日本語方言における談話展開の方法
著者
琴 鍾愛
号
193
発行年
2004
KEUM
琴
JONG鍾
AE愛
学 位 の 種 類
学 位 記 番 号
学 位 授 与 年 月 日学 位授 与 の要 件
研 究 科 ・ 専 攻学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員
博 士(文 学) 文 博 第193号 平 成17年3月25日 学 位 規 則 第4条 第1項 該 当東北大学大学院文学研究科(博 士課程後期3年 の課程)
言語科学専攻
日本語方言における談話展開の方法
(主査) 教 授 小 林 明 一 夫 倫 眞 一 藤 種 木 齋 千 大 授 授 授 教 教 教 助隆
論 文 内 容 の 要 旨
1.本 研 究 の 目的 現代 の方 言 は、 共 通 語化 が 急速 に進 んで い る。 しか し、 そ れ に もか か わ らず 、実 際 、 外 来 者 が 地 元 の 人 と会 話 を して い る と話 が な か な か う ま く進 ま な い とい う こ とを よ く聞 く。 そ れ は、音 韻 、ア クセ ン ト、 語 彙 、文 法 な ど、 言 語 の構 造面 で は共 通 語 化 が 進 ん だ と して も、 そ の地 域 特 有 の話 の進 め方 が未 だ に存 在 して い るか らだ と思 わ れ る。 す な わ ち、 談 話 展 開 の 方法 に は あ る程 度 地域 差 が認 め られ る と考 え られ るg最 近 、 よ うや くこの よ うな談 話 展 開 の方 法 の地域 差 につ い て の研 究 が 行 わ れ始 め て い るが 、 主 観 的 事例 研 究 とい っ た、 その 方 法論 に お け る問題 点 が 指摘 され て い る。 本研 究 で は、 従 来 の 談 話 展 開 の地 域 差 研 究 に お いて 指摘 され て き た方 法 論 の 問題 点 を踏 まえ、 新 た な 研 究方 法 の開 拓 を 目指 す こ とを試 み る。 特 に、 話者 が情 報 内容 を効 果 的 に伝 え るた め に使 用 す る談 話標 識 に注 目 し、 そ の出 現 傾 向 を 客観 的 に示 す こ とで 、談 話展 開 の方 法 の地 域 差 につ い て考 察 す る。 対 象 と して は、 本 研 究 で は、東 北方 言 の代 表 と して 筆者 の居 住 す る仙 台 方 言 に注 目す る。 ま た、 日本 の 代 表 的 方言 で あ る東 京 方 言 、大 阪 方言 を取 り上 げ る。 そ して、 そ れ らの 地域 の 高年 層話 者 が説 明 的場 面 にお い て、 どの よ うな談 話標 識 を用 い、 どの よ うに話 を進 め て い くのか を、談 話 標 識 の 出現 傾 向 を分 析 す る こ とで 明 らか にす る。 また 、 これ らの3地 域 の 談話 標 識 の 出現 傾 向 を比較 す る こ とに よ って 、 談 話 展 開 の 方法 か らみた 日本 語 方言 の地 域 差 の一 端 につ い て論 じた い と思 う。 さ らに 、方 言 の研 究 にお い て 、 この よ うな地 域 差 と とも に重要 な柱 と して 位 置 付 け られ て い る世 代 差 につ い て、 仙 台 方 言 を例 として考 察 し、 各 世 代 の談 話展 開 の 方法 が どの よ うで あ るか を 明 らか にす る。2.先 行 研 究 と そ の 問 題 点 こ の 分 野 に お け る先 駆 的 な研 究 と して 有 名 な 久 木 田 恵(1990)「 東 京 方 言 の 談 話 展 開 の 方 法 」 『国 語 学 』 162は 、 東 京 方 言 と関 西 方 言 の 談 話 を 対 照 さ せ 、 談 話 展 開 の 方 法 に は 地 域 性 が 認 め られ る と指 摘 し て い る 。 そ こ で は 、(A)文 の 内 容 と(B)文 頭 、 文 中 、 文 末 の キ ー ワ ー ド とな る語 に 注 目 し、 東 京 方 言 は 主 観 的 説 明 が 多 く、 「ダ カ ラ 」 「ホ ラ」 「ネ ッ」 を キ ー ワ ー ドに し て 相 手 に 反 論 の 余 地 を 与 え ず 、 強 引 に 話 者 の 主 張 を 押 し付 け 、 納 得 させ て い く 「主 観 直 情 型 」 を と る と して い る 。 そ れ に 対 して 、 関 西 方 言 は 客 観 的 説 明 が 多 く、 「ヘ タ ー 」 「ヘ タ ラ」 「ホ イ デ 」 な ど の 接 続 詞 に よ っ て 説 明 を 累 加 す る形 で 、 相 手 に 続 き を 期 待 させ な が ら談 話 を 展 開 す る 「客 観 説 明 累 加 型 」 を と る と して い る 。 ま た 、 久 木 田 は 、 そ の 後 、 北 部 東 北 方 言 を 取 り上 げ 、 北 部 東 北 方 言 は 「ダ カ ラ 」 「ホ ラ」 「モ ノ」 を キ ー ワ ー ド と す る 「理 攻 め 依 りす が り型 」 と認 定 し、 「ダ カ ラ 」 「ホ ラ」 の 頻 用 な ど 、 東 京 方 言 と の 類 似 性 を 指 摘 し て い る 。 こ の よ う な 久 木 田 の 研 究 は 、 従 来 の 音 韻 、 ア ク セ ン ト、 語 彙 、 文 法 の 地 域 差 が 中 心 に 行 わ れ て き た 方 言 研 究 の 世 界 で 、 ひ と ま と ま りの 談 話 全 体 を 取 り上 げ 、 談 話 展 開 の 方 法 に も地 域 差 が 存 在 す る こ と を証 明 した 画 期 的 な 研 究 で あ る。 ま た 、 そ の 後 の 談 話 展 開 の 方 法 に 関 す る研 究 に も 多 大 な 影 響 を 与 え て お り、 分 析 方 法 に お い て も こ の 久 木 田 の 研 究 に 従 う も の が 多 い 。 しか し、 そ れ らの 研 究 の 重 要 な 柱 で あ る 、(A)文 の 内 容(以 下 、 本 研 究 で は 「情 報 内 容 」 と呼 ぶ こ と に す る)を 対 象 に した 客 観 的 分 析 方 法 は 難 し く、 未 だ に 確 立 して い な い と 思 わ れ る。 ま た 、 こ の よ う な 情 報 内 容 は ど の よ うな 話 題 が 選 ば れ る か に よ っ て 左 右 され る 面 が 大 き く、 同 じ条 件 で の 比 較 が 困 難 で あ る。 ま た 、(B)キ ー ワ ー ドに つ い て も、 事 例 研 究 の 枠 を 超 え て 体 系 的 、 数 量 的 に 論 証 す る と い う課 題 が 残 さ れ て い る 。 