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規制緩和後のわが国損害保険産業の 集中度と規模の経済

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(1)

規制緩和後のわが国損害保険産業の 集中度と規模の経済

⎜⎜ 事業費率関数を用いたパネルデータ分析 ⎜⎜

柳 瀬 典 由

■アブストラクト

わが国損害保険産業は,1998年の実質的な料率自由化の後,大型合併など,

業態内統合を短期間に経験してきたが,こうした動向は今後も続くのだろう か。この点を議論するためには,規制緩和後になぜ,業態内統合が進展する のかという点を説明しなくてはならない。そこで,本研究では規制緩和後の わが国損保産業の集中度を測定するとともに,同じ期間の個別企業レベルの データを用いることによって,わが国の損害保険産業における規模の経済に ついて実証的に検証した。分析は,保険引受に関する事業費,損害調査費,

代理店手数料など事業費の区分別,ならびに保険種目別に行った。実証分析 の結果,一貫して規模の経済が確認されたが,それが働く程度については,

保険種目,事業費の範囲によって異なった結果が得られた。このことは,今 後の業態内統合が,企業全体としてではなく,保険種目や業務別の統合によ るほうが,費用の節約が期待できるということを示唆している。

■キーワード

産業の集中度,規模の経済,損害保険産業,業態内統合

*平成17年10月30日の日本保険学会大会(小樽商科大学)報告による。

/平成18年10月18日原稿受領。

【査読済み論文】

(2)

1 はじめに

1990年代半ばの保険業法改正や日米保険協議の合意を契機として,わが国 の損害保険産業(以下,損保産業)は本格的な規制緩和と競争の時代に入っ た。1998年の実質的な料率自由化の後,2000年には,わが国損保産業は戦後 初の損保会社の破綻を経験した。また,2001年以降,大手損保会社間の大型 合併が複数生じる一方で,中小規模の損保会社が市場から撤退するなど,同 一業態内での統合(以下,業態内統合)が短期間で進展してきたことは記憶 に新しい。もちろん,最近はこのような動きが落ち着きを見せているものの,

そのことをもってさらなる業態内統合の可能性を否定することはできないだ ろう。それでは,わが国損保産業では今後も業態内統合がさらに進展するの だろうか。また,統合が進展するならば,これまでのような企業間合併など がその中心的な方法となるのだろうか。それとも,これまでとは異なる統合 のあり方が予想されるのだろうか 。この問題を議論するためには,まず もって,なぜ規制緩和後に業態内統合が進展するのかという点を明らかにし なくてはならない。

以上の問題意識のもと,本研究では産業における規模の経済という概念に 焦点を絞って議論する 。そもそも,規模の経済とは,生産規模を増加させ ることによって単位あたりの費用が低減する現象をいう。したがって,わが 国損保産業において規模の経済が相当程度働いているならば,損保会社は生

1) なお,統合のあり方としては,企業が一体となって統合するだけでなく,特 定の業務(オペレーション)や製品・商品(保険種目)でのみ,戦略的提携あ るいは統合を行うことも考えられる。また,こうした部分的な統合が進展する と,今度は逆に特定の業務や製品・商品だけを統合する独立の受け皿業者が登 場してくる可能性もある。たとえば,製造業の分野で最近多く観察される

EMS(電子機器受託製造サービス)や,総務や人事といった企業の管理部門

のアウトソーシング・ビジネスなどはその典型例であろう。

2) 規模の経済に関する詳細な説明に関しては,長岡・平尾(1998)を参照のこ と。

(3)

産規模を拡大することによって,より有利な費用構造となり,料率規制のな い競争市場を想定するならば,有利な費用構造を実現できた損保会社は利潤 を確保しながらも,より低価格の商品を供給することができる。すなわち,

生産規模が大きな損保会社ほど,より高い価格競争力を発揮でき,その結果,

生産規模が相対的に小さい中小の損保会社は市場から退出せざるをえなくな るし,比較的規模の大きい損保会社はさらに規模の拡大を志向するだろう。

要するに,わが国損保産業において規模の経済が相当程度働いているならば,

料率規制が緩和された後,市場メカニズムの帰結として同一業態内での急激 な統合が現象として観察されると予想されるのである。

本研究の目的は,規制緩和後のわが国損保産業の集中度を測定するととも に,同じ期間の個別企業レベルのデータを用いることによって,わが国の損 保産業における規模の経済について実証的に検証することにある 。料率規 制が実質的に自由化された後に,わが国損保産業の集中度が急激に高まって いるならば,同時期の産業内で規模の経済が有意に観察されると理論的に予 想できるからである。

さらに,規模の経済に関しては,総ての事業費(総事業費)のみならず,

保険引受に関する事業費,損害調査費,人件費や物件費のような社費部分,

あるいは,代理店手数料部分など,事業費の区分別に複数のパターンで検証

3) わ が 国 保 険 産 業 に お け る 規 模 の 経 済 に 関 す る 初 期 の 論 考 と し て,水 島

(1967)の研究は重要である。水島(1967)は,保険における規模の経済の問 題に関して,保険技術面と事業費のそれぞれの側面について論じることが必要 であるとの認識している。そのうえで,保険技術面においては,そもそも大数 の法則に依存したリスク・プーリングが前提となっているので,大規模企業の 有利性を問題なく認めている。その一方で,事業費部分に関しては,規模以外 の要因をコントロールしたうえで分析することが重要であり,それによって規 模の経済の確認をすべきであると論じている。その後,Joskow(1973)の研 究を契機として,規模以外の要因をコントロールしたうえで事業費部分の効率 性を実証的に検討する研究が数多く行われた。本研究もこうした一連の研究に 依拠している。

(4)

する 。というのは,損保会社の総事業費レベルで規模の経済が確認された としても,損保業務すべてに規模の経済が強く働いているとは限らないから である。つまり,業務によっては,それが非常に強く働くものもあれば,ま ったく働かないものもあって,全体としてたまたま規模の経済が強く観察さ れている可能性も否定できないからである。そして,規模の経済の強力な源 泉が何であるかという点を明らかにすることができれば,さらなる業態内統 合のあり方という観点から,統合による費用低減の潜在的可能性を持つ業務 が何であるのかを考察できるだろう。

ところで,これまでも,わが国損保産業における規模の経済の検証は数多 く行われてきた 。そして,その多くで規模の経済が確認されてきた。しか しながら,以下の点で本研究には特徴がある。第1に,規制緩和後のデータ のみを用いた点である。すなわち,先行研究はすべて規制緩和前のデータに よっている 。この点は,規模の経済性と産業の集中度との関係を分析する ためには,料率規制が実質的に自由化された規制緩和後のデータを用いる必 要があるので,重要である。第2に,パネルデータによる分析を行った点で ある。宮下・米山(2002)と

Hirao and Inoue

(2004)を除いて,多くの 先行研究ではクロスセクション分析によっていた。わが国の損保会社数は数 10社程度に限られるため,サンプル数を確保するためにはパネルデータによ らねばならない 。第3に,推計モデルの特定化に関して,直近の先行研究

4) 加えて,本研究では,公表データから入手可能な範囲内で,保険種目別の データセットを構築して検証している。これは,保険種目によっては規模の経 済が強く観察されない可能性もあるし,また,特定の業務においては保険種目 ごとに規模の経済の働く程度が異なっていることも考えられるためである。

