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弗化亜鉛の加水分解による 酸化亜鉛単結晶の成長過程

久保為久麿・戸北凱惟

(昭和39年11月9日受理)

Process of the Crystal Growth of Zinc Oxide by Hydrolysis of Zinc Fluoride

Ikumaro KUBO and Yoshinobu TOKITA

Abstract

Under the various conditions, zinc fluoride was hydrolyzed in the platinum crucibles at elevated temperatures. The distributions and the surface patterns of the products and the grown crystals were investigated. The experimental results seem to support the suggestion that the first stage of the crystal growth of zinc oxide is hydrolysis of the deposited zinc fluoride on the surfaces of the zinc oxide crystals.

緒言

ハロゲン金属の高温での加水分解に伴う金属酸化物結晶成長機構の研究は従来あまり行われ ていないようであるGrisdalbは気相反応により一旦気相と固相との中間物質が結晶表面に 凝縮した後,引,松き反応が継統して最終の酸化物結晶となると推定した。1)叉DIXON &

Kaneは塩化マ‑/ガ‑/が水素の存在において水蒸気と反応して酸化マ=/ガ‑/結晶が成長する 際,酸化マンガンのwhiskerの位置まで塩化マンガンの蒸気が拡散した後に加水分解し,固 相の準安定な中間物を経由して酸化物結晶となることを推定している02)これらの報告におい

てはいづれもその推論の裏付けとなる直接的な実験結果は明らかにされていないようである。

われわれは弗化亜鉛が空気中で高温加熱されると酸化亜鉛結晶が得られること。3)その際反応 に寄与するものは空気中の水蒸気であることを明らかにした。4)又同時に酸化亜鉛結晶表面に

*日本電子顕微鏡学会九州支部例会(長崎)で昭和39年10月10日講演

**長崎大学学芸学部物理教室

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久保為久麿・戸北凱惟

弗化亜鉛蒸気が一旦凝縮した後加水分解して酸化亜鉛となり,それが酸化亜鉛結晶表面上で拡 散配列することを推論した。従ってわれわれの立場は酸化亜鉛結晶成長のはじめの過程におい てはG斑SDALE流よりもむしろDlxON&KANEのそれに似ている。われわれは更に湿った 窒素ガスのふんいきの中で弗化亜鉛を種々の条件で加水分解させて結晶を成長させ,その成長 領域の温度測定,生成物の分布および結晶の外貌の金属顕微鏡による観察ならびに結晶のX線 法による同定などを行った。今回はこれらの結果と,この実験によって得られた結晶に対応す

る初期の結晶製作法で得られたものの表面の電子顕微鏡による観察結果とを併せて報告する。

実  験  要  領 A.装置1(第1図)

 使用した電気炉の温度勾配を第2図に示す。温度測定には白金:白金・ヂウムの熱電対を用 いた。第1図において,二枚の白金板Lのうち下方の一枚は,白金パィブGを通って白金るつ ぼA1(深さ150観径40槻)内に送入されるガスの調節,および・qプGの先端で結晶が成長す るのを防ぐためのものである。第3図に下方の白金板がない場合の酸化亜鉛微結晶生成の模様 を示す。又白金板:Lは約9600Cより高温領域においた。二個の容器から別々に白金るつぼA・

に送入されるガスの流量は夫々流量計Mの読みとノズルJ1,J2で調節された。叉送入ガスの 脱水にはシリカゲルと液体酸素のcooling trapを用いた。白金るつぼA1の底部に装填され た約109の弗化亜鉛は以下述べる種々の場合について夫々15〜20時間約11000Cに保たれた。

 i l J1から湿った窒素ガス,J。から乾燥した窒素ガスを流した場合。

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L−A臨

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   第1図装置I

A1一白金るつぽ  B一電気炉

G ・一・白金パイプ  L・一白金板

J且,J2一ノズル   M一流量計

1150

1050

 950

  0      A 15       30

       cm→

   第2図 電気炉の温度勾配

原点は電気炉の上端を,横軸は電気炉

の深きを示す。横軸ヒのAは白金るっぽ

A1の底部の位置を示す。

(3)