そ こで 、本 研 究 で は 、久 木 田 の 分 析 の 枠 組 み を 参 考 に し な が ら も 、特 に 、(B)キ ー ワ ー ド と な る語 、す な わ ち 、 本 研 究 に お け る談 話 標 識 に 注 目 し、 そ れ を 体 系 的 、 数 量 的 に分 析 す る こ とで 、 各 方 言 に お け る 談 話 展 開 の 方 法 を よ り客 観 的 に 示 す こ とを 試 み る。 談 話 標 識 を取 り上 げ る理 由 は 、 情 報 内 容 は どの よ う な 話 題 が 選 ば れ る か に よ っ て 左 右 さ れ 、 同 じ条 件 で の 比 較 が 困 難 で あ る の に 対 し て 、 談 話 標 識 は 話 題 の 影 響 を 受 け に く く、 具 体 的 形 式 と して 客 観 的 分 析 に 耐 え う る か ら で あ る。 情 報 内 容 に つ い て は今 後 の 課 題 と し、 こ こ で は 、 談 話 標 識 の 面 か ら談 話 展 開 の 方 法 を 検 討 して い く こ と に す る。 3.研 究 方 法 3.1談 話 、 談 話 標 識 、 談 話 展 開 の 方 法 こ こ で は 、本 研 究 に お け る 「談 話 」「談 話 標 識 」「談 話 展 開 の 方 法 」の 定 義 及 び 対 象 範 囲 に つ い て 述 べ る。 「談 話 」 と は文 よ り大 き い 言 語 単 位 で 、 あ る ま と ま りを 持 っ て い る文 の 集 合 で あ る 。 本 研 究 で は 、 各 方 言 の 談 話 展 開 の 方 法 を 明 らか に す る た め 、 会 話 の や り と りの 中 で 、1人 の 話 者 が 相 手 の 情 報 要 求 に 対 し て 説 明 を行 っ て い る 説 明 的 場 面 を 用 い る 。 研 究 資 料 と して 説 明 的 場 面 を 取 り上 げ る 理 由 は 、2人 以 上 の 話 者 が 関 与 す るや り と り場 面 よ り、 説 明 的 場 面 は 比 較 的 分 析 が 容 易 で あ り、 ま ず 、 説 明 的 場 面 の 考 察 か ら 開 始 す る こ と に し た 。 た だ し、説 明 的 場 面 とい っ て も、会 話 の 中 の 一 場 面 で あ る こ と に は 変 わ りな く、 こ こ で の 方 法 や 結 果 は 今 後 、 会 話 の や り と り場 面 の 分 析 に も参 考 に な る と予 想 さ れ る 。 「談 話 標 識 」 と は談 話 展 開 を 効 果 的 に行 う た め に 話 者 が 用 い る もの で、談 話 の 中 で 情 報 内 容 とは 直 接 関 わ ら な い が 、話 者 が そ の 情 報 を 効 果 的 に伝 達 す る た め に 使 う形 式 で あ り、既 存 の 文 法 カ テ ゴ リ ー を 超 え 、 様 々 な 言 語 形 式 か ら成 り立 っ も の で あ る と い う立 場 を と る 。 こ の 「既 存 の 文 法 カ テ ゴ リー を 超 え 」 る と は 、 品 詞 の 枠 に 関 わ らず 、 様 々 な 形 式 が 談 話 標 識 と して 機 能 して い る と い う こ とで あ る 。 日本 語 で は 、 接 続 詞 、 間 投 助 詞 、 終 助 詞 、 副 詞 、 感 動 詞 、 応 答 詞 な どが 談 話 標 識 と し て 機 能 して い る と言 わ れ て い る。
本 研 究 で は 、 各 方 言 の 説 明 的 場 面 で 使 用 さ れ る談 話 標 識 の 中 か ら、 特 に高 い 頻 度 で 使 用 さ れ る も の を 取 り上 げ 、 考 察 を 進 め る 。 「談 話 展 開 の 方 法 」 とは、 「談 話 」 に お い て 、 話 者 が い か な る 種 類 の 談 話 標 識 を ど の よ う に 使 用 して 話 を進 め て い く の か 、 そ の 方 法 を 指 す 。 3.2調 査 の概 要 本 研 究 で 用 い る談 話 資 料 は、 次 の 調 査 に よっ て採 集 した もの で あ る。 ① 調 査 地 域:宮 城 県仙 台市 、 東 京 都 品 川 区 、大 阪府 大 阪 市 ② イ ン フ ォー マ ン ト:本 研 究 で 対 象 に した話 者 は 〈表1>の とお りで あ る。 ③ 調 査 時 期 及 び 調査 場 所:調 査 時 期 及 び 調査 場 所 は 〈表2>の とお りで あ る。 ④ 調 査 方 法:調 査 は面 接 に よ る質 問 を中 心 に行 った 。 す な わ ち、 筆 者 が 直接 イ ン フォ ー マ ン トに会 っ て 旅 行 や 地 元 の 名 物 な どの10項 目に わ た る質 問 をす る。 それ に対 して 、話 者 が 説 明 を 行 っ て い る場 面 を分 析 対象 に した。 談 話 資 料 は仙 台方 言 の高 年 層約23時 間 、 仙 台 方 言 の 若 年層 約10時 間 、 東 京 方言 約7時 間 、 大 阪 方 言約8時 間 程 度 の録 音資 料 を文 字 化 した も の で あ る。 〈表1>イ ンフ ォ ー マ ン ト構 成 表
地域
世代
男性
女性
一合計
仙 台高年層
若年層
ll人 5人 10人 5人 21人 10人 31人東京
高年層
9人 2人 ll人大阪
高年層
5人 5人 10人 〈表2>調 査 時期 及 び 調 査 場 所地域
調査時期
調査場所
仙 台 2000年6月 ∼2002年6月 イ ン フ ォ ー マ ン トの 自 宅 、 ま た は 、東 北 大 学 国 語 学 研 究 室 、 仙 台 市 内 の 喫 茶 店東京
2003年ll月 ∼2004年3月 品 川 区 区 民 セ ン タ ー 、 五 反 田 文 化 セ ン タ ー大阪
2003年ll月 ∼2004年3月大肺 内の麟 店
二
3.3分 析 方法 本研 究 で は、 以 下 の 分析 方法 に よって 、 論 を進 め る。 (1)ま ず、 各 方 言 の 説 明 的場 面 で 使 用 され る談話 標 識 を取 り出 し、 そ れ らの形 式 が 談 話 に お い て ど う い う役 割 を して い るの か 、 そ の機 能 を検 討 す る。 (2)次 に 、談 話 標 識 の出現 傾 向、 す な わ ち、 談 話標 識 の 出現 頻 度 や 組 み合 わせ パ ター ン を具体 的事 例 とと もに示 す こ とで 、各 方 言 の談 話 展 開 の 方法 を考 察 す る。 (3)最 後 に、 各 方 言 の 高年 層 話 者 の談 話 標識 の 出現 傾 向や 仙 台 方 言 の高 年 層 、 若 年 層 の談 話 標 識 の出 現傾 向 を比 較 す る こ とで 、談 話 展 開 の 方 法 の地 理 的変 異(地 域 差)や 談 話 展 開 の 方 法 の社 会 的 変 異 (世代 差)を 明 らか にす る。4.仙 台 方言 に お け る談 話 展 開 の 方法 仙 台 方言 の伝 統 的 談 話 展 開 の 方法 を 明 らか にす るた め 、 高年 層 を対 象 に し、 その 話者 が説 明的 場 面 に お い て どの よ うな談 話 標 識 を どの よ うに用 いて 話 を進 め て い くの か を、 談 話 標 識 の 出現 傾 向 を分 析 す る こ とで 明 らか に した。 仙 台 方 言 の 説 明 的 場 面 で 使 用 され る談 話 標 識 とそ の機 能 か らみ た 談 話展 開 の 方 法 を ま とめ る と、 〈図 1>の よ うに な る。 〈図1>談 話 標 識 とそ の機 能 か らみ た 談 話 展 開 の 方 法