5) た と え ば,前 川(1982),高 尾(1987),井 口(1993),吉 野・郭・沖 田

(1994),宮下・米山(2002),Hirao and Inoue(2004)など。

6) 但し,宮下・米山(2002)は1969年から1998年の期間でパネルデータ分析を 行っているので,保険業法改正後のデータは一部含んでいる。しかしながら,

本格的な料率の自由化は1998年以降なので,その意味においては規制緩和後の データは含まれていないといえる。

7) パネルデータ分析とは複数の経済主体について複数時点でのデータを集めて

(5)

である

Regan

(1999)の事業費率関数のモデルを基礎としつつ,わが国の 現状に合わせた追加的な説明変数を組み込んだ点である。たとえば,保険業 法改正後に新規参入した損保会社が参入初期に非常に大きな事業費を計上し ているため,この点をコントロールするべく,各社の市場への参入経過年数 をあらわす変数を組み込んでいる。事業費率関数の推計から規模の経済性を 検証するための工夫であり,本研究の特徴である 。第4に,分析対象とす る事業費の範囲に関して,損害調査費を含む総事業費,保険引受に係る事業 費,社費部分や手数料部分といった事業費区分ごとに,複数のパターンで検 証している。既に述べたように,この点は,規模の経済の源泉を考察すると いう意味で,本研究における最大の特徴である。

論文の構成は以下のとおりである。第2節では,新保険業法施行後の規制 緩和の概略を述べるとともに,わが国損保産業の業界構造変化の実態につい て概観する。そのうえで,この期間における産業の集中度を測定し,客観的 なデータによる業態内統合の進展を確認する。第3節では,損保産業におけ る規模の経済の検証に関して,関連する先行研究を紹介するとともに,本研

計量分析を行う方法である。たとえば,10社10年分で100サンプルという具合 である。通常の

OLS

とは異なり,経済主体特有の効果を考慮しなくてはなら ないため,まず経済主体特有の効果の有無を確認する

F

検定を行い,もし経 済主体特有の効果があれば次にモデルの特定化のために

Hausman

検定を行う。

そのため,モデルとしては通常の

OLS

モデル(Plain OLS)に加え,固定効 果モデルとランダム効果モデルといった別のモデルが採用される可能性がある。

なお,パネルデータ分析について,浅野・中村(2000),Wooldridge(2002),

北村(2005)などを参照のこと。

8) なお,規模の経済の検証に関しては,特定の費用関数型(コブ・ダグラス型,

トランスログ型)を仮定し,インプットとアウトプットを定義たうえで,その 効率性を測定する手法によるものが一般的である。しかしながら,本研究では,

他のコントロール要因を考慮してもなお,生産規模が大きければ単位あたりの 事業費が低減するかどうかという点を確かめることによって,規模の経済を確 認するというアプローチを取っている。このようなアプローチは,1970年代以 降の産業組織論の研究において採用されてきたものでもある(Joskow,1973 他参照)。

(6)

究で用いるモデルの設定を行う。第4節では,実証分析に用いたデータと方 法について述べたうえで,実証結果を示しその解釈を行う。第5節では,本 研究の結論と今後の課題について述べる。

2 保険業法改正後のわが国損保産業

2.1 規制緩和と業界構造の変化

管理された競争を特徴とする戦後わが国の損保産業は,1996年4月から施 行された新保険業法のもと,大きな転換点を迎えた。これを転機として,わ が国損保産業は,いわゆる 護送船団行政 のもとでの産業組織から,本格 的な競争市場へと移行を始めた。とりわけ料率規制に関しては,1996年12月 に日米保険協議が決着したことで,1998年7月までに実質的に自由化される ことになった。戦後長きにわたって,損保会社は,損害保険料率算出団体

(以下,算定会)が中立的な機関として算出した公正な料率を使用する義務 が課せられてきたが,1998年7月以降,算定会の算出した料率を使用する義 務が撤廃されることになったのである 。また,日米保険協議の合意を受け て,1997年9月にはリスク細分型自動車保険の販売が解禁され,アメリカン ホーム保険をはじめとする外資系損保が多数この市場に参入し始めた。さら に,1999年7月には大手国内損保である安田火災(現 損保ジャパン)がリ スク細分型自動車保険の発売を表明し,また,1999年9月には異業種からの 新規参入であるソニー損保が営業を開始するなど,わが国損保産業の競争は 激しさを増してきた 。

9) なお,算定会料率使用義務の廃止に先立ち,損保業界は保険料を調整してい た業界団体の全廃を決めている。たとえば,日本船舶保険連盟に関しては,

1997年度限りで業務を停止,解散している。また,日本機械保険連盟について も,1997年4月から主要業務である再保険の共同引き受けを停止し,1998年度 には廃止されている。このように,いわゆる カルテル団体 の全廃によって,

損保の料率は地震保険をはじめとする政府が強く関与する特定の保険を除けば,

1998年7月までに完全自由化されることになったのである。

10) わが国損保産業への大規模な新規参入は,新保険業法の施行をうけて,1996

(7)

その一方で,2000年4月にオールステート損保がチューリッヒ保険へ契約 を移転するなど,小規模の損保会社が市場から実質的に撤退するという動き も見受けられるようになった。こうしたなか,2000年5月には金融監督庁

(現 金融庁)が第一火災に業務停止命令を発動し,戦後初の損保会社の経営 破たんが生じた 。このように,中小損保が契約移転や経営破たんによって 市場から撤退する一方,2001年以降,損保会社同士による大型合併も目立ち 始めた 。2001年4月には,日本火災と興亜火災が合併して日本興亜損保が,

同和火災とニッセイ損保も合併してニッセイ同和損保が誕生,また,大東京 火災と千代田火災が合併し,あいおい損保が発足している。さらに,2001年 10月には,三井海上と住友海上が合併し三井住友海上が,2002年7月には,

安田火災と日産火災が合併し損害保険ジャパンが,そして,2004年10月には,

業界最大手の東京海上が日動火災と合併し東京海上日動火災が誕生している。

このように,きわめて短期間で急激な業態内統合が進展してきたのである。

2.2 産業の集中度の変化

2.1節で論じたように,料率規制の実質的自由化の後,実態としては,わ が国損保産業では業態内統合が進展し,産業の集中度が急速に高まっている ようにみえる。この点を客観的なデータで確認する。長岡・平尾(1998)に よれば,産業の集中度を測る代表的な指標としては,産業内の企業数,上位

年10月の生命保険会社の損保子会社の営業開始から始まっていた。当初,ニッ セイ損保,第一ライフ損保,スミセイ損保,明治損保,三井ライフ損保,安田 ライフ損保の6社が新規参入していた。

11) たしかに,第一火災の経営破たんの直接的な原因は,同社が主力商品として 貯蓄性の高い保険を販売し,いわゆる 逆ザヤ 負担に耐え切れなくなったこ とに求められるだろう。ただ,そうした特殊事情もさることながら,やはり損 保産業が競争的な市場へと急激に移行しつつあったという構造的な背景が,中 小損保の経営に少なからず負の影響を与えていたということも考えられるので はないだろうか。

12) 中規模の損保のなかには,統合を志向する会社もあった。たとえば,2003年 4月に,共栄火災は

JA

共済連グループと実質的な統合を果たしている。

(8)

