生 体 肝 移 植 患 者2例
の歯 科 治 療 経 験
笠 原
浩 渭 東 淳 行
小笠原
正 渡 辺 達 夫
要 旨:部 分 生 体 肝 移 植 を 受 けた 小 児 患 者2例 の歯 科 治 療 を経 験 した 。 第1例 は 胆 道 閉鎖 症 のた め7歳 時 にわ が 国3例 目 として 手 術 を受 け,最 長 期生 存 記 録 を更 新 中の 女 児 で あ る。 10歳0か 月で 当科 に 紹 介 来院 した 。 シ ク ロス ポ リン100mg,プ レ ドニ ゾ ロン1.5mgを 長 期 連 用 中で あ り,体 格 はや や 小 柄 で はあ ったが,毎 日元 気 に 通学 してお り,臨 床 検 査 結 果 で も著 しい異 常 は 認 め られ な か った。 主 訴 は上 顎 前歯 部 歯肉 の著 しい肥 厚 と中切 歯 の萌 出 障 害 で,主 治医 との 連 携 の下 に歯 肉切 除 を 行 った 。病 理 組 織 学 的 には 著 しい線 維 増 殖 は 認 め られ ず,萌 出 性 嚢胞 と診 断 され た。 以 後現 在 まで2年 以 上 に わた っ て リコー ル に よ る 歯 科 的健 康 管 理 を 行 って い るが,全 身 的 に も局 所 的 に も良 好 な経 過 を得 てい る。 第2例 は 胆 道 閉 鎖 症 の ため6歳 時 に肝 移 植 を受 け た 男児 で,上 顎 側 切歯 の 萌 出異 常 を主 訴 と して,8歳3か 月で 当科 に 紹 介来 院 した。 シ クロス ポ リン150mgな どを 連 用 中で あ った が,肝 機 能 障 害 が持 続 し,肝 脾腫,黄 疸,ム ー ン フ ェイス な どが み られ た 。C型 肝 炎 も合 併 して いた 。 体 調不 良 と出 血 傾 向 とに 加 え て,恐 怖 心 も きわ め て強 く,対 応 には 苦 慮 した が,主 治医 との 密接 な連 携 の 下 に と りあ えず の 応急 的 な処 置 か ら徐 々に 治療 を進 め, 乳歯 抜 歯4歯,修 復10歯 な どを と くに異 常 な く終 了 した。 歯科 的健 康 管 理 に 移 行 した が, 入 退 院 を反 復 して い て きちん と受 診が で きな いた め か,口 腔 清掃 状 態 が や や不 良 で 歯 肉 増 殖 傾 向が み られ る 。 Key words:肝 移植,免 疫 抑 制,シ クロス ポ リン,歯 肉 増殖 は じ め に 臓 器 移植 を受 け た 患 者 で は,免 疫 抑 制 剤 の連 用 に よる さま ざま な副 作 用 や 感 染症 へ の抵 抗 減 弱,あ る いは 以前 の臓 器 機 能 不 全 の 後 遺症 な ど,歯 科 治 療 や保 健 管 理 上で も特 別 な配 慮 を 要 す る こ とが 少 な くな い 。著 者 らは 部分 生 体 肝 移 植 を 受 け た 小 児患 者2例 の 歯 科 治療 を経 験 した ので,そ の概 要 に 若 干 の考 察 を加 え て 報告 す る。 症 例1 患 者:T.Y.,1983年3月7日 生 まれ,女 児 主 訴 お よび 既 往 歴 主 訴:上 顎 前 歯 部 の歯 肉腫 脹 と中 切 歯 の萌 出遅 延 初 診:1992年4月1日(10歳0か 月) 既 往歴:満 期 正 常 分 娩,生 下時 体 重3,430g,出 生 直 後 よ り黄 疸 が 強 く,胆 道 閉 鎖症 と診 断 され,生 後50日 お よび80日 に肝 門部 腸 吻 合 術 な どの 開腹 手 術 を受 け た。 し か し,依 然 と して胆 汁 排 泄 が不 良 で 黄 疸 が 持 続 し,肝 硬 変が 進 行 した た め,1989年6月19日(7歳3か 月)に 信 州大 学 医 学 部附 属 病 院 に てわ が 国 で3例 目の 部分 生 体 肝 移植 手 術 を受 け た 。 