画
(ネ ・サ) 発 話権 取得 ・繍1(ダ カ ラ) 説 明 開 始 ・累 加(ソ レデ な ど) 情 報 共 有 表 示(ヤ ハ リ)!
匿 報賄
喚起1(ホ
ラ)
!
歴 轍
龍
訓(デ
シ・一 の
など)
!
巨塾](ネ(/))
!
匡轟 團(ウ
ン ・エ)
こ の 図 に お い て 、 談 話 標 識 は 各 文 の 中 で こ の 順 番(縦 の 矢 印 は 出 現 順 序)で 出 現 す るの が 典 型 で あ る と考 え られ る 。 た だ し、 引 き込 み 形 式 「ネ 、 サ 」 は ど の 位 置 に も 自 由 に 入 り う る(横 の 矢 印 は 「ネ 、 サ 」 の 位 置)。 ま た 、 こ の 図 は 全 て の 談 話 標 識 が 現 れ る場 合 を 仮 定 し て い る が 、実 際 は 、 こ の 全 て の 談 話 標 識 が 出 現 す る わ け で は な く、 各 々 の 出 現 頻 度 に従 い 、 い くつ か 組 み 合 わ さ っ て 現 れ る の が 現 実 で あ る 。 つ ま り、 仙 台 方 言 の 高 年 層 話 者 は 、 「ダ カ ラ 」 で 発 話 権 の 取 得 ・維 持 を 明 確 に 表 明 、 或 い は 、 「ソ レ デ 」 で 説 明 を 開 始 ・累 加 し、 「ヤ ハ リ」 で 情 報 の 共 有 を 前 提 に して い る こ と を 明 示 、 「ホ ラ 」 で 情 報 の 共 有 を 喚 起 、 「デ シ ョ ー(/)」 な ど で 確 認 す る と と も に 、 「ネ(/)」 で 念 を 押 しな が ら話 を 進 め て い る こ とが 明 らか に な っ た 。 さ ら に 、 「ネ 、 サ 」 で 相 手 を 話 の 中 に 引 き 込 ん だ り、 「ウ ン」 で 自 己確 認 し た りす る こ とで 話 を 進 め る こ と も 特 徴 的 で あ る。 そ の 中 で も、 仙 台 方 言 の 説 明 的 場 面 で は 、 特 に 、 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー(/)」 、 自 己 確 認 形 式 で あ る 「ウ ン 」、 発 話 権 取 得 ・維 持 に 関 わ る形 式 で あ る 「ダ カ ラ 」 が 多 用 さ れ て お り、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)に 加 え て 「情 報 共 有 確 認 」 (デ シ ョ ー(/))を 行 うパ タ ー ンや 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))を 行 っ た 上 で さ ら に 「念 押 し」 (ネ(/))を す る パ タ ー ン が 多 く使 用 さ れ る こ と が 明 らか に な っ た 。5.談 話 展 開 の 方 法 に お け る 地 理 的 変 異 日本 の 代 表 的 方 言 で あ る 東 京 方 言 と大 阪 方 言 を 取 り上 げ 、 そ の 高 年 層 話 者 が 説 明 的 場 面 に お い て どの よ う な 談 話 標 識 を ど の よ う に 用 い て 話 を 進 め て い くの か を 談 話 標 識 の 出 現 傾 向 を 示 す こ と で 明 らか に し た 。 そ の 結 果 、大 阪 方 言 で 情 報 共 有 喚 起 形 式 「ホ ラ」(C)が 認 め ら れ な い こ と を 除 き、 ほ ぼ 共 通 して 仙 台 方 言 の 〈図1>の よ う な 種 類 の 談 話 標 識 が 使 用 され て い る こ と が 分 か っ た 。 そ の 中 で も、 東 京 方 言 の 説 明 的 場 面 に お い て は 、 特 に 、 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョ ー(/)」 、 発 話 権 取 得 ・維 持 に 関 わ る形 式 で あ る 「ダ カ ラ」 が 多 用 さ れ て お り、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)に 加 え て 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー(/))を 行 う組 み 合 わ せ パ タ ー ン が 頻 繁 に使 用 さ れ て い る 。 一 方、 大 阪 方 言 で は 、 特 に 、 自 己 確 認 形 式 で あ る 「ウ ン」、 説 明 開 始 ・累 加 形 式 で あ る 「ホ ン デ 」 が よ く使 用 さ れ る こ と、 また 、 「説 明 累 加 」(ホ ン デ)を 明 示 し つ つ 、 「自 己 確 認 」(ウ ン)で 締 め く く る組 み 合 わ せ パ タ ー ン が 多 用 さ れ る 特 徴 が 認 め られ た 。 ま た 、 こ の 東 京 方 言 、 大 阪 方 言 の 結 果 に 、 仙 台 方 言 の 結 果 を 加 え 、3方 言 を 比 較 す る こ とで 、 談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 を 明 らか に した 。 そ の 結 果 、 各 方 言 の 説 明 的 場 面 で 使 用 さ れ る談 話 標 識 の 種 類 に は あ る 程 度 共 通 性 が 認 め られ る もの の 、 出 現 頻 度 や 組 み 合 わ せ パ タ ー ン に は 地 域 差 が 認 め られ る こ とが 明 ら か に な っ た 。 す な わ ち 、 次 の とお りで あ る(仙 台 方 言 と大 阪 方 言 に 特 徴 が 強 く現 れ て い る の で 、 こ の2 っ の 方 言 を先 に 解 説 し、 最 後 に 東 京 方 言 に っ い て 述 べ る こ と に す る)。 (1)仙 台 方 言 の 談 話 展 開 の 特 徴 ① 相 手 へ の 情 報 共 有 の 働 き か け:仙 台 方 言 の 説 明 的 場 面 に お い て は 、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー(/))、 「念 押 し」(ネ(/))の 使 用 頻 度 が 、 他 の 2方 言 に 比 べ て 非 常 に 高 い の が 最 大 の 特 徴 で あ る 。 こ の 特 徴 は 組 み 合 わ せ パ タ ー ン に も よ く現 れ て お り、 「情 報 共 有 表 示 」 「情 報 共 有 喚 起 」 に加 え て 「情 報 共 有 確 認 」 を 行 うパ タ ー ン や 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))を 行 っ た 上 で さ ら に 「念 押 し」(ネ(/))を す る パ タ ー ン が 目 立 っ て い る。 こ の よ う に 、 仙 台 方 言 は 、 情 報 の 共 有 を 積 極 的 に相 手 に 働 き か け な が ら談 話 を 展 開 す る 方 言 で あ る と言 う こ とが で き る。 こ れ とは 逆 に 、 大 阪 方 言 は 、 「情 報 共 有 確 認 」(ヤ ロ ー(/))や 「念 押 し」 (ナ(/))の 使 用 が 低 く、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)の 形 式 を ま っ た く使 用 し な い な ど 、 情 報 共 有 に 対 す る働 き か け は 非 常 に 弱 い 。 ② 自 己 の 発 話 権 の ア ピ ー ル:「 発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)の 使 用 率 が 大 阪 方 言 よ り明 ら か に 高 い こ と も特 徴 的 で あ る。 す な わ ち 、 仙 台 方 言 は 、 談 話 の 開 始 に お い て も途 中 に お い て も、 常 に発 話 権 が 自 分(話 者)に あ る こ と を ア ピ ー ル し な が ら話 を進 め る方 言 で あ る と考 え られ る 。 上 記 ① の 相 手 へ の 情 報 共 有 の 働 きか け の よ う な 特 徴 と合 わ せ 、 話 し相 手 に 対 して 、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ) を 明 示 し つ つ 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))を 行 う と い うパ タ ー ン が 多 い の が 特 徴 で あ る。 (2)大 阪 方 言 の 談 話 展 開 の 特 徴 ① 話 者 自 身 に よ る 情 報 内 容 の 確 認:「 自 己 確 認 」(ウ ン)の 使 用 頻 度 が 、 他 の 方 言 よ り高 い の が 一 つ の 特 徴 で あ る 。 大 阪 方 言 は 、 情 報 内 容 に つ い て 、 仙 台 方 言 の 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))、 「念 押 し」(ネ(/))の よ う に 相 手 と の 共 有 に 力 を 注 ぐ よ り も 、 「自 己 確 認 」 (ウ ン)を 行 う こ とで 、 話 を 自分 自 身 で 納 得 し な が ら談 話 を 展 開 す る方 言 で あ る と言 え る。 ② 説 明 継 続 の 単 純 表 示:「 説 明 累 加 」(ホ ン デ)の 談 話 標 識 の 使 用 が 非 常 に 多 い の も 大 阪 方 言 の 特 徴 で あ る 。 こ の 形 式 は 、 仙 台 方 言 に 多 い 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)の よ う な 自 己 ア ピ ー ル に 関 わ る
も の で は な く、 単 純 に 説 明 を 継 続 す る こ と の 合 図 に す ぎ な い と考 え られ る 。 大 阪 方 言 は 話 の 進 行 に 際 し 、 説 明 の 継 続 を 淡 々 とマ ー クす る こ と を 好 む 方 言 と言 え る。 上 記 ① の 話 者 自 身 に よ る情 報 内 容 の 確 認 の よ う な 特 徴 と合 わ せ 、大 阪 方 言 で は 「説 明 累 加 」(ホ ン デ)を 明 示 し つ つ 、 「自 己 確 認 」(ウ ン)で 締 め く くる とい う 組 み 合 わ せ パ タ ー ン が 目 立 っ て い る。 (3)東 京 方 言 の 談 話 展 開 の 特 徴 上 で 見 た 仙 台 方 言 、 大 阪 方 言 の 特 徴 ご と に 、 東 京 方 言 を 検 討 して み る 。 ① 仙 台 方 言 の 「① 相 手 へ の 情 報 共 有 の 働 き か け 」:こ れ に 関 わ る談 話 標 識 の 現 れ 方 が 大 局 的 に 見 て 仙 台 方 言 と大 阪 方 言 の 中 間 に位 置 す る よ う に 見 え る 。 た だ し、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)や 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)を 行 っ た 上 で 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー(/))を 行 う とい うパ タ ー ン は 仙 台 方 言 に類 似 して い る。 ② 仙 台 方 言 の 「② 自 己 の 発 話 権 の ア ピ ー ル 」:「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)の 出 現 状 況 が 仙 台 方 言 と ほ と ん ど 同 じで あ り、 こ の 特 徴 を 東 京 方 言 も備 え て い る と言 え る 。 ③ 大 阪 方 言 の 「① 話 者 自 身 に よ る 情 報 内 容 の 確 認 」:「自 己 確 認 」(ウ ン)の 談 話 標 識 の 使 用 頻 度 が 最 も 低 く、 大 阪 方 言 の 対 極 に 位 置 す る 。 ④ 大 阪 方 言 の 「② 説 明 継 続 の 単 純 表 示 」:「説 明 累 加 」(ソ レ デ)の 使 用 が 仙 台 方 言 に 近 い く ら い に 抑 え られ て お り、汰 阪 方 言 と は 大 き く異 な っ て い る。 以 上 、 談 話 標 識 の 出 現 傾 向 の 面 か ら3方 言 の 談 話 展 開 の 方 法 に っ い て 検 討 し て き た 。 結 論 と して 、 仙 台 方 言 と大 阪 方 言 と は 、 そ れ ぞ れ 対 照 的 な 一 っ の 典 型 と して 把 握 で き る 。 