Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
農村住居の原型
―住空間の史的展開過程に関する研究(その 14)―
Primitive farm houses of Japan
Author(s)
島村 昇(Shimamura Noboru)
Citation
生活科学論叢(Review of Living Science)
,
No.30:1 -62
Issue Date
1999
Resource Type
Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
農 村 住 居 の 原 型
住 空 間 の 史 的 展 開過 程 に関 す る研 究(そ の14)島 村
昇
1.サ ス 構 法 の 進 展 1-1架 構 系 構 法 の系 譜 1-2架 構 系 構 法 と土 穴 系 構 法 1-3形 成 期 の 諸構 法 1-4斜 材 の力 学 的 性 状 1-5サ ス構 法 の 改 造 1-6サ ス 構 法 の 完 成 2.ヤ グ ラ構 法 の 展 開 2-1建 築 物 と工 作 物 22ヤ グ ラ構 法 に よ る工 作 物 2-3ヤ グ ラの 基 本 的構 法 2-4ヤ グ ラ と シ ェ ル ター 2-5ヤ グ ラの 室 棚 2-6ヤ グ ラ と放 射 状 斜 材 3.ウ ダ ツ構 法 の 変 容 3-1ウ ダ ツ構 法 の 目的 3-2ウ ダ ツ の 意 味 3-3ウ ダ ツ構 法 の柱 と床 34ウ ダ ツ柱 の 内 化 3-5ウ ダ ツ柱 の象 徴 性 36ウ ダ ッ壁 の象 徴 性目
次
4.ネ ブ キ の タチ ア ゲ 4-1ヤ グ ラ上 の 高 床 4-2屋 根 つ き ヤ グ ラ 4-3ヤ グ ラ とサ ス の 結 合 4-4ヤ グ ラ の柱 問 寸 法 と柱 割 り 4-5古 代 加 賀 地 方 の 柱 間寸 法 4-6ヤ グ ラ と ネ ブ キ の 結 合 5。 ワ ク ノ ウ チ ヅ ク リの 生 成 5-1ワ ク ノ ウチ 架 構 体 5-2サ ス とヤ グ ラ の 複 合 構 法 5-3ヤ グ ラの 補 強 5-4サ ス の 補 強 5-5ヤ グ ラ とサ ス の住 居 趾 5-6土 台 の 上 に立 つ ネ ブ キ 6.ウ ダ ツ構 法 の系 譜 6-1セ ン ダ チ の 架 構 方 式 6-2ウ ダ ツ構 法 の建 物 跡 63ウ ダ ツ構 法 の 地 方 伝 播 6-4ウ ダ ツ構 法 の 継 承 6-5ウ ダ ツ の 高 床 6-6古 墳 時 代 の 架 構 体 群序 本 稿 は3構 法(サ ス 構 法 、 ヤ グ ラ構 法 、 ウ ダ ツ構 法)の 発 展 とそ の 複 合 構 法 に つ い て 述 べ た も の で あ る。柱 、桁 、梁 、サ ス 、 タル キ の基 本 的 建 築 構 造 材 の い ず れ か に よ っ て組 まれ た 架 構体 が 、 後 代 の民 家構造 に先 立 っ て どの よ う な構 法 に よ って 家 構 を行 っ て い た か は 、住 空 間 史 上 きわ め て 重 要 な 問題 で あ る。 こ の段 階 にお い て は 、 架構 方 式 が 内部 空 間(住 空 間)を 決 定 的 に性 格 づ け て い る か らで あ る。 本 論 で は 、建 築 構 造 材 の扱 い 方 に よ っ て 、 上記3構 怯 を措 定 して い るが 、 そ の 3構 法 の そ れ ぞ れ は原 始 構 法 とい い う る もの で あ り、 そ れ らの複 合 形 式 が 農 村 住 居 の 原 型 を造 形 して い る と い え る。 表 題 の 「農 村 住 居 の原 型 」 は、 そ の 意味 で あ る。 な お 、 本 稿 中 に 「本 論 第1 巻 」 とあ るの は、 拙 著 『住 空 間 史 論 ・1』(京 都 大 学 学 術 出 版 会 、1998年)を 指 す 。 本 稿 は 、 第 H巻 第1章 お よ び第2章 に な る予 定 で あ る 。 1.サ ス 構 法 の 進 展 1-1架 構 系 構 法 の 系 譜 加 賀 農 村 住 居 の前 史 と な る原 初 的構怯 は、(1)サス構 法 、(2)ヤグ ラ構 二法 、(3)ウダ ツ構 法 の3構 法 で あ る。 こ れ らの原 初 的 構 法 も時 代 を過 去 に遡 及 す れ ば、 一 定 の よ り単 純 な 構 法 に収 束 す る可 能 性 を も っ て い る が 、 本論 で は こ の3種 の 構 法 が 分 化 した段 階 か ら を対 象 に す る こ と にな る。3構 法 以 前 の構 法 は 、 お そ ら く旧 石 器 時代 以 前 の太 古 にお け る架 構 技 術 を 問 う こ と に な る。 そ う した太 古 の 架構技 術 の 一 端 を示 す 構 法 と して ネ ッ ト構 法 を提 示 した が 、 こ の 半 球 形 の ドー ム型 シ ェ ル タ ー は 、構 法 的(力 学 的)に み る とそ の 中 に後 代 の 構怯(力 学)が す べ て 含 まれ て い る 。 す な わ ち 、 地 面 に近 い部 分 は 垂 直 材 と して の 柱 の 性 格 、頂 部 に近 い 部 分 は水 平 材 と して の桁 や梁 の 性 格 、 そ の 中 間部 分 は斜 材 と し て の サ ス や タル キ の 性 格 を もっ て い る[図2-1]。(1)の サ ス 構 法 は こ れ らの3材(柱 、 タル キ 、桁 ・梁)の す べ て を1本 の斜 材(サ ス)に よ っ て解 決 し て い る の で 、 ネ ッ ト構 法 に近 縁 な構 法 とい え る。 [図2-1]ド ー ム 型 ネ ッ ト構 法 の 力 学 的 部位
サ ス構 法 も当 初 は細 い材 を 数多 く使 用 す る方 法 が と られ るが 、 しだ い に この 中 か ら構 造 用 の サ ス と下 地 用 の サ ス が 分 化 し、後 代 の 民 家 の 草 葺 き屋 根 にみ られ るサ ス 構 法 に発 展 して い く。 これ は 構 造 材 と下 地材 の 未 分 化 な ネ ッ ト構 法 か らの 脱 却 で あ り、 次 の段 階 へ の 進 展 で あ っ た 。 構 造 用 サ ス 材 の析 出 は 、 真 の 意 味 で の サ ス 構 法 の 生 誕 で あ り、 よ り大 型 で よ り頑 丈 な サ ス架 構 体 を可 能 に した の で あ る 。 ② の ヤ グ ラ構 法 は、 ご く一 般 的 には4本 脚 の台 状 架 構 で あ り、 人 や 物 を載 せ る た め に発 達 した 構 法 で あ る 。 つ ま り、 本 来 的 に は シ ェル タ ー と して発 達 した もの で は な く、 屋 外 、 屋 内 い ず れ の 場 所 に も使 用 され る架 構 体 で あ っ た 。 この よ うな 台 状 架 構体 の必 要 性 は 、 い わ ば非 接 地 面(地 面 か ら一 定 の高 さ に設 定 され た水 平 面)の 要 求 に よ る もの で あ っ た 。 (3)のウ ダ ツ構 法 は、2本 の柱 に よっ て ム ナ ギ を支 え、 ム ナ ギ に タル キ を掛 け る構怯 で あ る。 こ の 構 法 は 、 い う まで もな くシ ェ ル ター の た め の架 構 体 で あ り、本 論 の 対 象 とす る加 賀 民 家 を含 む わ が 国 の民 家 の屋 根(小 屋 組)構 法 と して後 代 に伝 承 さ れ る 。 サ ス 構 法 と ウ ダ ッ構 法 は 屋 根(小 屋 組)構 法 の双 壁 で あ る 。 な お 、 ネ ッ ト構 法 は屋 根 や 壁 の下 地 造 り と して伝 承 さ れ る。 1-2架 構 系 構 法 と土 穴 系 構 法 以 上 の サ ス 構 法 、 ヤ グ ラ構 法 、 ウ ダ ツ構 法 の3種 の 構 法 は 、 い わ ば材 をい か に組 み 合 わ せ るか とい う架 構 方 式 の 問 題 で あ る 。 す な わ ち 、架 構 系 の 住 空 間 に対 す る視 点 で あ る 。他 方 、 タテ 穴 住 居 にみ られ る タテ 穴 は、 あ き らか に土 穴 系 の工 法 で あ る 。 世 界 的 に み る と、 土 穴 系 住 居 は タテ 穴 以外 に ヨ コ穴 もあ り、 太 古 か らの 居 住 様 式 の 一 つ と考 え られ る の で土 穴 系 の 住 居 形 式 も一 種 の 住 空 間 創 出手 法 と して 措 定 して お くが 、 や は り主 流 と して は 架 構 系 で あ る。 タテ 穴 住 居 にお け る タ テ 穴 の 深 さ は 、深 い もの で は2,0m程 度 、 浅 い もの で は0.5m程 度 まで あ り、 時 代 が 降 る に したが っ て タテ 穴 は浅 くな っ て い く とい う。 わ が 国 の 民 家 史 に お い て は 、 中世 に も タ テ穴 住 居 が み られ る か ら、 タ テ穴 とい う土 穴 系 住 居 の 系 譜 は か な り後 代 ま で 尾 を 引 い て い る が 、 しだ い に平 地 式(土 座 ず ま い)か ら揚 床 式(オ エ ず ま い)へ と移 行 して い く。 床 面 は地 中 か ら地 上 、 さ ら に床 上 へ と移 動 してい く。 す な わ ち 、 土 穴 系 の住 居 は しだ い に姿 を消 して い くの で あ る が 、 この タ テ穴 は 貯 蔵 用 の 穴 な ど の 非 居 住 用 の 土 穴 と して後 代 まで 残 る。 さ ら に重 要 な こ とは 、 タテ 穴 時 代 に体 得 した土 壁 の 性 状 (土の 保 温 性 、 防 火 性 、 粘着 性 、 塑 造 性 等)は 、 そ の ま ま壁 面 に生 か さ れ 、 民 家 の土 壁 と な っ て い く。 す で に、 タ テ穴 住 居 の 時代 に お い て も、 タ テ 穴 か ら掘 り出 され た土 は タテ 穴 の まわ りに 周 堤 と して積 み 上 げ られ て い た 。 考 古 学 で は周 堤 と呼 ば れ て い る が 、 建 築 学 上 は 土 壁 と もみ な し う る。 後 代 の民 家 に み られ る 土 壁 は 、 ネ ッ ト構 法 と土 の 複 合 的所 産 で あ る 。 土 は壁 だ け で な く屋 根 に も使 用 され て い た 。 寒 冷 地 に所 在 す る ア イ ヌ の住 居 の 中 に は 土 葺 きが み られ る が 、 弥 生 時 代 の 近 畿 地 方 に も土 葺 き屋 根 が み られ る 。 奈 良県 ・慈 光 院 裏 山遺 跡 で は弥 生
