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ナスタチウムの花芽発達過程と開花に及ぼす温度の影響

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Academic year: 2021

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ナスタチウムの花芽発達過程と

開花に及ぼす温度の影響

野口有里紗*ῌ市村匡史*

ῒ平成 +0 年 ++ 月 ,, 日受付ῌ平成 +1 年 1 月 ,* 日受理ΐ 要約 : ナスタチウムの花芽発達過程を観察し῍ 開花に及ぼす温度の影響を検討したῌ .῏0 月のガラス室内に おける栽培では῍ 花芽分化は播種 ,- 日後に῍ 開花は播種 .. 日後に観察されたῌ 花芽発達過程は 0 段階に分 類でき῍ それらは分化初期῍ がく片形成期῍ 雄ずい形成期῍ 花弁形成ῌ雄ずい発達期῍ 花弁発達期῍ 雌ずい 発達期であったῌ 花弁よりも雄ずいが先行して発達する現象が確認されたῌ -*ῌ,/῕ では開花数が激減し῍ 生育が著しく抑制されたῌ -*ῌ,/῕ の花芽はがく片形成期から雄ずい形成期 で発達が停止しており῍ 高温によって発生したブラインドが開花数減少の原因となっていたῌ キ῍ワ῍ド : ナスタチウム῍ 花芽発達῍ 開花῍ 温度῍ ブラインド ῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍

ナスタチウムῒTropaeolum majus L.ΐ は῍ 南米原産のつ る性の + 年生植物であるῌ 金蓮花 ῒキンレンカΐ とも呼ば れ῍ 日本には江戸時代に観賞用植物として渡来したῌ 花は 腋生で単生し῍ 長い花柄をもつῌ また῍ 特有のぴりりとし た辛味があり῍ ハ῎ブやエディブルフラワ῎としても利用 されているῌ 筆者らはこれまでにハ῎ブ類の花芽分化と栽培環境の関 係について研究してきた0, +*ΐ ῌ ナスタチウムの花芽分化発 達過程に関しては DECRAENEῌSMETS,ΐ ῍ DEVIῌNARAYANA-ΐ による報告があるῌ しかし῍ これらはナスタチウムの植物 学的な分類を行うことを目的としており῍ 発達過程の区分 や分化から開花までの所要日数が不明であるῌ そこで改め て花芽発達過程を観察したところ῍ 新たな知見が得られた ため報告するῌ また῍ ナスタチウムは夏から秋に開花し῍ 高温に弱い+/ΐ とされるが῍ その原因について述べられた報告はほとんど みられないῌ そこで῍ 高温期に栽培することで表れる問題 を検討するため῍ 異なる温度条件で開花と生育を調査し῍ 問題発生時の花芽の状態を観察したῌ

材料および方法

実験にはナスタチウムῐホワリ῎バ῎ドῑῒサカタのタネΐ を用いたῌ + ポットあたり - 粒を播種し῍ 発芽後に間引き して + ポット , 株としたῌ 赤土とバ῎ク堆肥を + : + で混 合したものを用土とし῍ 用土 +* L あたり硫安 / g, 過リン 酸石灰 -* g, 塩化カリウム , g を全量元肥として施したῌ 各株の第 + 花の開花日と開花節位を記録し῍ 開花するごと に花柄基部から適宜採取して花の重量と開花数を測定し たῌ 栽培終了時に主茎葉数と主茎長῍ さらに生体重を測定 したῌ +ῌ 花芽発達過程の観察 ,***年 . 月 ,1 日に直径 +/ cm のポリ塩化ビニルポット に播種し῍ ガラス室 ῒ無加温ΐ で栽培したῌ 子葉展開時の /月 0 日から 1 日おきに - 株ずつ採取し῍ 花芽の発達過程 を実体顕微鏡下で観察したῌ 栽培期間中のガラス室内の平 均気温は ,+.0῕῍ 最低気温は +-῕῍ 最高気温は --῕ で あったῌ ,ῌ 温度の影響 ,**-年 +, 月 +* 日に +ῌ/,*** a ワグナ῎ポットに播種 し῍ 昼温ῌ夜温が ,*ῌ+/῕῍ +, 時間日長の人工光ファイトト ロン内で発芽まで管理したῌ 発芽した +, 月 +/ 日から温度 を ,*ῌ+/῍ ,/ῌ,*῍ -*ῌ,/῕ に設定した +, 時間日長῍ 光強度 .**mmolῌm῔,ῌs῔+の人工光ファイトトロンに各区 +* ポット ,* 株を搬入して῍ 3* 日間栽培したῌ

