犯罪の終了時期に関する若干の考察
著者名(日)
伊藤 渉
雑誌名
東洋法学
巻
54
号
2
ページ
61-78
発行年
2010-12-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000787/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止一.問題領域 およそ犯罪は、その構成要件要素のすべてを充足することによって既遂となるとともに、その解消をもって終了 する。したがって、犯罪の成立要件を論ずるに当たっては、既遂時期とともに、終了時期が重要な意味を有するこ とになる。 す な わ ち、 伝 統 的 な 見 解 に お い て は、 犯 罪 の 終 了 時 期 は、 主 と し て 公 訴 時 効 の 進 行 の 起 算 点 (刑 訴 法 二 五 三 条) 、 共 犯 (刑 法 六 〇 条 ~ 六 二 条) の 成 立 時 期 の 限 界 を は じ め と し て、 さ ま ざ ま な 形 で 問 題 と さ れ て き た。 そ し て、 そ れ によれば、犯罪は、その終了時期に応じて、以下のように即成犯・状態犯・継続犯の三つのカテゴリーに分けられ るものとされてきたのである。 ① 即 成 犯 に お い て は、 構 成 要 件 の 充 足 に よ り 侵 害 さ れ た 法 益 が そ の ま ま 消 失 し、 そ れ に よ り 直 ち に 犯 罪 が 終 了 す 《 論 説 》
犯罪の終了時期に関する若干の考察
伊
藤
渉
る。殺人罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了時期は一致することになる。 ②状態犯においては、構成要件の充足により法益侵害状態が生じ、それが確定することにより犯罪が終了する。窃 盗罪・傷害罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了時期は概ね一致することになる。 ③継続犯においては、構成要件の充足によって生じた法益侵害状態が継続する限り犯罪自体が継続し、その解消に よって初めて犯罪が終了する。監禁罪・薬物等の不法所持罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了 時期は基本的に一致しない。 し か し な が ら、 以 上 の よ う な 犯 罪 の 終 了 時 期 を め ぐ る 議 論 は、 こ れ ま で 必 ず し も 十 分 で な か っ た よ う に 思 わ れ る。 す な わ ち、 第 一 に、 こ れ ら の カ テ ゴ リ ー の 区 別 の あ り 方 や、 個 々 の 犯 罪 が ど れ に 属 す る か、 と い う 点 に つ い て、必ずしも明確にされてきたとは言い難いこと、第二に、そもそも犯罪の終了時期を論ずることの実益はどの限 度で認められるのか、という点の解明が必ずしも十分ではないように思われるのである。 それに加えて、近年新たに問題とされるようになった犯罪類型につき、終了時期をめぐって争われた判例がいく つか出されている。このような状況の下で、改めて犯罪の終了時期についての議論を整理する必要があるように思 われる。 本稿は、犯罪の終了時期をめぐる近年の判例を検討するとともに、学説の動向をふまえて、これに関連する問題 点につき若干の考察を加えたい。
二.従来の議論 犯罪の終了時期をめぐる従来の議論においては、上述のようにそれぞれの犯罪類型を即成犯・状態犯・継続犯に 分類した上で、終了時期を論ずるとともに、その帰結として公訴時効期間の算定、共犯の成否等の様々な効果を導 き出す、というものであった。そこでは、とりわけ以下のような議論がなされてき ( 1) た。 ①即成犯・状態犯・継続犯の意義をめぐる議論 第一に、継続犯とそれ以外の犯罪、とりわけ状態犯との区別の基準である。これは言い換えると、監禁罪は何故 に継続犯で、窃盗罪や傷害罪は何故に状態犯なのか、という問題でもある。この点をめぐっては、大別すると、実 行行為自体が継続しているのが継続犯、法益侵害状態のみが残存し、実行行為は終了しているのが状態犯、とする 見 ( 2) 解と、法益侵害の性質に照らし、その一瞬一瞬が新たな法益侵害と認められる場合が継続犯、当初の法益状態の 悪 化 と 比 較 し て、 そ の 後 の 侵 害 状 態 の 継 続 は 違 法 性 が 弱 い と 認 め ら れ る 場 合 が 状 態 犯、 と す る 見 ( 3) 解 が 対 立 し て い る。前者の見解によれば、監禁罪の場合は、監禁の継続中は、脱出を妨げるための作為による手段行為がとられて いるか、あるいは脱出不可能な状態を解消しないという不作為による手段行為が継続しているのに対して、窃盗罪 や傷害罪においては、財物の占有の喪失ないし負傷後は、行為者において何らの手段行為もとられていない、とい うように説明される。後者の見解によれば、監禁罪の場合、身体の拘束という不利益は、その一瞬一瞬に当罰性が 認められるのに対し、窃盗罪や傷害罪の場合は占有の喪失や身体機能の悪化と比較して、その後の財物の利用不可 能性や症状の継続については、それ自体としては当罰性が認められない、ということになる。 もっとも、いずれの見解によるにせよ、具体的な犯罪類型についていずれに属するか、という点に関しては、必
