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(1)

監護権の基本的諸問題

‑ ラ イ ナ ー ・フ ラ ン ク *‑

翻訳〕藤 原 正 則

Ⅰ)序

他 の ヨー ロ ッパ 諸 国 と比 べ て も, ドイ ツの監 護

〔 e l t e r l i c heSo r ge

〕 に関す る法 は改 正 が 必 要 な もの です

。1 9 9 3

3

2 3

日の連 邦 政府 の法案 1)はそ の根

*

フライブルグ大学,外国私法 ・国際私法研究所長

訳者はしが き〕本翻訳は

1 9 9 6

1 0

月11日小樽商科大学の国際交流セ ミナーの一環 と して行われたライナー ・フランク教授の講演である。同教授は同月韓国で開催 された国 際家族法学会の後わが国にも滞在 され

,1 0

1 0

,

11日札幌,小樽 を訪問された。教授 はフライプルグ大学の ミュラー ・フライエ ンフェルス教授

( Pr o f . Dr . Wo l f r a mMt i l l e r ‑ Fr e i e n f e l s )

の助手 としてそのキャリアをスター トさせ

,1 9 7 6

年教授資格 を得た後 ,ミュ

ンスター大学 ,アウグスブルグ大学 を経て,現職 (フライプルグ大学教授)にある。フ ランク教授が家族法の分野の有数の研究者であることはわが国でも周知であろう。

なお,本講演のテーマ もその一環を成す ドイツの親子法

( Ki nd s c h a f t s r e c h t )

の改正 が議論 されるに至った契機 として,親子法の改正をその課題 としてとりあげた第

5 9

回 ド イツ法曹大会

( De r5 9 . De u t s c he nJ u r i s t e n t a gi nHa n o ve r , 1 9 9 2 )

の家族法部会で鑑定 意見を書いたシュヴェンツアー

( Pr o f . Dr . I nge bo r gSc hwe nz e r )

は,子の出自,家庭 の状況にかかわらず子 に共通の福利を与えようという全 ヨーロッパの動 き,両独の統一 と法分裂の回避,及び非婚姻的共同体の増加に伴 う非嫡出子の増加等の社会的事情の変 化 とい う三点 を挙 げていることを付記 してお く (拙稿 「ドイツ法 における親族扶養

( Ve r wa nd t e nu n t e r h a l t )

と社会保障の協働 一第

5 9

回 ドイツ法曹大会を中心 として‑ 商学討究

4 6

1

( 1 9 9 5 )2 0 7

頁以下,特に

2

11頁注

1 0 )

参照)。 さらに本講演のテーマ である ドイツの親の監護権

( e l t e r l i c hsS o r g e r e c h t )

につ きわが国の文献 として,岩志 和一郎 「親子関係 と婚姻‑

5 9

回 ドイツ法曹大会の議論か ら‑ 」早稲田法学

6 9

4 早 ( 1 9 9 4 )4 1

頁以下が法曹大会での議論の紹介,検討を通 じて詳細である。又

,W.

ミュ

ラー ・フライエ ンフェルス他,田村五郎編訳 『ドイツ現代家族法』‑ (中大出版

・1 9 3 3 )

, 特にその第三章 「新 しい」家族法は,本講演の ドイツ家族法全体の文脈中の位置づけを 知る為にも重要である。

〔 2 3 1 〕

(2)

23 2

第47

2・3 号

本的改正を企図してお り,現下の議論の状況か ら推す と同草案は近々に立法化 され即 日施行 されると期待 されています。

現行の〕 ドイツ法は,嫡出子 と非嫡出子を区別 しています。 しかし,子は 稔て平等に扱おうというなら,子が婚梱関係か ら出生 しようと婚姻外か らであ ろうと,その区別は意味を持ちません。先の1

9 9 6

年の ドイツの法改正案 も, ち はや婦出子,非嫡出子の区別をしてお りません。 しか し,そうは言っても,立 法者は生活関係を類型的に分類 し 〔かつそれに応 じて〕ルールを作る必要があ り,〔それ故〕処々で子の両親が婚姻関係にあるか否かで違いを設けている, という点 も見落 とされてはな りません。具体的には,婚姻関係にある両親が法 律上子の監護権者 となることは,今 日世界中でほとんど自明とされています。

しかし,反対に両親が婚姻関係にない場合は,両親は同居 しているのか,大体 そもそも共同の育児を望んでいるのか,それとも婚姫類似の安定 した生活共同 体か ら生まれたのか,といった事情を顧慮せず,経てのケースで父母に共同の 監護権が帰属すると規定する訳にはいきません。婚姻関係にある場合 とは異な りそうでない両親の共同監護権を認めるには,少な くともこれを希望するとい う両親の意思表示が必要 とされます。これによって,誰が法取引で非嫡出子の 代理を有効に行なえるのかが明確にな ります。さらに以上の両親の意思表示は 一定の方式を踏んで裁判所乃至官庁に捷出さるべ きである,とされています。

だか らドイツの改正案は実質的には従前 と同じで,嫡出子 と非嫡出子を区別 し ていることになります。但 し,「嫡出」「非嫡出」 という付加語は避け,その代 りに子の両親が婚姻関係にあるか否かという言い方をしてお ります。まあ結局 のところ,御時勢にあわせて言葉を変えたにす ぎないというのが本当のところ なのです。そこで,改正案は嫡出 ・非嫡出という概念を使ってはいませんが, 以下では言葉の節約の為引 き続 きこの名称を使用することといた します。

1)Ent wur fe i ne sGe s e t z e sz urRe f o r mde sKi nds c ha f t s r e c ht svo m 22 . 3 . 1 9 9 6 ,

Bu nd e s r a t s ‑ Dr u c k s a c h e1 8 0 / 9 6 .

