読み手意識(Audience Awareness)尺度に基づく「わかりやすい説明文章」の背景要因の検討
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(2) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report た.AA 尺度の構成概念,また,各因子の項目を表 1 に示. りやすさが低下することを示唆するものといえる.崎濱が. す.なお,岸らは,AA 尺度の検証を行っているが,その課. 指摘しているとおり,読み手意識(Audience Awareness)と. 題は,①既存の説明文において読み手を意識した表現が用. は,説明文の産出に際して,読み手を意識した適切な説明. いられているかどうかを判定する課題,②小学生の作成し. 内容と説明方法を選択する意識と行動を指すものである.. た道案内文章をわかりやすい順番に並び替えを行い,その. ところが,これまでの検討(岸ら,辻)では,それを支持. 評価観点として読み手に対する配慮に触れられているかを. する結果が得られておらず,AA 尺度と文章のわかりやす. 判定する課題,③マニュアル形式の手続き的説明文につい. さとの間において,一貫した結果が得られていない.この. て,与えられた情報に基づき,欠所補充形式で単語を記入. ことから,本研究では,AA 尺度の妥当性の検証を通して,. する課題,以上であった.これらは,AA 尺度の高低間にお. 読み手意識の背景となる能力や技能に関する検討を行う.. いて,どの程度,読み手に対する配慮がなされているかを. また,AA 尺度の見直しを通して得られた尺度に注目し,. 検討するものであった.しかし,実際に AA 尺度の高低間. 得点の高低間における説明文章の質の比較を行う.この検. において,説明文章のわかりやすさを比較・検討すること. 討を通して,読み手意識の背景となる能力や技能に関する. は,行われていなかった.このことから,辻[7]は,実際に. 知見,また,それに基づく指導方針に関する基礎的知見が. 被験者に説明文章を作成させる課題を実施することで,AA. 得られることが期待される(研究 I) .. 尺度の妥当性の検証を行っている.AA 尺度の高低間にお. 次に,研究 II では,現実的な説明文章の伝達場面に注目. ける道案内文章のわかりやすさの比較を行った結果,道案. する.説明文章の産出に際して,説明者は重要なポイント. 内文章のわかりやすさに差は認められなかった.また,説. を強調し,読み手の興味や関心を引くことを意図すること. 明文章のわかりやすさに影響を及ぼす要因について,重回. がある.しかしながら,この説明者の意図が,必ずしも読. 帰分析による検討結果より,説明文章の簡潔さが,文章の. み手の興味や関心を引き出すとは限らない.この点につい. わかりやすさに影響を及ぼしていることが示された( β. て,標識化の観点から検討を行う.標識化とは,説明内容. =.58, p<.01) .その一方で,岸らによる AA 尺度の構成因子. の上位構造を強調するものであり,見出しや符号などに相. である「工夫実践(理解を促すための独自の工夫) 」につい. 当する.山本・島田[8]は,照明器具の設置マニュアルを対. ては,文章のわかりやすさに負の影響を及ぼしている結果. 象として,標識化(見出し)の有無間における理解度の差. が得られている(β=-.63, p<.01) .この結果は,説明者が読. の比較を行っている.また,この評価に際して,若齢者と. み手を意識し,読み手に合わせて説明内容を選択し,説明. 高齢者の比較を行っている.実験に際して,山本らは,見. 方法に工夫を行うことによって,かえって説明文章のわか. 出しの明示性について,3 条件を設定した.明示性なし条. 表 1 読み手意識尺度(岸・辻・籾山, 2014) 因子名. 項目. 係数. (意) 「わかりやすい・わかりにくい」と感じることがある. .688. (意)説明を聴いて「わかりやすい・わかりにくい」と感じることがある. .682. (意)読み手に合わせて,文章表現(言葉づかいなど)を変えた方がよいと思う. .630. (意)聴き手の表情や反応を配慮しようと心掛けている. .613. (事)読み手がどんな人物なのか,考えて書いている. .914. 書き手意識. (事)読み手の視点に立って,文章を読み返している. .632. (α=.78). (事)読み手に合わせて,書く内容(詳しく書く・省略するなど)を変えている. .580. (事)読み手の興味・関心をひくような文章を書いている. .435. (事)説明の途中で,聴き手にどこまで理解できたか・質問はないかなど確認している. .743. (意)説明の途中で,聴き手にどこまで理解できたか・質問はないか確認した方がよいと思う. .689. (事)わかりやすいと感じた説明は,自分が説明する際の参考にしている. .600. (意)工夫して説明(例を挙げるなど)をするようにしている. .363. (事) 「わかりやすい・わかりにくい」の評価をしている. .674. (事)わかりにくい部分は,自分なりの言葉や表現に変換して読んでいる. .522. (事)工夫した説明(例を挙げるなど)をしている. .509. (事)聴き手が興味・関心をもつように話している. .497. 説明意識 (α=.74). メタ理解 (α=.72). 工夫実践 (α=.71). [注]各項目の(意)と(事)は,説明場面における「意識」と「事実」を示す. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 2.
