・金澤 健司

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(1)

第31回土木学会地震工学研究発表会講演論文集

2 基の大規模アーチダムでの常時微動計測 に基づく動的特性の周期的変動評価

大熊 信之

1

・松田 泰治

2

・金澤 健司

3

・池田 浩一

4

1九州電力株式会社技術本部総合研究所研究員

(〒815-8520 福岡市南区塩原2-1-47)

E-mail:nobuyuki_ookuma@kyuden.co.jp

2熊本大学大学院自然科学研究科教授 (〒860-8555 熊本市黒髪2-39-1)

E-mail:mazda@kumamoto-u.ac.jp

3財団法人電力中央研究所地震工学領域主任研究員 (〒270-1194 我孫子市我孫子1646)

E-mail:kanazawa@criepi.denken.or.jp

4九州電力株式会社技術本部総合研究所グループ長

(〒815-8520 福岡市南区塩原2-1-47)

E-mail:kouichi_ikeda@kyuden.co.jp

2基の高経年大規模アーチダムにおいて,現在における動的特性を把握することを目的として,2種類の 常時微動計測を実施した.1つはダムの固有振動モードを把握することを目的とした高密度計測であり,

もう1つはダムの固有振動数の周期的な変化を把握することを目的とした高密度計測である.計測の結果,

2基のアーチダムにおいて,低次の固有振動モードを同定するとともに,それらのモードに対応する固有 振動数の周期的な変化を捉えた.具体的には,これらの固有振動数の周期的な変化には,従来から知られ ていたダム水位依存性に加え,ダムの表面温度に依存した変化が含まれていた.さらには,各ダムにおけ る近年の地震観測データ,および建設直後に実施された起振実験結果から得られた固有振動数と固有振動 モードを比較した結果,概ね一致することを確認した.このことは,大規模アーチダムの動的特性の評価 において,高密度計測と長期計測を併用した常時微動計測の有用性を示している.

Key Words : arch dam, dynamic properties, ambient vibration, mode shape, natural frequency

1.はじめに

九州電力㈱は,2基の高経年大規模アーチダムを 所有しており,現在に至る約50年間,発電に供して きた.この約半世紀の間,入力地震動,および地震 応答解析技術は目覚しい発展を遂げている.更には,

これらのダムに大きな影響を及ぼすおそれのある震 源での大規模地震の発生確率が高く1),今後も引き 続きダムを運用していくためには,最新の知見を踏 まえた大規模地震に対する耐震性能照査を実施する とともに,経年や地震動による構造的損傷を適切に 検知するための構造診断技術の開発が必要である.

また,現在のダムの安全管理に着目すると,堤体 からの漏水量や堤体変位は継続的にモニタリングさ れているものの,安全評価の多くの判断は,社員に より実施しているダム表面可視部分の目視点検結果 に委ねられている.しかしながら,自然河川に設置

され貯水機能を有するダムには,目視点検で確認で きない部位が多く,例えば,貯水位以下の上流側堤 体部や,堤体と岩盤の接続部分などは確認できない.

このような問題を解決するためには,簡易な計測 により,構造物全体の損傷を検知できる技術の開発 が望まれる.常時微動計測に基づく構造モニタリン グは,効果的な解決策の1つと考えられ,固有振動 数や固有振動モードなどの変化から構造物の損傷を 検知2)することが可能であると思われる.

以上の背景から,筆者らは,上椎葉・一ツ瀬ダム 2基を対象に,地震応答解に用いる動的解析モデル の精緻化と,構造モニタリング手法の開発を目的と して,2種類の常時微動計測を実施した.

