期待の影響と総合評価の在り方を中心とした実証的
検討 ∼
著者
長島 直樹, 長島 芳枝
著者別名
Naoki NAGASHIMA, Yoshie NAGASHIMA
雑誌名
経営論集
巻
96
ページ
1-15
発行年
2020-10
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00012155/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja対消費者サービスの満足構造と多国間比較
~ 事前期待の影響と総合評価の在り方を中心とした実証的検討 ~
“
Satisfaction Structure” of Consumer Services
and its Intercultural Comparison:
Empirical Study Focusing on Expectations and Overall Evaluation
長 島 直 樹 東洋大学経営学部 長 島 芳 枝 大東文化大学経営学部 1. 背景と目的 2. 分析の枠組み 2.1 事前期待の CS への影響 2.2 総合評価の測定 2.3 観測変数と全体モデル 3. 分析結果 3.1 因子分析による次元と因子の確定 3.2 共分散構造モデルに基く分析結果 4. 結論と含意 1. 背景と目的 本研究は対消費者サービスの顧客満足(Customer Satisfaction、以後”CS”とする) の構造に関して多国間比較を試みるものである。分析対象として、日常的な対消費者 サービスから外食サービスを取り上げるとともに、先進国・新興国間での比較を行う 観点から、日本、インド、ベトナムの外食チェーン店での利用者の顧客体験と評価に 基づき実証的な検討を行う。 近年、新興国へのサービス展開が活発化している半面、日本企業が欧米の多国籍企 業と比較して全般に成功していない旨の報告がある。一方、新興国への進出に先立つ
消費者理解に積極的でないとする調査結果も示される(Nagashima & Nagashima,
2018; 長島 2018, 2019 等)。海外進出を支援するコンサルティング会社も、現地提携 パートナーとの連携、現地の諸制度・商慣習・インフラといった要因を重視する一方、 消費者理解に関しては定型化が困難なこともあり、進出後に現地への適応化を通じて 徐々に理解する方策を推奨する傾向にある。
つまり「どのような要因がCS にどの程度影響しているのか」大まかにでも把握して おくことは、サービス展開の上で欠かせない知見ではないだろうか。また、進出先の 消費者は母国消費者と満足構造が異なるとの前提で臨む必要があることは、海外事業 経験の豊富な多国籍企業において共有される認識でもある。 さらに、事前にCS 等を尋ねたとして、どの程度の信憑性があるのかも確認してお かなくてはならない。例えば、満足しているか否かを1 つの質問によって単刀直入に 尋ねることに意味があるかに関しても、これまで多様な研究の蓄積が存在し、異なる 見解が提示されてきた。異文化間での異同を実証的に検討することは、実務的な貢献 にも繋がると思われる。 CS を検討対象として重視することには異論もある。つまり、「CS の把握は本質的 でない」あるいは「CS の把握だけでは不十分」とするものである。例えば、Oliver (1999) はロイヤルティの検討に焦点を当てており、それは「ロイヤル顧客は満足して いることが多いものの、満足していることが必ずしもロイヤルティを意味するわけで はない」との問題意識を出発点としている。「単なる」顧客満足が十分でないのならば、 ロイヤルティ獲得に必要な条件を探求することは必須となる。Oliver は種々のロイヤ ルティの段階とその段階に至る要件を分析した結果、「低次のロイヤルティはやはり 顧客離脱が頻繁に起こり得ること」、また「高次の(究極的な)ロイヤルティ要件は個 人の認知・態度(確信)・愛情(崇拝)はもとより、社会的繋がりの要件も必要とする こと」を明らかにする。このことから、「すべての分野でロイヤルティ獲得が可能であ るわけでないこと」「限られた分野においても究極的なロイヤルティを獲得し得るの は非常に特殊なケースにとどまること、また獲得コストが非常に高くなること」を見 出す。これらの検討結果を踏まえ、顧客満足が十分ではないことを是認しつつも、「本 研究の分析・検討の結果は、多くの企業や産業は目標として『単なる』顧客満足を追 求すべきことを示唆している」と結論する。 CS はロイヤルティの十分条件ではないが必要条件、つまり前提となるとの認識を 踏まえ、本研究はCS の構造解明、及びその多国間比較に焦点を当て、①CS と事前期 待の関連性、②総合評価としてCS を尋ねることの有効性――に関する実証的な検討 を行うこととする。①に関しては、広告・宣伝などによって消費者の事前期待を高め ることが有効な戦略となり得るのか、②については、事前調査においてサービスの満 足度をどのように尋ねるべきなのか――をはじめとする実務的示唆に繋がるものと 考えられる。また、1970 年代以降、上記①, ②の視点による研究は蓄積されているも のの、統一的な結論や合意には至っていない。また、多国間比較は稀少であり、この 意味で外食チェーンに限定されるという限界はあるものの、実証的な比較・検討を行 うことは、学術的な貢献にも繋がる。 2. 分析の枠組み 2.1 事前期待の CS への影響 「事前期待(以下、単に「期待」とする)をいかに扱うか」に関し、3 つの論点が あり得る。つまり、①期待を評価モデルに含めるか否か、②期待を評価モデルに含む 場合、どのような考え方でモデル化するか、③期待の内容として何を考えるのか――
