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( ) 東医大誌 78(2): 167-170, 2020
ミニレビュー
内分泌学ハイライト
1 No. 1
免疫チェックポイント阻害薬と内分泌性免疫関連 有害事象について
Immune Checkpoint Inhibitors and Endocrinological immune-related Adverse Events
東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科
:諏訪内浩紹
Department of Diabetes Metabolism and Endocrinology, Tokyo Medical University Hospital : Hirotsugu SUWANAI[要旨] 免疫チェックポイント阻害薬(Immune
Checkpoint Inhibitor : CPI)は癌免疫療法として悪性腫瘍に使用されるようになった。従来の抗がん剤に 耐性が生じた癌に対し、
PD-1や
CTLA-4などの免 疫チェックポイントを阻害する方法は癌治療を大き く変えている。一方で、CPI は、腫瘍効果以外に肝 臓、内分泌臓器、消化管などの全身の臓器で自己免 疫機序の有害事象が発生させ、これらは免疫関連有 害事象(
immune-related Adverse Events : irAE)と総
称される。内分泌
irAEとしては、1 型糖尿病、甲 状腺機能異常症、副甲状腺機能低下症、副腎機能低 下症、下垂体機能低下症などが報告されており、東 京医科大学病院でも複数の症例を経験している。こ れらは早急に診断を行い適切な治療を行う必要があ る。本レビューでは、内分泌
irAEの臨床的特徴と 病態を詳しく解説する。
1. は じ め に
免疫チェックポイント阻害薬(Immune Check-
point Inhibitor : CPI)は癌免疫療法として悪性腫瘍に使用されるようになった。従来の抗がん剤に耐性 が生じた癌に対し、
PD-1や
CTLA-4などの免疫 チェックポイントを阻害する方法は癌治療を大きく 変えている
1)。
免疫細胞は胸腺で自己反応性が高すぎる
T細胞 は除去され成熟する。しかし、一部胸腺から抜け出 した自己反応性
T細胞は末梢に流れてくる。これ
図1 CPIによる免疫反応チェックポイント阻害薬によりT細胞が活性化され、癌細胞が障害される。抗CTLA-4抗体は
リンパ節においてB7.1(CD80)やB7.2(CD86)にとの結合を阻害する。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は癌組織に おいて、チェックポイント阻害を行う。
東 京 医 科 大 学 雑 誌
─168─ 第78巻 第2号
( )2
ら自己反応性
T細胞は
T細胞自身の内的な因子で ある
T細胞疲労や老化、アナジー、あるいはその 他の外的な因子などにより自己抗原に対する寛容を 獲得する。抗原提示細胞から抗原の提示を受けて活 性 化 し た
T細 胞 は
CTLA-4が 発 現 し て い る。
CTLA-4
は
T細胞を活性化する
CD28よりも強く競 合的に
CD80/86に結合することで、
T細胞活性化が 抑制さる。CPI の一つである
CTLA-4抗体はこの
T細胞の抑制を抑えることにより抗腫瘍効果を発揮さ せる効果を持つ。
一方、腫瘍組織に浸潤した抗腫瘍
T細胞から放 出されたサイトカインは、がん細胞に
PD-L1を発 現させ、T 細胞上の
PD-1と結合することで抗腫瘍
T細胞活性が抑制される。CPI のうち、抗
PD-1抗 体や抗
PD-L1抗体は、PD
-1や
PD-L1に結合する ことで結合を阻害し、T 細胞を活性化させ抗腫瘍効 果を発揮する
2)。
しかし、これら
CPIは、腫瘍効果以外に、自己 免疫機序の有害事象が発生させ、免疫関連有害事象
(
immune-related Adverse Events : irAE)と総称され る。irAE は肝臓、内分泌臓器、消化管などの全身 の臓器で認められる。内分泌
irAEとしては、1 型 糖尿病、甲状腺機能異常症、副甲状腺機能低下症、
副腎機能低下症、下垂体機能低下症が報告されてお り、東京医科大学病院でも多くの症例を経験してい る。早急に診断を行い、適切な治療を行う必要があ る。そのため、ヒトの
CPI投与により生じる自己 免疫疾患の病態解明が急がれている