+ῌ 花芽発達過程の観察 花芽発達過程を図 + と表 + に示したῌ 主茎先端の茎頂は 栄養生長を続け῍ 葉腋で花芽が形成されたῌ 花芽は播種後 ,-日に῍ 開花は播種後 .. 日に確認された ῒ表 +ΐῌ 主茎の 第 + 花着生節位は 1῏++ 節目であったῌ 葉腋で形成された花芽の発達過程を分化初期から雌ずい 発達期までの 0 段階に分類した ῒ図 +ΐῌ 未分化期 : 茎頂は扁平で῍ 基部が葉原基に取り囲まれて いるῌ ῌ῍分化初期 : 葉腋生長点の頂部は扁平であるが῍ 花芽 *東京農業大学農学部農学科 東京農大農学集報῍ /* ῒ-ΐ῍ 1+῍1/ ῒ,**/ΐ

(2)

基部を左右からはさみこむように῍ 逆 U 字形のがく片原 基が形成されるῌ このときの花芽直径は約 *., mm であるῌ ῌ῏がく片形成期 : 花芽周縁に / 枚のがく片が形成され るῌ 伸長したがく片は重なり合うように花芽中心部を包み 込むῌ このときの花芽の直径は *.-῎*./ mm であるῌ ῍῏雄ずい形成期 : がく片に包まれた内側で雄ずいが形 成されるῌ このときの花芽の直径は約 *./ mm であるῌ ῎῏花弁形成ῌ雄ずい発達期 : 形成された 2 個の雄ずい 表 + ナスタチウムの花芽発達過程 図 + ナスタチウムの花芽発達過程 ab :腋芽 L :本葉 sp :がく片 pt :花弁 st :雄ずい ps :雌ずい

(3)

が発達するῌ 雄ずい基部付近に / 個の花弁原基がみられる が小さく῍ 発達が停滞しているῌ 丸かった花芽が生長に伴 い῍ 長卵型のつぼみの形状をとりはじめるῌ この期の花芽 の長径は約 +῏+./ mm であるῌ ῎ῐ花弁発達期 : がく片の内側にある葯がおよそ + mm に発達した頃から῍ 花弁の伸長が始まるῌ 半透明であった 葯が῍ 黄色に着色し始めるῌ このときのつぼみの長さは約 ,῏. mm であるῌ ῏ῐ雌ずい発達期 : がく片の内側で葯全体が黄色となり῍ 葯の長さがおよそ - mm に達するῌ 中心部には子房上位の 雌ずいが形成され῍ 花糸の伸長が始まるῌ このころのつぼ みの長さは約 /῏1 mm であるῌ つぼみが約 +*῏+/ mm に達する頃には῍ 内部の花弁が 着色し῍ 雄ずいの花糸が伸長するῌ 花弁とがく片は雄ずい の +./ 倍ほどの長さになり῍ 雌ずいの長さも ,῏- mm とな るῌ 開花した花の直径はおよそ / cm で῍ がく片῍ 花弁῍ 雄ず い῍ 雌ずいが線対称に配置されていたῌ 観賞に耐えうる期 間は -῏/ 日であり῍ それ以降は花弁のしおれ῍ 傷みが見ら れたῌ ,ῌ 温度の影響 開花率は ,/ῌ,*ῒ 区では +**῍῍ ,*ῌ+/ῒ 区では 3*῍ で あったが῍ -*ῌ,/ῒ 区では +/῍ と著しく低かった ῐ表 ,ῑῌ 第 + 花開花日と第 + 花着花節位には処理による有意差は見 られなかったῌ -*ῌ,/ῒ 区では生育が著しく抑制され῍ 分枝もほとんど 見られず῍ 実験中に ,*῍ の株が枯死したῌ 腋芽の状態を実 体顕微鏡で観察したところ῍ 花芽発達がῌῐがく片形成期 から῍ῐ雄ずい形成期で停止し῍ 変色している花芽もみら れたῌ 実験終了時までの開花数と主茎葉数῍ 分枝数は ,*ῌ+/ῒ 区と ,/ῌ,*ῒ 区に差は見られなかったῌ しかし῍ + 花あた り生花重と主茎長῍ + 株あたり生体重は ,*ῌ+/ῒ 区で最も 大きかったῌ