数社が占める市場シェア合計,そしてハーシュマン・ハーフィンダール指数

(以下

HFI

)がある。このうち,産業内の企業数と上位数社が占める市場シ ェア合計の2つの指標は企業規模の格差を反映しない指標であるが,HFI はそれを反映した指標であるため最もよく用いられる 。HFIは産業全体 の生産高(X)に占める企業

i

のシェア(x)を2乗した値の合計であり,

産業内の企業数を

n

とすると,以下の⑴式であらわされる。

HFI

x

X

ただし,X=

x

したがって,HFIは産業内の企業数が少ないほど,また企業数が一定な らば個別企業のシェアの格差が大きいほど増大する。そして,産業内に1社 のみ存在するような独占市場の場合には

HFIは1となり,完全競争市場で

は0となる。すなわち,HFIは0から1の範囲の値をとることになる。

さて,HFIを測定するためには市場の範囲と生産高の定義を行わなけれ ばならない。本研究では,市場の範囲を国内で活動する損保会社と定義する が,再保険を専業とするトーア再保険と日本地震再保険,ならびに金融保証 業務を専業とする損保ジャパン・フィナンシャルギャランティー(旧 安田 フィナンシャルギャランティー)の3社は除いてある。また,生産高の指標 としては,宮下・米山(2002)にしたがって,正味収入保険料,総資産,責 任準備金の3つの指標を用いた(図1を参照)。ただし,総資産,責任準備 金に関しては,保険種目別のデータが入手できなかったため,全種目合計の

HFI

のみ示してある(図2を参照)。

13) たとえば日本の公正取引委員会による産業区分でも

HFI

が用いられている。

また,米国では最近の合併ガイドラインにおいて

HFI

を市場集中度の指標と している(産業集中度の指標としては一般的である)。

(9)

図1 わが国損保産業における HFIの推移(全種目合計)

(出典) インシュアランス 損害保険統計号 (保険研究所),各年度版をもとに作成。

図2 わが国損保産業における HFIの推移(保険種目別)

(出典) インシュアランス 損害保険統計号 (保険研究所),各年度版をもとに作成。

(10)

図1によれば,生産高の定義に関わらず,2001年度から2002年度にかけて,

HFI

が約0.09から約0.13程度に階段状に急上昇している。その後も上昇を 続け,2005年度には0.16にまで達している。また,図2から明らかなように,

全種目合計のみならず保険種目別で測定しても,同時期の

HFIの急上昇が

確認される。このことから,1998年の料率の実質自由化直後に,わが国損保 産業の集中度は急上昇していることがわかる。これは,2.1節で述べた,こ の時期の業態内統合の実態を客観的なデータで裏付けている 。

このように,料率規制の自由化直後に,わが国損保産業の集中度は急激に 高まっているのだが,それはなぜなのだろうか。はじめに述べたように,こ れに対する1つの理論的な説明として,わが国損保産業における規模の経済 の存在があった。規模の経済とは,生産規模を増加させることによって平均 費用が低下する現象であり,それがある場合には,生産を1企業に集中した 場合のほうが複数の企業に分散させた場合よりも費用が低下するものである。

したがって,わが国損保産業において規模の経済が強く生じているならば,

損保各社は生産規模を拡大することによってより有利な費用構造,価格競争 力を実現できるので,料率規制という蓋が取れた後は,市場メカニズムが機 能することによって業界再編が加速し,その結果,産業の集中度が急激に高 くなると予想されるのである 。そこで,第3節以降では,損保産業におけ

14) なお,柳瀬・尹(2006)は,同様の手法によって料率規制緩和後の韓国損保 産業の集中度を測定している。これによれば,韓国の場合,規制緩和前の1990 年度から1994年度までは

HFI

は0

.

1程度を示しているが,料率規制緩和の初年 度である1994年度以降は徐々に

HFI

が上昇し,2003年度には約0

.

17に到達し ていたことがわかった。ここに,わが国と異なり,韓国の場合,料率規制緩和 以降に階段状の急上昇をせず緩やかな右肩上がりの上昇傾向を示したかという 疑問が生じてくる。この点は,大変興味深いテーマである。1つの可能性とし て,韓国の料率規制緩和が,約10年の歳月をかけて実施された段階的な自由化 であったことが考えられる。しかしながら,この点の検証は本研究の射程範囲 外であるため,今後の研究課題としたい。

15) 規模の経済のみが産業の集中度を説明する要因であるかどうかについては議 論があるが,少なくとも1つの理論的説明として理解することはできる。

(11)

る規模の経済の検証に関する先行研究を概観したうえで,料率規制緩和後の わが国損保産業における規模の経済に関して実証的検討を行う。

3 先行研究

損保産業における規模の経済の検証を行った研究は数多くある。わが国損 保産業を対象にした研究としては,たとえば,前川(1982),高尾(1985),

井 口(1993),吉 野・郭・沖 田(1994),宮 下・米 山(2002),Hirao and

Inoue

(2004)などがある。前川(1982)は,わが国損保産業において規模

 

の経済が観察されるか否かを考察した初期の研究である。分析対象とした20 社を収入保険料の規模別に大中小の3つに分類し,それぞれのカテゴリー別 に10年間の事業費の推移を分析し結果,規模が大きい損保会社グループのほ うが,相対的に事業費が小さいということを発見している 。高尾(1985)

は,1951年度から1982年度までの再保険専業会社2社を除く国内法人20社を 対象に,正味収入保険料を規模の変数とした回帰分析を行うことで,規模の 経済の存在を確認している。井口(1993)は,1991年度における再保険専業 会社2社を除く国内法人23社に加えて,それまでの研究で除外されてきた在 日外国会社14社を加えた37社を対象に,収入保険料を規模の変数とするクロ スセクション分析を行っている 。その結果,わが国損保産業において規模

16) 保険業法に基づく国内法人22社から再保険専業会社2社を除いた20社を対象 に,1971年度から1980年度までの10年間の事業費の推移を分析している。

17) なお,井口(1993)が分析対象とした1991年度においては料率規制が存在し ていたため,同時方程式バイアスの可能性が想定された。すなわち,料率規制 が存在する状況下では価格が費用の関数で表わされうるため,価格と年間契約 高の積として算定される保険料もまた費用の関数となる可能性がある。その結 果,モデル上の被説明変数(費用)が説明変数(保険料)を説明してしまう可 能性,つまり同時方程式バイアスが生じうる。そこで,井口(1993)はこの問 題を解決するために操作変数法による分析も同時に行っている。ただし,本研 究では,料率規制が実質的に自由化された後のデータのみを用いているので,

井口(1993)が指摘した同時方程式バイアスの可能性については,考慮してい ない。

(12)

の経済が存在することを確認している。吉野・郭・沖田(1994)は,1970年 度から1990年度までの期間を5年毎に区切り,それぞれの時点で規模変数を 元受正味保険料,被説明変数を総事業費が元受正味保険料に占める割合(単 位あたりの総事業費)として単回帰分析を行っている 。その結果,元受正 味保険料が増加するにしたがって,統計的有意に単位あたりの総事業費が低 下することが観察され,規模の経済の存在を確認している。

さて,わが国損保産業において,個別企業レベルのデータを用いた計量分 析を行う場合,会社数が少ないという制約に直面するので,統計的な自由度 をいかに高めるかという問題が生じる。この問題を克服するための1つの方 法としてパネルデータ分析があるのだが,この手法を本格的にわが国損保産 業の分析に適用したのが,宮下・米山(2002)である。宮下・米山(2002)

