論文の内容の要旨
氏名:岡 村 雅 広
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:腎臓において高血圧で発現変動し、病態に関わる分子の探索 ~高血圧自然発症ラットにおける検討~
血圧は多くの臓器が関わり、複雑な機序により調節されていると考えられる。その中で腎臓は主要な位 置を占める臓器の一つであると考えられる。本研究では高血圧モデルラットであるSHR/Izm、SHRSP/Izm を用い、DNAマイクロアレイ法を用いて腎臓における遺伝子発現の解析を行い、腎髄質でのAcox2の高 発現を認めた。この結果を踏まえ、腎臓における高血圧症発症の一因としてβ酸化に関わる酵素である ACOX2について検討を行った。
リアルタイムRT-PCR法にて5週齢の腎臓で高血圧モデルラットがAcox2 mRNA発現の増加を認める かどうかを検討したところ、マイクロアレイ法の結果と同様に腎髄質、皮質ともにSHR/Izm、SHRSP/Izm でWKY/Izmラットに比べ有意に高発現であった。また、10、20週齢のラット腎臓におけるAcox2 mRNA 発現量はどちらも腎髄質、皮質においてSHR/Izm、SHRSP/IzmでWKY/Izmラットに比べ増加傾向であ り、高血圧発症前の段階でのみ一過性に上昇しているものではないと考えられた。また、明らかな血圧差 が出始める前の段階である5週齢のSHR/Izm、SHRSP/IzmにおいてWKY/Izmラットと比較しAcox2 mRNA発現量に有意な増加を認めたことは、ACOX2と高血圧発症との間に何らかの関わりがあると考え られた。
脂肪酸のβ酸化に関わる酵素であるACOX2はペルオキシソームに存在し、アシルCoAを酸化し、エイ ノルCoAを生成するアシルCoAデヒドロゲナーゼの一種である。β酸化はミトコンドリアとペルオキシ ソームで行われており、アシルCoAデヒドロゲナーゼはACOX2以外にも多く存在する。他のアシルCoA デヒドロゲナーゼであるAcox1、Acads、Acadm、Acadl、Acadvlに関し、腎髄質、皮質におけるSHR/Izm、
SHRSP/IzmとWKY/IzmラットのmRNA発現をリアルタイムRT-PCRにて検討したが、すべて有意差 は認めなかった。
さらに抗ACOX2抗体を用いて5週齢と20週齢のSHR/Izm 、WKY/Izmラット腎臓組織の免疫染色を 行ったところ、どちらの週齢でもACOX2は遠位尿細管の細胞質に顆粒状に染色され、SHR/Izmでより強 く染色されていた。これにより、明らかな血圧差が出始める前の段階で、蛋白レベルでもACOX2が高発 現していることが示唆された。
ペルオキシソームでのβ酸化を経由する脂肪酸の候補として炭素数20の分枝鎖脂肪酸であるフィタン 酸の血中濃度を検討したところ、SHR/IzmでWKY/Izmラットの1.2倍と有意に高濃度であった。
血中フィタン酸濃度の違いの一因として腸内細菌叢に着目し、T-RFLP法にて5週齢のSHR/Izm、
SHRSP/IzmとWKY/Izmラットの腸内細菌叢を比較した。解析ではF/B比がWKY/Izmラットで2.4で あったのに対し、SHR/Izmで3.0、SHRSP/Izmで3.2であり、高血圧ラットと正常血圧ラットでは腸内 細菌叢が異なっていた。
本研究では高血圧ラット腎臓に高発現する因子をDNAマイクロアレイ法にて網羅的に解析した結果、
ACOX2がスクリーニングされ、mRNAレベル及び蛋白レベルで高血圧発症早期の腎髄質におけるACOX2 の過剰発現を同定し、その局在は遠位尿細管であることが明らかになった。さらにACOX2の基質の1つ と考えられるフィタン酸の血中濃度が高血圧ラットで増加していることが明らかになった。これらのこと により、高血圧にACOX2の基質である脂肪酸代謝の違いが関連する可能性があることが示された。