これからの日本の大学と数学
著者 森田 康夫
これからの日本の大学と数学
前置き
1981年8月佐武一郎先生や小田忠雄先生
に誘われて北海道大学より赴任、東北大学
での勤務は
28年余りになる。
どういう訳か日本数学会の理事長となった。数学会ではみんなに 理解し評価して貰い幸せだった。しかし、東北大学では阿部総長 等に評価されたが、理学研究科では余り評価されなかったらしい。での勤務は
28年余りになる。
地下鉄東西線の受け入れの中心となった。
(私の東北大学での
最大の業績
である。)
整数論を研究していたが、平成元年度指導
要領と数学科教育法への対応のため、
入学試験と数学教育の研究
も行い、高等
学校の教科書も書いた。
前置き(続き)
学術会議の数学教育分科会の委員長をしてお
「その道の達人」として中学校や高等学校 10校を訪れた。50弱(?)となる。おかげで、 日本その他の出前授業や講演を 合わせるとの教育の現状が良く分かった。 プノンペン王立大学の学生 (線形代数の授業をした) プノンペンの高等学校 (1クラスに80人位いる)学術会議の数学教育分科会の委員長をしてお
り、大学の分野別質保証の在り方や 学習指
導要領の作成にも関与し、「日本の教育はどう
あるべきか」について いろいろ考えている。
昨年腰椎ヘルニアで手術を受けた。
4月には
白内障の手術を受ける予定で、東北大学の教
養教育院に入院する。
私と地下鉄東西線
昭和
63年黒田正理学部長に運輸交通専門委
員会の委員に推薦され、仙台市のモノレール
計画の受け入れを検討した。
委員長が独走したので平成
4年に拒否を決め
私は行政や運営は結果責任で 行うべきものと思っている。 地 下 鉄 建 設 反 対 派 か ら 地 上 権 の 補 償 額 を 1億 地下鉄は学生のバイク事故をなくす ために必要不可欠と思っている。委員長が独走したので平成
4年に拒否を決め
たが、報告書の中で建設の可能性を残した。
平成
7年に西澤総長が地下鉄受け入れを決
めた時
交渉責任者
になり、定年まで続けた。
仙台市の公聴会で賛成の意見を述べた。
また、建設計画の採択が問題となったとき、
阿部総長と国土交通省に陳情に行った。
ら 、 匿 名 の 嫌 が ら せ の 葉 書 が 届 い た 。 億 5千 万 位 増 や し た 。私と入学試験
東大の岡本和夫氏と選択単元への対応を考えた。 推薦入試導入の時に前期・後期・推薦入試の理念を物理 の都築先生等と作り、高等学校への周知に努めた。 10年以上前から、毎年東北大学の数学の難易度を分析し 0 20000 40000 60000 80000 100000 1 51 101 151 201 251 301 351 総 点 併願大学別順位 理学部20年度後期併願大学別総点 ており、東北大の数学入試は高校の信頼を得ている。 センター試験と二次試験の相関性を調べた。この結果は 名大の研究者により研究された。 京都大学等が後期入試を廃止した結果、理学部の後期入 試がどうなったかを分析した。「後期入試の合格者に問題 を持つ人がいる」との物理専攻須藤氏の指摘を分析した。 東北大学の理科の得点調整の結果を、AOセンターの 倉元氏等と分析した。日本の現状を考える
日本の現状を考える
日本の将来は右肩下がり?