は,1969年度から1998年度までの期間をバブル崩壊以前(1969年度−1989年 度)とバブル崩壊以後(1990年度−1998年度)に分割して,それぞれパネル データ分析を行っている。その結果,いずれの期間においても規模の経済の 存在を確認している。また,Hirao and Inoue(2004)は,1980年度から 1995年度までの期間で,Pulley and Braunstein(1992)によって開発され た合成関数(Composite function)を用いてパネルデータ分析を行い,規 模の経済の存在を確認している。

他方,海外の損保産 業 を 対 象 に し た 研 究 と し て は,た と え ば,Ham-

mond, M elander and Shilling(1971),Joskow

(1973),Cummins

(1977),Cummins and VanDerhei(1979),Doherty(1981),Johnson,

Flanigan and Weisbart(1981),Skogh

(1982),Praetz(1985),Bar-

rese and Nelson

(1992),Cummins and Weiss(1993),Regan(1999),

柳瀬・尹(2006)などがある。大半の研究で損保産業における規模の経済の 存在が確認されてきたが,以下では直近の先行研究であり,本研究で一部修 正を加えたうえで依拠する

Regan

(1999)のモデルを 紹 介 す る。Regan

18) ここでいう総事業費とは保険引受に係る事業費に損害調査費を加えた合計額 である。

(13)

(1999)は,1990年度のアメリカにおける損保会社250社のデータを用いて全 種目ならびに保険種目別のクロスセクション分析を行っている 。モデルと しては,被説明変数に保険引受費用を収入保険料で除した値をとり,説明変 数には生産規模を示す変数としての収入保険料の対数値をはじめ,再保険の 利用度合いを示す値,保険種目の特化度を示す値,保険会社の信用度を示す 値,会社形態(株式会社か相互会社か)の相違を示すダミー変数,募集チャ ネルの相違(専属か独立か)を示すダミー変数,そして,保険会社の地理的 分散度合い(全国展開する保険会社グループかローカルな保険会社か)を示 すダミー変数が設定されている。

Regan

(1999) のモデルでは,損保会社の生産規模を示す指標としては収 入保険料が採用されているが,生保産業と比べて相対的に短期の契約が多く を占める損保産業では一般的な見解である 。もし規模の経済が働いている のならば,この変数の係数の符号は有意にマイナスになることが予想される。

実証分析の結果,全種目合計では収入保険料の対数値の係数が有意水準1%

でマイナスの符号を,また,保険種目別でみても,企業保険など一部を除い て大半の種目でマイナスの係数が有意に観察されている。このように,アメ リカの損保産業においても,規模の経済の存在が確認されてきたのである 。

19)

Regan(1999)による保険種目別の分析は,自動車賠償責任保険,個人自動

車保険,住宅総合保険,企業保険,労働者災害補償保険,賠償責任保険の6つ である。

20) 国内外を問わず,先行研究の多くで正味収入保険料,元受正味保険料,また は収入保険料が用いられているが,いずれにせよ単年度の保険料ベースの数値 である。例外として,Doherty(1981)や

Skogh

(1982)が支払保険金を生産 規模の指標として採用している。他方,比較的長期契約が主流を占める生保産 業に関する計量分析では,筒井(2005)をはじめとして,その生産規模の指標 として保有契約高が用いる研究がある。

21) なお,興味深い点として,アメリカの損保産業では,保険種目によっては規 模の経済が有意に観察されなかったことがあげられる。これは,損保会社ごと にその商品ポートフォリオが違っていれば,規模の経済を追求するための業態 内統合の動機,あり方に相違がありうることを示唆している。Regan(1999)

の結果にしたがえば,たとえば,企業保険契約を相対的に大量に保有する損保

(14)

4 実証分析

4.1 モデル

Regan

(1999)の推計モデルを基礎として,以下⑵式の関数を仮定する。

ERATIO

=β+β

LNPW

+βAGE +β

OWNERSHIP

+β

SOLVEN

+βSPEAUTO +βSPEFIRE

+β

SPECA

+βKEIRETSU +ε

ε=α+μ

ただし,iは会社番号,tは年度であり,それぞれの変数は以下の通り定 義する。

ERATIO:=事業費/正味収入保険料 LNPW:=正味収入保険料の対数値

AGE:=設立年度から各決算年度までの経過年数の対数値

OWNERSHIP:=上位10位までの株式所有が発行済み株式総数に占める

割合

SOLVEN

:=前年度のソルベンシーマージン比率の対数値

SPEAUTO:=種目別元受正味保険料(自動車)/元受正味保険料(全種

目合計)

SPEFIRE

:=種目別元受正味保険料(火災)/元受正味保険料(全種目 合計)

SPECA:=種目別元受正味保険料(傷害)/元受正味保険料(全種目合計)

KEIRETSU

:=企業集団(系列)に属する場合は1,そうでない場合は

会社同士の統合のインセンティブは比較的小さいものと予想される。この点は,

わが国損保産業における業態内統合を議論するうえでも有益な視点となるだろ う。

(15)

0のダミー変数

α:=経済主体特有の効果 μ

:=攪乱項

また,被説明変数

ERATIO

については,どの範囲で規模の経済が働くの かを分析するために,分子の事業費を以下のように複数定義している 。

⑴ 総事業費(:=保険引受に係る事業費+損害調査費)

⑵ 保険引受に係る事業費

⑶ 損害調査費

⑷ 人件費

⑸ 物件費

⑹ 代理店手数料(手数料自由化以降のデータ)

説明変数に関して,LNPWは本研究の目的である規模の経済を考察する ための変数である。もし,わが国損保産業に規模の経済が働いているならば,

この変数の係数の推定値は有意にマイナスの符号を示すと予想される。なぜ なら,そのような状況は,正味収入保険料が多ければ多いほどそれに占める 事業費の割合が小さくなる,すなわち生産高1単位あたりの費用がより小さ くなるという状態を意味するからである 。

それ以外の説明変数は,規模以外の要因で

ERATIO

に影響を与えうる要 因をコントロールするためのものである。まず,AGEは新規参入の損保会 社 の 多 く が,参 入 初 期 に お い て 高 額 の 事 業 費 を 計 上 し,そ の 結 果,

22) これらの分類については, インシュアランス 損害保険統計号 (保険研究 所)における事業費の内訳項目にしたがっている。なお,総事業費(:=保険 引受に係る事業費+損害調査費),保険引受に係る事業費,損害調査費,諸手 数料および募集費については,全種目合計のみならず保険種目別にもデータが 入手できたが,さらに詳細な分類である人件費,物件費,代理店手数料につい ては全種目合計の金額のみ入手可能であった。

23) なお,Cummins and Weiss(2000)をはじめとして,最近の研究のなかに は,費 用 効 率 性 の 指 標 を

DEA(Data Envelopment Analysis,

包 絡 線 分 析 法)を用いて定義することで,より厳密な検証を行うものもある。

(16)

