論文要旨
保健師の家庭訪問による子ども虐待予防支援評価尺度の開発 鈴木浩子
1. 目的
子ども虐待予防に向けた,ハイリスク家庭に対する保健師の家庭訪問による支援は,効 果が見えにくく,評価が難しいと指摘されている。本研究の目的は,保健師の家庭訪問に よる子ども虐待予防の支援の成果を測定する評価尺度を開発し,その信頼性,妥当性を検 証することである。あわせて,尺度の活用可能性を検討するため,構成概念間の関係性を 検証することとした。
2. 方法
研究方法は3段階を設定した。第1段階では,自治体保健師9名を対象とした半構造化 インタビュー調査と文献検討により,尺度項目を収集,整理し,構成概念を検討した。第 2段階では,虐待予防にかかわる自治体保健師,公衆衛生看護学分野の研究者との検討お よび予備調査により,尺度項目の内容妥当性の検討と洗練化を行い,尺度試案を作成した。
尺度試案は7つの構成概念,45の尺度項目で構成された。第3段階では,本調査として 自治体保健師を対象に,無記名自記式の調査票を用いた郵送調査を実施し,尺度の信頼性,
構成概念妥当性,基準関連妥当性(併存妥当性),構成概念間の関係性を検討した。調査 票は,人口2万人以上の市町村1,273か所に郵送した。調査内容は,保健師が子ども虐待 予防に向けて,現在または過去に支援した1事例に関する事例調査で,調査項目は,回答 者の属性,事例の属性,事例への支援状況,尺度試案45項目(5段階のリッカートスケ ール,「支援開始時点」と「支援後」の2時点で回答),妥当性を確認するための項目とし た。調査期間は,2015年2月~3月であった。なお,本研究は,平成26年度首都大学東 京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を受け,実施した(承認番号14093)。 3. 結果
本調査の調査票の回収は431通(回収率33.9%)であり,そのうち尺度試案45項目の 回答に欠損のない380通を分析対象とした(有効回収率29.9%)。保健師の経験年数は平 均16.2年(標準偏差7.2年)であった。回答された事例への支援理由(複数回答)は,母 親の育児能力が低い・または疑いあり240例(63.2%),母親の精神状態が不安定199例
(52.4%)などであった。子どもへの虐待が疑われた事例は128例(33.7%),虐待が確 認された事例は69例(18.2%)であった。
尺度項目の45項目の項目分析により,天井効果のみられた3項目,I-T相関が0.3以下 であった3項目を除外し,39項目で主因子法・プロマックス回転による探索的因子分析 を行った。その結果,7因子28項目が抽出された。以下,各因子を【 】で示す。第1 因子を【保健師への信頼】(7項目),第2因子を【育児へのいらだちのコントロール】(4 項目),第3因子を【基本的養育の維持と実践】(4項目),第4因子を【子どもへの肯定的 感情】(5項目),第5因子を【子どもの健康】(3項目),第6因子を【育児支援サービスの 利用】(3項目),第7因子を【家族のサポート】(2項目)とそれぞれ命名した。尺度の Cronbach's α係数は0.92(各因子0.80~0.91)であった。基準関連妥当性の検討として は,「簡易版家族生活力量アセスメントスケール」のサブスケール「健康維持力」「健康問
題対処力」の得点,および「対象事例への虐待予防の支援効果(10段階評価)」と,尺度 総得点,因子得点との相関を確認した。全ての項目で有意な相関がみられた(
p
<.01)。「支 援開始時点」「支援後」の評価得点の平均値は,尺度総得点,因子得点ともに支援後が有 意に高かった(p<
.001)。また,母親と子どもの状況にかかわる第1因子から第6因子を潜在変数として,共分散 構造分析により構成概念間の関係性を検討した結果,【保健師への信頼】を外生変数とし た関係が示された。【保健師への信頼】の得点が高いほど,【育児支援サービスの利用】【子 どもへの肯定的感情】の得点が高かった。さらに【育児へのいらだちのコントロール】【基 本的養育の維持と実践】といった,より望ましい育児状況につながる関連がみられ,最終 的に関連する内生変数は【子どもの健康】であることが,定量的に示された。
4. 考察
本研究で開発した尺度は,信頼性,構成概念妥当性,基準関連妥当性が確認された。本 尺度は,子ども虐待予防に取り組む保健師が,支援を行う対象事例に,虐待予防に向かう 改善がみられるかどうか,支援の成果を確認することに活用できると考えられた。また,
構成概念の関係性の検討から,【保健師への信頼】は,支援を進めるための基盤になるこ とが示された。すなわち,虐待予防の支援の成果として【保健師への信頼】が形成される ほど,母親の育児の質や子どもの健康にかかわる肯定的な成果があらわれやすくなること が示唆された。本尺度は経時的な評価により,支援の進展を確認することが可能である。
保健師にとって,信頼関係を育む支援が,新たな成果につながる可能性を高めることを認 識したうえで,評価を行い,支援に取り組めることの意義は大きいと考える。本尺度の活 用により,家庭訪問による虐待予防に向けた支援について,保健師が自らの実践を評価し,
その質の向上に役立てることが期待できる。