言葉と体験,習得と探究をつなぐ
情 報 の 時 間
紙と鉛筆から始める
新しい情報“学”教育
ー言葉と体験、習得と探究をつなぐ
「活用する力を高めるためにー
1(2009)年度 滋賀大学教育学部附属中学校
http://www.fc.shiga-u.ac.jp/−目次−
■本校の研究の概要···2
■情報教育の転機···3
■「情報の時間」のカリキュラム···6
活用する力を高める「情報の時間」実践の様子
■在校生へのアンケート ··· 10
■「情報の時間」から始まった新しい授業実践··· 11
「情報の時間」から各教科・総合的な学習の時間へ
■本冊子の要旨
いわゆる「PISA ショック」を背景にして改訂された学習指導要領 では,「各教科における言語活動の充実」を求めています。 滋賀大学教育学部附属中学校では,総合学習「BIWAKO TIME」 を 27 年間続けています。その学習を円滑に進めるため特設したキ ャリーメディアに端を発する「情報生活科」が,情報機器を使いこな す発表等に一定の成果を上げる一方で,発表方法には多大な関 心を寄せても,発表内容については吟味せず鵜呑みにしてしまうと いう傾向が浮き彫りにされました。 「情報の吟味や生産の力を持たない」という障壁は,「各教科に おける言語活動の充実」が今後生み出すと予想される課題と同じ ものです。その解決策を求め,過去の教育実践に学ぶ教育研究は もとより,コンピュータの進歩にあわせて発達した「情報学」の新し い風を,教科等および総合的な学習の授業改革に結びつけようと する取り組みを始めました。情報(文字・絵など)を理性と感性の両 面からとらえ,批判的に吟味し自分の考えを生み出し発信していく 生徒を育てることを目標に,教科横断的に中学生に必要な情報に 関する知識や思考法を束ねようとしています。 生徒アンケートの結果や授業研究会を通して,「情報の時間」 が,教科等や総合的な学習の時間において,活用する力の育成に 資することが明らかになりつつあります。言葉と体験,習得と探究をつなぐ「情報の時間」
平成22年度 学習指導要領では,重要事項の第一として「言語活動の充実」を求めています。本校 では,教科等や総合的な学習の時間での学びを深めていく研究の過程で,生徒の言語活 動を生み出すには,「情報のみかた」の学習が欠かせないと考えるようになりました。 そこで,情報機器利用指導の色彩の濃い旧来の情報教育とは違う新しい情報教育を模索 するため,3年間にわたって,「総合情報学」における情報の概念や情報のとらえ方に 多くを学びながら,中学生に必要な情報教育を新たに開発してきました。その核として, 総合的な学習の時間に,教科横断的な内容の「情報の時間」を実施しています。 「言語活動の充実」とは何か,そのために必要な思考力を深める情報吟味の観点をど のように設定するか等,今日と明日の日本の教育課題について,みなさまとともに考え ていければ幸いです。 1.学校教育目標 郷土を愛し世界へはばたく心豊かな生徒の育成 2.研究テーマ 文部科学省研究開発指定(一年次) 教科等ならびに総合的な学習の時間における言語活 用能力の向上を図るための、教科横断型「情報の時間」 開設を核とした教育課程の開発 3.本校の「豊かな学力」の捉え方 ①知識・技能の量…学んだ力,学習到達度,学校知 ②思考・判断・表現力など…学ぶ力,学び方,機能的 学力,方法知 ③学習意欲…学ぼうとする力 ④学んだことを活用する力…集団で高め合う力,問題 1.情報の授業の目標 批判的思考力・問題解決能力・問題発見能力を育成し,生徒の感性 と論理的に考える力を高めることと,高度情報通信社会に生きる力の 育成を図ることを情報の授業の目標にしました。 2.情報の授業の設計 内容の中核として,中学生の学校生活や社会生活を観察して特に必 要と考えられる三つの「視点」を設定しました。 A 情報の本質を探究する C 情報の活用を実行する E 情報の内容を吟味する 次に,それらを関連させながら指導 することをねらって,AC間をB, CE間をD,EA間をFとして B 本質を知って活用 D 内容を吟味して活用 F 本質を知って内容を吟味 という三つの「補完する中間の視点」を設定し,以上の六つを“情報 科”の内容としました。内容の配当にあたっては,本校は 2 期(前期・ 後期)制を採用していますので,期ごとに 1 年生ではAとその対極D, 2 年生ではCとその対極F,3 年生ではEとその対極Fを割り当てて各 学年で本質・活用・吟味を学べるようにすることで,系統性を保ちつ つ螺旋的な内容の深まりも期待できるような形を骨格にしました。 3.配当時間と指導体制 操作を伴う活動の多い単元には 8 時間,知識理解が中心となる単元 には 5 時間を配当し,2∼3 名のチーム・ティーチングで指導すること で,職員の専門性を生かしつつ全員が指導に関わるようにしました。■はじめに