(3)

監護権の基本的諸問題 233

Ⅰ) 離婚後 の共同監護権

両親は離婚後 も婚婦中と同様に共同監護権者た り得 るのか,又そうだとして その際の要件は,というのが ,アメリカ合衆国及びヨーロッパで家族法上最 も 議論 された問題の一つなのです。

1

) ドイツの法状況

ドイツ法では民法 1 6 71 粂 4 項 2 文が,例外的場合 には離婚に際 し両親の一方 に身上監護 を他方に財産管理を謝 りあてて監護権の中味を分割で きる旨を定め ています。同条で立法者が想定 していたのは,財産に恵まれた子が離頼後母親 の下にとどまり,その財産的利益は取引に通 じた父親が面倒 を見るという,む しろ例外的なケースで した。 〔 従って〕実務上監護権が身上監護 と財産管理 に その内容が分たれることは全 く稀なのです。ですか ら本 日はこの間題に詳 しく 立ち入ることはいた しません。

実務上の意味がずっと大 きいのは,離婚に際 し,監護権特 に身上監護権 を両 親の一方にだけ委ねるべ きか,それ とも離婚中と同様そのまま双方の共同監護 としてお くのか, という問題なのです。 ドイツでは長 きにわた り子は両親の一 方に任せるのが より良い解決であるという考え方が支配的で した。民法 1 6 71 粂 4 項 1 文はさらにこの立場 を徹底 させて,離婚後の両親の共同監護 を明文で禁 じていました。即ち,同条は 「 監護は ( 離婚後)両親の一方に委ねるべ きである」

と規定 していました。 ところが,1 9 8 2

1 1月に連邦通常裁判所 は 2) ,同条は 憲法上保障された両親の権利 ( 基本法 6粂 2 項 1 文) を侵害 してお り無効であ る, と判示 しました。判決によると,最低例外的ケースでは離婚時にも監護権 が両親に与えられるべ きだ, というのです。 この判決後 しばらくは実務は離婚 後の共同監護権 に非常に慎重で した。 とは言っても地域差が大で,原則 として 共同監護権は子の利益 に適 うという家裁があるが,他方で明確 に両親の一方に 監護権 を割 りあてた方が子 にとってベ ターだ と考 える家裁 もあるとい う状況 2)BVer fGE61 , 35 8‑Nュ w 1 983, 1 01‑JZ1 9 83, 29 8ni tAnmer kungGi e s en ‑

Fa mRZ1 9 8 2 , 1 1 7 9 .

(4)

234

商 学 討

4 7

2・3

だったのです。 ところが1 9 9 4/95 年の全国調査か らは,全離婚判決中1 7. 0 7 % で両親の共同監護権が認め られるという驚 くべ き結果が出て きたのです。 〔 な お〕それ以外のケースでは,監護権の7 4. 6 4%が母親に8. 2 9 %が父親に委ね ら れています 3) 0

2)他のヨー̀ E 3ツパ諸国とアメリカ合衆国の法状況

その具体的な利用状況 は一様ではあ りませんが,アメ リカ合衆国及び ヨー ロッパの大半の国々では離婚後の共同監護権が可能 とされています 4) 0 〔 こう いった〕国際的発展が示 しているのは,共同監護権がます ます望 ましいと考え られているということです。但 し,共同監護権は特に両親の行動様式に積極的 な影響 を与えその結果子の状況 も良 くなる, という昔か らの幻想はこの間で消 え去って しまいました。最近のアメリカの調査では,かつて期待 されたように 共同監護権 を認めて も,必ず しも父親が頻繁に子 を訪問 し,より高額の扶養料 を支払い,両親の紛争 を減ずることにはならない,という結果が出ています 5) 0 現在では共同監護権のメリッ トは,子は両親の一方を失なった という感情 を持 たず,又父親は子に対する責任か ら締め出されたとは感 じな くなるという,長 期的な意識の変化にあると考えられています。

今 日ヨーロッパ大陸で離婚後の共同監護権 を認めない国は,わずかに 2, 3 カ国にとどまります。私の知る限 りでは,スイス,オース いノア,ハ ンガリー にす ぎません 6) 。他の国々では,過去数十年間に共同監護権が徐 々に法律で規 定されてきました。ポーランドでは既に1 9 6 4 年に判例で共同監護権が認め られ

3)Bunde s r a t s ‑ Dr uc ks a c he1 8 0 / 9 6S. 4 6

所掲。

4)参照 ,Pe t e rDo pf f e l( He r a us ge be r ) , Ki nds c hf t s r e c hti m Wa nde 1 ‑ Zwa l fLa nd e r ‑ ber i cht eni tei nerver gl ei chendenSumme,1994;Schwab/Hei nr i ch ( He r a us ge be r ) , Ent wi c k l unge nde se ur o pa i s c he nKi nds c ha f t s r e c ht s , 1 9 9 4 ; Anna ‑ t i naWi r z , Ge me i ns a mee l t e r l i c heGe wa l tge s c hi e de ne rundni c ht ve r he i r a t e t e r El t e r n‑ unt e rBe r t i c ks i c ht i gungde sde ut s c he n, f r a nz a s i s c he n, e ng li s c he nund s c hwe i z e r i s c he nRe c ht s , 1 9 9 5 ; Ha mi l t o n/ St a nd l e y( He r a us ge be r ) , Fa mi l yLa w i nEur o pe ,1 9 9 5 .

5)Ma c c o by/ Mno o ki n , Di vi di ngt heChi l d‑ So c i a la ndLe ga lDi l e mma so fCus t o dy , 1 9 9 2 ; Che r l i n / Fur s t e nbe r g , Ge t e i l t eFa mi l i e n, 1 9 9 3 , S, 1 6 5 .

6)Do pf f e l( Fn. 4 )S. 5 91 の論述を参照.

(5)

監護権の基本的諸問題 235 ました し,イタリア1 975 年,スペイン 1 9 81 年,オランダ1 9 84 年,フランスは19 87 年 といった具合です 7) 0

ところで ヨーロッパでの共同監護権の先駆者は,何 と言って もノルウェー, スウェーデン,デ ンマークといった北欧諸国なのです 8) 。 これ等の国々はその リベラJ L , な気風や他のヨーロッパ諸国と此 して特別な地位 を占めてお ります。

そこでの離婚件数は驚 く程高い.子の半教以上は婚姻外の結合か ら出生するO 恐 らくそのことが,離婚が 「 正常なもの」 と捉 えられ,通常は離婚に伴 う夫婦 間の緊張関係が他の国々よりずっと少ない理由で もあ りましょう。いずれにせ よスカンジナビア諸国では,半数以上の離婚夫婦が婚姻中 と同様共同監護権者 であ り続けるのです。他方,他のヨーロッパ大陸の諸国では共同監護のパーセ

ンテージはずっと少ないのです。

アメリカ合衆国では 9) 遅 くとも 6 0 年代か らは時々,そ して現在では頃紫に, 離婚時の合意で原則 として子の共同監護が婚姻中 と同様存在す る Go i ntc u s‑

t ody) ,或いは離婚 した両親が交代で子の監護にあたる ( a lt e r na t ec us t ody) と決め られているのです。現在 このいずれの解決にもごく一般的な見解は原則 的に異議 を唱えてお りません。多 くの州では,法律が明文で離婚時の裁判官 も 共同監護を命 じ得 ると定めています。