の3 点である。
①に関しては、例えばGrönroos (1982, 1984), Parasuraman, Zeithaml, & Berry (1985, 1988) はサービス評価に関する嚆矢的な研究成果だが、いずれも評価は成果と
期待の差に基づくとの考え方、つまり「期待不一致モデル」(または一致不一致モデル)
に依拠している。これに対して、Cronin & Taylor (1992) はこの考え方に疑問を呈し、 Parasuraman et al. (1988) の SERVQUAL に対して、期待を含まないサービス評価
モデルとしてSERVPERF を提示する。この中で、「期待値と実現値の差を取ること
で、満足概念との差を明確に打ち出せていない」とする。この指摘に基づくなら、CS
測定の際は期待値と実現値の差を取ることがCronin & Taylor においても是認される
ことになる。本研究も期待のCS への影響を含めて考える。より正確には、期待の影
響を考慮可能な枠組みを設定することとする。
②に関し、期待の扱い方には諸研究間に大きな相違がある。以下、代表的な研究例 として、Parasuraman, et al. (1998) と Bolton & Drew (1991) による期待の扱い方
を比較する。上述の通り、Parasuraman, et al. による枠組みは SERVQUAL と呼ば
れ、観測変数の全22 項目に関して、成果から期待を差し引く操作を施す。すなわち
観測変数ごとに成果と期待の差異を計測し、その差分に対して5 つの評価軸(因子)
を抽出する。これに対して、Bolton & Drew (1991) は、成果・期待を各要素の加重平
均をとるなどして、成果と期待を集合的に捕捉した上で各々のCS への影響を検討す
る。地域的な電話サービスを分析対象とし、集合的に捕捉した「知覚成果」と「期待 との差」が総合評価に影響すると仮定し、実証分析を実施する。本研究では、モデル 特定化の観点から、より特定化の度合いが低く、したがって普遍性が高いとの理由で、 Bolton & Drew (1991) の考え方に従うこととする。SERVQUAL は予め期待を差し
引くことによって、期待の影響を前提としているのに対して、Bolton & Drew (1991)
の枠組みであれば、CS に対する期待の影響の有無・程度を検証することが可能にな る。具体的な定式化と変数の操作化については、「2.3 観測変数と全体モデル」におい て後述する。 上記③は期待の内容に関するものである。SERVQUAL における期待は、企業や特 定ブランドに対する期待ではなく、当該サービス分野で一般的に「どうあるべきか」 利用者が判断する意味においての期待であり、しばしば”should”の意味の期待と呼ば れている。通常、”should”の意味での期待水準は、中立的な予想レベルよりも高くな
る傾向がある。このためParasuraman et al. (1988) の SERVQUAL の中で、期待を
差し引いた後の22 指標の平均値はすべてマイナス値となっている。これに対して、
Bolton & Drew (1991) の事前期待は、「参照点からの乖離」という意味で用いている。 Oliver(1981)のスケールを採用し、参照点の形成に影響し得る要素として、1 年前 と比べたサービス品質比較、他の提供主体と比べたサービス品質比較を例として挙げ る。過去や他社に影響される「予想」としての期待であり、”will”の意味での期待と 解釈できる。利用者が抱く当該サービスに対する”should” の意味での期待は、同一 サービスでも企業・ブランドによる差が大きいこと、及び国際比較の際の解釈が困難 になる可能性が大きいことから、本研究では「予想」としての期待を採用する。この 意味でも、Bolton & Drew (1991) の考え方に即した検討を実施する。
2.2 総合評価の測定 総合評価としてのCS に関しては、2 つの論点を検討する。つまり、①顧客体験は 1 回の体験に基づくものか、あるいは過去の一定期間の中での複数回の利用に対する 印象として捕捉すべきか、②単一の質問で、すなわち「全体としてどの程度満足した か」といった尋ね方で補足できるものか、あるいは満足に関する多次元因子によって 総合的に把握されるべきものなのか――の2 点である。 1970 年代以降 CS に関する研究が進展し、上記①の論点に関連して多様なモデル が生み出された。Tse, Nicosia, & Wilton (1990) は、CS (Customer Satisfaction) で
はなく、Consumer Satisfaction の用語を用いるとともに、これを「1 回の購買経験
に続く動的で多次元の主観的なプロセス」として概念化することを提案する。また、 以下のように指摘する。“Wilton and Tse (1983) presented evidence to show that satisfaction tends to be highly sensitive to the effect of a single consumption experience, while attitude tends to remain invariant to the experience. In addition, Oliver (1980) asserted that satisfaction may rapidly decay into attitude over time.”