■本校の研究の概要
平成 22(2010)年度
■「情報の授業」の概要
:平成 18(2007)年度∼
解決場面で生かす力 4.本校の学習領域 必修教科 基本的な知識・技能の確かな定着を図る。 選択教科 生徒の特性等に応じて,個の伸長を図る。 「BIWAKO TIME」 環境・郷土を題材として調査研究を行い,学 び方を学ぶ。 「国際理解・共生 社会への参加」 人間の生き方に関わって,よりよい生き方を 学ぶ。 「情報の時間」 高度情報通信社会への対応。情報を活用する 力の向上を図る。 「科学技術科」 エネルギーと環境問題について,多面的な見 方を学ぶ 学年・内容 単元 1 年 生 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 人とのコミュニケーション メディアによるコミュニケーシ ョン 情 報 の 活 用 アイデアを練ろう 分析しよう 発表しよう 2 年 生 デ ー タ と 情 報 データ量と情報量 データの質とデジタルデータ 情 報 の 処 理 データを集めよう データを処理しよう 情報を表現しよう 3 年 生 思 考 と 創 造 論理的に理解しよう 論理的に表現しよう 情 報 社 会 情報の本質 情報と経済・犯罪 これからの情報社会「BIWAKO TIME」の変遷と「メディア学習」のはじまり 昭和 50 年代に知育偏重,進学一辺倒,輪切りの教育などが,大きな問題になりました。本校では,このような状況 は,実は一人一人の生徒の特性を生かしていない点が問題であること,そして基礎的な学力を定着させ,個々の創造 性を発揮させることが重要であると考えました。 本校は,昭和 57(1982)年度から3カ年にわたって,文部省の研究開発学校の指定を受け,教育課程の改善のため の研究開発に取り組み,「基礎的な学力の一層の定着を図り創造的知性を育てる教育課程の実践研究」という主題のも と研究をスタートしました。 この研究の中で,自主的・主体的な学習の仕方を身に付け,正しい判断力と実践力を培うためには,教科学習を統 合的・総合的に学習する内容が必要であること,そして,教室という学習の場の枠を取り払い,自由度の高い学習を 設定することの重要性を認識しました。その結果,このねらいを達成する活動を充実し,「教科学習」との連携を図る 目的で,昭和58(1983)年度後期より,「郷土学習」−びわ湖と私たち−,いわゆる「びわ湖学習」を開始しました。 その後「びわ湖学習」は「BIWAKO TIME」と名前を変え,その時点で最善と思われる運用方法で,現在に至る 26 年間にわたって,生徒の探求の舞台を提供してきました。 「びわこ学習」において,学習成果の記録や発表方法をさらに充実させるべく,1991(平成 3)年度から「特設コンピ ュータ学習」や「メディア講習会」を開設して,機器操作能力の向上を主なねらいとして,多種の情報・視聴覚メデ ィアの効果的な活用方法を指導してきました。しかし,単発的に講座を開設するだけでは効果が薄いことから,各教 科が特定の機器操作を重点的に身につけさせるよう,各教科の授業に意識的に組み込むように改善しました。例えば, 美術はカメラ操作,理科はビデオカメラ操作,国語はOHP 操作,技術はコンピュータ操作に習熟させるように,役割 分担をしたのです。これらの「メディア学習」によって,「びわ湖学習」は力強い推進力を得ることになりました。 本校の「びわ湖学習」「BIWAKO TIME」の変遷 年度 学習の名称 含む領域 内容等 昭和 55 昭和 56 自己を磨く活動として自主的課題研 究に取り組み学年の枠をはずし,必 要に応じ助言する学習の開始。 昭和 57 昭和 58 昭和 59 総合学習を 位置づける 郷土学習 ( び わ 湖 と 私たち) 総合学習 郷 土 学 習 ( び わ 湖学習) 性教育 生徒会活動 校外学習 道徳 英会話 2 年 人権学習 選択教科 3 年 フリータイム 自主学習の時間の設定。