ERATIO

が異常に高い数値を示す可能性があるため,この影響をコントロ ールするための変数としてモデルに組み込んでいる。ところが,AGEには,

事業費に与える別の可能性,つまり経験効果による事業費の低減の可能性が 考えられるので,AGEの係数の符号条件としては,プラス,マイナスの両 方が予想される 。

次に,OWNERSHIPは,最大株主あるいは大株主上位10位が発行済み株 式総数に占める割合を意味している。これは,所有構造の相違が経営者への 規律づけを通じて,費用効率に影響を与えるという仮説に基づいている。つ まり,株主分散度が高く所有と経営の分離の程度が大きければ,そうでない 場合よりも経営の効率性に対する規律づけが高まる可能性がある。そうであ るならば,係数の推定値は有意にプラスの符号を示すし,その逆のシナリオ を想定すれば,有意にマイナスの符号を示すだろう 。

SOLVEN

は前年度のソルベンシーマージン比率の対数値であり,損保会 社の品質を測る尺度として用いている 。これは,保険募集とその契約管理

24) 経験効果(Experience Effect)は,製品・サービスの累積生産量が増える につれて,単位あたりコストが一定の規則性のもと低減する現象を指す。規模 の経済と類似の概念にも見えるが,規模の経済が一定期間内の生産の絶対量で あったのに対し,経験効果のほうは生産開始から現在までの累積生産量である 点が異なっている。そして,一般に,古くから活動している企業のほうが累積 生産量は大きいと仮定できるので,本研究では経験効果の代理変数としてを設 定している。

25)

Regan(1999)は,このような外部からの規律づけ要因として,会社形態の

相違を検証している。つまり,株式会社形態の場合は1,相互会社の場合は0と いうダミー変数を用いている。これは,株式会社形態のほうが,株主のいない 相互会社形態よりも外部からの規律づけが有効に機能し,その結果,費用効率 的になるという仮説に基づいている。したがって,予想される符号条件はマイ ナスである。しかしながら,わが国損保産業の場合,ほぼすべての会社が株式 会社形態を採用しているため,このような会社形態の相違をもって,外部から の規律づけの影響をコントロールすることは困難である。そこで,本研究では,

株主の上位集中度合いをもって,外部からの規律づけ要因のコントロールを 行っている。

26) なお,Regan(1999)では,損保会社の品質(健全性)を示す指標として,

(17)

において,保険商品そのものの品質よりもむしろ会社自体の品質,すなわち 損保会社の健全性が高ければ高いほど契約の解約率は小さくなり,会社の品 質(健全性)が低ければ低いほど解約率は大きくなるという仮説に基づいて いる。つまり,保険契約を更新するための費用は,一般に,新契約獲得のた めの費用に比べて割安だと考えられる。そうであるならば,損保会社の品質

(健全性)が高い場合は,低い場合よりも解約率が小さくなるので,その結 果,費用効率的になると考えられる 。したがってこの変数の符号条件はマ イナスとなる。

SPEAUTO,SPEFIRE,SPECA

は,わが国損保産業における主要な保 険種目である自動車,火災,傷害に関して,それぞれの保険種目が全体に占 める割合を元受正味保険料ベースで測定している。これは,保険種目が異な れば事業費も異なると想定する場合,それぞれの損保会社の商品構成(ポー トフォリオ)の相違が

ERATIO

に影響を与える可能性があるので,損保会 社の商品構成の相違をコントロールしなければならないからである。

最後に,KEIRETSUは,企業集団(系列)に属する場合は1,そうでな い場合は0のダミー変数である 。これは,企業集団(系列)損保であれば,

その取引ネットワークを利用することで,そうでない場合よりも費用効率的

A.M.Best

社の保険会社格付けを採用している。つまり,最高格付けの場合は

1,そうでない場合は0というダミー変数を用いているのである。わが国の場 合も格付けを指標として採用することも考えられるが,すべての損保会社(少 なくとも本研究の分析対象企業)に対して,一貫した格付けを提示している格 付機関は存在しなかった。そこで,ソルベンシーマージン比率を採用すること にした。

27) なお,前年度の数値を用いた理由は,ソルベンシーマージン比率が年度末の 財務数値に基づいて算定され,公表されるので,保険契約者の行動になんらか の影響を与えるとすれば,前年度の数値が基準となると考えたからである。

28) 企業集団(系列)の分類は,福田・張(1993)が用いた区分にしたがった。

すなわち, 社長会 に属している損保会社かどうか,あるいは,統合した損 保会社の場合は,サンプル期間当初にいずれかの損保会社が 社長会 に属し ていたかどうか,という基準で行った。

(18)

な保険引受活動が可能になるという仮説に基づいている。したがって,この 変数の係数の符号条件はマイナスであると予想される 。表1は,推計モデ ルの説明変数に関する仮説と符号条件を示している。

4.2 データと分析方法

データはすべて インシュアランス 損害保険統計号 (保険研究所)の各 年度版から入手した。対象期間は,実質的な料率規制の自由化が実施された 1998年7月を含む1998年3月期決算から2005年3月期決算までの8年間であ

29) これに関しては,福田・張(1993)が1970年代から1980年代にかけての日本 の保険産業に関する実証研究を行っている。福田・張(1993)によれば,日本 の生保産業では6大企業集団に属する系列の生保会社は有意に規模の経済が働 いているが,損保産業の場合はそのような結果が得られていない。また,柳 瀬・尹(2006)においても,同様の問題意識から,1999年度から2004年度まで の韓国の損保産業に関する分析を行っている。柳瀬・尹(2006)は,韓国の財 閥系損保が,そうでない損保と比較して,規模の経済を強く働かしているかど うかを検証したが,有意な結果は得られていない。これは,福田・張(1993)

の結果と整合的である。なお,日本の企業集団(系列)が損保会社の費用や収 益性,損害率に与える影響を分析した最近の研究として,Lai and Limpa-

phayom

(2003)がある。

表1 仮説と符号条件

変 数 仮 説 符号条件

LNPW

規模の経済 −

AGE

初期参入のコスト,経験効果

OWNERSHIP

所有構造と規律づけ −

SOLVEN

会社の品質(健全性) −

SPEAUTO  SPEFIRE  SPECA

商品ポートフォリオ

KEIRETSU

系列ネットワーク −

(出典)筆者作成。

(19)

り,分析対象の保険種目としては,自動車,火災,傷害の3種目とした 。 また,対象企業は,再保険を専業とするトーア再保険と日本地震再保険,な らびに金融保証業務を専業とする損保ジャパン・フィナンシャルギャランテ ィー(旧 安田フィナンシャルギャランティー)の3社を除いた国内で活動 する損保会社である。

ただし,エース損保については,他と比べて再保険取引が全体に占めるボ リュームがかなり大きいので,サンプルから除外した。また,保険種目別の 分析上,当該保険種目の営業を行っていない場合には,当該データはサンプ ルから除外することにした 。その他,営業初年度の損保会社は,前年度の ソルベンシーマージン比率が入手できないため,サンプルから除外した。こ うした手続きの結果,サンプル数は,全種目で187,自動車保険で179,火災 保険で165,傷害保険で172となった。

分析方法としては,サンプル数確保の観点からパネルデータによる分析を 採用した 。なお,パネルデータによる分析では,合併時の会社番号をどの ように設定するかという問題が生じる。たとえば,ニッセイ損保と同和火災 が合併したニッセイ同和はパネルデータ構築上,どちらの会社とみなして処 理を進めればよいのかという問題である。これに関して,本研究では,法律

30) ファクトブック2006 日本の損害保険 (日本損害保険協会)によれば,元 受正味保険料の保険種目別構成比(2005年度)は,自動車保険が3兆5

,

018億 円(40

.