つまり、CS は 1 回のサービス体験を対象として分析することが合理性を持つとの主
張と捉えることができる。これに対し、日本版顧客満足度指数(JCSI)は過去 1 年分
の経験に基づく顧客満足度を考慮し、これがサービスの知覚価値に由来する、また知 覚価値は知覚品質や事前期待を先行要因とするモデル構造を採用する。この意味で、 Tse, Nicosia, & Wilton (1990), Wilton and Tse (1983), Oliver (1980) の考え方はJCSI
のモデル構造とは相容れない。本研究は、JCSI のように特定企業・産業のサービス 評価や満足レベルを特定することが目的ではなく、CS がいずれの要因と深く結びつ くか検証することを主目的の1 つとしている。複数回の体験とすると、CS 及び個別 要素の印象が、経験間を跨いで融合することにより、個別要素とCS との関連があい まいになる可能性がある。このため、本研究では直近3 カ月以内の特定の外食体験 1 回に対するCS を分析対象とする。 次に、上記②の論点に関連して、「評価の次元をどのように設定(抽出)するか」に 関わる先行研究を概観する。例えば、Zeithaml (1988) は「品質評価は本質的に多次 元であり、一次元の評価は無効である」とする。しかし、「品質評価は本質的に多次元」 は飽くまで統計分析の結果、複数の次元が抽出されたという分析結果を主たる根拠と しており、利用者の認識プロセスとして多次元であることを裏付けるものではない。 本質的に多次元か否かは、利用者が一般的に要因分割して評価しているか、あるいは そもそも要因分割ということが可能であると認識しているか否かに依存するであろ う。例えば、Mittal, Ross, & Baldasare (1998) は単一の CS 指標を分析に用いてお り、必ずしも多次元である必要はないとする。LaBarbera & Mazursky (1983), Kekre, Krishnan, & Srinivasan(1995), Yi(1990) といった先行研究においても、単一指標と
してのCS を Overall Satisfaction として問う質問形式を用いる。本研究では、複合
的要因によって、多次元として捕捉されるCS と 1 指標で単刀直入に尋ねる総合満足
度の双方を定量的に把握し、両者の相関を把握することを試みる。その上でこの結果
2.3 観測変数と全体モデル 本項では、CS に影響する個別要素の特定、及びモデルの構造と推定について述べ る。個別要素群のグループ化の可能性として、(a)体験の全体を通しての“良さ”の感 覚(以下、「体験の良さ」とする)、(b)知覚価格コスト、(c)予想とのずれ(不一致)― ―の3 グループを想定し、これらのグループ(因子)が総合評価としての CS に影響 するモデル構造を仮定する。 まず、上記(a)の「体験の良さ」を構成する個別要素を特定する目的で、事前調査と
してCritical Incident Technique(以後、CIT とする)による定性調査を実施した。
これにより、個別要素の候補群を特定している。具体的には、よく覚えている3 カ月
以内の外食体験(ファミリーレストランまたはファストフード店)に関し、体験の総
合評価(0~10 点の 11 段階)を尋ね、その理由を評価グリッド法によって特定する。
つまり、総合評価に至った理由を具体的になるまでラダー・ダウンを適用し、必要に
応じて一般化を志向するラダー・アップを実施した。インドでは 50 人に対する
Central Location Test(会場指定による個別面談)を実施、日本、ベトナムにおいて
は、それぞれ20 人、10 人を対象とするフォーカスグループ・インタビューによって、 CIT を実施した。 この結果、総合評価に影響する個別要素を以下14 項目にまとめることができた。 すなわち、「1. 店舗の立地」「2. 待ち時間(入店から注文まで)」「3. 店員・スタッフ の応対」「4. 待ち時間(注文から提供まで)」「5. 飲食物の美味しさ」「6. メニューの 豊富さ」「7. 店内の清潔感」「8. 店内の雰囲気(装飾・BGM 等)」「9. 座席の快適さ (椅子・テーブル・空間)」「10. 他の客層(身なり・態度等)」「11. 禁煙分煙の配慮」 「12. 会計の迅速さ」「13. 会計の丁重さ(個別対応、挨拶等)」「14. 価格コスト」― ―の14 項目である。また、定量調査を目的とした、アンケート調査ではいずれの国 の調査においても、「その他、総合評価に影響を与えた要因があれば挙げてほしい」旨 の選択肢を設定したが、該当する回答はなかった。記述はあったものの、上記14 項 目のいずれかに含まれると判断可能な回答が得られた。