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心理学ワールド 78号 ここでも活きてる心理学 化学物質の安全を安心へつなげたい 清水 隆徳(サントリー食品インターナショナル株式会社) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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認定心理士コーナー

認定心理士コーナー

ある日の講演にて 一般財団法人 化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所 主管研究員

吉川治彦

(きっかわ はるひこ)

化学物質の安全を安心へつなげたい

Profile─吉川治彦 1989年,学習院大学大学院自然科 学研究科化学専攻博士前期課程修 了。2001年より現職。理学修士。 専門は化学物質の評価・管理,リス クコミュニケーション,リスクの心 理。  化学物質は,便利で快適な生活 を送る上で欠かせないものです。 市場に流通している化学物質は数 万種に及ぶとされ,私たちは,意 識するしないにかかわらず,産業 活動や日常生活において多くの化 学物質を利用し,その恩恵に浴し ています。その一方で,化学物質 を環境中に排出し,生態系や人の 健康に悪影響を及ぼしているおそ れがあります。化学物質は,これ までの法規制による管理から,有 害性や摂取量を考慮したリスク評 価(一般にリスクの大きさは,毒 性値×摂取量で表される)による 自主管理へ変わりつつあります。  リスク評価による化学物質の管 理には,様々な価値判断が存在す ることや,一般の人々のリスク認 知の問題があり合意の形成が難 しくなる場合が少なくありませ ん。科学的手法によって客観的に 行われたリスク評価の結果から 人々が感じるリスクには差があり ます。未知のもの,情報が少ない もの,よく理解できないもの,自 分でコントロールできないものに 関するリスクは実際よりも大きく 感じられ,便利で利益が明らかな ものや,自分でコントロールでき るものに関するリスクは実際より も小さく感じられる傾向がありま す。リスク認知のバイアスは,科 学的な判断ではなく一般の人々の 直感的なヒューリスティック(経 験則)による判断に依存すること が多いです。このように化学物質 に関する人の認知は, 社会心理学の領域であ り,私が化学の他に心 理 も 専 門( 認 定 心 理 士)としているのはこ のためです。化学物質 のリスクコミュニケー ションには,正確な情 報を伝えることのほか に,専門家でない一般 の人々の認知特性にも 考慮して実施する必要 があると考えられます。  一般の人々が,化学物質のリス ク評価の結果を十分に理解し,リ スク評価・管理者と対等に議論す ることは難しい場合があります。 このような場合,リスクコミュニ ケーションの問題点は,リスク評 価・管理者に対する信頼の問題に 帰結します。情報の受け手が対話 に参加することでリスク認知のバ イアスを減らし,情報の送り手で あるリスク評価・管理者が否定的 な内容も情報の受け手へ的確に伝 えることで信頼を高め,また双方 向のコミュニケーションによっ て,互いの関係を良好なものとす ることが重要であると考えられま す。リスク評価・管理に従事する 専門家は,リスクに曝されている 人々の心理面も含めて理解するこ とが必要です。相手の立場や心の 動きを理解しようと努力すること がリスクコミュニケーションには 大切です。相手の立場を理解する ことは難しい問題ですが,他者の 心の動きを読むという能力は,人 間がもつ高度な能力です。リスク コミュニケーションにおいても, 相手の立場を理解することができ れば,信頼感を得ることに有効で あると考えられます。  リスク評価をすれば答えは一つ に決まるわけではありません。ゼ ロリスクがないことや完全に安全 を証明することが不可能である以 上,リスク評価の結果から推定さ れるリスクの度合いに応じ,受け 入れるリスクの程度を社会的に判 断し決定する必要があります。そ のために,リスク間のトレードオ フや,リスクとコスト間のトレー ドオフなども含めたリスク評価・ 管理と,それに続くリスクコミュ ニケーションを実施することに よって,一般の人々の理解を得る ことが今後重要になると推察され ます。私たちの生活で欠かせない 化学物質を利用する人々が今より もっと安心できるような社会を私 は実現したいと思います。

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