タスマニアの教育機関におけるコンピュータ・インターネット環境
松 岡
Computer/InternetEnvironmentatEducational
OrganizationsinTasmania
MamoruMATSUOKA
要
旨タスマニアのいくつかの教育機関を訪問し、タスマニアの教育現場におけるコンピュータ・
インターネットの利用状況を調査し、まとめた。全般的に導入は進んでおり、中には先進的 な大幅な導入を行っている学校もあった。一方、テレビ会議システムやテレビ電話を用いた 学校間の遠隔交流は、調査した範囲ではまだ未実施であった。タスマニアには、様々な理由 で学校に通えない子どもたちや、教員配置が完全ではない過疎地の学校の授業を補助するこ
とを目的とした州立の遠隔教育機関があり、教育の機会均等に貢献している。
1.はじめに
平成12年2月17日より3月22日までの35日 間にわたって、三重大学からオーストラリアのタ スマニア島にあるタスマニア大学ホバート校への 語学研修の副団長として随行する機会を得た。従 来三重大学の短期語学研修は米国のミシガン州立 大学へ行っていたが、今回からタスマニア大学へ と変更となったものである。
教育現場においては遠隔交流を授業に取り入れ ようとする試みが国内で盛んである1)。遠隔交流 には通常の郵便等を手段としたものもあるが、こ こでいう遠隔交流とは、インターネット上のテレ ビ会議システム、ないしテレビ電話を用いて地理 的に離れた学校が情報交換等、交流を図るものを 指している。遠隔交流は相互的であるが、講義的 な形式を基本とした一方向的な遠隔授業も同様に 盛んに試みられている。これまで行われてきたイ
ンターネット経由の遠隔交流の代表的な手法は、
1)電子メールを用いたリアルタイムではない情
報交換、2)CU
SeeMeやNetMeetingといっ たテレビ会議ソフトによる動画像、音声のリアル タイムのやりとりである。後者の場合、現状では インターネットの回線の混み具合によっては画像 が乱れたり、更には音声まで途切れ途切れになってしまう危険性があるが、遠方との交流でも接続 料がかわらないという利点がある。テレビ電話の 場合はISDNデジタル回線を用いたテレビ電話 であるNTTのフェニックスが通常用いられてい る。この場合は所定の回線速度が常時確保される ために、安定した情報のやりとりが可能であるが、
遠方の場合は電話代が問題となる。
学校間の交流は実際に一方から他方に訪問する
のが最善であるが、遠方の場合は実現が困難、あ
るいは期間、人数等非常に限定された訪問となる。インターネット上のテレビ会議システム、ないし テレビ電話を用いた遠隔交流は、擬似的な訪問体 験として、あるいは実際の訪問前後に交流を補助 するものとして大きな意味がある。
こうした交流は国内に留まらず海外とも行われ つつある。海外の学校と行う場合の一つの問題点 として時差がある。遠く米国等の学校と行う場合 は日本側は早朝、米国側は夕方となる。そうした 時差を実感できることも教育的には意味があるか
も知れないが、遠隔交流を授業の中で行うには授
業時間編成上に無理がある。オーストラリアは日本とはほとんど時差がない
のでこうした遠隔交流を行う相手先として適して いる。そうした事情から、今回の出張に際して複 数の学校の先生方から遠隔交流の相手先を探して松 岡
きてほしい旨の依頼を受けた。本調査研究の発端
はここにあり、筆者としてもせっかくの好機であっ
たので滞在中にタスマニアのいくつかの学校なら びに関連する教育機関を訪問し、タスマニアの教 育機関におけるコンピュータ・インターネット環境を調査した。本稿はその調査結果をまとめたも
のである。なお、コンピュータ・インターネット
環境の範時には通常入らないが、遠隔交流の相手
先として、という意識を持っての調査であったの で、テレビ電話に関する記述も以下には含めた。
2.タスマニアの教育制度
タスマニアの教育制度は日本とは異なるので、
後の説明で誤解を招かないように以下にタスマニ アの教育制度の概要を示した。
タスマニア州では初中等教育において州立校
(publicschool)で8割が、残り2割が私立校
(privateschool)で学んでいる。どちらも修業 年限の制度は同じで、表1のとおりである。幼稚園(kindergarten)の後preparation school を経て日本の小学校に相当する初等学校(pri‑
maryschoolあるいはjuniorschoolとも呼ば
れる)に入る。その後4年制の中等学校(senior school)に進学、さらに高等教育を望むものは2 年制のカレッジ(college)を経て大学に進学す守