3)4)。
さらに、CPI により
irAEが発症した患者に対し
CPIを再投与する必要があるときに、どのようにア セスメントし投与を検討するか、ということは重要 な
clinical questionであり、現在の知見を解説する。
2. 甲状腺障害
抗
PD-1抗体や抗
PD-L1抗体では添付文書におい
ても
10〜20%程度と甲状腺機能障害の頻度が非常
に多いことが特徴である。臨床像は橋本病で認めら れる無痛性甲状腺炎に類似する。橋本病では一過性 に甲状腺ホルモン値が上昇する甲状腺中毒症が見ら れ、その後にホルモン値が正常化、もしくは低下を 示すことがあり、抗
PD-1抗体や抗
PD-L1抗体投与 後に同様の症状がしばしばみられる。甲状腺中毒症 が著しい場合は
β遮断薬にて対処をする。1 カ月程 度で甲状腺ホルモン値は低下し、多くの場合は甲状
腺機能低下症となる。甲状腺機能低下症となった場 合は、レボチロキシンによるホルモン療法を開始す る。甲状腺クリーゼとなった報告もあり、症状が出 現した場合には適切な対処が必要となる
5)6)。
興味深いことに、irAE を発症した症例では抗腫 瘍効果が高いという報告が複数ある。抗
PD-1抗体 のペムブロリズマブで甲状腺障害を発症した肺がん 患者の症例では、非発症者に比べて有意な生存期間 の延長が認められた
7)。
また、抗
PD-L1抗体であるアテゾリズマブ、ア ベルマブでも、同様に甲状腺障害を発症した肺がん 患者の症例では、非発症者に比べて有意な生存期間 の延長が認められたことが報告されている
8)。この ように、甲状腺機能障害に対し適切に対処すること により、CPI の抗腫瘍効果を十分に引き出せる可能 性がある。
3. 1型糖尿病
1
型糖尿病の自然発症モデル動物である
NODマ ウスでは、
PD-1/PD-L1経路を阻害すると
1週間以 内に
80%で
1型糖尿病を発症することが報告され ていた
9)。
実臨床においては、CPI により
1%弱程度の
1型 糖尿病が発症すると報告されている。1 型糖尿病は 診断が遅れると致命的となることがあり、オンコロ ジーエマージェンシーの一つである
10)。
カリフォルニア大学からは、CPI を投与された
2,960人から約
0.9%の
27例で
1型糖尿病が発症を しており、その詳しい臨床的な背景が報告されてい る
11)。27 例のうち
14例がメラノーマ(皮膚
11例、
眼
3例)であり、その他、非小細胞癌
4例、腎細胞 癌
3例、扁平上皮癌
2例、腺癌
1例、大腸内分泌腫 瘍(
Lynch症候群)
1例、胆管癌
1例の内訳であった。
1
型糖尿病を発症したすべての症例で、抗
PD-1抗 体、もしくは抗
PD-L1抗体の治療を受けていた。
59%
の症例で糖尿病性ケトアシドーシスを呈し、
42%
が診断前後の期間に膵炎になっていた。
免疫学的特徴としては、
25人の患者の患者の中 で
1つの抗体が陽性であったのが
40%(10/25)、2つまたはそれ以上の抗体が陽性であったのが
21%(5/24)であり、必ずしも全例で抗体陽性とはなら
ないことが示された。特に、1 型糖尿病関連抗体が
どれか
1つでも陽性であった患者では、抗体陰性の
患者にくらべてより短い
CPI投与のサイクルの時
内分泌学ハイライト ─169─ 2020年4月
( )3
点で糖尿病を発症していた(2.5 cycle vs 13 cycle
P=0.024)。また、CPIによって引き起こされた糖尿 病発症の中央期間は最初の投与から
20週であった が、その範囲は
1から
228週とばらつきがあり、
CPI
療法のサイクル数も
1-78サイクルと広くばら つきがあった。HLA のタイピングが各症例に行わ れ、糖尿病を発症した患者の
76%に
HLA-DR4陽 性であり、アメリカで一般的に報告されている頻度 よりも有意に高かった。HLA
-DR3は
1型糖尿病で 頻度が増加するが(34.1%)、CPI によって引き起こ された糖尿病においても同様の頻度がみられた
(
35%)。以上のことから、
1型糖尿病を発症した
irAEの症例では
HLAの偏りがあることが分かった。
また
irAEによる
1型糖尿病患者での
HLAは、一般 的な
1型糖尿病の
HLAとは異なっていた点も興味 深い。これらの症例では、膵島に対する自己反応性 の
T細胞が生じていても
PD-1、PD-L1により細胞 障害が免れていたと予想される。チェックポイント 阻害薬を投与することにより自己免疫内分泌疾患が 発症したことが考えられる。