(3) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 件では,照明器具の設置方法について,手続きを箇条書き. 度に関する妥当性の検証が十分ではないことが考えられる.. のみで示した.低明示性条件では,照明器具の設置に関す. このことから,研究 I では,AA 尺度の構成概念の再検証を. る手続きについて,作業目的をグループ化する見出しを追. 実施する.. 加した.高明示性条件では,照明器具の手続きをグループ. ここで,AA 尺度の再検証に際して,質問項目のワーデ. 化する見出しを追加した上で,見出しの先頭に記号を追加. ィングに関する修正を行った.岸らによる AA 尺度の項目. し,太字フォント,枠囲いなどの機能を用いることによっ. には, 質問項目の表現がきわめて近いものがある. 例えば,. て,さらに見出しを強調する操作を行っている.この 3 条. 「 『わかりやすい・わかりにくい』 と感じることがある」 と,. 件における理解度測定に際して,若齢者と高齢者との間に. 「説明を聞いて『わかりやすい・わかりにくい』と感じる. 異なる傾向が見られている.若齢者は,標識化の明示性の. ことがある」について,前者は説明活動の全般に関する印. 高低にかかわらず,一貫して照明器具の設置に関する理解. 象に関する項目であり,後者は,口頭説明場面における説. 度が高い結果が得られた.その一方,高齢者の場合には,. 明活動の評価に関する項目である.しかしながら,本尺度. 標識化の明示性なし条件・低明示性条件において理解度が. に回答する被験者にとっては,両者の違いを読み取り,そ. 低く,高明示性条件において,若齢者とほぼ同等の理解度. れに沿った回答を行うことは容易ではないと考えられる.. となることが示された.この結果より,標識化の効果とし. このことから,AA 尺度の再検証に際して,いくつかの項. て,説明文章のまとまりを明示すること,見出しを目立た. 目について文言の修正を行い,説明場面の明示(口頭,ま. せることによって,特に高齢者の全体像の把握が促進され. たは文章)を行った.このことにより,AA 尺度の回答が容. ることが示されている.このように,山本らは,伝達内容. 易になることが期待される.. に関するまとまりの効果に注目し,標識化の効果検証を行 った.ここで,読み手に対する働きかけの一つの側面とし. 2.2 方法. て,説明内容に関するリスクを強調し,注意喚起を促す工. 調査は,2017 年 12 月に実施した.被験者は,読解に関. 夫があることが考えられる.AA 尺度に関して,説明の説. する質問紙調査への呼びかけを行い,協力を希望した大学. き手が,読み手の注意喚起を促すためにリスクを強調する. 生であった.無回答や,分析対象として不適切(すべて同. ことには, どのような効果があるのだろうか. 研究 II では,. じ回答を選択するなど)なデータを除外した結果,113 名. 読み手意識を現実的な説明文章の作成に活用する場面を想. の回答が得られた(男性 95 名,女性 18 名) .なお,調査に. 定し,説明の説き手が,読み手の情動的側面に働きかけを. 際して,以下の材料を用いた.. 行った効果について検証する.. ・フェイスシート(性別,年齢など). これらのことから, 本研究の構成は, 以下の通りとなる.. ・読み手意識尺度(岸ら[6]) (16 項目,4 件法) ・メタ認知尺度(吉野ら[9]) (19 項目,5 件法). 研究 I:読み手意識尺度の構成概念に関する再検討と,説明. ・クリティカルシンキング尺度(池田ら[10])(16 項目,5. 文章のわかりやすさとの関連性の検討. 件法) 調査に際して,制限時間は 30 分と設定したが,すべての. 研究 II:現実的な説明文章産出における,説明の説き手の. 協力者が時間内に回答した.得られたデータについて,探. 情動的側面への働きかけの効果の検証. 索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施した. 分析に際して,IBM SPSS Statistics 24 を用いた.また,妥. これらの検討を通して,わかりやすい説明文章の産出に. 当性の検証に際して,AA 尺度とメタ認知尺度,また,AA. 関する背景要因,また,読み手の理解を促す説明の説き手. 尺度とクリティカルシンキング尺度,これらの相関分析を. の説明のあり方,これらに関する知見が得られることが期. 実施した.. 待される.. 次に,AA 尺度得点の見直し結果に基づき,尺度得点の 高低間における説明文章のわかりやすさの比較を実施した.. 2. 研究 I. 調査は,2018 年 1 月に実施した.被験者は,実験参加を希 望した大学生 38 名(男性 33 名,女性 5 名)であった.実. 2.1 研究 I の目的. 験材料として,被験者にとって既知の内容である説明文産. わかりやすい説明文章の産出に際して,どのような能力. 出課題(大学構内の道案内文)と,被験者が先行知識を持. や技能が関連しているのだろうか.