日本型社会
日本人は争い(競争)を嫌う傾向があったが、この 傾向が敗戦により強くなり、「結果における平等」を 目指して戦後社会が作られた。 平等な社会 入試以外の評価は差別 学歴・年功社会 入学試験での成功を 目指し学習 和を尊ぶ 敗戦 年 功 は 、 原 則 的 会 社 に 忠 実 を 尽 他人の評価を行うことを嫌い、「大学入学歴」を除 き殆どの競争が否定され、学歴・年功社会が作ら れた。30歳で係長、40歳で課長など、年齢に応じ 地位も昇進し、収入の格差も小さかった。 今でもキャリア官僚の世界は、大学入学歴と入省 歴を基礎とした年功社会であるが、民間企業では かなり崩れている。 的 に 、 す べ て の 人 を 対 等 に 扱 う 。 尽 く す こ と に よ り 、 一 生 が 保 証 さ れ る 。高度経済成長と
失敗への伏線
朝鮮戦争・ベトナム戦争の特需にも助けられ、 日 本は冷戦下で急速な経済成長に成功し、1980年 頃までに、世界第二の経済大国となった。 欧米の基本技術を借り 小まめに改良することに 頂点: 1985年頃 Japan as No. 1 基本的な 技術や特許 欧米に任す 応用的な 技術や特許 日本で行う ただ乗り? 欧米の基本技術を借り、小まめに改良することに より、車や電機などの物作りでは、世界一の国と なった。しかし、価値が見え難く、アイデアが勝負 の情報科学の世界では、米国に大きく出遅れた。 協調性を重視し、周りの人間の行動を見て自分の 行動を決め、自分の考えを主張することを避け た。教育でも、底辺の底上げに重点が置かれ、 上位層を育てるエリート教育は否定された。 日本の強み と弱み 独創性より 協調性 均一な学力 少子化で労働力が減る中で日本が発展するためには、エリートが大活躍する必要がある。バブルとゆとり教育
かじ取りの誤り
1980年代に日本の経営者は、「土地の値段は 右肩上がり」との幻想にとらわれ、土地投機に走っ た。その結果、バブルの崩壊による大量の不良債 権により 金融界は崩壊直前に陥った 国民性 判断力の劣る 権により、金融界は崩壊直前に陥った。 同じ頃、「大学入学歴」による学歴社会のため、 「入試地獄」が叫ばれた。第二次ベビーブームも あり、文部省は、「日本人は優秀だから、少し怠け させても良い」と考え、「ゆとり教育」が始まった。 この頃(1980年代後半)が、日本の分岐点であっ た。 経済的失敗 教育面での 失敗 判断力の劣る 指導者 教育には時間が掛かる。その時代ではなく、将来必要となる課題を取り上げるべきである。 行う時期を誤った。政策の実施に時間が掛かる制度にも問題がある。日本の指導者の問題
バブル崩壊で不景気となったが、今までの
惰性で公共投資が乱発された。
本質的改革は避けられ、政治・教育・年金・
医療・公共投資・官僚制度など
殆どの問題
日 本 で は 、 法 学 部 や 経 済 学 部 な ど の 指 導 者 と な っ て い る が 、 彼 ら は 問 題 解 ど う 行 動 し て い る か を 見 て 、 自 分 の 行 (エリートを、倫理感・使命感を含め、きちんと教育していない弊害が出ている。)医療・公共投資・官僚制度など
殆どの問題
が先送り
されている。
企業は、独創的な製品の開発ではなく、
労
働コスト
を下げ価格競争に勝つことを目指し
た。賃金の上昇を嫌い、輸出産業に有利で
物価上昇につながる
円安
が好まれている。
の 文 系 の 学 部 を 卒 業 し た 人 が 社 会 の 解 決 の 方 法 を 習 っ て い ず 、 周 り の 人 が 行 動 を 決 め て い る 。 製造業のビジネスモデルに問題があるのではないか?日本の人事の問題
総合職が過大評価され、専門職や地域限定職が
過小評価され、
意味のない人事異動
が頻繁に
行われている。
同一労働・同一賃金の原則
が守られていない
東北大学でも非正規雇用の 事務職員が多い。同
労働 同
賃金の原則
が守られていない。
労働コストを下げるため、
長時間のサービス残業
が行われている。このため、女性の社会進出が
妨げられ、
少子化の一因
となっている。
長時間労働のため男性の家庭参加が妨げられ、
それが
家庭の教育力の低下
となり、学力低下の
一因となっている。
国民の非合理性
日本は単一民族で、欧米と比べ
感情的
であ
り、国民の意見は極端なものとなり易い。
国民は高福祉を求めるが、そのための
負担
日本人は客観的・長期的な見方を することが苦手である。 また、正しい意見を言う国民の 意見が政治に反映されにくい。 住 専 処 理 、 小 泉 凶 悪 犯 罪 へ の 対 今 回 の 経 済 危 機国民は高福祉を求めるが、そのための
負担
を嫌っており、問題の先送りとなっている。
国の利害を自分のものと考えない人が多い。
国民は製品の価格低下を好み、薄型テレビ
など新製品を開発しても、正当な