るか、日本の専門学校に相当すると思われる2年 制のタフェ(TAFE)に進学する。つまり教育
システムは6‑4‑2制であり、学年は表1のと おり初等学校からの通年で呼称している。このう
ち義務教育は初等学校と中等学校合わせての10 年間である。なお、juniorとseniorの用語の使 い方が日本の学校の英訳二中学校(juniorhigh
school)及び高校(seniorhighschool)とは対応しないので注意を要する。更に学校によって
はpreparationschoolをtransitionschool、
CO11egeをHSC(highschooIcertificate)と
称したりするので説明を受けた際に混乱した。州 立校は表1の学校の多くが個別に存在するのに対 し、私立校は多くが幼稚園からカレッジまでを有 していて一貫教育を提供している。3.各校のコンピュータ・インターネッ ト環境
滞在中にタスマニア州教育省やタスマニア大学 の方々に紹介いただき訪問する機会を得た学校は 表2に示した7校である。以下にこれら各校の状 況を訪問順に示した。各校ともインターネットヘ の接続が確立しているが、公立校は州が準備した ネットワークに接続しているのに対し、私立校は 独自にプロバイダと契約してインターネットに接
表1タスマニアの教育制度
表2 訪問した学校(訪問順)
学校別記号 私立/州立 学 年
F 私立 Kindergarten〜12年生 J 私立 Kindergarten〜6年生 L 私立 Kindergarten〜12年生
P 私立 7〜12年生
Q
公立 7〜10年生N 公立
11〜12年生
S 私立 Kindergarten〜12年生
‑92‑
続している点が異なる。
墜̲
名門私丘麒の雰囲気の漂うF私立校はコンピュー タ教育にも非常に力を注いでいた。設備面でまず 驚かされたのは5年生からIO年生まで全員に、
つまり生徒の数だけのラップトップコンピュータ を準備し、自由に使わせていることである。11、
12年生も来年度(訪問時に対して)には学生の 数だけ購入し、コンピュータ導入が完成するとの
ことであった。4年生以下も幼稚園も含め各数等
等に一台はネットワークにつながったコンピュータか入っていた。また幼稚園向きには子供向けの
コンピュータ(口本でも数万円で市販されている
ような/ト型で、簡単なワープロとお絵かき機能の あるもの)が一クラス分の台数あって、必要なと きにクラスに持って行って園児に使わせていた。ラップトプブコンピュータは夜間に充電したパヮ
テリーが一口の授業時間分丸々持つようなタイプ
で、かつ無線LANを使用Lているので授業時は完全にワイヤフリーですっきりLており、電源ケー プJレを引っかけて子どもが転ぶといった心配のな い状態で使mLていた(図1)。
コンビュ【夕の利用の仕方の例を挙げると ロゴ7pログラミング
(コンピュータの授業:6年生向け)
調査・レポート作成
(環境に関する授業:6年生向け) 音楽の授業への利用
(初等学校)
学校新聞の作成(ジャーナリズムの授業:カレッジ) というように様々な授業で使われていた。最後の ジャーナリズムの授業は、学生が取材からDTP ソフトを用いた電子出版までの全てを半年の授業 の巾で行うもので、仕上がった学校新聞は市販の
通常の新聞と遜色のない、見事なできばえであっ
た(凶2)。7年生の時間割を見せていただいたと ころ、過一回の2時間続きの技術(Tecbnol‑Ogア)とは別に過一回1時間の情報技術(Inro Tech)という授業が組まれていた。その中身は 確認しなかったが、6年生の段階でロゴプログラ
ミングをしているので、更に高度な内容を教えて いることになる。また水曜は丸一日総合学習 (l□tegl、atedProgl・a皿)に割り当てられており、
この中でもコンピュータ教育をすることがあると のことであ「た。
こうした大がかりなコンピュータの教育への導 入のために、教員採鞘にあってはコンピュータに 強い人材を求めている他、授業を受け持たないコ ンピュータ専任のスタヮフを複数人擁していると のことであった。
匡= ラップトヮプパソコンを用いた麺業風景(F校)
松 岡
囲2
ジャーナリズムの授業における電子出版(F校)
触光スポットにもなっている歴史ある小さな町 にあるJ私立校は、町への口本人観光者も多く、
そのため初等教育の中に口本言吾が採用されていた。
幼稚懐から6年生まで、合わせても生徒数が235 人の小さな学校である。ここで紹介しているJ
校以外の学校はコンピュータ教育で先進的である として紹介いただいたものであるが、J校は語学 研修の‑一環として学生らと共にたまたま訪問した 学校であるので、同列に評するのは酷である。そ れでも各教室に1台のコンピュータが片隅に置か れていた(図3)。これは、別に語草研修に参加