イギ リスでは 10) 1 989 年以来監護 に関す る裁判所の実務 は,合衆国 と類似の 発展 をしてきました。離婚 した両親の一方の単独監護 ( s o l ec us t ody) に代 って, イギ リスで も次第に離婚 しても共同監護 Go i ntc us t ody) の継続が命 じられる ようになってきています。時 として両親が交替で子 をひきとる旨命 じられる場 合 もあ りますが,これは稀 な例にとどまります。1 9 89 年の児童法 ( Chi l dr e nAc t ) は,両親 は常 につ ま り離婚 して も 「 親の責任 ( pa r e nt a lr e s po s i bi l i t y) 」 を継 続 して負 うとしていますか ら,これは以上の立場 を一層お しすすめたものなの

7) Do p f f e l( Fn . 4 ) S. 5 9 0 の論述を参照。

8) Do pf f e l( Fn. 4 )S. 5 8 9 の論述を参照。

9) Do pf f e l( Fn. 4 )S. 5 8 8 の論述を参照。

1 0 ) Do p f f e l( Fn . 4 ) S. 5 9 0 の論述を参照。

(6)

236

商 学 討 究 第47 2・3

号 です。

3)離婚後の監護権は職権で決定 さるべきかそれとも私人間の合意に任 され るのか

ドイツ及びその他の離婚後の共同監護を認める国々では,この制度が将来 と も維持 さるべ ぎであるという点では認識が一致 しています。 ところが,離婚後 の共同監護権の継続につ き裁判所の決定が必要か否かに関 しては,意見が分か れているのです。 ヨーロッパのほとんどの国々とアメリカ合衆国では,離婚時 に裁判所が職権で将来の監護権者 を定めるのが原則だ とされてい ます ll) 。た とえ両親が共同監護を合意 していても,これを宣言する裁判所の決定が必要な のです。 こうすることで,裁判所の関与の下で子の将来が子の利益 において両 親により責任 を自覚 して具体化 されることが担保 されるようにな ります。 ドイ ツの1 9 7 6 年の離婚法改正時には,家庭裁判所は離婚のみならず離婚の効果 も原 則 として一回の手続 きで決定すべ きであるという思想がその中心に据 えられて お り,その結果監護権の決定 と併せてでなければ離婚判決が下 されてはならな い旨の法律上の根拠が与えられてたのです ( 民訴法6 2 3 条 1 項, 3 項) 。 ドイツ 法では,これを離婚 と監護権決定の 「 強制的結合」と言っています。〔ところが〕

このような考え方が どう変わって しまったのかを示 しているのが,1 9 9 6 年の連 邦政府の草案なのですO同草案によると,両親の一方がその旨申し立てた とき にだけ裁判所は監護権の決定をすれば足 るとされています。両親 とも申し立て なければ,婚姻中法律で認め られていた共同監護権が 自動的に継続することに な ります。法草案の理由書は,立法者は離婚後の共同監護権に対 して賛否を表 明す るものではな く,問題は未決定のままだ, と言っていますが 12) ,両親が 何 もしなければ将来は共同監護が原則 とな りましょうか ら,事実上は立法者は 共同監護 を支持 していることにな ります。 この法改正が可決 され,裁判所の関 与のない共同監護が原則だ ということになると, ドイツ法は国際的にはアウ ト サイダーの役割を演ずることにな りますが,私はこれを非常に問題が多いと考

ll)

Do p f fe l( Fn.4 )S.5 8 4 の論述を参照0

1 2 )Bunde s r a t s ‑ Dr uc ks a c he1 8 0 / 9 6S.7 3 .

(7)

監護権の基本的諸問題 237 えてお ります。何 となれば,離婚 というのはどんな場合でもそれに巻 き込まれ た子供にとっては,従来の生活状況を断絶 させる程の生活の変化をもたらす も のなのです。だか ら,か くも望ましからぬ不測の生活上の変化が生 じた際に, 両親が子の将来の生活設計に少なくとも思いをいたすようにキチ ンと措置 して お くのは,およそ国家たるものの責務なのです。誰が監護権者 となるのかとい う,そこでの中心的問題を放置するのは許 されるべ きではなく,出来る限 り経 験豊かな第三者 (裁判官,社会福祉事務所所員,カウンセラー等々)の関与の 下に議論されはっきりと決めてお く必要があるのです

1 3)

0

Ⅱ)

非嫡 出子の監護権

非締出子の監護権に関しては, ドイツでは二つの問題に議論が集中していま す。〔第‑は〕認知の訴及び子の扶養料 を請求するかどうかを,非姉出子の母 親だけが決定できるのか,又そうだす とればその要件如何。言い換えると,場 合によっては母親の意思に反 しても認知 と扶養料請求する方が子の利益に合致 しているのか,という問題。今一つは,監護権は原則 として母親にだけ帰属す るのか,特に両親が結婚 してお らずかつ結婚するつ もりもない場合でも場合に よっては父母が共同監護権者 となり得るのか,という問題です。

1

)母親の監護権

a)

ドイツの法状況

ドイツの非嫡出子法の歴史の特徴は,母親に対する相当の不信感なのです。

ですか ら,始め民法典は非嫡出子の母に子を代理する権限を与えてお りません でした。民法典の用語では,母親には事実上の身上監護のみが帰属するが代理 権は与えられない, ということにな ります。母親の代理権の代 りに,婚梱外で 出生 した子 には稔て出生 と同時に包括的代理権 を持つ後見人が付 されたので す。1

9 6 9

年の非楠出子法の改正によって,確かに非嫡出子の母親の監護権が原

1 3 )Sa l g oFa mRZ1 9 9 6 , 4 4 9 ; Ni e me ye r , Fa mi l i eu ndRe c ht( Fu R)1 9 9 5 , 2 21

も批判的.