8%),火災保険が1兆4

,

863億円(17

.

3%),傷害保険が1兆3

,

775億円

(16

.

0%),自賠責が1兆1

,

445億円(13

.

3%),新種保険が7

,

966億円(9

.

3%),

海上・運送保険が2

,

848億円(3

.

3%)であり,自動車,火災,傷害の上位3種 目で全体の約75%のシェアを占めている。したがって,これらの種目でわが国 損保産業の保険料収入の大半が説明されるので,本研究では分析対象の保険種 目を上位3種目に絞ることにした。

31) たとえば,自動車保険種目の場合,日立キャピタル損保(旧 ユナム),2003 年3月期以降のジェイアイがそれに該当した。また,火災保険種目の場合は,

日立キャピタル損保(旧 ユナム),アクサ,ソニー損保,三井ダイレクト,安 田ライフダイレクトなどが該当した。

32) パネルデータ分析におけるモデルの特定化に関して,F検定ならびに

Haus-

man

検定の有意水準は5%に設定している。

(20)

上の存続会社の会社を引き継ぐという処理を一貫して行うことにした。

4.3 実証結果

⑴ 規模の経済

はじめに,本研究の目的に関わる

LNPW

の係数について,その実証結果 を見ていく。表2は,総事業費に関するパネルデータ分析の結果を示してい る。これによれば,LNPWの係数は全種目でも,保険種目別でも一貫して 1%有意でマイナスの符号が見られ,総事業に関しては,規模の経済が観察 されている。ただし,保険種目別に係数の絶対値をみると,火災保険が最も 大きく,自動車保険や傷害保険よりも規模の経済が強く働いているようにみ える。また,保険引受に係る事業費に関するパネルデータ分析結果を示して いる表3においても,LNPWの係数は,全種目,保険種目別のすべてにお いて,一貫してマイナスの符号が観察されている(1%有意水準)。ここで も,火災保険が最も大きな係数の絶対値を示しており,総事業費の場合と整 合的である。

さらに,損害調査費に関しても,LNPWの係数は全種目,保険種目別で,

一貫して1%有意でマイナスの符号が見られる(表4を参照)。ところが,

総事業費と保険引受に係る事業費の場合と比べてその係数の絶対値は,自動 車保険を除いて,一桁小さい値を示している。つまり,損害調査活動におい ても規模の経済は働いているが,それは相対的にみてかなり小さいものだと いえる。なお,自動車保険に関してのみ,保険引受に係る事業活動よりも,

むしろ損害調査活動のほうが

LNPW

の係数の絶対値は大きいということが わかる。このことから,全般的にみれば,損害調査活動は規模の経済の便益 を享受しにくい業務だといえるが,自動車保険に限っては,むしろその便益 を享受しやすい業務だと言えよう。

最後に,事業費の内訳に関する実証結果を見ておく(表5を参照)。まず,

人件費と物件費に関しては,一貫して

LNPW

の係数がマイナスで有意な結 果を示している(1%有意水準)。また,その係数の絶対値も0.2程度の大き

(21)

さを示している。さらに,代理店手数料に関しても,2002年3月期以降のサ ンプルでも,2004年3月期以降のサンプルでも,LNPWの係数がマイナス で有意な結果を示している(1%有意水準)。ところが,その係数の絶対値 をみると,人件費と物件費の場合と比べて一桁小さい。つまり,代理店手数 料においても規模の経済は働いているが,それは相当小さいものだといえる。

⑵ その他コントロール変数

次に,その他コントロール変数についても,注目すべき点をいくつか確認 しておく。まず,AGEについてだが,表2からは,全種目,保険種目別で 一貫してマイナスの係数となっていることがわかる(1%有意水準)。これ は,単位あたりの総事業費に関しては,設立が古い損保会社のほうが小さい ということを意味しており,経験効果仮説が支持される結果である。ほぼ同 じ結果が,保険引受に係る事業費と損害調査費に関しても見受けられる。表 3からは,保険引受に係る事業費に関して,自動車保険種目を除くすべてに おける

AGE

の係数が1%有意でマイナスの符号となっていることが観察さ れるし,表4からは,損害調査費に関して,すべての保険種目別における

AGE

の係数が1%有意でマイナスの符号となっていることが読み取れる。

また,SOLVEN については,総事業費と保険引受に係る事業費に関して,

概して,プラスで有意な係数が観察された(1%有意水準)。この結果は,

仮説の符号条件に反しているが,その解釈としては,ソルベンシーマージン 比率が損保会社の品質(健全性)を表す指標として契約者に認識されていな いか,あるいは,契約者の行動がそもそも経済合理的でないか,いずれかの 可能性が考えられる。しかしながら,この点を明らかにすることは本研究の 目的ではないし,追加検証も必要なため,ここで結論付けることはしない。

(22)

表2総事業費に関するパネルデータ分析結果(全種目・種目別)

a ( ) 内 は t 値 1 % 水 準 で 有 意 5 % 水 準 で 有 意 10 % 水 準 で 有 意 b 各 種 目 の ⑴ は O W N E R S H IP に , 最 大 株 主 が 発 行 済 み 株 式 総 数 に 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル , ⑵ は 上 位 10 位 ま で の 株 主 が 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル の 場 合 の 実 証 結 果 を 示 し て い る 。 c N は パ ネ ル デ ー タ 分 析 に お い て 採 用 さ れ た モ デ ル ( P la in   O L S , 固 定 効 果 モ デ ル , ラ ン ダ ム 効 果 モ デ ル の い ず れ か ) を 示 し て い る 。 ま た , P se u d o   R は 修 正 済 み 決 定 係 数 を 示 し て い る 。

傷害⑵ ‑0.206 (‑8.423) ‑0.243 (‑5.997) ‑0.255 (‑1.999) 0.014 (0.633) ‑0.049 (‑1.051) ‑0.140 (‑0.815) 0.351 (3.670) 0.086 (0.958) 172 固定効果 0.742

保険種目 傷害⑴火災⑵火災⑴自動車⑵自動車⑴全種目⑵全種目⑴ ‑0.199 (‑8.112) ‑0.243 (‑5.905) ‑0.043 (‑0.359) 0.015 (0.680) ‑0.051 (‑1.091) ‑0.124 (‑0.710) 0.346 (3.548) 0.086 (0.946) 172 固定効果 0.735

‑0.231 (‑6.523) ‑0.238 (‑4.329) ‑0.242 (‑1.454) ‑0.011 (‑0.356) ‑0.063 (‑1.005) 0.291 (1.250) ‑0.077 (‑0.438) 0.076 (0.641) 165 固定効果 0.615

‑0.229 (‑6.475) ‑0.235 (‑4.267) ‑0.241 (‑1.347) ‑0.008 (‑0.260) ‑0.069 (‑1.101) 0.308 (1.318) ‑0.069 (‑0.391) 0.076 (0.649) 165 固定効果 0.614

‑0.191 (‑7.752) ‑0.143 (‑2.269) ‑0.422 (‑2.170) 0.139 (4.604) 0.005 (0.105) 0.379 (1.727) ‑0.489 (‑2.837) 0.061 (0.442) 179 固定効果 0.752

