学習時における児童の思考を促すしかけとツールについて 高度学校教育実践専攻 実習責任教員 川 上 綾 子 教員養成特別コース 実習指導教員 野 村 篤 菊 池 吏 紗 キーワード:思考活動,しかけ,ツール 1. はじめに 平成20 年に告示された現行の学習指導要領 では、知・徳・体のバランスのとれた力である 「生きる力」の育成が大きく掲げられている。 この「生きる力」について、筆者は、自立して 生きていくための力であると考えた。 今日の社会では、若年無業者や引きこもりが 増加してきているという問題があり、自らが道 を切り拓いていくということが非常に難しい。 人生の中では、どれだけ努力しても叶わないこ ともあるし、たとえ夢を叶えられたとしても、 それまでに数えきれないほどの困難や高い壁に ぶつかることもある。 思い通りにいかないことがあった時、自ら困 難や壁を乗り越えるための方法を模索したり、 時には新しい道を見つけたり、他の方法で自分 を生かす方法を考えたりすることで、人は一歩 前に進めるようになるのではないだろうか。こ れこそ、自立して生きる術であると、筆者は考 える。 しかし、筆者自身、児童と接する際、どうし ても「今」のことばかりを考えてしまいがちで ある。今、これをさせなければならない、今す ぐにこの力をつけさせたいと、その場その場で 終結させてしまうことが多い。そうではなく、 将来どうなるために、今何を身に付けさせるか という長期的な目標がなければならない。 そこで、筆者は、2 年間の大学院での学びを 通して、児童の未来を見据えた働きかけができ るようにしていきたいと考えるようになった。 その際、児童自身が自分の道を切り拓いていけ るよう、思考する力を付けさせていきたいと強 く思うようになった。 2. 実践研究 (1) 基礎インターンシップ 第1 学年 算数科「ものとひとのかず」 (2014.11.28、12.1) 本実践は、「ある数量を他の数量に置き換え て問題の解き方を考えることができる」という ことをねらいとしていた。児童にとって馴染み の薄い「置き換え」の考え方を学習していくた めに付箋紙を使用することとした。この付箋紙 は、思考の跡を残すことができ、同じものを全 員が用いることで全体で共有しやすいというメ リットがあると考えて導入した。 しかし、付箋紙というツールを与えることで、 児童が何を使って考えるか、どのように操作す るか、考えをどのように説明するかなどの自由 な思考活動を制限してしまっていたことに気が 付いた。その原因は、ツールを用いる理由が、 筆者が児童に身に付けさせたい力である「思考 力」を促すことに沿っていなかったからである。 そこで、授業のねらいの達成に向けて、どの ような思考活動を促していくのか、十分な教材 研究を通して考えていく。さらに、ねらいに迫
っていくために、児童一人ひとりが、様々な道 筋や過程を辿ることができるように、個々のレ ベルに沿ったしかけとツールを精選して導入し ていきたいと考えるようになった。 そこで、思考を促すしかけとツールの検討を 研究テーマとし、具体的には以下の2 つの課題 を設定した。 ① しかけとツール導入の目的の明確化 ② 児童のレベルに沿った選択肢の提示 (2) 総合インターンシップⅠ 第1 学年 国語科「ねことねっこ」(2015.5.28) 本実践は、「促音のある言葉を見つける」「促 音を正しく書く」ことをねらいとしていた。こ のねらいの達成に向け、児童が見つけた言葉を 分類して板書すること、見つけ方の選択肢を提 示すること、既習の平仮名を用いたワークシー トを作成することの3 つの手立てをおこなった。 上記課題に沿って本実践の分析結果を述べる。 ① しかけとツール導入の目的の明確化 「なぜ」そのしかけをするのかという目的の 部分は、構想する際に持てていたと考えるが、 「どのように」という方法の部分を十分に定め られていないまま実践してしまっていた。これ は、児童の反応を想定しきれていないこと、そ の場でなるようになると考えてしまっていたこ とが原因であると考える。臨機応変に対応する 力も大切ではあるが、1 時間の授業で児童に何 を学ばせるか、何を身に付けさせるかという部 分において、方法を十分に構想することは不可 欠である。