一方,アーチダムにおける動的特性については,

これまでに様々な研究が行われており,ダム水位が 上昇すると,貯水量の増加するために生じる付加質 量効果により固有振動数が低下する,ダム水位依存

(2)

性(ダム水位と固有振動数の逆比例関係)について は周知の事実である.さらに,上田・豊田らは,高 根第一アーチダムと川浦アーチダムにおいて,起振 実験と常時微動計測から,低水位時においては,こ の関係と逆の現象を実測で捉え,線形解析によるシ ミュレーション結果,および施工鉛直ジョイント部 の変位測定結果から,固有振動数は,低水位の領域 においては,ダム水位の上昇に伴い,施工鉛直ジョ イントが引き締められ,ダム全体の剛性が増加する ために,固有振動数が微増(ダム水位と固有振動数 の比例関係)すると結論付けている3), 4).Proulx・

DarbreらによるEmossonアーチダムやMauvoisinアー チダムでの起振実験および常時微動計測結果からも,

同様の現象が報告されている5), 6).今回対象とした 上椎葉・一ツ瀬ダムにおいても,高橋らにより,建 設直後に起振実験が実施されており,各々のダムの 固有振動数と固有振動モードを同定すると同時に,

建設直後に観測された幾つかの地震観測データから,

固有振動数の実測値を得ている7), 8), 9).しかしなが ら,建設直後の起振実験は満水位時のみでの実施で あり,地震観測データはダム水位との整理がなされ ていないため,両ダムの水位変動に伴う固有振動数 の変化は確認されていない.

また,常時における堤体変位の観測記録によれば,

薄肉構造のアーチダムは,ダム水位の変化とともに,

堤体温度変化の影響も大きく受けており,外気温の 変化に伴い堤体温度が変化することによる堤体コン クリートブロックの膨張・収縮作用を周辺岩盤が拘 束することで,1年を通し夏季は上流側へ,冬季は 下流側へ周期的な変位を生じている10).このため,

堤体温度の変化に伴う堤体変位により,ダム全体の 剛性が1年を通して変化し,固有振動数自体に変化 が現れることが予測される.しかしながら,Darbre

らのMauvoisinダムでの計測事例では,固有振動数

と温度の関係の把握は試みたものの,温度に依存し た固有振動数の変化は検出されなかったと報告され ている5).本研究では,長期計測に併せて堤体表面 温度を計測し比較することで,温度に依存した固有 振動数の変化を評価することとした.

本論文では,まず,上椎葉・一ツ瀬アーチダムの 概要,および実施した常時微動計測の概要を述べ,

次に高密度計測結果に基づく固有振動モードの同定 結果,および長期計測結果に基づきダム水位・ダム 表面温度の変化に伴う固有振動数の変化について述 べる.更に,近年の地震観測記録,および建設直後 の起振実験結果との比較・考察について述べる.

2.対象ダムの概要

(1)上椎葉ダム

上椎葉ダムは,1955年(経年56年)に九州電力㈱

により,宮崎県に建設された.このダムは米国の OCI (Overseas Consultants Inc.) の技術協力により,

日本で最初に建設された大規模コンクリートアーチ

ダムである.上椎葉ダムの建設で培われた技術は,

後述する一ツ瀬ダムを含め,我が国で後に建設され たアーチダムの設計や建設に大きく寄与した.堤 高・堤頂長は,それぞれ110.0m,341.0m,堤体頂 部・底部の厚さは,それぞれ7.0m,27.0mであり,

4段の巡視用キャットウォークを有した円筒型のア ーチダムである.ダムの運用水位は,EL.435.0~

480.0m(利用水深:45.0m)である.

(2) 一ツ瀬ダム

一ツ瀬ダムは,上椎葉ダムと同様,1963年(経年 48年)に九州電力㈱により,宮崎県に建設された.

堤高・堤頂長は,それぞれ130.0m,418.0mであり,

4段の視用キャットウォークと堤体底部に監査廊を 有している.上椎葉ダムと比較すると,一ツ瀬ダム は堤体厚が薄く(堤体頂部・底部の厚さは,それぞ れ4.0m,22.3m),ドーム型である.ダムの運用水 位は,EL.170.0~200.0m(利用水深:30.0m)であ る.

