生命保険契約者による保険金請求権に対する 質権設定の可否
第一審:東京地判平成 22 年 1 月 28 日(金融・商事判 例 1359 号 57 頁)
平成 22 年(ワ)第 1035 号、保険金等請求事件
控訴審:東京高判平成 22 年 11 月 25 日(金融・商事 判例 1359 号 50 頁)
平成 22 年(ネ)第 1247 号、保険金等請求控訴事件
佐 野 誠*
1.事案の概要
本件は、被保険者でもある生命保険契約者が保険金受取人の同意を得ず に、自己の債権者のために死亡保険金請求権に質権を設定し、その後被保険 者が死亡したことにより、当該質権者が質権の実行として保険者に対して死 亡保険金を請求した事案である。
(1)X は、昭和 55、56 年ころ、歯科医師である A が金融機関から歯科医院 の開業資金を借り入れる際、その借入れの連帯保証人になったが、昭和
*福岡大学法科大学院教授
58 年ころ、A が借入金の返済を完了せずに行方不明となったため、A に代わってこれを弁済した。
(2)X は、平成 12 年 7 月ころ、A の所在を探し出し、A と話合いを行った 結果、A は、同月から、X の A に対する求償金相当額を貸金として、X に対し、毎月 10 万円程度の弁済をすることになった。なお、X は、こ のころから、弁護士である Y2 に対し、X の A に対する貸金債権につい て相談をするようになった。
(3)A は、平成 13 年 2 月 1 日、生命保険会社である Y1 との間で、A を被 保険者とする普通死亡保険金額 1,500 万円の利差配当付き終身保険契約
(以下「第 1 回保険契約」という)を締結したが、保険料の支払が 7 ヶ 月で滞ったため、同保険契約は失効した。なお、A は、平成 14 年 5 月 14 日、Y1 に対し、第 1 回保険契約の失効による解約を請求し、28,802 円の解約返戻金を受け取った。X は、第 1 回保険契約を上記(2)の貸 金債権の担保に利用しようと考え、Y2 に相談していたが、上記のとお り、同保険契約が失効したため、担保の設定に向けた具体的な手続を行 うことはなかった。
(4)X は、第 1 回保険契約が保険料の不払いによって失効したことを知り、
上記(2)の貸金債権の担保にするため、再度、A に生命保険に加入す ることを求め、Y2 に担保の方法を相談した。
(5)Y2 は、平成 13 年 11 月 8 日、X に対し、それ以前に提示していた X と A との間の弁済契約書案の補足をするとともに、生命保険の保険金請求 権に対する質権設定として、承認裏書手続の方法を助言した。
(6)Y2 は、平成 14 年 1 月 30 日、Y1 の B 支社に電話をし、生命保険契約 上の権利に対して質権設定を行うに当たり、保険証券の質権設定承認の 旨を裏書してもらいたいとして、その書式を問い合わせた。Y1 の担当 者は、平成 14 年 2 月 1 日、X に対し、保険金請求権について世間を騒
がせるような犯罪が多発しているので、現在は質権設定の承認裏書とい う方法は取り扱っていない旨回答した。そこで、Y2 は、保険契約者が 保険会社に対し、内容証明郵便で通知を出すしか方法がないのかと質問 したところ、Y1 の担当者は、そのとおりである旨回答した。
(7)Y2 は、平成 14 年 2 月 1 日、X に対し、質権設定通知案及び弁済契約書 案を送付した。
(8)X は、本件生命保険契約が締結される以前に、当時、Y1 の B 支社 C 支 部に所属する営業職員であった D に対し、X の A に対する債権を担保 するため、A に生命保険に加入してもらうことになっており、A もそれ を同意しているから、生命保険の加入手続をしてもらいたい旨依頼し、
D はこれを了承した。
(9)A は、平成 14 年 5 月 9 日、D から本件生命保険契約の内容の説明を受 け、Y1 に対し、本件生命保険契約の申し込みをし、平成 14 年 6 月 1 日、以下の生命保険契約が締結された。
保険種類 5 年毎利差配当付終身保険(85 歳満期)
保険契約者・被保険者 A 死亡(高度障害)保険金額 1,350 万円 満期保険金額 1,350 万円
死亡保険金受取人 Z(A の妻、Y1 の補助参加人)
満期保険金受取人 A
保険料 65,489 円(月払)
社員配当金支払方法 利息を付けて積立て
なお約款上、保険契約者又はその承継人は、被保険者の同意を得 て、保険金の受取人を指定又は変更することができる。
(10)X は、平成 14 年 6 月 30 日、A との間で債務弁済契約を締結した。本 債務弁済契約中には「A は・・・債務の履行を担保するため・・・生
命保険契約・・・の保険金請求権に X を質権者とする質権を設定す る。A は、本件債務弁済契約締結と同時に、本件生命保険契約の保険 証券を質権設定のために、X に交付する」との条項がある。
なお、A は、平成 17 年 6 月 24 日までの間に、X に対し、505 万円 を支払ったが、その後 2 回にわたって延滞したため、平成 17 年 7 月末 日の経過をもって期限の利益を喪失し、債務残高は 2,395 万円である。