術後 の経 過 は 順 調 で,こ の 手術 で の 最長 期 生存 記 録 を 更 新 中 で あ る。 予 防 接 種 は 一 切受 け て い な いが,他 に は と くに著 患 を経 験 す る こ と もな く,現 在 も元 気 に 毎 日小 学 校 へ通 学 して い る。 現 病歴:乳 歯 お よび 第一・大 臼 歯 の 萌 出 に は 遅 延 は な く,爾 蝕 等 につ いて も と くに症 状 を 訴 え る よ うな こ とは なか った が,上 顎 中 切歯 部 の歯 肉 が 約2年 前 か ら次 第 に 腫 脹 して きて,側 切歯 が萌 出 して きた に もか か わ らず, 中 切歯 は ま った く出 て こな い との こ とで あ る 。 な お,上 顎 乳 切歯 は7歳 の 肝 移植 手 術 時 に,動 揺 が あ っ た との こ とで 抜 歯 され て い る。 主 治医 か ら当 科 へ の 受 診 を 勧 め ら れ て来 院 した 。 初 診時 現 症 全 身 的 所 見:身 長115cm,体 重26kgと や や小 柄 で は あ るが,栄 養状 態 は 良好 で,顔 貌 や 全 身 皮 膚 に も黄 疸, 貧血 な どの異 常 所 見 は まっ た く認 め られ な い 。運 動 発 達 松 本歯 科大 学 障 害 者 歯 科 学 講座 塩 尻 市 広 丘郷 原1780 (主任:笠 原 浩 教 授) (1994年8月26日 受 付)な らび に精 神 発 達 も正 常 範 囲 内 に あ った 。 免疫 抑 制 療 法 と して シ ク ロス ポ リン100mg,プ レ ドニ ソ ロ ン1.5mg を 毎 日内服 してい る。 口腔 内所 見:上 顎 側 切歯 が すで に萌 出 して い る に もか か わ らず,中 釦 歯 は 未 萌 出 で 著 し く肥 厚 した歯 肉 に 覆わ れ て い る(図1)。 上下 歯 列全 体 に も 歯 肉 辺縁 の発 赤 腫 脹 と軽 度 の 増 殖 傾 向 が 認 め られ る。 麺 蝕 は 臼歯 部 にCエ 程度 の もの が 数 歯 あ るの み で あ る が,萌 出 した永 久 歯 は いず れ も黄 褐 色 に着 色 して い る。 臨 床 検 査 結 果:血 液 一般,尿 定 性 お よび面1液凝 固 系 に つ い て の検 査 値 は い ずれ も正常 範 囲 内で あ った 。 ∫血液 化 学 検 査 で はTTTが 正 常値 の上 限 を わ ず か に超 えた の を 除 き,肝 機 能 を 示 す値 に も異 常 は 認 め られ なか った 。 画 像 診 断 結 果:口 内法 エ ックス 線写 真 お よび オ ル ソバ ソ トモ グ ラ フで の所 見で は ,永 久歯の形成 その ものには 菩 しい異 常 は 認 め られ なか った 。 手 根骨 エ ックス 線 写真 に よ る骨 年 齢 は ほぼ 暦 年 齢 相 当で あ った 。頭 部 エ ッ クス 線 規 格 写 真 の分 析 結 果 で は,顎 顔 面 形態 もほぼ 正 常 範 囲 内に あ る と考 え られ た 。 治療 方針 お よび 経 過 上 顎 中 切歯 部 はす で に約2年 前 か ら こ う した 状 態 が継 図1症 例1の 初 診 時:上 顎 中切 歯部 の 腫脹 図2症 例1の 歯 肉切 除1か 月 後 症 例1T.Y. 初 診 時 口腔 内所 見19924.1(10歳0ヵ 月) 定 期 検診 時 ロ腔 内 所見1994.3.1(11歳11ヵ 月) 図3症 例1の 口腔 内所 見 続 して い る との こ とで,歯 肉 は線 維 化 して いて 自然萌 出 は 困難 と考 え られ た 。 肝 移 植 後 の 管理 を担 当 して い る外 科 医 とも協 議 の結 果.抗 生 物 質(ABPC)カ バ ー下で 歯 肉 を切 除 し,開 窓 す る こ と と した 。