す な わ ち 、 仙 台 方 言 は 「ダ カ ラ」で 自分 が 発 話 権 を 持 っ こ と を ア ピ ー ル し、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))、 「念 押 し」(ネ(/))な ど で 情 報 共 有 を 積 極 的 に働 き か け て い く方 言 で あ り、 ひ と こ とで 言 え ば 、 自分 の 話 を 相 手 に わ か らせ よ う と努 力 す る 「他 者 説 得 型 」 の 方 言 で あ る と言 え る。 一 方 、 大 阪 方 言 は そ う し た 相 手 に 対 す る 働 き か け は 消 極 的 で あ り、 「ホ ン デ 」 な どで 話 の 進 行 を 単 純 に マ ー ク しつ つ 、 「ウ ン 」 な ど で 自 分 で 納 得 す る こ とに 主 眼 を 置 く 「自 己 納 得 型 」 の 方 言 で あ る と考 え られ る 。 東 京 方 言 は総 合 的 に 見 て 、 両 者 の 間 に位 置 す る が 、 仙 台 方 言 に よ り近 い 面 を も っ て い る と判 断 す る こ とが で き る 。 6.談 話 展 開 の 方 法 に お け る 社 会 的 変 異 方 言 の 研 究 に お い て 地 理 的 変 異 と と も に 重 要 な 柱 と して 位 置 付 け ら れ て い る 社 会 的 変 異 に つ い て 、 仙 台 方 言 を 例 と して 、 高 年 層 、 若 年 層 話 者 の2世 代 を 取 り上 げ 、 各 世 代 の 談 話 展 開 の 方 法 が ど の よ う で あ る か を 明 らか に した 。 そ の 結 果 、 仙 台 方 言 の 若 年 層 に お い て は談 話 標 識 の 出 現 頻 度 は低 い も の の 、 お お よ そ 第4章 で 示 し た 高 年 層 の 〈図1>の 枠 組 み に 合 致 し て い る こ とが 分 か っ た 。 そ の 中 で も、 仙 台 方 言 の 若 年 層 は 、 高 年 層 に 比 べ て 、 説 明 開 始 ・累 加 形 式 で あ る 「ソ レ デ 」 や 自 己確 認 形 式 で あ る 「ウ ン」 の 頻 度 が 高 く、 「自 己 確 認 」 を 行 う組 み 合 わ せ パ タ ー ン が 目 立 っ て い る こ とが 明 らか に な っ た 。 上 の 第5章 で は、 東 京 方 言 は 発 話 権 取 得 ・維 持 形 式 で あ る 「ダ カ ラ 」、 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー(/)」 の 出 現 頻 度 が 高 く、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)や 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)を 行 っ た 上 で 、 「情 報 共 有 確 認 」 を 行 うパ タ ー ン が 多 い の に 対 して 、 大 阪 方 言 は 、 説 明 開 始 ・累 加 形 式 で あ る 「ホ ン デ 」、 お よ び 自 己 確 認 形 式 で あ る 「ウ ン」 の 出 現 頻 度 が 高 く、 「説 明 開 始 ・ 累 加 」(ホ ン デ)を 表 示 した あ と 「自 己 確 認 」 で し め く く る パ タ ー ン が 多 い こ と を 述 べ た 。 今 回 の 検 討 の 結 果 、 仙 台 方 言 の 若 年 層 は 、 発 話 権 取 得 ・維 持 形 式 で あ る 「ダ カ ラ 」 や 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー(/)」 の 出 現 頻 度 が 低 い 一 方 で 、 説 明 開 始 ・累 加 形 式 で あ る 「ソ レ デ 」 や 自 己 確 認
形 式 で あ る 「ウ ン 」 の 頻 度 が 高 い こ とや 、 「自 己確 認 」 を 行 う組 み 合 わ せ パ タ ー ンが 目立 っ こ とか ら、 同 地 域 の 高 年 層 の 比 べ て 大 阪 方 言 的 な 特 徴 も加 わ っ て い る こ とが 明 らか に な っ た 。 7.結 論 本 研 究 で 筆 者 は 談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 は 、 話 者 が 情 報 内 容 を 効 果 的 に 伝 え る た め に 使 用 す る談 話 標 識 に 反 映 さ れ て い る と考 え 、 談 話 標 識 に 注 目 し、 そ の 出 現 傾 向 か ら談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 に つ い て 考 察 した 。 そ の 結 果 、 仙 台 方 言 と大 阪 方 言 とが 対 照 的 な 一 つ の 典 型 と認 め られ た 。 す な わ ち 、 仙 台 方 言 の 説 明 的 場 面 に お い て は 、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)の 使 用 が 多 く、 特 に 、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー(/))、 「念 押 し」(ネ(/))の 使 用 頻 度 が 、 他 の2方 言 に 比 べ て 非 常 に 高 い 。 ま た 、組 み 合 わ せ パ タ ー ン で も 「情 報 共 有 表 示 」 「情 報 共 有 喚 起 」 を 行 っ て か ら 「情 報 共 有 確 認 」 を 行 う パ タ ー ン や 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))を 行 っ た 上 で 「念 押 し」(ネ (/))を 行 うパ タ ー ン が 目 立 っ て い る。 そ れ に 対 して 、大 阪 方 言 は 、 「説 明 累 加 」(ホ ン デ)の 談 話 標 識 や 「自 己 確 認 」(ウ ン)の 使 用 頻 度 が 他 の2方 言 よ り高 く、 「説 明 累 加 」(ホ ン デ)を 明 示 しつ つ 、 「自 己 確 認 」(ウ ン)を 行 う組 み 合 わ せ パ タ ー ンが 目立 っ て い る 。 こ れ ら の こ とか ら、 仙 台 方 言 は 自分 が 発 話 権 を 持 っ こ とを ア ピ ー ル し、 情 報 共 有 を 積 極 的 に 働 き か け て い く こ と で 、 自 分 の 話 を相 手 に 分 か らせ よ う と努 力 す る 「他 者 説 得 型 」 の 方 言 で あ る の に 対 し て 、 大 阪 方 言 は そ う した 相 手 に 対 す る働 き か け は 消 極 的 で あ り、 話 の 進 行 を 単 純 に マ ー ク しつ つ 、 自 分 で 納 得 す る こ とに 主 眼 を 置 く 「自 己 納 得 型 」 の 方 言 で あ る と結 論 づ け た 。 