ずしも決定的ではないように思われる。例えば略取・誘拐 ( 4) 罪や住居侵入 ( 5) 罪、あるいは各種登録義務違反の ( 6) 罪につい ては、これらの基準によっても、それが継続犯か状態犯かについては、必ずしも一義的に定まるものではない。 第二に、状態犯において、既遂時期と終了時期とが一致しない場合が認められるか、という点である。例えば、 傷害罪においては、たしかに相手方に一撃を加えて傷害を負わせた場合には、相手が負傷するとともに直ちに犯罪 は終了するとすべきであるが、相手方に継続して有害物質を摂取させ、それに従い相手方の症状が悪化するような 場 合 に は、 発 症 に よ り 既 遂 と な る が、 症 状 の 悪 化 が 続 く 限 り 終 了 し な い の で は な い か、 と い う こ と が 指 摘 さ れ て い ( 7) る。 さ ら に、 相 手 の 身 体 に 対 す る 加 害 自 体 が 終 了 し て い る 場 合 に お い て も、 症 状 自 体 の 悪 化 が 認 め ら れ る 場 合 は、犯罪の終了を認めるべきでないとの見 ( 8) 解もある。 同様の議論は、窃盗罪や不動産侵奪罪等の領得罪においても見られる。すなわち、窃盗罪については、相手方の 占有を奪うことにより既遂になっても、目的物の占有を確保するまでは終了しない、あるいは、不動産侵奪罪につ いては、侵奪にかかる不動産に建物を構築する場合、その進行により侵害の程度が高まるから、その間犯罪は終了 しない、といった見 ( 9) 解である。 第三に、即成犯においては、その性質上既遂時期と終了時期は一致するとされてきたが、ここでも、犯罪の種類 によっては、既遂時期と終了時期が異なりうるのではないか、ということが指摘されている。例えば、放火罪にお いては、焼損にかかる目的物自体は、焼失により法益性を失い、それによって犯罪も終了するのであるから、即成 犯だと言わざるを得な ( 10) いが、しかしその既遂は判例によれば独立燃焼の時点である一方、ほかの物件に延焼しまた は そ の お そ れ が 生 じ て い る 場 合 は、 焼 損 に 起 因 す る 公 共 の 危 険 (抽 象 的 危 険 に せ よ 具 体 的 危 険 に せ よ) が 継 続 し て い ることから、結局鎮火するまでは犯罪は終了しない、という指摘もあ ( 11) る。
以上のように、即成犯・状態犯・継続犯相互の区別基準は必ずしも明確でないだけでなく、同一の種類の犯罪で あっても遂行態様によっては異なる扱いがなされうるのではないか、さらに、既遂時期と終了時期の不一致を広く 認めるのであれば、そもそもこのような区別には意味があるのか、という問題が生じることになる。 ②犯罪の終了時期の実益をめぐる議論 従来、犯罪の終了時期については、以下のような実益があるとされてきた。第一に、犯罪の終了とともに公訴時 効 の 期 間 が 進 行 を 開 始 す ( 12) る。 第 二 に、 犯 罪 の 終 了 に 至 る ま で に 当 該 犯 罪 に 関 与 し た 者 に は、 共 犯 の 成 立 が 認 め ら れ ( 13) る。第三に、犯罪の成立が問題となる行為の開始後に犯意を生じた場合は、それが犯罪の終了以前であれば当該 犯罪の成立が認められ ( 14) る。第四に、犯罪の終了に至るまでに刑罰法令の変更がなされた場合、それが行為者に不利 な変更の場合であっても変更後の規定が適用され ( 15) る。第五に、犯罪の終了後においては、同一の法益に対する侵害 行為が重ねてなされたとしても、不可罰的事後行為となり別罪を構成しな ( 16) い。第六に、当該犯罪行為に対する防衛 行為は、その終了時点までは認められる。 しかしながら、これらの問題点を統一的に解決する必要はあるのか、という疑問が提起されてきている。まず、 共犯の成立は、関与の対象となる正犯行為の存在が前提となるのであるから、犯罪が終了していないからといって 共犯の成立が可能になるわけではな ( 17) い。事後に犯意を生じた場合であっても、その後に当該事態を維持・強化する 行為がなされたといえなければ、当該犯罪が継続犯だとしてもその罪の成立が認められるわけではな ( 18) い。刑罰法令 の変更についても同じことが言え ( 19) る。ある行為について刑罰法令を適用するためには、その法令は行為時に存在し なければならないとされる趣旨は、行為者の予測可能性を保障することにあるのだから、改正後の法令を適用する ためには、改正後において行為者が構成要件所定の行為に出たといえるのでなければならず、単に犯罪が終了して
