The Japanese Association of Management Accounting
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The Japanese Assooiation of Management Aooounting
日本管 理 会 計学会 誌
管 理 会 計 学 2009 年 第 18巻 第1号
論 文
コ ス ト変動 を 通 じ て利益 変動 に影 響を与 える要 因 として の売上高予測の 重 要 性 に 関する実 証研 究
一 コ ス トの 下方 硬 直性が もたらす 利 益へ の影 響一
安酸建二
〈論文 要 旨 〉
コ ス トの変動に関連する近 年の実証 研 究におい て ,売上高が減 少 する場合の コ ス トの減少率の絶対 値は,売 上 高が増 大 す る 場 合の コ ス トの増 加 率の絶 対 値 よりも小 さい とい う現象が広 く観察され,こ
の現 象は,コ ス トの 下方硬 直 性 と 呼 ば れてい る,コ ス トの 下方硬直 性は,将 来的に売上高が 回復する と予 測 する経 営 者が,経 営 資 源 を温 存 するた め意 図 的にコ ス トを負担すること か ら生 じる現 象であ る と考え ら れ てい る.本研 究で は, コ ス ト変動に影 響を与える要 因と し ての売 上 高予測, その 下 での コ
ス ト変 動, 利 益の関 係につ いて想 定 される仮説の 検証 を行 う.具体的には,予 測が実 績 を 上回 るとい う意味での 楽観的 な 売上高予測が行わ れ た場合に, 将 来 的 な 売上高の 増 加か ら十 分 な利 益を獲得で き ない こ と を検証する.この作業を通 じ て,コ ス ト変動を通じて利 益に影 響 を 与 える要 因 としての 売 上 高 予 測の重 要 性に関 す る実 証 的 証 拠の邏 示 を 行 う.
〈キーワード〉
コ ス ト変 動, コ ス トの 下方硬直 性, 利 益, 経営資源, 合理的意思決 定説,売上高 予 測
Importance of Sales Forecasts that Affect Profits through the Cost of Retaining Extra Resources:Empirical Analysis
Kenji YasUl(ata
Abstract
Recent management account血g research has revealed that costs increase hl response 軟)the increase il
sales, but costs do not decline propo面onately with decrease in sales. This phenomenon is named ‘‘sticky costs”.
CostS stickiness is censidered to be a result ofdeliberate decision by managers . When managers facing decline in
sa】es consider that sales temporally decrease and expect that sa]es increase in near fUture, they would deliberately
retain organ 三zational resources , According to this hypothesis, it can be considered that sales forecasts a血 t profits血rough the cost of retaining extlz resources . This paper examines the hypothetic衄relationship among sales forecasts, the change of cost level under the cer面n sales foreeastS and pro且t When managers have
optimistic sales forecastS, that is, forecasted sales are laiger than reported sales, com 卿 ies c ot enough
pro丘t fU)m the fUture sa亅es recovery because ofthe cost of retaining too much resources . This paper provides an
ernpirical evidence ofthe importance ofsales f()recastS that affect the profit via change ofcost . Key Words
sticky costS, change ofcost level, profit, erganizational resoul℃es, deliberate decision, sales forecasts
2009年2月 4 日 受 付 2009年 4月24 日 受 理 近 畿 大 学 経 営 学 部
Submitted 4 Fcbruary 2009 Accepted 24 April 2009
Faculty of Business Administrationt Kinki University
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管 理 会計学 第18巻 第 1号
1. 研 究 動 機
1.1 コ ス トの 下方 硬 直 性
コ ス トの 変動に関連 する 近 年の実 証 研 究におい て,売上高の 変 動 に 対 す るコ ス トの 変 動 は, 売上高が増加する場合と減少 する場合 と で, 非対 称 (asymmetry )で あ る こ と が 明 らか に されて
い る [Noreen and Soderstrom, 1997;Anderson et al., 2003;Subramaniam and Weidenmie ,2003;
Balakrjshnan et al.,2004;Anderson et al., 2005;Calleja et al.,2006;平 井 ・椎 葉
, 2006;安 酸 ・梶 原 2008,2009a,2009b].具体的に は, 売 上高が減少 する場合の コ ス トの 減少率の 絶対 値は, 売上高
が増大す る 場 合の コ ス トの増 加 率の絶 対 値 よ り も 小 さい とい う現 象が広 く 観 察 さ れてい る.こ
の よ う なコ ス ト変動に 見 られ る 特 徴 は,コ ス トの 下 方 硬直性 (sticky costs )と 呼 ば れ る [Anderson
etal .,2003].