この点について,岸ら. たない説明文産出課題 (幾何学図形の説明文) を設定した.. は,読み手意識尺度(AA 尺度)の提案と検証を行ってい. 各被験者は,これらの 2 種類の課題に関する説明文章の作. る.しかしながら,AA 尺度が高い被験者と,そうでない被. 成課題に取り組んだ.実験手続きとして,最初に AA 尺度. 験者との間において,実際に産出される説明文章のわかり. 得点の見直し結果に基づく質問紙調査を実施した.その後,. やすさに違いは見られていない.この点について,AA 尺. 被験者の在籍する大学内の道案内文章課題(図 1),また,. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 3.
(4) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 幾何学的な図形を文章のみで表現する課題(図 2)を課し た.制限時間は 30 分に設定したが,全ての被験者が時間内 に回答を終了した.説明文章の評定に際して,文章表現に 関するゼミに所属する大学生 2 名による評価を行い,実験 者との協議を通して説明文章の採点を行った.被験者の群 分けに際しては,AA 尺度の見直し結果に基づくスコアの 中央値を基準として用いた. 2.3 結果と考察 2.3.1 読み手意識尺度の検証を通してどのような因子構造 が見られたのか. ・他大学の学生を対象に,大学構内を案内する文 章を作成してください.その際の道のりは,以下 の通りです. ①正面入り口(情報ライブラリー前のスペース) ②4 階の大学事務局 ③493 教室と C&D 教室の前の通路を通って,大講 義室 ④3 階のイカ型ロボット ⑤1 階の学生食堂. AA 尺度について探索的因子分析を実施した結果,5 因子 が抽出された(表 2) .第一因子として,説明の受け手の興. 図1. 味と関心に関するまとまりが見られたことから, 「受け手の. 文章による道案内課題 insikann. 興味関心因子」と命名した(α=.76) .第二因子として,説 明を行うにあたっての準備,プランの構築に関する項目の まとまりが見られたことから, 「説明プラン」因子と命名し た(α=.79) .第三因子として,被験者自身による説明の評 価と,それに合わせた説明内容の調整に関する項目のまと まりが見られたことから,「柔軟性」因子と命名した(α. 表 3 改訂版 AA 尺度における因子間相関. =.72) .第四因子として,自分自身の説明を客観的に捉え, わかりやすさを評価する項目のまとまりが見られたことか ら,「メタ的観点」因子と命名した(α=.59) .最後に,第 五因子として,説明対象である受け手の理解度の確認や, 自分自身の説明の理解度の確認に関する項目のまとまりが 見られたことから, 「修正・リカバリ」因子と命名した(α. 図2. =.66) .因子間相関を表 3 に示す.この結果に基づき,因子. 表2. 文章による図形説明課題 insikann. 改訂版読み手意識尺度(改訂版 AA 尺度)因子分析(最尤法,プロマックス回転). 因子名. 項目. 係数. 説明の受け手の興味や関心を引くことを意識して,説明を行うようにしている. 1.076. 受け手の. わかりやすいと感じた説明は,自分が説明する際の参考にしている. .531. 興味関心. 口頭説明や説明文を受けたとき,わかりやすさを評価している. .457. 説明を行うとき,例を挙げたり比喩を用いるような,自分なりの工夫をしている. .453. 口頭で説明するとき,受け手が興味や関心を持つように説明している. .320. 説明の受け手に合わせて,文章表現や言葉づかいなどを変えた方がよいと思う. .856. 説明の受け手がどのような表情や反応をするか想像し,配慮した方がよいと思う. .753. 説明の受け手がどんな人物なのかを考えて,説明を行うようにしている. .447. 口頭説明を受けて「わかりやすい・わかりにくい」と感じることがある. .828. 説明文を読んで「わかりやすい・わかりにくい」と感じることがある. .694. 説明の受け手に合わせて,説明の内容や詳しさ,省略の有無を変えることがある. .364. 説明の受け手の視点に立って,自分の作成した説明文章を読み返すことがある. .683. 口頭説明の途中で,聴き手がどこまで理解できたか,質問はないか確認している. .563. 自分の説明がわかりやすいかどうか,意識するようにしたいと思う. .464. 修正・リカバリ. 口頭説明の途中で,聴き手にどこまで理解できたか,質問はないかを確認した方がよいと思う. .681. (α=.66). 説明を受けてわかりにくかった部分は,自分なりの言葉や表現に置き換えて理解する. .661. (α=.76). 説明プラン (α=.79) 柔軟性 (α=.72). メタ的観点 (α=.59). ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 4.
