社会主義企業管理方式と経済改革
−ジェリンスキーの所論について−
三原泰
熙
社会主義企業管理方式と経済改草 231
I 序
ソ連・東欧の社会主義諸国では1960年代に経済の計画・管理制度の改草=
経済改草が開始された。ポーランドでは1956年に着手されており,それ以来 10年ないし20年に近い歳月が経過しているO しかしながらこれらの諸国の経 済改革は必らずしも円滑に進行してはいないようである。
東欧諸国の経済改革は管理制度の改草にとどまらず,計画化過程を合めて 経済政策全般に関連がありわ,さらに社会的,政治的改草(民主化)にも かかわりがあるとはいえ,現在の経済改草の中心課題は社会主義経済の基本 細胞といわれ経済計画の実行者である社会主義企業の行動を経済的なそれに 変えようとするものであるoけだし,改草が必要となった理由からみても,
「改草の成功は主として社会主義経済の効率が改善される程度にかかってい るD この運動において企業は明らかに主戦場であるO 労倒,資本設備,原 料,天然資源の使用の節約,新技術の導入,製品の質と多様性の向上,生産 物の需要と買手市場への適応一一換言すれば,集約的成長への転換一一すべ てが,究極的な分析において,企業に依存している幻」からであるo
本稿は,ポーランドを中心として束欧諸国の経済改草を分析し,経済の管 理機構 (managementmechanism)の型による経済改市の分類,経済改草 の「最適順序」などの特色ある経済改草論を反閲しているジェリンスキー (Janusz G. Zie1inski)がそれらの分析の基礎にしている社会主義企業シ ステムと企業管理モデノレを紹介するとともに,それの経済改平への合;立を述 べようとするものであるO
注 1 Janusz G. Zielinsld, Economic Reforms in Po1ish Industry, Oxford University Press, London, 1973. PP. 10‑14,芥)茂稔「チェコ・ハンガリー型
経済改草モデノレの基本的特徴」佐Jí~経明前『ソ述・京欧諸国の経済改Jyz~ (アジア 淫済研究所, 1974) 53‑58頁参照。
2 J. Wi1czynski, Socialist Economic Development and Reforms, Praeger Publishers, New York, Washington, 1972, P. 97.
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E 社会主義企業の構造
ジェリンスキーはまず企業の構造についてサイパネティクスの観点からの アプローチを提示する1)。サイパネティクスは因果関係の鎖によって互に結 びつけられた要素の集合としてのシステム,接続された作用のシステムにお ける「調整」あるいは「制御」に関する科学2)であり,経済過程の分析に応用 されるとき,それは経済過程をたんにそ乙で物的資源と人力の変投と流通の おこなわれる過程として眺めるのでなく,そこにおいて情報の変換と流通の お乙なわれる過程として,またそれらの両過程の相互作用する過程としてと らえる3)ことである。また経済過程においてサイパネティクスは, (1)目標と する効率,精度,信頼性を確保するための厳密な分析と計算の用具であるこ とと (2)適切な思考方法,問題の定式化とそれを解く適切な方法を創造する という二重の芯味をもっている心。そして後者のサイパネティクス的思考方 法は「具体的な分析と計算の結果とは独立して芯味をもっているO ……サイ パネティクス的な考え方を知ったものは,特別な分析と計算がなくてさえ,
問題や状況の本質的な環,要素の関連,そして他の人々には理解できない実 際的な解決の方向を把える乙とができる0
5)Jジェリンスキーはここでは厳 密な分析と計算の用具としてよりもむしろ後者に重点をおいて使用,記述し ているようであるO
「社会主義企業における経営を分析するために,企業をサイパオ、ティクス の観点から補給,情報,束JI戟,操縦システムより枯成される構造とみなすの が好都合である6) J各システムの概容は次の通りである7)。
1 補給システム(feedingsystem)
補給システムは物的資源,人力,資金の変換と流通のシステムである。社 会主義企業は国家より一定額の固定資本と流動資本を授与され,生産過程を 組織するD 生産物たる財または用役を提供し,貝子価格で売り総収入を獲得 するO 次に総収入はまず国家と企業の問で分割される。すなわち,それから 取引税を差引き,または補助金を加えることによって売手価格による収入と なるo さらに企業連合への拠出金を差引くと企業収入となるO この企業収入