(11)A は、本件債務弁済契約締結後、本件生命保険契約に係る保険契約書 を X に引き渡し、Y1 に対し、平成 15 年 2 月 6 日付け内容証明郵便に より、同 14 年 6 月 30 日付け質権設定通知書を送付し、Y1 は同 15 年 2 月 6 日ころ、同通知を受領した。同通知の内容は、以下のとおりで ある。
A が加入している Y1 の下記生命保険契約の保険金請求権について は、平成 14 年 6 月 30 日、X のために質権を設定したので、その旨 通知する。
記
質権を設定した保険契約の表示(以下略)
Y1 は、平成 15 年 2 月 17 日、本件質権設定通知を受領し、Y1 が 管理する質権設定データベース帳票に、本件生命保険契約に質権が 設定された旨入力した。
(12)A は平成 17 年 7 月 11 日ころから 7 月 20 日ころまでの間に死亡し、X からの保険金支払請求を受けて、Y1 は、平成 18 年 2 月 17 日、Y2 に 対し、第三者を死亡保険金受取人に指定した生命保険契約について、
保険契約者は死亡保険金請求権を有していないから、死亡保険金請求 権に質権を設定することはできない旨の見解を示した。
(13)Y1 は、平成 18 年 4 月 11 日、Y2 に対し、上記見解に加え、Y1 は、
本件質権設定通知を、本件生命保険契約における満期保険金請求権に
関するものであるとして受領した旨説明するとともに、本件死亡保険 金については、受取人に指定されていた Z に支払う予定である旨回答 し、平成 18 年 5 月 11 日、Z に支払った。
(14)X は、Y1 および Y2 に対し次のとおりの支払を求めて本件訴訟を提起 した。
ア Y1 に対し、①主位的請求として、質権に基づく保険金支払い請 求権、②予備的請求として、(ア)Y1 は、保険契約者である A に対 し、有効な担保設定に必要な手続を説明する義務があったにもかか わらず、それを怠ったため、A は X に対する債務を質権の実行に よって清算する利益を失ったと主張し、債権者代位により、A の Y1 に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権、もしくは、(イ)Y1 は、X に対し、自社の商品について正確な情報を伝える信義則上の 義務があった、または、有効な質権設定ができるように助言をすべ き信義則上の義務があったにもかかわらず、これを放置したと主張 し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権により、1,350 万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める。
イ Y2 に対し、依頼者である X に対する適切な助言を怠ったため に、X の債権回収が不能になったとして、準委任契約の債務不履行 に基づく損害賠償請求権により、1.350 万円及びこれに対する遅延損 害金の支払を求める。
(15)第一審では、X の Y1 に対する主位的請求が認容され、X の Y2 に 対する請求は棄却された。これに対して、X 及び Y1 が控訴した。
2.判旨
(1)第一審(Y1 に対する請求認容、Y2 に対する請求棄却)
論点①「争点(1)(X の Y1 に対する保険金支払請求権の存否)」のう ち、「(1)本件質権の対象債権について」では、Y1 が質権の対象は満期保険 金請求権のみであると主張したのに対し、本判決では死亡保険金請求権も質 権の対象であるとした。
論点②「争点(1)(X の Y1 に対する保険金支払請求権の存否)」のう ち、「 (2)本件生命保険契約の死亡保険金に対する質権設定の有効性につい て」では、死亡保険金請求権に対する質権設定を有効であると認定した。
論点③「争点(2)(準占有者に対する弁済の抗弁の成否)」では、Y1 が、
同社の Z への保険金支払は民法 478 条により有効であると主張したのに対 し、本判決は Y1 が Z を死亡保険金請求権の真正な権利者であると信じたこ とについて過失がないということはできないとして、民法 478 条の適用を否 定した。
論点④「争点(5)X の Y2 に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権 の存否」では、Y2 の行為について X との間の準委任契約上の債務不履行が あったとはいえないとした。
これらのうち、上記論点②における判旨は以下のとおりである。
「ア 商法 675 条 1 項は、第三者を受取人とする保険契約においては、当 該第三者は、受益の意思表示(民法 537 条 1 項)を要せず保険金請求権を取 得すると定めるものの、他方で保険契約者が別段の意思表示をしたときはそ の意思に従う旨規定する(同項ただし書)。そうすると、第三者を受取人と する保険契約が締結された場合においても、保険契約者が保険金受取人の指 定又は変更権を留保して当該保険契約を締結したときは、当該保険契約に規 定された保険事故が発生するまでの間は、保険金受取人である第三者の保険 金請求権は変更又は消滅させることができないものではなく、むしろ、保険 契約者がその処分権を有するものと解される。そして、その処分の方法から