時 代 中期(約2,000年 前)の タ テ 穴 住 居 が 発 見 され 、 屋 根 を構 成 し て い た とみ られ る斜 材(径10 cmの 丸 太)の 上 に 葺 き土 が 検 出 され てい る。 葺 き土 は保 温 の た め と さ れ て お り、 寒 冷 地 に お け る 土 穴 居 住 の系 譜 を想 定 させ る 。 草 と土 を交 互 に葺 く屋 根 工 法 は 、 草 葺 きだ け の 屋 根 工 法 とは 別 系 統 の工 法 と して 、 す くな くと も弥 生 時 代 に は まだ 行 わ れ て い た 。 上 の例 で も、 屋 根 の 下 地 は斜 材(タ ル キ)に よ って 組 まれ て お り、 こ こ に も架 構 系 と土 穴 系 の 複 合 形 態 が み とめ られ る が 、 後 代 の民 家 の屋 根 工 法 で も土 葺 きの 上 に 瓦 や 板 を葺 くこ とが行 わ れ て お り、 土 葺 きの 伝 統 は 消 滅 して い な い 。 タテ 穴 、 周 堤 、 土 壁 、 土 葺 き屋 根 、屋 根 の 土 下 地 等 に 土 穴 系 住 居 の 伝 統 が み とめ ら れ る。 1-3形 成 期 の諸 構 怯 以 上 の よ うに土 穴 系 住 居 は 、土 穴 そ の もの を住 居 とす る こ とか ら、 しだ い に建 築 の 部 分 的使 用 (屋根 、 壁 、 床 の 各 部 位 で の土 の使 用)に 移 行 して い くが 、 そ の 元 に は 架 構 系 構怯 の 発 展 進 化 が あ る。そ れ に つ れ て 、土 穴 そ の もの が 土 とい う建 築 素 材 に変 容 して タチ ア ゲ られ て い くの で あ る 。 骨 組 み とな る 架構 体 は 、木 材 に よ るが 、 下 地 材 と して は土 が 使 用 さ れ今 日 に至 っ て い る。 前 項 で もふ れ た 土 の 保 温 性(断 熱 性)、 防 火 性 、 粘 着 性 、 塑 造 性 等 の 性 質 は 、 当 時 の焼 物技 術 (土の 利 用 技 術)と 相 ま って 建 築 工 法 に も援 用 さ れ た 。 そ の 意 味 で 土 穴 系 住 居 は 姿 を変 えて伝 承 され て きた とい え る。 架構 系 の 構 法 と同 時 に土 穴 系 の構・法 を措 定 す る ゆ え ん で あ る。 わ が 国 の縄 文 期 以 降 の住 居 建 築 に つ い て は、 架 構 系 と してサ ス構 法 、 ヤ グ ラ構怯 、 ウ ダ ツ構 法 、 そ して 、 こ れ らの構 法 の 淵 源 と して ネ ッ ト構 法 が 考 え ら れ る 。 この よ うな 架構 系 とは別 に 、 上 記 の 土 穴 系 の 構 法 が い ま一 種 の構 法 と して付 加 され る。 以 上 を や や 図 式 的 に 表 現 す れ ば 次 の よ う に な ろ う 。 構 法 架 構 系 構 法 土 穴 系 構 法 (ネ ッ ト構 法) サ ス 構 法(屋 根) ヤ グ ラ構 法(台 、床 〉 ウ ダ ツ構 法(屋 根) 土 塗 り工 法(屋 根 、 壁 、 床) わが 国 の伝 統 的 な木 造 の 柱 梁 構 造 の 民 家 は 、 上 の 諸 構 法 ・工 法 の複 合 的 所 産 で あ り、 縄 文 か ら 弥 生 時 代 に わ た っ て そ の 基 盤 が 形 成 され 、 方 向 づ けが な され た と考 え られ る。 本 論 の対 象 とす る 加 賀 農 村 住 居 にお い て も各 構 法 ・工 法 は伝 承 され てお り、 屋 根 の サ ス構 法 、 ウ ダ ツ構 法(一 部 の 小 建 築)、軸 組 部 分 と くに ワ ク ノ ウ チ(枠 の 内)部 分 に み られ る ヤ グ ラ構 法 等 は、 後 代 の 加 賀 民 家 の 構 造 を 理 解 す る 上 に不 可 欠 な 先 行 的 構 法 で あ る。
以 上 の 諸 構 法 の う ち 、 も っ と も ま ぎ らわ しい の はサ ス 構 法 と ウ ダ ツ構 法 で あ る 。 そ れ は 、いず れ も斜 材 を用 い る た め で あ る 。 次 節 で は 、 そ の あ た りの 事 情 を も うす こ し詳 し くみ て お こ う。 そ れ は タテ 穴住 居 趾 の柱 穴 の 数 や 配 列 形 式 と も関連 す る。 1-4斜 材 の 力 学 的 性 状 サ ス 構 法 に お け るサ ス 材 もウ ダ ツ構 法 にお け る は タル キ材 も、 い ず れ も斜 材 で あ る こ とに は変 りな い。 同 じ斜 材 で あ る こ とか ら、 両材 の 区 別 が ま ぎ ら わ し くな る の で あ る が 、構法 的 にみ る と サ ス材 の 自立 性 、 タル キ 材 の 他 立 性 が 両 材 を区 別 す る ポ イ ン トと な る 。 [図2-2]斜 材 に 働 く圧 縮 力(N)と 曲 げ 力(M)
この 区 分 は材 の力 学 的性 状 に 由来 す る もの で あ る こ とは 明 らか で あ る が 、 具 体 的 に そ の性 状 を み る と、[図2-2]の よ う に な る。 斜 材 が 水 平 面(地 面)と な す 角 度(仰 角)を θ とす る と、 斜 材 の 受 け る力 は この θと相 関 す る。 い ま、 斜 材 に働 く垂 直 力 を1と し て 、斜 材 内 部 に 生 ず る軸 方 向 力(圧 縮 力)・Nはsinθ 、 斜 材 を曲 げ よ う とす る 曲 げ 力 ・Mはcosθ と な る。 な お 、仰 角 θは90°未 満0° 以上 で あ る。 こ う して み る と、 斜 材 に働 く力 はN、Mい ず れ も θの 関 数 で あ り、 簡 単 にい え ば斜 材 が 急 勾 配 や 緩 勾 配 か に よっ て 斜 材 の 力 学 的性 状 は大 き く変 わ って くる。 す な わ ち 、 急 勾 配 の 場 合 はサ ス 、 緩 勾 配 の場 合 は タ ル キ と い う こ とで あ る 。 θが90°の 場 合 、 斜 材 は直 立 して 柱 と な る か ら 、N= 1、M-0で 圧 縮 力 の み で 曲 げ力 は働 か ない 。 ま た 、逆 に θが0° の 場 合 、斜 材 は水 平 な梁 と な り、 N-0、M=1で 曲 げ力 の み を受 け圧 縮 力 は 受 け ない 。 結 局 、斜 材 は柱 と梁 の 間 に あ り、 θに よ っ て い ず れ の 性 格(力 学 的性 状)に 近 い か とい うこ とで あ る。 す な わ ち 、 θが 大 きい と き斜 材 は柱 状 態 、 θが 小 さい と き斜 材 は梁 状 態 と な るが 、 そ の 中 間 点 で両 状 態 が 等 しい(入 れ代 わ る)と こ ろが あ る。 θ=45° の と き にcosθ とsinθ の値 は等 し く 0.71と な る。 斜 材 の勾 配45°は従 来 矩 勾 配(カ ネ コ ウバ イ)と 呼 ば れ 、 屋 根 勾 配 と して は急 勾 配 を意 味 して きた。 しか し、 そ れ は タル キか らみ た 場 合 の 話 で あ っ て 、 サ ス か らみ れ ば 緩 勾 配 で あ る 。 勾 配45°が サ ス とタ ル キ の 分 岐 点 で あ り、 カ ヤ葺 き屋 根 の 勾 配 は た い て い45°か そ れ 以 上 で あ る 。 加 賀 農 村 住 居 や 本論 第1巻 で 扱 っ た 白 山 山村 住 居 の屋 根 勾 配 は60°で あ る か ら、 そ の 時Nは0.8 7、Mは0.50と な り、Nの 方 が 大 きい 。 す な わ ち、 斜 材 は柱 状 態 の性 格 が 強 くサ ス 的 で あ る 。 他 方 、 後 代 の タ ル キ 掛 け の屋 根 で5寸 勾 配(水 平 距 離10寸 に 対 し て 垂 直 理 距 離5寸 の傾 斜)の と き、Nは0.45、Mは0.89、 同 じ く4寸 勾 配 の と き、Nは0.37、Mは0.93、3寸 勾 配 の と き、Nは 0.29、Mは0.97で あ る。 緩 勾 配 に な る と斜 材 の タ ル キ状 態 は一 段 と強 くな る 。 以 上 の よ う に 、斜 材 の 力 学 的 性 状 は 勾 配45°を 境 に して 、45°以 上 の 急 勾 配 を サ ス 状 態 、45°未 満 の緩 勾 配 を タ ル キ状 態 とみ なす こ とが で きる 。 この よ うな斜 材 の 力 学 的 性 状 は 、構 法 の基 本 的 力 学 的性 状 を も決 定 し、 自立 的 な サ ス 構 法 と他 立 的 な タ ル キ構 法(棟 持 柱 と棟 木 を含 め て ウ ダ ッ 構 法)が 分 類 され る こ とに な る 。 1-5サ ス構 法 の 改 造 勾 配45°以 上 の 斜 材 に よ っ て組 まれ る 自立 的 な構 法 をサ ス 構 法 と した が 、 ヅ キマ ル ゴ ヤ や 後 代 の加 賀 民 家 の屋 根 な どで は勾 配 を60°と し て い る。 岐 阜 県 ・白 川 や 富 山 県 ・五 箇 山 の 合 掌 造 り と 呼 ばれ て い る 民 家 の屋 根 も60D勾 配 で あ る 。 ネ ブ キ の よ う に屋 根 だ け の 住 居 で あ っ た時 代 に は 、 この 屋 根 勾 配 の 緩 急 の差 は 、建 築 構 造 の 強 度 は もち ろ ん 内 部 の住 空 間 量 の多 寡 を大 き く左 右 した 。 上 記 の60°とい う勾 配 は、 力 学 的 強 度 と生 活 空 間量 を総 合 した経 験値 で あ っ た ろ う。
この よ う なサ ス 構 法 の発 展 過 程 につ い て は 、本 論 第1巻 第1章 第3節 「放 射 状 サ ス 構 造 体 の 展 開」 の と こ ろで 述 べ て い る の で こ こで は省 略 す る が 、 放 射 状 サ ス は や が て 平 行 サ ス に移 行 す る。 タ テ方 向(棟 方 向)へ の面 積 拡 大 が 可 能 な構 法 に 移行 す るの で あ る 。 平 行 サ ス 構 法 に よ る ネ ブキ は、 す くな くと も 白 山周 辺 の 山村 で は 、 柱 建 て の ク ズ ヤ が 造 られ る よ う に な っ て も、常 に底 流 と して 存 在 しつ づ け 、 石 川 県 白 峰村 で は 実 に昭 和40年 代 まで 実 際 に居 住 さ れ て い た の で あ る。 加 賀 平 野 の農 村 部 にお い て も、 か つ て は ネ ブ キ住 居 の存 在 が 推 測 され る が 、 今 日 まで 残 存 す る 物 件 が な い。 しか し、 山 村 か ら 山 を 下 っ た 水 田地 帯 で は 、 農 繁 期 に使 用 す る 出小 屋 が 近 年 ま で残 存 した 。 こ の 出小 屋 は ネ ブ キで あ り、 当 地 で は ヒ ル ク イ ゴヤ(昼 喰 い小 屋:昼 食 を と る小 屋 に 由 来)と 呼 ばれ ・本 宅 とは 離 れ た 田地 の 近 く に建 て られ た コヤ(小 屋)で あ っ た[写 真2-1]。 ヒル ク イ ゴヤ にみ られ る ネ ブ キ 形 式 の住 居 が 、 か つ て は 住 居 形 式 の 主 流 で あ っ たで あ ろ う こ と は 、想 像 に か た くない が 、4周 が 屋 根 で 閉 鎖 さ れ る 内部 の 空 間(住 空 間)は 、 暗 く陰 湿 で あ り住 空 間 の 開 放 性 が 求 め ら れ た の は 当 然 で あ っ た 。4周 を柱 建 て と して 、 自 由 に 開 口 部 を とる こ との で きる タチ ア ゲ(建 ち 上 げ)の ク ズ ヤ に移 行 す る前 に 、 ネ ブ キ に お い て もサ シ ア ゲ(差 し上 げ) が 行 わ れ 、 開 放 性 へ の 工 夫 が な され て い る[写 真2-2]。 サ シ ア ゲ は・ ネ ブ キ 側 面 の屋 根 の 一 部 を柱 と桁 で サ シア ゲ て 開 口 部 と した もの で あ るが 、全 体 と して は サ ス 構 法 に よ る建 築 の 中へ 部 分 的 に タル キ構 法 が 導 入 さ れ て い る とこ ろ が 注 目 さ れ る 。 サ シ ア ゲ部 分 を タ ル キ構 法 にす る た め この 部 分 の 屋 根 勾 配 は 緩 勾 配 とな り、 主 体 とな るサ ス構 法 の 屋 根 勾 配 と は明 らか な勾 配 差 を示 して い る 。また 、そ う しな け れ ば 開 口部 の 高 さ は え られ な い 。 ネ ブキ に お け る こ の種 の 開 口形 式 に つ い て は 、 第1巻 第3章 第4節4-3を 参 照 され た い 。
Rights were not granted to include this
image in electronic media. Please refer
to the printed journal.
