持株会社の現状と課題 43
持株会社の現状と課題
――ある商社の事例を中心に――
頼
誠
! はじめに 日本企業における M&A(合併・買収)の件数は,2005年4∼9月において, 1354件と過去最高であるという。それも,経営不振企業の支援型 M&A が減り, 競争力強化のための買収・合併が増加傾向にある1)。また,世界的にみれば, 2006年上半期(1∼6月)の M&A も金額的にみて過去最高水準にあるといわ れる2)。これだけ M&A が行われている理由は何だろうか。 日本企業における M&A の件数増加という状況は,1997年の純粋持株会社解 禁に伴う法改正が大きく影響しているといわれる。持株会社を設立するのは M&Aの場合のみではないが,組織再編に伴う持株会社の設立は少なくない3)。 M&Aの一方で分社が行われる。これは,一つには組織の規模が大きくなる に伴い規模の不経済が顕在化するからである。日本企業では内部事業を子会社 や関係会社として分社することが盛んに行われてきた。持株会社を伴う分社は 社外分社である。社外分社は独立法人であるという点で,事業部制やカンパニー 制よりもさらに自律性の高い組織となっている。委譲された権限に応じて責任 も拡大しなければ組織が分裂し失敗する可能性は高い。そこには強力な統合の システムがなければならない。それは何だろうか。たとえば,それは,財務コ ントロールの仕組みであり,業務監査や経営理念,各種の会議体の仕組みだろ 1)日経新聞,2005.10.5.夕刊,p.1. 2)日経新聞,2006.6.25.p.1. 3)企業再編には,商法改正の影響が少なくない。会社合併の簡素化(1997),株式交換・ 移転制度(1999),会社分割による持株会社の設立(2000)に関わる商法改正があった。 西澤脩「分社化による企業再編の法制と会計」企業会計,2001,Vol.53,No.1.p.113.44 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 う。 本稿の目的は,昨年からヒアリングしたいくつかの持株会社の事例のうち, 双日株式会社における事例(M&A 前後の事情)を紹介し,持株会社の現状の 一部を明らかにし,研究課題を提示することである。筆者の最終的研究目標は, M&Aが行われた後,社外分社制をとっている会社のマネジメント・コント ロールにおいて管理会計が担う役割と管理会計システムのあるべき姿を明らか にすることであるが,本稿は,その予備的考察として位置づけておきたい。 !.M&A,持株会社の意味と目的 ここで,M&A の意味と目的を簡単に確認し,持株会社を設立する意義と問 題点についてまとめておきたい。M&A と分社に関しては,経済学では,「企 業の境界の拡張」というテーマの下で詳しく議論されているが本稿ではあまり 触れないことにする4)。 1 M&Aの定義 M&Aにはいくつかの意味がある。狭義には,企業の合併と買収のことであ る。M&A の意味は以下のように箇条書きにできる。 ! 提携 経営面での協力関係のことを「提携」という。狭義においては M&A と区別 されるが,広く定義する場合には M&A の一種とも考えられる。提携には業務 提携と資本提携がある。 " 株式取得による買収 株式取得による買収には以下のようなものがある。 ①株式購入(数人の大株主から直接株式を譲り受けるという方法) ②公開会社の株式取得(市場買付:証券会社などを通じて株式市場で株式を 買い付ける,株式公開買付(TOB:買収側が被買収会社の株式を購入する ことを公表して証券市場外で株式を買い集めるという方法) 4)伊藤(1996)第5章参照。
持株会社の現状と課題 45 ③増資引受(第三者割当増資:被買収会社が新たに発行する株式を優先的に 割り当ててもらうという方法) ④株式交換(被買収会社の株主がその保有する株式を買収会社に拠出する代 わりに,拠出した株式の対価に相当する買収会社の新株の割当てを受ける 方式) # 事業資産の取得による買収(被買収会社の事業資産の全部または一部を購 入または承継すること),営業の譲受,会社分割。 $ 合併(複数の会社を契約により1つの法人格に統合すること。吸収合併と 新設合併がある。)5) 2 M&Aの目的 M&Aの件数が増加している理由は何か。M&A の目的を,いくつか列挙し てみよう。 a.倒産しそうな企業を救済するという救済的意味合い。 b.短期的に企業を買収し成長すること。 c.自社にない資源を素早く手に入れること。ただし,企業には,全く違う 分野へ多角化する場合と得意分野に一点集中する場合がある6)。 d.事業分離(スピンオフ)により大企業のブランドを捨て,事業の価値を ストレートに株価に反映させること7)。 5)持株会社は,"―④の場合でいえば,以下のように説明できる。 株主 x が X 社,株主 y が Y 社の株主である場合,Y 社が新株を発行し,株主 x が X 社 の株を Y 社の新株と交換して会社 Y の株主になるとしよう。この場合,Y 社は交換によっ て得た X 社の株を所有しているので,X 社の親会社になる。X が持株会社である。中央青 山監査法人 鈴木義行他著『M&A を活用した事業継承ガイドブック』中央経済社,平成 15年,第1章,ウィキペディア(http://ja.wikipedia.org/wiki/M&A). 6)日経新聞,2005.11.9.p.9に会社の一覧表あり。 7)日経新聞,1999.8.1.伊藤(1996)p.174.分社化および株式市場への上場によって経 営者の独立的評価が可能になる場合がある。分社は,株式市場のみならず,銀行や労働市 場の評価にも晒される。その一方でいくつかの事業を一つの会社内で行うことによるシナ ジー効果が損なわれる危険もある。前者のメリットの方が大きいと判断される場合に社外 分社する。ただし,スピンオフという場合,新会社の株式は,元の企業の株主に分配され る。日本企業に多い元の企業が新会社を所有するという親子関係とは違う。この場合,親 会社が子会社の経営に介入することが多く,株価も子会社の業績のみを反映しないかもし!