(5) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 2.3.2 改訂版 AA 尺度と既存尺度との間にどのような関係性. 表 3 改訂版 AA 尺度における因子間相関 insikann. が見られるのか. F1. F2. F3. F4. F2. .348. 1.00. -. -. 知識的な側面(メタ認知的知識)と活動的な側面(メタ認. F3. .252. .429. 1.00. -. 知活動)の要素に注目し,それぞれを測定する尺度の提案. F4. .523. .516. .291. 1.00. F5. .406. .469. .296. .410. メタ認知尺度について,吉野ら[9]は,メタ認知における. を行っている.また,池田ら[10]は,クリティカルシンキン グ尺度に関して,与えられた情報を鵜呑みにするのではな く,自分自身の観点に基づき検証する姿勢であると指摘し. 構造の見直しを行った AA 尺度について,一定の構成概念. ている.クリティカルシンキング尺度の検討に際して, 「探. のまとまりが見られたことから,以後,改訂版 AA 尺度と. 求心」 「他者尊重」 「自己調整」これらの 3 要素が挙げられ. 命名する.. る.ここで,改訂版 AA 尺度と,メタ認知尺度,また,ク. 改訂版 AA 尺度の構成要素に関して,従来の AA 尺度と. リティカルシンキング尺度の間には,説明活動に際して,. どのような違いが見られるのだろうか.従来の AA 尺度に. 説明の受け手の目的や状況に対する配慮や,適切な説明内. おける第一因子「説明意識」は,説明のわかりやすさに関. 容や表現を選択することに関連していることが考えられる.. する評価と,説明の受け手に合わせた説明の望ましさに関. 分析を通して,改訂版 AA 尺度「メタ的観点」と既存尺. する項目を含むものであった.この点について,改訂版 AA. 度との間に有意な相関が見られた.改訂版 AA 尺度におけ. 尺度の第一因子「受け手の興味関心」では,特に説明の受. る「メタ的観点」と,メタ認知知識(r=.25, p<.05),また,. け手に関する興味と関心に対する視点がまとまったものと. メタ認知活動(r=.32, p<.05)に正の相関が見られた.また,. いえるだろう.次に,従来の AA 尺度の第二因子「書き手. 本尺度における「メタ的観点」と,クリティカルシンキン. 意識」については,改訂版 AA 尺度の第二因子「説明プラ. グ尺度(他者尊重)との間に正の相関が見られた(r=.31,. ン」との関連が考えられる.説明の受け手に対して,事前. p<.01) .これらの結果は,説明場面において,自分自身の. の説明の受け手に対する説明内容,また,説明方法の選択. 説明のわかりやすさに注目し,それを説明内容や説明方法. に関する視点がまとまったものといえる.次に,従来の AA. に反映させる能力について,メタ認知尺度,また,クリテ. 尺度の第三因子「メタ理解」については,改訂版 AA 尺度. ィカルシンキング尺度と一定の関連があることを示唆する. の第三因子「柔軟性」と第五因子「修正・リカバリ」の両. ものといえるだろう.同様に,改訂版 AA 尺度「受け手の. 因子が関連していることが伺える.これらは,説明の受け. 興味関心」について,メタ認知活動(r=.22, p<.05),クリテ. 手に合わせた伝達方法(柔軟性),また,説明活動を行って. ィカルシンキング尺度(探究心) (r=.25, p<.05) ,同様に,. いる段階での説明内容と方法の変更(修正・リカバリ)に. ク リ テ ィ カ ル シ ン キ ン グ 尺 度 ( 他 者 尊 重 )( r=.29,. 関連するものと考えられる.次に従来の AA 尺度の第四因. p<.01) ,これらの間に有意な相関が認められた.特に,. 子「工夫実践」は,改訂版 AA 尺度における第四因子「メ. クリティカルシンキング尺度(探究心)は,新たな考え方. タ的観点」と関連していることが考えられる.自分自身の. や行動を積極的に受容する態度を示している.自分とは異. 説明活動を客観的に捉え,説明内容や伝達方法の工夫につ. なる知識や興味・関心を持つ説明の受け手に注目し,興味. なげる観点がまとまったことが考えられる.. や関心を喚起させる点について,関連していることが伺え る.. 表 4 改訂版 AA 尺度,メタ認知尺度,クリティカルシンキング尺度の相関分析結果 クリティカル. クリティカル. クリティカル. シンキング. シンキング. シンキング. (探究心). (他者尊重). (自己調整). .22*. .25*. .29**. .12. .18. .16. .11. .20. .03. 柔軟性. .12. -.01. .10. .10. .06. メタ的観点. .25*. .32*. .18. .31**. .17. 修正・リカバリ. .11. .06. .03. .27**. メタ認知. メタ認知. 知識. 活動. .12. 説明プラン. 因子名 受け手の 興味関心. .03 **. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. *. ; p<.01, ; p<.05. 5.