いないというだけでは足りない。 また、既遂後の行為が不可罰的事後行為となるかは、当該構成要件と事後の行為との関係や、両者の法益の関係 によって定まるものであって、それが継続犯ではなく状態犯だからそうなるのではな ( 20) い。そもそも不可罰的事後行 為といわれる場合の中には、当該行為の構成要件該当性自体は否定できず、ただ、主たる犯罪と包括一罪の関係に 立 つ が ゆ え に、 独 立 に 犯 罪 の 成 立 を 認 め る べ き で な い、 と い う 場 合 (む し ろ「共 罰 的 事 後 行 為」 と い う べ き で あ る) もあろ ( 21) う。 さらに、防衛行為の要件としての「不正の侵害」は、そもそも構成要件該当行為である必要はないのだから、犯 罪行為の終了をもって防衛行為の時期的限界とすることはできな ( 22) い。 このように、従来犯罪の終了時期と結び付けて論じられてきた諸問題については、それが必ずしも終了時期の問 題と連動していないのではないか、という疑問が提起されてきている。 ( 1 ) 古 田 佑 紀「犯 罪 の 既 遂 と 終 了」 判 例 タ イ ム ズ 五 五 〇 号 九 〇 頁、 林 幹 人「即 成 犯・ 状 態 犯・ 継 続 犯」 刑 法 の 争 点(第 三 版) 三 〇 頁、 松 原 芳 博「継 続 犯 と 状 態 犯」 刑 法 の 争 点 二 八 頁、 林 美 月 子「状 態 犯 と 継 続 犯」 神 奈 川 法 学 二 四 巻 二 = 三 号 一 頁、 佐 伯 仁 志「犯 罪の終了時期について」研修五五六号一五頁。 ( 2 ) 町 野 朔・ 刑 法 総 論 講 義 案 Ⅰ(第 二 版) (一 九 九 五) 一 四 八 頁、 西 田 典 之・ 刑 法 総 論(第 二 版) (二 〇 一 〇) 八 六 頁、 佐 伯・ 前 出 ( 1 )一七頁。 ( 3 ) 平 野 龍 一・ 刑 法 総 論 Ⅰ(一 九 七 五) 一 三 二 頁、 林(幹) ・ 前 出( 1 ) 三 〇 頁、 松 原・ 前 出( 1 ) 二 八 頁、 林 美 月 子・ 平 成 一 九 年度重要判例解説一六五頁。 ( 4 ) 大 判 大 正 一 三 ・ 一 二 ・ 一 二 刑 集 三 巻 八 七 一 頁、 大 判 昭 和 四 ・ 一 二 ・ 二 四 刑 集 八 巻 六 八 八 頁、 大 阪 高 判 昭 和 五 三 ・ 七 ・ 二 八 高 刑 集 三 一
巻 二 号 一 一 八 頁 は こ れ を 継 続 犯 と す る。 本 罪 を 継 続 犯 と 解 す る 見 解 と し て、 大 谷 實・ 刑 法 講 義 各 論(新 版 第 三 版) (二 〇 〇 九) 九 五 頁、 中 森 喜 彦・ 刑 法 各 論(第 二 版) (一 九 九 六) 五 五 頁、 曽 根 威 彦・ 刑 法 各 論(第 四 版) (二 〇 〇 八) 五 七 頁、 林 幹 人・ 刑 法 各 論(第 二 版) (二 〇 〇 七) 八 二 頁。 こ れ に 対 し、 被 拐 取 者 を 収 受 す る 行 為 が 二 二 七 条 に お い て 別 個 に 処 罰 さ れ て い る こ と を 理 由 に、 本 罪 を 状 態 犯 だ と 解 す る 見 解 と し て、 平 野・ 前 出( 3 ) 一 三 二 頁、 西 田 典 之・ 刑 法 各 論(第 五 版) (二 〇 一 〇) 七 五 頁、 山 口 厚・刑法各論(第二版) (二〇一〇)九一頁、松宮孝明・刑法各論講義(第二版) (二〇〇八)九七頁。 ( 5 ) 最決昭和三一 ・ 八 ・ 二二刑集一〇巻八号一二三七頁はこれを継続犯とする。 本罪を継続犯と解する見解として、 大谷・前出 ( 4 ) 一 三 一 頁、 中 森・ 前 出( 4 ) 七 九 頁、 曽 根・ 前 出( 4 ) 八 〇 頁、 西 田・ 前 出( 4 ) 九 九 頁、 林(幹) ・ 前 出( 4 ) 一 〇 一 頁、 松 宮・ 前 出( 4 ) 一 三 〇 頁。 こ れ に 対 し、 一 三 〇 条 後 段 に お け る 不 退 去 罪 の 処 罰 を 理 由 に、 本 罪 を 状 態 犯 だ と 解 す る 見 解 と し て、 平 野・前出( 3 )一三三頁、山口・前出( 4 )一一九頁。 ( 6 ) 外 国 人 登 録 義 務 を 怠 っ た 場 合 に つ き、 最 判 昭 和 二 八 ・ 五 ・ 四 刑 集 七 巻 五 号 一 〇 二 六 頁 は 継 続 犯 と す る。 こ れ を 支 持 す る 見 解 と し て、 佐 伯・ 前 出( 1 ) 一 八 頁。 こ れ に 対 し、 一 定 の 期 限 ま で に 作 為 を 命 ず る 場 合 に つ い て は 状 態 犯 だ と 解 す る 見 解 と し て、 平 野・ 前出( 3 )一三三頁。 ( 7 ) 林(幹) ・前出( 1 )三一頁。 ( 8 ) 佐 伯・ 前 出( 1 ) 二 一 頁。 こ れ に 対 し て、 林(幹) ・ 前 出( 1 ) 三 一 頁 は、 症 状 の 悪 化 だ け で は 継 続 犯 を 認 め る に は 足 り な い とする。 ( 9 ) 古田・前出( 1 )九二頁以下、林(幹) ・前出( 1 )三〇頁。 ( 10) 大 谷 實・ 刑 法 講 義 総 論(新 版 第 三 版) (二 〇 〇 九) 一 二 八 頁。 こ れ に 対 し て、 本 罪 を 継 続 犯 だ と 解 す る 見 解 と し て、 町 野・ 前 出( 2 )一四八頁。 ( 11) 松原・前出( 1 )二九頁、佐伯・前出( 1 )二二頁。 ( 12) 判 例(最 決 昭 和 六 三 ・ 二 ・ 二 九 刑 集 四 二 巻 二 号 三 一 四 頁) に よ れ ば、 こ こ に い う 犯 罪 行 為 の 終 了 が 認 め ら れ る た め に は、 構 成 要 件 的 結 果 が 発 生 し て い る こ と が 必 要 で あ っ て、 実 行 行 為 の 終 了 で は 足 り な い と さ れ る。 な お、 刑 訴 法 二 三 五 条 は 親 告 罪 に つ き 告 訴