構成員数 を 限 定 せ ず 自 主 的 選 択 学 習 の 開 始。 18 のテーマ別分科会を設定し,異学 年縦割りの学際的自由研究活動へと 発展する。文部省の研究開発校の指 定を受けた取り組み。 昭和 60 昭和 61 昭和 62 郷土学習 総合学習 びわ湖学習 性教育 総合活動 校外学習 生徒会活動 に分離する 1 年生を対象に基礎講座の設定。 発表会に向けてのメディア講習会を 開く。 深まりのある話し合い活動の展開の 指導。 昭和 63 平成元 平成 2 びわ湖学習 平成 3 平成 4 平成 5 環境学習,国際理解学習を展開す る。 平成 6 「BIWAKO TIME」 郷土学習 国際理解 環境教育 グローブ計画 びわ湖学習と国際理解学習をドッキ ングする。1,2 年生郷土,国際理解学 習で 10 分科会の開始。3 年生は環 境学習で外部講師による講話を実 施。 平成 7 平成 8 「BIWAKO TIME」・・・・・・「学び方を学 ぶ」郷土学習,国際理解学習,環境 学習のそれぞれに 5 分科会を開設す る。 平成 9∼ 環 境 ・ 郷土 に 焦 点 化を図る 開設する領域・分科会の数を変更し ながら現在に至る。
■情報教育の転機
「情報生活科」への改編 「メディア学習」が大きく転換を 迫られることになったのは,1999(平 成 11)年 1 月にマルチメディア対応 パソコン 41 台が整備されたことに よります。コンピュータの高機能化 や,ネットワークに接続して使用す る運用方法などによって,次のよう な問題が生じたのです。 ・教師が研修すべき内容の増加 ・コンピュータ操作に長けた生徒の 登場 ・インターネットに接続することの 光と影 ・機器の維持・管理の難しさ このため,情報を見極めて取捨選 択する能力の育成や,モラル・マナ ーを重視した指導が求められるよう になりました。単なる操作方法を学 ぶだけの「メディア学習」からの脱 皮を図り,以下のような能力,態度 の育成にも取り組んでいきたいと考 えました。 ・情報を見抜く力 ・情報を活用する資質や問題解決能 力 ・身近な生活と情報の関わりについ ての正しい認識 ・情報倫理,マナー言葉と体験,習得と探究をつなぐ「情報の授業」
平成22年度 「情報生活科」の内容 「情報生活科」の目標は, 身近な情報に関する知識の習 得や課題解決を通して,情報 及び情報技術の進展が人間や 社会に及ぼす影響を正しく理 解させ,主体的に情報を活用 し,発信できる能力と態度を 養うことです。 1年生 24 時間,2年生 21 時間,3年生 21 時間を,総合 的な学習の時間に配当し,学 級担任をふくめたチームティ ーチングで行います。 何かの作品を製作すること を通して体験的に学ぶことが できるように,学年別にワー クブックを準備しました。 ■学習内容 1年生 ・情報生活科に入門!・情報のモラルとルール「ネット社会を上手に歩 こう」・写真レポート「紹介!附属中の○○」・上手に情報に出会おう・ プレゼンテーションの方法・発表の方法「意外なわたし紹介」 2年生 ・データを活用しよう「附中の○○は・・・」・BGMで演出しよう「紹 介!附中生の一日」 3年生 ・情報のモラルとルール「高度情報通信社会にくらすわたしたち」「私 の愛するまちをつくろう」・3年間の学習をWeb にまとめよう「自分の あゆみをWeb ページで発信しよう」 めざす 生徒像 1年生 2年生 3年生 具体的な姿 相手の気持ちを考えて, 情報を扱ったり,情報技 術を使ったりすることが できる。 他者への影響を考えて, 情報を扱ったり,情報技 術を使ったりすることが できる。 社会的な責任を持ち,自 分や社会のために,情報 を扱ったり,情報技術を 使ったりできる。 情報モラル,マナーを身につけた生徒 育てたい 四つの力 1年生 2年生 3年生 情 報 を 読 み 解く能力 身近な情報に目を向け, その確かさについて考え ることができる。 身近な情報に目を向け, その確かさについて客観 的・分析的に考えること ができる。 身近な情報に批判的な目 を向け,その確かさや社 会的背景について読み解 くことができる。 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン能力 自分の立場を理解して, 情報伝達方法を活用し, 他者と関わることができ る。 他者の立場を理解して, 情報伝達方法を活用し, 自分を生かすことができ る。 