社会主義企業管理方式と経済改草 233 の処分には二つの制約があり,一つは補給規則によって企業に設定が義務づ けられている特別基金への配分であり,第二は企業が自由に獲得できない労 働力や生産手段という生産要素の購入規制(例:賃金フォンドの上限と調 整,用途指定物資,配給物資の存在)である。乙れらの制約のなかで企業は 買手価格によって資源を再生産,増加させるO これは,企業活動の函数であ るので I従属的補給システム」と呼ばれるものである口
なお社会主義工業企業は国有企業であるから,マクロ経済計算にもとづい て上級管理当局は,従属的補給システムによって決定された企業の資源、の規 模を拡大すべきかどうかを決定するO 乙の企画には中央または企業迎合の投 資基金から資金が供給される。この程の資金フローは「独立補給システム」
と称されるo
2 吊手良システム
生産物の生産,販売などの経済事象は企業内で継続的に生起し,これらの 経済事象は記録さるべき経済事象の性質と記録の方法を規定する変換規則,
会計方法に従って記録され分析指標 (analysers)となるD 企 業 内 で 伎 用 さ れる多くのさまざまな型の指標は,操縦センター(経営者)へのフィード・
パック,すなわち,企業内で起る経済事象を観察し,不規則性を解明し,そ の場合に操縦センターに意思決定の基礎を提供するという共通の一般的機能 を遂行するo次に指標はそれの遂行する特殊な機能によって,換言すれば,
それらが結合されるシステムの型によって次の三群に分類されるO
(a) 成功指標 (successindicator) 0 これは経営者の刺戟システムの基 礎となる指標であるo
(b) 補給システム規制変数(feedingsystem regulator,以下F S規j!;iJ変 数と略す)0 これは補給システムと結合され,企業への資源の流入と企業に おけるその使用を制御するO 例えば,ポーランドでは生産高指椋によって賃 金フォンドの自劫的調整がおこなわれた8)
(c) 技術的・経済指標 (techno‑economic analyser)。これは投入基単,
標準原価などの各程ノノレマや指標の形で生産,販売などの特殊飢域の活動に 関する情報を企業経営者に捉供するO 同時にそれはまた企栄の中下回の仕理
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者の作業を規制するのに使用され, しばしばこれらの職員のボーナス制度の 基礎として使用されるO
なおある指標は一つ以上の機能を遂行することがある口同じ指標が柿給シ ステムと刺戟システムの両方に関係するとき,それはFS規制変数であると 同時に成功指標であるO
3 刺戟システム
指標のいくつかは刺戟システム,経営者のボーナス・システムに結合さ れるO もっとも簡単な刺戟システムは, (a)成功指椋, (b)ボーナス係数, (c)分 配係数より構成されるO しかしながら,現実の社会主義工業企業の刺戟シス テムは実際には非常に複雑であり,上記の要素のほかに,ボーナス基金の資 金源泉,ボーナス基金の一部または全部が支払われるための条件(ボーナス 条件)が加わり,また平行して機能するいくつかのボーナス基金が設置され ているO さらに補給システムを桔成する工場基金,賃金フォンドなども間接 的に刺戟的機能を有することも付記しておこうO
4 採縦システム
操縦システム,企業の戦略,戦術,行動は,経営職員の資格,彼らの企業 の公式目標への統合の度合,企業外部の経済条件が考応されているならば,
補給,情報,刺戟システムの性質によって決定されるD それゆえに,操縦シ ステムは他のシステムが詳細に記述されているときにはじめて分析の対象と なるD
注 1J. G. Zielinski,On the Theory of Success Indicators," Economics of Planning, Vo1. 7, No ,l (1967) PP. 1‑10.にも簡単に述べられているが,
乙乙では, J. G. Zie1inski, Economic Reforms, op. cit., 1973によって紹 介する。なおポーランド企業の組織枯造については George R. Feiwel, The Economics of Socialist Enterprise; A Case Study of the Polish Firm, Praeger Publishers, New York, Washington, London, 1965, p. 197. ff 参照のこと。