(8)

238

47

2・3

別 として認め られはしました (民法

1 705

粂)。 しか し,嫡出子 とは異な り,今 日でもこの監護権は制限付なのです。母親は非嫡出子の利益を適切に守ること が出来ないのではないかという恐れか ら,民法

1 706

条は監護の少なからぬ部分 を母親自身ではなくいわゆる職権監護人たる児童福祉所が行なう,と定めてい るのです。つまり母親が監護権者た り得るのは,法律が別段の定めを置いてい ない場合に限られるのです。児童福祉所が母親に代って行なう最 も重要な監護 とは,認知請求 と扶養料請求です。〔その際〕児童福祉所は単にその権限があ るというだけでな く,父子関係が出来る限 り早期に確定され非嫡出子の父親に 対する扶養請求が行なわれる為に手を尽 くす職務上の義務があ ります。 もちろ んその際児童福祉所が頼 りにするのは母親が持っている情報です。但 し,第三 者からの情報を利用することも可能かつ必要 とされています。 ドイツ法では強 制的に血液検査及びDNA鑑定を行なうことも可能ですか ら,母親の意思に反 しても強制認知できる場合 も稀 とは言えないで しょう。こういったルールの背 後にあるのは,総ての子には父寮を知る権利があ り,母親には認知を妨害 した

り子の扶養請求権を放棄する権限はない,という考え方なのです。

〔ところで〕 ドイツの現行法のルールは,非楠出子の母親に対する不信感が その特徴であるということで,ずっと以前か ら批判され続けてきました。嫡出 チでは,現行法はどんなケースでも監護権を制限してお りません。嫡出子の監 護権は父母に共同帰属するのが原則であ り,離婚後は父親又は母親が単独で監 護権者 となることが しばしばですが,その際も児童福祉所 という国家機関が子 の利益を守る為に干渉 して くる余地はあ りません。現行法は特別に申し立てが あれば後見裁判所の決定によって (児童福祉所を排除 して)非嫡出子の母親に 包括的監護権 を委ねる可能性 を認めていますが (民法

1 707

条),こんな程度は おなぐきみというものです。母親が父親の名を明らかにしないときは、後見裁 判所は母親に包括的監護権を与えようとはいたしません

1 4)

。認知はなんといっ てもドイツ法では子の基本的かつ重要な利益なのです。母親の協力なしには認

1 4 )BGHZ8 2 ,1 7 3‑Nュ w 1 9 8 2 ,3 81‑Fa mRZ1 9 8 2 ,1 5 9

参照

(9)

監護権の基本的諸問題 23 9 知の望みがほとんどないという場合です ら,理論的なわずかな認知可能性 を考

えて後見裁判所は国家機関である児童福祉所の 〔 強制認知を求める〕義務 を免 ずることはないのです。

〔ところで〕 とりわけ 1 9 9 0 年の ドイツ再統一以後現行法に対する批判は一段 と激 しくなっています。西 ドイツとは異な り東独つ まりドイツ民主共和国 ( D D R) では,非嫡出子の母親の監護に制限は加えられてお りませんで した 。1 9 6 5 年 1 2

月20

日の DDR の家族法典 によると,母親の特別な申し立てによって,母 親を援助する為 にいわゆる補佐人が選任 され,補佐人は父親に対する子の扶養 料請求を行 なうに際 し母親 を助 けることとされていました。 〔 つ ま り 〕DDR の旧法の 「 補佐人制度」は ドイツ連邦共和国の 「 職権監護制度」 とは異な り, 国家の手助 けの申し出にす ぎず,強制は行なわれていなかったのです。

1 99 0 年の ドイツ再統一以来,原則と して ドイツ連邦共和国の法が DDR の地 域にも拡大 されるに至 りました。但 しこの原則 にも例外があ り,非購出子に対 す る職権監護 もその一つなのです。即 ち,統一条約 ( 民法施行法 2 3 0 節 1

項)

の規定により,西 ドイツで適用 される法定職権監護は旧 DDR の地域では施行 されません。その理由は,第一には技術的なもので,旧 DDR には他 日非嫡出 子 に対する職権監護 を引 き受 け得 る様 な国家機関たる児童福祉所 は存在 しな かったのです。今一つの理由は,非嫡出子の母親の制限のない監護権 を西のモ デルにあわせて旧 DDR で も制限を加えようとは誰 も考えなかったか らなので す。 旧DDR ではこのような 〔 西の〕ルールは母親の人格権の侵害 と受けとめ

られ,決 して理解 を得 られなかったで しょう。

その結果 1 9 9 0 年の再統一以来現在で もドイツ連邦共和国の法は分裂 した状態

にあるのです。即ち,東の旧 DDR の地域では非嫡出子の母親は制限のない監

護権者の地位にある一方で,西では母親の権限は国家の児童福祉所 によって制

限されているのです。 しか もこの分裂 した法が,再統一以後に出生 した子にも

適用 されるのです。 〔 その結果〕現在の法状況は多 くの問題 をひきおこしてお

ります。母親が非嫡出子 を連れて東か ら西へ移った場合,又その反対のケース

では,一体 どうなるので しょう。国家の児童福祉所の職権監護が新たに発生 し

(10)

240

商 学 討 第47巻 第 2・3号

た り,自動的に消滅すると解すべ きなので しょうか。ほぼ通説的な見解による と,母親が西か ら東へ移ったときは児童福祉所の職権監護は 「ふ り落され」て しまい (許 された法廷地漁 り

( f or um s ho ppi ng))

,反対のケース (東か ら西へ の移転)では多数説では母親は制限のない監護権 を持ち続けることにな ります 15))

はっきりしているのは,法統一を求める声が現在立法者に大 きな圧力 となっ ていることなのです。同様にはっきりしているのは,そこでは非常な感情的抵 抗につ きあたるでしょうか ら,職権監護の制度を旧

DDR

の地域に導入するの は不可能だということです。ですから解決策 として考え得るのは,現在西で行 なわれている法よりも東独で適用されている法に近いルールだということにな

ります。

法定職権監護の廃止 と補佐人制度の新規定に関する

1 9 9 5

3

2 4

日の法律案

16)

, ドイツ連邦共和国の全地域で統一的に非嫡出子の法定職権監護制度の 廃止を定めてお ります。法定職権監護制度に代るのは,旧

DDR

に類似 した, 自由な申し立てに基づいて実施される補佐人制度なのです。補佐の開始の要件 は,児童福祉所への書面による申し立てです。申立権者 とされるのは監護権を 持つ一方の両親,つまり非嫡出子の母親だけでなく,離婚後に単独の監護権を 認められた嫡出子の父親又は母親なのです。補佐人の職務には,認知及び(又は) 父親に対する扶養請求権の行使が含まれています。 もし現在の改正作業の状況 か ら期待 されている通 りにこの連邦政府の法律案が実現すれば

,1 9 0 0

年の民法 典施行以来始めて非嫡出子の強制認知は母親一人の責任に委ね られることとな ります。連邦憲法裁判所が血縁を知る権利に大 きな意味を認めている点に鑑み

1 5 )Mhc he ne rKo mme nt a r ‑ Hi nz , Er ga nz ungs ba ndz ur3 . Au f la ge , Ar t . 2 3 0EGBGB

Rd Nr . 3

の論述を参照。

1 6 )Ent wur fe i ne sGe s e t z e sz urAbs c ha f f ungde rge s e t z t i c he nAmt s pf l e gs c ha f t

undNe uo r dnungde sRe c ht sde rBe i s t a nds c ha f tvo m2 4 . 3 .1 9 9 5 , Bunde s t a ge ‑

Dr uc ks a c he1 3 / 8 9 2 .