以上の結果から、これらの14 項目を体験の良さを構成する個別要素と考える。 次に、「(b)知覚価格コスト」に関する本研究の考え方を述べる。Zeithaml (1988) は 知覚犠牲には、価格コスト、非価格コストが含まれるとする。ただし、非価格コスト の内容は、時間コスト、心理的コスト(緊張感、億劫さ、知覚リスク)であり、「(a)体 験の良さ」を構成する個別要素の評価に含まれると考えられる。例えば、「注文した後、 思った以上に待たされた」ケースは「待ち時間(注文から提供まで)」の評価が下がる であろう。会計時に長い列ができていれば「会計の迅速さ」に関する評価が悪化する はずである。また、「店舗に行く際に億劫に感じた」とすれば、同様に「立地」の評価 が低くなるかもしれない。このため、本研究の中で犠牲概念として明示的に観測変数 として設定する対象は、知覚犠牲のダブルカウントを回避するため、「価格コスト」に 限定する。先行研究の中で、知覚価格コストをいかに把握するかに関する検討例は稀 少である。本研究では、「体験と比較した価格」「目的と比較した価格」「可処分所得と 比較した価格」の3 つの観測変数を設定する。
3 番目の「(c)予想とのずれ(不一致)」に関する考え方は、「2.1 事前期待の CS へ の影響」で述べたとおりだが、観測変数として前述の14 項目に関する期待との相違 を数量化した。すなわち、①予想よりも悪かった、②予想と同レベルであった、③予 想を上回った、④事前に当該項目に関する予想は特にしなかった――の4 項目から選 択肢で選んでもらった上で、「③の回答数/予想数(=①~③の合計)」「(②または③ の回答数)/予想数」「(③の回答数-①の回答数)/全項目数(14)」の 3 項目を観 測変数とした。それぞれ、「予測超の要素比率」「予測以上の要素比率」「純予測超化率」 と名付ける。2 番目の項目は、「①の回答数/予想数」を設定するのと、影響の向きが 異なるが同じ意味である。 以上の検討に基づき、3つの構成概念を考える。「因子1:体験の良さに該当する13 要素の項目群」「因子2:知覚価格コストに該当する 3 要素の項目群」「因子 3:予想 とのずれに相当する 3 要素の項目群」である。「総合評価が以上の3 因子(構成概念) に表出し、各因子はさらに該当する観測変数に現れる」とする階層因子モデルを想定 する。また、観測変数として一要素で表す総合評価が、上記の2 段階因子抽出の結果 として表現される総合評価をどの程度説明するかの経路設定を行う。これらの経路を 含むモデルを共分散構造モデルとして設定し、分析することとする。以下、分析結果 の提示においては、因子抽出の結果として把握された総合評価を「包括評価」、単一の 質問による総合評価を「単一総合評価」として両者を区別する。 3. 分析結果 3.1 因子分析による次元と因子の確定 次元と因子を確定する目的で、前述のすべての観測変数に関し、3 カ国を統合した サンプルを用い、探索的因子分析を実施する。図表1 は斜交回転(プロマックス回転) 後の因子負荷量を示している。因子間の相関係数は、因子1, 2 間で 0.756、因子 1, 3 間で0.477、因子 2, 3 間で 0.444 となる。因子 1, 2 間の相関がやや高いものの概ね、 前章で設定したグループ(a)~(c)に対応していることがわかる。すなわち、仮定した (a)体験の良さ、(b)知覚価格コスト、(c)予想とのずれ――の観測変数群の 3 グループ がそのまま因子となっていることが確認される。 次に、構成概念の信頼性を確認する。Churchill (1979)は、構成概念(因子)を構成 する項目群をⅰ)Chronbach’s (クロンバックの、以下「係数」とする)を確認、 ⅱ)単一項目と全項目の合計値(以下、全体和とする)の相関を点検、ⅲ)低相関の項目 を構成概念から除外、ⅳ)係数を再点検――という繰り返しのプロセスを推奨する。 第1~3 因子の係数は、それぞれ 0.963, 0.942, 0.807 であり、いずれも 0.8 以上で あるため、一定の基準は満たしている。豊田(2007)は、信頼性の指標として係数 よりも前提としての制約が緩いΩ 係数を推奨する。Ω 係数は以下の式で測定される。 Ω= �∑ 𝛽𝛽���� �� 2 �∑ 𝛽𝛽���� ��2+∑ 𝑒𝑒���� �� ただし 𝛽𝛽�:構成概念から観測変数𝑖𝑖への非標準化係数 𝑒𝑒��:観測変数𝑖𝑖の誤差分散
