. 叫びだけは必ず登場させた。そして'カイザ-はこれにこだわり続け. たと言われた。初期の表現主義的ドラマ以来ずっと一貫してこういう. カイザ-のひとつの鼻骨項である。これがあるから彼は社会劇を書い. いか、何千もの電話が鳴り響いて泥棒を捕まえるではないかと叫ぶ。. 二口盗まれただけでも天地がひっ-り返るような大騒ぎをするではな. な質屋が法の力で一人の人間を救えと訴える.拭塩が一枚、自転車が. 警部は質屋を狂人扱いする。質屋はなおいっそう激して-る。無力. すんです。ル-とニ-マンと、そして私が。」. 柱という柱'掲示板という掲示板に貼り出して 枚もコピ-して -ださい。ル-がそれを読みます。それで三人がやっと息を吹き返. 「君の考えている殺人のことを、分かるように説明して-れたま. 笑する人々が登場している。カイザ-自身が世の中に向かって叫ぶ声. の声も、いつしか世の通常の理性の範囲を越えて-る。敵対者からは. も、この質屋と同種のものではなかったか。世の理不尽を責める自分. 紙の話しになる。手紙を読んだ警部に対して質屋が、そのル-を探し. ラマをカイザ-は書き続けた。. 噺笑を浴び、味方となるべき人々からも愛想をつかされる。そんなド. 質屋「警察のあらゆる設備を使って-ださい。探索のために使える. 水門官、その妻、クリユ-ガ-、ルイ-ゼ. (第二場) 水門調節官の家。. 警報装置を鳴り響かせて.ル-はどこだ。たった一人の命を救うの. クリユ-ガ-は水門官の妻に暇を告げている。ルイ-ゼに嫌われた. と思ったのだ。水門官は都合生活と田舎の生活をロマンチックに対比. させつつ'ルイ-ゼがいっとき都合生活の悪夢に染まったのはク. クリユ-ガ-はルイ-ゼの彼への思いを知る。二人はいささか喜劇的. リユーガ-の責任だ七言い、決闘まで迫る.半ば脅されるようにして、. に結ばれる。 『平行』について. :酉. 一個人に過ぎません。私の資力では間に合いません。警察ならい-. ゲオルク・カイザ-の. 井本. らでも経費を使えましょう。町や村には分署があります。それらが. たのです。ここにいる皆さんにも今や責任があります。私は無力な. な手紙があったでしょうか。-・偶然からとほうもない義務が生じ. んな大事な時に、一刻の猶予もなりません。世界中にこんなに重大. にいつでも使えないようなものなら'何があっても無意味です。こ. ありとあらゆるものを総動員して。電話も電報も。ル-の探索です。. て-れるよう懇願する。今度は一転して儀舌になる。. 質屋はついに言葉につまり、ようや-のことに燕尾服の説明から、手. え」。. あ、君はカジノで殺そうとしたのか」。質屋「カジノじゃありませ. -. 質屋「もう.