期 間 を 規 定 し て い る と こ ろ、 そ の 起 算 点 は 犯 人 を 知 っ た 時 と す る が、 犯 罪 の 終 了 以 前 に 犯 人 を 知 っ た 場 合 に お い て は、 終 了 に よ り 初めて期間の進行が開始するものとされる。 ( 13) こ の 場 合 に お い て、 い わ ゆ る 承 継 的 共 犯 の 成 立 を 認 め る べ き か 否 か に つ い て は 対 立 が み ら れ る が、 少 な く と も 関 与 後 の 部 分 に ついては共犯が成立することになる。 ( 14) 最決昭和五〇 ・ 六 ・ 一三刑集二九巻六号三六五頁、札幌高判昭和二七 ・ 一二 ・ 二七高刑集五巻一二号二三四頁。 ( 15) 最決昭和二七 ・ 九 ・ 二五刑集六巻八号一〇九三頁。 ( 16) 例えば窃取にかかる財物を処分し、あるいは損壊する行為がこれに当たるとされている。 ( 17) 松 原・ 前 出( 1 ) 二 九 頁(た だ し、 共 犯 の 成 立 に は、 正 犯 の 行 為 を 通 し て 結 果 が 発 生 す る こ と を 必 要 と せ ず、 正 犯 と の 意 思 連 絡 に よ り 自 ら 法 益 侵 害 状 況 に 影 響 を 与 え た 場 合 に も 共 犯 を 認 め る の で あ れ ば、 正 犯 の 行 為 が 終 了 し て い た 場 合 で も な お 共 犯 は 成 立 しうるとする) 、林(美) ・前出( 1 )一六頁以下。 ( 18) 松原・前出( 1 )二九頁。 ( 19) 林(幹) ・前出( 1 )三一頁、松原・前出( 1 )二九頁、林(美)前出( 1 )二一頁。 ( 20) 林(幹) ・前出( 1 )三一頁。 ( 21) い わ ゆ る 不 可 罰 的 事 後 行 為 の 法 的 性 格 を め ぐ る 議 論 に つ い て は、 拙 稿「不 可 罰 的(共 罰 的) 事 後 行 為 の 法 的 性 格 に つ い て」 刑 事法ジャーナル一四号二七頁参照。 ( 22) 林(幹) ・前出( 1 )三一頁、松原・前出( 1 )二九頁、林(美) ・前出( 1 )二〇頁。 三.近時の判例 以上のような議論の動きに加えて、新たな犯罪現象との関係で、犯罪の終了時期をめぐるいくつかの判例が出さ
れるに至った。以下にそれを紹介する。 ①入札をめぐる不当な取引制限 (東京高判平成九・一二・二四高刑集五〇巻三号一八一 ( 23) 頁) 水道メーターの販売業者二五社における営業実務責任者三四名が、平成六年四月に会合を開き、東京都における 水道メーターの発注に当たっては、従来の受注実績に応じた受注を行うこと、および、これを実施するために、入 札の都度、幹事において受注予定社と入札予定価格を連絡して、各社においてはその通りになるよう入札・見積も り を 行 う こ と を 合 意 し た。 さ ら に、 平 成 七 年 四 月 と 平 成 八 年 四 月 に も、 内 容 を 多 少 修 正 し な が ら も 同 様 の 合 意 を 行った。以上の行為につき、独占禁止法八九条・三条違反に当たるとして起訴された。 本判決は、不当な取引制限の罪を継続犯であるとした。すなわち、各年度の当初に行った相互拘束行為によりそ れ ぞ れ 既 遂 に 達 す る (個 別 の 入 札 ご と の 受 注 者 の 決 定 ま で は 必 要 で は な い) 一 方、 こ れ に よ る 競 争 の 実 質 的 制 限 が 継 続している以上は、本罪は終了しない、としている。なお、本罪は各年度ごとに成立するのであって、平成七年度 以降についての合意は不可罰的事後行為ではなく、併合罪として処罰すべきものであるとされた。 本判決においては、時効の完成や共犯の成否といった具体的問題が争われたわけではなく、単に各年度当初にな された基本合意により本罪は成立し、かつそれが拘束力を有する限り本罪は継続する、それ故に個別の入札をめぐ る行為を実行行為として取り上げることを要しない、とするものと思われる。 学説は、本判決と同様に、基本合意にもとづく相互拘束状態自体を構成要件的結果ととらえ、本罪を継続犯とす る見 ( 24) 解と、本罪を状態犯と解した上で、基本合意と個別の入札をめぐる行為の双方を実行行為とする見 ( 25) 解とが対立 している。 ②インターネット上における名誉毀損 (大阪高判平成一六・四・二二判タ一一六九号三一六 ( 26) 頁)