開発利益
が
得られない。多くの企業がマイナー・チェンジ
で競う企業の側にも問題がある。
泉 郵 政 選 挙 、 拉 致 被 害 者 問 題 、 対 応 、 消 費 税 の 値 上 げ や 機 へ の 対 応 な ど 。大学・短大の収容力
=(入学者)/(入学希望者)
18歳人口
大学進学者数
少子化について
地球環境の保護という視点から考えて、適正な 世界人口というものがある。 人口が多いと他国との競争上有利であり(ス ケール・メリット)、人口は増えやすい。 人 口 の 減 少 率 の 大 き 人 口 の 少 な さ は 、 ス ケ 親 が 少 な い と 生 ま れ 逆 回 転 さ せ る の は 容 日本では戦後一貫して出生率が下がっている。 ヨーロッパや東アジアでも少子化が進んでいる。 急激な人口の増減は他の条件との関係を乱し、 経済面・社会面で問題を起こす。 すべての人が一人っ子にすると、長い時間の 後にはそのグループは無くなる。一人っ子だと、 親の過保護や、人づき合いの下手な子供を 生みやすい。 さ が 年 金 や 保 険 の 問 題 を 起 こ し て い る 。 ケ ー ル ・ デ メ リ ッ ト を 起 こ す 。 れ る 子 供 も 少 な い 。 少 子 化 の 歯 車 を 容 易 で は な い 。少子化と私学経営
約40%の私立大学が定員割れであり、約30%が 赤字であり、間もなく破綻が始まるが、他方で 大学の新設が続いている。 歯学が定員割れ(充足率87%)であり 薬学と看 今 年 は 、 学 費 の 高 い 私 歯学が定員割れ(充足率87%)であり、薬学と看 護・福祉の倍率が落ちてきた。経済は倍率が上 がっており、情報が落ち理学部が上がっている。 地域では北海道、北関東(92%)、北陸、中国 (88%)、四国(83%)が定員割れである。 2009年に大学全入が実現するとされていたが、 好景気で大学進学率が上がり、クラッシュするの が遅れた。 私 立 大 学 を 避 け る 傾 向 が 見 ら れ る 。若者の学力低下
若者の学力低下
教えることや方法が誤っている! 教えることや方法が誤っている! 都市化で地域の教育能力が失われ、長時間労働 で家庭の教育能力も損なわれた。 高校教員に社会の変化伝わっていず、未だに大学 長 時 間 労 働 日本経済新聞より 高校教員に社会の変化伝わっていず、未だに大学 入学を最終目標とした教育を行っている。 少子化で定員を充足できないことを畏れた私立大 学は、推薦入試やAO入試で学力を無視して学生 を集めている。上位大学も入学しやすくなった。 (1)自分の将来のために一生懸命学習しようとする 生徒、(2)人並みの勉強をし、人並みの生活を行い たいという生徒、(3)勉強なんかしたくないという生 徒に多層化し、(2)が勉強しなくなった。 働 に よ り 、 労 働 の コ ス ト を 下 げ て い る 。私の意見
大学:大学を取り囲む現状を客観的に分析し、税金から 援助を得ていることを理解し、国民が納得する教育理念や 目標を作る必要がある。 業務の必要性を見直し、改善できるものは改善すべきである。 数学界:数学は非常に役に立つが、数学としての研究から 実社会での応用までには、非常に長い時間がかかる。 役に立つ数学を予期するのは困難であり、数学としての 面白さを基にして、研究を進めるべきである。 主張すべきことは、世の中に向かって主張する必要がある。 日本数学界の現状は歴史の上にあるが、見直す必要がある。日本の大学が面している課題
教育はサービス産業であり、学生の力を付ける サービスを行うことにより、国民から援助を受け る。しかし、日本の国立大学は研究者養成のた めの教育を行っており、大半の学生の役に立つ 教育を十分に行っていない。 高 校 若者の緊張感が欠如する先進国病の上に、 少子化で学生の競争意識が落ちており、大学教 育を見直す必要がある。学生に実力で生き残る 意志と力を与える必要がある。 少子化と国立大学の法人化で大学間競争が激し くなっている。護送船団方式は続けられない。 各大学は、いかにして競争に勝ち生き残るかを考 える必要がある。 校 生 の 学 習 時 間 が 減 っ て い る 。日本は少子高齢化により、これから日本は右肩下が りになる。積み上がった財政赤字や積み立てた年金 の不正使用など、将来支払わなければならない負債 も山ほどある。国から得られる援助には限度があり、
日本の大学が面している課題Ⅱ
東 北 大 学 の 大 半 の 教 員 は 、 説 明 す れ ば 、 貰 え る と 思 っ て い る 。 限 ら れ た お 金 を 有 も山ほどある。国から得られる援助には限度があり、 大学は自己の力で生き残る方策を探す必要がある。 高度成長期に若者の学習意欲支えていた大学入学 歴を基礎とした日本型学歴社会は崩壊しており、 大学は「○○大学卒」の称号を与えるだけではなく、 自己の存在価値を問い直す必要がある。「大学とは 何か?」を考える必要がある。 要約すると、大学教育の理念と目標と実施方法を 根本から見直す必要がある。 必 要 な お 金 は 国 や 総 長 裁 量 経 費 か ら 有 効 に 使 う 必 要 が あ る と の 意 識 が な い 。国立大学の課題