質権の設定を除外すべき根拠はないから、保険契約者が第三者を受取人とす る保険金請求権に質権を設定することによって、これを処分することも可能 であると解すべきである。
イ これを本件について見ると、A と Y1 は、本件生命保険契約におい て、保険契約者である A において保険金受取人の指定又は変更をすること ができる旨を合意したこと、X は、保険期間満了前である平成 14 年 6 月 30 日、A との間で、上記保険契約に基づく死亡保険金について質権設定契約 をしたこと、A は、同日ころ、本件生命保険契約に係る保険契約書を X に 交付し、Y1 に対し、本件質権の設定通知をした・・・こと、その後、A は 平成 17 年 7 月ころに死亡したことは、上記当事者間に争いのない事実及び 上記認定にかかる事実のとおりである。そうすると、X は、A との間で本 件生命保険契約に基づく死亡保険金請求権について有効に質権設定契約を 締結し、Y1 に対する対抗要件を備えていたところ、上記保険事故の発生に より、Y1 に対し、本件生命保険契約に基づく死亡保険金請求権を有するに 至ったものというべきである。
ウ(ア)これに対し、Y1 は、第三者を受取人とする保険契約において、
保険金受取人は、自己固有の権利として原始的に保険金請求権を取得し、保 険契約者から承継取得するものではないし、そのような生命保険契約は第三 者のためにする契約であって、保険契約が成立し、保険金受取人に保険金請 求権が発生した後は、保険契約者がこれを変更したり消滅させることはでき ない(民法 538 条)から、保険契約者は、保険金受取人の承諾ないし自己へ の名義変更なく、死亡保険金請求権に質権を設定することはできない旨主張 する。
(イ)この点、保険金受取人は、保険契約の効力発生と同時に同人の固有 の財産として保険金請求権を取得すると考えられるけれども、当該保険契約 において保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権を留保した場合には、
結局のところ、保険金受取人が取得する保険金請求権は、保険事故発生まで の間に保険契約者が処分をしなかった部分に限定されたものであって、これ を固有の財産として取得するに止まるのであるから、保険金受取人の保険金 請求権が固有の権利であることと、これに対して保険契約者が質権を設定で きることとは矛盾せず、この場合には、保険金受取人は質権の負担の付いた 保険金請求権を取得するというべきである。
(ウ)また、商法は、第三者を受取人とする保険契約においては、当該第 三者は受益の意思表示を要しないで保険金請求権を取得する旨規定している
(675 条 1 項)ものの、他方で当該権利の帰すうは保険契約者の意思に従う 旨定める(同項ただし書)のであるから、保険契約者が受取人の指定又は変 更権を留保して保険契約を締結した場合には、民法 538 条の規定にかかわら ず、保険契約者が受取人の保険金請求権を処分する権利を有することは明ら かである。」
「エ(ア)次に、Y1 は、保険実務ではモラルリスク防止のため保険金受取 人変更の対抗要件を加重しているところ、保険契約者による死亡保険金請求 権に対する質権設定は実質的には保険金受取人の変更であるのにこれがなさ れないことになって上記加重の趣旨を没却するから、保険契約者は、保険金 受取人の承諾ないし自己への名義変更なく、死亡保険金請求権に質権を設定 することができない旨主張する。
(イ)確かに、債務者が自己を被保険者とする死亡保険金請求権に対して 質権を設定する場合には、債務者が自殺等することにより債務の弁済に充 てる事態を誘発する、いわゆるモラルリスクが懸念されることは否定できな い。しかしながら、商法が一定の場合には保険金受取人の保険金請求権を保 険契約者の処分に委ねる趣旨であることは上記判断のとおりであることから すると、上記質権設定の可能性自体を否定することは困難であって、上記モ ラルリスクに対しては、質権設定の可能性を認めた上でその手続等を整備す
ることなどによって対処すべき事柄であり、上記懸念があることは、保険契 約者が保険金受取人の保険金請求権に対する質権を設定することを否定すべ き根拠とはなり難いというべきである。」
(2)控訴審(控訴棄却・確定)
第一審判決における論点①~④に対する判旨は、控訴審でも基本的に維持 された。なお、控訴審判決では、控訴審における Y1 からの補充主張に対し ての判示がなされているが、このうち論点②の争点に係るものは以下のとお りである。
「3.当審における Y1 の補充主張について」
「(2)ア Y1 は、Z が死亡保険金の受取人であり、死亡保険金請求権は A の財産権に属していないから、質権を設定することができない旨主張する。