(11)

監護権の基本的諸問題 241 れば 1 7) ,将来母親の消極性故に認知の赤がなされない という事態 を考えると, この草案 には当然抵抗があ りましょう 1 8) 。そこで草案 は,児童福祉所 は職権 で非嫡出子の母親に補佐人制度の利用についての情報 を提供する旨を定めてお ります。しか しどんなに情報 を与えられて も非締出子の母親が何 もしなければ, 特別なケースではやは り,つ まりは母親の意思に反 して も認知の訴をおこせな いのか という問題が出て くるのです。法律案は,こうした事態に対する規定を 置いていません。それにもかかわらず,現在既に旧法 を基礎 にして,母親が明 らかに子の利益 に反 して行為 しているときは,例外的には母親の監護権 を一部 剥奪 して母親の代 りにいわゆる監護人を選任で きないのか ( 民法1 666 条), と いう議論がなされています。 さらに議論があるのは,非嫡出子に父親の名前を 明 らかにさせ る請求権があるのか,あるとすればその要件は,及びどのような 手段でこうした情報請求権 を必要 とあ らば強制で きるのか, といった点につい てなのです。 しか しこの議論は,捨ての子に可能ならその出生時に一定の男 を 法律上の父親 として割 り当てることを常に最高 目的 としてきた, ドイツ法の伝 統的血統主義への追憶ではないで しょうか。法律案が現実に立法化 されれば, ドイツ法でも頭 を切 りかえる必要があ りましょう。つ まり,子の父親が任意認 知せず母親が父親に対 して必要な法的措置をとる気がなければ,父子関係の確 認は行 なわれない という事態 を受け容れる他ないということです。

b)

他のヨーロッパ諸国及びアメリカ合衆国の法状況

アメリカ合衆国及びほとんど総てのヨーロッパ諸国の法では,いずれにして も認知が行われない間は,母親には単独でかつその権限を制限されることな く 子の監護が委ね られます 1 9) 。未婚の母親 を官庁が監督,後見す るのは, ドイ ツ及びスイス,オース トリアといった ドイツ法圏の歴史の特徴なのです。スイ スでは今 日で も ドイツと似た様 な法状況 にあ ります 20) 。賠外子の出生 を知っ たときは,所轄官庁 ( 「 後見裁判所 」 ) は速やかに補佐人を任命する必要があ り, 1 7 )BVe r f GE7 9 . 2 5 6‑NJ W 1 9 8 9 , 8 91‑Fa mRZ1 9 8 9 , 2 5 5 参照。

1 8 )これについては, Ri c ht e rFa mRZ1 9 9 4 . 5 参照 1 9 )Do pf E e l( Fn. 4 )S. 61 6 f f.参照.

2 0 )He gna ue r , Gr undr i βde sKi nds r e c ht s ,1 9 8 9 , S.1 6 8 参照。

(12)

24 2

47

2・3 号

補佐人は認知について配慮するとともに母親に助言 し後見すべ きもの とされて いるのです ( スイス民法309 条 1 項) 。反対 にオース トリアでは 21) 昔か らあっ た非嫡出子 に対する法定後見制度は1 9 89 年に廃止 され,所轄の児童福祉所の援 助の申し出とセ ッ トされた単なる法的助言 〔 の制度〕にかえられたのです。 こ の法改正の根拠 とされているは,現実の社会の変化及び既婚 ・非婚の母親の平 等の要請なのです。

2 )非嫡出子の両親の共同監護

ほとんど経ての ドイツ以外のヨーロッパ諸国及びアメリカ合衆国とは反対 に

22) , ドイツ法では婚姻関係 にない両親の共同監護は禁 じられています。子の 出生 とともに母親は単独で法定監護権者 とな りますが,既にこれにふれておい た通 り,その監護権は児童福祉所の職権監護によって制限されているのです。

育児の為の監護権 を母親 よりもその任 にふさわ しい父親に委ねる余地 ち,婚姻 関係 にない両親の共同監護権 と同様法律は認めてお りません。〔しか しなが ら〕

共同監護の禁止は ドイツ連邦共和国での15 0 万の非婚姻的共同体への無理解で あるだけでな く,憲法上 も相当に問題があ ります。私の考えでは,両親が婚姻 同様の安定 した生活共同体で同居 し共同で子育てするつ もりがある場合にも, 共同監護を禁ずるのは,確かに基本法 6 条 2 項の保護する 「 両親の自然権」 に はっきりと抵触する訳ではあ りません

]ドイツ連邦共和国で今 日に至るまで婚 姻関係 にない両親の共同監護が認め られていない理由は,何 と言っても連邦憲 法裁判所が1 9 81 年 3

2 4 日の判決で現行法の規定を合意 とみなしたか らなので す 23) 。 ヨーロッパ人権裁判所 も 1 98 4 年 3

1 5 日に 24) , ドイツ法の解決はヨー ロッパ人権条約 に反 していない という驚 くべ き判決を下 しました。 こういった 背景 と支持があった為, ドイツの立法者は法改正 を少 しも急いでいなかったの です。長 きにわた り新 しいルールが緊急に必要だという点で一致があったにも 2 1 )Sc hwi ma nnNZ1 9 9 0 , 21 8

参照。

2 2 )Do pf f e l( Fn. 4 )S. 5 9 4 f

f

.

参照。

2 3 )BVe r f GE5 6 , 3 6 3‑NJ W 1 9 81 ,1 2 01‑Fa mRZ1 9 81 , 4 2 9 .

2 4 )B, Rund J v . Bunde s r e publ i kDe ut s c hl a nd,De c i s i o na ndRe po r t s3 6 ,1 3 0 .