[写真2-2]ネ ブ キ の サ シア ゲ (註)合 掌 造 り民家 園 内復 元住 居(岐 阜 県 白川村) 1-6サ ス構 法 の完 成 サ ス構 法 の発 展 は 、前 項 で み た よ うに平 行 サ ス 構 造 の サ シ ア ゲ を も っ て終 る が 、 そ れ は ネ ブ キ に お け る場 合 の こ とで あ り、 他 方 で この平 行 サ ス構 法 は柱 建 て ク ズ ヤ の屋 根 部 分 と して 長 い命 脈 を保 つ こ と に な る 。 しか し、 そ の 屋 根 部 分 の 構 造 も実 は ネ ブ キ 時 代 に 完 成 さ れ た平 行 サ ス 構 法 を 、 ほ と ん ど そ の ま ま継 承 した の で あ り、 そ の意 味 にお い て ネ ブ キ に お け る 平 行 サ ス の 完 成 は 、 後 代 民 家 の 屋 根 部 分 の 完 成 とい う こ とが で き る 。 屋 根 部 分 の 完 成 は 、 次 に そ れ を上 方 ヘ タ チ ア ゲ 健 ち上 げ)と した柱 建 て の ク ズ ヤ に移 行 し、 今 日み る と こ ろ の クズ ヤ の 姿 が 現 わ れ るが 、 そ の た め に は ネ ブ キ(す な わ ち屋 根 部 分)を タチ ア ゲ とす る軸 組 み の発 達 が 必 要 で あ る。 こ の軸 組 部 分 につ い て は、 次 の 第2節 に お い て ヤ グ ラ構 法 と して 述 べ た い が 、 こ こ で は屋 根 部 分 とな っ た ネ ブ キ の 平行 サ ス に つ い て次 に そ の 要 点 を 整 理 し て お きた い。 1)構 造 用2本 サ ス と下 地 用 サ ス の分 化 平 行 サ ス は2本 サ ス を一 定 間隔(2m程 度)に 平 行 配 置 す る 無 柱 の構 造 体 で あ る 。2本 サ ス の 間 に は オ イ ザ ス(後 年 に は タ ル キ とい う)を 数 本 差 し掛 け て カ ヤ下 地 とす る。 す な わ ち 、構 造 用 サ ス と下 地 用 サ ス が 分化 す る 。 ネ ブ キの サ シア ゲ は この分 化 、 と くに 構 造 用2本 サ ス に よ っ て架 構 可 能 な ので あ る。 2)妻 側 の 架 構 形 式 と屋 根 型 の多 様 性 2本 サ ス に よ る架 構 体 が確 立 す る と、 妻 側 の2面(正 面 と背 面)は 構 造 上 の 自由 度 を え 、 オ イザ ス(タ ル キ)の 掛 け方 に よっ て 寄 棟 、入 母 屋 、 切 妻 の 各 形 式 の屋 根 型 が 生 じ る。 本 論 の 対 象 とす る加 賀 平 野 か ら 白 山 山村 に は 、 す べ て の 屋 根 型 が 存 在 し、 一 つ の棟 が2種 の 屋 根 型 を共
Rights were not granted to include this
image in electronic media. Please refer
to the printed journal.
存 させ る場 合 も多 い 。 す な わ ち 、 両 妻 が 異 る屋 根 形 式 を もつ(た とえ ば 、 正 面 入 母 屋 、 背 面 寄 棟 な ど)。 3)円 形 、小 判 型 、 方 形 平 面 の 出現 以 上 の よ うな 架 構 方 式 に よっ て生 じる 平 面 形 式 は 、両 妻 を寄棟 か入 母 屋 に した 場 合 に は 小 判 型 、 両 妻 を切 妻 と した 場 合 に は方 形 とな る 。 これ に そ れ以 前 の 放 射 状 サ ス を加 え る と、 円 形 平 面 が 加 わ り、 円形 、小 判 型 、 方 形 の各 種 が 現 わ れ る。 しか も、 こ れ らの 平 面 に は柱 が 現 わ れ な い 。 数 多 く発 掘 され る原 始 ・古 代 住 居 趾 の平 面 型 や 柱 穴(と くに主 柱 穴)の 状 況 と重 ね合 わ せ て み る と、 形 成 期 の わ が 国 民 家 の構 造 が わ か りや す い。 2.ヤ グ ラ構 法 の 展 開 2-1建 築 物 と工 作 物 現 行 の建 築基 準 法 に お け る 建 築 物 の 定 義 は 、土 地 に定 着 す る工 作 物 の うち 次 の(イ)から(→ま で の い ず れ か に該 当 す る も の で あ る(法2条1号)。 (イ〉 屋 根 が あ り、 か つ 柱 又 は壁 が あ る も の (ロ)(イ)に附属 す る 門 又 はへ い(塀) の 観 覧 の た め の 工 作 物(た とえ ば 、 野 球 場 の ス タ ン ド) ←)地 下 又 は高 架 の 工 作 物 に設 け る 事 務 所 、 店 舗 、 興 行 場 、 倉 庫 、 そ の他 これ らに類 す る施 設 以 上 は 、 もち ろ ん現 代 の 建 築 物 な い し工 作 物 に対 して な さ れ た 定 義 で あ る が 、 そ の 中 で 重 要 な の は建 築 物 と工 作 物 が 区 分 さ れ て い る こ とで あ る。 そ う しな い と、 建 築 物 の 範 囲 が 明 確 にな ら な いか らで あ る。 一 般 に架 構 体 は 、 か な らず し も建 築 物 の み で は な く広 く工 作 物 と して も存 在 し、 わ れ わ れ の生 活 と深 くか か わ っ て い る 。 わ れ わ れ の建 築 観 は、(イ)の 「屋 根 が あ り、 か つ柱 又 は壁 が あ る もの」 に よ っ て決 定 的 な影 響 を受 け て い る の で 、 い きお い工 作 物 の方 が 看 過 さ れ や す い 。 しか し、工 作 物 も立 派 な 架 構 体 で あ り、 そ の 意 味 で は 建 築 物 と変 る と こ ろ が な い 。 しか もそ の 工作 物 は 、建 築 物 と一 体 的 で あ っ た り、ま た そ れ を機 能 させ る た め に不 可 欠 な要 素 とな っ て い る 。 歴 史 的 ・具 体 的 には 、 柵 、枷(ハ サ)、台 、床(シ ヨ ウ)、棚(タ ナ)、塀 、 門、 鳥居 、 櫨(オ リ)、舞 台 、桟(サ ジ キ)、 階(キ ザ ハ シ)、 櫓(ヤ グ ラ)な ど多ll皮に わ た る 。 これ らの屋 根 の な い工 作 物 も立 派 な架 構 体 で あ り、 そ の 架 構 は一 定 の構 法 に よ っ て い る。 上 記 の 建 築 基 準 法 の 定 義 は 、 そ う した広 範 な 架 構 体 群 の 中 で 、 法 の対 象 とな る 架構 体(建 築 物) の範 囲 を決 定 す る必 要 上 な さ れ た も ので 、逆 に い え ば架 構 体 は工 作 物 を も含 め て考 え な け れ ば構 法 の 問題 も片 手 落 ち とな る で あ ろ う。 換 言 す れ ば 、 時 代 や 地 域 に 関係 な くわ れ わ れ 人 間が 生 活 上 の必 要性 に応 じて創 造 した 全 架 構 体 が 建 築 行 為 の 所 産 で あ る。 形 成 期 の 農村 住 居(農 村 生 活)を み て い る と、 と くに そ の 観 が つ よい 。 原 始 ・古 代 住 居 は もち
う ん 立 派 な建 築 物 で あ る が 、 当 時 の 生 活 をす くな く と も集 落 規 模 で み る と、 多 種 の 工 作 物(屋 根 の な い 架構 体)が 存 在 した は ず で あ る 。 現行 建 築 基 準 法 の定 義 を過 去 に適 用 す る 気 は さ ら さ ら な い が 、 法 の い う とこ ろ の建 築 物 と工 作 物 の2つ の 観 点 の重 要性 を述 べ た か っ た の で あ る 。本 節 で 扱 うヤ グ ラ構 法 は 、 ま さに そ の 工 作 物 に 該 当 す る か らで あ る 。 2-2ヤ グ ラ構 法 に よる 工 作 物 工作 物 と して の ヤ グ ラ につ い て は 、 す で に巨 木 列 柱 の と こ ろで 、環 状 配 置 か ら方 形 配 置 に移 行 す る の は、 柱 が 桁 ・梁 の水 平 材 に よ って 連 結 され た こ と を証 した 。 す な わ ち 、 柱 相 互 が 連 結 さ れ て 一個 の 架 構 体 とな り、 安 定 した構 造 を もつ に至 る と した の で あ っ た が 、 そ の 目 的 は 非 接 地 型 の 床 面 を設 定 す る た め で あ り、 高 所 の 物見 櫓 、 ヤ シ ロ の 原 型 等 を想 定 した。 これ ら の ヤ グ ラ は、 い わ ば 集 落 の共 同施 設 で あ り、 規 模 も大 が か りな もの で あ った 。 大 型 ヤ グ ラ で あ る 。 こ う した ヤ グ ラ の特 色 は、 屋 外 に住 居 と は別 に 架構 され 、 そ の 架 構 体 は 必 し も屋 根 を もた な い 工作 物 で あ る とい う こ とで あ る 。前 項 で 列 記 した 、柵 、 枷(ハ サ)、 台 、床(シ ヨ ウ)、 棚(タ ナ)、 塀 、 門、 鳥 居 、橿(オ リ)、 舞 台 、 桟(サ ジ キ)、 階(キ ザハ シ)、 櫓(ヤ グ ラ)等 も この 種 の 工 作 物 で あ り、 日常 生 活 に深 くか か わ る小 型 か ら大 型 の ヤ グ ラ で あ る。 柱 と桁 に よ って 組 ま れ る ヤ グ ラ構 法 は多 種 にわ た る。 こ う した工 作 物 の うち小 型 ヤ グ ラ の具 体 例 は 、 考 古 学 上 の発 掘 遺 物 に も検 出 され に くい が 、 か ろ う じて住 居 趾 内 の ベ ッ ド状 架 構 が そ れ を 示 唆 して い る 。