した学生が訪問したこく普通の公立の初等学校と
図3 教室の片隅に置かれたコンピュータ(」校)
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似た状況であるそうである。
コンピュータの利用の仕方について質問する機
会を失したが、訪問時には多分複数担任のうちの
一人が子どもをもう 一人の担任に任せて同じ数寄 内のコンピュータを用いて何か事務処理をしてい るようであった。ヒ些̲三̲
幼稚園から12年生まであるL校は、F校と並
び名門私立校の雰囲気の漂う学校で、訪問時はコ ンピュータ・ネットワークの大幅更新中であった。
コンピュータ・ネットワークの更新の中にはテレ
ビ会議システムも含まれているとのことであった。・:
7〜12年生までを教えるP私立校は、外匡】語 として口本語だlナを教えているそうである。CU SeeMeも購入済みであるがまだ試されてはいな
かった。日本語の授菓のためにも日本国内との遠
隔交流に強い関心を示していた。授業の例として、学年が授業の中で作成したコンピュータグラフィッ クス(動画)を見せていただいた。図4に授業風 景を示した。
旦旦二
7〜12年生までを教えるQ公立校は古いがぴ かぴかの木造の校舎を基本的に残しつつ近く大改
修をするとのことであった。コンピュータ・イン ターネット環境はオーソドックスなもので図5の ようなコンピュータ篭があった。遠隔交流をする ための設備はなく、実施するには計画を立ててま ず予算要求をする必要があるとのことであった。竺旦⊥
斯い、校舎が大変モダンなN校は11〜12年生 を教える公立校である。電話や図6に示した
PictureTel(u本のフユニヮクスに相当)を交 えた通信教育も実施しているそうである。海外と
の遠隔交流はまだ実施していないが、オセアニア・アジア文化という授業があり、その中で日本の学 校との交流ができたら、とのことであった。
・∴・
幼稚園から12年生まであるかキャンパスが分 かれており、訪問したのは中等学校だけである。
格調高い雰囲気のある私立校である。コンビュー
図4 授業風景(P校)
松 岡 守
夕の導入は比較的オーソドックスな印象を受けた している方が多かったが、これは子どもたちにとっ が、この学校ではウィンドウズマシンとマッキン てマ・ノキントソシュの方がより入りやすいマンマ
トッシュの両方のコンピュータ室を有していた。
シンインターフェースを実現しているためであろ訪問した学校の範囲ではマッキントッシュを採用
うか。園5 コンピュータ室(0校)
図6 テレビ電話PictureTel(N校)
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4.オープンラーニングサービス
(TasmanianOpenLearningService)タスマニ7は北海道程眉の広さに約50万人か 住む島国である。人の集まる地域は偏っており、
逆に極端な過疎地が広く存在する。本島の周りに は人口が非常に少ない、あるいは無人島が点在し ている。オープンラーニングサービスはこうした
タスマニアの地理的環」竜に応えることを目的の一 つとして設立された州直属の機関である。郵便、
電話、電子メール、ビデオリンク、一学期に一度 の訪問を組み合わせた教育の機会を、様々な理由 で通常の教育が受けられない子どもたちに提供し ている。ここで言う通常の教育が受けられない了‑
どもとは
・あまりに過疎地で近くに学校がない
・学校はあるにはあるが先生の数が足りず、いく つかの科目の専門の先生がいない
・精神的、あるいは肉体的に障害があり、通常の
苧手交に通えない・保護者と共にタスマニ7州外のオーストラリ7 国内、あるいは国外にしばらく滞在している といったfどもたちを指している。
対象とする学年は幼稚園から10年牛までである。
訪問した際にはビデオリンクの授業はやっていなかっ たが、電話による‑▲対一の授業をしていた。
ビデオリンクは通常のアナログ電話回線にコン ピュータを接続し、SbareVisionというテレビ 会議ソフトを使って実現していた。閲7に示した
画面のようにShareVisionの機能はCUSeeMe
やNetMeetingと全く同じで、チャフト(文字 による情報のやりとり)やホワイトボード(英有 のお絵かき画面)も使えるようになっていた。た だ通常のアナログ回線なので、音声の質が問われ る授業では難がある。そこで音声は通常の電話で、首声以外はインターネフトで、というようにした りもするとのことであった。ISDNデジタル回線 を使ったシステムもこのオープンラーニングサー
