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Streptococcus tigurinus による感染性心内膜炎の 2 例 1)

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304

感染症学雑誌 第88巻 第 3 号

Streptococcus tigurinus による感染性心内膜炎の 2 例

1)埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科,2)岐阜大学大学院医学研究科病原体制御分野,

3)埼玉医科大学国際医療センター検査部

宮里 明子

1)

大楠 清文

2)

館 良美

3)

橋北 義一

3)

江崎 孝行

2)

光武耕太郎

1)

(平成 25 年 9 月 20 日受付)

(平成 25 年 12 月 10 日受理)

Key words : Streptococcus tigurinus, infective endcarditis, PCR-based DNA sequencing

Streptococcus tigurinusは,新 規 に 登 録 さ れ た カ タ ラーゼ陰性のグラム陽性菌で,感染性心内膜炎,化膿 性脊椎炎,髄膜炎などの患者血液よりの分離が報告さ れている1)2).生化学性状はStreptococcus mitis,Strepto-

coccus pneumoniaeに近いが,一般検査室では正確な

同定が困難で,遺伝子学的解析を要する.我々は感染 性心内膜炎の経過で手術が施行された例で,切除弁の 遺伝子解析を行い,原因菌と臨床経過の解析を報告し てきたが3),今回 2 症例においてS. tigurinusが同定さ れたため報告する.

【症例 1】58 歳男性,高血圧のため近医通院中で,僧 帽弁閉鎖不全症と心房細動を指摘されていた.発症の 2 カ月前に抜歯の既往がある.11 月 4 日より発熱が出 現し,下腿浮腫を伴うようになった.18 日に近医を 受診したところ心エコー図で僧帽弁に疣贅を認め,感 染性心内膜炎の疑いで,同日当院紹介入院となった.

入院時の血液培養ではグラム陽性菌が検出され,マイ クロスキャン WalkAway 96 Plus(SIEMENS)では

S. mitis!S. oralisと同定された.薬剤感受性の結果は

ペニシリン G をはじめとしたβラクタム薬,バンコ マイシン,クリンダマイシン,エリスロマイシン,レ ボフロキサシンに感受性を示していた.セフトリアキ ソンとゲンタマイシンで治療が開始されたが,弁の逆 流による心不全の進行があり,12 月 2 日に僧帽弁置 換術が施行された.手術所見では弁は疣贅で覆われ,

組織の破壊が強かった.切除弁のグラム染色ではグラ ム陽性菌が多数みられたが,培養は陰性であった.セ

フトリアキソン投与中でも進行性の経過であったこと から,術後はパニペネムに変更し 2 週間投与後,再発 なく治癒した.弁の遺伝子解析を行ったところS. mitis と同定されたが,2012 年のS. tigurinusの新規の分類 登録に伴い再解析の結果,本症例の原因菌はS. mitis よりS. tigurinusへ変更された.

【症例 2】75 歳男性,2012 年 12 月 4 日より 39℃ 台 の発熱を認めるようになった.12 月 13 日に近医を受 診し,発熱に対してセフカペンピボキシルが投与され た.心雑音が聴取されたため,19 日に心エコー検査 が実施されたところ,僧帽弁に疣贅を認め,感染性心 内膜炎が疑われたため当院紹介となった.高度の僧帽 弁閉鎖不全を伴っており,同時に実施された腹部 CT では腎梗塞と脾梗塞が疑われた.当院受診時にはセフ カペンピボキシルが継続されており,入院時の血液培 養で菌は検出されなかった.経験的に抗菌薬をセフト リアキソンとゲンタマイシンに変更し,6 週間治療を 行った後に弁置換術が施行された.手術所見では弁は 疣贅で覆われ,2 本の腱索は断裂していた.切除弁の 塗抹ではグラム陽性球菌が多数みられたが,培養は陰 性であり,遺伝子学的解析でS. tigurinusが同定され た.セフトリアキソンで治療後であったが,術中所見 も活動性の感染が疑われ,弁の塗抹でも多数の菌を認 めたことから,術後はバンコマイシンの投与を 4 週間 実施し,再発なく治癒した.