46 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 e.成長戦略に沿わない場合,黒字の事業でも切り離し(売却し),キャッシュ を得て,成長が見込める事業に資金を集中するため8)。 f.非上場で経営スピードを速め,事業を再構築しやすくするため9)。 3 持株会社 では,持株会社を設立する理由は何か。 ①戦略マネジメントと事業マネジメントの分離 持株会社(HD)は戦略の策定と事業会社間の調整に集中し,事業会社は 各事業の遂行に集中できるようにするため。HD は環境変化に迅速に適応す るため(意思決定の迅速化)小規模化し,事業をもたず,事業会社は事業毎 に性格が異なるため別個の組織にした方が好都合であるということもある。 ②事業会社毎の業績の独立的測定 独立法人としての事業会社を設立することで,事業毎の業績,責任が明確 になるので,業績に応じて事業会社の縮小や廃止をしやすくなるため。 ③組織改編の容易化 これは,M&A の目的でもある。持株会社を設立して,その下に独立法人 をぶら下げる形で企業集団を作る。さらに M&A,分社など組織改編をしや すくする。また,敵対的買収に対して防衛したり,リスクがあり膨大な額の 研究開発投資を要する製薬業のような場合に組織の規模を拡大するために有 効である10)。 4 課題 では,持株会社を設立し企業集団を作る場合,何が問題になるだろうか。 れないので,むしろ,分社により親会社の介入が軽減される(権限委譲の促進)という可 能性が重要である。 8)日経ビジネス,2005.1.24.p.42. 9)日経ビジネス,2005.12.5.p.32. 10)社外分社のメリット:事業会社の社長は,事業部長やカンパニー長よりも権限も責任も 大きくなり,意識改革の効果がある。株主を意識するようになる。人事制度,企業文化な ど異質なまま維持できる。持株会社は子会社への投下資本以上のリスクは負わなくてよい。 持株会社制を社内分社と異なると考える見方については,田中(1999)参照。 !
持株会社の現状と課題 47 ①持株会社が事業会社を業績により評価する場合,一律の業績基準では,事 業評価にあたって不適切な判断をする可能性が出てくる。また,企業価値,事 業価値をどのように評価すべきかという問題も重要である。 ②事業会社間に壁ができ,カンパニー制の場合よりも事業間の協力がさらに 難しくなる11)。 ③事業会社の権限が強すぎて,持株会社による事業会社のコントロールが弱 すぎる場合,組織が崩壊する危険がある。 ④組織文化や制度の異なる企業が合併して一つの会社になる場合,特に対等 合併である場合,コンフリクトが発生する。 ⑤買収される側の優秀な社員が離職することによって無形資産が失われる (人材の流出をどう防止するかが問題)。残った社員も不安や不満をもつため, モチベーションが低くなりがちである。これに関しては,人事,処遇の問題を どう解決するかが課題となる12)。 ⑥シナジー効果が,うまく発生しない。ここでシナジーとは,コスト削減, 売上や利益の増加がまず考えられる。 5 シナジーが失敗する理由 以上の中でも筆者が特に重要だと考える目的は,シナジー効果である。ここ では,シナジー効果を,単に統合による重複部門の消滅,量産によるコスト削 減や売上増加という意味にとらえておく13)。問題になるのは,シナジー効果 があまりでない場合である。その原因は何か。 ①製品の開発に際して,アイデアを交換する場がなければシナジーは発生し ない。企業規模が大きいほど,また,事業部間よりも社外分社した組織間の方 11)日経新聞1999.8.1.p.7. 12)この問題は人事管理に関連する。 13)シナジーの分類 「企業が新しい製品市場分野へ進出していく際,その新製品市場分野と企業の旧製品市 場分野との間の結合効果をいう。(p.279)」(占部都美『経営学辞典』中央経済社,1980) シナジーには,開発シナジー,運営シナジー,販売シナジー,生産シナジ−,資本シナジー, 経営管理シナジー等がある。
48 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 が相互作用しにくいならば,シナジーは起きにくくなる。 ②シナジーを生み出すには時間とコストがかかる。違った部署に所属する人 間の意見交換,人員の再配置,希望退職にはコストがかかるからである。また コスト削減はすぐには顕在化せず,タイムラグがある。 ③これまで存在していたシナジーが破壊される場合がある。たとえば異文化 事業を取り込む場合が一例である。 ④独立には存続できない採算の悪い事業を抱え込む危険がある14)。 各企業の置かれている状況により異なるが,以上のような点が問題点として あげられるだろう。以上の諸点を踏まえた上で,一商社の事例を紹介すること を通じて,M&A,持株会社制の現状の一部を具体的に説明することにしたい。 !.双日株式会社の事例15) 昨年から今年にかけて,いくつかの持株会社を訪問調査した。その一部をこ こで紹介したい。質問の中身は,持株会社を設立する理由,M&A を行う理由, M&Aに伴う問題点に関わるものが中心である。 1 持株会社設立と事業再編 ! 