自分と社会のあり方につ いて考えて,情報伝達方 法を活用し,自分を生か すことができる。 情報機器・手 段 を 主 体 的 に 使 い こ な す能力 情報機器・手段の特性を 知り,使うことができる。 情報機器・手段の特性を 理解し,使い分けること ができる。 情報機器・手段の特性を 生かし,使いこなすこと ができる。 情 報 を 効 果 的 に 発 信 す る能力 情報を吟味して,正しく 発信することができる。 発信する情報の内容をよ り効果的な方法で発信す ることができる。 発信する情報の内容を高 めながら,誤解のないよ うに発信することができ る。 また,「BIWAKO TIME」の学習を一層深めていく過程で, 生徒の思考や活動の高まりが不十分であると感じられた ことがあります。例えば,新たな問題を発見することや, 批判的なものの見方が不十分で,問題解決に向かってい るとはいえないものや,他の人の意見を参考にして考え を深めさせることが困難な場面に直面し,指導の工夫が 求められるようになってきました。 「情報生活科」の限界 「情報生活科」では作品づくりを通して,学校生活や 社会生活での情報機器の効果的利用法を身につけさせる 単元展開をとっていたため,情報機器を器用に使いこな す生徒がたくさん育ってはいましたが,反面,生徒に情 報の吟味や生産の力はあまりついていなかったと言わざ るを得ません。つまり,「情報生活科」は,メディアの使いこ なし方や倫理的留意点については学習内容を用意していま したが,それ以外の部分は生徒の気づきに委ねざるを得な かったのです。■コンピュータ教育からの脱却
総合学習の危機 「BIWAKO TIME」が大きく転換を迫られることになった のは,ネットワーク回線の普及やインターネット検索エ ンジンの充実などによって,人を介さない情報の入手が 容易になったことがあげられます。 調査・研究成果をコピー&ペーストで整えることがで きるようになると,当然のように生徒の関心は,地道な 情報収集や発表内容よりも,発表方法に向けられます。 発表会の相互評価では,決まって「発表の声が大きか った/小さかった」,「話の内容が分かりやすかった/ 分かりにくかった」などと指摘はするものの,内容につ いては質問を返そうとはせずに,BGMをふんだんに用 いたビデオレポートやアニメーション効果を多用したス ライドショーの内容が明らかに乏しいものであっても評 価が高くなりがちでした。 つまり,発表方法には多大な関心を寄せても,発表内 容については吟味せず鵜呑みしてしまいやすいといえる のです。学習指導要領が求めるもの 中教審答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」によると,社会の 変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項の1つめに情報教育があげられています。その中では,情報活用 能力を育むことが,知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となるものであると位置づけられています。 国際的学力調査(PISA,TIMSS)の結果が公表され,基礎・基本の習得については一定の成果が見られたものの,活用する 力・応用する力については課題があることが明らかになりました。これらの結果は,自発的に学習する意欲や習慣を身につけさ せることを軽視する風潮に警鐘を鳴らすものです。PISA 調査の概念の枠組みの基本となっているのは OECD が報告したキー・ コンピテンシーであり,この一つめには,「社会・文化的,技術的ツールを相互的に活用する能力」があげられています。この能 力とは次の三つをあわせたものであると定義されています。 ①言葉,シンボル,テキストを相互作用的に活用する能力 ②知識や情報を相互作用的に活用する能力 ③技術を相互作用的に活用する能力 これらは情報リテラシーともよばれるものであり,これからの教育では すべての場面で,目前の状況に対して特定の定式や方法を反復継続 的に当てはめることができる力だけではなく,変化に対応する力,経験 から学ぶ力,批判的な立場で考える力が求められているといえます。 