HLAには民族性があ り、日本における研究も必要と考えている。
4. 下垂体障害
CPI
による下垂体障害は抗
CTLA抗体や
PD-1/L1抗体のいずれでも報告されている。下垂体前葉障害 による副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌低下症 は副腎クリーゼを生じる可能性があり、早期の診断 と治療が必要となる。CPI による下垂体障害は抗
CTLA-4抗体で多く、イピリムマブ(ヤーボイ
®) で
10%に発症するが、抗
PD-1抗体では
1%程度と 報告されている。また、抗
CTLA-4抗体による下垂 体障害は抗
PD-1抗体に比べ早期に発症すると考え られている
12)。内分泌障害としては、ACTH 分泌低 下症が最も頻度が高く、次いで、甲状腺刺激ホルモ ン(TSH)分泌低下症、ゴナドトロピン分泌低下症 が発症する可能性がある。また、中枢性尿崩症を呈 する症例も報告されている
13)14)。画像所見では
MRIで下垂体の腫大が認められる。治療は、ホルモン補 充療法を行う。特に、ACTH 分泌低下症は診断が遅 れると副腎クリーゼを発症する危険性があるため、
速やかに治療を開始する必要がある。
5. CPIの再投与
irAE
の有害事象の後
CPIの再投与が安全かどう
か、という重要な
clinical questionがある。2019 年
JAMA Oncology
誌に「チェックポイント阻害薬投
与による副作用を持つ患者に対する免疫チェックポ イント阻害薬の再投与に対する評価」という論文が 発表されている
15)。本研究では、フランスにおいて、
PD-1
または
PD-L1阻害薬の投与によりグレード
2以 上 の
irAEが 生 じ た 患 者 に 対 し、
PD-1ま た は
PD-L1阻害薬を再投与したコホート研究である。
母集団である
93人の主な癌の種類は、黒色腫(31 人[33%])、肺(15 人[16%])、結腸直腸(8 人 [9%])、
リンパ腫(8 人[9%])であった。最初の
irAEにつ いては、
43人のグレード
2イベント(
46%)、
36人 のグレード
3イベント(39%)、および
14人のグレー ド
4イベント(15%)が見つかり、肝炎(17 人 [18%])、
皮膚障害(14 人 [15%])、肺炎(13 人 [14%])、大 腸炎(11 人 [12%])、関節痛(7 人 [7.5%])および 内分泌障害(6 人[6.5%])であった。これら
93人 は癌センターでの会議で再投与が検討され、40 人 の患者(43%)が同じ抗
PD-1または抗
PD-L1剤で 再投与、
53名が再投与をしないという方針となっ た。2 回目の
CPI投与を受けた患者の経過した結果 としては、17 人の患者で同じ
irAE、5人の患者で 異なる
irAEが発生した(55%)。同じ
irAEとしては、
6
例中
5例(83%)で関節炎が多かった。そのほか、
好中球減少
3例中
2例(
67%)、腸炎
5例中
3例(
60%)、
肝炎
5例中
3例(60%)が生じた。一方、新しい
irAEはリパーゼの上昇が
3例中
2例(67%)、関節 炎が
6例中
1例(15%)で生じた。1 回目より
2回 目のほうが重症ということはなく、死亡例などもな かった。 以上の結果より、本論文では抗
PD-抗体
1または抗
PD-L1抗体により
irAEを発症した症例に 対し、注意深い観察が必要なものの、再投与は許容 されるのではと結論付けている。
6. まとめと今後の課題
これら
CPIに関連して、臨床的に下記の点で重
要と考えている。1)今後、チェックポイント阻害
薬が使用されるに従い
irAEの症例が増加する可能
性が非常に高く、特に、甲状腺クリーゼや副腎クリー
ゼとなる場合があるため早期の診断と治療が必要と
なる。2)irAE を生じた症例に対し、CPI の再投与
を検討する可能性があり、症例の蓄積と報告が必要
である。3)日本人における内分泌障害を含む
irAEと
HLAの関連は不明であり、今後の解明が非常に
東 京 医 科 大 学 雑 誌
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( )4
重要になってくると考えている。
COI
申告の開示
本論文発表内容に関連して著者に開示すべき
COIはありません。
参 考 文 献
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