‑0.193 (‑7.654) ‑0.139 (‑2.167) ‑0.165 (‑0.958) 0.137 (4.407) 0.005 (0.090) 0.392 (1.763) ‑0.497 (‑2.841) 0.061 (0.436) 179 固定効果 0.745

‑0.332 (‑9.952) ‑0.139 (‑2.856) ‑0.259 (‑1.708) 0.096 (4.180) ‑0.070 (‑1.691) 0.274 (1.689) ‑0.183 (‑0.172) 0.068 (0.634) 187 固定効果 0.824

‑0.326 (‑9.736) ‑0.142 (‑2.876) ‑0.095 (‑0.799) 0.097 (4.161) ‑0.069 (‑1.661) 0.263 (1.603) ‑0.993 (‑0.092) 0.068 (0.063) 187 固定効果 0.821

LNPW   AGE   OWNER1 OWNER2 SOLVEN   SPE AUTO   SPE FIRE   SPE PA   KEIRETSU  

N   M od el  

Pseudo 

R

(23)

表3保険引受事業費に関するパネルデータ分析結果(全種目・種目別) LNPW   AGE   OWNER1 OWNER2 SOLVEN   SPE AUTO   SPE FIRE   SPE PA   KEIRETSU  

N   M od el  

Pseudo 

R

‑0.270 (‑8.273) ‑0.132 (‑2.748) ‑0.114 (‑0.984) 0.109 (4.822) ‑0.054 (‑1.334) 0.180 (1.128) 0.010 (0.100) 0.074 (0.701) 187 固定効果 0.812

‑0.275 (‑8.443) ‑0.128 (‑2.698) ‑0.223 (‑1.508) 0.109 (4.864) 0.194 (1.228) 0.001 (0.008) 0.074 (0.706) 187 固定効果 0.814

‑0.121 (‑2.550) ‑0.123 (‑0.843) ‑0.437 (‑1.440) ‑0.168 (‑1.479) ‑0.133 (‑0.698) ‑0.560 (‑0.878) 1.137 (2.935) 0.130 (0.729) 179 Plain OLS 0.153

‑0.141 (‑2.983) ‑0.059 (‑0.476) ‑0.494 (‑2.983) ‑0.188 (‑1.559) ‑0.050 (‑0.280) ‑0.897 (‑1.541) 1.168 (2.997) 0.078 (0.420) 179 Plain OLS 0.150

‑0.212 (‑6.205) ‑0.216 (‑4.056) ‑0.238 (‑1.378) ‑0.009 (‑0.288) ‑0.061 (‑1.003) 0.286 (1.271) ‑0.081 (‑0.476) 0.073 (0.639) 165 固定効果 0.577

‑0.214 (‑6.248) ‑0.219 (‑4.117) ‑0.233 (‑1.447) ‑0.012 (‑0.385) ‑0.055 (‑0.905) 0.269 (1.200) ‑0.088 (‑0.521) 0.072 (0.631) 165 固定効果 0.578

‑0.174 (‑7.503) ‑0.203 (‑5.212) ‑0.025 (‑0.219) 0.021 (0.952) ‑0.054 (‑1.212) ‑0.105 (‑0.635) 0.336 (3.647) 0.084 (0.972) 172 固定効果 0.743

全種目⑴全種目⑵自動車⑴自動車⑵火災⑴火災⑵傷害⑴保険種目 ‑0.181 (‑7.810) ‑0.203 (‑5.297) ‑0.236 (‑1.953) 0.019 (0.921) ‑0.051 (‑1.168) ‑0.122 (‑0.754) 0.343 (3.782) 0.084 (0.985) 172 固定効果 0.750

傷害⑵

a ( ) 内 は t 値 1 % 水 準 で 有 意 5 % 水 準 で 有 意 10 % 水 準 で 有 意 b 各 種 目 の ⑴ は O W N E R S H IP に , 最 大 株 主 が 発 行 済 み 株 式 総 数 に 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル , ⑵ は 上 位 10 位 ま で の 株 主 が 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル の 場 合 の 実 証 結 果 を 示 し て い る 。 C N は パ ネ ル デ ー タ 分 析 に お い て 採 用 さ れ た モ デ ル ( P la in   O L S , 固 定 効 果 モ デ ル , ラ ン ダ ム 効 果 モ デ ル の い ず れ か ) を 示 し て い る 。 ま た , P se u d o   R は 修 正 済 み 決 定 係 数 を 示 し て い る 。

(24)

傷害⑵ ‑0.206 (‑8.423) ‑0.243 (‑5.997) ‑0.255 (‑1.999) 0.014 (0.633) ‑0.049 (‑1.051) ‑0.140 (‑0.815) 0.351 (3.670) 0.086 (0.958) 172 固定効果 0.742

保険種目 傷害⑴火災⑵火災⑴自動車⑵自動車⑴全種目⑵全種目⑴ ‑0.199 (‑8.112) ‑0.243 (‑5.905) ‑0.043 (‑0.359) 0.015 (0.680) ‑0.051 (‑1.091) ‑0.124 (‑0.714) 0.346 (3.548) 0.086 (0.946) 172 固定効果 0.735

‑0.017 (‑5.316) ‑0.019 (‑3.806) ‑0.009 (‑0.573) 0.0007 (0.231) ‑0.008 (‑1.435) 0.021 (1.009) 0.011 (0.700) 0.004 (0.351) 165 固定効果 0.906

‑0.017 (‑5.277) ‑0.019 (‑3.787) ‑0.003 (‑0.172) 0.001 (0.249) ‑0.008 (‑1.455) 0.021 (1.011) 0.011 (0.729) 0.004 (0.351) 165 固定効果 0.906

‑0.191 (‑7.752) ‑0.143 (‑2.269) ‑0.422 (‑2.127) 0.139 (4.604) 0.005 (0.105) 0.379 (1.727) ‑0.489 (‑2.837) 0.061 (0.442) 179 固定効果 0.752

‑0.193 (‑7.654) ‑0.139 (‑2.167) ‑0.165 (‑0.958) 0.137 (4.440) 0.005 (0.090) 0.392 (1.763) ‑0.497 (‑2.814) 0.061 (0.436) 179 固定効果 0.745

‑0.052 (‑9.444) 0.001 (0.233) ‑0.022 (‑0.887) ‑0.005 (‑1.223) ‑0.013 (‑1.906) 0.820 (3.013) ‑0.028 (‑1.570) ‑0.004 (‑0.198) 187 固定効果 0.811

‑0.052 (‑9.453) 0.003 (0.354) 0.024 (1.221) 0.004 (‑1.040) ‑0.013 (‑1.983) 0.086 (3.155) ‑0.029 (‑1.666) ‑0.003 (‑0.185) 187 固定効果 0.812

LNPW   AGE   OWNER1 OWNER2 SOLVEN   SPE AUTO   SPE FIRE   SPE PA   KEIRETSU  

N   M od el  

Pseudo 

R

表4損害調査費に関するパネルデータ分析結果(全種目・種目別)

a ( ) 内 は t 値 1 % 水 準 で 有 意 5 % 水 準 で 有 意 10 % 水 準 で 有 意 b 各 種 目 の ⑴ は O W N E R S H IP に , 最 大 株 主 が 発 行 済 み 株 式 総 数 に 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル , ⑵ は 上 位 10 位 ま で の 株 主 が 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル の 場 合 の 実 証 結 果 を 示 し て い る 。 c N は パ ネ ル デ ー タ 分 析 に お い て 採 用 さ れ た モ デ ル ( P la in   O L S , 固 定 効 果 モ デ ル , ラ ン ダ ム 効 果 モ デ ル の い ず れ か ) を 示 し て い る 。 ま た , P se u d o   R は 修 正 済 み 決 定 係 数 を 示 し て い る 。