<図表1> 次元の特定(因子抽出):因子負荷量による (注)因子抽出:最尤法、回転: Kaiser の正規化を伴うプロマックス回転、5 回の反復で収束。 因子負荷量が0.4 以上のセルに網掛けを付している。 グループ①~③のΩ 係数はそれぞれ、0.934, 0.815, 0.980 となり、係数を基準と する場合同様、構成概念を測定する項目群としての基準値を満たすことがわかる。 しかし、係数はグループ項目数が多いほど高くなる傾向もあるため、特に13 項目 を含むグループ①に関しては、単一項目と全体和の相関を点検することが適切である。 グループ①の中で、11 番目の「禁煙・分煙の配慮」の全体和との相関が 0.403 であり、 他項目よりも全体和との相関が顕著に低い。また、この項目を除外した際のα係数は 0.969 と若干ながら上昇する。この結果、「禁煙・分煙の配慮」を除外した 12 項目で グループ①を構成し、共分散構造分析を実行する。この12 項目で構成するグループ ①のΩ係数は0.944 となり、この基準によっても信頼性を満たしていることが確認さ れる。
ここで、各構成概念の収束妥当性を確認する。Fornell & Larcker (1981) は
Convergent validity(以下、収束妥当性とする)の確認において、Average variance extracted(平均分散抽出、以下 AVE とする)、及び当該構成概念に関するパス係数の t 値を用いることを推奨する。サービス品質を階層構造としてモデル化することを試 みたBrady & Cronin (2001) も AVE を用いて収束妥当性を評価する。なお、Fornell & Larcker は収束妥当性と信頼性を区別しておらず、Convergent validity (Reliability)
AVE= ∑����𝛾𝛾�� ∑� 𝛾𝛾�� ��� +∑����𝑒𝑒�� ただし 𝛾𝛾�:構成概念から観測変数iへの非標準化係数 𝑒𝑒��:観測変数𝑖𝑖の誤差分散 グループ①~③のAVE を計算すると、それぞれ 0.587, 0.595, 0.957 となり、Fornell & Larcker が指摘する「0.5 以上をもって収束妥当性ありと判定する」基準を満たし ている。なお、収束妥当性は、構成概念間パス係数の有意性(通常はt 値により判定) の検討も必要だが、次項の分析結果とともに後述する。また、妥当性に関する今1 つ の基準であるDiscriminant validity(以下、弁別妥当性とする)も共分散構造モデル (構造方程式モデル)による分析結果とともに次項で述べる。 3.2 共分散構造モデルに基く分析結果 前項の検討に基く2 段階因子モデルを、図表 2 で示される共分散構造モデルとして 設定する。 <図表2> 階層因子モデルの全体像 (注)□内は観測変数、〇内は潜在変数(構成概念)を表す。誤差項、及び誤差項間の相関は 割愛しているが、単一総合評価(右下)を除く22 変数に誤差変数を設定した。 立地 待ち時間(入店から注文まで) スタッフの応対 待ち時間(注文から提供まで) 飲食物の美味しさ メニューの豊富さ 店内の清潔感 店内の雰囲気(装飾・BGM等) 座席の快適さ 他の客層(⾝なり・態度等) 会計の迅速さ 体験の良さ 会計の丁重さ <A> 包括評価 価格コスト:体験との比較 <B> 価格コスト:目的との比較 知覚価格コスト 価格コスト:所得との比較 <C> <D> 予測超の要素比率 単一総合評価:0~10点 予測以上の要素比率 予想とのずれ 純超過率(14部分要素中)
以下、3 国統合(1,511 サンプル)に基く分析結果、及び日本、インド、ベトナム各 国の分析結果を示す。モデル適合度をみると、日本に関するGFI が 0.9 にやや満たな いものの、全体として許容範囲にあるといえる。各パラメータ推定値(パス係数)の 有意性はすべて有意水準1%で統計的に有意であることがわかる。また、各構成概念 の観測変数とのパス係数も同様に有意であるため、推定パラメータの有意性(t 値) からみた収束妥当性が満たされていることがわかる。前節のAVE の値と合わせ、各 構成概念は収束妥当性の基準に適合していると判断される。 妥当性のもう 1 つの概念、及び判断基準とされる弁別妥当性は、AVE が Shared Variance(以後、SV とする)を上回ることをもって、弁別妥当性を認定する研究例 が多い(Brady & Cronin 2001 等)。図表 3 は、対角要素が AVE、非対角要素が SV
