論文の内容の要旨
氏名:野 底 茉衣子
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:急性腎障害におけるミトコンドリア保護機構に関する研究
急性腎障害(AKI)は、従来治癒する疾患と考えられてきたが近年、致死率が高いだけでなく、基礎疾患を 持つ患者が AKIを発症すると、末期腎不全や慢性腎臓病(CKD)に至る予後の悪い病態であることが明ら かとなり、いかにAKIからCKDへの進行を食い止められるかが、世界的に注目を集めている。しかしな がら、AKIからCKDに至るメカニズムは、未だ明確には解明されていない。
COMM domain containing 5(COMMD5/HCaRG)は、Montreal大学のTremblay教授らのグルー プにより2000年に初めて報告され、正常血圧ラットに比べ、高血圧自然発症ラットの腎臓で高発現し ている新規遺伝子である。近位尿細管にヒトCOMMD5を高発現させた遺伝子改変(COMMD5-Tg)マウス を用いた実験において、COMMD5 は、虚血再還流障害により脱分化した尿細管上皮細胞の間葉上皮移行 と尿細管の修復を促進し、障害後の腎機能および生存率を改善させた。以上の知見より、高血圧自然発症 ラットの腎臓は、高血圧により普段から大きな負荷に晒されているが、腎臓の保護と修復のために COMMD5が遺伝的に亢進しており、腎硬化症を発症しないのではないか。しかし、COMMD5など の腎保護因子の低下した状態でAKIを発症すると、近位尿細管の恒常性が失われ、AKIからCKDに 進展するのではないかと考えた。そこで本研究では、COMMD5のAKI後の腎尿細管修復作用に加え、
AKI発症時におけるCOMMD5の腎保護作用とそのメカニズムを明らかにしようと試みた。
尿細管上皮細胞をシスプラチンや過酸化水素に暴露したところ、細胞内の酸化ストレスが増大し、ミト コンドリアが障害されると、オートファゴゾームが形成された。しかし、リソソーム分解経路がうっ滞 し、細胞死が誘導されることが分かった。そして、COMMD5は、尿細管上皮細胞が受けた負荷に対して 細胞内の酸化ストレスを軽減し、損傷ミトコンドリアを速やかに除去し、ミトコンドリア機能を保護し、
細胞保護的に働いた。次に、COMMD5-Tgマウスを用いてシスプラチン腎症モデルを作製したところ、近 位尿細管に発現したCOMMD5は、シスプラチンによる尿細管壊死を軽減し、ミトコンドリア機能を保全 し、腎機能の低下を抑制した。以上の結果から、COMMD5はシスプラチンによる薬剤性腎障害などのAKI の予防や治療に役立つ可能性が示唆された。
今後、COMMD5を利用した新規の腎臓病治療により、薬剤性腎障害や敗血症性AKIなどを軽減させる ことができれば、AKIから CKDへの進展予防に繋がり、新規透析導入患者数の減少に寄与できることが 期待される。