3.常時微動の計測点と計測手順

(1) 高密度計測

高密度計測は,堤体全体の振動モード形状の同定 を目的として,2007年2月19~22日(上椎葉:19,

20日,一ツ瀬:21,22日)に実施した.図-1 に 各々のダムの下流面に設置した計測点を示している.

高密度計測では,多数の計測点をダム下流面に設け

(上椎葉:67点,一ツ瀬:97点),8台のポータブ ル加速度計を順次移動させながら常時微動を多数回 計測(上椎葉:14回,一ツ瀬:20回)した.各々の 計測時間は10分間(計測間隔は200Hz)とした.固 有振動モードは,後述する長期計測で設置した固定 点(2点)での計測データを用い,多数回計測によ る時間帯の違う測点同士の振幅と位相角を調整し,

全ての測点データを統合することで同定を行った.

(2) 長期計測

長期計測は,気温やダム水位の変化に伴うダム固 有振動数の周期的変化を把握することを目的として,

2006年8月から実施している(現在も計測中).こ の計測では,変位がゼロとなる節を避けるためと,

2計測点間の応答クロススペクトルを取るために,

図-1 に示すとおり,2台の三成分加速度センサをダ ム頂部の右岸側(センサA)と中央(センサB)に 設置した.この計測システムは,計測間隔200Hzで 連続して収録されるよう構成されており,計測デー タは1時間毎のファイルで保存される.同時に,図- 1 に示すとおり,計6個の温度計をダム上流側表面 と下流側表面に設置した.

(3)

図-1 ダム背面図と計測点位置図

4.常時微動の計測結果

固有振動数とその固有振動モードの関係は,高密 度計測データによる評価を行い,固有振動数の周期 的変化については,約1年4ヶ月の長期計測結果によ る評価を行った.

(1) 高密度計測結果(固有振動モードの同定結果)

図-2 に,一ツ瀬ダムにおいて,高密度計測を実 施した日に長期計測の計測点A,Bで得られたパワ ースペクトル(PSD)の一例を示す.各々のダムの 高密度計測データについて,クロススペクトルに基 づく同定法2), 11)を適用した結果,上椎葉ダムにおい ては低次4次までの,一ツ瀬ダムについては低次3次 までの固有振動モードを同定することができた.一 ツ瀬ダムの低次3次の固有振動モードの応答ピーク は,図-2 中の▼のピークに対応している.

図-3 に各々のダムの高密度計測データから同定 された固有振動モード図を示す.各々のモード図か ら,標高毎での振動モード形状は同じであるが,堤 高が高くなるにつれ大きな振幅で振動していること が分かる.これら現在の固有振動モードは,各々の ダムで建設直後に実施された起振実験で得られた過 去の固有振動モード7), 8)とほぼ一致している.この ことは,これらの固有振動モードは,約50年間全く 変化していないことと,常時微動を高密度に計測す ることにより,アーチダムの正確な固有振動モード の把握は可能であり起振実験による結果と比較して も遜色がない結果が得られることを示している.

図-2 高密度計測実施日における長期計測データの パワースペクトル(一ツ瀬ダム)

しかしながら,今回の計測時と建設直後の起振実験 時でのダム水位が違うため,これらの結果を直接比 較することはできない(上椎葉:建設直後の実験時

水位EL.483.0mに対し,今回計測時水位EL.474.0m,

一ツ瀬:建設直後の実験時水位EL.200.0mに対し,

今回計測時水位EL.179.2m).ダム水位の違いにつ いての考察は次節で述べる.

なお,一ツ瀬ダムにおいては,今回の計測で対称 1次モード(Mode 2)を同定することができなかっ た.この理由は,このモードの固有振動数が,逆対 称1次モード(Mode 1)に周波数帯域においてかな り近接するうえに,逆対称1次モード(Mode 1)に 比べ応答が極めて小さいためであると思われ,この 2つのモードの関係については,建設直後の起振実 験でも同様の結果が報告されている.