小 型 な い し中 型 の ヤ グ ラ は 巨木 に よ る 大 型 ヤ グ ラ の よ う に残 遺 しに くい の で あ ろ う。 しか し、今 日で も太 古 の 原 始 的生 活 様 式 を と どめ る ア フ リカ ・ピ グ ミー の場 合 に は、 い くつ か の ヤ グ ラ の事 例 をみ る こ とが で きる[図2-3]。 (1)丸 太 で 囲 った ネ ドコは 、架 構 体 とは い えな い が 、桁 の発 生 をみ る想 い が す る た め 例 示 した 。 実 際 、 ケ タ(桁)は ガ タ ・ゲ タ(方 、 方 形)に 由来 す る とい う。 ネ ドコ を方 形 に 囲 む 丸太 は 、 中 の 草 葉(ネ ドコの ク ッシ ョン材)が 散 逸 しない た め の 囲 い で あ る が 、 わが 国 の 民 家 に お い て も土 座(土 の 上 に敷 い た ワ ラ(藁)や カ ヤ(茅)な ど)が 散 逸 しな い た め に丸 太 や 角 材 を置 い て 区 切 り とす る 。 これ を ブ ンギ(分 木)ま た は ブ ギ とい う。 (2)柵 は 、2本 の マ タバ シ ラ(股 柱)を 掘 立 て と し、 そ の上 の マ タ(股)に 丸 太 を渡 した 架 構 体 で あ る 。 この 場 合 の 架 構 は 簡 単 で は あ る が 、 柱 と梁 に よる れ っ き と した 架 構 体 で あ り、 『日本 書 紀 』の ワ カ ム ロの ハ シ ラ とム ネ ウ ツハ リに よ る架 構 が 想 起 さ れ る 。ま た 、卑 近 な例 に は ハ サ(枷: 収 穫 した稲 束 を懸 け て 干 す 装 置)が あ る。 (3)燥 肉棚 は、2本 の 短 柱(短 い 掘 立 の マ タバ シ ラ)の 上 に桁 を 渡 し、 そ の上 に 丸 太 を敷 き並 べ て棚 とす る。 棚 の 下 の 地 面 を火 床 と して 、棚 の 上 に置 い た 獣 肉 を燥 煙 す る。 こ の 一 段 式 の燥 煙 棚 は屋 外(出 入 口 の前)で も屋 内 で も使 用 され て い る。(4)の二 段 式 燥煙 棚 は 、2層 の 棚 で、 い よ い よヤ グ ラの 形 が 実 感 さ れ る 。 用 途 は(3)と同 じで あ る。
[図2-3]ヤ グ ラ によ る 生 活装 置 類(ア フ リカ ・ピグ ミー にみ られ る) (註)PhihpartdeFoy,G.1984,LesPygmeesD'AfriqueCentrale, EditionsParentheses,Roquevaire-Franceよ り作 成 。 (5)揚 床 式 ベ ッ ドは、2本 の短 柱 の 上 に梁 を渡 し、 そ の 上 に丸 太 を敷 き並 べ た棚 状 の ベ ッ ドで あ る 。 地 上 か らの高 さ は40㎝ 程 度 で あ る 。構 法 は 先 の(3)燃肉棚 と全 く同様 で あ る。 この よ うな ベ ッ ドは 、 わ が 国 の タテ 穴 住 居 趾 に お い て検 出 され 想 定 さ れ て い るベ ッ ド状 架 構 を想 起 させ る もの が あ る。 ベ ッ ドの短 柱 も掘 立 て で あ り、 小 さ い が柱 穴 を遺 す 。 なお 、 ベ ッ ドの 幅 を狭 く した ベ ン チ も使 用 され て い る 。 (6)日 除 け棚 は、 柱 の 上 に井 桁 を組 み そ の上 に2本 の梁 を渡 して大 きな 木 の 葉 を乗 せ た サ ン ・ シ ェ ー ドで あ る。 日除 け棚 の 下 で は 、 昼 寝 や座 っ て の 作 業 が行 われ 、屋 根 は高 くな い 。 ま た 、 こ の 場 合 の屋 根 は オモ ヤ(ネ ッ ト構 法 に よる ドー ム状 住 居)と は 明 ら か に異 る仮 設 的 な もの で あ る 。
わ が 国 で い え ば 、 ア ヅ マ ヤ(亭)か フ ジ ダ ナ(藤 棚)と い っ た と こ ろ か 。 2-3ヤ グ ラ の基 本 的構 法 前 項 で み た工 作 物(ヤ グ ラ)の 構 法 上 の特 色 は、 柱 の上 に 梁 を置 く とい う こ とで あ る。 す な わ ち 、垂 直 材(柱)と 水 平材(梁)に よる構 成 が 基 本 で あ り、 サ ス の よ う な斜 材 を 一 切 含 まな い 。 サ ス構 法 や ネ ッ ト構 法 の よ う な斜 材 の力 学体 系 の 上 に成 立 す る架 構 方 式 は、 も と も と シ ェ ル タ ー (屋根)の 造 形 を 目的 とす る架 構 手 法 で あ り、住 空 間 の創 出 が 目的 で あ る 。原 始 的 段 階 にお い て は、 この シ ェ ル タ ー も粗 略 で あ り小 規 模 で あ るが 、す くな く と も 「ね ぐ ら」 を獲 得 す る こ と は で き る。 ヤ グ ラ構 法 は 、 この よ う な シ ェ ル ター の 架 構 とは 別 の 目的 を もっ て発 達 した 構 法 とい え る。 前 項 で み た柵 や 台(ベ ッ ド)、棚(燥 肉棚 、 日除 け棚)は そ の こ とを 物 語 っ て い る。 こ の 中 で 、 も っ と も簡 単 な架 構 は柵 で あ る。2本 の マ タバ シ ラ を掘 立 て と し、 そ の 上 に梁 を1本 水 平 に置 い た だ け の 面 架 構 体 で あ る 。 しか し、 そ れ で も こ の建 築 的 行 為 の 中 に は 、柱 に よっ て 梁 を上 に持 ち上 げ る と い う建 築 的(計 画 的)意 図 が み られ る。2本 の 柱 と1本 の梁 に よ る面 架 構 体 は 、 ヤ グ ラ構 法 の 出 発 点 で あ る 。 台 や 棚 は 、 い わ ば2対 の 柵 の 上 に丸 太 を敷 き並 べ て水 平 面 を造 っ た もの で あ る 。 こ こ に柵 の よ うな 面 架 構 体 か ら立 体 的 架 構 体 が 出現 す る こ と に な るが 、 この 立 体 的 架 構 体 の造 出 目的 は 、 地 面 か ら上 に離 れ た水 平 面 を獲 得 す る こ と に あ る 。 この 水 平 面 の 用 途 は 、前 項 の 例 で は 燃 肉 や就 寝 、 腰 掛 け、 日除 け な どで あ った が 、 生 活 の 中 で の 台 や 棚(地 床 面 か ら離 れ た人 工 的水 平 面)の 用 途 は多 岐 に わ た るで あ ろ う。 す なわ ち 、 ヤ グ ラの 必 要 性 で あ る。 以 上 の よ うな ヤ グ ラ の基 本 的 構 法 を 要 約 す る と次 の よ う に な ろ う。 (1)2本 の 柱(股 柱)を 掘 立 て とす る 。 (2)そ の 上 に1本 の梁 を渡 す(面 架 構 体 の 形 成)。 (3)面 架構 体 を2対 平 行 に配 置 す る 。 (4)2対 の 面 架 構 体 の 上 に、 こ れ と直 角 方 向 に丸 太 を敷 き並 べ て 床 面 を形 成 す る。 (5)ヤ グ ラ は屋 内 、屋 外 い ず れ に も設 置 さ れ る工 作 物 で あ り、 本 来 は シ ェル タ ー(屋 根)を 支 持 す る架 構 体 で は な い。 2-4ヤ グ ラ とシ ェル タ ー 本 論 第 工巻 第5章2-6「 山村 住 居 の生 活 装 置 類 」で ア マ ボ シ ダ イ(天 干 し台)を 紹 介 した[図 2-4]。 この ア マ ボ シ ダ イ は 、炉 の ま わ り に4本 の柱(5寸 角)を 立 て 、 上 に 井 桁 を柄 差 し と し、 井桁 の 上 に竹 筈(径1cm程 度 の 細 い丸 竹 の ス ノ コ)を 敷 き、 まわ りを高 さ30cm程 度 の板 で 囲 っ た ヒエ ホ(稗 の穂)の 乾 燥 装 置 で あ る 。 下 の炉 の 火 力 に よ っ て ス ノ コ の上 に積 まれ た ヒエ ホ を 乾 燥 させ る の で あ る。
[図2-4]ア マ ボ シ台 詳 細 図 (註)本 論 第1巻[図5-5]の 再 掲 焼 畑 農 耕 に よ っ て収 穫 され る ヒエ を常 食 と した 山村 で は 、 ヒ エ ホ の 乾 燥 は生 活 上 不 可 欠 な 生 産 行 為 で あ り、 そ の 意 味 で は ア フ リカ ・ピ グ ミー の燥 肉棚 と機 能 は等 しい 。 いず れ も、 炉(火 床) の 火 力 に よ って 食 材 を乾 燥 ・燥 煙 す る装 置 と して ヤ グ ラが 組 ま れ て い るの で あ る。 ヤ グ ラ の発 生 や 用 途 につ い て示 唆 を与 え る もの とい え よ う。 さて 、 こ れ らの 生 活 装 置 と して の ヤ グ ラ は、 い うま で も な くシ ェ ル タ ー と して の 屋 根 架構 体 と は別 の 架 構 で あ る。 燥 肉 棚 の場 合 は 、[図2-5]に 示 す よ う に ネ ッ ト構 法 に よ る 半 球 型 の シ ェ ル ター(住 居)の 中 に 、比 較 的 低 い 棚(高 さ60cm程)か らや や 高 い棚(高 さ1.2m程 度)、 さ ら に 2段 式 の高 い 棚(高 さ1.7m程 度)ま で 、種 々 の高 さ の棚 が 装 備 さ れ て い る 。 低 い 棚(高 さ60cm 程 度)は 、 出入 口 前 の 戸 外 で も使 用 さ れ て お り、 こ の 燥 肉 棚 は も と も と屋 外 で使 用 さ れ て い た も のが 、 屋 内 で も使 用 さ れ る よ う に な っ た もの と み られ る。 わが 国 の縄 文 時 代 の屋 外 炉 か ら屋 内 炉 へ の変 遷 に似 て い る。 2段 式 の 棚 は 、 高 さ も1.7m程 度 あ り、 ほ とん どシ ェ ル ター の天 井 に 達 す る ほ ど で あ る が 、 も ち ろ ん この 棚 は天 井 を支 え て い る の で は な い 。4本 の柱 は、 あ く まで 棚 を支 持 す るた め の支 柱 で あ り、屋 根 荷 重 を 受 け な い 。 これ は アマ ボ シ ダ イ の 場 合 も 同様 で あ り、 棚 も台 も結 局 は ヤ グ ラで