2 O.ランゲ (0.Lange) 若,佐伯道子訳『経済サイパネティクス入門~ (合同 出版社, 1969) 9‑10頁。
社会主義企業管理方式と経済改草
3 飯尾要『経済サイパネティクスj (日本評論社, 1972) 1‑2頁。 4,5 O.ランゲ,前掲邦訳, 209頁。
6 J. G. Zielinski, Economic Reforms, op. cit., PP. 143‑144.
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7 Ibid., P. 144ff.これは主としてポーランド社会主義工業企業の場合である。
8 ポーランドの賃金フォンドの調整と決定方式については, J. G. Zielinski, op. cit., (1973) p. 260ff. および G.R. Feiwel, Problems in Polish Economic Planning: Continui ty, Change, and Peospects, Vol. II in Industrialization and Planning under Polish Socialism, Praeger Publishers. New York, Washington, London, 197 ,1 PP. 56‑60.参照。
E 管理機構と経営公式
(1) 管理機構の機能
生産手段の社会的所有を基礎にして少なくとも主要な経済的意思決定が中 央で行なわれ,計画指導中枢によって経済活動の総体が調整される社会主義 経済では,中央計画当局(名称,機構,機能はさまざまである)が国有企 業 に お け る 計 画 遂 行 を 効 果 的 に 指 導 す る た め に 管 理 機 構 (management mechanism)が必要であるD ここでいう管理機椛とは「中央計画者が計画 実行者の径済活動を指揮するために使用する経済政策の相互に関連する用具 の体系であるわ。」そして社会主義工業における管理機構の役割は, (1)計画 遂行において企業を操縦すること,および(2)計四遂行の過程の内,外におい て経済的行劫へ向けて計画実行者を刺戟することであるD
形式的には管理機構の役割は,上述の如く,計画遂行の過程を指拝するこ とであるが, しかし,管理機構の構造はまた計画編成段階においても企業に 影響を及ぼす。すなわち,企業は計画を実行するのみならず, (1)計画作成に 必要な情報の大部分の提供, (2)ガイドラインに適応させた計画捉案の上申,
(3)限られた局面における自己決定,によって,ある程度計画編成に参加して おり,そのさい企業によって提出される情報の貨と計画案は現行の管理機構 によって大きく規定され3) 乙の意味からも管理1投稿は重要であるO
(2) 管理機構の構成要素
管理│幾椛は3個の基本的要素より椛成される,すなわち, (1)中央計画当局
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から企業へ,および逆に情報が伝達されるシステム, (2)企業がそれにもとづ いて行動するところの「原則」一一経営公式 (managementformula) , (3)財務信用システムと生産要素を含む諸取引を支配する規則とから成るマク ロ経済補給システムから構成されている。情報伝達システムと補給システム は,第1図に示されるように,経営公式を通じて企業に影響を及ぼす。経営 公式は企業が価格の変化や補給政策の変更に反応する様式を規定するのであ る。それゆえに,ある経営公式のもとでの企業の行動の経験にもとづいて伝 統的に知られているカテゴリーは,企業の行動原理=経営公式が変更される ならば,もはや期待されているようには機能しないという乙とになる向。乙 こから管理機構の統合的性質(integralnature)が導き出される口
第 1図 社 会 主 義 企 業 の 管 理 機 構
トーシステムド│経営公式│← l u z 翌日
出典 J.G.Zielinski, Economic Reforms, 0ρ,cit.,p.151 (3) 管理機構の統合的性質
上述のように,管理機構の3構成部分のあいだには密接な機能的依存関係 が存在するO 一方では計画課題,価格の変化,あるいは補給システムの変化 にたいする企業の反応は経営公式によって,例えば成功指標や束IJ戟システム の性格によって規定されるo他方,補給システムは企業の資源の量や資源、の 処分における自由度を規制し,価格は,経営公式を所与とすれば,それに規 定された様式によって経営者の決定に影響を及ぼす。