(8) 81. ゲオルク・カイザ-の. 『平行』について. 二四. が、それが起こした波はまだ銀白に泡立っている。私は隣人の声を. 聞いたのだ。他人が耳を閉ざしてしまったものが、私には聞こえた. (第三場) ボルジヒ宅。 ポルジヒ、その妹、ノイマン. のだ。私の耳は治ったのだ。両の耳で聞-ことができたのだ。これ. からの人生で'それをまた打ち消せというのか。生の際限のない残. 妹がパ-ロンで出資者となるべきタラハ-の求賠を断わったという。 小切手だけは手放さずにいる。しかし先のことを考えてノイマンはボ. 酷さと血なまぐささを、私はこの質店で誰よりも知ったのだ。この. がらなかったことがあったろうか。その日まぐるしい渦巻きの中に. カウンタ-でくる日もくる日も、火をふ-ような駆け引きが燃え上. ルジヒの妹に色仕掛でクラハ-と線を切らぬよう迫る。三人で映画制 作の相談。. 質店。. 知らず知らず引き込まれなかったことがあったろうか。あの手紙は. (第1場). 第五暮. 私をしっかりつかまえるために、この子の中に飛び込んできたに違. 身の上に起きたことは'二度と-り返されてはならないのだろう. いない。これですっかり説明がつ-だろう-今このあわれな質屋の. 裁判所の役人がきている。質店主が質入れ品を私用に供した廉で営 業停止、鑑札没収を通告する。検閲、徴収すべき書類は完壁に揃って いる。店主は処分に素直に従う。. は父に悪いことはしていない、申し開きをしろと言う。父はむしろ晴. と分かち合うにはまだ早い。他人はその芽を踏みにじってしまうだ. が得たものを確保するためなら、それは命にもかえられよう。他人. か-い-千倍にも深められて、-り返されてはならないのか-自分. れがましい気持ちでいる。乞食の境遇を素晴らしいと言う。「もっとち. ろう。せっか-得たものを無駄にせぬためには食欲にならねばなら. 役人が去った後、店のカウンタ-の前で質屋の親娘の長い対話。娘. 素晴らしいものは、ものごとの根底にしかない。それは求めてこそ得. ない。でも、いつかきっとこれは万人のものになるだろう。 「新しき人」 ではない。. られる。それこそ有益な課題なのだ」と語る。しかしカイザ-のドラ マにおいてもこの質屋はもはや従来のままの. 彼は安宿の女主人を呪い、カジノの客や警部を語り始める。まったの偶然から関わり合うことになったル-とニ-マンなんかどうでもよ かったのだと言う。二人で語るうちに虚無的な気分に襲われる。娘が、. して、もうこれ以上話すまい。」. 利を収める、そういう気持ちが失われるのだ。その気持ちがあった. ら夜中まで』 の出納係に見られる新しき人であろう。ご-ふつうの人. これほどまでには「新しき人」ではなかった。類型から言えば『朝か. 『ガス』三部作の主人公たちや『カレーの市民』. からこそ'私は見ず知らずの人のために歩き始めたのだ。冒険の意. 間がある日突然に何かに取りつかれたように走り出す。叫び出す。自. のウスタ-シュも. そばの薄明かるい点を見ようじゃないか。あの太陽の残り陽を。そ. 根ざしてしまったのだろう。(娘を両腕に引き寄せつつ)さあ煙突の. しかし、こんな衝動がこうも突然にどうして私たちの血の中に. れとも、人は隣人の運命にそんなに関与してはいけないのだろうか。. -. 義と成就はそこにしかない。冒険はその対象を消し去ってしまった. これ以上何か失うものがあるかと尋ねるのに対して父はこう答える。 「自分でもまった-信じられない不思議な感情が知らず知らずに勝. -. そ. 井本.

(9) 80. の. 分と世人の境が一瞬消し去られて、そしてまた自己を取り戻す。しか. の描写。これもあまり複雑な崩し合いもないままに一応のハッピ-エ. 以上を見るに、「平行」とは言いながら、やはりかなりな比重が第一. ンドになる。. が出現している。. しその時には身も破滅の寸前である。この質屋に新たなカイザ-の「新 しき人」. 場系にかかっていると言わざるを得ない。台詞でも筋の展開について. も、そう言えよ-。五幕という数にしても、第一場系は確かに相当で. (第二場) 水門官の家。 クリユ-ガ-とルイ-ゼの婚礼が済んだところ。. めない。各場での進行に必然性が見られない場合がある。その点では. あろうが、第二、第三場系については、無理に数合わせをした観が否. さに愛を語るセレナ-ドの雰周気。