(13)

監護権の基本的 . ; , 1 7 1

fl'

243 かかわらず,改正はどんどん先延 Lにされ,先に述べた1 99 6

3

21 日の連邦 政府の改正草案 25) によってやっと法改正が緒についたのです, ,

改正草案は,例外的場合には監護権 を父親に単独で委ねることもで きる ( 辛 案1 6 80 条 1 項及び 3 項),及び特記すべ きは,両親の希望により婚姻関係 にな い両親の共同監護 も可能である ( 草案1 626 条 a) ,という規定を置いています。

関心 を引 くのは,改正草案が共同監護権の成立には両親の特別の意思表示で足 るとしている点です。つ まり裁判所の決定は全 く必要 とされない。子の福祉が 特別に審査 されることもない。草案の選択 したや り方では,両親の同居す ら要 件 となってはいない。それどころか,父親及び ( 又は)母親が他のパー トナー と婚姻関係 にあるときです ら, 両親がその旨合意すれば共同監護権が成立する。

〔しか し〕私は,草案のこうしたや り方は妥当だとは考えません。た しかに国 家は市民の私生活への干渉か ら大幅に遠 ざかるというのが,当今の傾向ではあ ります。 しか し,子の福祉が具体的に危殆にひん した ときは じめて国家機関た る児童福祉所や後見裁判所が積極的になるというのは,私にはまともなことと は思えません。ですか らほとんどの国々では,官庁乃至裁判所の裁量 による決 定があっては じめて共同監護権の行使が可能 と定めています ( 合衆国,デ ンマー ク,オランダ,オース トリア) 26) 。つ ま り又 して もこの点で も, ドイツの立 法者は慎重に法改正作業に着手 していないことが明 らかになっている。 これま で長 きにわた りドイツでは婚姻関係 にない者の共同監護を禁 じて きましたが, 今度はおよそコン トロールの可能性 自体 を放棄 し,共同監護権の成立に両親の 意思表示があれば足 るとする,反対の極端 に陥っているのです。

立法者が改正案で,共同監護が問鬼にな らない場合,まず母親か ら監護権が 剥奪 されたときにだけ父親の監護権が認め られるとしているの も,興味を引 き ます。民法1 666 条により監護権の剥奪が考えられるのは,全 く例外的場合,つ まり母親が監護権 を濫用 し子の保護の為 に国家の干渉が必要 となった ときに限 られます。加 えて ドイツの後見裁判所は,監護権が濫用 されたケースでも監護 2 5 ) Bu nd e s r a t s ‑ Dr u c k s a c he 1 8 0 / 9 6.

2 6 ) Do p f f e l ( Fn. 4 )S. 5 9 9 f .

参照。

(14)

244

47

2 ・3 号

権 を完全に剥奪するのではなく,子の利益の為に避け難い範囲でだけこれを制 限するという傾向にあるのです。例えば母親の子の監護が全 く不十分な場合, よくあるのはいわゆる居所指定権だけを母親か らとりあげ,子を強制的に里子 に出す可能性 を認めるといったケースです。 ところが完全な監護権の父親への 移動が考えられるのは,民法

1 666

条で全面的に母親か ら監護権が剥奪 された場 合 にとどまります。〔ですか ら〕草案のルールに私は少々当惑 してお ります。

嫡出子でも非嫡出子でも監護権の所在が争われたときは,より良い育児を保障 できる方の親に監護権を認めるというのが父母の平等の要請するところだ, と いうのが私の考えです。〔但 し〕子は出生後数カ月乃至数年を母親の下ですご してお り,一緒に暮 らす者が変るのは原則 として子の不利益 となりますか ら, その理由だけか らも普通は母親が監護権者 とな りますo しかし,tそうは言って ち,母親の監護権の濫用が限界に達するまでは父親に優先するといったルール を現代の法律で決めてしまうのは,私にはマ トモ とは思われないのです。

b)他のヨーロッパ諸国とアメリカ合衆国の法状況

前にもふれました通 り,アメリカ合衆国でもヨーロッパでも婚姻関係にない 両親の共同監護は可能 とされています。スイスは私の知る限 りで共同監護を認 めないヨーロッパで唯一の国です

27)

0

興味深いことに,共同監護の要件は国により様々なのです。アメリカ合衆国, デンマーク,オランダ,オース いノアでは裁判所の決定があってはじめて共同 監護権が認め られますが

28)

,ノルウエェ一,スウェーデ ン,イギリス及び ド

イツの法律案では両親の意思表示があればよい とされているのです

29)

。 もち ろんその意思表示は一定の方式を踏みかつ所轄官庁に提出される必要があ りま すが。

イタリアとフランスでは一定の要件が備われば法律上当然に共同監護が認め られています。イタリアでは

30)

,子が両親に認知 されかつ両親が同居 してい

2 7 )Hagna ue r , Gr umdr i βde sKi ndr e c ht s , 3 . Auf la ge1 9 8 9, S.1 6 8

参照。

2 8 )Fn. 2 7

参照。

2 9 )Do pf f e l( Fn. 4)S. 5 9 9

参照。

(15)

監護権の基本的諸問題 24 5 る場合です。 フランスでは 31 ) 両親の同居 に加 え,子が出生後‑年以内に両親 に認知 されている必要があるとされています。イタリアとフランスのや り方は, 明確で誰か ら見て もはっきりと分るルールを求めて常に苦心 している ドイツの 立法者には受け容れ難い もので しょう。何故なら 〔 これでは〕婚姻関係にない 両親が同居 しているか否か第三者には知 りようがないか らです。 さらにそうな ると,件の両親が共同で監護権 を行使する状況にあるか どうか も,わか りよう がないのです。 これに対 して,裁判所が監護権の決定を下すか,一定の法定の 方式 を踏んで所轄官庁 に提 出 される共同監護権 の意思表示があれば,事態 は はっきりすることにな ります。

非嫡出子の母親の監護権 を父親の方に移す という間蓮に関 しては,多 くの国 で母親の父親に対する優先が認められています 32) 。事情 を異にしているのは, 唯一ス カンジナ ビア諸国だけです 33) 。そこでは,父親は自分の方が母親 よ り 育児 にふ さわ しい と裁判所の確かな心証 を得 るだけで充分なのです。 〔もちろ ん〕その際出来る限 り従前 と同様の生活環境で暮 らす という子の利益は考慮 さ れることにな ります。 〔 ですか ら,結局〕監護権の変更は例外的ケースにとど まります。私の考えでは, ドイツの親子法の改正で も立法者は,子の母親の優 先を放棄 し,監護の帰属は子の福祉だけが決すると定めれば充分ではないか と 思います。実務で も 「 継続性の観点」か ら原則 として母親に監護権が与えられ る点は変わらないで しょう。 もちろんそうは言っても個々のケースでそう決定 するのが子の福祉 に適っているとなれば,父親に監護権が移 される余地 もある

ということにな りましょう。

3 0 )Do pf E e l( Fn. 4 )S. 5 9 9 参照。

3 1 )Do pf f e l( Fn. 4 )S. 5 9 9 参照。

3 2 )Do pf E e l( Fn. 4 )S. 6 0 4 に概観がある

3 3 )Do pf E e l( Fn. 4 )S. 6 0 4 f . 参照。

(16)

246

商 学 討 究 第47巻 第 2・3

Ⅳ.