管理機構のこのような統合的性質を理解することは大きな実践的;意義をも っているO 管理機構の一部分の変更ですら機構のより大きな部分との調整を 必要とするのであって,単なる部分的変更は首尾一貫性を欠き r移植の拒 否J(rejection of transplant)現象,またはそれを無効にする傾向を発生さ
社会主義企業管理方式と経済改草 237
せ,ポーランドの経済改革の経験が示すように,失敗に帰するものである的。
(4)経営公式とその類型
経営公式は管理機構のー構成要素であり,企業がそれにもとづいて機能す るところの原則であり,管理機構の中心機能は企業の経済活動,経済事象に 影響を及ぼすことであるO 企業内の経済事象は(1)企業内の人的および物的資 源の量と質, (2)企業経営者による決定,という 2要因に依存し,前者を所与 とすれば,経営者の決定は企業内で機能している情報,刺戟,補給システム の型に依存するo それゆえに,経営公式の役割は効果的な計四遂行にもっと も適し,また企業の側における経済的行・l1VJに資する情報,刺戟,補給システ ムを規定することにある7)。
すべての経営公式は次の6要素より構成されている8)。
1 会計方法(変換規則) ,ある経済事象の特徴を成功指椋とFS規制変 数lこ変換する。
2 成功指標とFS規制変数。
3 刺戟システムが基礎とする原理,これが成功指椋とボーナス基金の相 互関係を決定する(京JI戟規則)。
4 ボーナス基金
5 補給規則が基礎としている原理,乙れは成功指標やFS規制変数と企 業特別基金との関係を規定するO
6 企業特別基金。
経営公式は情報,京1Ji:九補給システムを規制するが,その椛造は上述の第 3要素である成功指標とFS規制変数の数によって次の3基本型に区別され る9)。
第1型,簡単な経営公式(第2図)
1 f回の成功指標より椛成され,それが同時にFS規制変数でもある経営公 式であるO 例としては,利潤が上述の2機能と果たす資本主義企業の経営公 式,およびユーゴスラヴィアの企業とチエコスロヴァキアで提案された企業 の型があるo
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¥
第 2図 簡 単 な 経 営 公 式 企 業 補 給 シ ス テ ム
¥』
企 業 刺 言Cステム
¥ ¥ / 企 業 戦 略 + 戦 術
山県 .T.G.Ziclinski, Economic Re/orms, op,cit. ,p. 156
第2型,複雑な経営公式(第3図)
二 シ
これはFS規制変数でもある成功指椋ともう一つのFS規制変数より桔成 される経営公式であるO モデノレとして企業の成功拍棋は利潤であるが,資源 の流れの一部分,賃金ブオンドは付加価値のような生産高指標によって,ま た他の部分,投資や辺転資金については利潤によって規制されるシステムを 考えることができる。
第 3図 複 雑 な 経 営 公 式
出典 J.G.Zielinski, Economic Reforms, op,cit. ,p. 158
第3型,高度に複雑な経営公式(第4図)
これは3箇以上の成功指標, F S規制変数をもって桔成される経営公式で
社会主義企業管理方式と経済改草 239 あり,そして現在ポーランド等の東欧諸国の企業で使用されている。この公 式では利潤という総合的成功指標のほかに,あるいは専ら企業活動の特殊領 域(投入,産出)に関する複数の特殊成功指標が使われ,それぞれにボーナ ス基金とボーナスが結合され,複数のFS規制変数が使用され,各々特別基 金に結合される。
第 4図 高 度 に 複 雑 な 経 営 公 式
山県 .J.G.Zielinski,op,cit. ,p. 160
このように経営公式の椛造は企業の目的を規定し10), そ の 選 択 の 自 由 の 限界を大よそ決定し,外部情報が企業に供給され影響を及ぼす桜式(次節参 照)を決定するO
注 1J. G. Zielinski, Economics and Politics of Economic Reforms in Eastern Europe," Economics of Planning, Vol. 9. NO.3. (1969) P. 279. 2 J. G. Zielinski Economic Reforms, op. cit., P. 150.