肝 機 能 そ の 他 の臨 床 検査 結 果 に 著 しい異 常 が な い こ とを 確認 した 上 で,工992 年4月3Flに 局 所 麻 酔 下 に 上 顎 切歯 部 の歯 肉 切除 を 行 っ た。 創 の治癒 は良 好 で,上 顎 中切 歯 は順 調 に萌 出 し,約 1か 月後 に は 図2の よ うに ほ ぼ 正常 の外 観 とな っ た。 な お,切 除 した歯 肉 の 病 理 組 織 学的 診断 は 萌 出 性 嚢 胞で, 歯 肉 の固 有 周 には 著 明 な 線 維増 殖 は み られ な か った。 以 後 も約3か 月間 隔 で 定 期 的 に受 診 させ,側 方歯 群 の 交換 の監 視 と ともに,初 期 蘭 蝕 の充 填,シ ー ラ ン トな ど の予 防 処 置 や ブ ラ ッシ ン グ指 導 な ど を行 って きて い る。 図3は,初 診時 な らび に1994年3月 現 在 の 口腔 内所 見 チ ャー トで あ る。 一 般 健康 状 態 は 良 好 で,歯 科 的 に も永 久歯 の 着 色 以外 に は 問 題 が な い。 症 例2 患 児=Y.S.,1984年7月10日 生 まれ,男 児 主 訴 お よび 既 往歴 主 訴1上 顎 乳 側 切 歯 の吸 収 不 全 と永 久 歯 の異 所 萌 出 お よび 付近 歯 肉 か らの 出1飢 初 診:1992年11月4日(8歳3か 月) 既 往 歴1満 期 了E常分 娩,生 下 時 体 重3,200g,出 生 直 後 よ り黄疸 が 強 く,胆 道 閉 鎖 症 と診 断 され,肝 門部 腸 吻 合 術 を 受 けた が 肝機 能 の改 善 が 得 られ ず,1990年10月 (6歳3か 月)に 信 州大 学 医学 部 附 属 病 院 に て 部 分 生体 肝 移植 手術 を受 け た 。 しか し,術 後 の経 過 は必 ず しも順 調で は なか った との こ とで,現 在 も肝脾 腫 と術 後C型 肝
炎 が 存 在 し,肝 機 能 障 害 が 認 め られ て い る。 現 病 歴:入 退 院 を繰 り返 して いる た め,系 統 的 な 歯科 治 療 を受 け る機 会 が な く,多 数 歯 の鵬 蝕 が あ るに もか か わ らず,ほ とん ど放 置 され て い た 。数 か 月前 に 左右 上 顎 側 切歯 が 乳 歯 の 裏 側 に萌 出 して きた の に気 付 き,主 治 医 に 相 談 した と ころ,当 科 を 紹 介 され た 。 初 診時 現 症 全 身 的 所 見=身 長108cm,体iE20.5kgと 若 干の 発 育 の 遅 れ が あ る。顔 貌 は 中 等 度 の ム ー ンフ ェイス,結 膜 に は 軽 度 の 黄 疸が 認 め られ,腹 部 は肝 脾 腫 の た め腫 大 して い る。 医療 行 為 に対 す る恐 怖心 が強 い よ うで,歯 科 医 師 や ス タ ッフに は ほ とん ど 口を きい て くれ な い 。 現 在 の 常 用薬 は,免 疫 抑 制 薬 シ ク ロス ポ リン150mg の ほ か,ザ イ ロ ッ ク⑭50mg,ウ ル ソ⑪90mg,ケ ー ワン⑭ 20mg,ゾ ビ ラ ッ クス⑭75mg/日 とな っ てい る。 口腔 内所 見:主 な 異 常所 見 は,① 左 右 上 顎 乳側 切歯 の 口蓋 側 に 側 切 歯 が転 位 萌 出 して い る(図4)。 ② 全 顎 にわ た っ て歯 肉 縁 が発 赤 腫 脹 して い る。 と くに 叢生 状 態 とな っ て い る右上 顎切 歯 部 が ひ ど く,接 触 に よ って容 易 に 出血 す る 。 ③ 多 数 歯 重 症 麺 蝕(左 右 下 顎 第一 乳 臼 歯 は 全 面 崩 壊 し,鋭 利 な辺 縁 が 舌 を 傷 つ けか ね な い状 態 と な っ て い る。 萌 出 した ば か りの 第 一大 臼歯 もC2と な っ て い る)。 ④ す べ て の永 久 歯 が 緑 褐 色 に着 色 して い る。 ⑤ 口腔 清 掃 不 良 で ほ とん どす べ て の 歯 面 に 歯 垢が 付 着 して い る。 臨 床 検 査 所 見:軽 度 の貧1血と中 等度 の肝 機 能 障害 が 認 め られ た 。 凝 固 系 に も プ ロ トロン ビ ン時 聞の延 長 な どの 異 常 が 認 め られ た。(表1) 画 像 診 断 結 果:口 内法 エ ッ クス 線写 真 お よび パ ノ ラマ エ ックス線 写 真 所 見で は ,と くに著 しい異常は認め られ な か った 。 治療 方 針 お よび 経 過 歯 肉 出 揃1の原 因 と もな って い る吸収 不 全 の 乳 側切 歯の 抜 歯 に つ いて,外 科 の主 治医 と 協議 した結 果,わ ず か な 侵 襲 で 処 置 で き る と判 断 し,抗 生 剤(ABPC)カ バ ー下 で 低 濃 度 笑 気 と 局 所 麻 酔(3%シ タ ネス ト⑭)を 併 用 し て抜 歯 した 。 抜 歯 後 の 出血 が や や 遷延 気 味で あ ったが, 治癒 は順 調 で あ った 。 他 に も進 行 した 爾 蝕が 数 歯 あ った が,当 初 は体 調 不 良 で 入 退院 を繰 り返 す とい う状 況で あ っ た の で,鋭 縁 の研 磨 と翻 窩 の仮 封 な どの応 急 的 な処 置 に 止 め た 。 恐 怖心 が きわ め て強 く,behaviormanagementに は十 分 な 配慮 が 必要 で あ った が,主 治医 との密接 な連 携 の下 に,徐 々 に歯 科 治療 を 進 め,検 査や トレー ニ ングを 含 め 14回 の通 院 で,抜 歯4歯,修 復10歯 な どの処 置 を,と く に 異 常 な く完 了で きた 。 以 後は 約3か 月毎 の リコー ル に よ る健 康 管理 に移 行 し た が,肝 機 能 障害 は 依 然 と して持 続 し,体 調不 良で ア ポ イ ン トメン トが キ ャン セル され る こ とが 少 な くな い状 態 図4症 例2の 初 診 時:口 腔 内は 不 潔 で食 渣 が 付 着 して い る が,出 血 が こわ くて磨 け な い とい う。 表1症 例2の 臨床 検 査 所 見 〔臨床 検 査 所 見 〕 症 例2Y.S.92/11/11 症{列2Y.S. 初 診時 口腔 内 所 見199211.4(8歳2ヵ 月) 定 期 検診 時 口腔 内 所見1994.3,31(9歳8ヵ 月) 図5症 例2の 口腔 内所 見
で あ る。 爾 蝕 は ほ ぼ コ ン トロー ル され て い るが,口 腔清 掃状 態 は依 然 と して あ ま り良 くな く,上 顎 前歯 部 の歯 肉 炎 と増 殖 傾 向が 持 続 して い る。 図5は,初 診 時 な らび に1994年3月 現 在 の 口腔 内所 見 チ ャー トで あ る。 考 察 生体 部 分 肝 移 植 に つ い て 発 生 頻 度 が 出生1万 対1と い われ る先 天 性 胆道 閉 鎖 症 で は,早 期 に肝 門 部 腸 吻 合 術 が 行わ れ るが,手 術 に よ っ て も胆汁 うつ 滞 が 改 善 され ず,肝 機 能 障 害 が 進 行 す る症 例 も少 な くな い。 経 過 不 良 例 で の唯 一 の救 命 手段 は肝 移 植 で あ り,脳 死 体 か らの 臓 器 移植 に合 意 が 得 られ て いな いわ が 国 に お い ては,部 分 生体 肝 移 植1)と な る 。 生 体 か らの肝 移 植 は,1988年 に ブ ラジ ル のRaia2)が 最 初 に 実 施 して い るが,ド ナ ーの リス クが 問 題 とな るた め,欧 米 で は脳 死 体 か らの移 植 が 主 とな っ て い る。