[図2-5]シ ェ ル タ ー の 中 の ヤ グ ラ (註)PhihpartdeFoy、G.1984,LesPygmeesD'Afrique Centrale,77-79、EditionsParenth6ses,Roquevaire-Franceよ り 作 成 。 あ る 。 しか も、両 者 に共 通 す る こ と は 、 ヤ グ ラの 下 に火 床(炉)を 設 け 、 火 の温 度 や 煙 を利 用 す る 食 材 の た め の装 置 で あ る こ とで あ る 。食 材 の 保 存 や 加 工 に関 す る技 術 の 発 達 が この 種 の ヤ グ ラ 構 法 の発 達 を促 した と考 え られ る。 わ が 国 の縄 文 時代 の 住 居 趾 に しば しば見 られ る4本 の 主柱 穴 は 、方 形 に配 置 され 、 中央 に炉 を もつ もの が 多 い か ら、 火 床 を設 け た ヤ グ ラ とい う こ と も考 え られ る 。 屋 根 を サ ス 構 法 で造 れ ば 屋 根 は 自立 的 で あ る か ら、 内部 の4本 柱 に よる ヤ グ ラ は屋 根 と は ま た 別 の 架 構 体 と して 存 在 す る 。 本 論 第1巻 で は これ をサ ス と柱 建 て の二 重構 造(化)と 呼 ん だ(第1巻 第3章3-5参 照)。 2-5ヤ グ ラ の 室 棚 シ ェル タ ー とヤ グ ラ の 二 重 構 造(化)は 、 さ ら に発 展 した場 合 に は 、[図2-6]に み る よ う な室 棚 と して使 用 され る。 この 例 で は 、 円 形 平 面 の 中 央 に4本 の柱 を堀 立 て と し、 上 に丸 太 を敷 き並 べ て 約4m角 の 棚 とす る。 棚 の上 に は 中2階 と な る床 面 が発 生 し、 わが 国 民 家 の ア マ と同 様
の屋 根 裏 空 間 と な っ て い る が 、棚 の 下 は天 井 の あ る 居 間 的 な空 間 で あ る 。わ が 国 の民 家 で い え ば 、 炉 の あ る ヒ ロマ(広 間)に 相 当 す る。 ア マ や ヒ ロマ を得 る た め に 室 内 にヤ グ ラが 組 まれ 、 こ のヤ グ ラ は シ ェ ル タ ー と して の 屋 根 、お よ び そ れ を受 け る円 形 の壁 体 とは ま っ た く別 の架 構 体 で あ る。 ヤ グ ラ は あ くま で室 棚 の た め の 架 構 で あ り、 ア マ と ヒ ロマ の た め の 架 構 体 で あ る。 この 架 構 体 は 、構 法 的 に は先 の ア フ リ カ ・ピグ ミ ー に み られ た 燥 肉 棚 の 発 展 型 で あ り、 規 模 が 拡 大 した だ け機 能 も多 様 化 して い る 。 直径 約10mの 円形 平 面 の 中央 に 方 形 に4本 の堀 立 柱 が 立 ち、 中心 部 に炉 を もつ 平 面 形 式 は、 わ が 国 の 原 始 ・古 代 住 居 趾 に しば しば み られ る平 面 形 式 で あ り、 そ の原 始 ・古 代 性 とい う観 点 か ら は 共通 す る。 周 囲 に い くつ か の 間仕 切 られ た 小 部 屋 が 配置 され て い る の も示 唆 に富 む 。 ヒ ロマ に相 当 す る 室棚 は 、4本 の柱 で 区 切 られ る だ け で 、 と くに 間 仕 切 は な いが 、出入口 に向 う面 には 下 半 分 に腰 板 を張 り、 室 空 間 を外 部 の 空 間 か ら区切 っ てい る 。 こ の腰 板 は 、 ま た外 部 か らの風 を防 ぎ、 炉 の火 を守 る役 割 も もつ 。 わ が 国 民 家 の カザ ガ キ(風 垣)に 相 当 す る。 平 面 形 式 や 生 活 装 置 類 につ い て は 、 生 活 様 式 が プ リ ミテ ィ ブ な もの にな れ ば な る ほ ど、 国 や 地 域 を越 え て 共 通 な一 点 に収 束 す る。 す な わ ち、 人 間 生存 の 最 少 必 要 条 件 の獲 得 とい う一 点 に収 束 す る。 以 上 は住 空 間 中核 部 の ヤ グ ラ(室 棚)の 話 で あ るが 、 そ の ヤ グ ラ を含 め た全 住 空 間 を覆 う屋 根 は 、 一 見 して 明 らか な よ う に 放 射 状 の斜 材 に よっ て お り柱 は な い 。 放 射 状 斜 材 の 上 端 は ア タ マ ギ [図2-6]室 棚 ヤ グ ラの あ る 住 居 (註)ShelterPubhcahons,aNon-ProfitCaHfomiaCorporation, 1973,SHELTER,G,よ り 作 成(東 ア フ リ カ の 住 所)
(垂 直 な短 柱)に サ シ ッ ケ(差 し付 け〉 とす るサ ス 工 法 で あ る が 、 下 端 は柵 壁 の頂 部 に載 る タ ル キ工 法 で あ る。 斜 材 の 勾 配45°は 、 サ ス 工 法 と タ ル キ 工 法 の境 に当 た り、 上 端 サ ス 、 下 端 タ ル キ の2工 法 が 行 わ れ て い る 。 本 論 で い うサ ス ・タ ル キ の手 法 で あ る。 ま た 、 周 囲 の 柵 壁 は 、 丸 太 ・ 厚 板 ・半 割 り丸 太 等 を連 続 的 に堀 立 て と した 無 開 口(出 入 口 は 別)の 壁 体 で あ り、 構 造 材 、 下 地 材 、 開 口部 が 未 分 化 な段 階 の 壁 体 で あ る 。 2-6ヤ グ ラ と放 射 状 斜 材 滋 賀 県 ・下 之 郷 遺 跡(弥 生 時 代 中期 、 紀 元 前2∼1世 紀)で は 、 直 径 約10mの 円形 平 面 を もち 、 中 央 に 正 方 形 に 配 置 され た4本 柱 を もつ 建 物 跡 が 発 見 さ れ て い る。4本 柱 が ヤ グ ラ で あ る こ と は、 ほ ぼ 間違 い な い が 、 中心 に は 炉 趾 が 検 出 され て お り、前 項 の 室 棚 と類似 す る 。 ま た 、 円 形 を なす 周 壁 は 、径15(皿程 度 の ス ギ の柱 を約lm間 隔 に 掘 立 て 、間 を 土 な ど で埋 め た 土 壁 と して い る 。 直 径 約10mの 円形 平 面 、 中 央 の4本 柱 の ヤ グ ラ 、 中 心 の 炉(火 床)、 土 壁 の 周 壁 等 の 条 件 は 、 前 項 の東 ア フ リ カの 住 居 形 態 と よ く一 致 して い る。 この よ う な建 築 手 法 は、 洋 の 東 西 を 問 わ ず 汎 世 界 的 に み られ る構 法 で 、他 に も類 例 は 多 くあ る で あ ろ う。 む しろ 、 わ が 国 にお い て も弥 生 時 代 に は 、 そ の よ う な汎 世 界 的 構 法 が 伝 播 し行 わ れ て い た とみ るべ きで あ ろ う。 こ の住 居 趾 の 建 物 は 、 も ち ろ ん屋 根 を も っ て い た で あ ろ うが 、 そ の 屋 根 を支 え る構 法 が 問 題 で あ る。従 来 、わ が 国 にお い て は 中 央 の4本 柱 の ヤ グ ラ は屋 根 を支 え る 構 造 体 と考 え られ て い るが 、 必 し もそ う とは い い切 れ ない 。 前 項 の 例 に み られ た よ うに 、4本 柱 の ヤ グ ラ は ま っ た く屋 根 を受 け な い独 立 した架 構 体 の 場 合 も存 在 す るか らで あ る。 円 形 平 面 の 場 合 、屋 根 面 を構 成 す る斜 材 は放 射 状 に配 置 され るの で 、 そ の 斜 材 を受 け る た め に は 、 中 央 部 の ヤ グ ラは 本 来 円形 に 組 ま れ るべ きで あ る。4本 の 柱 を 円 周 上 の4点 と考 え て も、4 辺 の 梁 や 桁 は直 線 的 で あ り、斜 材 を受 け る こ と はで きな い 。 周 壁 の示 す 円形 とヤ グ ラ の正 方 形 と い う形 状 の 差 が この 矛 盾 を生 じて い る の で あ る。 た だ し、 この 場 合 の 矛 盾 は 、 各 斜 材 を1本 の 直 線 材 と前 提 して い る こ と に も よ って い る 。 この あ た りの 詳 細 は 、本 章 第4節 にお い て扱 う。 い ま一 つ 注 目 され る の は 、 円 形 の土 壁 で あ る。 円 形 が ネ ッ ト構 法 以 来 放 射 状 サ ス 構 法 に至 る 原 始 構 法 の 伝 統 を受 け継 い で い る こ とは 明 らか で あ る が 、 土 壁 の 築 造 法 も注 目 に値 す る 。 壁 厚 が ど の程 度 で あ っ た か は よ くわ か ら な いが 、1m間 隔 の柱 は上 の桁 を受 け る とい う よ りは 、 土 壁 の タ テ 軸 と して の役 割 が 大 きか っ た の で は ない だ ろ うか 。 よ く揚 き固 め られ た 厚 い土 壁 は、 耐 力 壁 と な り屋 根 を支 え る斜 材 を 受 け てい た か も知 れ な い 。 後 代 の土 壁 や 土 蔵 を連 想 させ る 。