国立大学は法人化により自己決定権を与えられた が、毎年運営費交付金が減ることになった。限られ た資源の配分を最適化するため、仕事の重要性を 評価し、必要度の高い仕事に集中すべきである。 基盤的経費が削減される中で競争的資金が増え 国立大学は、私立大学から 学ぶべきである。 基盤的経費が削減される中で競争的資金が増え、 大きな大学や日の当たる分野ではお金が余ってい るが、小さな大学や基礎的な分野ではお金が無く て干上がりかけている。 基礎的分野は、大金があっても研究成果はそんな に上がらないが、最小限の研究費が無くなると障害 が出る。大きな科学研究費を申請するときには、 小さな大学の研究者を分担者とするのが良い。考える時間が欲しい
数学者は問題を考えているときが最も楽しく充実 している。 しかし最近は人員減の下で仕事が 増え、考える時間が減っている。何とかしないと、 日本の数学(基礎的学問)の生産性が下がる 現 在 、 国 立 大 学 行 っ て い る が 、 私 ま た は 重 要 性 の 研究集会などが多すぎないか? 成果の発表は大切だが、 より優れた成果を得ることの方が さらに大切である。 日本の数学(基礎的学問)の生産性が下がる。 色々な仕事の必要性を見直す必要がある。さら に、仕事を効率化するため、教員の間で担当す る仕事を分担すると共に、お金があるならサポー ティング・スタッフを活用すべきである。 適性を持つ人が研究者となるようにする必要が ある。博士課程の学生の学生への指導方法は 適切であるか(過剰に援助していないか) ? 学 は 法 人 化 以 前 よ り 丁 寧 な 事 務 処 理 を 私 立 大 学 の 運 営 を 参 考 に し て 、 不 要 の 低 い 仕 事 を 削 減 す る 必 要 が あ る 。日本の数学界の問題点
社会の中にある数学界を、客観的に見ることが できる人が少ない。 高度成長期の定員増の時期に、数学の定員を 十分に増加することに失敗した。そのため、 スケールの小ささから来るデメリットを受けてお 自 分 の 近 く の 数 学 し 数学者は数学者の卵に 世の中の常識を教える べきである。 り、特に応用数学分野の人材が不足している。 日本社会における数学の存在感が小さい。 数学は社会の役に立っているのに、「役に立たな い研究している」と自慢する人がおり、世の中に 数学の価値を誤解を与えている。 リーマン幾何や素因数分解など純粋数学が世の 中に役立っているにもかかわらず、「応用数学」 のみが世の中の役に立つ様に話す人がいる。 発 展 途 上 国 病 し か 見 え て い な い 。東北大学数学教室の課題
企業に就職する人や高校教員となる人の
ための
教育を充実
させるべきである。若手
教員の教育も意識して行うべきである。
自分の見えない所で働いている人がいる
旧帝大の中では、規模が小さいが、良く頑張っている。しかし、 学 生 や 若 手 教 員 は 、 本 人 の た め に も 意 識 的 掲 示 を 見 な い 学 生 、 出 張 手 続 き を 取 ら な いことを理解し、
教育や運営
のための仕事の
大切さをもっと理解すべきである。
小さな大学
で苦労している人や、国民の税
金からお金が出ていることをもっと認識す
べきである。
旧来の教室
運営体制
は限度に来ている。
教室運営体制を立て直すべきである。
意 識 的 に 教 育 す る こ と が 必 要 で あ る 。 ら な い 教 員 は 強 く 指 導 す る 必 要 が あ る 。改善例:文系向けの統計教育
文系の学問では統計が重要である。
東北大学は比較的統計教育に熱心だが、
文系向けの統計教育は行っていないので、
来年度に私が立ち上げる。
来年度に私が立ち上げる。
正規分布で自然対数の底 e を使うが、文
系の人は高校では習っていない。
文系の研究者との共同研究、リテラシーの
研究、高等学校の教科書の執筆、数理統
計の授業担当経験などが役に立つ。
要改善例:情報の管理
整理されていない情報が過多になると、必要な 情報が見つからなくなる。 数学専攻や理学研究科では、整理されていない 情報がメールで全員に流されている。これはすべ ての教員に読むことを強制し、教員の大切な時 間を奪っている。全体の効率を考えて、不必要な 情報を流すのを止めるべきである。 情報のある場所を決め、必要な人が自分でアク セスする様にするのが良い。 理学研究科から流れてくる情報は、全て重要度が 中程度となっている。これは雑すぎる。日本の将来は右肩下がり?