10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4

2 3 4 5 6 7 8 9 10

RLngCLng

Frequency〔Hz〕

:センサA(右岸)

:センサB(中央)

▼ Mode 1

Mode 3

Mode 4

振動数〔Hz〕

パワースペクトル

(a) 上椎葉ダム 341m

110m EL.483

LWL 435

27.0

7.0

EL.373 A B

右岸側 左岸側

HWL 480

A B

130m 418m

22.3 EL.73

4.0 EL.203

右岸側 左岸側

(b) 一ツ瀬ダム

HWL 200

LWL 170

HWL: 常時満水位

LWL: 最低水位

: 巡視用キャットウォーク : 監査廊

: 高密度計測の計測点 : 長期計測の計測点 : 温度計設置箇所

(4)

図-3 高密度計測から同定された固有振動モード

E.L.+472M E.L.+483M

E.L.+450M E.L.+430M

E.L.+410M

North

East

E.L.+472M E.L.+483M

E.L.+450M E.L.+430M

E.L.+410M

North

East

E.L.+472M E.L.+483M

E.L.+450M E.L.+430M

E.L.+410M

North

East

E.L.+472M E.L.+483M

E.L.+450M

E.L.+430M

E.L.+410M

North

East

EL.+174M EL.+203M

EL.+146M EL.+118M

EL.+90M North

East

EL.+174M EL.+203M

EL.+146M

EL.+118M EL.+90M North

East

EL.+174M EL.+203M

EL.+146M

EL.+118M EL.+90M North

East

1) Mode 1 (4.2-4.4 Hz) [逆対称 1 次モード]

2) Mode 2 (4.4-4.6 Hz) [対称 1 次モード]

3) Mode 3 (6.3-6.5 Hz) [逆対称 2 次モード]

4) Mode 4 (7.3-7.5 Hz) [対称 2 次モード]

1) Mode 1 (2.5-2.8Hz) [逆対称 1 次モード]

2) Mode 3 (3.8-4.0 Hz) [対称 2 次モード]

3) Mode 4 (4.6-4.8 Hz) [逆対称 2 次モード]

(a) 上椎葉ダムの固有振動モード

(b) 一ツ瀬ダムの固有振動モード

(5)

(2) 長期計測結果

a) 固有振動数の周期的変化

長期計測データについては,ARMAモデルに基づ く同定法12)により,固有振動数を5分毎に同定した.

図-4 に,約1年4ヶ月間に亘る固有振動数とダム水 位,およびダム表面温度の経時変化図を示す.各ダ ムのダム水位と固有振動数を比較すると,両者には 強い相関が見られる.例えば,上椎葉ダムの2007年 7月に着目すると,ダム水位の上昇とともに固有振 動数は低下しており,一ツ瀬ダムの2007年7~9月の 期間は,ダム水位の上昇とともに固有振動数は低下 し,ダム水位の降下とともに,増加している.また,

各ダムのダム表面温度と固有振動数を比較すると,

両者の間にもう一つの相関が見られる.固有振動数

の月単位での緩やかな変化は,ダム表面温度の季節 変化に対応しており,日単位での短時間の変化は,

ダム表面温度の日変動に対応している.しかしなが ら,特に一ツ瀬ダムにおいては,ダム水位とダム表 面温度の季節変化が冬季は低気温・低水位,夏季は 高気温・高水位と同じ傾向を示しているため,ダム 水位とダム表面温度による固有振動数への影響を完 全に分離することは困難である.これらの相関を明 らかにするには,更なる分析が必要である.

以上のことから,常時微動の長期計測により,ア ーチダム固有振動数の水位や気温変化に伴う周期的 変化を把握することが可能であり,起振実験では得 られなかった有用性のあるデータが得られることを 確認した.