行為者は、平成一三年七月にインターネット上のホームページの掲示板に、被害者の名誉を毀損する内容の書き 込 み を 行 っ た と こ ろ、 被 害 者 は 平 成 一 三 年 一 〇 月 に 本 件 書 き 込 み を 知 り、 そ れ が 行 為 者 に よ る も の で あ る こ と を 知ったが、告訴を行ったのは平成一五年四月であった。なお、平成一五年三月、行為者において、警察署を通して ホ ー ム ペ ー ジ の 管 理 者 に 対 す る 削 除 依 頼 を 行 っ て い た が、 同 年 六 月 末 こ ろ ま で は 本 件 記 事 は 削 除 さ れ て い な か っ た。 本判決は、本件記事が利用者の閲覧可能な状態に置かれるとともに本罪は既遂に達し、かつその状態が継続して いる限り終了しないとした。ただし、本件においては、行為者が本件記事の削除を申し入れることにより、自己の 生じさせた名誉侵害の危険を解消させるための作為義務を果たしたとして、この時点で本件犯罪は終了した、と判 示した。 本判決は、名誉毀損罪が状態犯か継続犯か、という点は何ら判示しておらず、インターネットのホームページに おける名誉毀損という具体的な遂行の態様について、その終了時期を判断したものといえよう。 学説は、本罪を継続犯と解し、あるいは状態犯だとしても削除要請に至るまでは侵害行為は継続していたとして 本判決を支持する見 ( 27) 解と、本罪は状態犯であって、記事の掲示により犯罪が終了するとして本判決に反対する見 ( 28) 解 とが対立している。 ③現況調査時の虚偽申立てによる競売入札妨害 (最決平成一八・一二・一三刑集六〇巻一〇号八五七 ( 29) 頁) 経営難に陥った会社の経営者が、平成七年一二月、強制執行にかかる不動産について現況調査がなされた際、執 行官に対して虚偽の賃貸借契約の存在を申し立てた。これを受けて、平成九年三月、上記内容虚偽の事実が記載さ れた現況調査報告書が、入札参加希望者の閲覧に供されるべき状態におかれた。以上の事実関係につき、本件経営
者は平成一二月一月、競売入札妨害の罪で起訴された。 被告人は公訴時効の完成を主張したが、第一審判決は、上記現況調査の後に、評価人による不当に廉価な評価書 の記載、裁判官による不当に廉価な最低売却価格の決定及び、裁判所職員による上記現況調査報告書の備え付けを な さ し め た も の と し て、 被 告 人 の 実 行 行 為 が 継 続 し て い た こ と を 理 由 に 公 訴 時 効 の 成 立 を 否 定 し た。 こ れ に 対 し て、控訴審判決は、競売入札妨害罪は現況調査に際して虚偽の申立てを行った時点で既遂に達するが、それに基づ く売却手続きが続く限り、競売入札の公正が害される状態は継続しているのであるから、犯罪は終了せず、被告人 において虚偽申立ての撤回等により競売手続きの公正を害する危険を解消しない以上、公訴時効は進行しないとし た。本決定もこれを支持した。 本決定も、本罪が即成犯・状態犯・継続犯のいずれに属するかは何ら判示していない。ただ、虚偽の申し立てに 基づく売却手続きが進行する間は、本罪は終了しない、とするに止まる。学説も、本決定の判断を概ね支持してい るといえよう。その論拠としては、虚偽の申立て後において、売却手続きの公正を害する危険が拡大していくとす る 構 ( 30) 成、 虚 偽 情 報 を 反 映 し た 現 況 調 査 報 告 書 の 備 え 付 け を も 含 め て、 本 罪 の 構 成 要 件 該 当 性 が 認 め ら れ る と す る 構 ( 31) 成、競売入札の公正が害されていること自体を継続犯として処罰しているとする構成などがあ ( 32) る。 ( 23) 本 判 決 に つ い て の 評 釈 と し て、 芝 原 邦 爾・ ジ ュ リ ス ト 一 一 四 三 号 九 五 頁、 佐 伯 仁 志・ 法 学 教 室 二 二 〇 号 一 二 八 頁、 深 津 健 二・ 平 成 九 年 度 重 要 判 例 解 説 二 四 二 頁、 大 橋 敏 道・ ジ ュ リ ス ト 一 一 四 九 号 一 二 六 頁、 田 中 利 幸・ 経 済 法 判 例・ 審 決 百 選 二 六 二 頁、 島 田 聡一郎・経済法判例・審決百選二五八頁。 ( 24) 大橋・前出( 23)一二七頁。 ( 25) 芝 原・ 前 出( 23) 一 〇 〇 頁、 佐 伯・ 前 出( 23) 一 二 九 頁。 な お、 西 田 典 之「独 占 禁 止 法 と 刑 事 罰」 岩 波 講 座 現 代 の 法 6 ・ 現 代