しかし、本件生命保険契約では保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権 を留保しており、保険契約者である A はいつでも保険金受取人の指定を変 更ないし撤回することができたのみならず、受取人の指定・変更・撤回権を 含む生命保険契約上の権利を他へ譲渡することもできたのであり、保険金請 求権の帰属は保険契約者である A の意思に委ねられていたことになる。そ うすると、A は、本件生命保険契約に基づく保険金請求権について死亡保 険金に関するものも含めて一定の処分権を有していたのであるから、保険金 受取人の有していた本件生命保険契約に基づく保険金請求権も、被保険者が 死亡するまではその限度で不確定なものであって、いわば期待権に止まると いうべきである。すなわち、死亡保険金請求権も含めた本件生命保険契約に 基づく権利全般について、A が上記処分権を有していたという意味で A の 財産権に属するものであると解するのが相当である。特に、本件のように当 初から債権担保(質権設定)を目的として締結された生命保険契約にあって
は、死亡保険金の受取人とされた Z は、質権設定による制約のある死亡保 険金の請求権を取得しているのに止まるというべきであり、このことは、本 件生命保険契約の締結、本件質権の設定通知及び A の死後の死亡保険金請 求に係る Y1 の関係者の前記のような対応からも首肯できるところである。
イ Y1 は、死亡保険金受取人の指定・変更と質権設定とが別個のもので あり、本件生命保険契約の約款には質権の設定に関する規定がないのである から、保険契約者は第三者を受取人とする生命保険契約の死亡保険金請求権 について質権を設定することができない旨主張する。しかし、保険者と保険 契約者との間の生命保険契約の約款に、保険契約者とその債権者に係る質権 設定に関する規定がないのは、いわば当然のことであり、本件生命保険契約 の約款に質権設定の規定がないというだけで死亡保険金請求権について質権 の設定が許されないと直ちに解することは相当とはいえない。すなわち、生 命保険契約の約款上は明示的な定めがないものであっても、それが生命保険 契約の本質的な性質に反する場合などこれを許容することが不相当とされる ような特段の事情がない場合にまで一律に制限されるものではないと解する べきである。そして、死亡保険金の受取人の指定を変更するということは、
それに伴い死亡保険金請求権の帰属を変更して、従前の受取人から新たに指 定された受取人に変更するということにほかならないのであり、これは、保 険契約者の死亡保険金請求権に係る処分権の一内容となっているものであ る。したがって、受取人の指定を撤回、変更して死亡保険金請求権の全ての 帰属を他に変更するのではなく、保険契約者の債権者が有する債権額の範囲 で死亡保険金請求権を債権者に帰属させる質権の設定も、同様に保険契約者 の処分権に属するといえるのであり、保険契約者は、死亡保険金の受取人と 指定した者の承諾がなくとも死亡保険金請求権について質権を設定すること ができるものと判断すべきである(仮に、死亡保険金請求権について質権の 設定を制限する必要のある事由があるというのであれば、約款にその旨を規
定しておけば足りることである。)。特に本件においては、上記のとおり、
当初から X のために本件質権を設定する目的で本件生命保険契約が締結さ れ、Y1 の担当者もこれを了承していたというのであるから、保険契約者で ある A の処分権の行使により本件質権が有効に設定されたとみるべきであ るし、原判決で認定した事実に照らしても、本件はいわゆるモラルリスクが 問題となるような事案とはいえず、約款に明示的な定めがないから質権の設 定を不相当とすべきであると解するほどの特段の事情は認められない。」
3.研究
本稿では、上記論点②、すなわち、保険金受取人でない保険契約者は、保 険金受取人の同意なしに保険金請求権に質権を設定できるか、について検討 する。この論点について、本件第一審および控訴審判決の結論に賛成する。
(1)問題の所在
生命保険契約における諸権利も財産的価値がある以上、債権担保の対象と なり得る。このうち、死亡保険金請求権については保険金受取人が権利者で あるが、保険事故発生後においては保険金受取人がその固有財産として処分 することが可能であり、その処分の中には質権設定も含まれる。これに対し て、保険事故発生前の死亡保険金請求権については保険金受取人が権利者で あることには違いないが、保険契約者の一方的意思表示により保険金受取人 変更が可能であることを考慮すると、保険金受取人の権利は極めて脆弱なも のであることになる。このため、以前には保険事故発生前の保険金請求権の 処分可能性について議論があったが1、現在では、たとえ脆弱な権利であっ てもその脆弱さを前提とした上での処分は可能であり、保険金受取人による 質権設定も可能であるとすることにほぼ異論はない2。
これに対して、保険契約者による質権設定については議論があり得る。す なわち、担保権の設定権者は担保権の対象となる財産権の真正な権利者でな ければならないのであり、したがって、保険事故発生前の死亡保険金請求権 の権利者は保険金受取人であるので、同人の承諾なしに保険契約者が死亡保 険金請求権に質権を設定することはできないと一応考えることができる。し かし一方、保険契約者は保険事故発生前には保険金受取人を変更することが できる権限を有しており、保険金受取人を保険契約者自身に変更することも 可能である。その意味では、保険契約者は保険金請求権の処分権を有してい ることになり、したがって、保険契約者は保険金受取人の承諾を得ずに保険 金請求権に質権を設定できるとも考えられる。