を示し、すべてのケースでAVE>SV となっていることがわかる。つまり 3 構成概念 すべてに関して弁別妥当性が確認される。 構成概念の信頼性・妥当性を確認できたことから、以下図表4 にしたがって、標準 化係数の各国間比較を行う。まず、<A>で示される「包括評価から体験の良さ」への 経路を確認すると、影響の大きい順に「日本>ベトナム>インド」となる。ただし、 日本とベトナムの差は小さい。 次に、<B>で示される「包括評価から知覚価格コスト」への経路をみると、影響の 大きい順に「インド>ベトナム>日本」であり、<A>の経路と順序が逆であることが わかる。ここまでの結果から、日本では包括的な評価は体験全体に由来する傾向があ り、インドでは逆に知覚価格コストの影響が大きいことがわかる。ただ、インドでも 標準化係数の大きさ自体は<A>の方がやや大きいため、上記の特徴はあくまで各国間 比較の際にみられる特徴である。ベトナムは、日本とインドの中間に位置している。 顧客満足の構造において、インドで価格コストの影響が他国よりも相対的に大きいこ とは実感と整合的な結果と言えよう。 <C>で示される「包括評価から予想とのずれ」への経路は、大きい順に「ベトナム >日本>インド」であり、ベトナムと日本では「体験の良さ」の半分程度の影響力を 持っている。これに対してインドでは符号がマイナスで、かつ統計的に有意である。 このことから、事前予想が高く実体験の評価が予想を下回ることがあっても、期待の 高さが好ましい包括評価に繋がると推測される。 <図表 3> 弁別妥当性の確認:
Average Variance Extracted, Shared Variance による
(注)対角要素が当該構成概念(潜在変数)のAverage Variance Extracted、非対角要素が
<図表4> 共分散構造モデルによる分析結果の要約 <全体> <日本> <インド> <ベトナム> (注)***は有意水準 1%で統計的に有意であることを示す。 最後に、<D>に示される「単一総合評価から包括評価」の経路を確認する。標準化 係数は3 国全体で 0.859, 各国では 0.7 前後となり、かつ統計的に有意である。各国 とも相当程度の関連性を確認できる。単一指標による総合評価としての質問によって、 多次元とされるCS を説明・予測することはある程度まで可能であることがわかる。 4. 結論と含意 本研究は対消費者サービスの満足構造を多国間比較する視点から、日本、インド、 ベトナムにおける外食サービスを対象として、実証分析及び検討を行ったものである。 CS の規定要因と各影響度を探る包括的なモデル設定の中で、特に事前期待の影響度 の特定、及び総合評価として単一質問によるCS 把握が可能か否か――の 2 点に焦点
を当てた。分析結果に基づくファインディングは以下のように整理される。 ① CS に影響を与える観測変数群は「(a)体験全体としての良さ」「(b)価格コストに 対する納得感」「(c)事前予想と比較した際の良さもしくは“ずれ”」の 3 因子に 集約することが可能である。 ② 上記(a)~(c)3 グループ(3 因子)は 3 国とも CS への影響という意味において、 (a)のインパクトが最も大きいことが共通している。標準化係数で比較しても大 きな違いはない。一方、(b), (c)に関しては、3 国間に比較的明確な違いが観察さ れる。 ③ (b)の知覚価格コストの CS への影響は、インドで最大で、日本で最少となる。 また、(c)の事前予想の影響は、日本とベトナムで(a)体験全体評価の半分程度の 影響が確認される一方、インドでは有意にマイナスである。 ④ 単一指標で尋ねる総合評価としての CS は、観測変数から階層因子モデルによ って抽出したCS を相当程度まで説明し予測している。 これらの結果から、以下のような考察・推論を行うことができる。まず、①は CS が3 要因に集約されることにおいて、本研究で設定した枠組みの適用可能性を追認で きたものと解釈される。(a)~(c)の 3 要因性は、3 国共通に確認されたことから、先進 国・新興国によらず、さらに一般化・汎用化できる可能性がある。 第2 に、インドで価格の影響が日本、ベトナムと比較して大きいことは、実感に即 した結果とも言える。しかし、それでも体験全体としての“良さ”の影響を下回って いる点は注目に値する。従来は、新興国へのサービス提供を価格第一で考える傾向も 強かったが、近年は都市中間層の増加や同グループの所得増などを背景に、消費者意 識が急速に変化してきていると推測される。特に、こうした新興国の新しい消費者層 をターゲットとする場合、価格を過度に重視するような旧来の新興国マーケティング の枠組みから自由になる必要もあるだろう。 第3 に、事前予想とのずれの CS への影響は日本、ベトナムでほぼ同程度で正であ る一方、インドでは有意に負となった点である。Oliver (2010) は、”Pleasant