3 Ibid., PP. 150‑151.計四市成段附における企業の戦略については向者304‑305 頁に要約されている。
4 Ibid., PP. 151‑152.ジェリンスキーはその例として個別的コストプラス価格決 定方式のもとで総生注目が成功指犯として用いられるときの価格変化と需要の関係 をあげている。
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5 Ibid., P. 152.
6 Ibid., PP. 316‑320.ジェリンスキーはその一例として固定資本にたいする利子 徴収の失敗をあげている (ibid.,PP. 320‑321)。
7, 8 Ibid., P. 157. 9 Ibid., PP. 157‑159.
10 FS規制変数も資源の流入を規制するので間接的に刺戟機能をもち(ibid.,PP. 205‑209.)それゆえに複雑な経営公式,とりわけ高度に複雑な経営公式の場合に は,企業経営者にとっては多数の部分的目的が存在し,究極目標は公式自体からは 規定されない。究極目標が,したがって部分目標の限界代替率が中央計回当局によ って規定されていないならば,企業自身が目標函数を設定しなければならない
(Ibid., PP. 197‑198)。
町 社会主義企業管理の 2方 式
(1) 管理機椛の 2基本型。
企業の計画遂行と経済的活動を指導するために中央計回当局が使用する企 業への基本的情報伝達手段には, (1)経 常 価 格(operative price) , (2)ボーナ ス課題とボーナス額, (3)義 務 的 計 画 指 標 と 情 報 的 計 画 指 標 , (4)企 業 が 行 動 するときの原則一経営の公式の変更,がある1)。これらの中央計画当局から 企業への情報伝達手段は間接的,暗号的情報伝達手段(例えば,価格,ボー ナス額)と明瞭な,直接的情報伝達手段(例,計画指標,経営公式の変更) という 2つの基本的クツレープに分けられ,そのいずれを使用するかによって 管理機構の2基本型が区別される2)。 す な わ ち , パ ラ メ ー タ ー 型 ま た は 分 権 的モデノレと非パラメーター型または集権的,指令経済モデノレである。そして 乙の管理機構の型の相違はまた中央計画当局から企業に伝達された情報が影 響を及ぼす様式の相違をもたらす3)口
(2) 作 動 様 式 の 相 違
パラメーター型管理の作用は第5図に示されるO ただし,以下では簡単化 のために 2程類の情報伝達手段を価格と行政命令によって代表させ,簡単な 経営公式を使用し,補給システムは省略されている。
社会主義企業管理方式と経済改草 241
第 5図 パ ラ メ ー タ ー 型 管 理 価 格 変 化
出典 J.G.Zielinski,Economic Re/orms, ot,cit. ,t. 16.1
他方,非パラメーター型管理の場合,行政命令の作用は,理論的には第6 図に示されるもののように思われる。すなわち,行政命令は企業経営者によ
ってなされる決定に直接影響を及ぼし,その決定が経済事象に影響を及ぼす という情況である口しかしながら,このような情況の規定は,非パラメータ ー型管理においても経営公式が計画指令にたいする企業の反応に作用する刺 戟システムを含んでいるめという事実を看過している。多くの行政命令が事 実上企業によって実行されず, しかもそれは完全に企業外の要因によるもの とは限らない。この現象は経営公式と現行価格体系によって決定される企業 の経済的利益と計画目標とのあいだの矛盾が現行経営公式によってひき起さ れることによるものである。ここからジェリンスキーは行政命令と企業決定 の相互関係の正しい解釈として第7国を示す。すなわち,行政命令は企業の 成功指標とボーナスの将来の水準に影響を及ぼすという形で作用する5)。
第 6図 非 パ ラ メ ー タ ー 型 管 理
行 政 命 令