例え ば, Anderson et al.[2eo3 ]1ま, 米 国企業の 財務データ を使っ た分 析か ら, 売上高が増大 し た ときに見 られ る 販管費の増加 率よ り も,売上 高が減 少 し た と き に 見 られ る 販 管 費の 減 少 率の 方が 小 さい こ と を 明 ら か に し てい る.ま た, 平 井 ・椎葉[2006]や 安 酸 ・梶 原 [2009a, 2009b]は,
日本企 業のデータを 使っ て Anderson ei aL [2003 ]の追 試 を行い , 日本企 業に お い て も 同 様の 現象
が観察される こ とを 明 ら か に して い る 1.さ らに ,Subramaniam and Weidenmie [2003 ]は, 販 管 費
だけで はな く 売上原 価に対して も 分 析 を 拡 張して 行い,売上原 価 につ い て も 下 方 硬 直 的 な 傾 向 が観察 され る こ と を 示 し て い る.これ ら一連の実証 研究の結果 は,売上 高の 変 動 に対 す るコ ス
ト変動の 相対 的な大き さが, 売上高が増加する場合よ りも, 売上高が減少 す る 場合の方が小 さ
い こと を 示 し て い る.
コ ス トの 下 方 硬 直 性 を 説 明 す る一っ の有 力 な 説 とし て ,経 営 者 ・管 理 者の 合 理 的 な 意 思 決 定
の 結果,コ ス ト が下方 硬 直的 に な る 可能性 一 「合理 的意思 決 定 説」 と本 稿で は 呼ぶ一 が指 摘 されてい る[Anderson ε’砿 , 2003;Anderson et at.,2005 ].す な わ ち, 売 上 高の 減少 時に過剰な経 営資源 を 抱 え,そ れ を 維 持 し続 け るこ と は 過 剰 なコ ス トを負 担 す るこ とになる.し か し, 売 上
高の 減 少が一
時 的で あ り近い将 来 回 復 する と 予 測 さ れ る 場 合, 売 上 高の減 少 に合わせ て経営 資 源 をい っ た ん削減 し, 売上 高の 回 復 に合わ せ て経営 資 源 を 再 び 獲 得 す るこ とは, 短 期 的に過 剰 な経 営資源を維 持 し続け るこ と よ りも,結果的に高い コ ス ト負担につ なが り, 長 期 的 な 利 益 を 減少 させ る場合が ある.
ま た, 売上高の 減少 に合わせ て経営 資源を 削減 しコ ス ト を減少 させ た と して も, 将 来的に売 上 高 を 拡 大 させ る機 会が到 来 した場 合 に 必 要 な 経 営 資 源 が 手 当て で きず, 売 上高を 拡 大 させ る 機 会 を 逃 す 可 能 性 も あ る.現在の コ ス ト負 担が 大 きい か ら と 言っ て , そ れ を 売 上 高の 減 少に合 わせ て 削 減 す るこ とは ,売上高拡大の 機 会が到 来し た場合に 機 会 的 な 損 失 を 生み出 す 可 能 性が あ る,
1.2 コ ス ト変 動に影響を 与 える 要 因 と し て売上高予測, コ ス ト変動 , 利 益へ の影響
コ ス ト は収 益 を 生 む た めの 価値犠 牲であり, 言 う まで も な く経 営の 目的は そ れ らの差額で あ
る利 益を 生み 出すこ とで ある.こ の場合, コ ス トに関する研 究の役割は, 経 営者が有効に コ ス ト・マ ネジメ ン ト を行 うこ と を支 援 す る知 見を提 供 す るこ とに ある し[梶 原ほ か , 2008], コ ス ト・マ ネジ メン トが企業の長 期的な 利 益 を 実 現 す る よ うに,コ ス ト情 報 を 用い なが ら意 思 決 定 を行 うこと を意 味す る とすれ ば [Anderson and Lanen, 2007],コ ス トの 下 方 硬 直 性 に関 す る 研 究
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コ ス ト変 動を通 じ て利益変 動に影 響 を 与 える要 因 と して の売 上 高 予 測の 重 要 性 に 関 す る 実 証 研 究 一コ ス トの下 方 硬 直 性が もた らす利 益へ の影 響 一
は,コ ス ト変 動 に関 する知 見 を 提 供 す る だ け でなく, 経 営の 目 的で ある利 益へ の影響とい う観 点か らも進めて い かな くて は な らない.それ ゆ えコ ス ト変 動に影響を与 え る 経 営 者の意 思 決 定
は, それ が 利 益へ 与 える影響 とい う観点か ら も考察 さ れ 評 価 され る 必要 が ある.