anticipations may be more satisfying than actual usage of the consumable itself (pp. 14)”(楽しさに繋がる事前期待は、実際の消費体験以上に満足をもたらす可能性 がある:筆者訳)と事前期待のポジティブな感情効果を指摘する。インドの外食行動 においては、上記の指摘が当てはまっている可能性がある。つまり、外食行動の多く は家族や仲間との楽しみの機会として利用されることが多く、その状況が事前期待を 膨らませ、実際の経験を期待と比較して評価するというよりは、期待から始まるプロ セス全体を「楽しい経験」として享受しているとする理解である。こうした心理的プ ロセスを前提とすれば、高い事前期待が総合評価にポジティブな影響を及ぼすことは 整合的に説明できる。この分析結果と解釈は、インドの消費者が「期待不一致モデル」 に従わない可能性を示唆しており、事前期待を高めるような広告・宣伝やクチコミの 効果が高いという含意に結び付く。 しかし、ベトナムでは日本の場合と同様に、期待の高さが成果との不一致度を高め、 満足度を引き下げるという結果が示唆される。以上は、同じ新興国であっても国別の 違いが大きく、「先進国」対「新興国」という図式が必ずしも適切でないことを裏付け
ている。 期待(事前予想)の文脈では、どのような状況で「期待不一致モデル」の成立・不 成立が起こるかに関する新たな学術的課題を示唆するとともに、SERVQUAL に関す るモデル形式とその汎用化可能性の再考を促すものでもあろう。上記の分析結果は、 期待を集合的に扱う分析枠組みによって可能となっている。SERVQUAL のように、 観測変数ごとに期待を差し引くという操作化は、モデルの自由度を損なうだけでなく、 期待の影響度をグループ間で比較することを不可能にするものである。 第4 の考察として、単一質問による CS 把握の可能性を検討する。本分析結果は、 単一質問による総合評価が、観測変数群から抽出する多元的なCS を少なくとも一定 程度は説明・捕捉していることを示す。以上から、「顧客満足は多次元でのみ表現され、 一次元の評価は無効」とする実証的な根拠は弱いと結論付けられる。単一の質問によ ってもある程度の確度で包括的な評価を把握できると推測され、単一質問の有効性を サポートしている。 ただし、いずれの評価がより適切かに関する判断は、利用者の心理プロセスを研究 対象とする必要があろう。実務家から聞かれる「サービスには良いか悪いかしかない」 といった一元的評価を支持する指摘も一考に値しよう。若干敷衍するなら、サービス 提供過程では各要素が逐次的かつ個別的に処理され、全体的な印象を形成することは 頷ける一方、サービス終了後に(断続的なサービスであればサービスの分割単位終了 後に)感じる評価は一元的な捕捉が可能であるという説明には一定の説得力がある。 最後に、今後の課題を検討する。本研究では、CS の規定要因として「(a)体験全体 としての“良さ”」「(b)知覚価格コストの納得感」「(c)事前予想と比較した“良さ”」の 3 因子を抽出した。また、いずれの調査対象国においても、「(a)体験全体としての”良 さ”」の影響力が大きいことが確認された。このことから、体験全体のさらなる分割、 すなわち体験の次元(因子)を抽出することは今後の研究課題の 1 つとなる。長島 (2009)は、サービス体験を序盤、中盤、終盤に分割し、各段階で重視される要素の 特徴を検討した。ただ、上記研究の対象は非対面サービスである。外食店利用のよう な対面サービスに関しても、同様の定性的なアプローチを試行する余地があろう。 また、本研究のモデルは線形の補償型モデルという特徴があり、この意味で限界も ある。つまり、ある要素の不足が他の要素の超過的な充足によって補償可能であると いう、ある意味で現実的とは言い難い想定を含むものである。こうした限界は、JCSI やSERVQUAL にも該当するものであるが、いずれの要素がいわゆる足切り的な役割 を演じているのか――特定することは、サービス評価を語る上で重要事項の1 つであ ろう。このためには、ある理由でサービスの利用を見送った潜在利用者を含めた分析 が有効と思われる。 【謝辞】 本研究は科研費(課題番号 19K01899「日系サービス企業による新興国進出~意思決定プロ セスを中心として~」)の助成を受けて実施した研究成果の一部である。調査にご協力頂いた関 係者各位にこの場をお借りして深く感謝申し上げたい。なお、本稿の誤りはすべて筆者の責任 に帰するものである。