出!l4J.G.Zielins正i',Economic Rr/orms, ot,cit. ,t. 163
第 7図 非 パ ラ メ ー タ ー 型 管 理 行 政 命 令
出典 .J.G.Zieli・nski,Economic Rr/orms, ot,cit.,t.164
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パラメーターと行政命令という相具なる型の情報伝達手段の作用の相違は さらに次のような差異を惹き起す。
l 刺戟システムとの関係
パラメーターは刺戟システムと有機的に結合され,この結合によってはじ めて機能する。行政命令も刺戟に関しては,上述のように,およそ無関係で はないが,その関係は間接的であるO すなわち1"パラメーター型管理は京JI 戟システムを通じて (through)直接に機能するD 他方,行政命令にもとづ
く管理は,理論的には, n~IJ :I克システムと並んで (alongside)政能する6)0 J その結果として,実際の経験によれば,行政命令と刺i伐のあいだに発生する 不斉合性は非パラメーター管理につねに存在している7)ということになる。
2 企業経営者の評価と決定
パラメーター型管理は企業経営者による独立した評価と決定に基礎をお くO パラメーターの大きさの変化は企業にたいするd情報にすぎない。したが ってそれは企業経営者の側での独立した評価を許し,ノマラメーターの変化に どのように反応するかは計画実行の直接関係者たちの知識,経験,自己利益 に依存するO そしてこのことは企業内で創立が発押されることを可能にする という大きな怠義を有するO それはまた経済条件の変化や国民経済情報シス テムの機指にたいする経済組織の反応の質や速度にとっても主要である8)。 他方,行政命令は,命令であるから,必らずしも適切な調整の余地を残す とは限らず,さらに矛盾した行為,例えば利潤の増加と企業の製品椛成の不 利な(前者の達成からみて〉変更を同時に達成すべきこと,を要求すること が起りうる9)。その場合に,部分目棋の限界代替率が中央計画当局によって 決定されていないならば,企業がそれを決定せねばならず,企業経営者の評 価と決定の余地が存在するO
3 水平的情報の利用可能性
非パラメーター型管理システムでは,企業から中央計画当局へ,およびそ の逆の垂直的情報が支配的な情報であるD 対照的に,パラメーター型管理シ ステムでは,もっとも主要な情報のみが中央計四当局によって収集され,整 理され,パラメーターの変更という形で計画実行者に伝達されるO しかし,情
社会主義企業管理方式と経済改草 243 報の大部分は供給者と買手との直接的接触によって得られる水平的情報であ
り,このことは情報の経路を短縮し,情報の歪曲の可能性を小さくし,決定 をスピード・アップする乙とを可能にする10)。
4 企業の権限領域の広さと安定性
企業が統制する権限もしくは権利をもっ経済事象の範囲=企業の権限領域 は使用される管理の型と方法とに密接に関連している11)。 一 般 に パ ラ メ ー ター型管理は企業により広い権限領域を与える経営公式を伴ない,非パラメ ーター型管理は企業に狭い権限領域を与えるO 他方,経営公式において企業 の権限領域が大きければ大きいほど計画実行者の行動の制御はパラメーター 的となり,逆の場合は逆になるD それゆえに両者の関係は相互的である。第 ーに,パラメーター塑管理は,もし企業がかなり広い範囲の権限飢域をもた ないならば不可能であるO 企業が投資に関する決定を行なわないところで は,生産手段の価格水準や企業の投資に課せられる利子の率によって行使さ れる影響力はその余地も,その必要性もない。他方,パラメーター的位四シ ステムのないところでは,計四実行者に広い範囲の権限を委譲することは許 されない。けだし,その場合,中央計画者は企業に許された決定に影響を及 ぼすことのできる手段をもたないからであるo
