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[講演要旨]明治三陸地震津波以前の災害認識—帝国大学理科大学の調査資料から—

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Academic year: 2021

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(1)歴史地震 第31号(2016) 191頁. [講演要旨] 明治三陸地震津波以前の災害認識. ―帝国大学理科大学の調査資料から― 蝦名 裕一*(東北大学災害科学国際研究所)・佐竹 健治(東京大学地震研究所) §1. はじめに 本発表は帝国大学理科大学が明治二十六年 (1893)に全国各地から歴史地震・津波に関する情報 の報告を編纂した「地震学及地理学研究材料 測候 所郡役所組合事務所報告」(以下, 本発表では「地 震・地理学研究材料報告」とする. )について史料的 な分析をおこなうとともに, 史料から読み取れる当該 期の地域における地震・津波認識について, 特に明 治二十九年(1896)明治三陸地震津波以前の岩手県 沿岸地域を中心に考察するものである. §2. 「地震・地理学研究材料報告」の調査・編纂目 的 「地震・地理学研究材料報告」は, 現在東京大学地 震研究所に2冊が所蔵されている. 1冊目は表題とと もに「地震学教室印」が捺印され, 北海道の測候所・ 郡役所・漁業組合からの報告が収録されている. 2冊 目は北海道以外の岩手県・福島県・千葉県・富山県・ 三重県・山口県・愛媛県・香川県・長崎県・宮崎県・鹿 児島県・沖縄県の郡役所から提出された報告書が収 録されている. 報告内容に表現に若干の異同はある が, 帝国大学理科大学より示された調査項目は ①海嘯ニ関シ口碑又ハ記録等ニ傳フル各般ノ事項 ②五十年内外以来海底ノ浅深ニ変遷アリシヤ であったとみられる. 報告書に附された送り状によると, 調査は明治二 十五年(1892)十月以降に, 帝国大学理科大学総長 加藤弘之より, 県庁を通じて各地の町村へ地震・地 理の研究材 料取調の依 頼があり, 明治二十六 年 (1893)一月から三月にかけて各地から報告が提出さ れている. この史料の調査過程や編纂意図について, 詳細な事実関係は現段階では不明であるが, 明治 二十四年(1891)の濃尾地震発生を受け, 地震災害 とその被害軽減に対する関心が高まりつつあった時 期である. 翌年には震災呼び調査会の官制が発令さ れ, 加藤弘之を会長とする震災予防調査会が発足し, 七月に第1回委員会が開催され, 明治二十六年 (1894)七月には文部大臣の要求に応じて 18 項目か らなる「震災予防調査会調査事業概略」を提出してい る. これらの事実関係から考えるに, 「地震・地理学 研究材料報告」の調査および編纂の目的は, 震災予 防調査会の本格的始動に向けた予備調査の報告書 と位置づけることができよう.. §3. 岩手県における「地震・地理学研究材料報告」 と明治三陸地震津波後の山奈宗真の調査 「地震・地理学研究材料報告」の中で, 岩手県から は東閉伊郡宮古町・鍬ヶ崎町・山田町・船越町・重茂 町・田老村および北閉伊郡普代村からの報告書が収 録されている. これらの報告書で把握されている過去 の地震・津波は, 安政三年七月二十三日(1856 年 8 月 23 日)に発生した八戸沖を震源とする地震津波の 口頭伝承のみである. 一方, 明治三陸地震津波発生後に被災地となっ た沿岸部を踏査した山奈宗真が記した「岩手県沿岸 古文書収集録」(遠野市博物館所蔵)には, 南北九 戸郡役所の書類抜書として, 今日の「地震・地理学 研究材料報告」に収録されていない久慈町・野田村・ 中野村・宇部村の調査書類が収録されている. これ ら四ヶ村の報告書に記されているのも, 安政三年の 地震津波の口頭伝承のみである. 岩手県沿岸地域で発生した歴史地震津波につい て記載した古文書として代表的なのは, 慶長十六年 (1611)の地震津波について記した『宮古由来記』とこ れに類する諸本や, 慶長十六年(1611), 延宝五年 (1677), 寛政五年(1793)に発生した地震津波につい て記した「武藤六右衛門所蔵古文書」などが挙げられ るが, 「地震・地理学研究材料報告」の記述にはこれ らの古文書に関する調査は記載されていない. これ らの古文書の津波記録に注目したのは山奈宗真で あり, 彼はこれらの古文書を所蔵者宅において書写 し, 「岩手県沿岸古文書収集録」にまとめている. §4 おわりに 「地震・地理学研究材料報告」は, 濃尾地震を契機 として始まった地震学研究の端緒として, 地域を対象 として実施された歴史地震津波調査であったと位置 づけることができる. ただし, 当該期の地域において は, 歴史地震・歴史津波については口頭伝承で伝え られる場合が多く, とりわけ個人所蔵の古文書内に内 包される地震・津波の記録については一部地域を除 いて注目されていないという状況がうかがえる. 特に, 明治三陸地震津波前夜の岩手県沿岸地域では, 各 自治体においては 36 年前に発生した安政三年の地 震津波に関する情報しか持ち得ておらず, これらの 地域で古文書の津波記録が注目されるのは三陸地 震津波後の山奈宗真の調査以降であるといえる.. ― 191 ―.

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