従来の生命保険実務においては、保険金受取人でない保険契約者が自らの 債権者のために死亡保険金請求権に対して質権を設定することを認めておら ず、保険金受取人を保険契約者自身に変更した上で質権設定することとし ていた。このため本件でも、Y1 は保険金受取人である Z の同意のない質権 設定を認めず、Z に死亡保険金を支払っている。これに対して本件では、第 一審、控訴審、いずれも Z の同意のない A による X のための質権設定を有 効とし、X の Y1 に対する保険金請求を認容した。本件控訴審は確定してお り、これにより、Y1 は保険金の二重払いを強いられることになった。
本判例は長年にわたって行われてきた生命保険実務に反するものであり、
最高裁の判断ではないものの、今後の生命保険実務に与える影響は大きいと 思われる。
1大森忠夫「保険金受取人の法的地位」『生命保険契約法の諸問題』(有斐閣、1958)34 頁(初 出 1942)。
2 大森忠夫『保険法(補訂版)』(有斐閣、1985)306 頁他。ただし、死亡保険金受取人 と被保険者が別人である場合には被保険者の承諾が必要であり(改正前商法 674 条、
保険法 47・76 条)、その意味で保険金受取人「単独では」質権設定はできないといえ る(竹濵修「判批」保険事例研究会レポート 215 号(2007)21 頁)。
(2)学説の状況
保険契約者が保険金受取人の同意・承諾を得ずに保険金請求権に質権設定 をすることができるのか(肯定説)、それとも質権設定ができるのは保険金 受取人だけであり、保険契約者は保険金受取人の同意・承諾なしには質権設 定ができないのか(否定説)、については学説上争いがある。
まず肯定説として、保険契約者は保険金受取人を自身に変更することがで きるのであるから、質権を設定することもでき、その場合はその限度におい て保険金受取人指定の撤回があったと解釈するものがある3。また、被担保 債権が弁済されて質権が消滅したことを停止条件とする保険金受取人の指定 を認める4、あるいは、質権の及ばぬ部分について保険金受取人の効力を認 める5、という考え方がある。これらの説は、質権設定とはいわば保険金請 求権の一部についての保険金受取人変更であるとの理解に立ち、保険金請求 権全体についての処分である保険金受取人指定権を有する保険契約者は、一 部についての処分である質権設定についても当然になしうるという理解によ るものであろう。
一方、保険契約者の保険者に対する質権設定の通知を、①保険金受取人の 保険契約者への変更、②保険金請求権に対する質権設定、③質権つき保険金 請求権について保険金受取人を保険契約者から従前の保険金受取人への変 更、という三段階の処分の通知と解釈すべきとする説がある6。この説は、
保険契約者の意思を忖度した解釈をとっているが、質権設定できるのは保険 金受取人だけであることを前提としている点で否定説と共通する部分があ り、理論構成としては上記の説と若干異なると思われる7。
3 大森・前掲(注 2)306 頁。糸川厚生「生命保険と担保」星野英一他編『担保法の現代 的諸問題(別冊 NBL10 号)』(1983)165 頁も同旨。
4 山下友信『保険法』(有斐閣、2005)611 頁。
5 山下友信『現代の生命・傷害保険法』(弘文堂、1999)203、215 頁(初出 1994)。
これに対して否定説としては、保険金請求権は保険金受取人の権利である から、保険契約者が質入れすることは当然にはできないのであり、保険金受 取人を自身に変更する必要があるとするものがある8。また、質権と保険金 受取人変更権は次元の違う問題であり、質権の設定は目的物(保険金請求 権)の評価の問題であって、権利主体に影響を及ぼすものではない。した がって、保険契約者を当然に質権設定者とするためには保険約款による規定 が必要とされるとする説がある9。
また、理論的には肯定説が正論であると認めるものの、肯定説をとった場 合には以下のような実務上の問題が生じることを理由に否定説に立つものが ある10。すなわち、保険金受取人の同意なしに保険契約者が質権設定をした 場合、保険金支払実務上の混乱を招き、保険金受取人と保険契約者との間の 紛争を招く可能性があること、保険金受取人は自分の知らないうちに質権設 定がなされる可能性があること、保険金受取人が先に質権設定しその後に保 険契約者が質権設定した場合は第二順位となるが、その場合保険者は二重の 請求を受けることになること、質権設定通知が保険金受取人変更通知を兼ね ることになるが、保険金受取人変更については被保険者同意などのモラルリ スクの問題も絡むので保険者としては保険者指定の要式書類での通知を使用 したいという希望があることなど、の不都合である。
6 竹濱・前掲(注 2)19 頁。同論文によると、保険契約者による質権設定は同人が保険 金受取人に与える権利の内容を一部変えることであると解するのが簡単な法的構成だ が、保険契約者は保険金受取人の固有の権利を勝手に処分することはできないという 形式面を尊重する見解に配慮するとこのような解釈になるとする。