(25)

代理店手数料b⑵ ‑0.042 (‑2.980) 0.060 (1.674) 0.045 (0.871) 0.010 (2.246) 0.215 (2.791) ‑0.041 (‑1.005) 0.056 (1.328) 46 固定効果 0.993

内訳 代理店手数料b⑴代理店手数料a⑵代理店手数料a⑴物件費⑵物件費⑴人件費⑵人件費⑴ ‑0.047 (‑2.664) 0.082 (1.665) ‑0.011 (‑0.542) 0.931 (1.879) 0.251 (2.485) ‑0.051 (‑1.176) 0.069 (1.378) 46 固定効果 0.993

‑0.065 (‑5.986) 0.080 (3.586) 0.015 (0.237) 0.222 (0.295) 0.320 (3.747) 0.913 (1.030) 0.125 (1.606) 96 固定効果 0.943

‑0.063 (‑5.931) 0.077 (3.515) ‑0.521 (‑1.834) ‑0.316 (‑0.405) 0.308 (3.720) 0.051 (0.582) 0.124 (1.642) 96 固定効果 0.946

‑0.239 (‑8.200) ‑0.025 (‑0.586) ‑0.129 (‑0.978) 0.095 (4.716) ‑0.024 (‑0.677) 0.202 (1.426) ‑0.143 (‑1.542) 0.043 (0.454) 187 固定効果 0.825

‑0.237 (‑8.114) ‑0.024 (‑0.577) ‑0.468 (‑0.044) 0.096 (4.740) ‑0.025 (‑0.686) 0.203 (1.423) ‑0.142 (‑1.522) 0.043 (0.456) 187 固定効果 0.824

‑0.226 (‑3.363) ‑0.022 (‑0.296) ‑0.144 (‑1.882) ‑0.256 (‑3.763) 0.437 (6.285) ‑0.236 (‑3.231) ‑0.229 (‑3.338) ‑0.136 (‑1.795) 187 Plain OLS 0.443

‑0.297 (‑4.391) 0.826 (0.114) ‑0.309 (‑4.175) ‑0.281 (‑4.398) 0.387 (5.683) ‑0.300 (‑4.145) ‑0.052 (0.727) ‑0.285 (4.202) 187 Plain OLS 0.482

LNPW   AGE   OWNER1 OWNER2 SOLVEN   SPE AUTO   SPE FIRE   SPE PA   KEIRETSU  

N   M od el  

Pseudo 

R

表5事業費内訳に関するパネルデータ分析結果(全種目のみ)

a ( ) 内 は t 値 1 % 水 準 で 有 意 5 % 水 準 で 有 意 10 % 水 準 で 有 意 b 各 種 目 の ⑴ は O W N E R S H IP に , 最 大 株 主 が 発 行 済 み 株 式 総 数 に 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル , ⑵ は 上 位 10 位 ま で の 株 主 が 占 め る 比 率 を 採 用 し た モ デ ル の 場 合 の 実 証 結 果 を 示 し て い る 。 c N は パ ネ ル デ ー タ 分 析 に お い て 採 用 さ れ た モ デ ル ( P la in   O L S , 固 定 効 果 モ デ ル , ラ ン ダ ム 効 果 モ デ ル の い ず れ か ) を 示 し て い る 。 ま た , P se u d o   R は 修 正 済 み 決 定 係 数 を 示 し て い る 。 d 代 理 店 手 数 料 a は 対 象 期 間 が 20 02 年 3 月 期 以 降 の 4 期 分 , 代 理 店 手 数 料 b は 対 象 期 間 が 20 04 年 3 月 期 以 降 の 2 期 分 で あ る 。

(26)

5 結論と今後の課題

本研究では,わが国損保産業において,料率規制緩和直後に産業の集中度 が急上昇している事実を確認した上で,その原因として規模の経済の存在を 仮定し,実証的にその存在を確認してきた。その結果,全種目合計ならびに 主要種目別のいずれにおいても,一貫して,規模の経済の存在が確認された。

さらに,事業費の範囲として,総事業費,保険引受に係る事業費,損害調査 費,人件費,物件費,代理店手数料といった複数のパターンで定義したうえ で検証したが,いずれの定義においても,一貫して,規模の経済の存在が確 認された。

ただし,それが働く程度に関しては,保険種目,あるいは事業費の範囲に よって,異なった結果が得られた。簡単に整理すると,保険種目別で見た場 合には,火災保険が最も規模の経済を享受している種目であることが分かっ た。また,事業費の範囲別で見た場合には,損害調査費や代理店手数料に関 しては,保険引受に係る事業費に比べて,規模の経済が働く程度がかなり小 さいことが分かった。このことは,今後の業態内統合のあり方として,合併 をはじめとする企業全体での統合ではなく,保険種目や業務別の統合のほう が,全体の費用の節約という意味で期待できるのではないかということを示 唆している。

最後に,本研究において残されたいくつかの課題について触れる。第1に,

本研究では,事業費に関する効率性の指標として,正味収入保険料1単位あ たりの事業費の大きさを採用したが,今後はこの点を再考する必要がある。

最近では,費用効率性の指標として,DEA(Data Envelopment Analysis, 包絡線分析法)という経営工学分野で発達してきた手法を用いた研究が見受 けられる。このような手法面での改善を通じて,より厳密な検証を行うこと が必要であろう。

第2に,わが国損保産業における規模の経済の源泉は何かという問題につ いて,理論的な仮説を設定した上で,実証的検討を行う余地がある。本研究

(27)

では,その手がかりを探りという意味では一定の貢献をしているが,この問 題に対する本質的な答えを提示しているわけではない。この点をさらに掘り 下げて研究することで,わが国損保産業における集中化現象がいったいいつ まで続くのか,という問題に対して一定の答えが導かれるだろう 。

第3に,本研究では,規制緩和後のデータによって規模の経済に関する検 証を行ったが,規制緩和という制度的条件の変更が規模の経済にどのような 影響を与えうるのか,という点については十分な議論ができていない。この 点を明確にしない限り,なぜ,規制緩和後のデータでなければならないのか という問題に対する解答は与えられない。

このような問題点はあるものの,料率規制緩和後のわが国損保産業におけ る集中度を測定したうえで,入手可能な最大限のデータを用いて,保険種目 ならびに事業費の範囲別に規模の経済の有無とその大きさを検証したという 意味では,本研究には一定の貢献があるのではないだろうか。さらに,この ような議論は,今後ますます進展することが予想される業態を超えた銀行や 証券会社などとの収斂の問題(業態間収斂)に対しても,一定の示唆を与え るだろう。昨今のわが国の業界再編成に関する様々な議論を,費用効率性と いう視点から再整理することは新しいテーマであり,その意味では,産業の 集中度と規模の経済に関する問題は,まさに 古くて新しい 研究テーマだ といえよう。

(東京経済大学経営学部准教授)

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参照

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