面接交渉権

さて今一つ面接交渉権につ き少 しお話 しさせて下 さい。 ドイツでは監護権者 ではない両親の一方には面接交渉権が帰属 します。実務上面接交渉権 をめ ぐっ て争われているのは,特に別居中の夫婦間,離婚夫婦間,そ して非嫡出子の母 親が父親 と子供の接触 を拒絶 しているといった場合です。親族乃至その他で も 子 と近 しい人間 ( 例えば,以前の里親)には ドイツ法は面接交渉権 を認めてお りません。そこで特別なケースでは裁判所 は,監護権のある親が面接交渉権 を 妨害するのは監護権の混用 ( 民法1 666 粂)た り得 る,だか ら後見裁判所は監護 権者の意思に反 して も訪問のルールを定める権限があるということを根拠 とし て,問題に対処 して きました。 〔 即 ち〕 このようにして,極めて例外的ケース では子 と祖父母乃至里親 と子の間に元か らあった親密な関係は,子の利益の為 に維持 されていたのです。

大体 「 面接交渉権」 という概念 自体か ら, もともと立法者は専 ら父親乃至母 親の権利 を考えてお り子の福祉はほとんど念頭に置いていなかったことがわか ります。最近の法改正の論議の過程で ドイツではようや く,子の面接交渉権 を とりあげるよう提案がなされました。 というのも,面接交渉権で問題 となるの は子の利益だけだか らです。 しか しそうは言って も,面接交渉義務のある親の 意思に反 してまで子の面接交渉権 を強制することはで きないのはす ぐにわか り ますか ら,この議論はむ しろ理論的な性質のものだったのです。ですか ら,改 正案では将来 とも面接交渉権 を監護権者ではない親の権利にとどめてお くこと になりました。

しか し他方 ドイツでは,面接交渉権は父母の面接交渉権だけでな く,子の関

係者 として第三者 ( 親族乃至親族以外の者)の面接交渉権 も大切で,必要 とあ

れば裁判で面接交渉を求める余地を認める必要性がある, ということも認識 さ

れたのです。具体的に想定されているのは,子が長年祖父母,兄弟,里親或い

は継父乃至継母 と暮 らして,これ等の人々との関係の継続が子にとって欠かせ

(17)

監護権の基本的諸問題 247 ない程重要だという場合です。その結果,連邦政府の法律案では民法典制定以 来始めて,父母だけでな く ( 草案1 68 4 年),祖父母,兄弟,及び 「 以前 に子 と 家庭的共同生活 を送った,両親の配偶者乃至従前の配偶者」 さらには 「 子の里 親だった者」 ( 草案1 685 粂) も面接交渉権 を持つ, と規定 しているのです。子 が嫡出が非嫡出かで草案は区別を設けてお りません。ちなみに,旧い しか し今 のところは現行法では,嫡出子の父親には面凄交渉権があ りますが ( 民法1 6 34 粂),非嫡出子の父親にはこれが認め られていません ( 民法1 7 11 粂)。

ただ批判的コメン トを加えておかな くてはならないのは,法律案は面接交渉 権 を祖父母,兄弟,継父母,里親のような一定範囲の人に限定せず,両親以外の, 子がその生活環境 を通 じて強い結びつ きを持った人間一般 に拡大 した方が,

もっと良かっただろうという点です。こういった人々は,お じ,おばであった り, 或いは子供 と強い人間的つなが りを築いた他人である可能性 もあるのです。国 際的傾向 も,面接交渉権 を専 ら子の福祉 という角度だけか ら見ていこうという 方向にどんどん進んで きているのです 34) 0

Ⅴ.

さて,最後に連邦政府の法案を今一度手短かに要約すれば,その重要なポイ ン トは以下の三つの視角なのです。

1)今 日も残 っている嫡出子 と非嫡出子の区別は除かれる。婚姻類似の共同 体は婚梱共同体 に一層接近 させ られる。

2 )婚梱乃至始姻類似の生活共同体が破産 した場合,国家は親子関係の具体 的あ り方を第一義的には子の両親 自身に委ねる。家族生活の私 ( 的)性 ( 檎) はこれによってより強め られる。

3 )親子関係の法的構造については,親の権利はどんどん後退 し,子の福祉 3 4 )参照,スペイン ( Ar t .1 6 0C. C . ) ,フランス ( Ar t . 3 71 ‑4Abs . 2cc ) ,スイス ( Ar t .

2 7 4aZGB)

0

(18)

248

第47 2・3

がその中心になる。

まあ法律案の方針はこうなのですが〕そうは言っても結局のところ,家族 関係の法構造を決定するのは立法者 自身というよりは社会の現実なのです。 と いうのも,家族法は常に社会的事実の鏡に写った姿にす ぎないか らなのです。

以下に講演終了後に行なわれた質疑応答の要約を記 してお く。

(質問)

1 9 9 6

年の連邦政府の法改正案によると,離婚 した場合のみならず非 姉出子についても両親の共同監護が認められるとのことであるが,こういった 法改正は社会の現実の親子関係のあ り方を大 きく変え得るのか。

(答) 残念なが らというか,当然のことなが らと言うべ きか,法改正が社 会の現実,人々の行動様式に与える影響は大 きくないであろう。法律 も分野に よっては,その親律が直接社会に作用 し行動様式を変える場合がある。例えば, 経済法,商法等がその典型である。 しか し,家族法の規律する領域では法律 よ

りも他の多 くの要素,社会の背景が人間の行動様式を決定 してお り,法はその 変化を少 しずつ後追いしているというのが本当のところである。男女同権に関 する幾つかの規律 もその例であろう。共同監護に関しても,現実には両親が話 しあって子の面倒 を双方で責任 を持つ という風 に人々の行動は変わってきてい る。但 し,これまで全 く法的親律がなかった非嫡出子, しか も圧倒的にその数 が多い非婚姻的生活共同体