ま た 、 東 京 方 言 は 総 合 的 に 見 て 両 者 の 問 に位 置 す るが 、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)や 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー(/))の 出 現 が 目立 っ こ とや 、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)や 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)を 行 っ た 上 で 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー(/))を 行 う とい うパ タ ー ン が 多 用 さ れ る こ と な ど、仙 台 方 言 に よ り近 い 傾 向 を 示 して い る こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 同 じ く、談 話 標 識 の 出 現 傾 向 か ら、談 話 展 開 の 方 法 の 世 代 差 に つ い て も考 察 した 。 結 果 と し て 、 ま ず 、 仙 台 方 言 の 若 年 層 は、 談 話 標 識 の 出 現 頻 度 が 高 年 層 に 比 べ て 全 体 に 少 な い 傾 向 が あ る こ と を 指 摘 した 。 ま た 、 高 年 層 で 頻 繁 に 使 用 さ れ る発 話 権 取 得 ・維 持 形 式 で あ る 「ダ カ ラ」 や 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー(/)」 の 出 現 頻 度 が 低 い 一 方 で 、 大 阪 方 言 で 好 ん で 使 用 さ れ る 説 明 開 始 ・累 加 形 式 の 「ホ ン デ 」 や 自 己 確 認 形 式 の 「ウ ン」 の 頻 度 が 高 い こ と か ら、 同 地 域 の 高 年 層 の 比 べ て 大 阪 方 言 的 な 特 徴 も加 わ っ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 本 研 究 は 、 従 来 、 音 韻 、 ア ク セ ン ト、 語 彙 、 文 法 な ど 、 短 い 言 語 単 位 の 研 究 が 中 心 に 行 わ れ て き た 方 言 研 究 の 世 界 で 、 今 後 の 方 言 研 究 が 開 拓 す べ き 談 話 展 開 の 方 法 を 対 象 に 据 え た も の で あ る 。 久 木 田 を 始 め とす る一 連 の 研 究 が 抱 え る 方 法 論 上 の 問 題 点 を 踏 ま え 、 談 話 標 識 に 焦 点 を しぼ り、 一 定 の 方 法 論 に し た が っ て 分 析 を 行 っ た 。 っ ま り、 事 例 研 究 で は な く、 多 くの 談 話 資 料 を分 析 す る こ とで 、 仙 台 方 言 、 東 京 方 言 、 大 阪 方 言 に お け る談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 や 世 代 差 を 、 よ り客 観 的 に 示 す こ とが で き た と考 え る 。 久 木 田 に よ っ て 、 東 京 方 言 は 「ダ カ ラ 」 「ホ ラ」 「ネ ッ」 を 、 関 西 方 言 は 「ソ シ テ 」 「ウ ン 」 を 、 さ ら に 北 部 東 北 方 言 は 「ダ カ ラ 」 「ホ ラ」 「モ ノ 」 を キ ー ワ ー ド と す る こ とが す で に 指 摘 さ れ て お り、 そ の 点 で は 、 本 研 究 は 久 木 田 の 研 究 を 一 部 追 認 し た こ と に も な る。 しか し、 上 に 記 し た よ う に 、 事 例 研 究 の 限 界 を 超 え 多 量 の 談 話 デ ー タ を 計 量 的 に 扱 っ た 点 、 談 話 標 識 に 注 目 し一 定 の 方 法 論 に よ っ て 分 析 を行 っ た 点 、 ま た 、 南 東 北 方 言 と して の 仙 台 方 言 を 加 え 東 京 方 言 ・大 阪 方 言 と比 較 し た 点 や 仙 台 方 言 を例 と し て 世 代 差 を追 求 し た 点 で 、 本 研 究 は従 来 の 研 究 よ り一 歩 前 進 を 試 み た も の と言 え る。
本 研 究 の 最初 に次 の よ うな仮 説 を提 示 した。 一 「現 代 方 言 で は共 通 語 化 が 進 んで い る に もか か わ らず 、 外 来 者 が地 元 の 人 との会 話 の中 で違 和 感 を感 じ る とい うの は、 音韻 、 ア クセ ン ト、 語彙 、文 法 な ど言 語 要 素 の 面 で 共通 語 化 が進 んだ と して も、 そ の地 域 特 有 の 話 の進 め 方 が ま だ残 って い るか らで は な いか 。 そ して 、 その よ うな談 話 展 開 の 方法 の地 域 差 は、 話 者 が情 報 内 容 を効 果 的 に伝 え るた め に使 用 す る談 話 標 識 に現 れ て い るの で は な いか 。」一 この仮 説 は、 日本 語 方 言 の一 部 を対 象 に した もの で は あ るが 、本 論 文 にお け る以 上 の考 察 に よ って あ る程 度 証 明 で きた ので はな い か と考 え る。 さ らに、仙 台方 言 の検 討 か らは、 談 話展 開 の方 法 に は、 この よ うな地 域 に よ る違 い だ けで な く、 世 代 に よ る違 い も認 め られ る こ と が 指 摘 で きた と考 え る。 8.今 後 の課 題 最後 に、 本 研 究 の問題 点 を指摘 す る と と もに、 今後 に残 され た課 題 につ いて 述 べ る。 (1)本 研 究 で は談 話 標 識 の使 い方 に注 目 し、 談 話 展 開 の 方法 を考 察 した。 しか し、談 話 展 開 の方 法 に お い て は談 話 標 識 と と もに、 情 報 内容 の 面 で の考 察 も欠 か せ な い 要 素 と して位 置 付 け られ て い る。 今 後 、清 報 内容 につ いて の 客観 的分 析 方 法 を開 拓 す る と ともに 、 そ の方 法 を用 い た 考察 が必 要 で あ る と 考 え る。 (2)本 研 究 で は1人 の話 者 が相 手 の情 報 要 求 に対 して説 明 を行 っ て い る説 明 的 場面 を取 り上 げ、 談 話 展 開 の方 法 の地 域 差 や 世代 差 を 明 らか に した 。