わ が 国 で は1989年 の 島根 大 学 で の第1例 か ら1992年9月 末 ま で に62例 が 実施 され たが,そ の す べ て が親 子 間 で の部 分 生 体 肝 移植 で あ り,少 数 の死 亡 例 は あ る ものの,そ の大 半 で は 良好 な経 過 が得 られ て い る3)。 しか しな が ら,生 涯 にわ た る免 疫 抑 制,移 植 臓 器 へ の 拒 絶 反 応,感 染 症 へ の抵 抗 性 減 弱,脾 腫,発 育 障 害,リ ンパ系 腫 瘍 の多 発 な ど,術 後 の長 期 管 理 に は多 くの 問題 点4)が あ り,歯 科 治 療 に 際 して も慎 重 な対 応 が 求 め られ る ◎ 免 疫 抑 制 剤 の 副 作 用 臓 器 移 植 を受 け た 患 者 で の大 き な問 題 は,臓 器 免 疫抑 制 剤 と して の シ ク ロス ポ リソや ス テ ロイ ド剤 な ど の長期 連 用 の影 響 で あ る。 医 原 性 免疫 不 全 状 態 とな って い る こ とか ら,各 種 の 感 染 症 にか か りやす く,か つ 重症 化 しや す い 。 翻蝕 に継 発 した歯 根 膜 炎 や歯 周 炎 に も十分 に注 意 す る必 要が あ る。 ま た,抗 菌 剤 の不 用 意 な 乱用 は,日 和 見 感 染 の誘 発 に つ なが りか ね な い。 シ ク ロスポ リ ンが歯 肉増 殖 を誘 発 す る こ と も歯 科 的 に は大 きな問題 点で あ る。Rateitschak-PIUssら5>は,シ ク ロス ポ リン開 発 後 間 もな い1983年 に,早 く もそ の副 作 用 と して歯 肉 の過 形 成 を 報 告 して い る。Tejaniら6)は 腎 移 植 を 受 け シ ク ロス ポ リンを投 与 され て い る小 児 の29.7 %に 歯 肉増 殖 症 が 発 現 した と述 べ,そ の 他 に も同様 の 報 告 が 少 な くな い。 わ が 国 で の サ ンデ ィ ミュ ン⑧ 発 売 元 の サ ン ド薬 品が 厚 生 省 に提 出 した 副 作 用 調 査 結 果?)に よれ ば,発 売 後6年 間 で 歯 肉肥 厚53例(2.07%),増 生7例 (0.27%),腫 脹7例(0.27%),歯 肉炎12例(0.47%)な どが報 告 され て い る◎ 肝 移 植 を 受 け た症 例 に つ い て は,わ が 国 で は 大 多和 ら8)が オ ース トラ リアで 移 植 手 術 を 受 けた 小 児9例,船 越 ら9)が 小 児5例 の歯 科 的 所 見 を報 告 して い るが,い ず れ に お い て も,ほ とん どの症 例 で シ クロス ポ リ ン投 与 と 関 連 した と思 わ れ る歯 肉増 殖 傾 向が 認 め られ て い る。 船 越 ら1◎)は,さらに3歳 女 児 の1例 で 前 歯 部歯 問 乳頭 の著 明 な歯 肉増 殖 につ いて,病 理組 織 学 的 所 見 か ら,こ の薬 剤 の酬 作 用 に 炎症 が 関与 して い る こ とを推 測 して い る。 動物 実 験 で も丸川 らi1)が,ラ ッ トで シ ク ロス ポ リンA の経 口投 与量 と歯 肉肥 大 の 重 症 度 とが 正 の相 関 を 示 し, 歯 肉は 上 皮 層 が厚 くな り,上 皮 下 に線 維 性 結 合 組 織 が顕 著 に増 生 す る こ とを認 め て い るか ら,こ の薬 が ジ フ ェ ニ ル ヒダ ソ トイ ンや ニ フ ェジ ピン と同 じ よ うに 歯 肉 増 殖 を 誘発 す る こ とに は疑 問 が な い 。 しか しな が ら,こ れ らの 薬 剤 を 長期 大 量 に 投 与 され て い て も,歯 肉増 殖 が 発 現 しな い 患者 も少 な くは な い 。 