(6) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report これらの結果より,改訂版 AA 尺度の一部の因子構造と,. 部の因子と,メタ認知尺度,また,クリティカルシンキン. メタ認知尺度,クリティカルシンキング尺度との間には,. グ尺度との間に,有意な相関が認められた.また,改訂版. 一定の関連が見られることが示された.ただし,改訂版 AA. AA 尺度の高低間において,説明文章のわかりやすさに有. 尺度において,第二因子「説明プラン」と第三因子「柔軟. 意傾向が認められた. ただし, 有意傾向が認められたのは,. 性」については,他の尺度との間に相関が認められなかっ. 道案内文章のみであり,抽象図形の伝達課題においては,. た.この点について,今後さらなる検討が必要と考えられ. 説明文章のわかりやすさに差が認められなかった.このこ. る.. とから,説明の説き手が受け手に配慮し,それに合わせた. 2.3.3 改訂版 AA 尺度の高低間において説明文章のわかりや. 説明活動を実施する際には,説明内容が影響する可能性が. すさに違いは見られるのか. 示唆された.ただし,どのような説明内容において,読み. これまでの AA 尺度の高低間において,説明文章のわか. 手意識に基づいたわかりやすい説明文章を産出することが. りやすさに違いは見られていない.ここでは,改訂版 AA. 可能なのか,この点については,さらなる検討が必要と考. 尺度の高低間に注目し,説明文章のわかりやすさの比較を. えられる.. 行った.その結果より,道案内文章のわかりやすさ評定値 について,改訂版 AA 尺度の高低間において有意傾向が認. 3. 研究 II. められた(t(31)=1.880, p=.069) (図 3) .その一方,図形伝. 3.1 研究 II の目的. 達課題においては,わかりやすさに統計的な差は認められ. これまで,わかりやすい説明文章の背景要因に関して,. なかった(n.s.) (図 4) .この結果について,改訂版 AA 尺. 心理尺度(改訂版 AA 尺度)の観点に基づく検討事例の紹. 度の高低間において,説明文章のわかりやすさに差が見ら. 介を行ってきた.しかし,現実場面における説明文章産出. れる可能性が示唆された.この点について,今後,さらな. 場面において,個別の説明の受け手を想定し,それに適し. る検討が必要と考えられる.また,道案内文章のみ,わか. た説明内容や説明手段を選択することは極めて難しい.で. りやすさ評定値の違いが認められ,図形伝達課題において. は,説明内容が固定された状況において,説明者はどのよ. は,改訂版 AA 尺度の高低において差が認められない結果. うに説明文章に対する読み手の興味や関心を喚起し,理解. となっている.この結果より,説明文章の産出における読. 度を高めることが可能なのだろうか.この点に関して,山. み手意識は,説明課題や内容によって影響を受けることが. 本ら[8]は,標識化の効果に注目した.標識化とは,説明の. 示唆された.今後,読み手意識と説明内容との関連につい. 上位構造を強調する技法であり,見出しや符号などの合図. て,より詳細な検討が求められる.. に相当する説明表現である.検討の結果より,見出しの明. 2.4 研究 I の結論. 示性を高めることによって,特に高齢者における説明文章. 研究 I では,従来の AA 尺度の構成概念の見直しを実施. の内容理解が促進されることが示されている.ここでは,. し,改訂版 AA 尺度の検討を行った.併存的妥当性の確認. 標識化の効果に関して,読み手の情動的側面に働きかけた. のため,メタ認知尺度,クリティカルシンキング尺度との. 場合の理解度の変化に注目する.この検討を通して,現実. 相関分析を実施した.その結果より,改訂版 AA 尺度の一. 的な説明文章の作成に際して,情動的標識化がもつ効果に. 図3. 道案内文章のわかりやすさ評定値 insikann. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 図4. 図形伝達文章のわかりやすさ評定値 insikann 6.