合理 的 意 思 決 定 説に よ れ ば,単 年 度で は なく複 数年度に わ た る 利 益の増 大 を 優 先 する経 営 者 が,売 上高予測に 基 づ い て経 営 資 源を意 図 的に維 持 す る とい う意思 決 定 を 行っ た結 果,その経 営資源 を維 持 す る た め の コ ス ト が発生 し,コ ス ト が 下方硬 直 的にな る と さ れ る .こ の と き, 売 上 高予測は経 営 資 源に 関する経営 者の 意思 決 定に影 響 を 与 え,これが媒 介 となっ て コ ス ト変 動
に影 響が及び ,コ ス ト変 動が利 益に影響を与え る とい う 関 係が ,合 理 的 意 思 決 定 説で は想 定 さ れ てい る、こ の よ うな 関係を想 定するな らば,コ ス ト変 動 を 通じ て利 益 に影響を 与 え る要 因 と
し ての売 上 高予 測 が 極め て重要 な 意 味を持っ て く る.
1.3 コ ス ト変動 を 通 じて 利益変 動 に影響を与 え る要因とし て の 売上高予 測の重 要 性 売 上 高予 測に関 連 し て , 将 来 的に獲得さ れ る と期 待 さ れ る利 益 額 は,予 測 さ れる売 上高と そ
の 予 測の 下で の コ ス ト との 差 額で あ る.これに関 連 し て , 太田[2008]は , 日本 企 業の経 営 者 が 決 算短信で発 表する利 益予 測は, 予 測値が 実績値を 上回 る とい う意 味で 楽観 的に行 わ れ る 傾 向 が あることを,文献レ ビュ ーを 通 じて 指 摘 し て い る.
売上 高予 測に関 する研究は十 分に は行 わ れて いない よ うであるが,利 益 が売上高と費用 との 差額で あ る こ と を考え れ ば, 利 益 予測の楽 観 性は売上 高 予 測の楽 観 性に 起 因 する 可能 性は十 分
に ある.事 実, 安 酸 ・梶原 [2008, 2009a]は, 日本企業を対象と して コ ス ト変 動 の検証に用いた 1991 年か ら2005 年まで の 10,513 企 業/ 年の データセ ッ トの う ち
, 前 年 度 と比較 し た場合の売 上 高の 減少は 4,603 企 業/年 (43.8%)で見 られ るの に対 して,決 算 短 信 で経 営 者が 発 表する次 期 業 績予測に おい て ,売上 高が減少 す る とい う予測 は 2,200 企業/年 (20.9%) しか 見 られ ない
こ と を 示 し て い る.
楽 観 的 な 将 来の 売 上 高 予 測 に基づ い て 経営 資 源 を 維 持 し て お く とい う意思 決 定が 下 さ れ る な ら,過 剰 な 経 営 資 源が 将 来に わ たっ て維 持 される こ とになる.こ れ は過 大 なコ ス トを将 来 負 担 する こ と になり,将 来的な利益の 減少に つ な が る.コ ス ト変 動が合理 的 意 思 決 定説 に よっ て 説 明 され る と し て も,楽観的 な売上高予 測 に基づ く意思 決定か ら長 期 的 な 利 益 が 生み出され る か どうか につ い て は依 然とし て不 明で あ る.
合 理 的 意 思 決 定 説の 立場か ら は,売 上 高 予 測は,経 営 資 源に 関 す る意 思 決 定 を媒介 と し て,
コ ス ト変動に影響を 与 える重要な 要 因で ある,本 研 究で は, コ ス ト変動に影 響を 与 え る要 因 と し ての 売上 高予測 ,そ の 下 での コ ス ト変動 ,利益の 関 係 につ い て 想 定 され る 仮 説 の 検 証 を 行 う. 具 体的に は,コ ス トの 下 方 硬直性に関 す る合理 的 意 思 決 説の立場か ら,楽 観 的 な 売 上 高予測 が 行われた場合に, 将 来的な売上 高の 増 加か ら 十 分 な 利 益 を 獲 得でき ない こ と を検証 する.この 作業を 通 じ て, コ ス ト変 動 を媒 介 と して, 利益の 変動に影 響を 与 え る要 因 と し て の 売 上 高 予 測
の重 要 性に関 す る 実 証 的 証 拠の提 示 を 行 うことが本 研 究の 目的で ある.
本稿の構 成は, 以 下 の通 り で ある.第 2 節で は,コ ス トの下 方 硬 直 性 を従 来の原 価 概 念 との 関 係か ら説 明 す る と同 時に ,合理 的 意 思 決 定 説の 立場か ら売 上 高予測 と 利 益 変 動の 関 係にっ い て検 証 すべ き仮説 を 設 定する.第 3 節で は,仮 説 検 証のた めの 分 析モ デル を 明 らか にする.第 4 節で は,分析モ デル に投入 する 日本企業の財 務データ を 明 らか にす る.第 5 節で は,分析結
果 を 示 す.第 6 節で は , 発 見事項 を 要 約 す る と 同時に ,そ れ らに対し て 考 察 を 加 える.
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