要するに,i:Eしく形成されたパラメーターの休系のみが中央計画当局の要 請に一致した計四実行を可能にし,また同時に企業にかなり広範な権限領域 を与えるO 換言すれば,パラメーターは計画実行者の決定を,形式的に権限 の範囲を狭くすることなしに,望む方向に探抗することを可能にするのであ る12)。
権限領域についてもう一つ主要なことは,管理システムと企業の権限領域 の安定性との関係である。非ノマラメーター的管理では企業の権限領域は狭い のみならず,通常「可変的」であり,企業は権限と責任の恒久的な初回をも たない。企業の外部の経済の変化に対応して上納管理者は新たな傾域につい ての指令を出し,または廃止することによって企業経営者の権限餌域を拡大 したり出小したりするD 他方,パラメーター的官・理では企業の椛限飢域は広 いのみならず,一般に「安定している。」それは当面する経済の変化につい
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て 企 業 は パ ラ メ ー タ ー の 変 化 に よ っ て 情 報 を 与 え ら れ る か ら で あ る 。 パ ラ メ ー タ ー 的 管 理 シ ス テ ム に お い て 権 限 領 域 の 変 更 が あ る と す れ ば , そ れ は 企 業 が そ れ に も と づ い て 行 動 す る 原 則 で あ る 経 営 公 式 そ の も の が 変 更 さ れ る 場 合 である13)口
注 1 J. G. Zie1inski, Economic Reforms. op. cit., PP. 160‑161. 2 Ibid., P. 161. do. Economics and Po1itics," op. cit., p.279 ff.
なおノfラメーターが中央計画当局によって決定されるか,市場によって決定される かによって,さらにこの型は2分される (ibid.)。乙の分類は経済改革の分類に
とって主要である(次節参照〉。
3 Zie1inski, Economic Reforms, op. cit., P. 161 ff.
4 W.プノレス (W. Brus)若,鶴岡主成訳『社会主義経済の機能モデノレj(合同出 版社, 1971) 115頁参照。
5 第6図とこの説明から郊7図をさらに柿えば,第8図のようになるであろう。
第 8図 非 パ ラ メ ー タ ー 型 管 理
行 政 命 令 r‑一一一一ーー一一一一一一一一一ーーーーーーーーーーーーーーー一一一一一一ーーーーーーーー‑r‑‑‑‑'
r一 一 一 つ 「 一 一‑‑1 「 一 一‑‑iX一一一-,,~,1 r i'‑=‑‑主力 「 ー ー ー 寸 i
L苛経済事象卜-~変換規則「ー角成功指標←司刺戟規則 r-封基 金l決 定「J
」一一一一‑.J L ̲一一一一I L̲̲一一ーJ L一一一一一.J L一一ーーーi¥L一一一一ー
6 Iパラメーターと行政命令という異質な情報伝達手段の使用は不可避的に計画実 行者に同じ情報を伝えるのに異なる情報手段の同時的使用へと導く。しかしながら 今日,乙れらの具なる手段が正確に同じ情報を伝えるととを保障する乙とはできな い。 J(Zielinski,Economics and Po1itics," op. cit., PP. 282‑283.)そ の結果,当初の計画を実現するために追加的な計回指椋が課せられ,かくして「指 標の増殖」現象が発生するとととなる (See. Zie1inski, Economic Reforms, op. cit., p. 114ff. P. 310.)。
7, 8 Zie1inski, Economic Reforms, op. cit., p. 165. 9 Zie1inski,Economics and Po1itics," op. cit., P. 283. 10 Zielinski, Economic Reforms, op. cit., PP. 165‑166. 11 Ibid., P. 166ff.