持株会社を設立した理由 【質問1】 持株会社 (HD) を設立し,M&A を行った理由は何でしょうか。 【質問2】持株会社化とその後の事業再編はどのような方針で行われたで しょうか。最終的な事業会社の区分にはどのような戦略的意義があっ たのでしょうか。 【回答】双日が持株会社を設立するという形態を選択したのは,以下のよう な理由による。 14)日経新聞,2005.12.14.夕刊,p.7,2004.1.16.夕刊. 15)ここでの質問に対する回答は,2005年10月5日に双日において執行役員主計部部長濱塚 純一氏へのヒアリングを基礎にして,資料・文献を基に私の解釈を交えて論じたものです。 御協力いただいた濱塚様に感謝します。また,メタルワンについては,坂根徹氏にもお話 をうかがいました。解釈の誤りに関しては筆者の責任です。
持株会社の現状と課題 49 1.株式移転によって株主の権利を守りながら,二社の統合形態を十分検討 する時間をとるため。 2.事業の統廃合のやりやすさ。合併せずに,HD の下に独立法人をぶら下 げておく形の方が,株式売買で会社を売買しやすい。 3.近年,企業再編を支援する法整備が進んだこと。 $ 商社には珍しい合併 そもそも,総合商社の再編は,1978年の伊藤忠商事による安宅産業の合併以 降,例がない。その理由は,上場企業で事業分野が多岐にわたるため,許認可 や取引先,債権者の合意に時間がかかるからであり,また,商権の散逸につな がる恐れがあるからである。それにもかかわらず,合併を実行したのは,両社 が過去に事業を再編した経験をもっていたからである。ちなみに,事業再編に ついては, 日商岩井においては, LNG 事業の分社(住友商事50%の資本参加), 鉄鋼事業の分社:メタルワン(三菱商事60%資本参加),ニチメンはトーメン と農業事業を分社・統合した経験がある16)。 16)分社・統合の理由(メタルワンの場合) 日商岩井が鉄鋼部門を分離し,鉄鋼卸の会社「メタルワン」を設立したのは,三菱商事 が,日商岩井が扱ってきた線材(ビルの鉄骨や電線)とは違い,鋼板を扱っていたためで ある。両者が合併することによって,より広い顧客の要求に一社で対応できるようになっ た。また,規模が拡大することによって規模の経済,もしくは範囲の経済が働くことも推 測できよう。また,三菱商事にとっては,販売先が限られていたので(たとえば,三菱自 動車からの鋼板の受注が減少したことによって),販売先を開拓する必要があった。日商 ニチメン・日商岩井 ホールディングス ""# ニチメン 日商岩井 職能子会社 子会社群 GCH他 子会社群 ニチメン・日商岩井 ホールディングス 後に双日 HD と改称 双日株式会社 (合併新会社) 職能子会社 子会社群 第1図 持株会社の設立 !
50 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 " 持株会社設立,および事業再編 このように,分社の経験はあるものの,持株会社を設立して総合商社の再編 を行ったという点では今回が初めてである。具体的経過は,次のとおりである。 まず,日商岩井とニチメンの総合計画を2002年12月に発表,2003年3月に株式 移転により持株会社(ニチメン・日商岩井ホールディングス)を設立し,その 後,1年間をかけて,2社の間接部門の合理化,関係会社,特に海外現地法人 の統合を進めた(これは,2社が統合する場合,たとえば人事部のような間接 部門は2つ必要ないからである)。海外現地法人については国により制度,事 情が違うのだが,片方を営業所にするか廃止し,関係会社の統合が行われた。 # 統合の基本方針,事業会社の区分,統合の理由 統合の最終形態をどうするかについては,事業提携を公表した段階ではまだ 決定していなかったという。しかし,結果的に「専業会社」への道は選択され なかった。そして,両社が統合することによって事業の範囲は拡大したと考え られる。 たとえば,ニチメンは,繊維,木材,合成樹脂が中心であったが,日商岩井 は,エネルギー・金属資源,機械・宇宙航空機といった部門が収益力をもって いた。両社に共通するのは,建設・都市開発であるが,この領域でも,日商岩 井は大型マンション,商業施設開発を中心としていたのに対し,ニチメンは都 市型の比較的小規模なマンションならびに高級マンションが中心となってお り,販売層が異なっていた。 ここで,筆者が疑問に思うのは,事業分野が重複しない部分については,両 岩井の有する豊富な販売ルートを得るために三菱商事は鉄鋼部門を切り離し日商岩井の鉄 鋼部門と合併したと考えられる。 日商岩井の鉄鋼部門については,採算の悪い事業を本体から切り離すというのではなく, むしろ,有望な事業を切り離して独立法人として株を上場させることによって市場の評価 に晒し,本社の株も上がることを狙う,米国企業におけるスピンアウトにおけるような効 果があったと考えられる。現在,メタルワンは,業績を伸ばしており,双日にとって孝行 息子のような存在であるという。 ヒアリングによれば M&A はこれからであり,事業を分社して第三者の資本を入れて財 務的に強化して収益を向上させるということも今後ますます行われるということである。 !