7 この他肯定説に立つものとして、道垣内弘人「保険契約に基づく権利の担保化(下)」
金融法務事情 1419 号(1995)30 頁、山下孝之『生命保険の財産法的側面』(商事法務、
2003)75 頁、梅津昭彦「判批」事例研レポート 221 号(2008)7 頁等がある。
8 中西正明『生命保険法入門』(有斐閣、2006)235 頁。
9 石黒省治「生命保険に対する質権設定をめぐって」債権管理 25 号(1989)30 頁。
さらに、一つの保険金請求権に保険契約者と保険金受取人とがそれぞれ処 分権をもち、そのうち保険契約者が保険金受取人に優先するという解釈をと ると、法律関係が複雑になるという否定説からの指摘もある11 12。
(3)先行判例
本件に関する下級審判例には、肯定説に立つものと否定説に立つものがあ る。肯定説の判例として東京地判平成 17 年 8 月 25 日 LEXDB25464330 があ り、保険金受取人の保険金請求権は確定的なものではないという理由から、
保険契約者が保険金請求権に質権を設定する場合に保険金受取人の同意を得 ることが要件となるとは解されないとする。一方、否定説に立つ判例として は大阪地判平成 17 年 8 月 30 日 LEXDB2546432913があるが、同判旨では、
死亡保険金請求権は保険金受取人が自己の固有の権利として取得するとする 最判昭和 40 年 2 月 2 日民集 19 巻 1 号 1 頁および死亡保険金請求権は保険料 と等価の関係に立つものではなく死亡保険金請求権が実質的に保険契約者の 財産に属していたとはいえないとする最判平成 14 年 11 月 5 日民集 56 巻 8 号 2069 頁を理由として、保険契約者の質権設定には保険金受取人の同意が 必要であるとする。
(4)本件における Y1 の主張と判旨の内容
本件において Y1 は A が Z の同意なく死亡保険金請求権に質権を設定す
10 巻之内茂「保険契約と債権保全をめぐる諸問題(中)」金融法務事情 1416 号(1995)29 頁。
11 河合圭一「死亡保険金請求権への質権設定について」『新保険法と保険契約法理の新 たな展開』(ぎょうせい、2009)376 頁。
12 この他否定説をとるものとして、桜沢隆哉「保険契約上の権利の担保的譲渡と保険金 受取人の法的地位」保険学雑誌 610 号(2010)111 頁。
13 同判例の評釈として、竹濱・前掲(注 2)、梅津・前掲(注 7)がある。
ることはできないと主張しているが、その根拠として以下の論点をあげてい る。
①民法 538 条により、保険契約者は一旦発生した保険金受取人の権利 を変更・消滅させることはできない。
②保険実務においては、モラルリスクに対応するため保険金受取人変 更手続の要件を加重し、保険会社所定の名義変更請求書の提出及び 保険証券への表示を要求している。保険契約者の質権設定を認める と、これが潜脱される。
③死亡保険金請求権は保険契約者の財産権に含まれないのだから、質 権設定はできない。
④保険金受取人変更は保険契約者の一方的意思表示であるのに対し、
質権設定は設定契約であり、別物である。そして、保険約款上質権 設定の規定はない。
⑤約款上は保険契約者に保険金受取人の変更権が留保されていても、
死亡保険金受取人変更については限定的・制約的に認められている に過ぎない?
⑥死亡保険金請求権が保険金受取人に帰属するのは当然であり、保険 契約者が死亡保険金に質権設定できないとするのが多くの生命保険 会社の長年にわたる実務上の取り扱いであった。
これに対して、本件第一審および控訴審判決は以下のように判示した。
①本件保険契約上、保険契約者の保険金受取人指定・変更権は留保さ れており、保険契約者が質権を設定するという処分を行うことは可 能である。
②モラルリスクの可能性は否定できないが、それだからといって保険 契約者による質権設定の可能性は否定されない。
③保険契約者は保険金請求権を含む生命保険契約に基づく権利全般に
ついての処分権を有しており、このような処分権を有しているとい う意味で、保険金請求権は保険契約者の財産権に属するといえる。
④約款に質権設定の規定がないからといって、質権設定が許されない とはいえない。
⑤および⑥については、判決文では明確な判示をしていないが、従来 の生命保険実務がそのようなものであったとしてもそれは本件の判 断には影響を与えない、と考えたものであろう。
このうち、本件判旨のポイントは上記③の判示である。本判決は、保険金 請求権が保険契約者の財産権に属すると判示した。その理由として保険契約 者が生命保険契約に基づく権利全般についての処分権を有していることを挙 げており、保険金受取人変更権のみに着目しているわけではないようであ る。
なお、控訴審判決では「本件はいわゆるモラルリスクが問題となるような 事案とはいえず、約款に明示的な定めがないから質権の設定を不相当とすべ きであると解するほどの特段の事情は認められない。」とし、モラルリスク が問題となるような特段の事情がある場合には保険契約者による質権設定を 認めない可能性があることを判示する。この点は、Y 側からの「保険契約者 による質権設定を認めた場合には保険者によるモラルリスク対策の制度が潜 脱される」という批判に答えたものであろう。