社 会 と 刑 事 法(一 九 九 八) 二 二 八 頁 以 下 は、 本 判 決 の よ う な 入 札 談 合 の 事 案 に つ い て は こ の よ う な 構 成 に よ る べ き だ と す る 一 方、 価格値上げカルテルの場合は、日々の販売活動自体が構成要件に該当するとして、これを継続犯とする。 ( 26) 本判決についての評釈として、山口厚・平成一七年度重要判例解説一五八頁。 ( 27) 西田典之・刑法各論(第五版)一二〇頁。 ( 28) 山口・前出( 26)一五九頁。 ( 29) 本 判 決 に つ い て の 評 釈 と し て、 松 田 俊 哉・ 法 曹 時 報 六 〇 巻 一 〇 号 二 九 〇 頁、 林 幹 人・ 刑 事 法 ジ ャ ー ナ ル 九 号 六 六 頁、 松 宮 孝 明・ 法 学 セ ミ ナ ー 六 三 一 号 一 一 九 頁、 林 美 月 子・ 前 出( 3 ) 一 六 五 頁、 清 水 真・ 平 成 一 九 年 度 重 要 判 例 解 説 二 〇 三 頁、 樋 口 亮 介・ ジュリスト一三七七号一五六頁、本圧武・判例セレクト二〇〇七(法学教室三三〇号別冊付録)二五頁。 ( 30) 松田・前出( 29)二九二頁、西田・前出( 2 )八八頁、林(美) ・前出( 29)一六六頁、清水・前出( 29)二〇五頁。 ( 31) 松宮・前出( 29)一一九頁、本圧・前出( 29)二五頁。 ( 32) 林(幹) ・前出( 29)七〇頁、樋口・前出( 29)一六〇頁。 四.検討 前述のように、近時の判例及び学説においては、犯罪の終了時期を論ずるに当たり、およそある罪が即成犯・継 続犯・状態犯のいずれに属する、だから、その帰結として例えば公訴時効の期間についてはこう解すべきだ、共犯 の成立はこの範囲で認めるべきだといった、概念的・演繹的議論は行わず、むしろ具体的問題の解決と関連付けた 上で、犯罪の既遂時期と終了時期の関係を論じているといってよい。即成犯・状態犯・継続犯という分類は、必ず しも決定的な意義を有するわけではないのである。
しかし、だからといって、犯罪の終了時期をめぐる上述の区別をめぐる議論が無意味だ、ということにはならな いように思われる。犯罪の終了時期が既遂時期と一致しない場合においても、どの時点をもって犯罪の終了とすべ きか、ということを考えるに当たっては、何らかの基準が定立されることが望ましいからである。 そこで、犯罪の終了時期を画する基準及び、その効果の限界につき、若干の私見を述べたい。 ①まず、侵害法益の性質上、法益侵害状態が時間的に継続すること自体が、その量的拡大を意味するものと認めら れる場合は、当該侵害状態の解消をもって初めて犯罪は終了するものと解すべきであろう。監禁罪や薬物の不法 所持罪が継続犯とされ、被害者の脱出・解放や、薬物所持の喪失・手放しをもって終了とする従来の通説は、こ の意味において正当と思われる。ここでは、例えば行為者が監禁場所・保管場所を離れているため、実行行為自 体が中断していることは、終了時期自体には影響せず、ただ、後述するところの共犯の成否・刑罰法令の変更等 の場面において結論を左右しうるに止まる。 ②これに対して、傷害罪における被害者の負傷、窃盗罪における財物の利用不可能性、名誉毀損罪における名誉侵 害の危険性自体は、そのような状態が時間的に継続したからといって、法益侵害の量的拡大を意味するものでは ない。従来、これらの犯罪が状態犯として、法益侵害の発生により犯罪は終了するものとされてきたのは、法益 侵害状態がそのまま拡大せずに継続するだけの場合については正当である、といってよい。しかし、これらの罪 においても、行為者のもたらした法益への悪影響自体が継続し、それによって法益侵害の質的・量的拡大が認め られるのであれば、犯罪の終了を認めるべきではあるまい。ここでは、行為者による法益への悪影響自体が終了 し、法益侵害の質的・量的内容が確定することにより、犯罪が終了するものと解される。そこで、一撃で相手を 負傷させた場合、相手の所持する金品をすり取って直ちに逃亡した場合、人の名誉を害するような事実を、演説
というその場限りの形で摘示した場合においては、それぞれ既遂の時点で犯罪は終了するが、有害物質を継続的 に体内に摂取させることにより発症させた場合、相手の金品を一旦所在場所内に隠匿した後、改めてこれを取り 去った場 ( 33) 合、人の名誉を害するような出版物を刊行した場合においては、それぞれ有害物質の摂取の終了、目的 物の最終的持ち去り、出版物の絶版をもって、初めてこれらの犯罪は終了することになる。さらに、法益に悪影 響を与える行為自体は終了していても、法益侵害の拡大・悪化が進行する場合は、その停止をもって犯罪の終了 とすべきであろう。例えば、すでに体内に取り込まれた有害物質の継続的影響により症状が拡大し、あるいは当 初与えた傷害が被害者の身体にさらなる悪影響を与え、これにより症状の悪化・拡大を招いた場合には、当該症 状の悪化・拡大の停止をもって終了を認めるべきである。 ③他方、法益侵害が発生した結果、当該法益自体が消失する場合においては、その消失をもって犯罪の終了とすべ き で あ る。 従 来、 即 成 犯 の 典 型 と さ れ て き た 殺 人 罪 が、 被 害 者 の 死 亡 に よ り (既 遂 と な る と と も に) 終 了 す る、 と考えられてきたのはその意味において当然であろう。しかし、最終的には法益が消失する場合であっても、法 益侵害による既遂結果の発生の後、それが法益の消失に至るまでの間に、時間的なへだたりが認められる場合に おいては、既遂時期と終了時期は一致しないことになる。例えば放火罪の場合、判例によれば独立燃焼に至った 時点で既遂となるが、終了は目的物が焼失するに至った時点となる。ただし、当初の放火行為の目的物以外に延 焼している場合は、法益侵害自体が拡大しているのであるから、なお終了を認めるべきではあるまい。他方、焼 失以前に鎮火するに至った場合は、法益侵害の拡大が終了したものとして、犯罪の終了を認めるべきであろう。 ④犯罪の終了時期を決定することにより、これをもって公訴時効の起算点とすることには基本的に問題はない。公 訴時効制度の趣旨に照らせば、時効期間の進行が開始するためには、行為者の行為が終了しただけでは足りず、
