( 東 女 医 大 誌 第54巻 第11
号
)
頁 1217-1222昭和59年11月〔臨床報告〕
石灰乳胆汁の
2
1
7
U
東京女子医科大学 第二外科学教室〔主任:織畑秀夫教授〉 マ チ ダ ヒロミチ ミツハシ マキ セ シ モ ア明キヨ良シ・
安アン部ベ リュウイチ町田
浩道・三橋
牧・瀬下
龍 一
ム ラ タ ジユン ナカガワ テツロウ キ ム ラ ツ ネ ト村田
IJ贋・中川
隆 ・ 地
雄 大
哲郎・木村
恒人
馬 マ 淵プチ ザ ン ゴ ス ズ キ タ 忠ダシ クラミツ ヒデマロ オリハタ ヒ デ オ原吾・鈴木
-倉光秀麿・織畑
秀雄
〔 受 付 昭 和59年 7月6日) はじめに 表1 入院時検査所見(症例1) 石 灰 乳 胆 汁 は , 欧 米 で は1911年 に Churchmann1 )が報告して以来,しばしば報告され ているが,本邦では比較的まれな疾患といわれて いる.最近われわれは,腹部単純X線撮影にて, 胆嚢に一致した石灰化像を呈した典型的な2症例 を経験したので、報告する. 症 例 症例1:
N
.
Y
.
7
歳,女児 主 訴 ・ 右 上 腹 部 痛 家族歴:母親が胆石と診断されている. 既往歴1
歳検診で貧血を指摘された. 現病歴 昭和53年9月17日,突然右上腹部痛が出現し来 院.腹部単純 X線撮影にて右上腹部に右灰化像を 認めた. く入院時検査所見> 血液一般 RBC 301X10'/mm' WBC 7800/mm' Hb 8.7g/dl Ht 26.6% Plt 26.8 X 10'/mm' 赤 血 球 形 態 犬 小 不 同 球状赤血球 赤 血 球 抵 抗 最 小0.50%↑ 最大0.38% 赤血球寿命 T Yz=7.5日 直接タームス試験 (-) 尿一般 糖( ー).蛋白〔ー〕 ウロピリノーゲン(+) 比重1m015. 沈溢.正常 生化学的検査 T.P A/G T-Bil D-Bil TTT ZTT GOT GPT Al.P LDH Amylase Ca 7.3g/dl 1.7 3.8mg/dl 0.7mg/dl 5.4U 12.0U 23U/I 7U/I 16.0KAU 263U 165U 10.7mg/dl 入院時所見 体格中等,栄養良好,眼験結膜に貧血を認めた. 腹部では,右上腹部に圧痛および抵抗を認め,肝 を1
横指,牌を1.5
横指触知した.発熱はなかった. 赤血球像では大小不同・球状赤血球が出現し,赤 血球の浸透圧抵抗の減弱,赤血球寿命短縮等の所 見が認められた.また,直接クームス試験は陰性 であった. 臨床検査所見(表1) X線所見 中等度貧血,間接ピリルビンの上昇を認めた. 腹部単純X線撮影で,胆嚢底部に一致した部に Hiromichi MACHIDA, Maki MITSUHASHI, Akiyoshi SESHIMO, Ryuichi ANBE, Jun MURATA, Takao NAKAGAWA, Tetsuro OHCHI, Tsuneto KIMURA, Gengo MABUCHI, Tadashi SUZUKI, Hidemaro KURA-MITSU and Hideo ORIHATA CDepartment of Surgery CDirector: Prof. H. ORIHATA), Tokyo Women's Medical CollegeJ : Two cases of limy bile目-1217-(a) 〆 (a) 写真1 (a)腹部単純X線像 (立体〉 (b)経静脈的胆道造影像 (背臥位〉 写真2 (a)摘出標本 (b)病理組織像・HE染色 1218 -(b) (b)
石灰化像を認め,同陰影は体位による変形を認め た〔写真1,
C
a
)
J.また,経静脈性胆道造影では, 胆嚢内への造影剤流入があり,胆嚢結石を認めた. 総胆管には異常なかった〔写真1,Cb)J. 以上より,石灰乳胆汁,胆石を合併した遺伝性 球状赤血球症と診断し手術を施行した. 手術所見 腹水なし.肝,総胆管,胃,腸管に異常なし. 胆 摘・牌摘術を施行した.摘出胆嚢はやや萎縮し, 内容はうすい白色乳状の石灰乳胆汁,および3個 のビリルビン系結石を認めた.結石の一部は胆嚢 頚部へ入り込んでいた〔写真2,(a)J. 病理組織学的所見 胆嚢内腔の雛襲は平低化し,表面の粘膜上皮は 丈の低い円柱上皮で被われる.筋層は肥厚し線維 化を伴い,また,Rokitansky-Aschoff洞が見られ, 全層にわたるリンパ球,形質細胞,好酸球の浸潤 が あ り , 慢 性 胆 嚢 炎 の 所 見 を 認 め た 〔 写 真2, (b)J. 症例2:
Y
.