持株会社の現状と課題 51 社が提携・合併して事業範囲が拡大したけれども,事業分野があまりにも違い すぎると,相互補完にならない可能性があることである。事業間のシナジー効 果だけを狙った統合ではなかったのかもしれない。インタビューで得た「国内 の事業会社間での取引はほとんどありません」との回答は事業会社間のシナ ジーが起こりにくいことを暗示している。しかし,シナジーにはさまざまな種 類があるので,事業会社間,関連会社間になんらかのインターアクションがあ ればシナジーは起こりうる。以下で述べるように,結果的にシナジーが生まれ たと考えられる余地がある17)。 ! ワン・ストップ・ソリューション 双日には,「ワン・ストップ・ソリューション」ということばがある。これ は,子会社,関連会社を含めたグループとして顧客のニーズに応える仕事のや り方をいう。このようなやり方を可能にするために,双日では,専業会社の道 は選ばないことにしたという。「ワン・ストップ・ソリューション」を標榜す る限りシナジーはあるはずで,少なくとも結果的に HD はシナジーが発生する ことを期待している。これは,以下のことばから窺える。 「事業シナジーは,先にあるものではなく,顧客のニーズを満たすような企 業行動が,結果として複数の事業部門と自然発生的なシナジーを生み出すと 我々は考えている。“Think Beyond Client, Look Beyond Market.”という思想で 顧客と接することで,自ずと垣根を越える新たな商売の創造につながってく る。」
ここで“Think Beyond Client, Look Beyond Market.”とは,顧客が考えている 事の先を見ること,このまま行くと次は何が起こるのかを予測し,市場のニー ズを先取りして行動を起こすということである。当然,一つの部門だけではな く,組織全体,さらには関連会社が協力することによって,これは可能になる。 たとえば新日鐵から仕事を受注する場合を考えよう。鉄鉱石の輸入,石炭の 17)その一方で,事業会社毎に系列のようなものがあり,海外現地法人と親会社の間には緊 密な協力関係があるとの回答であった。 統合にあたっては海外現地法人を整理したとのことである。具体的には,各国の制度に 応じて片方を営業所にしたり廃止したのである。
52 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 輸入は,双日の別々の部署から新日鐵へ人を派遣することになる。双日という 会社に頼めば,鉄鋼石,石炭は勿論,関連会社に紹介して船の手配までしてく れるということであれば,顧客にとっては便利かつ安心である。 この場合,双日内部の部門だけで仕事を請け負うことができれば,調整は楽 である。別会社の場合は,壁ができやすく意思の疎通がしにくいからである。 このように,一社で顧客の注文に応じることができるためには,「専業会社」 より「総合会社」の方が都合がよいということになる。 ただし,双日では,あまり事業部門を多く抱え込み詳細に分割し過ぎると, 商権の散逸につながるという問題も指摘されている。セグメントの数を増やさ ずに,できるだけ壁を作らない方が,シナジーは創出され易いであろう。 ! 統合の理由 統合の理由については,シナジー効果のような積極的メリットがあるからニ チメンとの統合を計画したというよりは,救済的意味合いが強かった。日商岩 井の財務状態が危機的状況に陥ったため日商岩井はニチメンと統合せざるを得 なかったという理由である。 双日ホームページをみれば,2003年3月期のニチメンの経常利益は9633百万 円であり,日商岩井の経常利益は2024百万円であった。かつ,最終的にはニチ メン,日商岩井に関して,それぞれ当期純損失が,39509百万円,53038百万円 出ていることがわかる。これらの会計数値を見た限りでは,ニチメンの方がま だましであることから,日商岩井をニチメンが救済したと解釈できるかもしれ ない。しかし,ニチメンも当期純損失が出ていることから,日商岩井との合併 によってメリットがあると考えたのであろう。それは,次のような回答からう かがえる。 【回答】「ニチメンは,営業収益力において上位数社に比べて劣っていた。 海外取引も少なく,総合商社としては小さ過ぎた。一方,日商岩井は カントリーリスク資産が多く経営危機を招いていたが,営業収益力が あったため,ニチメンと統合することによって相乗効果をだすことが できると判断した。」