( ni c ht e he l i c heLe be ns ge me i ns c ha f t )については,

この法改正がい くらか子の福祉に寄与するということがあるか もしれない。即 ち,そこでの紛争解決手段 を法が用意 したという意味において。

(質問)今回の法改正案,特に非姉出子の母親の監護権の制限をなくす とい う態度の背景には男女平等の思想があると評価できるか。

(答) ドイツ法の考え方の背後には,確かに男権主義がある (あった)0 子の父は可乃的に確認さるべ きだという指向性を支えているのは,父親を中心 とした血統主義 と父を知ることが子の福祉に適うという考え方だと言える。 し かも本 日もそのことにふれたように, ドイツ法は他の国々よりも (父親の)血 統を重視 している。だか ら,母親は子の為に認知請求に努めなくてはならない

(19)

監護権の基本的諸問題

24 9

という要請 も出て くるのであ り,これが母親の個人主義 と矛盾することになる。

こういった思考図式は堕胎に対する厳 しい法規制 とも共通 している。即ち,千 を産むか否かを母親一人の決定に委ねる,母親の個人主義的決定に反対すると いう考え方 と一脈通 じるところがある。以上の様な態度が変化 し母親の決定を 尊重するようになってきた背景には,やは り男女同権の影響がある。

(質問)ドイツで非婚姻的生活共同体は何時ごろから増えてきたのか,又人々 は何故 これを選択するのか。先生が挙げた

1 5 0

万 という数字は非常に多いと評 価できるのか。

(答) 以上の質問に答える前操 として ドイツの若者,学生の生活状況につ いてお話 しておきたい。 ドイツの若者,学生は両親 と同居 しない。両親 と同じ 町に住んでいてもー人で居を構 えることが多い。その際,これは非婚姫的生活 共同体 とは言えないが, しばしばパー トナーと同居 している。こういった風潮 が少な くとも若者の間にはある。婚姻する前に

A

2, 3

, 5

,B

とも同 様に,そしてCとも非婚姻的生活共同体 を経験する,もちろん共同体の延長 と して婚姻する場合 も多い。年齢層 としては

,20

,30

代が多 く

,40

,5 0

代は 少ない

。8 0

年代にその数は爆発的にふえ,現在は伸びはゆるやかだが少 しずつ ふえている。ただ,非婚姻的生活共同体が結婚の前捷 となっている場合 も多い ことを指摘 しておきたい。何故,非婚細的生活共同体が選択 されるかという理 由だが,若者は形式や手続を嫌い,自分の生活に国家が介入するのも望ましく ない,私事である。手続 も面倒だと考えている者が増えてるという事情がある。

(質問) ところで, ドイツ乃至 ヨーロッパ諸国で嫡出子 と非姉出子を平等に 扱おう,両者の区別を廃棄 しようと考えるに至ったのは,例えば非婚姫的生活 共同体による非締出子の数の増大が大 きな役割をはたしているのではないか。

このような事実上の圧力 と思想の変化 とどちらが主な動因となっているのか。

又,非嫡出子の数 と養子制度のあ り方には相関的関係があるのではないかと考 えるが,どうか。

(答) 確かに数の力は大 きい。量が一定程度増大するとこれが質的な変化 に結びつ く。嫡出と非嫡出の差異をなくすことの第‑の理由はこの量の問題,

(20)

250

47

2・3 号

社会事情の変化である。第二に忘れてはならないのが基本法の要請す る嫡出子 と非楠出子,捨ての子供の平等の要請である。 この憲法上の保護の意味は大 き い。そ して,第三 として次第に人々の考え方 も変 って きた とい うことを挙 げる べ きでだろう。

今一つ, ドイツで現在養子 は年間約80 00 件位だがその半分は再婚 した配偶者 の連れ子の養子である。 さらに, ドイツでは ( 相続,相続税の為の)成年養子 の制度があ り,本当の乳幼児の養子 は1 000 位である。だか ら現在 ドイツで養子 が欲 しくて も余程幸運でない とその希望 は実現 しない。人々は子供 を求めてア ジア,アフリカまで探 し回っている。又,かつては非嫡出子の父親は金は払 う が子供 に関心 はない, とい う者が多かった。 しか し現在 は子供 に関心 を持 ち母 親が養子 に出そ うと言 って も, これをやめさせて自分 も責任 を持 とうとい う者 が増 えて きている。だか ら養子 と非嫡出子の数 とに現在相関性があるとは言 え

ない。

( 質問)今 日のお話 は親子関係の私化 とい うのがモチーフだ と思 うが,国家 が後退 し親子関係 を当事者 に任せるとい う方向の背後 には,子の福祉 に一番近 いのは親であるとい う考 え方があるのではないか。又,そ うだ とすれば,以上 の傾向は親や家族の責任 の強化 に向 うことになるのではないか。又,その場合 に親の責任 と権限が強 くなれば,子の福祉 は どのような位置づけが与 えられる のか。

( 答) 誤解 しないでいただ きたいのは,私化 とか国家の干渉の排除 と言 っ て も,それは両親がキチ ンと話 し合い合意すれば国家 は口を出さない とい うこ とであ り,紛争があればこれを解決する為 に国家機関は当然必要 となる。子の 福祉 は両親が不和で調整がつかない ときには充分 には守 られない。その際,例 えば継父 と実父間の紛争,面接交渉のあ り方等 を解決する基準 として子の福祉 がキーワー ドとなるのは疑 うべ くもない。即ち,子 をとりま く両親の共同体が まともでない ときが問題である。

今一つ,親や家族の責任 と言 うが,現在の個人主義の浸透の下では国家が こ

れ をコン トロール しようとして も無駄である。 (日本ではそ うした方向に可能

(21)

臥 : . L E柵 の北 本的 . mHt I J魁 251

性があるのか どうかわかならいが)少な くともヨーロッパ,アメリカ合衆国で

は無理である。 しか も家族 といって もかつての大家族ではな く小家族に責任 を

負わせ る,親律 を強化するいうのは成功の見通 しはない。小家族は社会のコン

トロールの為には強い単位ではない。但 し,最後に先にもふれたが最近の良い

傾向,希望について言及 してお きたい。近年の親子関係の大 きな特徴 は,父親

が非常 に子供,育児に関心 を持っていることである。 しか も,それは子の母親

と婚姻関係 にあるか否か とは関係がない。非嫡出子の育児,福祉 にも父親は一

所懸命である。だか ら,非嫡出子 を養子に出そうと母親が言い出 したとき,父

親がこれをやめさせ ようとした りする。 このような傾向は非常に好 ましい もの

であ り,法改正 もこの現実を反映 していると評価することも可能である。

参照

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