0 10 20 30 40

Temperature [Deg]

Month/Year

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct

b) ダム表面温度

(a) 上椎葉ダム

(b) 一ツ瀬ダム

4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0

Natural Frequency [Hz]

Month/Year

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct

170 175 180 185 190 195 200

Water Level [EL.m]

Month/Year

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct

0 10 20 30 40

Month/Year

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct

Temperature [Deg]

2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5

Natural Frequency [Hz]

Month/Year

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct

c) 固有振動数

M Mooddee 11 M Mooddee 22 M Mooddee 33 MMooddee 44

MMooddee 11,, 22 MMooddee 33 MMooddee 44

▼ 高密度計測実施日

高密度計測実施日

450

455 460 465 470 475 480

Water Level [EL.m]

Aug/2006 Jan/2007 Apr Jly Oct Month/Year

a) ダム水位

b) ダム表面温度 a) ダム水位

c) 固有振動数

図-4 長期計測で得られたダム水位,ダム表面温度,固有振動数の経時変化グラフ

(6)

b) ダム水位とダム表面温度の影響

図-5 に,一ツ瀬ダムで長期計測により得られた 固有振動数とダム水位の関係を示す.Mode 1,2の固 有振動数の変動幅は,Mode 3,4に比べ大きいが,こ の理由は4(1)で述べたとおり,周波数帯域にお いて,非常に近接した2つのモードが存在している うえ,Mode 1(逆対称1次モード)に比べ,Mode 2

(対称1次モード)の応答が極めて小さく,長期計 測においても,このMode 1とMode 2をうまく分離 できなかった.しかしながら,Mode 3(対称2次モ ード)とMode 4(逆対称2次モード)は,かなり鮮 明に同定できている.

ここで,一ツ瀬ダムで得られた図-5 の計測結果 を参照し,固有振動数に対するダム水位の効果につ いて考察する.全てのModeにおいて,ダム水位が 最低水位からある一定の水位(EL.180.0m)まで上 昇するにつれ,固有振動数はダム水位上昇に伴い,

僅かに増加する(図-5中の矢印Aの経路).この挙 動は,ダム水位上昇に伴い増加する静水圧のもとで 堤体コンクリートブロック間の施工鉛直ジョイント 部がアーチ軸力の増加に伴い収縮することにより,

ダム全体の剛性が増加した結果と考えられる.ダム

水位がEL.180.0m以上に達した後は,貯水の増加に

伴う付加質量効果の方が優位となり,ダム水位が上 昇するにつれ,固有振動数は減少する(図-5中の矢 印Bの経路).このダム水位の上昇に伴う固有振動 数の変化は,上椎葉ダムも同じ傾向を示しており,

SwitzerlandのContra,Emosson,Mauvoisinアーチダ ムでの起振実験や常時微動計測結果でも同様の挙動 が報告されている5), 6)

さらに今回の計測結果では,固有振動数とダム水 位の関係において,図-5中の矢印Cで示す3番目の 挙動を捉えた.この経路は,ダム表面温度が低い時 期(概ね11月から3月の期間)のみに発生し,15℃ 以上の時には観測されていない.この3番目の経路 は,冬季の外気温低下に伴う堤体コンクリートブロ

ックの温度収縮作用により,堤体コンクリートブロ ック間の施工鉛直ジョイント部での接触剛性が変化

(低下)することで生じるものと考えられる.

c) 地震観測記録と過去の起振実験結果との比較 図-5 には,堤体中央に常設されている地震観測 装置によって観測された近年の地震観測データより,

高速フーリエ変換により同定した固有振動数もプロ ットしている.これらの地震観測記録から得られた 固有振動数は,1,2次までしか同定できていないも のの,長期計測で得られた固有振動数と良く一致し ている.加えて,冬季に発生した地震データから同 定した固有振動数(図-5中のMode 3の■と□のプ ロット)は,今回の長期計測で確認された冬季の経 路(図-5中の矢印C)にあり,冬季の地震時におい ても,長期計測で得られた経路Cの動的特性に基づ き応答していることを示している.