3.ウ ダ ツ 構 法 の 変 容 3-1ウ ダツ構怯 の 目的 前 節 ま で に 出 た 構 法 の 種 類 は 、(1)ネッ ト構 法 、(2)サス 構 法 、(3)ヤグ ラ構 法 の3種 類 で あ っ た 。 この う ち、(1)ネ ッ ト構怯 は もっ と も原 初 的 な構 法 と考 え られ 、後代 の屋 根下地 や壁下 地 な どの下 地類 にそ の 痕 跡 を残 して い る。 しか し、建 物 の 骨 組 み と な る と、(2)サス 構 法 と(3)ヤグ ラ構 法 で あ る ・ この2種 類 の構 法 も、 も とは ネ ッ ト構 法 か ら分 化 ・発 展 した もの と考 え られ る が 、 一 定 の発 展 段 階 にお い て は 、構 造 材 と下 地 材 が 分 化 す る こ と に よ っ て 、明確 な構 法 と し て確 立 す る に 至 る。 ② の サ ス 構 法 は 、縷 々述 べ て き た よ うに放 射状 サ ス か ら平 行 サ ス に移 行 す る屋 根 架 構 の 主 役 で あ る。 斜 材(サ ス)が 骨 組 み(構 造 材)と な って 屋 根 を 造 形 す る構 法 で あ る。 断 面3角 形 の 屋 根 だ け の建 物 で 無 柱 の構 造 で あ り、 この 建 物 は ネ ブ キ(根 葺 き)と か マ タ ダ テ(股 建 て)と か 単 に コヤ(小 屋)な ど と呼 ば れ て きた 。 (3)のヤ グ ラ 構 法 は、 サ ス 構 法 が斜 材 に よっ て構 成 さ れ る の に対 して 、垂 直 材(柱)と 水 平 材(梁 や桁)に よ っ て 架 構 体 を構 築 す る 構 法 で あ る 。 この 構 法 も遠 くは(1)のネ ッ ト構 法 か ら分 化 ・発 展 した もの と考 え られ るが 、 上 の サ ス構 法 と もっ と も大 き く異 る 点 は、 こ の 構 法 は必 ず し も屋 根 を 造 形 す る た め に発 達 した構 法 で は な い とい う と こ ろ に あ る 。 い わ ば 建 築 物 で は な く工 作 物 と して 発 達 した 構 法 とい う こ とで あ る。 柵 、 台 、 棚 、 櫓 な どの 工 作 物 で あ る。 次 に くるの が 第4の 構 法 で あ る(4)ウダ ツ構 法 で あ る 。 ウ ダ ツ 構 法 は、 『日本 書 紀 』 の ワ カ ム ロ (稚室)に み え た棟 持柱 に よ っ て ム ネ ウ ツハ リ(棟 梁)を 受 け 、棟 梁 にハ ヘ キ(橡 僚)を 斜 め に 掛 け る構 法 で あ る。 や は り断 面 が3角 形 の 屋 根 だ け の 建 物 で あ り、 ネ ブ キ で あ る。 外 観 上 はサ ス 構 法 に よる ネ ブ キ と変 らな い が 、 構 法 と して は異 る 。 ウ ダ ッ構 法 の 特 色 は、 上 記 の よ う に サ ス 構 法 と同 じ く屋 根 を造 形 す る こ と を 目的 と して お り、 そ の 点 で は サ ス 構 法 と 目的 を一 にす る が 、 構 造 材 は柱 と棟 木 で あ る 。 す な わ ち 、 垂 直 材 と水 平 材 の 組 み 合 わせ で あ り、 そ の 点 は ヤ グ ラ構 法 に似 て い る 。屋 根 面 を構 成 す る斜 材 ・橿(タ ル キ)は 、 構 造 材 とい う よ りは下 地 材 と して の 性 格 が 強 い 。 サ ス も ウ ダ ツ も屋 根 の 造 形 を 目的 とす る と、 両 者 の屋 根 は どの よ う に分 化 し、機能 を別 にす る の か 。 これ につ い て は、 す で に 第1章 第6節6-1「 ウ ダ ツ構 法 の発 生 」 の項 で 述 べ て い るの で 繰 り返 さな い が 、 簡 単 に い え ば サ ス 屋 根 は オ モ ヤ(母 屋)、ウ ダ ツ屋 根 は 附 属 屋 で あ る。 ウ ダ ツ屋 根 の も っ と も発 達 した 附 属 屋 は ク ラ(倉)で あ り、 ホ ク ラ(穂 倉 、宝 倉)で あ る 。 ク ラ や ホ ク ラ は収 穫 物 の 貯 蔵 庫 で あ り、 集 落 共 同 体 の 生 活 の 安 定 や 豊 饒 、 す な わ ち 富 を表 徴 す る 建 物 で あ る。 富 を保 障 す る神 は集 落 共 同 体 の加 護 神 で あ り、 ク ラ は ホ コ ラ(祠:ホ ク ラの 転)や ミ ヤ(宮:ミ (霊力)の あ る神 の ヤ(屋)に 由来)に 通 じる 。 そ の た め 、 ウ ダ ツ構 法 は ク ラや ミヤ にお い て 、 大 々 的 に行 わ れ た構 法 とい え る。 附 属 屋 とい っ
て も、 オ モ ヤ よ りは る か に立 派 な建 築 で あ る 。 オ モ ヤ は ネ ブ キ の 小 さ く粗 末 な建 物 で あ る 。 共 同 体 と して の み 生 存 を保 障 され え た個 人 や家 族 の 住 居 は 、「ね ぐ ら」 に近 い タテ 穴 住 居 で あ っ た が 、 集 落 の 共 同 施 設 で あ る ク ラや ミヤ は優 先 的 な建 造 物 で あ っ た 。 ウ ダ ツ構 法 の 粋 が ミヤ に残 っ た の も当 然 の こ と で あ っ た が 、 他 方 で は 、小 屋 な どの 附属 屋 に も ウ ダ ツ構 法 が 残 っ て お り、 ウ ダ ツ構二 法 は い わ ば上 下 層 の2極 分 解 を起 こす の で あ る。 中 間 の 主 流 とな る と こ ろ は 、 サ ス 構 法 とヤ グ ラ 構 法 が 埋 め る。 3-2ウ ダ ツ の 意 味 辞 典 類 に よ る と、 ウ ダ ツ は ウ ダチ と も い わ れ 、 漢 用 字 は視 、宇 立(宇 太 知)、卯 建 で あ る。 こ れ らの 漢 用 字 は 、ウ ダ ッの 発 展 ・変 容 過 程 を よ く表 わ して い る よ う にお もえ る 。 最 初 の視 は 、脱(ぬ け る)と 同系 の 語 で あ り、 「ぬ け る」 と は地 面 か ら棟 まで 突 きぬ け る長 い 棟 持柱 の 様 を 表 現 して い る とお もえ る 。 後 代 の民 家 にお い て、 棟 まで 通 る長 い棟 持 柱 を ウ ダ ツあ る い は ウ ダ ッ柱 と呼 ん で い る の は 、 この ウ ダ ツ(視)に 由来 す る で あ ろ う。 しか し、 『日本 書 紀 』 の ワ カ ム ロ の棟 持 柱 は 、 単 にハ シ ラ(柱)と 呼 ば れ 、 ウ ダ ッ と は い わ れ て い な い 。 まだ ウ ダ ッ とい う言 葉 が 生 れ て い なか っ た の か 、棟 持 柱 の み で 他 に軒 を受 け る モ ヤ 柱 な どの な い 建 物 で は 、 と くに棟 持 柱 を他 の柱 と 区別 して ウ ダ ツ と呼 ぶ 必 要 が な か っ た た め か 。 い ず れ に して も、 ワ カ ム ロの 棟 持 柱 は れ っ き と した ウ ダ ツで あ り、後 代 の ウダ ツ柱 の原 点 に位 置 す る もの で あ る。 ま た 、視 は 棒 、 支 柱 等 の 意 味 を も もち 、 建 築 物 の棟 持柱 に 限 らず 何 らか の 物 を支 え る棒 を も示 して い る 。 こ の よ うな柱 の 原 型 に 当 た る棒 な い し支柱 は 、 ヤ グ ラ構 法 の と こ ろ で述 べ た 柵 、 台 、 棚 、櫓 等 を想 起 させ 、 一 定 の直 線 材(棒)が 架 構1体と して機 能 して い く歴 史 的 過 程 をみ る想 い が す る 。 そ れ は さて お き、棟 持 柱 と して の ウ ダ ッ は 『日本 書 紀 』 の ワ カ ム ロの ハ シ ラ以 外 に も第1章 の [写 真1-4]に 示 した ウ ブ ヤ(産 屋)に もみ ら れ た 。 しか し、何 とい っ て も棟 持 柱 の最 た る も の は 、 伊 勢 神 宮 で あ る[図2-7]。 伊 勢 神 宮 の棟 持 柱 は太 く妻 側 壁 面 か ら外 へ 出 て棟 木 を 受 け て い る。 こ の よ う な棟 持 柱 の建 て方 は 、[図2-8]に 示 す 南 方 か ら の渡 来 系 建 築 の様 式 に 則 っ て い る こ とは 明 らか で あ り、 本 来 は強 い 妻 転 び に よ って 突 き出 した棟 の先 端 を受 け る柱 の 建 て方 を 意 味 して い る。 今 日に お い て も、 イ ン ドネ シ ア の 米 倉 は か な り外 方 に棟 持 柱 が 出 て い る。 わ が 国 の銅 鐸 に鋳 出 され た 高 床 式 建 物 も 同様 に 妻 転 びが 大 き く棟 持 柱 は 長 い 。 イ ン ドネ シ ァ の 例 にみ られ る米 倉 で あ ろ う。 南 方 の高 温 多 湿 で 季 節 的 な集 中 豪 雨 の あ る 地 方 で は妻 側 を 開放 し、 通 風 を よ くす る と同 時 に 豪 雨 を避 け な けれ ば な ら な い。 そ の た め に発 達 した建 築 様 式 が 強 い 妻 転 び(棟 の突 き 出 し)と そ れ を受 け る棟 持 柱 、 そ らに高 床 で あ る。 ウ ダ ッ柱 の ル ー ツ は 、 以 上 の よ う に南 方 の 建 築 様 式 に求 め られ 、 そ れ は稲 作 文 化 と共 に わ が 国