そこで、新たな課題として「方法」 を付け加え、課題①を「しかけとツール導入の 目的と方法の明確化」とした。 ② 児童のレベルに沿った選択肢の提示 促音のある言葉を教科書から探すこと、身の 回りのものから探すことなど選択肢の提示はお こなえたと捉える。しかし、本実践においては、 教科書から探すという選択肢を後から示してし まうことで、ほとんどの児童が「教科書を開く」 「教科書から探す」の動きを半強制的にとるこ とになってしまった。これより、何を使って考 えるかということに加えて、「いつ」使うかと いうことも選択させることが必要であると考え た。そのために、筆者が「いつ」選択肢を与え るかということも、吟味していかなければなら ない。そこで、新たな課題として「タイミング」 を付け加え、課題②を「児童のレベルに沿った 選択肢を与えるタイミング」とした。 加えて、基礎インターンシップではワークシ ートについての課題は挙げていなかったが、本 実践を通して、ただ平仮名を練習するだけのワ ークシートでは、筆者が児童に付けたい力には つながらないということに気が付いた。児童が 試行錯誤しながら、ねらいに迫ることができる ワークシートである必要があると考え、課題③ 「ねらいに迫り、思考できるワークシートの作 成」を新たに設定した。 (3) 総合インターンシップⅡ 第1 学年 算数科「かたちづくり」(2015.11.17) 本実践の目標は、「影絵遊びの活動を通して、 図形を構成する力を伸ばす」であった。このね らいの達成に向かう手立てとして、活動に関心 を持って取り組める環境設定、使用する色板の 枚数に着目できるようにすること、補助線を引 くための図形を提示したワークシートの作成、 児童の実態に応じたヒントカードの提示をおこ なった。 上記課題に沿って分析結果を述べる。 ① しかけとツール導入の目的と方法の明確化 前期に比べ、準備段階から細かなイメージが できるようになってきた。例えば、ヒントカー
ドの導入とカードの内容について検討する際は、 児童一人ひとりの様子と動きをイメージしてお こなった。また、早くできる児童についても想 定し、何を用意しておくかということも考えら れるようになった。 しかし、今回単元全体を任せていただけたた め、5 時間通して構成したのだが、1 時間にこ れをするという事前に決めておいたものに執着 しすぎるという課題が見つかった。 ② 児童のレベルに沿った選択肢を与えるタイ ミング 個別の活動へ入る前に、ヒントカードとチャ レンジシートをあらかじめ提示しておくことで、 児童それぞれの力に合ったツールをそれぞれの タイミングで選べる雰囲気づくりをおこなうこ とができたと考える。その際、見通しが持てる よう、スケジュール化することで、支援が必要 な児童にも対応できたと感じた。 しかし、選択したものを活用するところまで つなげられなかった部分については、課題が残 る。児童が自分のタイミングでヒントカードを 取ることができたことは一つの成果であるもの の、選択して終わりではなく、その選択により、 授業のねらいの達成に向かうことができるよう にするためには、さらなる手立てとして、提示 方法や個別支援などが必要であるということが 明らかとなった。 ③ ねらいに迫り、思考できるワークシートの 作成 ワークシートについては、児童の実態に合っ たものを作成できなかったことから、今後も継 続して研究していく必要がある。本実践では、 全体的にワークシートへの記入の仕方につまず く児童が多かったが、そのつまずきは、筆者が 本来、思考させたい部分ではなかった。これよ り、どこを児童に試行錯誤させたいのかという ことの設定から明確にしていかなければならな いことが明らかとなった。 加えて、この実践を通して、児童にとって無 の状態から何かを考えるということは非常に難 しいことであるということがわかった。そのた め、思考させるには、どの程度枠を設けておく か、どの範囲で思考させるのかという判断がで きなければならないと考える。 実践する度に、分析・考察を繰り返すことで、 少しずつ、課題を克服できた部分もあると感じ る。