また,図-5 には,建設直後の起振実験結果から 同定された固有振動数も併せてプロットしている.

この起振実験は満水位(EL.200.0m)時に実施され ており,今回の長期計測では計測期間での最高水位 がEL.198.66mであったため,満水位(EL.200.0m) を評価するには,やや最高水位が低い.このため,

ダム水位EL.175.0m~180.0m,EL.180.0m~182.0m, EL.182.0m~195.0m,EL.195.0m以高の4水準に分け て,ダム水位と固有振動数の直線回帰式を作成した う え で ,図 -5 にEL.195.0m以 高 の 回 帰 式 を

EL.200.0mまで延長したグラフを破線で示す.図-5

に示すとおり,過去の起振実験で得られた固有振動 数は,長期計測データから同定された固有振動数の 回帰式上にあることが確認できる.したがって,直 接的な比較はできないものの,満水時における現在 の固有振動数値は,建設後からの約50年間変化して いないと考えられる.上椎葉ダムにおいても同様の 結果を確認しており,上椎葉ダムの固有振動数も約 50年間変化していないと考えられる.

2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5

170 175 180 185 190 195 200

Natural Frequency [Hz]

Water Level [EL. m]

〇 起振実験結果

(● : 起 振 実 験 で 対 称 1 次 と同定されたモード)

◆ 日向灘

(2005 年 12 月 10 日, M 4.5)

□ 大分県西部

(2005 年 12 月 31 日, M 4.5)

△ 日向灘

(2006 年 3 月 27 日, M 5.5)

▼ 大分県西部

(2006 年 6 月 12 日, M 6.2)

▽ 宮崎県北部平野部

(2006 年 8 月 31 日, M 3.0)

▲ 伊予灘

(2006 年 9 月 26 日, M 5.3)

■ 日向灘

(2006 年 12 月 19 日, M 4.0) Mode 1 Mode 3 Mode 4

A A

B

B

C C

ダム水m

固有振動数〔Hz〕

図-5 固有振動数とダム水位,ダム表面温度との関係

(7)

5.まとめ

2基の高経年大規模アーチダムにおける現在の動 的特性を評価することを目的として,高密度計測と 長期計測という2種類の常時微動計測を実施した.

この計測結果から,低次の固有振動モード,および 固有振動数の周期的変化を把握し,各モードの固有 振動数の周期的変化は,ダム水位の変化の影響を受 けているとともに,ダム表面温度の変化にも影響を 受けていることを明らかにした.

さらには,建設直後の起振実験結果,および近年 の地震観測記録との比較を行った結果,今回の結果 は,建設直後の満水位条件下での起振実験で得られ た固有振動モード,固有振動数値と一致すること,

近年の地震観測記録から得られた温度とダム水位に 応じた固有振動数と一致することを確認した.この ことは,建設後約50年経過した2基のアーチダムの 振動特性は変化していないということと,今回実施 した高密度計測と長期計測の2種類の常時微動計測 により,アーチダムの正確な動的特性を評価するこ とが可能であり,起振実験結果と遜色のない結果が 得られることを示している.

本研究では,約1年4ヶ月の連続計測データにより,

アーチダムの水位や温度に依存した動的特性を明ら かにしており,既往研究では長い年月をかけて蓄積 された地震観測データをベースに,起振実験や短期 の常時微動計測によりデータを補うことで,これら の動的特性を明らかにしてきたことを鑑みると,こ の成果は大変有意義なことと考えている.

なお,固有振動数の温度依存性については,今後 もデータ蓄積を行い,年間の周期的変化の再現性を 確認するとともに,ダム水位と温度変化の固有振動 数に対する影響を定量的に評価したうえで,常時微 動計測に基づくアーチダムの構造モニタリング手法 の開発に繋げる所存である.