現在の生化学的性状に基づいた検査では,Strepto- coccs mitisgroup 特に,S. mitis,S. pnemoniae,S. pseu- dopneumoniae,S. oralis間を区別するのは困難で,16s rRNA 遺伝子の解析でもこれらは相同性が高く,5ʼ領 域を増幅するだけでは正確な同定は困難であるとされ ている2).S. tigurinusは,生化学的解析および house

別刷請求先:(〒350―1298)埼玉県日高市山根 1397―1 埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染

制御科 宮里 明子

(2)

S. tigurinusによる感染性心内膜炎 305

平成26年 5 月20日

keeping gene などのさらに詳細な遺伝子解析から,

2012 年に新規に分類登録された.本報告例では切除 弁から DNA を抽出後,broad-range PCR でほぼ全長 の 16S rRNA 遺伝子領域を増幅し,DNA 配列の相同 性を比較・検討を行った4).その結果,2 症例の検体 か ら 増 幅 さ れ た 16S rRNA 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 はS.

tigurinusの基準株の遺伝子と 99.9%(1,463!1,465)の 相同性であったことから本菌種と同定された.なお,

他 のStreptococcus属 のS. mitisS. pneumoniaeの 基 準株の塩基配列とはす べ て 98.7% 以 下 の 相 同 性 で あった.

本菌種は 2012 年に新種として記載されたが,菌種 同定データベースに収載されていないことから,現時 点では生化学的な同定キットや自動機器では同定され ない.そのため,VITEK2 ではS. mitis!S. oralisに同 定され,マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量 分析計(Matrix Assisted Laser Dsorption!Ioniza- tion―Time of Flight Mass Spectrometer : MALDI TOF-MS)では,MALDI biotyper のデータベース上 ス コ ア 値 2.2 以 上 でS. pneumoniaeと 同 定 さ れ る な ど1)2),臨床の検査室では誤同定されている可能性があ る.

S. tigurinusの病原性について Zbinden らは,臨床

的に同菌が分離された 15 例中 7 例は,感染性心内膜 炎例であったと報告している2).また,viridans グルー プが原因菌である 48 例の感染性心内膜炎の症例を検 討した結果は,7 例(14.5%)でS. tigurinusが分離さ れ,S. tigurinusは感染性心内膜炎の原因菌となる頻 度が高く,宿主に対する病原性が高い可能性があるこ とを示唆している2)

また動物モデルでの検討で Veloso らは,ラットに カテーテル留置により大動脈に血栓を誘発後,感染性 心内膜炎由来のS. tigurinus104CFU!mL を経静脈的 に投与し,感染性の内膜炎発症を観察した5).その結 果,S. tigurinusは投与した臨床分離株 4 株中 3 株で,

7〜10 匹中 6〜9 匹で内膜炎の発症を認めたが(発症 率 78〜90%),同様に感染性心内膜炎の原因菌である

S. gordoniiを投与した結果は,12 匹中 4 匹(発症 率

33%)に発症を認めたのみであった.このことから,

90% のラットに内膜炎を発症させる菌量はS. tigur- inusでは 104CFU!mL 程度であることが確認された が,この菌量は他の viridans group streptococci の 105〜107CFU!mL と 比 較 し 10〜1,000 倍 少 な く,S.

aureusや腸球菌で要する菌量と同等であったと述べて

いる.

S. tigurinusが侵襲性感染症を発症する病原因子は

明らかではないが,全遺伝子配列の解析からは exfo- riative toxin やフィブロネクチン結合蛋白などの病原

性に関わる遺伝子を有することが判っている6).さら

in vitroの検討で,同菌はマクロファージ細胞株に

よる貪食に抵抗性を示し,その程度は壊死性筋膜炎の 原因菌であるStreptococcus pyogenesと同等であったと 報告されている6)

以上のことから,S. tigurinusは宿主の免疫を回避 し,血液中に入った少数の菌でも心および血管内膜病 変を形成することが示唆されている.

本菌による臨床例の報告はまだ限られており,臨床 的特徴については明らかでないが,常習的な静脈注射 施行者における化膿性脊椎炎や膿胸などの侵襲性感染 で,他菌との混合感染例の報告もある2).本報告の 2 例では薬物の常習歴などはなく,その他の菌の検出は なかった.経過については,症例 1 は発熱が出現して から心不全症状の悪化のため早期に手術を要し,症例 2 では発熱から 2 週間の経過で弁の高度閉鎖不全や塞 栓症の合併がみられた.比較的急性の経過で,血液培

養からStreptococcus属が検出された場合には,本菌を

疑う必要があるかもしれない.しかし,詳細について は今後の症例の蓄積を要する.