今 後 は、 この よ うな説 明 的 場 面 だ けで は な く、 典 型 的 話 し言 葉 の談 話 と言 わ れ る会話 のや り と り場 面 に も注 目 し研 究 を進 め て い き たい と考 え る。 (3)本 研 究 で は 日本 の代 表 的方 言 で あ る東 京 方 言 、大 阪 方言 を取 り上 げ る と ともに 、筆 者 の居 住 す る東 北 地 方 の仙 台方 言 を取 り上 げ、 談 話 展 開 の 方 法 の地 域 差 に っ い て明 らか に した 。今 後 、 よ り視 野 を広 げ、 これ らの 方 言 と方 言 区画 上 、 大 き く異 な る とされ る九 州 方 言(福 岡)、 中 国 方言(広 島)、 四 国 方 言(高 知)な どにつ い て も取 り上 げて い きた い と考 え る。 (4)本 研 究 で は、 談 話標 識 の 出現 傾 向 か ら談 話展 開 の方 法 の地 域 差 にっ いて 考 察 した が、 この よ うに地 域 ご とに談 話展 開 の 方 法 が異 な る理 由 は何 故 か 、談 話 展 開が 地 域 社 会 に よ って 異 な る事 実 は何 を示 す のか とい う問題 につ い て も、 今 後 、 考 えて い か な けれ ば な らな い。 ただ し、談 話 展 開 の方 法 の地 域 差 が 生 まれ る背 景 に は、狭 い意 味で の 言 葉 の 問題 だ けで な く、 文 化 的 ・社 会 的 要 因 が 関 わ っ て い る と考 え られ る。今 後 、 そ れ ら との関 連 を考 えな が ら研 究 を進 めて い きた い と考 え る。 (5)本 研 究 で は、仙 台 方 言 の 高年 層 、若 年 層 を取 り上 げ、談 話 展 開 の方 法 にお け る世 代 差 を 明 らか に し、 仙 台方 言 の 若年 層 の談 話 展 開 の方 法 が大 阪 方言 に近 づ く傾 向 を見 せ て い る こ とを 指摘 した。 今 後 、 こ う した 仙 台 方 言 の 若年 層 の傾 向が 果 た して 東京 方言 な ど他 の地 域 の若 年 層 にお い て も認 め られ るか 、 さ ら に地 域 を広 げ、 談 話 展 開 の方 法 の世 代 差 に っ い て研 究 を進 めて い きた い と考 え る。 そ の際 、 若 年 層 は高 年 層 の特 徴 の どの よ うな部 分 を受 け継 ぎ、 どの よ うな部 分 を更 新 して い るの か とい う体 系 的 視 点 や 、 若 年層 に お け る変 化 は いか な るメ カ ニ ズ ム で進 行 しつ っ あ るの か とい う要 因論 へ の 目配 りが 必 要 に な る と考 え る。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本 論文 は 、 日本 語 方 言 にお け る談 話展 開 の方 法 の地 域 差 お よ び世代 差 につ い て、 談 話 標 識 の 出 現傾 向 の 観 点 か ら明 らか に した もので あ る。全 体 は理 論 ・方 法 編 に あ た る第1章 か ら第3章 と、 分 析 編 に あたる第4章 か ら第6章 に よ っ て 構 成 さ れ 、 第7・8章 で は 結 論 と今 後 の 課 題 に つ い て 述 べ る 。 ま た 、 採 集 し た 談 話 の 文 字 化 資 料 を 「資 料 編 」 と して 付 け る。 ま ず 、 第1章 で は 上 記 の よ うな 本 論 文 の 目 的 や 構 成 に つ い て 述 べ る。 次 の 第2章 で は 、 談 話 研 究 の 現 状 と談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 に 関 す る先 行 研 究 を概 観 し 、 そ の 問 題 点 と本 論 文 の 特 色 に つ い て 述 べ る 。 す な わ ち 、 日本 に お い て は 方 言 の 談 話 研 究 は ま だ 日 が 浅 く、 事 例 研 究 の 段 階 に 止 ま り主 観 性 が 強 い と い う問 題 点 が あ る こ と を 指 摘 す る 。 そ の 上 で 、特 に 、談 話 標 識 に 注 目 し、 そ れ を体 系 的 、 数 量 的 に 分 析 す る こ とで 、 各 方 言 に お け る 談 話 展 開 の 方 法 を よ り客 観 的 に 示 す こ とが 必 要 で あ る と主 張 す る。 第3章 で は 、 ま ず 、 本 論 文 に お け る 「談 話 」 「談 話 標 識 」 「談 話 展 開 の 方 法 」 の 定 義 を 行 う 。 ま た 、 調 査 地 域 お よ び イ ン フ ォ ー マ ン ト、 調 査 の 時 期 、 調 査 場 所 、 調 査 の 方 法 な ど、 調 査 の 概 要 に つ い て 紹 介 す る 。 さ ら に 、 本 論 文 の 分 析 方 法 と して 、 説 明 的 場 面 で 使 用 さ れ る談 話 標 識 の 機 能 を検 討 し た 後 、 そ の 談 話 標 識 の 出 現 頻 度 や 組 み 合 わ せ パ タ ー ン を 具 体 的 事 例 と共 に 示 す こ と で 各 地 域 や 各 世 代 の 談 話 展 開 の 方 法 を 明 らか に す る と い う手 続 き を と る こ と を述 べ る。 第4章 で は 、 仙 台 方 言 に お け る 談 話 展 開 の 方 法 に つ い て 高 年 層 を 中 心 に 記 述 す る 。 結 論 と し て 、 仙 台 方 言 の 説 明 的 場 面 に お い て は 、特 に 、情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー 」、 自 己 確 認 形 式 で あ る 「ウ ン 」、 発 話 権 取 得 ・維 持 に 関 わ る 形 式 で あ る 「ダ カ ラ」 が 多 用 さ れ る こ とを 述 べ る。 ま た 、 組 み 合 わ せ パ タ ー ン で は 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)に 加 え て 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー)を 行 うパ タ ー ン や、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー)を 行 っ た 上 で さ ら に 「念 押 し」(ネ)を す るパ タ ー ン が 多 く使 用 さ れ る こ と を 明 ら か に す る。 第5章 で は、 東 京 方 言 と大 阪 方 言 に お け る談 話 展 開 の 方 法 に つ い て 高 年 層 を 中 心 に 記 述 す る。 