持株会社の現状と課題 53 たとえば,シナジー効果,間接部門(人事・本社機能等)等の重複をなくす ことによる「リストラ効果」も組織変革の理由であったかもしれない。 持株会社を設立したのは,最初に述べたように「二社の統合形態を十分検討 する時間が取れる」という点にあった。したがって,早くも2005年10月1日双 日ホールディングスが双日を吸収合併して新生「双日」となった。これは,純 粋持株会社を維持している意味がなくなったからである。ニチメンと日商岩井 が双日となり,持株会社は一つには屋上屋の存在となったからである。 2 事業会社 ! 中期計画 【質問3】中期計画は,どのような点に重視して策定されたでしょうか。 【回答】「中期経営計画は,蓋然性を重視して策定し,計画値の達成を市場 へのコミットメントととらえている。2003年度が統合初年度ではあっ たが,市場の評価を早期に回復するため,2004年度において大規模な 資産健全化を実施し,多額の損失発生で毀損した資本の充実(債務の 株式化による増資)を織り込んだ新事業計画を発表した。」「中期計画 では蓋然性がないシナジーによる効果は排除して策定している。」18) 上述の回答にあるように,3年計画でも,先を読んで計画することは困難で あるが,不確実性を考慮に入れ,客が何を考えているかその先を読むこと,市 場ではこのままでいくと次は何が起こるのかを推測することが重要であると考 えられている。双日には,先述の“Think Beyond Client, Look Beyond Market” という考え方があり,この考え方で顧客と接することで,他部門とのシナジー, 新たな市場が生み出されるということである。 " 持株会社(HD)の役割と事業会社の業績評価 【質問4】事業会社のお金,人,資産,資本に対し,HD は,どこまで影響 18)ホームページの資料から双日の資産の金額的推移をみれば,特に2004年に大きな減少は みられるというわけではないが,1998年から2005年にかけて減少し続けている(2003年3 月期までは,ニチメン・日商岩井の単純合算)。
54 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 力があるのでしょうか。 【回答】「ホールディングスは,2社の最終的な結合形態(合併または分割 統合等)の検討/決定を最大目標として掲げていたため,事業運営機 能はすべて子会社に委嘱し,グループ内での調整機能と上記の統合形 態の検討に特化していた。」 【質問5】HD のスタッフは,どのような機能・支援を担当されていますか。 【回答】「2003年度は,統合形態の検討やグループとしての諸制度の整備, 人事方針などの統合といった業務が多く,ホールディングスとして約 50名程度の専任者を配置していた。2社の合併を決定した2004年度以 降は, IR 部と監査部のみを専任組織に限定し, その他の管理組織は, 合併会社(双日)からの兼任に切り替えた。」 【質問6】HD は,事業会社をどのような指標を利用して,どのように業績 評価しているのでしょうか。 【質問7】事業会社内でのグループ連結,財務指標の集約はどのような考え 「現状の資源の入れ替 えによる対応」 「収益の柱として競争 力を維持・強化」 「事業毎に撤退,縮小 のシナリオを策定の上 整理を行う」 「経営の意思と強く合 致している商権のみ残 す」 機会事業 本命事業 A B C D 整理事業 見極め事業 ④ ③ ② ① 第2図 事業ポートフォリオ管理 (出所)ニチメン・日商岩井ホールディングス株式会社 「新グループ体制と統合初年度の進捗について」2004年3月1日,pp.17―18を修正。
持株会社の現状と課題 55 方で行われ,グループ間の財務指標としては何が重視されているの でしょうか。 【回答】SCVA(後述 p.58)という指標が HD で検討し運用されているが, 会社単位ではなく,ビジネス・ユニット(BU)単位での評価に使用 されている。BU の規模や人員構成は,事業分野によって千差万別で ある。 業績評価は,連結部門業績で行っており,現時点での業績評価では 経常利益に比重を高く置いている。 なお,ニチメン・日商岩井ホールディングス株式会社「新グループ 体制と統合初年度の進捗について」2004年3月1日によれば,SCVA を「部門」「ポートフォリオ管理単位」の業績管理指標として活用す ると共に,個人業績評価にも活用している。 ポートフォリオ管理とは,縦軸に定量評価,横軸に定性評価の軸を とり,定量評価は SCVA を用いている。SCVA については,「現在の SCVAの 大 き さ(+)(−)」と「将 来 の SCVA の 見 通 し(+)(−)」と の組み合わせによって,ABCD 評価される。定性評価については,「市 場成長性」が「拡大」から「横這い/縮小」のどこに位置するかをみ て事業基盤と成長可能性を評価し,「競争優位性」の有無によって戦 略的重要性を評価し,①∼④に評価している。以上の定性評価,定量 評価の組み合わせにより,本命事業,見極事業,機会事業,整理事業 に事業を位置づけている(第2図参照)。 【質問8】HD は,経営指導料を事業会社から受け取っていますか。 【回答】「経営指導料としては,コストの1.05倍という形で徴収している。」 「コストプラスの発想で経営指導料は設定している」 これは,HD が,事業会社からの収入によって運営されていること を意味している。 ! 事業会社の戦略創発へのかかわり 【質問9】事業会社にはどの程度,自ら指標を設定する自由度が与えられて