ナスタチウムは῍ +3 世紀からヨ῎ロッパで観賞用として 利用されていたにもかかわらず῍ 現在でも科や属の分類が 明確となっていない植物であるῌ SPARREῌANDERSSON+-ῑ

は全体的な形態から῍ HETHELYIῌDABINE/ῑ は種子の脂肪酸 構成から῍ DECRAENEῌSMETS,ῑ は雄ずいと雌ずい配置の変 化から分類ができることを報告しているῌ 花芽の各器官は外縁部から求心的に発生し発達していく のが一般的であるが῍ 今回観察した結果から῍ ナスタチウ ムでは花弁と雄ずいの発達順序が逆であることが明らかと なったῌ DECRAENEῌSMETS,ῑは本実験で用いた

Tropaeo-lum majus L. を含むノウゼンハレン科 - 属について花芽 原基の分化順序を検討しているが発達の逆転については触 れていないῌ 雄ずいが花弁に先行して発達する現象はアヤ メ科のアイリスやフリ῎ジアで研究されており2, +.ῑ ῍ 分化 したばかりの花弁原基が非常に小さく῍ その発達が遅れる ために逆転して見える1ῑ ῌ 同様の現象は῍ フウロソウ科ペラルゴニウム3ῑ とゼラニ ウム+0ῑ ῍ さらにアブラナ科蔬菜.ῑ でも報告されているῌ フ ウロソウ科とナスタチウムの属するノウゼンハレン科は形 態的特性に共通点が多く῍ CRONQUIST+ῑ と DEVIῌN ARA-YANA-ῑ は近縁に分類しているῌ 一方῍ アブラナ科とナスタ チウムは共に特有の辛み成分であるカラシ油配糖体を持 ち῍ RODMANら++ῑが両者の遺伝起源が同じであることを明 らかにしているῌ 今回῍ ナスタチウムの花芽分化発達過程 にフウロソウ科῍ アブラナ科と共通する雄ずい発達の逆転 現象が見られたことから῍ ノウゼンハレン科῍ フウロソウ 科῍ アブラナ科の - 科はこれまで研究されてきた以上に関 連が深いものであり῍ 分類を明らかにするためには更なる 調査が必要と推察されるῌ ナスタチウムの開花数は ,*ῌ+/ῒ 区と ,/ῌ,*ῒ 区で差が みられなかったが῍ -*ῌ,/ῒ 区では著しく減少したῌ ミヤ コワスレは総包形成期から花弁形成期に高温に遭遇すると 花芽発達が妨げられるブラインドの発生が激増する+,ῑ ῌ -*ῌ,/ῒ 区のナスタチウムの腋芽を観察したところ῍ 花芽 の多くはがく片῏雄ずい発達期で発達が停止していたῌ ナ スタチウムは ,/ῒ 以上の高温でブラインドを発生し῍ こ れによって -*ῌ,/ῒ 区の開花数と分枝数が激減したと考え られるῌ ブラインドを引き起こす要因が -*ῒ の昼温と ,/ῒ の夜温のどちらにあるのか῍ また῍ 生育と開花を抑制 する境界温度は何ῒであるかは今後の検討課題であるῌ 引用文献

+ῑ CRONQUIST, A., +32+. An integrated system of classific-ation of flowering plants, Columbia Univ. Press, New York.