(7) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 関する基礎的な知見が得られることが期待される.. においてリスク強調の効果が見られなかったことが考えら. 3.2 方法. れる.このように,説明の説き手が,説明の受け手の注意. 実験は 2014 年 11 月に実施した.被験者に対して,医療. 喚起を促すことを意図し,情動的な側面に訴える表現を行. に関する投薬指示文章の提示を行い,その理解度について. ったとしても,かならずしも説明文章の読み手は,説明者. テストを実施した.その際,説明文章(投薬指示文章)に. の意図に沿って,記憶成績や理解度が向上するわけではな. 対する読み手の注意を集め,より理解度を高める工夫とし. いことが示された.今後,説明文章の説き手が,説明の受. て,情動的な側面に対する働きかけを実施した.一方の投. け手の興味や関心を引きつけるために,どのような手法が. 薬指示文章には,対象となる医薬品に関してリスクを強調. 用いられているのか,また,それぞれの手法がどのような. する文章を配置した.もう一方の投薬指示文章には,医薬. 効果を示すのかについて,多様な説明文章と説明手法に注. 品の服用には正しい知識が必要であることの注意書きを行. 目し,比較する必要があるものと考えられる.. った.投薬指示文章の本文については,両条件ともにまっ. 3.4 研究 II の結論. たく同一であった.なお,被験者は実験協力を希望した大. 研究 II においては,現実的な説明文章の作成場面に注目. 学生 40 名であった.. し,説明の説き手が意図した工夫(情動的側面への働きか. 3.3 結果と考察. けを通した読み手の記憶成績と理解度の向上)の効果につ. 3.3.1 投薬指示文章におけるリスク強調によって記憶成績. いて検討を行った.なお,研究 II においては,その題材と. は向上するのか. して医療に関する投薬指示文章に注目した. 分析結果より,. 投薬指示文章におけるリスク強調の効果に関して,記憶. 医薬品リスクの強調を通して,説明文章の記憶成績や理解. 成績に注目した.リスク強調群と統制群(強調なし群)に. 度の向上は見られないことが示された.この理由として,. おける記憶成績の比較を行った結果,統計的な差は認めら. 投薬指示文章においては,リスク表現は一般的であり,読. れなかった.この結果より,投薬指示文章において,医薬. み手の興味や関心を引くことがなかったためと考えられる.. 品に関するリスクを強調しても,医薬品そのものに関する. このように,説明の説き手による工夫は,必ずしも読み手. 記憶成績に向上は見られないことが示された.. の記憶や理解度の向上を促すものではないことが考えられ. 3.3.2 投薬指示文章におけるリスク強調によって内容理解. た.では,どのような説明の説き手が,受け手の理解を促. は促進されるのか. 進する工夫を実践しているのだろうか.また,それはどの. 次に, 投薬指示文章におけるリスク強調の効果に関して,. 程度の効果が期待されるのだろうか.この点について,改. 内容理解に注目した. リスク強調群と統制群 (強調なし群). 訂版 AA 尺度の観点に基づき,説明の受け手に合わせて用. における内容理解テストの成績を比較した結果より,統計. いられる表現上の工夫にはどのようなものがあるのか,ま. 的な差は認められなかった.この結果より,投薬指示文章. た,それらがどの程度,読み手の記憶や理解度の向上を促. において,リスクを強調しても,医薬品に関する理解は促. しているのか,検討する必要があるものと考えられる.. 進されないことが示された. 3.3.3 研究 II における総合考察. 4. 総合考察. 研究 II においては,読み手の記憶成績,理解度の向上を. 4.1 読み手意識尺度の再検討と信頼性・妥当性の検証. 意図して,投薬指示文章においてリスク強調の効果につい. 研究 I では,従来の AA 尺度の妥当性に注目し,その信. て検証を行ったものである.その結果より,投薬指示文章. 頼性と妥当性の検証を通して,改訂版 AA 尺度の提案を行. におけるリスク強調の効果は,読み手の記憶成績,理解度. った.また,改訂版 AA 尺度の高低間における説明文章の. の向上,これらのどちらにも見られないことが示された.. わかりやすさの比較を実施した.