謝辞:本研究の実施にあたり,西日本技術開発㈱江 藤芳武部長,(財)電力中央研究所,西内達雄上席研 究員,永田聖二主任研究員には格別のご指導を賜り ました。ここに記し,感謝の意を表します.

参考文献

1) 地震調査研究推進本部 地震調査委員会:「全国を概観 した地震動予測値図」報告書,2005.

2) 金澤健司:常時微動計測に基づく構造物の損傷探査法

(その3)-ARMAMAモデルによる振動モード同定と

多 層 建 物 の 構 造 同 定 - , 電 力 中 央 研 究 所 報 告 , No.U01046, 2002. 5.

3) 上田 稔,豊田幸宏,塩尻弘雄,佐藤正俊:アーチダ ムの観測記録から求めた固有振動数とブロックジョイ ントの影響,土木学会論文集,No.654, I-52, pp.207-221, 2000.7.

4) 豊田幸宏,松尾豊史,西内達雄,上田 稔,水野和 彦:現場振動計測に基づく既設アーチダムの動的応答 特性に関する検討,電力中央研究所報告,No.U97031, 1997. 9.

5) Jean Proulx, Patric Paultre, Julien Rheault, and Yannick Robert: An experimental investigation of water level effects on the dynamic behavior of a large arch dam, Earthquake Engineering and Structural Dynamics, No.30, pp.1147- 1166, 2001.

6) George R. Darbre, and Jean Proulx: SHORT COMMUNICATION Continuous ambient-vibration monitoring of the arch dam of Mauvosin, Earthquake Engineering and Structural Dynamics, No.31, pp.475-480, 2002.

7) 高橋 忠,堤 一,栗城孝雄,安田正幸:アーチダ ムの振動(上椎葉アーチダムの振動性状),電力中央 研究所報告,No.II5913, 1959.10.

8) 高橋 忠,堤 一,増子芳夫,橋本宏一:一ツ瀬ア ーチダムの振動実験結果について,電力中央研究所報 告,No.66017, 1966.4.

9) 高橋 忠,高野 博,増子芳夫,栗原千鶴子:一ツ瀬 アーチダムの地震応答観測結果について,電力中央研 究所報告,No.70559, 1971.5.

10) 大熊信之,江藤芳武,金澤健司:アーチダムにおける 常時変形挙動と振動特性の分析について,土木学会第 62回年次学術講演会,No.576, 2007.9.

11) K.Kanazawa: Application of cross spectrum based modal identification to output-only records of ambient vibration, Proceeding of the 13th World Conference on Earthquake Engineering, No.3068, 2004.

12) K. Kanazawa, and K. Hirata: Parametric estimation of the cross spectral density, Journal of Sound and Vibration, No.282 (1), 1-35, 2005.

(8)

SEASONAL CHANGES IN DYNAMIC PROPERTIES OF TWO LARGE ARCH DAMS BASED ON AMBIENT VIBRATION MEASUREMENTS

Nobuyuki Okuma, Taiji Mazda, Kenji Kanazawa and Kouichi Ikeda

To evaluate present dynamic properties of two aged large arch dams, the ambient vibration has been continuously measured for more than four years, which results are employed for calibrating these FEM models to evaluate the seismic safety, as well as for collecting fundamental data about vibration test- based structural monitoring. To obtain the present dynamic properties, two kinds of ambient vibration test are conducted: one is the high-density vibration array test to obtain the mode shapes of each dam. The other is long-term continuous vibration measuring test to evaluate the seasonal changes in the natural frequencies. In this paper, we will show the results on identification of the some lower mode shapes, and seasonal changes in the natural frequencies due to reservoir water level and temperature. We also show comparisons between the results from the present ambient vibration test and past forced vibration test just after the completion, and among two kinds of the natural frequencies estimated from the ambient vibration records and earthquake observation records.

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