そ の 結 果 、 東 京 方 言 の 説 明 的 場 面 に お い て は 、 特 に 、 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー 」、 発 話 権 取 得 ・維 持 に 関 わ る 形 式 で あ る 「ダ カ ラ 」 が 多 用 さ れ て お り、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)、 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)に 加 え て 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョ ー)を 行 う 組 み 合 わ せ パ タ ー ン が 頻 繁 に 使 用 さ れ て い る こ と を 述 べ る 。 一 方 、 大 阪 方 言 で は 、 特 に 、 自 己 確 認 形 式 で あ る 「ウ ン 」、 説 明 開 始 ・累 加 形 式 で あ る 「ソ レ デ 」 が よ く使 用 さ れ る こ と、 ま た 、 「説 明 累 加 」(ソ レ デ)を 明 示 しつ つ 、 「自 己 確 認 」(ウ ン)で 締 め く くる 組 み 合 わ せ パ タ ー ンが 多 用 さ れ る特 徴 が 認 め られ る こ と を 明 ら か に す る 。 さ ら に 、 第5章 で は 、 東 京 方 言 、 大 阪 方 言 の 結 果 と第4章 の 仙 台 方 言 との 結 果 を 比 較 す る こ と に よ っ て 、3方 言 に お け る談 話 展 開 の 方 法 の 地 域 差 に つ い て 論 ず る 。 そ の 結 果 、 仙 台 方 言 と大 阪 方 言 とが 対 照 的 な 一 っ の 典 型 と認 め られ る こ と を 明 ら か に す る。 す な わ ち 、 仙 台 方 言 は 自 分 が 発 話 権 を 持 っ こ と を ア ピ ー ル し、 情 報 共 有 を 積 極 的 に 働 き か け て い く こ とで 、 自 分 の 話 を 相 手 に 分 か ら せ よ う と努 力 す る 「他 者 説 得 型 」 の 方 言 で あ るの に 対 して 、 大 阪 方 言 は そ う し た 相 手 に 対 す る働 き か け は 消 極 的 で あ り、 話 の 進 行 を 単 純 に マ ー ク しつ つ 、 自 分 で 納 得 す る こ と に 主 眼 を 置 く 「自 己 納 得 型 」 の 方 言 で あ る と結 論 づ け る。 ま た 、 東 京 方 言 は 総 合 的 に 見 て 両 者 の 問 に 位 置 す る が 、 「発 話 権 取 得 ・維 持 」(ダ カ ラ)や 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー)の 出 現 が 目 立 つ こ とや 、 「情 報 共 有 表 示 」(ヤ ハ リ)や 「情 報 共 有 喚 起 」(ホ ラ)を 行 っ た 上 で 、 「情 報 共 有 確 認 」(デ シ ョー)を 行 う と い う パ タ ー ンが 多 用 さ れ る こ とな ど、 仙 台 方 言 に よ り近 い傾 向 を示 し て い る こ と を 明 ら か に す る。 第6章 で は 、 仙 台 方 言 に お け る 談 話 展 開 の 方 法 の 社 会 的 変 異(世 代 差)に つ い て 、 高 年 層 、 若 年 層 の 2世 代 に 分 け て 考 察 す る。 結 果 と して 、 ま ず 、 仙 台 方 言 の 若 年 層 は 、 談 話 標 識 の 出 現 頻 度 が 高 年 層 に 比 べ て 全 体 に 少 な い 傾 向 が あ る こ と を 指 摘 す る。 さ ら に 、 高 年 層 で 頻 繁 に 使 用 さ れ る発 話 権 取 得 ・維 持 形 式 で あ る 「ダ カ ラ 」 や 情 報 共 有 確 認 形 式 で あ る 「デ シ ョー 」 の 出 現 頻 度 が 低 い 一 方 で 、 大 阪 方 言 で 好 ん
で使 用 され る説 明 開 始 ・累加 形 式 の 「ソ レデ 」 や 自己確 認 形 式 の 「ウ ン」 の頻 度 が高 い こ とか ら、 同 地 域 の 高年 層 の比 べ て 大 阪 方言 的 な特 徴 も加 わ って い る こ とを明 らか にす る。 第7章 で は、 本 論 文 の 結論 を整 理 し、 この研 究 の意 義 を述 べ る。 す なわ ち 、本 論 文 は、 従 来 、 音 韻 、 ア クセ ン ト、 語 彙 、 文 法 な ど、 短 い言 語 単 位 の研 究 が 中心 に行 われ て きた 方言 研 究 の世 界 で 、 今後 、 開 拓 す べ き談 話 展 開 の 方 法 の地 域 差 を対 象 に据 えた もので あ り、 これ まで の 一連 の研 究 が 抱 えて きた方 法 論 上 の問 題 点 を踏 ま え、談 話 標 識 に注 目 し、 多 くの談 話 資 料 を計 量 的 に分 析 す る こ とで 、 仙 台 方 言 、 東 京 方 言 、 大 阪 方 言 にお け る談 話 展 開 の 方 法 の地 域 差 や 世 代 差 を よ り客観 的 に解 明 で きた と述 べ る。 本 論 文 は、 最 初 に次 の よ うな仮 説 を提 示 して い る。 一 「現 代 方 言 で は共 通 語 化 が 進 ん で い る に もか か わ らず 、 外 来 者 が 地元 の 人 との会 話 の中 で 違和 感 を感 じ るの は、 音 韻 、 ア クセ ン ト、 語 彙 、 文 法 な ど言 語 要 素 の 面 で 共 通 語化 が 進 ん だ と して も、 そ の 地 域 特 有 の話 の 進 め方 が まだ 残 って い るか らで は な い か。 そ して 、 その よ うな談 話 展 開 の 方 法 の地 域 差 は、 話 者 が 情 報 内 容 を効 果 的 に伝 え るた め に使 用 す る 談 話 標 識 に現 れ て い るの で は な いか 。」一 この仮 説 は、 日本 語 方 言 の一 部 を対 象 に した もの で は あ るが、 本 論 文 の 考 察 に よっ て あ る程 度 証 明 され た と言 え る。 本 論 文 は、 対 象地 域 は少 数 で あ る もの の 、 日本 語 の主 要 方 言 につ い て、 談 話 展 開 の 方 法 の地 域 差 の発 見 に成 功 して い る。 な に よ り、 本論 文 で提 示 され た方 法 論 は、今 後 の 同種 の研 究 の 手本 とな る こ とは ま ちが い ない 。 よ って 、本 論 文 の提 出者 は、博 士(文 学)の 学 位 を授 与 され る に十分 な資 格 を有 す る もの と認 め られ る。