さらに、自己の新たな課題が明らかになり、 それを克服するための方法を考えられるように なってきたことが、このインターンシップでの 実践を通しての成果であると捉える。 3. 今後の展望 (1) 2 年間の省察 ① 学級経営力 大学院入学時は、学級経営について考える際、 軸をしっかりと持った取り組みを考えることが できていなかった。しかし、授業を受け、院生 や先生方と討議することを通して、思考する児 童を育てることを軸として、学級経営をおこな っていきたいと強く考えるようになった。 また、インターンシップの中で、メンターの 取り組みから「思考する児童を育む学級」とい う筆者の目指す学級の形を明確にし、そのため の具体的な動きについても学ぶことができた。 ② 生徒指導力 育てたい児童像の確立と共に、筆者自身のこ れまでの児童との関わり方、支援の在り方・考 え方に大きな変化があった。それは、児童への 「手厚い」支援から、「考えさせる」支援へと変
換するきっかけとなった。 しかし、実際は、その場をどうにか収めよう としてしまうことが多く、そのたびに、日録や 週録を通して振り返りをおこなっていった。そ うする中で、すぐに答えを出すのではなく、じ れったくても待つことを心がければ、児童は考 えて動く癖がつくようになるのだと考えられる ようになってきた。すると、筆者自身も、無意 識に児童へ「考えさせる」言動が取れる場面が 増えてきた。 ③ 授業実践力 基礎インターンシップを終えて、最も課題で あると感じたのは、授業を構想する段階におい て、「思考する児童」を育むという意識がなか ったことである。 そこで、総合インターンシップでは、メンタ ーの授業時の発問や指示の出し方を観察させて いただいたり、授業構想時から思考を促すため に有効なしかけやツールについて試行錯誤して 取り入れたりした。その中で、課題を克服し、 また新たな課題を見出すという筆者自身の成長 を感じることができるようになってきた。 ④ コミュニケーション力 もともと、筆者は、何もかも一人で解決しよ うとしてしまったり、考えを内に秘めてしまっ たりするところがあった。実習校でも、始めの うちは、児童のことについてメンターと話すこ とすら積極的におこなうことができていなかっ たが、児童との関わり方で困ったことがあった 時、気になったことがあった時、指導の仕方で 教えていただきたいことがあった時など、自ら 働きかけることで、何倍もの学びにつながるこ とを実感した。 一人で考えるのではなく、周囲と一緒に考え ることが大切であることを2 年間の大学院生活 で身をもって感じた。教育現場には、正解とい うものはない。だからこそ、多くの頭で考える ことで、よりよい方向へ向かうことができるの ではないかと考える。これは、児童も同じで、 友だちとのかかわりを通して思考を深めていく ことが大切なのだろう。 (2) 目指す教員像 2 年間の研究を通して学び、身に付けてきた、 児童の思考を促していくための手立てをこれか らの教員人生にも必ず生かしていきたいと考え ている。それは、「考えて動くことができる児 童」を育成することを軸とし、授業時だけでな く、児童の学校生活全体を通して身に付けさせ るような支援をおこなっていくことである。児 童が次の学年に上がる時、小学校を卒業する時、 社会に出る時にどうなるのか、どうなっていて ほしいのかということを考えた支援であり、そ れを通して、児童にとって、訪れる未来が幸せ であるものにしていきたいと強く思う。 インターンシップでは、メンターをはじめ、 多くの先生方の指導を間近で見て、多くのこと を学び、多くの引き出しを持つことができた。 これこそが、筆者の財産である。日々の忙しさ に行き詰ることがあったとしても、この2 年間 の学びを想起し、初心を忘れない教員であり続 けたい。 また、今日の社会は、変化の激しいものであ る。学校現場に求められること、教員に求めら れることも日々変化していくだろう。だからこ そ、2 年間で培った学ぶ姿勢を忘れず、児童一 人ひとりの幸せな未来のためにという根本をし っかりともった上で、今、自分は何ができるか、 何をしなければならないかということを常に考 えて動くことができる教員を理想とし、なによ り、筆者自身が絶えず思考し続けていきたい。