 (召)湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を一定にして白金板Lを温度領域960。Cにおく。

 (δ)湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を一定にして白金板Lを温度領域960〜10000Cで変 化させる。

 (o)白金板Lを温度領域9600Cにおき湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を変える。

 ii;J,から乾燥した窒素ガスを送入した場合。

iii;J,から湿った窒素ヴス,J2から乾燥した窒素ガスを流した後,J1からのガスの送入を 絶った場合。

B.装置H(第4図)

 装置1と異なる点は,白金板Lの上に更に小さな白金るつぽA2が設けられ,白金パィブG の送入ガスの出口と加熱される弗化亜鉛の位置を上下に入れかえたことである。この場合はる つぼA1に湿った窒素ガスのみを送った。

 以上述べた装置1,1の場合について,白金パイプ壁や白金るつぼ内壁に附着した生成物の 分布の観察,X線法による生成物の同定,成長結晶の金属顕微鏡による表面観察を行った。

第3図装置1で,白金パイプGの末端に自金板を一 枚だけ取1)付けた場合に湿った窯素ガスの中で成長し た酸化亜鉛結贔の模様を示す。

サ叩。『

G 8 L

Jg

1 叩r

A2

A5

第4図、装置狂

A2一一白金るつぼ

実  験  結  果 A.装置1

i;」1から湿った窒素ガス,」。から乾曝した窒素ガスを流した場合。

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久保為久麿・戸北凱惟

 (α)湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を9.5×10『39/hにして白金板Lを温度領域9600Cに

おく。

 針状,黄色の酸化亜鉛結晶がるつぼA1の内壁,および白金パイブGの側壁の温度が850〜

9000Cの領域に略々放射状に成長した。特に最も長く,かつ最も密に成長した領域の温度は約 900。Cである。この領域より下部(高温領域)には弗化亜鉛の薄い膜が形成されていた。針状

の酸化亜鉛結晶の外貌は一般に根本の方ほど細く,かつなめらかな表面を持つが,先端になる ほど太く,表面の凹凸が甚だしい。稀に白金板Lの上方の板から垂直上方に表面のなめらかな 酸化亜鉛針状結晶が成長するのがみられた。成長結晶の代表的なものを第5図に示す。

 (6)湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を9.5×10−39/hにして白金板:Lを温度領域960〜

10000Cで変化させる。

 酸化亜鉛結晶の成長領域は(召)と殆んど同様であった。

 (c)白金板Lを温度領域9600Cにおき湿った窒素ガス中の水蒸気の流量を変えた場合。

 酸化亜鉛結晶と弗化亜鉛薄膜の附着領域は (α) と殆んど同様で,水蒸気の流量が9.5×

10−39/h以下の場合は,水蒸気の流量が減少するにつれて,針状結晶を得るためにはより多く の加熱時聞を必要とした。一方水蒸気の流量が16.0×10−3g/h以上の場合は,比較的短時間内 に酸化亜鉛微結晶の附着がみられたが,加熱時闇を増しても針状結晶は得られなかった。

 ii;Lから乾燥した窒素ガスを送入した場合。

 第6図に示すように羽毛状に針状弗化亜鉛結晶がA1およびGの壁に略々放射状に成長し た。その最も長く,且つ最も密な領域の温度は約9000Cであった。この領域より下部(高温 領域)では,その長さは薯るしく減じており,その下地は弗化亜鉛の薄い膜からできていた。