ペニシリンやゲンタマイシンなどの薬剤に対する感 受性はその他の viridans 属と同様とされており2),症 例 1 から検出された菌も各種抗菌薬に感受性であっ た.また,同菌は口腔内常在菌と考えられているが,

現時点ではまだ口腔内からの分離はされていない1).今 後,感染性心内膜炎の原因菌としてS. tigurinusを考 慮する必要があると考えられる.

利益相反自己申告:申告すべきものなし 文 献

1)Zbinden A, Mueller NJ, Tarr PE, Spröer C, Keller PM, Bloemberg GV:Streptococcus tigur- inus sp. nov., isolated from blood of patients with endocarditis, meningitis and spondylodisci- tis. Int J Syst Evol Microbiol 2012;62:2941―5.

2)Zbinden A, Mueller NJ, Tarr PE, Eich G, Schulthess B, Bahlmann AS,et al.:Streptococcus tigurinus, a novel member of the Streptococcus mitis group, causes invasive infections. J Clin Microbiol 2012;50:2969―73.

3)Miyazato A, Ohkusu K, Tabata M, Uwabe K, Kawamura T, Tachi Y,et al.:Comparative mo- lecular and microbiological diagnosis of 19 infec- tive endocarditis cases in which causative mi- crobes were identified by PCR-based DNA se- quencing from the excited heart valves. J Infect Chemother 2012;18:318―23.

4)大楠清文:いま知りたい臨床微生物検査実践ガ

イド―珍しい細菌の同定・遺伝子検査・質量分 析.Medical Technology 2013;(別冊):99―

117.

5)Veloso TR, Zbinden A, Andreoni F, Giddey M,

(3)

宮里 明子 他 306

感染症学雑誌 第88巻 第 3 号 Vouillamoz J, Moreillon P,et al.:Streptococcus

tigurinusis highly virulent in a rat model of ex- perimental endocarditis. Int J Med Microbiol 2013 Jun [cited 2013 Jun 20] Available from : htt p:!!dx.doi.org!10.1016!j.ijmm.2013.06.006.

6)Gizard Y, Zbinden A, Schrenzel J, François P:

Whole-genome sequences of Streptococcus tigur- inus type strain AZ̲3a andS. tigurinus 1366, a strain causing prosthetic joint infection. Genome Announc 2013;1:e00210―12.

Two Cases of Infective Endocarditis Caused byStreptococcus tigurinus

Akiko MIYAZATO1), Kiyofumi OHKUSU2), Yoshimi TACHI3), Giichi HASHIKITA3), Takayuki EZAKI2)& Kotaro MITSUTAKE1)

1)Department Infectious Diseases and Infection Control, Saitama International Medicine, Saitama Medical University,

2)Department of Microbiology, Regeneration and Advanced Medical Science, Gifu University Graduate School of Medi- cine,3)Department of Laboratory Medicine, Saitama International Medicine, Saitama Medical University

〔J.J.A. Inf. D. 88:304〜306, 2014〕

参照

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スライドの説明

fortuitum である.外傷,コンタクトレンズ装 用,laser in

502 の図 45 「外眼部常在菌」 を

American Heart Association(AHA)より感染性心内膜炎予防のための recommendation が出され 1997 年に 改訂されているが 1)

 最近MIC以下の抗生剤血中濃度あるいは静菌的抗

新潟県の小児期侵襲性インフルエンザ菌 b 型・肺炎球菌感染症の報告患者数

であった。罹患率は、インフルエンザ菌による侵襲性細菌感染症は、前年と同様 0 であっ た。肺炎球菌髄膜炎も 0 であった。肺炎球非髄膜炎は前年の 3.9 から

平成 25 年 1 月〜12 月の間に、三重県在住者のインフルエンザ菌による侵襲性細菌感染 症症例は、0 例であった。肺炎球菌による侵襲性細菌感染症症例は、6 例であった(5 歳未 満 5