[図2-8]棟 持 柱 を も つ 高床 式 建物 [図2-7]伊 勢 神 宮 の棟 持 柱 に伝 来 した 一・つ の建 築様 式 で あ り、主 と して 弥 生 時 代 以 降 に行 わ れ る よ う に な った と考 え られ る。 (縄文 期 に遡 及 す る可 能 性 あ り)。 3-3ウ ダ ツ構 法 の柱 と床 妻 転 び に よ って 生 じる棟 の 出 を支 え る柱 が ウ ダ ツ(視)の 本 来 の 姿 で あ る 。 『日本 書 紀 』 の ワ カ ム ロ に み え た ウ ダ ツ は 、 地 面 か ら棟 木 まで の 高 さで あ るが 、 高 床 式 に な る と ウ ダ ツ も高 床 分 長 くな る。 ネ ブ キ の ウ ダ ッ が5mで あ れ ば 、 高 床 の高 さ2∼5mを 加 え る と、 高 床 式 の ウ ダ ッ は7 ∼10mに 達 す る 。伊勢神宮 の ウダツは約9mで あ る 。 地 上 か らみ る と、 高 い柱 が 聾 え 、 そ の柱 は この様 式 の象 徴 的 な存 在 と な っ た。 実 用 性 か ら生 まれ た 建 築 様 式 もそ の特 異 な造 形(妻 側 に棟 ま で 高 く讐 え る1本 の 高 い柱)に よ っ て 、 当 時 の 人 び との 目 を惹 い た 。 同 じ棟 持 柱 で も出 雲 大 社 の棟 持 柱 は 、 伊 勢 神 宮 の棟 持 柱 ほ ど大 き く外 へ 出 て い な い 。渡 来系 建 築 様 式 の 内 地 化 で あ る。 しか も この 棟 持 柱 を ウ ヅバ シ ラ(珍 柱)と よ び、 珍 奇 な柱 と して い る(第 1章 第1節1-4参 照)。 放 射 状 サ ス や 平 行 サ ス の 柱 の な い 建 物 か らみ れ ば 、棟 に達 す る高 い 柱
(ウ ダ ッ)は 、 や は り特 異 な存 在 で あ り、 人 目 を惹 く もの で あ っ た。 そ の象 徴 性 が 神 殿 に も取 り 入 れ られ て い る の で あ る。 ミヤ とク ラの 同 様 式 性 で あ る 。 この よ う に み て くる と、 ウ ダ ッ柱 は ウブ ヤ(産 屋)の よ う な附 属 小 屋 か ら ワ カ ム ロの よ う な住 居 、 さ らに貯 蔵 用 の ク ラ、 祭 祀 用 の ミヤ まで 当 時 の建 築 各 種 に使 用 され て い る こ とが わ か る 。 こ こ に、 ウ ダ ッ構 法 を一 つ の建 築 様 式 と して 定 立 す る 理 由 もあ るが 、 こ の ウ ダ ツ構 法 を発 生 史 的 に み れ ば、 附属 小 屋 → ク ラ(一 部 の 住 居)→ ミヤ(神 殿 建 築)と い う よ う に進 行 した で あ ろ う。 そ れ は原 始 か ら古 代 に わ た る人 間生 活 の 発 展 過 程 と軌 を一 に して お り、 南 方 の 実 用 的 建 築 か ら象 徴 的 建 築 へ の展 開過 程 と も い え よ う。 この 展 開過 程 は 、建 築 規 模 の 拡 大 過 程 で もあ り、 建 築 技 法 の 向 上 過 程 で も あ り、 建 築 機 能 の 変 容 過 程 で もあ っ た 。 そ の 道 程 の途 上 に おい て 、妻 転 び に よ る棟 の 突 き出 しや 高 床 形 式 も造 出 され た の で あ っ た。 ウ ダ ツ構 法 は サ ス 構 法 と同 じ くシ ェル タ ー と して の 屋 根 の 造 形 を 目的 と して は い る が 、 サ ス構 法 の よ う に 四周 を 閉 鎖 す る の で は な く、 当初 か ら ウ ダ ツ柱 を建 て た 妻 側 は全 面 開 放 す る構 法 と して生 まれ た。 サ ス 構怯 に よ る建 物 を 閉鎖 型 とす れ ば 、 ウ ダ ツ構 法 に よ る建 物 は 開 放 型 で あ る。 開放 型建 物 の 要 請 は 、 や は り蒸 暑 多 雨 な南 方 の気 候風 土 に よ る で あ ろ う。 ウ ダ ツ(棟 持 柱)に よ っ て 高 く棟 木 を支 え 、棟 木 か ら両 側 に タ ル キ を か け て草 を葺 く ウ ダ ッ構 法 は、 中が トンネ ル 状 の空 間 に な り、通 風 性 にす ぐれ た建 築 で あ る 。 残 る は床 の 処 理 、 す なわ ち [図2-9]ウ ダ ツ 構 法 の 発展 プ ロ セ ス (1)ハ シラのみ (地床) (4)ヨ セツケ桁 による高 床 (高 床) (2)ウ ダツ柱 とモヤ柱 (地床) (3)ヤ グラによる揚 床 (揚 床) (5)サ シツケ大 引 梁 による高 床(6)梁 によるウダ ツハ シラの支 持 (高 床) (高床)
[図2-10]外 ウダ ツ柱 を もっ 家型 埴 輪 (註)大 和文華館蔵(奈良市学 園南) [図2-11]大 和 棟(ウ ダ ツ壁)の 分布 域 分布限界 府県境 (凡例) ● 周 辺の分布集落 (註)『 日本 民 俗 辞 典 』(大塚 民 俗 学 会 編 、弘 文 堂 、1972年)、 や ま とむ ね(大 和 棟)の 項 ・附 図(昭 和32(1957)年 現在 、 杉本 原 図)よ り作 成 。
Rights were not granted to include
this image in electronic media.
Please refer to the printed journal.
地 床 か ら高 床 へ の 進 転 で あ る 。 しか し、 ウ ダ ッ構 法 に お け る高 床 も一 気 に成 就 され た わ けで は な く、 い くつ か の発 展 段 階 が あ っ た。[図1-9]に 示 した 「棟 持 柱 を もつ ネ ブ キ 」(大原 の 産 屋) や 『日本 書 紀 』 の ワ カ ム ロ は地 床 で あ るが 、 接 地 性 を嫌 う ク ラで は非 接 地 性 の床 を造 る必 要 が あ っ た。 そ の 当初 に現 われ る の が 、 や は りヤ グ ラ構 法 で あ った 。 こ の場 合 は、 屋 根 を受 け るの は ウ ダ ツ柱 や モ ヤ柱 で あ り、 床 は ヤ グ ラ で 両 者 は全 く別 の 架 構 で あ る 。 こ こ に ウ ダ ツ構 法 とヤ グ ラ構 法 の 共 存 関係 が み られ る。 次 に は床 を支 え る桁 を モ ヤ柱 に ヨセ ッケ る方 法 で あ る 。 こ の方 法 は 、 上 記 の床 ヤ グ ラの 桁 を モ ヤ柱 に掛 け て ヤ グ ラの 短柱 を省 略 した もの で あ り、床 が モ ヤ の架 構 と一 体 化 した も の で あ る。 さ ら に次 の段 階 と して は、 モ ヤ柱 の 間 に大 引 梁 を渡 して床 を造 る近 世 的 な 手 法 に 移 行 して い る 。 ウ ダ ッ構 法 もサ ス構 と 同 じ く屋 根 架構 を 目的 と して発 達 した架 構 法 で あ る が 、 そ こ に床 を架 構 す る手 法 は 、[図2-9]に 示 す プ ロセ ス を た ど って い る 。 しか し、 どの段 階 に お い て も共 通 す る の は、 棟 持 柱(ウ ダ ッ柱)が 屋 根 の 頂 部(棟 木)を 支 え、 そ れ と同 様 の手 法 で モ ヤ 柱 が 屋 根 の 端 部(軒 桁)を 受 け て い る こ とで あ る。 高 床 は屋 根 を支 え る柱 に依 存 して い る の で あ り、 こ れ が ウ ダ ツ構 法 に お け る高 床 の特 色 で あ る。 3-4ウ ダ ッ柱 の 内 化 [図2-9]に み る よ う に 、 ウダ ツ構法 は棟 持 柱 を起 点 と して 軒 を支 え る モ ヤ 柱 を加 え て 空 間 量 を増 大 させ 、 さ ら に床 面 を地 床 か ら高 床 へ と非接 地 性 を高 め て い く。 この 過程 で切 妻 の妻 面 は 常 に開 放 自 由 な面 と して 存 在 す る が 、 これ を壁 面 とせ ず に 開 口(破 風 口)と す る と、 通 風 性 は よ [図2-12]中 世 ・京 町 屋 の ウ ダ ツ (註)洛 中洛 外 図 屏 風 よ り作 成 。
い が 吹 降 りを防 ぐこ とが で きな い 。 そ れ を解 決 した の が 強 い妻 転 び で あ り、長 い棟 の突 き出 しで あ る。 長 く突 き出 した棟 を支 え る 長 い ウ ダ ツ柱 は 意 匠 上 も 目立 っ た存 在 と な っ た([図2-8] 参 照)。 棟 の 出 に よ って ウ ダ ツ柱 は妻 側 の壁 面 か ら外 方 に配 置 され な け れ ば な らな い 。 伊 勢 神 宮 の ウ ダ ッ柱 が 外 方 に 配 置 され て い る の も、 そ の 建 築 様 式 に習 った もの で あ る 。 水 稲 農 耕 を業 とす る南 方 系 の 建 築 様 式 で あ り、 その 伝 来 が こ こ にみ とめ られ る 。他 方 、 在 地 系 の 神(大 国 主 命)を 祀 る 出 雲 大 社 の棟 持 柱 は 、ほ ん の す こ し外 へ ず れ る だ けで 、渡 来 系 建 築 様 式 の 影 響 は 少 ない 。す な わ ち 、 ウ ダ ツ柱 の 出(妻 側 か らの 距 離)は 、 内 地 化 す る と少 な くな る。 ウ ダ ッ柱 の 内 化 で あ る 。 宮 本 長 二 郎 『日本 原 始 古 代 の 住 居 建 築 』(中 央 公 論 美 術 出 版 、1996年 、184)に は 、 「棟 持 柱 の 妻 側 面 か らの 出 は0.4mか ら2.lmま で あ り、1m前 後 の 例 が多 い 。 棟 持 柱 間 の長 さ は最 短3.8m か ら最 長11.Omで あ る が 、 最 長 例 の土 井1号 建 物 で は後 記 の よ う に棟 木 は 中 間 で屋 内棟 持 柱 に よ っ て支 持 され る。」とあ る 。 上 記 の論 述 に よ っ て 明 らか な よ う に 、 ウ ダ ツ柱 の 出 は約2rnの 大 きな 出 か ら40cm程 度 の小 さ い 出 ま で あ り、 も ち ろ ん妻 壁 面 内 の ウ ダ ッ柱(出 がOcmと い う こ と)も あ り、 さ らに棟 が 長 くな っ た 場 合 は 、 屋 内 で 棟 を受 け る ウ ダ ツ柱 も現 わ れ る 。 妻 壁 面 か らの 出 は 、 い わ ば気 候 風 土 的 要 因 に よ って 生 ず る 寸 法 で あ り、[図2-8]に 示 した イ ン ドネ シ ア の 米 倉 で は 最 長 の2m程 度 の 出 で あ る。 