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衝撃の連続

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Academic year: 2021

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 7, 2017 衝撃の連続 71

フィリピンレポート

衝撃の連続

吉田圭織1) 1) 国立病院機構仙台医療センター ウイルスセンター 臨床研修医 1 はじめに フィリピン熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine , RITM)に交換留学制度を 利用して、2016 年 11/6~11/19 の期間で行かせて いただいた。院長はじめ病院幹部ならびに研修指導 医の先生方のご理解の元、今回は研修医4 名での渡 航となった。 RITM は首都マニラ近郊に位置し、フィリピン全 土の感染症の情報収集、研究、管理を行っている。 全病床数は15 床、うち ICU は 2 床と少なく、感染 症専門医は5 名、レジデントが 3 名と小規模体制で ある。フィリピンの医療を実際に体感し、熱帯地域 で、発展途上国の医療を学ぶことが私たちの目的だ った。 写真1 RITM 正面玄関にて 2 当地での主な感染症 RITM で経験した主な感染症には HIV、結核、ジ カ熱・デング熱・チクングニアなどの蚊媒介性の感 染症、破傷風、狂犬病、動物咬傷、日本住血吸虫症 などがある。 また、フィリピンでは同姓愛者も多く、特に男性 間の性交渉による HIV 感染が増加している。貧困 や羞恥心から病院受診が遅れ、病状進行により治療 が遅れるケースが多いようだった。私たちが診た実 際の入院患者もステージⅣで、腸結核やカポジ肉腫、 ニューモシスチス肺炎などを合併し治療に難渋し ている症例ばかりだった。 また、病院にCT がないことから腸結核や肝膿瘍 など腹部疾患の診断は腹部エコーと診察のみであ った。外来では初診を見学したが、まず驚いたのは、 医師は常に N95 マスクを着けていなければならな かったことだ。初診では結核患者も特に隔離できる ような設備はなく、他の患者と同じ診察室での診察 が行われていた。初診の部屋も机といすが並べてあ る簡素なもので仕切りなどもなく、私たちの目から は、色々な所でプライバシーへの考慮が不足してい るように思えた。しかし、実際は病院の外にまで患 者で溢れかえっていたため、気にしている余裕もな いのだろうとも思った。 外来では動物咬傷・熱帯感染症も多く診ることが できた。ヘビやネズミ、猫などに咬まれ、そのまま 放置した傷が化膿して受診した人もいた。中でも毒 蛇咬傷は早期治療が必要になる。コブラは大量出血 を伴い、30 分で昏睡状態に、その後死に至る。そ のため、1 時間以内に抗血清抗体を投与する必要が ある。私たちが研修に来る1 週間前にも蛇遣いが抗 血清抗体を投与せず、亡くなっていた。

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 7, 2017 衝撃の連続 72 他にも、蚊媒介性の感染症も多く、デング・ジカ 熱・チクングニアで来院していた。いずれも主症状 としては発熱・関節痛・皮疹が挙げられるが、RITM の医師たちによれば出現する順番や強い症状によ って、3つはある程度鑑別がつくという。だだ、い ずれにしても治療は対症療法のみしかなく、軽症例 は解熱鎮痛剤で治療していた。 写真2 初診外来にて 3 HIV スクリーニング講習会 フィリピンでは、HIV 増加傾向に対して、国家的 レベルで様々な対策が講じられている。そのひとつ として、HIV 抗体検査キットによるコミュニティー レベルでのスクリーニングの普及を推進している。 研修中、Laguna 地域にある保健所にて地域でスク リーニングを担当するボランティアに対する HIV 抗体検査キットの使用方法についての講習会を見 学する機会があった。実際にその場でキットを使用 し、ボランティアとなる人たちへ使用法を説明して いた。検査の簡便さから、早期発見・診断・治療に つながることが期待され、さらなる普及が必要だと 感じた。問題点としては、ウィンドウピリオドを経 過していない時点で検査し、偽陰性になることだ。 結果に安堵し、知らぬ間に病勢が進行してしまうの である。正しい使用方法・時期を考慮し、簡易キッ トの結果だけでなく、さらなる精査をすることが重 要である。 4 狂犬病 フィリピンでは、年間2 万~3 万が動物咬傷で受 診し、そのうち狂犬病に発症し約200 人が死亡して おり、この年間死亡者数は全世界でもワースト 10 に入っているという。原因の一つとして、野良犬や 野良猫が多いことが挙げられる。フィリピンでは、 飼育犬でも家の中だけで飼うのではなく、放し飼い にしていることが多いようだ。そのため、市中で狂 犬病の感染の連鎖が起きている。もうひとつは、 写真3 HIV 抗体検査キット 写真4 実際にキットを使用し、陽性になっていた。 狂犬病ワクチン接種の普及率が低いことだ。ワクチ ンは高値であることから、国もそこに莫大な資金を 費やせないというのが現状のようだ。 研修中に狂犬病発症患者が来院し、即入院となっ た。教科書的には、症状として恐水症・恐風症、不 穏・興奮などが挙げられ、発症すれば100%死に至 る。当該患者も来院時からすでに不穏状態であり、 恐水症などの症状も認められていた。唾液でも感染 することから患者による医療従事者への感染を警 戒して、患者は檻のある部屋に隔離され、結局誰も 近寄らず、死に至る姿を見届けることしかできなか った。初めて狂犬病を診させて頂き、ワクチンなど

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 7, 2017 衝撃の連続 73 の予防策があるのになかなか普及しない実態と、発 症後の末路に非常に衝撃を受けた。 5 休日 休日は RITM の先生方にセブ島に連れて行って もらった。セブ島は日本人にも人気の観光スポット だが、地元の人しか知らない観光名所を案内してい ただいた。 写真6 川下り(カワサン) ジンベイザメウォッチングでは間近で巨大ジン ベイザメを見ることができる。朝5 時からの体験で あったが、その巨大さに恐怖と興奮が入り交じり、 眠さは一気に吹き飛んだ。中でも、5 時間に及ぶ川 下りは自分の人生の中で一生忘れることのできな い経験となった。フィリピンは海だけでなく、川の 水も透き通っていてとても美しかった。森林の狭間 から見える太陽の光が射し込み、神秘的な雰囲気と なっていた。本当に濃厚な時間を過ごさせていただ いた。 6 最後に 以上のように、フィリピンでの研修は衝撃の連続 だった。少ない医療資源の中で診断・治療をする難 しさ、熱帯感染症の多さ、HIV 感染の恐怖など日本 では経験できないことばかりであった。 日本の医療現場の質の高さを再認識し、自分達は 恵まれた環境下にいると改めて感じた。また、自分 の無力さ・知識のなさも痛感した。今後は自分で疑 問に感じ、考える医療を行えるよう心がけたいと思 った。 最後になったが、このような貴重な経験をさせて いただき、同行してくださった西村先生、2 週間で いろんな場所に連れて行ってくれたJoni、4 人での 渡航を許可してくださった院長はじめ、医療センタ ーの先生方に心から御礼を申し上げたいと思いま す。誠にありがとうございました。 写真5 RITM の先生方と

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