「コンピュータ利用教育」との決別 高等学校の「情報科」は,「コンピュータや情報通信ネ ットワークなどの活用を通して,情報を適切に収集・処 理・発信するための基礎的な知識と技能を習得させるとと もに,情報を主体的に活用しようとする態度を育てる」, 「コンピュータにおける情報の表し方や処理の仕組み,情 報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させ,問題解 決においてコンピュータを効果的に活用するための科学 的な考え方や方法を習得させる」,「情報のディジタル化や 情報通信ネットワークの特性を理解させ,表現やコミュニ ケーションにおいてコンピュータなどを効果的に活用す る能力を養うとともに,情報化の進展が社会に及ぼす影響 を理解させ,情報社会に参加する上での望ましい態度を育 てる」ことを目標としています。 しかし,コンピュータ利用を最終目的とする限り,各教 科の基底の知識・技能としてはたらく学習内容とはなり得 ません。このことは,高等学校の「情報科」のみならず, プログラミングの基礎を学習する中学校の技術・家庭科や オフィスソフトの使用法を教えるための今般の情報教育 にもあてはまることです。 したがって,変化に対応する力,経験から学ぶ力,批判 的な立場で考える力を高めさせるためには,「批判的思考 力・問題解決能力・問題発見能力を育成し,生徒の感性と 論理的に考える力を高める」ことを目標として,新たな情 報教育の枠組みを構築する必要があるといえます。 その一方で,情報の学習では,高度情報通信社会への移 行に伴って国家・社会の形成者として新たに必要とされる 知識・技能と,情報の本質の理解,扱い方の定着を図るこ とも重要であり,そのための情報モラルの育成は,高等学 校の「情報科」,中学校の技術・家庭科との関連に留意す ることが大切なのは,言うまでもないことです。
■情報教育の新たな枠組み
本校では平成18(2006)年度で「情報生活科」を 閉じ,代わって新たに「情報の時間」を開設するこ とで,特に情報を吟味したり生産したりするための 基本的な知識や思考法を,中学生に必要な範囲で教 科の枠を越えて横断的に学ばせようとすることをね らいました。情報教育の新たな枠組みとして,本校 「情報の時間」は,単元によっては必要な知識を先 に与え,演習的に作業や体験を行う展開とします。 例えば,「調べ学習」が「丸写し学習」にならない ための複数情報源の比較検討法や,調査データの読 み取り方など,正確な思考を各教科で充分に働かせ るため,判断の根底となる部分を体系づけるために 必要な知識・技術を提示します。立派な作品の制作 を最終目標とせず,作品づくりを演習として位置づ けることで,情報との関わり方について,生徒の気 づきに委ねるのではなく,目的意識を持たせながら 感得させるようにします。したがって,「情報の時 間」は情報機器の構造や操作についての学習も扱い ますが,主眼には置いていません。この点において 既設の技術・家庭科や高等学校も「情報科」,ある いは本校の「情報生活科」とは目的も内容も異にす るものです。 いわゆる「PISA ショック」を背景にして改訂され た学習指導要領は,活用する力の育成を強調し,各 教科における言語活動の充実を求めていますが,本 校の立場から言えば,全てまさに本研究の対象とな るものといえます。なぜなら本研究は,活用する力 の内実を明らかにすることとほぼ同じことであっ て,言語活動の充実が今後生み出すと予想される課 題を先取りしてその答えをも求めるからです。言葉と体験,習得と探究をつなぐ「情報の時間」
平成22年度■「情報の時間」のカリキュラム
1年生の指導内容
1年生では,体験的な学習内容の充実,コミュニケーショ ンの重視,シンキングツールとの出会いが中心となります。 コミュニケーション 単元「人とのコミュニケーション」 5 時間 普段あまり意識されることのないコミュニケーションについて,情報のやりとりの面 からの理解を多様な場面設定の議論などを通して深めました。情報の伝達手段は様々な 変遷を経て発達しています。人同士の情報のやりとりや,対多数の場合での情報伝達に関 して考えることで,その技術や工夫を理解しました。 コ ミ ュ ニ ケー シ ョン 単 元「 メ ディ ア に よる コ ミュ ニケ ー シ ョ ン」 5 時間 情報が一方的に伝達されるものと相互にやりとりされているものについて目を向け て,特徴をまとめたり,比較したりして,望ましい情報の発信や,情報を受け取る態度に ついて考えました。