56 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 いるのでしょうか。事業会社は,戦略の創発に関与しているでしょ うか。 【回答】部門とコーポレート(経営陣および本社管理部門(主に経営企画 部))は,外部のコンサルティング会社を利用しながら,意見交換を 行っている。競争優位性をどのような形で発揮できるかというような ことも評価のポイントとなっている。 私見では,事業会社とコーポレートの間のインターアクションや, コーポレートの「大きさ」や「ゆるいコントロール」からみると,事 業会社による戦略創発への関与が予想できる。 ! 事業会社による HD への要望 【質問10】事業会社は,HD に対してどのような要望をもっているでしょう か。 【回答】二重に監査に来ないで欲しいという要望がある。 " 事業会社間の取引 【質問11】事業会社間で商品やサービスの取引は存在するでしょうか。ある とすれば,価格・数量の決定についてどのようなルールがあり,ど のように規則化・原則化されているでしょうか。 【回答】国内での事業会社間での取引はほとんどない。しかし,海外現地法 人の間では緊密な取引関係がある。移転価格税制等,国際課税の面で 慎重に対応している。 # 執行役員制 【質問12】執行役員制についてはどうなっているでしょうか。 【回答】「日商岩井・ニチメンともに執行役員制度を導入していましたが, その他の子会社においても一律導入するような形となっていません。」 執行役員制には,持株会社と共通した狙いがある。しかし,子会社 においては必ずしも導入されていないということである。
持株会社の現状と課題 57 3 リスク管理とコンプライアンス ! リスク管理 【質問13】ホームページに,リスク管理について「ビジネスリスクの横断的 な管理体制を強化します」とありますが,具体的にはどのような内 容になっているのでしょうか。また,リスク管理には,業務監査が 重要な役割を果たしていると思われますが,全社を統合する仕組み が,「コンプライアンス体制」であるとみてよいのでしょうか。 【回答】「コンプライアンスとリスク管理は同一ではありません。コンプラ イアンスは,遵法行動となりますが,リスク管理は営業上の様々なリ スクをどのように一元管理するかということです。」リスクは,「“将 来損失が発生するかもしれない不確実性”というように定義していま す。」「日常的には,各取引,投融資の実施と回収というように不断の 繰り返しとなりますが,一方では統合リスク管理の手法で,Expected Loss(EL)と Unexpected Loss(UL)を全社連結ベースでタイムリーに 把握すること」が重要であるとされる。 基本的には,営業現場での管理が重要であるが,他方で予兆管理を するために一元管理が重要となる。予兆管理が重要なわけは,商社が 開発途上国にリスクの大きな資産を多くもっているためである。また, 営業は儲かっているとリスクの大きな投資をやりたがる傾向があるの で,規制を設けて全体のリスク量をみながらコーポレートでリスクの 判断を行っている。 全社的リスク管理の内容としては,例えば負債は連結でみた自己資 本の金額内に抑えるようにしている。その他,格付けの上がるような 施策をとれば借入金利が下がり,長期借入,長期投資が可能となる。 リスク管理の担当部署との関連では,リスク管理部(審査部のこと) が販売先の審査,投資のフォローアップ,法務部がコンプライアンス (法令遵守),内部統制を担当する。 また,「企画部」で全社的リスクをみている。事業を継続するか否
58 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 かは,撤退基準に照らしてリスク管理部が判断する。うまく行ってい る場合は,SCVA で業績をみることになる。 以上のように,連結ベースでの予兆管理,カントリーリスクの管理, 事業投資のフォローアップが行われているということである。 ! SCVA について 資本コスト・リスクを反映した指標として SCVA という指標が用意されて いる。この指標は,以下のような式で計算される。 SCVA=修正連結経常純利益+支払利息−(使用資金×資本コスト率) SCVAを改善するためには,「収益力の向上」「使用資金の削減」「リスク管 理の徹底」が行われる必要がある。SCVA は,業績管理指標,個人の業績評価, 株主価値最大化のために利用される19)。 質問6に対する以下の回答も SCVA について言及している。
【回答】SCVA(Sojitu Corporation Value Added)という指標によって表され る目標は,資本コストを上回る収益を意味する。資本コストはリスク の増大に応じて増加し,SCVA という目標は高くなる仕組みになって いる。SCVA により,ビジネスユニット(子会社,部,課など)がもっ ている資産毎のリスクをみることになる。資本コストの計算について は,経営企画部,主計部のスタッフやコンサルタントを入れて計算し ている。資本コストについては,今後,事業毎に別々に設定していく 予定である。 4 統合のための機関 【質問14】御社の制度の中で統合の仕組みとしてはどのようなものがあるで しょうか。また,どのような問題点があるでしょうか。 【回答】大型の事業投資等はコーポレートの決済が必要で,コーポレートは, 取締役会とその監視をする監査役会からなっている。双日では社外取 19)ニチメン・日商岩井ホールディングス株式会社「新グループ体制と統合初年度の進捗に ついて」2004年3月1日,p.17.