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,῏ DECRAENE, L.P.R. and E.F. SMETS, ,**+. Floral develop-mental evidence for the systematic relationships of Tro-paeolum (Tropaeolaceae), Annals of Botany, 22, 213ῌ23,. -῏ DEVI, D.R. and L.L. NARAYANA, +33.. Floral anatomy of

Tropaeolaceae, Feddes Repertorium, +*/, .-1ῌ..-. .῏ 藤目幸擴ῌ垣淵和正ῌ +33.῍ 走査型電子顕微鏡によるアブ

ラナ科蔬菜の花弁形成時期の観察ῌ 園学雑ῌ 0-ῌ -2/ῌ-3,. /῏ HETHELYI, I. and L.E. DABINE, +320. GC/MS and HPLC

study on the seed oil of Tropaeolum species, Herba Hungarica, ,/, +,3ῌ+.*

0῏ 市村匡史ῌ野口有里紗ῌ ,**.῍ スイ῎トバジルの花芽発達 過程ῌ 東農大集報ῌ .3ῌ .-ῌ.0.

1῏ KINET, J.M., R.M. SACHSand G. BERNIER, +32/. The physi-ology of flowering, Vol. -. CRC Press. Boca Raton, Flor-ida, p. +/ῌ-+.

2῏ 小杉 清ῌ +3/1῍ フリ῎ジアの花芽分化に関する研究 第 +

報 花芽の分化期及び花芽の発育経過についてῌ 園学雑ῌ

,,ῌ 0+ῌ0-.

3῏ LOEHRLEIN, M. and R. CRAIG, ,***. Floral ontogeny of

Pel-argoniumῐdomesticum, J. Amer. Soc. Hort. Sci., +,/, -0ῌ .*.

+*῏ 野口有里紗ῌ富高弥一平ῌ ,**-῍ ディルの花芽分化過程と 開花に及ぼす遮光の影響ῌ 東農大集報ῌ .2ῌ +-1ῌ+.+. ++῏ RODMAN, J., R.A. PRICE, K. KAROL, E. CONTI, K. J. SYTSMA

and J.D. PALMER, +33-. Nucleotide sequences of the rbcL gene indicate monophyly of mustard oil plants, Ann. Missouri Bot. Gard., 2*, 020ῌ033.

+,῏ 重岡廣男ῌ大河内信夫ῌ +33,῍ ミヤコワスレの花芽発達段 階における温度がアボ῎ション発生に及ぼす影響ῌ 生物環 境調節ῌ -*ῌ +*1ῌ++,.

+-῏ SPARRE, B. and L. ANDERSSON, +33+. A Taxonomic revi-sion of the Tropaeolaceae, Opera Botanica, +*2, /ῌ+-3. +.῏ 塚本洋太郎ῌ +303῍ 花卉総論ῌ 養賢堂ῌ 東京ῌ p. ,,2ῌ-*/. +/῏ 塚本洋太郎ῌ +32.῍ 原色花卉園芸大事典ῌ 養賢堂ῌ 東京ῌ p.

2*-ῌ2*..

+0῏ WETZSTEIN, H.Y., and A. ARMITAGE, +32-. Inflorescence and floral development in Pelargoniumῐhortorum, J. Amer. Soc. Hort. Sci., +*2, /3/ῌ0**.

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Flower Bud Development and E#ects

of Temperature on the Blooming

of Nasturtium (Tropaeolum majus L.)

By

Arisa N

OGUCHI

* and Masashi I

CHIMURA

*

(Received November ,,, ,**./Accepted July ,*, ,**/)

Summary : Floral initiation and development of nasturtium (Tropaeolum majus L.) was examined. Flower bud di#erentiation occurred at ,- days and bloomed .. days after sowing in the greenhouse from April to June. Flower bud was axillary and developmental stages of nasturtium were divided into 0 stages : (ῌ) di#erentiation stage, (῍) sepal di#erentiation stage, (῎) stamen di#erentiation stage, (῏) petal di#erentiation and stamen formation stage, (ῐ) petal formation stage, (ῑ) pistil development stage and flower opened. The elongation of petal was delayed as compared with the stamens. Numbers of flowering and growth were severely inhibited at -*/,/ῌ. Flower bud development stopped from the sepal di#erentiation stage to the stamen di#erentiation stage because of blind induced by high temperature.

Key words : nasturtium, flower bud development, blooming, temperature, blind

参照

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