あるシーンを音のみ聞いて,あるいは,映像も合わせて想定する場合 などの場面を設定し,情報伝達には様々な手段が講じられていることを実感しました。コ ミュニケーションは言葉や音,さらに紙やレコーダーを通して保存,記録されます。その ために,メディアを通したコミュニケーションの特徴について作業を通して考えました。 情報の活用 単元「アイデアを練ろうⅠ」 8 時間 ものごとをいろいろな視点から興味を持って見ないと大切な情報でさえ見落として しまうことを体験し,情報は受け手によって変化することを理解しました。受け手を意 識したアイデアの必要性を学び,コミュニケーションのために新たな発想が迫られるこ とを理解しました。アイデアを見える形にするために,シンキングツールを利用し,ア ウトラインより発想を広げ, 対比や集合で見ることによって,見落としている要素に気 づくことができました。 情報の活用 単元「分析しよう」 8 時間 情報源とは,様々な特徴や特質をもった情報の集まりであるといえます。情報は,そ のまま集めただけでは,その情報源の本質を見抜くことにはつながりません。ある情報 源からの情報を整理し,その特徴を分析することに意味があります。いくつかの情報源 から情報を抽出して,実際に分析を行いました。シンキングツールで情報を分析して問 題を解決するための必要な原因を探し,集めたデータから課題解決のために実践したも のを検証し,分析する一連の流れを学びました。 情報の活用 単元「発表しよう」 8 時間 言葉を聞いて「絵」に描いたり,「絵」に描いたものを言葉に直したりすることを例 に,情報をより効率的・効果的に伝える方法を学びました。情報を人づてに言葉で伝え ると,情報が欠落したりゆがんだりすることがよくあります。そこで,情報を人づてに 言葉で伝えるときに,できるだけ早く正確に伝える方法を学びました。「情報を言葉で 伝える」という点ではニュースも演説もプレゼンテーションも同じですが,ニュースの ようには淡々と話していないことも確かです。「よりよく伝わる」ためにどのように話 せばよいかを学びました。 ※写真はイメージであり,過去のものを含みます。 ■みんなでアイデアを出し合う ■メディアの特徴を学ぶ ■シンキングツールを“体験” ■情報を分析する手法を知る ■「伝える」ために情報を練る2年生の指導内容
2年生では,データの扱い,メディアの操作,メディアに よる表現の習得が中心となります。 データと情報 単元「データ量と情報量」 5 時間 さまざまな情報をあらかじめ整理・分類しておくと,収集した情報をいつでも必要な ときに活用することができます。情報を整理・分類するための効果的な情報活用法を, 学びました。コンピュータで整理・分類すると,形式化・符号化が求められます。他と の違いを考えながら,必要になる場面を考えました。とくに,データ量と情報量の違い を,事例を通して理解しました。情報量に応じて,作文や新聞記事,標語,川柳,俳句 から適切な情報活用法を学びました。 データと情報 単元「データの質とディジタルデータ」 5 時間 情報を正しくとらえる上で情報やデータの定義を知ることはとても大切なことです。 データには,文字,数字,記号といったものがあります。それらのうち,数値データに ふれながら,数値データを正しく読み解くことについて学びました。アナログデータと ディジタルデータの違いやそれぞれの良い点・悪い点について理解し,ディジタルデー タをコンピュータで用いながら,その扱いやすさやディジタル化することによる便利さ について学びました。データは,情報を端的に表すものとしてよく用いられます。正し くデータに向き合うことについて考えました。 情報の処理 単元「データを集めよう」 8 時間 意味のあるデータの集まりである「情報」を創造するために,データを効率的・効果 的に集める方法を学びます。WEB からの情報だけではなく,ディジタルカメラやイメ ージスキャナなどの機器を使いながら,情報を創造するためを目標としたデータの作成 方法を学びます。 情報の処理 単元「データを処理しよう」 8 時間 コンピュータはデータの蓄積や利用に大変適した機械です。コンピュータをつかって データを蓄積・検索するための方法と,それらを学習や生活に有効に利用する方法につ いて学びました。データベースを簡単に扱えるソフトウェアをつかって身の回りのデー タを整理し,表計算ソフトウェアで電卓では不可能な計算をさせてみました。