持株会社の現状と課題 59 締役2名と社外監査役3名をコーポレートに配置している。社外役員 は金融機関から招いている。その理由は,彼らは商社経験者と違った 見方ができるからである。 業績評価についてもコーポレートの専決事項となっている。 以上は,双日 HD でインタビューした内容を解釈し要約したものである。次 に,特に本事例から得られた知見について,まとめておきたい。 !.事例のまとめと若干の分析 第1に,合併の理由と成果についてである。日商岩井とニチメンが合併した 理由は,Ⅱの2で述べた M&A の目的のうちの a,c,f が当てはまる。①日商 岩井が危機的状況に瀕していたという背景から,救済的意味合いがあったこと, ②合併によってお互いにもっていない資源を得ることによるシナジー効果の可 能性,③組織再編に伴う人件費の削減,営業所や支店の統合と削減,不良債権 処理などが主な理由である。 M&A前後の利益の推移を見てみると,最終的にニチメンと合併し減量経営 を実施した成果なのか,あるいは,質問1,質問2の回答の解説で若干述べたよ うな分社したメタルワン等の利益による効果かと思われる。日商岩井(双日) 株式会社の経常利益は,どん底の2003年3月期における268億円から,徐々に 増加し続けている。また,2005年3月期の4125億円という当期純損失から,翌 年2006年3月期決算では純利益に転じている20)。 以上の点から,この M&A には,一応,成果があったと考えてよいだろう。 第2に,組織再編の特徴についてである。 企業文化や制度が異なる企業どうしが,従業員の感情を無視して急には統合 できない。ニチメン・日商岩井ホールディングス(双日ホールディングス株式 会社(HD))を設立し,その下に2社を置く形にしたことで,ニチメンと日商 岩井という別々の会社をいきなり統合せずに調整のために時間をかけた点に注 20)HTTP://www.sojitz.com/jp/ir/highlights/graph01.html.
60 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 目したい。HD を設立したのが2003年であり,2005年10月1日をもって,双日 HDと双日は,双日 HD を存続会社として合併し,商号を双日株式会社として HDを廃止したわけであるから,HD は M&A のために置かれた一時的な組織 であった。持株会社を廃止した主な理由は「屋上屋を架すことになる」という ことである。質問10に対する回答もその一例であろう。 さて,一時的なものであったにせよ,持株会社は事業再編をやりやすくする ためには好都合であった。業績に表れるリストラの効果も無視できない。しか し,社外分社では,社内分社以上に事業間の壁ができる。もちろん,関連のな い事業についてはその方が機動性などの点で好都合と考えることもできる。 分社については,カンパニー制を導入した2000年4月時点において,プラン ト・プロジェクト・カンパニーや宇宙航空・船舶車輌カンパニーのように本体 内で商権を追うカンパニーの他に,外部資本を入れ,他社と共に出資して設立 したカンパニー,完全売却,清算といういくつかのパターンがある。弱い部門 を社外分社した場合については,他社と合併することで企業価値向上を目的と していた。あるいは,残った事業の価値を良く評価してもらうことを狙ってい た21)。 なお,日商岩井・ニチメン両社とも商社という点では統合し易かった。業種 が違いすぎる経営統合ではなかったことも,成功要因の一つであると考えられ よう。 また,対等合併よりも対等合併でない方が統合しやすいという説がある。こ れは,対等合併だと,どちらに合わせるかで衝突するからである。 両社の資産の大きさを比較すれば,2002年3月,2003年3月における日商岩 井の資産合計は,それぞれ約1兆8810億円,約1兆5834億円であり,ニチメン は,約1兆0861億円,約9366億円である。したがって,資産規模では日商岩井 の方がやや大きかった。しかし,両社の2003年の経常利益と当期純損失は,日 商岩井が約20億円と約534億円,ニチメンが約96億円と約299億円である。した がって,利益でみる限り,ニチメンの方がましだったことがわかる。資本金で 21)週間ダイヤモンド,2000.11.4.pp.174―176.
持株会社の現状と課題 61 みれば,2002年3月,2003年3月の資本は,日商岩井は,約1981億円,約1355 億円で,ニチメンが921億円,556億円である。資本の大きさからいえば,日商 岩井がニチメンを吸収合併したといえるだろう。 第3に,戦略上の特徴。 双日は,結果的に「総合商社」の線を崩さなかった。これは,“Think Beyond Client, Look Beyond Market.”という考え方に関連しており,「ワン・ストップ・ ソリューション」という仕事のやり方を実践するためにも必要である。しかし, 多角化戦略は失敗する可能性がある。多角化が成功するためには,以下のよう な条件が満足される必要があるとされる。 買収側が買収により,オープンな市場で取引されていない資産を獲得し,競 争優位の源泉として持続的に活用でき,効果的に価値創造できること。既存事 業と周辺事業だけで利益があげられないと判断される場合である。 双日は,統合により「既存ビジネス及びその周辺分野から選び出した重点分 野にフォーカス」を当てている。「差別化したサービスの提供」により「市場 優位性」を構築しようとしている。そのために,強みのある特定の市場(取引) で儲けるため「ニッチを狙う」というアプローチをとっている。小さくても多 くの市場でリーダーシップをとるということである。また,「バリューチェー ンを構築する」ために,商品・サービスの開発力の提供,取引の永続化を目指 している。このようなアプローチが上述の条件を満たしているかどうかは必ず しも明らかではないので,さらなる検討が必要であろう22)。 本稿では,M&A および持株会社制のねらいと M&A のプロセス等,具体的 な現状の一端が明らかになった。双日 HD は2年半ほどで廃止されたことから みて,本事例は,カンパニー制が必ずしも持株会社への過渡的形態とはならな 22)日経新聞,2005.10.31.p.29.,ニチメン・日商岩井ホールディングス株式会社「新グルー プ体制と統合初年度の進捗について」2004年3月1日,pp.19―21。 23)「カンパニー制は会社分割などもっと徹底した事業の再構築へのワンステップとしてと らえることができる。(櫻井(2004)p.22)」という見解もある。