従来の AA 尺度では,高. この理由として, リスク強調の部分について 「読み飛ばし」. 低間における説明文章のわかりやすさに差が見られなかっ. が生じていた可能性が考えられる.説明者が,読み手の興. たのに対し,改訂版 AA 尺度の高低間において,説明文章. 味や注意喚起を目的として,説明文の重要なポイントを強. のわかりやすさに有意傾向が認められた.また,改訂版 AA. 調したとしても,それが読み手にとって,必ずしも重要な. 尺度について,メタ認知尺度とクリティカルシンキング尺. 情報として認識されていなかった可能性が考えられる.一. 度を用いた併存的妥当性の検証を実施した結果,構成因子. 般的に,市販の医薬品を購入した場合,服用に際しての注. に一定の関連が認められた.このことから,改訂版 AA 尺. 意事項が記入されている. しかし,この注意事項について,. 度は,説明の受け手に対する情報に基づき,それに適した. 一般的に市販されている医薬品の場合では,ほぼ同様の内. 説明内容や方法を選択する技能の背景となる要因から構成. 容が記載されていることが考えられる.そのため,読み手. されていることが考えられる.. にとっては,リスクが強調されていたとしても,特に珍し. 4.2 読み手の興味喚起を促す工夫と効果に関する検証. いものではなく,ほぼ予想通りの内容が記入されていると. 研究 II では,説明の説き手による読み手に対する配慮の. 認識される可能性がある.この点について,投薬指示文章. 効果として,標識化の観点から効果の検証を実施した.山. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 7.
(8) Vol.2018-DC-109 No.5 2018/7/3. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 本らは,見出しや符号を用いた文章構造の明示を通して,. 向が認められた.今後,多様な説明課題における追試を実. 高齢者の家電製品に関する記憶と理解が向上することを示. 施する必要がある.. している.ここで,説明者が読み手に対してリスク情報を. ・読み手意識(Audiences Awareness)の実践に際して,説明. 提示する効果について検討を行った.医療活動に関して,. の説き手は,受け手に合わせた説明内容と説明方法を選択. 投薬指示文章にリスク情報を明示した条件と,中立情報を. する.ここで,受け手の記憶と理解の促進に関して標識化. 明示した条件間において,記憶と理解の観点から比較を行. に注目した.標識化とは,文章構造を提示し,個別の意味. った結果,記憶と理解の両方の観点に差が見られないこと. 理解を促す説明方法に関する手法である.ここで,標識化. が示された.この結果より,読み手に対する注意喚起を促. の効果に関して,投薬指示文章に注目した.医薬品の使用. す工夫として, 情動的側面に基づく注意喚起を促している.. に関するリスク情報の提示条件と非提示条件において,読. しかし,実際には,読み手の記憶や理解に向上は見られな. み手の記憶と理解成績に差は認められなかった.この結果. かった.説明の説き手による工夫は,必ずしも読み手の説. より,説明の説き手による説明内容と説明方法の選択は,. 明文の記憶や理解を向上させるものではないことが示され. 必ずしも読み手に効果的に作用するわけではないことが示. た.この点に関して,説明の説き手は,現実的な説明場面. された.今後,改訂版 AA 尺度の観点から,説明の説き手. において,どのような工夫を行っているのか,また,それ. と受け手の両者に関する追試が求められる.. は読み手に対してどのような影響を及ぼしているのかにつ いて,さらに検討を行う必要がある.. 謝辞・補足. 4.3 今後の課題. 本報告における研究 I に際して,平成 29 年度 公立はこ. 研究 I と II を通して,以下の課題が示された.. だて未来大学特別研究費(通常領域研究) (課題番号 B35). ・改訂版 AA 尺度の妥当性の検証に際して,今回の検討で. による助成を受けた.また,研究 II は,辻[11]による研究. は有意傾向が見られたに過ぎない.改訂版 AA 尺度の高低. 報告を再検討し,一部修正を行ったものである.. 間において,説明文章のわかりやすさに統計的な差が見ら れるのか,さらに検証を重ねる必要がある.. 