K
.
2
4
歳,女性 主訴 :右季肋部痛および背部痛 家族歴 :特記すべきことなし. 既往歴:小児期より気管支哨息といわれ治療さ れていた. 現病歴 昭 和58年9月 項 よ り 右 季 肋 部 痛 出 現 , そ の 後 時々同様な終痛があった.1
0
月4
日,右季肋部痛 および背部痛が増強し,来院した. 表2 入院時検査所見 (症例2) く入院時検査所見> 血 液一般 生化学的検査 RBC 411x 10・
/mm' T.P 7.6g/dl WBC 4600/mm' A/G 1.3 Hb 12.1g/dl T-Bil 1.8mg/dl Ht 37.5% D.Bil 0.9mg/dl Plt 15.6X 10・
/mm' TTT 1.7U ZTT 11.0U 尿一般 GOT 36U/I 糖(ー), 蛋白(ー), GPT 16U/I ウロピリノーゲγ〔土〕 Al.P 3.8KAU ピリノレピン(-), LDH 101U 比重1.023 Amylase 69U 沈 誼 正 常 Ca 9.4mg/dl (a) 、1 ノ -b 〆 f a、 写真3 (a)腹部単純X線像 (立位〉 (b)経静脈的胆道造影 (背臥位) -1219ー入院時所見 体格中等,栄養良好で貧血なし.発熱・黄痘は 認めなかった.腹部は平担で柔軟,右季肋部に軽 度の圧痛を認めた. 臨床検査所見 (表 2) 総ビリルビンの軽度上昇を認める.血清カルシ ウム値は正常.
X
線所見 腹部単純X線撮影にて,右季肋部に,あたかも 胆嚢造影を行なった如く,胆嚢に一致する石灰化 像を認めた.同陰影は体位による変形はなかった 〔写真3
,C
a
)
J.経静脈性胆道造影では,胆嚢内へ の造影剤流入は殆んどなく,胆嚢は萎縮していた. 総胆管の拡張はなかった 〔写真3
,C
b
)
J. 腹部超音波像 (写真4) 胆嚢は萎縮し,音響陰影を伴う結石様エコーを 認めた. 以上より石灰乳胆汁と診断し胆嚢摘出術を施行 した 手術所見 腹水もなく,肝・総胆管・胃 ・腸管には異常を (a) 写真5 (a)摘出標本 写真4 腹 部 超音波像 認めない.胆摘術を施行した.摘出胆嚢は萎縮が 強く,壁の軽度肥厚を認めた.胆嚢内には黄白色・ ゴム様軟の内容物が存在し,頚部へ蔽頓していた. (b) (b)病理組織像・HE染色 -1220胆汁は全く認めなかった〔写真 5,(a)J. 病理組織学的所見 胆嚢表面は異型のない円柱上皮で被われ,筋層 の軽度肥厚および間質の線維化を認めた.また, 全層に炎症細胞浸潤を認めた.慢性胆嚢炎像を呈 していた〔写真札価)J. 内容物の化学的成分:炭酸カルシウムが90%以 上であった. 考 察 石灰乳胆汁は 1911年 に Churchmann1 )により, 胆嚢が結石で閉塞され,胆嚢内に灰白色塊のつ まったものを iCarciumsoap in the gallbladderJ と記載報告したものが最初で, Knutsonn2 )は, i
L
i
my bileJと呼んだ.本邦では玉木ら3)の報告 (19
3
7
年〉が第1
例で,常岡ら 乳胆汁と呼びび、,現在では iL
i
mybileJまたは「石 灰乳胆汁」と呼ばれている. 発生頻度は Phemister5)によれば 3年 8カ月間 の胆石愚者3
1
3
例中4
例(約1.3%)
,村上ら的は1
5
年間の胆嚢摘出1
f
U
6
7
7
例中7例(約1%),稲葉ら7) は5
年間の胆石手術35
2
例中1
例(約0.3%)と報 告している.われわれの施設で、も過去5年間の胆 石症手術21
8
例中2
例(約0.9%)であり,比較的 まれな疾患である. 男女比では,胆石症と同様に女性に多くみられ, 女性は男性の約 2倍である. 年 齢 分 布 で は30
歳代から4
0