す な わ ち 、 出 の大 きい ウ ダ ッ柱(大 きな棟 の 出)を もつ 建 築 様 式 は 、 わ が 国 に伝 来 す る以 前 にす で に南 方 で確 立 して い た と し な け れ ば な らな い 。 伝 来 以 降 は 出 の 減 少 、 す な わ ち 日本 的 風 土 化 の 過 程 を歩 む 。 他 方 、 屋 内 の ウ ダ ッ柱 は、 建 物 の棟 方 向(桁 行 方 向)の 延 伸 に よ る床 面積 の 拡 大 に よ って発 生 す る棟 持 柱 で あ る 。建 物 規 模 は梁 行 方 向 と桁 行 方 向 の 長 さ(長 方 形 の短 辺 と長 辺)の 積 に よ っ て 決 定 さ れ るが 、 梁 行 長 さ は屋 根 斜 材 の 長 さ の制 約 に よ って 大 き く拡 幅 す る こ とが で きず 、 い きお い桁 行 長 さ(棟 長 さ)の 延 伸 に よっ て床 面 積 の増 大 が 図 ら れ る 。床 面 積(棟 長 さ)の 拡 大 は、 集 落 の 成 熟(集 落 規 模 の 拡 大 、 生 産 力 の 増 大 な ど)に よ る社 会 経 済 的 要 因 が大 き く作 用 す る 。 3-5ウ ダ ツ柱 の象 徴 性 以 上 の よ う に、 同 じ ウ ダ ッ柱 で も妻 壁 面 か ら外 に位 置 す る(1>外ウ ダ ツ柱 、妻 壁 面 内 に位 置 す る (2)妻ウ ダ ツ柱 、 屋 内 で 棟 を受 け る(3)内ウ ダ ツ柱 の3種 が あ る。(1)外 ウ ダ ツ柱 、(2)妻ウ ダ ッ柱 は 、 妻 壁 面 の 処 理 方 お よ び棟 の 突 き 出 し(妻 転 び)に 必 要 な 構 造 材(柱)で あ る が 、 そ れ は風 土 的 要 因 に よ る とこ ろ 大 で あ る と した 。 と くに外 ウ ダ ツ柱 は 、 人 目 を惹 く象 徴 的 な建 築 部 材 で あ る こ と か ら、 わ が 国 の神 殿 建 築 に も痕 跡 を と どめ て い る く らい で あ る。 神 殿 、 倉 、住 居 の い ず れ の場 合 に も ウ ダ ツ柱 は使 用 され るが 、 そ の 象 徴 性 とい う こ とか らい え ば、 第 一 は神 殿 で あ り、 つ い で倉 で あ ろ う。 古 代 の 住 居 の 外 の ウ ダ ツ柱 は、 そ の 家 の 格 式(上 層
性)を 示 した とお もえ る もの もあ る が 、 そ れ は一 部 の権 力 者 の 住 居 を示 して い る で あ ろ う[図2 -10] 。外 ウ ダ ツ柱 の 象 徴 性 は 、神 殿 の 聖 、 倉 の 富 、 住 居 の 貴 とい う よ う に、 聖 ・富 ・貴 等 の 諸 観 念 を表 示 す る象 徴 材 に変 容 して い くが 、 そ れ は と り もな お さず 弥 生 時 代 以 降 の 階 級 階層 分 化 を 反 映 して い る で あ ろ う。 しか し、 外 ウ ダ ツ柱 は 日本 の気 候 風 土 的 要 因(温 帯 的気 候 風 土)や 在 地 系 の 建 築 様 式(サ ス 構 法(寄 棟 〉 とヤ グ ラ構 法)の 影 響 、 さ ら に は新 た な大 陸 か らの 高 度 な様 式 を もつ 寺 院建 築 の 伝 来 に よ っ て 、急 速 に 姿 を消 して い くが 、 完全 に消 失 す る の で は ない 。 建 築 部 材 の 一 部 と して 、 ま た 地 域 的 な局 所 性 と して 命 脈 を保 ち 、 後代 の 民 家 の 中 に 生 きつ づ け る の で あ る 。 外 ウ ダ ツ柱 の 象 徴 性 は 、 そ れが 消 失 して 後 は、 妻 ウ ダ ツ柱 が そ の役 割 を担 って い く。 梁 の 上 に立 っ て棟 木 を支 え る短 い柱(棟 束)を ウ ダチ(視 、宇 立 、 宇 太 知)と い う。 この 場 合 の ウ ダチ(ウ ダ ツ と同 じ)は 、 か つ て の ウ ダ ツ柱 の よ う に地 面 か ら棟 ま で 通 る通 し柱 で は な く、 空 中 に掛 け渡 さ れ た 梁 の 上 に立 つ短 柱 で あ る 。 しか し、 そ れ で も棟(よ り詳 し くは棟 木)を 支 え て い る こ とに よ って ウ ダ ツ な の で あ る。 外 ウ ダ ツ が 妻 ウ ダ ツ に 内 化 し、 つ い に ウ ダ ッ柱 は 地 を離 れ て 、 梁 の上 に移 行 す る([図2-9]の ⑥ 参 照)。 この 移 行 過 程 の 途 上 に は 、建 物全 体 の 推 移 過 程 、 す な わ ち 軸 組 部 分(ヤ グ ラ構 法 の ヤ グ ラ に 当 た る部 分)の 発 達 が あ り、 そ れ が ウ ダ ッ柱 の所 在 を も推 移 させ た の で あ った が 、 そ の こ と につ い て は、 次 節 の屋 根 の タチ ア ゲ 健 ち上 げ)の と ころ で 論 及 す る。 3-6ウ ダ ツ壁 の 象 徴 性 外 ウ ダ ツ柱 が 減 退 して妻 ウ ダ ッ柱 と内 ウ ダ ッ柱 が 残 る が 、建 物 の 象 徴 性 とい う こ とか らい う と、 や は り内 よ り妻 の柱 で あ る 。外 観 に現 わ れ る か らで あ る 。妻 側 に高 い棟 持 柱 を もつ 妻 ウ ダ ツ柱 の 民 家 は、 近 畿 地 方 を 中心 に地 方 に もみ られ るが 、 そ れ に つ い て は 、後 にふ れ る と して 、 こ こ で は 大 和棟 造 り と卯 建 につ い て ふ れ て お きた い 。 い ず れ も外 ウ ダ ツ柱 の 象 徴 性 を 受 け 継 ぐ もの だ か ら で あ る。 大 和 棟 造 りは 、 ま た高 塀 造 り と もい わ れ 、 妻 側 の壁 面 をモ ヤ の屋 根 よ り一 段 高 く して上 に小 屋 根 を載 せ た造 家 形 式 で あ る。 こ の造 家 形 式 は大 和(奈 良)を 中心 に分 布 す る の で 、 そ の所 在 か ら 大 和棟 造 り とい わ れ 、 妻 壁 面 が 高 塀 の よ う に聾 え る と こ ろか ら高 塀 造 り と も呼 ば れ る。 い ず れ も 同 じ造 家 形 式 を指 して い るが 、 大 和 棟 造 りの 方 が 歴 史 性 を表 現 して い る とい う点 で は分 り よい 。 大 和 棟 造 りの 地 域 的分 布 状 況 を示 した の が[図2-ll]で あ る。 大 和 棟 造 りが 奈 良(大 和)を 中心 に して そ の 周 辺 に 及 んで い る様 子 が よ くわ か る。 伊 勢 神 宮 が 代 表 す る よ う に 、外 ウ ダ ッ柱 を 雀 え させ る古 代 的 建 築 様 式 は 、神 殿 建 築 に局 部 的 に残 っ て い る が 、 妻 ウ ダ ツ柱 を含 む妻 壁 面 全 体 を面 的 に建 ち 上 げ、 高 く聾 え さ せ た 大 和 棟 造 りは 、 古 代 的建 築 様 式 の民 家 にお け る 中 世 的 な い し 近 世 的展 開 とい え よ う。水 稲 農 耕 とい う生 産 力 を基 盤 に した 古 代 大 和 勢 権 の 成 立 は 、 ウ ダ ッ柱 と
い う建 築 様 式 を もっ て 世 に流 布 したが 、 大和 棟 造 りは そ の流 れ を くむ もの とい え よ う。 この 大 和 棟 の 手 法 は 、 農 村 住 居 の み な らず 当 時 の都 市 生 活(町 屋)に も取 り入 れ られ 、 ウダッ 壁 を建 ち 上 げた 。 有 名 な 洛 中 洛 外 図屏 風 に は 、 中世 末 の は洛 中 に ウ ダ ツ を上 げ た 町 屋 が み られ る [図2-12]。 この 町 家 にみ られ る ウ ダ ツ壁 も工 法 的 に は 大 和 棟 造 りの 高 塀 と同 じで あ る が 、 町 家 の妻 側 両 端 に建 ち上 げ た ウ ダ ッ壁 は 、 隣 家 か らの 延 焼 を防 火 す る 防 火 壁 の た め とか 、 妻 側 の 大 屋 根 端 部 の ケ ラバ(蝶 羽)の 板(板 葺 き屋 根 の 場 合)や カヤ(茅 葺 き の場 合)が 強 風 に よ っ て 乱 れ る の を 防 ぐた め とか い わ れ て い るが 、 機 能 は何 で あ れ ウ ダ ツ壁 の象 徴 性 は ウ ダ ッ柱 の象 徴 性 を 伝 承 す る意 匠 的 ・造 形 的 要 素 が 強 い で あ ろ う。 中世 か ら さ らに 時代 が 降 っ て近 世 に入 る と、妻 側 に建 ち上 っ て い た ウ ダ ツ壁 は、 大 屋 根 の下 の 軒 の 両 端 に ソ デ ウ ダ ツ(袖 卯 建)と な っ て残 る 。 ソデ ウ ダ ツ は京 町屋 に もみ られ る が 、 本 論 の対 象 とす る加 賀 地 方 の加 賀 町 家 に も取 り入 れ ら れ て い る[写 真2-3](加 賀 町 家 の ソ デ ウ ダ ツ につ い て は 、 本 論 第In巻 で 詳論 す る)。ち な み に、 こ の場 合 の ウ ダ ツの 卯 は 、 ソ デ ウ ダ ツ の形 状 に似 て い る と こ ろか らの 当字 で あ る。 [写真2-3]加 賀 町 家 の ソ デ ウダ ツ (註)金 沢 南 郊 野 々 市 町 在(平 成10(1998)年10月) 4.ネ ブ キ の タ チ ア ゲ 4-1ヤ グ ラ上 の 高床 従 来 、 高床 式 建 物 は 弥 生 時 代 に伝 来 した建 築 形 式 と され て い た 。 しか し、 近 年 の 相 つ ぐ縄 文 集 落 の発 掘 調査 の 結 果 、縄 文 時 代 に も高 床 式 建 物 が 存 在 した とい う事 実 が しだい に 明 らか に な りつ