応用範囲 が広いデータベース機能を使って,複数の条件による抽出など,少し複雑な抽出を体験 しました。 情報の処理 単元「マルチメディアで表現しよう」 8 時間 マルチメディアによって情報を発信し,情報を共有できれば,より有効に情報を利用 できることになります。マルチメディアによって情報を発信する時に留意することにつ いて考え,Web ページのデザインを通してインターネットによる情報発信の方法につい て学びました。ネットサーフィンと言われるように,ハイパーリンクによってさまざま なWeb ページに軽々とアクセスすることができます。Web ページの特性であるリンク の方法についても学びました公開するにふさわしいかどうか考えてから発信すること が大切です。Web ページを内容・デザイン性という観点でとらえ,適正にまた効果的に コンテンツやデザインを考えました。 ■データのサイズ(量)を実感 ■ディジタル化の過程を学習 ■ツールの活用方法を学習 ■多様な情報処理メディアを体験 ■複数のアプリケーションの操作言葉と体験,習得と探究をつなぐ「情報の時間」
平成22年度3年生の指導内容
3年生では,論理的思考の育成,情報社会の理解,問題解 決への応用の力を育成することが中心となります。 思考と創造 単元「論理的に理解しよう」 8 時間 学校や家庭のあらゆる生活において触れるメディアの情報が一方的に処理・加工され て伝えられていること知り,情報の本質が明確でない場合があることを理解しました。 新聞など多様なメディアを用いて,周りにあるいらない情報に目を奪われずに,本当に 知るべき情報を見抜く力がまず身につけることができました。論理的に情報を理解する ことで,筋道を明らかにして物事の本質に至る思考を身に付ける重要性を理解し,溢れ る情報の中で本当に必要となる情報を見抜く力が必要であることを理解しました。 思考と創造 単元「論理的に表現しよう」 8 時間 発信される情報を見つめ,その中で本当に伝えられるべき内容はどのようなものなの か,論理的に思考して表現することで,相手に自分の考えをはっきりと伝えことを体験 しました。本当に必要な情報を選択し,論理的な思考に目を向け,意識し,思考・発想 のためにできるよう多様なメディアで表現しました。文章を論理的に理解してまとめて 表現する活動,相手に明確に伝わる物語を思考する活動,4 コマ漫画など限定的な表現 で自分の考えを伝える活動などを通して,論理性のある表現活動の重要性を理解しまし た。 情報社会 単元「情報の本質」 5 時間 情報が複雑になる一方で,極度に単純化された情報が存在することに目を向け,その 存在意義について考えました。単純であっても複座な情報を伝えることを知り,情報の エントロピーなどの概念について考えました。学校や道路など身近にあるピクトグラフ などの簡素化された情報を意識し,伝えられる情報の本質がどこにあるのかを探り,発 想や情報を見つめる際の着眼点の重要性を理解しました。そして,普段意識していなっ た情報への気づきへとつなげていくことができました。 情報社会 単元「情報と経済・犯罪」 5 時間 社会の情報化が進展していることによって自分がどのような影響を受けることにな るのか,身近にある多様なメディアから体験的に理解することができました。キャッシ ュカードやクレジットカードなど情報を記憶するカードの性質や利便性,危険性を学習 し,会員カードなど自分たち普段使うものにもそのシステムが応用されていることを実 感することができました。情報を集積することが多くの経済的なメリットを生じさせる ことや,情報の漏えいなどの安全面にデメリットが存在することを学びました。 情報社会 単元「これからの情報社会」 5 時間 μチップなど最先端のメディアの存在,その機能や利便性,可能性を体験することに よって,卒業を間近に控えた状況で情報社会について意識を向けることができるように なりました。メディアの発達やユビキタス社会の到来で想定される状況について,資料 からの情報を分析したり,様々な意見を交流することでメリットとデメリット,自分た ちが将来どのような社会で生活していくのか,何をすることができるのか,広い視野を 持って建設的なビジョンを描くことができました。http://www.fc.shiga-u.ac 情報の授業の担当者が作成した各単元の生徒用テキスト ◆内容を精査して編纂中(下:生徒用テキストの一部抜粋)