歳代に多くみられ るべなお,自験例(症例1)は調べ得た本邦最年 少例であった9) 臨床症状に関しては,胆石および慢性胆嚢炎を 伴っており,一般の胆嚢疾患と何ら異なる点はな いが,多くの場合黄痘は認められず,発熱も伴わ ないことが多い.自験例においても軽度の終痛発 作のみで,発熱・顕性寅痘は認めなかった. 本症においては腹部単純X線撮影にて,胆嚢に 一致する石灰化像があり,比較的容易に診断され る.石灰化像は体位により変形するとされている が, 自験例〔症例2)では変形が認められず,胆 嚢内にゴム様軟の内容物が充填されていたためと 考えられる. 石灰乳胆汁の性状に関して,その硬度から,① うすい乳状の液体,②柔らかい糊状物質,③粘性・ 可塑性のあるゴム様物質,④白墨様結石の 4型に 分類されている川.これは胆嚢粘膜の濃縮能,時間 的経過に関係するとされる.自験例1では①のう すい乳状液,例 2では③のゴム様軟の性状を呈し た 石灰乳胆汁の生成条件として,胆嚢管の閉塞状 態と慢性胆嚢炎の存在が必要であるといわれてい る.胆嚢管閉塞の大部分は結石扶頓によるが,炎 症11),癒痕12).胆嚢癌日)等による閉塞も報告されて いる.胆嚢管閉塞の存在だけでは水腫となり,急 性炎症では胆嚢膿腫となり,石灰堆積はおこらな い.即ち,石灰乳胆汁の発生には慢性胆嚢炎の存 在が必須となる.慢性炎症により粘膜の吸収力低 下を来し石灰堆積がおこるといわれ, Phemister5 ) は,胆嚢管閉塞に慢性炎症がおこると胆嚢壁より 石灰の分泌が生ずるとした.また,模らl吋こよれ ば,胆嚢管閉塞と慢性炎症により軽度の腐敗現象 がおこり,炭酸アンモニウムが発生しpHがアル カリ性に傾き,胆嚢内のカルシウムと置換し炭酸 カルシウムの結品になると述べている.さらに最 近では,全身のカルシウム代謝異常,肝障害も関 係するといわれているがし、まだ定説はない. 白験例でも胆嚢管の閉塞状態(結石朕頓によ る),慢性胆嚢炎の両者が存在した.ただし閉塞は 不完全で造影剤の軽度流入を認めた. おわりに 腹部単純X線撮影にて,胆嚢に一致する石灰化 像を呈した典型的な石灰乳胆汁の2
例を経験した ので,若干の文献的考察を加え,報告した. 本稿の要旨は昭和59
年2
月,第25
7
回女子医大学会 例会において発表した. 文 献 1)Churchmann,
J.W.: Acute cholecystits with large amount of calcium soap in the gallblad. der.Johns Hopkins Hosp Bull 22
2
2
3
(19
1
1
)
2
)
Knutsonn,
F.: On limy bi1e. Acta Radiol 14
4
5
3
(19
3
3
)
3)玉木正男:うっ滞胆嚢の1例.実践医理学 7 38 (19
3
7
)
4) 常岡健二・他国石灰乳胆汁を伴った胆石症の 1例. 日消会誌5
2
3
5
1
-3
5
2
(19
5
5
)
5)Phemister, D.B.,et al.:Calcium Carbonate-
1
2
2
1
ーgall-stone and calcification of gallbladder fol -lowing cystic-duct obstruction. Amm Surg 94 493-516 (1931) 6)村上栄一郎・他 石灰乳胆汁について.外科治療 23(6) 703-709 (1970) 7)稲葉俊三・他:石灰乳胆汁の 1治験{7"u.東女医大 誌 53(6)609--613 (1983) 8)友田信之・他:石灰乳胆汁について.外科 38 (9) 904--909(1976) 9) 中川陵雄・他・石灰乳胆汁と胆石を合伴した小児 遺伝性球状赤血球症の1例ーおよび小児牌摘に関 する一考察.東女医大誌 50(7) 588-591 (1980) 10) Berg