水門官は義妹の婚礼で'ますます. この「平行」. 神父が祝福を与えている。家の外では歌とヴァイオリンの響き。ま ロマンティックなセンティメンタリズムにせめられる。. と言-べきだろ-。とにか-三つの場を平行させてみよう、それをま. しかし、三つの場はもちろん互いに無関係に存在したのではない。. ず認めねばならない。. の試みは内容の可否よりも、形式の新しさが優先された. (第三場) ボルジヒ宅。 ボルジヒ、その妹、ノイマン、株屋のエルザッサ-が映画会社設立 の前祝いをしている。五暮全体の幕切れにしてはあっけないほどの乾. まった-別個のものを集めたオムニバスではない。たまたま同じバス. 第一場を貫-筋は質屋の熱狂に導かれる。ベルリンという表面上繁. 三つの筋のそれぞれの性格は明らかである。. ベルリンで生活を僕にしていたルイ-ゼとノイマンが第二場系と第三. が別々の場面で筋を展開しているのである。このドラマの始まる前に. ニバスではなかった。三者三様ではな-、かつては関わりのあった人. に乗り合わせただけの人々のその後の別々の生活断片を写し出すオム. 栄する大都市の裏側に息づ-人々。その只中にいた質屋がある日突然. 場系に登場し、その両者を質店主が第一場系でむなし-探し回る、と. 杯で終わる。. に自分がなすべき第一義の行動に目覚めるが'周りの人々とはかえっ. いうのが基本構図である。. 質屋がル-の自殺を心配し、いや、ついにはル-の自殺は自分の殺. ちたあっけらかんとした変心振りとの対比が大き-なる。質屋が描-. 人だとまで妄想すればするほど、第二場系でのルイ-ゼの幸福感に満. 第二場を貫-筋は田園風景。都会生活に破れたルイ-ゼ。中世の騎. ニ-マンの虚像と'第三場系で映画制作のために詐欺師まがいのこと. とにその隔たりが拡大してい-ことを知る。それは、質屋の叫びの拡. をする現実のノイマンとの対比も同じである。観衆は暮が進行するご 第三場系は大都会の只中で生きぬこう'一旗あげようという人々。. 『平行』について. 二王. 大と呼応している。カイザ-は決して三つの人間模様を描いたのでは ゲオルタ・カイザ-の. 井本. 映画という当時のベルリンの繁栄をもっともよ-写し出している風俗. ハッピ-エンド。. 士を思い浮かべる義兄。ひたすらなロマンティシズムである。単純な. つうの人の、傍目にはまった-理解されぬ変貌振りである。カイザ「新しき人」はかならず周りから浮き上がる運命にある。. てうま-行かな-なる。懇願、絶叫、煩悶の末に絶望に至る。ご-ふ. *.

(10) なかった。. ゲオルク・カイザ-の. 『平行』について. 井本. PropylaenVerlag)97). HerausgegebenvonWaltherHuderZweiterBand. GeorgKaiserWerke. 作品の引用は次の全集による。. 少な-とも後世からはそう一亭えるだろう。. ある。『平行』 は単なる風俗劇を越えた、時代的な新しい試みだった。. を叫ばせながら、それすらも劇中で立体化し、複眼化してみせたので. しばしば登場した. 物が二重写しになることでもあった。ここでカイザ-はそれまでにも 「新しき人」なる主人公を用いながら、自らの叫び. である。 『平行』においては、筋が複数になったことはまた、一人の登場人. 二重写しにして見ることになる。ニ-マンとノイマンに関しても同様. 求めるル-と、田園で幸せな結婚をするルイ-ゼとを、観客は言わば. 只中で、自殺を思い止まらせようとして、我が身を滅ぼしてまで追い. 複数の筋が平行して進行するこの劇において'質店主が大都会の真っ. だった。『平行』 においてはドッベルゲンガ-は登場しない。しかし、. プレヒ-の社会劇的な作品でも、特に当時しばしば用いられた手法. を用いている。これはジキルとハイド氏に限らず、幻想的な文学でも、. この. において用い'成功している。 法は、カイザ-も初期の社会劇『珊瑚』 『平行』とほぼ同じ時期にも『二人オリ-ファ-』で同様の手法. 一人の人間が場によって姿を変えて登場するドッペルゲンガ-の手. * *. フ▲く.

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