(5)検討
学説 ・ 判例における否定説の根拠は、保険金請求権は保険金受取人の固有 の権利であり第三者である保険契約者にはこの処分権はないという理論的観 点からのものと、保険契約者による質権設定を認めると保険金請求時の混乱 を招くという実務的観点からのものに分類できる。
このうち前者については、肯定説より、保険金請求権が保険金受取人の固
有の権利とはいっても保険契約者の保険金受取人変更権行使により剥奪され る可能性があるいわば期待権にすぎない14、また、保険契約者は保険事故発 生前には自由に当該保険契約から生じる財産的利益を利用できるはずであ る15、などと反論がなされている。これに対して後者については、「理論的に は、解決が可能であろうが、実務上の問題を生じさせうるものであろう16」 と、肯定説もこれらの課題があることを認めている。
私見では、理論的には肯定説が妥当であると考える。保険事故発生前の 保険契約においては、保険契約者は、保険金受取人の自身への変更をはじ め、保険契約自体の任意解約および解約返戻金の受領、契約者貸付の利用 等、保険契約から生じる権利を自己の財産として利用することができるの であって、保険金請求権への質権設定のみができないと解するのは不自然 である17。
具体的な法律構成としては、次のように考えることができる。質権設定保 険契約者は(保険約款において反対の規定がない限り)保険金受取人変更権 を有するが、保険金請求権への質権設定はこの保険金受取人変更行為の一態 様であると解釈できる。すなわち保険契約者による質権設定行為とは、保険 金受取人を、「保険金の満額について現在の保険金受取人とする」から「残 債務額についての保険金受取人を質権者にし、保険金から残債務額を控除し た残額の保険金受取人を現在の保険金受取人とする」と変更することであ る。この場合、保険契約者による質権設定により、現在の保険金受取人の権 利は縮減することになるが、債務の弁済が進んで債務額が減少すれば、現在 の保険金受取人の権利は増大する。この質権設定権は保険契約者としての固
14 山下孝之「生命保険金請求権の処分と差押」ジュリスト 751 号(1981)108 頁。
15 竹濱・前掲(注 2)18 頁。
16 竹濱・前掲(注 2)20 頁。
17 竹濱・前掲(注 2)18 頁。
有の権利であり、保険契約者が保険金受取人と同一人の場合でも保険金受取 人としての権利ではない。したがって、保険契約者による質権設定行為につ いて、保険金受取人の自身への変更、質権設定、さらに旧保険金受取人への 再変更という 3 つの行為が含まれているとする解釈18を取る必要はない。
つぎに、このように肯定説をとった場合、否定説から指摘されている実務 上の問題をどう考えるか。否定説から指摘されているのは、①保険金受取人 は自分の知らないうちに質権設定がなされる可能性があること、②保険金受 取人が先に質権設定しその後に保険契約者が質権設定した場合は第二順位と なってしまうこと、③保険者は二重三重の請求を受けることになること、④ 保険金受取人と質権者間で紛争になりかねないこと、⑤質権設定通知が保険 金受取人変更通知を兼ねることにより通常の保険金受取人指定変更承認裏書 手続を潜脱すること、などである19。
このうち①については、保険金受取人変更についても同様であり、保険金 受取人は保険契約者のなした処分についての通知を受ける権限がない以上、
これは甘受すべきであろう。②は保険契約者が保険者に質権設定通知を行う ときに質権者は保険契約者を通じて保険者に他の質権の存在を確認すること により防止できる。③保険者としては複数当事者から保険金請求を受けるこ とは避けたいであろうが、だからといってそれによって正当な権利者の権利 行使が妨げられる理由はない。④理論上は質権者が保険金受取人に優先する ことは明確であり、これも保険契約者による質権設定権を否定する理由には ならない。⑤保険金受取人変更通知は様式を問わないので、この問題は質権 設定に限ったものではない(単なる保険金受取人変更通知でも問題となる)。
以上のように、実務上の問題として指摘されている点はいずれも保険契約
18 竹濱・前掲(注 2)19 頁。
19 巻之内・前掲(注 10)29 頁。
者による質権設定権を否定する根拠にはならないと考えられる。無論、無用 な紛争は避けるべきであり、保険実務においてそのための手続を整備するこ とは重要である。保険者として保険契約者による質権設定に伴う実務上の混 乱を避けたいのであれば、約款により保険契約者による質権設定を禁止する べきであろう。改正前商法と同様、保険法でも 43・72 条各 1 項は任意規定 と解されており20、保険契約者の保険金受取人変更権を削除することが可能 である以上、同様に保険契約者の質権設定権も約款によって排除することは 可能であると解される。