結果が発生することが必要なことは疑いない。もっとも、ある行為について犯罪が終了した後に、これと包括一 罪 (い わ ゆ る 不 可 罰 的 事 後 行 為 と さ れ る 場 合 で あ っ て も、 そ れ が 主 た る 罪 と 一 体 的 に 処 罰 す る 趣 旨 で あ る な ら ば 同 様 に 考 え る べ き で あ ろ う) 、 あ る い は 科 刑 上 一 罪 の 関 係 に 立 つ 行 為 が な さ れ た 場 合、 判 例 の 理 論 に よ れ ば、 後 の 行 為 が 先 の行為の時効完成前になされたのであれば、全体について後の行為の時効期間経過を待って初めて時効が完成す る、ということに注意する必要があろう。 ⑤これに対して、既遂後に関与した者について、刑法総則上の共犯が成立するためには、主たる行為者において犯 罪が終了していないことが必要ではあるが、それだけでは足りない。共同正犯を含む共犯は、正犯の行為を通し て法益侵害の発生に何らかの影響を与えることが必要なのであるから、犯罪の終了以前において、関与者が主た る行為者の行為に影響を与え、それが最終的に法益侵害につながっている必要があ ( 34) る。また、既遂後に刑罰法令 が行為者の不利に変更された場合においては、犯罪が終了していないことに加えて、当該法益侵害の継続自体が その量的拡大を意味する場合 (薬物所持等) においてはこれを継続させる行為 (引き続き保管する行為等) 、法益侵 害 の 質 的・ 量 的 悪 化 が 進 行 し て い る 場 合 (有 害 物 質 に よ る 症 状 の 進 行 等) に お い て は、 そ の よ う な 法 益 へ の 悪 影 響 を 継 続 す る 行 為 (引 き 続 き 有 害 物 質 を 摂 取 さ せ る 行 為 等) が 必 要 で あ ろ う。 事 後 に 情 を 知 っ た 場 合 に お い て、 そ の 後の行為につき犯罪の成立を認めるべき場合においても同じことがいえよ ( 35) う。 ⑥ な お、 不 可 罰 的 (共 罰 的) 事 後 行 為 は、 当 該 行 為 自 体 の 構 成 要 件 評 価、 あ る い は 主 た る 犯 罪 の 法 益 侵 害 の 内 容 と の一体性を問題にすべきであって、主たる罪の終了時期とは必ずしも関係しない。また、当該行為に対する防衛 行 為 は、 「侵 害 の 急 迫 性」 が 認 め ら れ る と い え れ ば 可 能 な の で あ っ て、 侵 害 行 為 に つ き 犯 罪 の 終 了 時 期 を 論 ず る ことを要しない。
次に、以上の基準に基づき、本稿で取り上げた判例の事案について検討したい。 ①入札談合の事案においては、年度ごとの基本合意により競争の排除という結果が生ずるが、それ自体の継続によ り法益侵害の量的増大をもたらすものではない。しかし、個別の入札行為がなされることにより、基本合意によ る競争の排除が具体的な実害として現実化するのであるから、その都度法益侵害が拡大することになり、当該年 度における入札の終了に至るまでは、不当な取引制限の罪は終了しない。 ②インターネット上における名誉毀損の事案においては、ホームページに当該記事を掲示し続けている以上、相手 方の名誉に対して悪影響を与え続けているものであって、法益侵害の拡大が認められるといえるから、名誉毀損 罪 の 終 了 は 認 め ら れ な い。 た だ し、 削 除 の 依 頼 に よ り、 行 為 者 に よ る 影 響 力 は 除 去 さ れ た と み る べ き で あ る か ら、それによって本罪は終了したといえる。この場合、記事内容を見る可能性がある以上対象者の名誉に対する 危険は除去されていないのではないか、という疑問はありうるが、それは摘示された内容が第三者を通して伝播 していく危険と同じであって、本罪所定の構成要件的結果の拡大とは言えないように思われる。 ③虚偽申立てによる競売入札妨害の事案においては、競売手続きの目的が物件の適正価格による売却という点にあ る以上、不適正な価格により目的物が売却される危険は、手続きの進行に従って拡大していくのであるか ( 36) ら、本 罪の終了が認められるには、売却自体が終了するか、手続きの途中で虚偽の申立てが撤回される必要があろう。 ( 33) 大判大正一二 ・ 七 ・ 三刑集二巻六二四頁によれば、隠匿した時点で窃盗は既遂に達するとされる。 ( 34) 既 遂 後 に 関 与 し た 者 が、 法 益 侵 害 の 拡 大 に 直 接 影 響 を 与 え た 場 合(例 え ば、 焼 損 中 の 建 物 に ガ ソ リ ン を か け て 火 勢 を 強 め る 場 合) は、 む し ろ 単 独 正 犯 と し て 評 価 す べ き で あ ろ う。 こ の 場 合、 そ れ が 主 た る 行 為 者 と 意 思 を 通 じ て な さ れ た の で あ れ ば、 そ の 限