■ワークシート
情報の授業の担当者が作成し た授業用ワークシート (下:ワークシートの例) 蓄積した授業用ワークシート に基づくテキストづくりに取り 組んでいます。今年度,授業で 実際に使用しながら充分に検証 を重ねていきたいと考えていま す。■「情報の時間」テキスト
言葉と体験,習得と探究をつなぐ「情報の時間」
平成22年度■生徒へのアンケート
■「情報の時間」から始まった新しい授業実践
各教科,総合的な学習の時間へ…
社会科の例
「イメージマップ」で歴史的事象の関連を整理します。 ① ある結果に至る歴史的事象を,教科書・資料集などを使 ってイメージマップ状に表現する。 ② 歴史的事象の配置は記述のままや年表順とせず,民衆の 動きや諸外国の動向とも関連させる。 ③ 事象と事象をつなぐ線上に「つなぎの言葉」を記入し, つながりや影響をどのように評価したのか記す。 ④ ペアが順に前に出て,板書し理由を発表する。 ⑤ 座席順を一つずらして他のペアが評価する。青の付箋紙 に「よい点」,赤の付箋紙に「疑問点や改善点」を記入し て貼る。 ⑥ 他のペアの作品や貼られている付箋紙を参考に修正する。国語科の例
「ベン図」で作者の文章表現の素晴らしさに気づきます。 ① ある人物の行動の描写を表す部分を二つの段落から抜 き出し,ベン図に表す。 ② ベン図の∩の部分にふさわしい,ある人物の性格を行動 の描写から考える。 ③ その性格から考えて,次の段落の空欄に当てはまる心情 の描写を考える。 ④ 4人グループで,描写を出し合い,最もふさわしい文章 表現を発表する。 ⑤ 空欄に当てはまる実際の文章表現を知り,自分たちが考 えた表現とどこが異なるのかまとめる。 「情報の時間」では,各授業が終わった後にそれぞれの授業について生徒の評価アン ケートを行っています。本年度からは,「情報の時間」の授業が情報を正しく扱うため にどのぐらい役に立つかを知るために,生徒の評価アンケートの評価項目の再構築に取 り組んでいます。 生徒の授業についての感想 ※自由記述の一部抜粋。総合学習「BIWAKO TIME」の例
ハンドブックにも「シンキングツール」の ページを設け,“情報科”で学習した「イメー ジマップ」「マインドマップ」「樹形図」「ベン 図」「KJ 法」などを,生徒が問題解決の場に 利用できるようにしたことは,従来になかっ たことです。 情報をさまざまなメディアで集めて比較し たり,情報の信憑性を検討したりするような 情報の価値にこだわる学習の広がりがありま した。 ■これから多数決をするときには自分の意 見に自信を持っていきたいと思います。 ■人は都合の悪い情報に目を向けていな いことが多くあることがわかりました。 ■もっと物をいろんな視点で観察し,興味を 持って,ものを見ないと,大切な情報を見落 としてしまうので,もっとしっかりものを見な いといけないと思いました。 ■今日の情報の学習では,言葉だけでは 思うように伝えられないこともあるということ が分かりました。 ■受け手の人が分かりやすく伝えることが できるようにしたいと思いました。だからま ず,自分にもよく分かるようにしたいと思い ます。 ■今日は人によって考え方がいろいろあっ ておもしろかったです。どれがどう良いかな どいろいろ考えられました。 ■情報は,伝わっていく間に変化するとい うことが分かりました。人によって連想する ものが違うから少し危ないなあと思いまし た。 ■邪魔なものをどんどん省いていくと,大切 なことが,あぶり出されてくることがおもしろ かったです。 ■情報を学んで,情報には恐ろしいところも あるとがわかりました。 ■デジタルが精密だと思っていたけれど, アナログの方が精密なことがわかりました。 でも,デジタルにすると便利なことがたくさ んあってよいと思いました。 ■情報はお金につながっ たりし ている の で,地域によって,世代によってはじめから 差があるのは不公平だと思います。 ■まねをすることはいけないことだと教えら れてきたような気がしますが,まねをするこ とが創り上げることにつながることがあると いうこともわかりました。平成22年度 滋賀大学教育学部附属中学校
以下のアンケート結果は、2009 年 5 月と 11 月に行った、「情報」という言葉に関するイメージについてのものです。 「情報」という言葉についてのイメージが広がっていくのがわかります。