得られた針状の弗化亜鉛結晶は脆く,その表面には斑点や短かいwhiskerが散見され,叉第 7図に示す如くなめらかな丸昧を呈している。

 iii;」1から湿った窒素ガス,J2から乾燥した窒素ガスを流した後,J!からのガスの送入を 絶った場合。

 結晶の成長領域ならびに弗化亜鉛の薄膜の附着領域は(α)と殆んど同様であった。成長し

た針状結晶は酸化亜鉛と弗化亜鉛を含んでおり,その表面は酸化亜鉛結晶よりもややうすい黄

色を呈していた。結晶の表面模様は弗化亜鉛結晶に類似したものと酸化亜鉛結晶に類似したも

のに大別できるようである。前者に属するものの表面は光顕下ではガラス様の光沢を有してお

り,所々に短かいwhiskerの成長しているのがみられた(第8図)。又場所によっては微粒

子の集合よりなる薄膜で被われた部分もみられた。この薄膜は下部から下地と同じものに変化

してゆく傾向がある(第9図)。第10図と第11図に夫々ガラス様の光沢を有する表面,ならび

に微粒子の集合した薄膜の部分に対応する電子顕微鏡写真を示す。酸化亜鉛結晶表面に類似す

るものの表面として酸化亜鉛のbasa1面と同様の面上に六角錐台や円錐台がみられた。一例

を第12図に示す。これらはお互に融合して新らしいbasal面を形成する傾向がみられた。

(5)

B.装  置 豆

 弗化亜鉛紛末(約109)の装填された小さな白金るつぼA。の底部を約20時間,約910◎Cに 保った場合,針状の酸化亜鉛結晶(長さ約2観)がA、内の温度約9000Cの壁上にみられたが 大きな白金るつぼA1の壁にはどこにも見られなかった、この場合白金るつぼA2の側壁の温度 勾配は10C/徽であった、

考 察

 高温に加熱された弗化亜鉛は加水分解して特に長い針状の酸化亜鉛結晶が約900。Cの白金る つぼ壁に成長する・気桿反応によって酸化亜鉛蒸気が生成されると仮定して・弗化亜鉛の加熱 温度が1σ500Cのとき,酸化亜鉛結晶成長領域における酸化亜鉛蒸気の過飽和度は10・にもな

り,実験で得られるようななめらかな針状結晶が成長するには余りにも大きすぎることを既に

報告した5)。一方酸化亜鉛蒸気の過飽和度がこのように大きくても酸化亜鉛結晶表面に拡散し

てゆくまでにその値は減少する可能性もあるという反論もでてくるだろう。仮にそうだとする

と,装置Eを使用した場合に大きい白金るつぼA,の内壁にも酸化亜鉛結晶成長がみられたは

ずである。小さな白金るつぼA。の壁にのみ酸化亜鉛結晶の成長がみられたという実験事実は

酸化亜鉛蒸気がるつぼ内で拡散していないという推察を支持するようにみえる。 叉,仮に気

相反応でできた酸化亜鉛蒸気や,弗化亜鉛と酸化亜鉛との中間物がるつば壁に凝縮したとする

と,るつぼ壁の約9000Cより高温領域ではそれらが再び結晶成長実験全体を通じてみられるよ

うに,始めの弗化亜鉛に逆戻りしたことになる。溶融した弗化亜鉛は白金壁を潤す傾向があ

るので白金るつぼA,の壁に形成された弗化亜鉛薄膜はこの這上りによる場合があるかもしれ

ない。然しながら白金るつぼA1内に吊した白金パィブGの壁に,るつぼの底部から溶融した

弗化亜鉛が這い上るということは考えられない。以上のことから弗化亜鉛が加水分解した後酸

化亜鉛結晶となる過程では,まづ弗化亜鉛蒸気が白金るつば壁や白金パイプ壁に凝縮した後加

水分解するものと考えてよいであろう。長い針状の弗化亜鉛結晶や酸化亜鉛結晶が何れも殆ん

ど9000C附近の壁にできることと弗化亜鉛の融点は高圧下で8720Cであることは密接な関係が

あるように思われる。一旦るつぼ壁や白金パィプ壁に凝縮した弗化亜鉛はその融点より高温領

域の壁では凝縮位置から移動し易く,特に本実験で用いられたような装置に於いては下方に向

って流動し易いことが考えられる。叉融点より低温領域の壁では弗化亜鉛は凝縮位置に束縛さ

れる傾向が大きいだろう。一旦酸化亜鉛結晶が成長しはじめると,引きっづき,その表面に

凝縮した弗化亜鉛は加水分解して酸化亜鉛となる。さらにそれを核としての結晶の成長は白金

るっぼ壁や白金パィブ壁でと同じように弗化亜鉛の融点附近の温度をもつ酸化亜鉛結晶表面で

優勢であることが推察される。第5図に示されたように短かい酸化亜鉛結晶の表面の先端が根

本より滑らかなのは結晶周囲の雰囲気中の水蒸気の濃度のより少いことによるものと考えられ

(6)