62 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 い事例とみなすことができよう23)。 だが,大企業=企業グループ(親会社+子会社+関連会社から成る)ととら えれば,社外分社も社内分社も本質的な違いはないとも考えられる。組織の境 界は曖昧化しているからである。すなわち,組織が肥大化すれば,親会社は子 会社として事業を分社し,企業グループとして統括する。これは準外部化であ る。その一方で,外部の組織単位である下請けや販売会社を準内部化している。 これらは内部でも外部でもない中間組織である。 親会社が100%出資し,資金調達も親会社が行う場合は,子会社といえども 内部組織と実質的に相違しないと考える経済学者は多い。しかし,経営者は社 外分社により,より大きな権限を与え責任を明確化できると考える。Ⅱ―3で 述べたメリットに意義を見いだす時,社外分社・持株会社化が行われる。逆に, 取引の内部化により資産の「残余コントロール権」を獲得できることに意義を 見いだす場合は,企業の境界を広げようとする。M&A はその一方法である。 大企業が成立するには,M&A と分社化により企業集団を作るという方法が あり,日本の場合はむしろ分社化が活発であったといわれる24)。 本体を究極までスリム化したのが純粋持株会社である。純粋持株会社を設立 し分社することのメリットがデメリットよりも大きいと判断される場合,分社 が行われるのであろう。双日のように,持株会社を設立して全社的 M&A を行 うのはその逆のパターンのようにもみえるが,同時にマーケットシェアがナン バーワンでない事業を部分的に分社していることに注目したい。たとえば,鉄 鋼部門を分社して他社の鉄鋼部門と統合するのは,鉄鋼事業の規模を拡大して 情報力とコスト競争力をつけるという意味があるのかもしれない。だが,分社 しても,その位置づけは総合商社の中の一部門と変わらないのかもしれない。 HDの事業会社に対する影響力が強ければ,社外分社している事業会社を総合 商社の一部門と同じように扱えるからである。他方,食料関連のサプライヤー との関係や外食チェーン・小売チェーン等への事業展開により,バリュー 24)下谷(1999)pp.10―13,伊藤(1996)第5章。勿論,戦前の財閥をみればわかるように M&Aも盛んに行われていた。
持株会社の現状と課題 63 チェーンを構築しようとしていることからみてわかるように,実質的に取引を 内部化しているとも考えられる。 !.結 び 組織改編を成功させるためには,事業内容の分割方法も大切であるが,合併 以降,組織を如何にうまく統合していくかが決め手となろう。これは,単に財 務的コンロトールの問題だけでなく,業務監査や理念によるコントロール,組 織に横串を刺す仕組み等,マネジメント・コントロール全般に関する問題であ る。ともあれ,筆者の今後の研究課題は,M&A 以降の組織をどう統合してい くかという点を管理会計の側面から研究することにある。シナジーを発生させ る方法や,統合の効果を測定する方法の検討も今後の研究課題である25)。 (付記)本調査は,大阪大学 淺田孝幸教授,成城大学 塘 誠助教授との共同研究の一部で す。また,平成17年度陵水学術後援基金による支援を得ました。御協力いただいた濱塚様, および陵水会に感謝致します。 参考文献 浅田孝幸,林!一編著『グループ経営戦略』東京経済出版,2001年。 伊藤邦雄『グループ連結経営』日本経済新聞社,1999年。 伊藤秀史編『日本の企業システム』東京大学出版会,1996年。 小田切宏之『日本の企業戦略と組織』東洋経済出版社,1992年。 櫻井通晴「企業再編と分権化の管理会計上の意義」企業会計,Vol.56,No.5,中央経済 社,2004年。 下谷政弘「大企業の時代」書斎の窓,1999.5.pp.8―13。 25)社外分社・合併に際しては,抵抗が起こる。労働組合のニュースには,労働者側の不安 が明確に記述されている。なぜならば,解雇や制度の改変を伴うからである。制度を,吸 収合併する側にあわせれば,吸収合併される側は不満をもつ。人は経済合理性だけで動く わけではない。人の感情・名誉を考えないといけない。優秀な人間が退職してしまったり, 残った者のモチベーションが落ち,その結果として業績は悪化し M&A は失敗に終わる可 能性があるからである。そういう意味では,制度を変更する際のプロセスの研究も重要で ある。
64 彦根論叢 第362号 平成18(2006)年9月 田中隆雄「持株会社の管理と会計」企業会計,Vol,51,No.9,中央経済社,1999年。 西澤 脩『分社経営の管理会計』中央経済社,1997年。 西澤 脩「分社化による企業再編の法制と会計」企業会計,Vol,53,No.1,中央経済社,2001 年。ミルグロム&ロバーツ著『組織の経済学』NTT 出版,1998年。 門田安弘『企業価値と組織再編の管理会計に関する研究』日本会計研究学会 特別委員会報 告書,2003年9月。 頼 誠「カンパニー制の意義と課題」滋賀大学経済学部研究年報,第4巻,1997年。 頼 誠「日本企業のカンパニー戦略」浅田,林編著,前掲書,第1部第4章,2001年。 その他,日経新聞の記事,双日の資料等,文中および注に記載。