度 で 共 同 正 犯 の 成 立 が 認 め ら れ う る が、 そ れ は ま さ に 主 た る 行 為 者 の 指 示・ 依 頼 に も と づ く も の で あ っ て、 主 た る 行 為 者 の 行 為 自 体が終了していないと認められる場合といえよう。 ( 35) し た が っ て、 放 火 罪 の よ う に 当 初 発 生 さ せ た 火 気 に よ る 公 共 の 危 険 が 拡 大 し て い く 場 合 や、 傷 害 罪 の 場 合 で あ っ て も、 す で に 被 害 者 の 体 内 に 取 り 込 ま れ た 有 害 物 質 の 継 続 的 影 響 に よ り 症 状 が 拡 大 す る 場 合 の よ う に、 行 為 者 の 実 行 行 為 自 体 が 終 了 し て い る 場 合 に お い て は、 犯 罪 の 終 了 が 認 め ら れ る 場 合 と 同 様、 共 犯 の 成 立 や 不 利 な 改 正 後 の 法 令 の 適 用 等 は、 問 題 と は な ら な い も の と 考 え ら れ る。 さ ら に、 胎 児 段 階 で 体 内 に 取 り 込 ま れ た 有 害 物 質 が、 出 生 後 引 き 続 き 症 状 の 拡 大 を も た ら し た 場 合 も、 行 為 者 に よ る 実 行 行為が専ら出生前の胎児に対して向けられているのであるから、人に対する罪としての傷害罪の成立は認められないことになる。 ( 36) こ の 点 に 関 し て、 樋 口・ 前 出( 29) 一 五 九 頁 以 下 は、 虚 偽 の 申 立 か ら 売 却 に 至 る ま で の 期 間 が 数 年 に も 及 ぶ こ と に 鑑 み る と、 こ の よ う な 危 険 の 拡 大 を 理 由 と し て 本 罪 が 継 続 し て い る と す る の は 無 理 が あ る と す る 一 方 で、 本 罪 は 公 務 の う ち、 競 売 又 は 入 札 を 特 別 に 類 型 化 し て 手 厚 い 保 護 を 与 え る も の で あ っ て、 こ の よ う な 手 続 が 全 体 を 通 し て 公 正 を 保 つ こ と を 図 る も の で あ る こ と を 理 由 に、 本 罪 を 継 続 犯 と 位 置 づ け る。 た し か に、 本 罪 に よ り 競 売・ 入 札 手 続 が 特 別 扱 い を 受 け て い る こ と は 否 定 で き な い が、 そ の よ う な 特 別 扱 い の 内 実 が、 目 的 物 の 売 却 手 続 自 体 は 外 形 上 進 行 し て い て も、 そ れ が 最 終 的 に 不 適 正 な 価 格 で の 売 却 を き た す こ と に な る の で あ れ ば、 こ れ を 本 罪 に よ り 処 罰 す る と い う こ と に 他 な ら な い の で あ る か ら、 そ れ に 向 け て 手 続 が 進 行 し て い く の は、 た と え 数 年 の 期 間 に 及 ぶ も の で あ っ て も、 こ の よ う な 不 当 な 売 却 に む け た 危 険 の 拡 大 と 見 る べ き で あ り、 こ の 点 に こ そ 本 罪 の 継 続 を 認 め る べ き 根 拠 を 見 出 す べ き も の と 思 わ れ る。 な お、 以 上 の よ う に 考 え る な ら ば、 同 じ く 競 売 手 続 等 に 対 す る 特 別 の 妨 害 類 型 た る 封 印 破 棄 罪・ 強 制 執 行 妨 害 罪 に あ っ て は、 競 売 入 札 妨 害 罪 の 場 合 と 異 な り、 目 的 物 の 差 押 の 効 力 を 失 わ せ、 あ る い は 差 押 を 免 れ る こ と に よ り、 競 売 手 続 を 開 始・ 進 行 さ せ な い こ と を 処 罰 す る も の で あ る か ら、 差 押 の 効 力 の 喪 失 な い し 目 的 物 の 隠 匿 等 に よ り、 犯 罪 は 終 了すると解することができよう。
五.結語 犯罪現象は、社会の変化とともにさまざまな形で発現する。従来さほど取り上げられてこなかった犯罪類型が注 目されるようになり、あるいは同一の罪名であっても、従来とは異なった態様の犯罪が出現している。本稿で取り 上げた犯罪の終了時期をめぐる問題に限らず、刑法の理論的問題に関しては、犯罪と社会の変化に対応し、それを 反映したものにしていく必要があろう。 ―いとう わたる・法学部准教授―