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久保為久麿・戸北凱惟

る。 同じ図でみられる最も長い酸化亜鉛の針状結晶は白金板Lの上方の板の表面から上方に 成長したものである。 これは装置内部での白金板の幾何学的位置から察せられるように結晶 の成長位置が水蒸気の濃度の比較的小さい領域にあったことによるものと考えられる。第6図 に於てかなり短かい弗化亜鉛結晶が,約900。Cよりも高温であった白金パィブ壁の弗化亜鉛 薄膜の上にも成長しているのがみられる。湿った窒素ガス中であればこのような弗化亜鉛薄膜 上の弗化亜鉛の一部がたとえ酸化亜鉛に変化するとしても,酸化亜鉛結晶の成長に寄与しにく い。乾燥した窒素ガス中では弗化亜鉛の薄膜上の弗化亜鉛はこのように900。Cよりも高い温度 領域であってもある程度弗化亜鉛結晶成長の場となる可能性のあることと,電気炉を冷却する 過程において結晶成長に適する9000Cの温度領域が白金壁に沿って下方に逐次移行することと が重なったためと考えられる。一.旦酸化亜鉛結晶を成長させて,それを弗化亜鉛蒸気の中に おいた場合に得られた結晶の浸面のうち,第9図で数本の短かいwhiskerが,ガラス様の 光沢を有する下地から成長しているのがみられる。叉その下地上で尖頭を出しかけているのも みられる。弗化亜鉛結晶の表面でも同じような短かいwhiskerが成長しているのがみられる ことからこの結晶の表面は一部弗化亜鉛結晶で被われていると考えられる。第9図のガラス様 の光沢を有する下地の部分に対応する電顕写真第10図,および第9図の微粒子の集合よりなる 薄膜の部分に対応する電顕写真第11図からわかるように,その表面に傾斜のゆるやかなstep がみられるとはいうものの酸化亜鉛結晶の表面と違ってかなり荒れている。この微粒子が何で あるかは現段階に於ては明らかでないが微粒子の薄膜の下部からガラス様の表面に変化する傾 向がある。今述べた表面模様を示すものと違って,結晶の表面上に第12図のような錐台を生じ ているものもある。このような錐台は酸化亜鉛結晶のbasa1面と同様の面上にみられる。又 これらの錐台は隣接したもの同志融合してbasal面を形成する傾向がありその錐台の中間に はかすかな六方形の交叉線を生ずる。これら二種の結晶表面は,いづれも水蒸気の欠乏したふ んいき中で生成されたもので弗化亜鉛と酸化亜鉛の中間の様相を呈しており,弗化亜鉛が加水 分解して酸化亜鉛結晶になる過程を示すものであると思われる。

結 語

 実験の結果は,弗化亜鉛が加水分解して酸化亜鉛結晶が成長する過程の最初の段階では,酸 化亜鉛結晶表面に凝縮した弗化亜鉛が加水分解するという我々の推察を支持するように思え る。弗化亜鉛で被われた酸化亜鉛単結晶の表面の観察は,加水分解された弗化亜鉛が酸化亜鉛 単結晶に変化する過程の情報を提供するように思われるので目下この研究を続行中である。

 最后に,本研究に対し援助を賜わった学芸学部長沢英久教授,物理教室主任土肥重政教授に

厚く感謝の意を表します・叉種々御助言を賜わった広島大学理学部微晶施設長吉田鋪教授にも

併せて謝意を表します。

(7)

l)  2)  5)  4)  5) 

=  f 5C   

GRrsDALF. R. O. : Growth from Molecular Complexes, in The Art and Science  Grow'e Crystals, edited by J. J. GILMAN (John Wiley and Sons Inc. , 1965)  DlxoN. Thomas E. and Richard A. KANE : Appl. Phys. 34 (1965) 2774. 

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参照

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