そ の発 症 機 序 に つ い ては 必 ず し も明 らか で は な いが,多 く の 臨床 報 告 ユ2∼14)がプ ラー クの 存 在 を 増 殖発 現 の 一 次 的 要 因 と して 重 要 視 して い る。 著者 らの経 験 も この こ とを裏 付 け る もので あ る。 第1 例 の よ うに 日常 的 な ブ ラ ッシ ン グ と定 期 的 な受 診 とに よ って 清 潔 な 口腔 が 維 持 で き て い る場 合 に は,大 量 の シ ク ロス ポ リン とス テ ロイ ド連 用 に もか か わ らず,著 しい歯 肉 増 殖 は ま った く認 め られ な くな る。逆 に 第2例 で は, 体 調 不 良 のた め に ブ ラ ッ シ ングが 励 行 で きな くな って い た 時 期 や乳 歯 残 根 の 存在 部 位 には 歯 肉 増 殖 の悪 化 傾 向 が 認 め られ た。 肝 移植 患 者 のQOL,と 歯 科 的 健 康 わ が 国 で も肝 移 植 が 次 々 に実 施 され る よ うに な り,長 期 生 存 例 も少 な くな い 。 この手 術 の適 応 に は,胆 道 閉 鎖 症 な どの 先天 異 常 を 伴 う低 年 齢 児 が 多 く,小 児 期 の長 期 予 後 管理 には 小 児 科 医 と と もに小 児 歯 科 医 の 関与 が 不 可 欠 と考 え られ る。 煽 蝕 の コ ン トロール と清 潔 な 口腔 の 維 持 とは,術 後 の 医原 性 免 疫 不全 状 態 にお け る感 染 症 の予 防 ば か りで な く,そ し ゃ く機能 の 確 保 に よる成 長 発 育 の 促 進 と快 適 な 食 生 活 の た め に も きわ め て 重要 な意 義 が あ る か ら で あ る。 著者 らの 症 例 で は,歯 肉 切 除 や 抜歯 を含 む 治 療処 置 に 際 して,全 身 管理 面 のみ な らず 行 動 管理 而 で も さ ま ざま な 困難 を 伴 った が,既 存 の 歯 科 疾 患 を一 掃 して,定 期 的 受 診 に よ る歯 科 的健 康 の維 持 に成 功す る こ とが で きた 。 これ に は各 科 専 門 医 の チ ー ム ワー ク も 不 可欠 で あ った が,本 人 と家 族 に歯 科 的 健 康 の意 義 を 十分 に理 解 させ 得
た こ とが 大 きい 。 ま と め 部分 生 体 肝 移 植 を 受 け,免 疫 抑 制 剤 シ ク ロス ポ リンな どを 長期 連 用 中 の小 児 患者2例 の歯 科 治療 の経 験 か ら, 次 の 結論 を得 た 。 1)移 植 後 の経 過 が 良 好 な症 例(第1例)で は,一 般 状 態 には 著 しい異 常 は認 め られ な か ったが,肝 機 能障 害 が 持 続 して い る症 例(第2例)も あ り,歯 科 治療 に 際 しては,主 狛医 との 密接 な 連 携 が 不 可欠 で あ る。 2)移 植 後 は 医原 性 免 疫 不 全 状態 で あ り,感 染 症 の危 険 を 重 大 視 しな けれ ば な らな い。 3)シ ク ロポ リンの副 作 用 と して歯 肉増 殖 が 誘発 され や す いの で,徹 底 した プ ラ ー ク ・コ ン ト獄 一ルが 必 要 で あ る。 4)肝 移 植 を 受 け た小 児 に と って,翻 蝕 の コ ン トロー ル と清潔 な 口腔 の 維 持 とは きわ め て 重要 な 意 義 が あ り,長 期 予 後 管 理 に は小 児 歯 科 医 の 関与 が 不 可欠 と 考 え られ た 。 本 論 文 の要 旨は,第32回 日本 小 児 歯 科学 会 大 会(1994 年5月,長 崎 市)に お い て発 表 した。 文 献 1)川 崎誠 治,幕 内雅 敏:部 分 生 体 肝 移植,別 冊 ・医 学 の あ ゆみ,消 化 器疾 患H,初 版,医 歯薬 出版, 東 京,1993,p.297-299.