ところで、保険契約者の固有の権利として質権設定権を認めた場合、それ と保険金受取人の質権設定権との関係はどうなるのか。保険契約者が設定し た質権と保険金受取人が設定した質権との優劣は、対抗要件具備の先後によ り決せられる。具体的には第三債務者である保険者への通知の到着順とい うことになる(民法 364 条)。だだし、保険金受取人により設定された質権 は、保険契約者により保険金受取人変更がなされた場合には消滅すると考え られる。一方、保険契約者が設定した質権は、保険金受取人変更がなされた 場合にも影響を受けない。したがって、保険金受取人が設定した質権が第一 順位、保険契約者が設定した質権が第二順位であるとき、保険金受取人変更 がなされた場合には旧保険金受取人が設定した質権は消滅し、保険契約者が 設定した質権が第一順位に繰り上がることになる。このように保険契約者に よって設定された質権と保険金受取人によって設定された質権とでその効力 の強弱が異なるとすると、保険契約者と保険金受取人とが同一人であったと きに設定された質権はどちらになるのか。これは質権設定者の意思の解釈の 問題であるが、通常のケースではより強力な質権を設定しようとするであろ うから、保険契約者により設定された質権であると推定されるべきである。
20 萩本修編著『一問一答保険法』(商事法務、2009)224、226 頁。
以上より、保険契約者に質権設定権を認めた本件第一審および控訴審判決 の結論は妥当であると考える。
(6)保険法との関係
最後に、本件の結論が保険法においても妥当するのかについて検討する。
改正前商法においては保険契約者による保険者への保険金受取人指定変更の 通知は対抗要件であるとされていたが(677 条 1 項)21、保険法では保険者 に対する意思表示が効力発生要件であるとされた(43・72 条各 2 項22)。ま た、保険法は保険金受取人等による介入権を導入し(60・89 条)、保険金受 取人の権利を改正前商法よりも保護する立場に立っている。このような変更 は、保険契約者による質権設定権を認めることに影響を与えるか。
このような事情を考慮して、本判決の結論は保険法のもとでは維持されな い可能性があるとの指摘がある23。また、保険法の立法担当者は、保険契約 者が保険金請求権に質権を設定する場合には保険金受取人を保険契約者自身 に変更する必要があるとし24、保険法のもとでは保険金請求権に質権を設定 できるのは保険金受取人に限定されるとしている。一方で、保険法の下でも 肯定説をとることができるとする説がある25。
保険金受取人による介入権が認められたとしても、保険契約者による保険 金受取人変更権には影響がなく、この意味では、保険契約者の保険金受取人 変更権を根拠として保険契約者の質権設定権を認めた本判決の結論は保険法
21 保険金受取人指定変更権の行使は保険契約者による相手方のある単独行為であり、そ の相手方は保険者だけでなく、新保険金受取人、旧保険金受取人のいずれでもよいと するのが判例であった(最判平成 62 年 10 月 29 日民集 41 巻 7 号 1527 頁)。
22 なお、保険法では遺言による保険金受取人変更を規定したが、ここでは保険者に対す る通知は対抗要件とされている(保険法 44 条 2 項)。
23 金融・商事判例 1359 号(2011)52 頁の本判例についての匿名解説。
においても変更されることは考えにくい。
一方で、保険契約者による質権設定を保険金受取人変更の一態様としてと らえた場合、保険法の下においては、同じ質権設定行為でも保険契約者によ るものと保険金受取人によるものとではその法的性質が異なってくるのでは ないかと思われる。すなわち、保険金受取人による質権設定行為は通常の 権利質設定行為であり、保険金受取人と質権者との間の質権設定契約により 質権が発効し、第三債務者である保険者に対する通知は対抗要件となる(民 法 364 条)。これに対して、保険契約者による質権設定行為は保険金受取人 変更行為の一態様であるから、保険法においては保険者に対する通知は効力 発生要件ということになる26 27。しかしこのような法的性質の変化をもって しても、保険契約者による質権設定の可否という本件論点の結論には影響せ ず、したがって、やはり本判決は保険法のもとにおいても維持されるという ことになろう。
24 萩本・前掲(注 20)191 頁注 2。もっとも、その理由は示されていない。
25 竹濱修「生命保険契約および傷害疾病保険契約特有の事項」ジュリスト 1364 号(2008)
46 頁。ただし、本論文では保険契約者による保険者への保険金請求権に対する質権設 定の通知を、保険契約者自身への保険金受取人変更、質権設定、旧保険金受取人への 再変更という 3 段の法律行為の通知であると解釈するとしており、質権設定権は保険 契約者ではなく保険金受取人としての権限であるという立場のようである。
26 正確に言うと、保険法の下では保険契約者による質権設定の保険者に対する通知は、
質権の効力を発生させる要件となると同時に、民法 364 条の通知の機能も果たすこと にもなる。
27 ただし、遺言による保険金受取人変更においては保険者に対する通知は対抗要件とさ れているので(保険法 44 条 2 項)、この場合は改正前商法における法律構成からの変 更はないことになる。