ビスにはあったがISDNデジタル回線はオース トラリアでは特殊でかつ高価な通信回線と捉えら れており一般家庭はもちろん、学校などの機関で
も導入が進んでいない関係上、ほとんど使ってい ないとのことであった。
なお、このSbareVisionは生産中止になった
そうで、新しいシステムが必要とのことであった。帰国後調べてみるとアナログ電話回線を用いたテ レビ電話は、日本国内を含めいくつかのメーカー が販売していることがわかったので教えてさしあ げたが、これらは専用のテレビ電話を購入する必 要がある。
このオープンラーニングサービスのシステムそ のものにも感心したが、加えて感心したのは教材
園7 ShareVjsionの画面
松 岡
が充実していることである。技術や体育の授業は 遠隔では無理でしょう、と聞いたら、確かに難し
い、だがいろいろ試みているとのことだった。見 せていただいた教材の例を挙げると
・技術 箱を作る木材のキットとその作り方のビ デオのセ・ソト
・体育 ラケットボールのようなラケットとポー ルのセットと使い方のビデオのセット といったものがあった。教材の一つ一つは日本の
学習雑誌の付録みたいなもので、こうした教材が
図8に示したように教材の棚に多分何百と準備さ
れていた。
一学期に一度の訪問ではアクセスが容易でない 所にもとにかく行くとのことである。例えばタス マニア島の北東にあるクラーク(Clarl()島は8 血四方くらいの島であるが人口はたった8名(一
家族)だそうで、そこには草地でも着陸できる小 型飛行機で行き、2時間くらい子どもと交流する とのことである。大変であるが、それでも教育貞
は通常の学校に適う場合と変わらないそうで、数 行の機会均等に対する姿勢にも感心した。オープンラーニングサービスの年間予算は職員 給与を別にして595,000オーストラリアドル(約 4丁一万円)、スタっ7は数l一名で、これで通信教 育に使う教材の開発も含めて行っているとのこと である。限られたア算と少ないスタッ7で効果的
守
な教育を実現していると言えよう。
5.まとめ
オーストラリアのタスマニア州にある学校他の 教育機関を訪問し、調査したコンピュータ・イン
ターネット環境をまとめて記した。タスマニア州 内の学校の【lりこはっンピュータをかなり先進的に 取り入れているところがあった。もっとも、U本
も急速度で導人が進んで右り、導入の時間差は、
あったとしても大差はない。一方、通信教育の例
はあってもインターネットやテレビ電話冬用いた 遠隔交流は、日本では盛んになりつつあるか、タスマニアでは調べた範囲内では例がまだなかった。
これはタスマニア畠とオーストラリア本【二とのイ ンターネットの回線が太くないとのことであり、
またISDNデジタル同線など高速の電話回線が
あまり普及していないといったふうに、必要なインフラで十分に整っていないところがあることに よるものであろう。なお、筆者は三重県卜野市せ 府中中学校の藤Il卜秀公教諭と協力して、滞在中に
タスマニア大学の日本語を苧ぷ学生を交えてタス マニア大学から同中学校に向けてCU SeeMeを 鞘いた遠隔授業を実施した。その模様を図9に示
した。音声が途切れることはなく、画像もまずま ずのやりとりを行うことができた。この遠隔交流
囲8 遠隔教育に用いられている教材
‑98‑
の詳細は来年の日本教育上学振興会の実践資料集 に掲載される予定である。
いくつかの先進的な取り組みを行っている学校 では、授業を行わないコンピュータ専任のスタッ フが複数人確保されていた。コンピュータをいつ でも使える状態に維持管理し、かつ常に新しい状
況に対応するのを、教員が授業を受け持ちながら
片手間で行うのには無理がある。単にコンピュー タやインターネットの回線を提供するだけではなく、こうした人的な確保も重要である。
どんなに過疎化しても本当の学校が近くにあり、
必要な教科の教えられる先生が揃っていることに 越したことはないので、むやみにオープンラーニ
ングサービスのような遠隔教育システムを推進す るわけにも行かないが、少子化が進む現在、そし て特に離れ小島の多い三重県においては、現実的 な解として大いに参考にすべき教育システムであ ると言える。
謝 辞
タスマニアを訪問する機会を与えていただいた
諸関係の皆様に感謝いたします。タスマニア州内 の教育機関の訪問は、タスマニア州教育省のJudy Wbiteak即女史をはじめ、多くの方々のお世話に なりました。併せてお礼申し上げます。参考文献
Ⅰ)東海スクールネ・7ト研究会『インターネットの 教育利用』教育家庭新聞社 2000年
図9 タスマニア大学から三重県上野市立府中中学校への遠隔授業の様子