参考文献. ・説明文章のわかりやすさに関して,今回の検討では,道. [1] 辻義人, 岸学, 中村光伴. パソコン操作支援場面におけるイ ンストラクションモデルの検討—インストラクションとヘル プとの比較を通して—. 東京学芸大学紀要第一部門, 2003, Vol.54, p.111-117. [2] 崎濱秀之. 書き手のメタ認知的知識やメタ認知的行動が産出 文章に及ぼす影響について. 日本教育工学会論文誌, 2003, Vol.27(2), p.105-115. [3] 杉本卓. 文章を書く過程, 教科理解の認知心理学. 新曜社. 1989. p.1-48. [4] Carvalho, J, B. Developing audience awareness in writing. Journal of Research in Reading, 2002, Vol.25, p.271-282. [5] Alamargot, D., Caporossi, G., Chesnet, D. and Rosa, C. What makes a skilled writer? Working memory and audience awareness during text composition. Learning and Individual Differences, 2011, Vol.21, p.505-516. [6] 岸学, 辻義人, 籾山香奈子. 説明文産出における「読み手意 識尺度」の作成と妥当性の検証. 東京学芸大学紀要第一部門, 2014, Vol.65(1), p.109-117. [7] 辻義人. 説明文の「読み手意識尺度」の妥当性の検討—読み 手意識尺度および説明メディア間における比較—. 日本教育 心理学会第 57 回総会発表論文集, 2015, 225p. [8] 山本博樹, 島田英明. 高齢者の説明文記憶を支援する標識の 明示性: 体制化方略の変更とその所産の分析. 教育心理学研 究, 2008, Vol.56(3), p.389-402. [9] 吉野巌, 懸田孝一, 宮崎拓弥, 浅村亮彦. 成人を対象とする新 しいメタ認知尺度の開発. 北海道教育大学紀要 教育科学編, 2008, Vol.59(1), p.265-274. [10] 池田まさみ, 宮本康司, 平田威也. 高校生のキャリア教育と クリティカルシンキング. 日本教育心理学会第 57 回総会発 表論文集, 2015, p.84-85. [11] 辻義人. 情動的標識化による読み手の理解促進に関する検 討—医療場面における注意喚起文章の効果とは—. 日本教育心 理学会第 56 回総会発表論文集, 2014, 595p.. 案内文章課題に有意傾向が見られた.一方で,図形伝達文 章課題では, わかりやすさ評定値に差が認められなかった. このことから,改訂版 AA 尺度と,説明課題の質(先行知 識量の多少,また,手続き的説明文や宣言的説明文の違い など)に注目した追試が求められる. ・現実的な説明文章の産出場面において,説明の説き手は, どのように読み手に合わせた説明内容や方法を選択してい るのだろうか.改訂版 AA 尺度の高低間において,どのよ うな違いがあるのか検討する必要がある. この点に関して, 読み手の記憶や理解とは異なる側面(例えば,親しみやす さ,目標を達成できる自信,ていねいさなど)について, どのような違いが見られるのか,多様な側面に基づく追試 が必要である.. 5. 結論 本報告は,以下の知見をまとめたものである. ・読み手意識(Audience Awareness)尺度とは,説明の説き 手が受け手の情報に基づき,適切な説明内容や説明方法を 選択する意識を示す.これまでに提案された AA 尺度では, 実際の説明文章のわかりやすさに差が認められていなかっ た.本研究では,従来の AA 尺度の構成を見直し,改訂版 AA 尺度の提案を行った.信頼性と妥当性の検証,また,実 際の説明文章のわかりやすさの比較を行った.その結果よ り,信頼性と妥当性について確認された.また,改訂版 AA 尺度の高低間において,説明文章のわかりやすさに有意傾. ⓒ2018 Information Processing Society of Japan. 8.
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