社会主義企業管理方式と経済改草 245 12 乙とから「価格改定が経済改草(分権化〉成功の必要条件である」というラテー
ゼが出てくるが,それは「非常に部分的な真理であるJ(ibid. P. 313) 0 けだ し, r価格改定は経済改草の必要な前提条件であるが,しかし経営公式が有効な価 格改定を可能にするように同時に変更されないならば価格改定は成功しない」
(ibid. P. .314.)という相互的関係があるからである。
13 Ibid., p.166ff.
V 経済改草にたいする合意一一結びに代えて一一一
(1) 経済改草の型
ジェリンスキーによれば,経済改草の分野には, (1)新 し い シ ス テ ム の 設 計 と, (2)事rrシ ス テ ム へ の 効 果 的 な 移 行 , 改 草 の 実 行 と い う こ つ の 問 題 群 が ある1)。東欧諸国の経済改草は経済の計画と管理における分権化, したがっ てパラメーターを利用した管理への移行という点では共通しているが,市場 型改革と技術主義的改草 I誘導市場」型改草と中央計四の改善型改草と 2 分されるように,大きく分けて 2つの型が存在するD これは前者の問題群,
新しいシステムの設計による,すなわち新しいシステムで使用される管理機 構の型による区分である。
管理機構は,既述のように,使用された日報伝達手段の程類によってパラ メーター型と非パラメーター型の 2基本型に区分されるが,パラメーター型 はさらにそのパラメーターが中央計画当局によって決定されるか,市場ーによ って決定されるかによって,固定ノマラメーター型 (state‑parametric type) と市場パラメーター型 (market.parametrictype)と に 区 分 さ れ る2)。と ころが現実の東欧の経済改1fiはこの分類阿波密には一致せず,いずれも混合 型であるO すなわち,市場パラメーター型 I誘導市場」型といわれる改草 は市場決定パラメーターと国定パラメーターを同時に使用し,他方,国定パ ラメーター型,技術主義的,中央計画の改善型といわれる改212は国定ノマラメ ーターの使用の拡大をはかるが,それと同時に大規扶に行政命令をなお使用 するのである3)。
上述の,志向される管皿機椛の型による経済改平の分類はまた改革の実
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行,新システムへの移行政策の差異を伴なっているO ジェリンスキーはこの 点について次のように述べているo
「東欧諸国の経済改草の設計図の研究によれば,意図された改草の深さと 同様に移行期の性格に関する見解の,興味ある差異が明らかになるO
プノレガリア,チェコスロパキア,ハンガリーのように野心的な改草を計画 している国は明確な,比較的短い (3‑ 4年)の移行期間について語り,遠 大な改草が必要とされていること,新しい経済システムが質的に新しい現象 であることを強調している。
他方, r用心深い改草者j (束独,ポーランド)レーマニア)は改草を不 断の変化の,ゆっくりとした漸進的な過程として表現する傾向があるめ。」
(2) 管理機構の型とその作動様式の合意
前述のように,市内パラメーター型,誘導市場型改革は市場決定パラメー ターと国定パラメーターという同質の情報伝達手段を使用し,国定パラメー ター型,中央計画の改善型改草は国定パラメーターと行政命令という異質・な 情報伝達手段を用いる。この相違は計画化の性格,産業組織の型,伝達され る情報の斉合性,経済計算のためのデータの質について大きな影響を及ぼ す6)。国定パラメーター型改草の場合,伝統的計画システムの特徴(とりわ け計画の普通性一ーすべての単位がそれぞれの計画をもち,計画化に参加す ることーーと3段階の計画化) ,計画伝達装置としての企業迎合の存在,を 保持し,国定パラメーターは使用するが,依然として行政命令が支配的な情 報伝達手段であるD それゆえに,前節に述べたパラメーターと行政命令の作 用様式の差異はそのままこれらの二つの改草の型にも妥当するものといえるD
パラメーター型管理は,既述のように, (1)企業の刺戟システムを通じて作 用し,企業に適応過程の余地を残すので情報の斉合性を保持できること, (2) 企業の独立した評価と決定にもとづいており,それゆえに創立工夫の発拝が 可能であり,また反応速度やその質が向上する乙と, (3)水平EI':J't吉報が利用可 能であり,それは情報経路の短縮,情報歪曲の可能性の縮小,決定のスピー ド・アップを可槌にすること, (4)企業の権限領域が広く安定していること,
というところから,計画実行の指導においても経済効率においても,非ノマラ