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付属資料 基本統計データ(日本) (注)①~⑲の全項目とも 0 点(最低)~ 10 点(最高) の 11 段階評価 による。インド、ベトナムについては紙幅の関係で割愛するが、 平均値は大半の項目で、日本<ベトナム<インドの順となっている。 平 均 値 標 準 偏 差 ① ②③④⑤ ⑥⑦⑧⑨ ⑩⑪⑫⑬ ⑭⑮⑯⑰ ⑱ ① 総合 評価 (C S) 6. 10 0 1. 70 7 ② 店 舗の 立地 6. 36 0 2. 05 5 0. 38 1 ③ 待 ち 時間 (入 店から注文 ま で ) 6. 18 0 2. 12 9 0. 46 5 0. 52 9 ④ 店 員 ・ スタ ッフ の 応 対 5. 98 0 2. 08 0 0. 68 8 0. 55 1 0. 70 3 ⑤ 待 ち 時間 (注 文から提供 ま で ) 6. 07 0 1. 97 3 0. 56 3 0. 52 2 0. 74 0 0. 79 6 ⑥ 飲食 物の 美味し さ 5. 97 0 1. 97 8 0. 63 8 0. 47 8 0. 54 9 0. 66 8 0. 68 2 ⑦ メ ニ ュ ー の 豊 富 さ 5. 91 0 1. 90 2 0. 56 7 0. 48 1 0. 56 2 0. 66 8 0. 69 8 0.7 92 ⑧ 店内 の 清 潔感 5. 92 0 2. 02 6 0. 60 4 0. 49 6 0. 62 0 0. 73 2 0. 71 5 0. 73 7 0. 744 ⑨ 店内 の 雰 囲気( 装 飾・ B G M 等) 5. 92 0 1. 87 1 0. 59 5 0. 54 2 0. 62 8 0. 70 6 0. 72 1 0. 75 2 0. 75 7 0. 85 4 ⑩ 座席 の 快 適さ 5. 82 0 1. 97 7 0. 57 2 0. 49 6 0. 60 8 0. 66 2 0. 67 8 0.6 84 0. 68 2 0. 79 9 0. 85 0 ⑪ 他の 客層 (身 な り ・ 態 度 等 ) 5. 45 0 1. 98 4 0. 50 7 0. 44 3 0. 52 1 0. 61 9 0. 62 6 0.6 51 0. 65 9 0. 72 3 0. 76 6 0. 80 8 ⑫ 会計 の 迅 速さ 6. 16 0 2. 04 6 0. 54 8 0. 46 8 0. 68 1 0. 73 5 0. 76 2 0.6 15 0. 63 1 0. 72 3 0. 71 6 0. 67 1 0. 62 5 ⑬ 会計 の 丁 重さ 6. 10 0 2. 03 8 0. 59 4 0. 47 3 0. 65 0 0. 79 3 0. 75 7 0.6 35 0. 65 0 0. 74 3 0. 73 4 0. 70 1 0. 66 1 0. 88 8 ⑭ 価 格コ ス ト :体験 と の 比較 5. 79 0 2. 01 7 0. 54 3 0. 39 1 0. 44 2 0. 53 6 0. 59 2 0.6 37 0. 58 9 0. 60 0 0. 59 9 0. 57 4 0. 50 4 0. 53 7 0. 58 7 ⑮ 価 格コ ス ト :目的 と の 比較 5. 53 0 1. 97 4 0. 47 4 0. 34 7 0. 37 7 0. 45 6 0. 51 2 0.5 42 0. 52 1 0. 49 3 0. 48 9 0. 47 6 0. 41 6 0. 46 2 0. 48 2 0. 79 7 ⑯ 価 格コ ス ト :所得 と の 比較 5. 64 0 1. 83 5 0. 43 3 0. 34 9 0. 36 3 0. 44 6 0. 49 6 0.4 99 0. 50 3 0. 46 0 0. 46 9 0. 44 5 0. 39 9 0. 44 5 0. 47 2 0. 77 4 0. 87 5 ⑰ 予想 超の 要素比 率 16 .6 07 24 .8 39 0. 27 5 0. 17 4 0. 23 0 0. 315 0. 31 5 0.2 87 0. 35 3 0. 33 6 0. 36 3 0. 32 3 0. 32 9 0. 31 5 0. 32 5 0. 25 4 0. 25 1 0. 25 8 ⑱ 予想 以上 の 要素 比率 91 .9 58 15 .8 81 0. 40 7 0. 11 8 0. 23 7 0. 39 0 0. 35 1 0.3 58 0. 33 1 0. 36 3 0. 30 1 0. 33 4 0. 36 3 0. 34 1 0. 36 7 0. 40 5 0. 32 1 0. 31 0 0. 12 3 ⑲ 純 予 想 超 過率 (分 母 14) 7. 88 6 29 .1 39 0. 42 5 0. 20 0 0. 30 5 0. 45 1 0. 43 0 0.4 11 0. 44 2 0. 44 9 0. 44 5 0. 42 8 0. 44 4 0. 43 2 0. 44 6 0. 413 0. 36 8 0. 369 0. 84 8 0. 58 P ea rs on 相関 係数