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担当:開本浩矢教授
論文要旨
進路選択における自己効力感に関する研究
Study on self-efficacy in Career Decision
経営学研究科 博士後期課程 2011年度入学 BD11B803 町田尚史
2016年12月提出
1 論文要旨
1.目的と課題
本論文は進路選択における研究における進路選択ができない、もしくは進路選択し ないという進路不決断の課題に対し、進路選択自己効力感の概念を用いて分析、検討 したものである。
この目的を達成するために用いられた進路選択自己効力感は、Bandura (1977)により 提唱された「自分はできる」という自己効力感の概念を進路選択領域に援用し、Taylor
& Betz (1983)により提示された概念と尺度である。また近年の進路選択自己効力感研究 の中で進路選択過程において、最終的な進路選択行動は進路選択能力に正の影響を受 けるが、それ以上に進路選択能力に影響を受ける進路選択自己効力感に正の影響を受 けるという研究が行われている。しかしながら今までの研究では進路選択能力の構造 が明らかではなく、どのような進路選択能力が進路選択自己効力感にどのように正の 影響を与え、ひいてはどのように進路選択行動に影響を与えるのかが明示されていな い。
本論文の目的の1つ目は、先行研究を丹念にたどり、進路選択研究がどのような時代 や社会背景をもとに行われてきたのかを明らかにすることである。そしてその上で進 路選択自己効力感の概念がどのように進路選択における課題を解決してきたのかを明 らかにすることである。そして目的の2つ目は進路選択能力の構造解析を行うと共に実 証分析を踏まえて、進路選択能力と進路選択自己効力感ならびに進路選択行動の相関 関係を明らかにすることである。最後に目的の3つ目は実践含意として教育の現場にお いて行われるべき進路選択能力教育の具体的内容を明らかにすることである。
2.背景
進路選択における課題は海外において多くの研究が進められてきたが、近年我が国 においても多くの進展が見られる。その背景としては、非就業者の増加という問題が ある。文部科学省学校基本調査によれば我が国大学生の進路別卒業者の推移は、平成2 年3月度では一時的な仕事に就いた者とそれ以外の者(非就職者)の合計は25,993名であ ったが、10年後の平成12年3月度では一時的な仕事に就いた者とそれ以外の者(非就職 者)の合計が143,716名と大幅に増加している。景気の回復と共に非就業者は減少する傾 向もあるが、景気の回復基調にある平成26年3月期においても一時的な仕事に就いた者 とそれ以外の者(非就職者)の合計が83,003名にものぼり、10%以上の大学生が就業しな い、もしくは正規の仕事を得ないままに卒業している。少子高齢化の中で若年労働者 は減少し、社会の要請を反映して求人倍率も上昇する中で、なぜ就職しない大学生が 多数存在するのか。また彼らは何故就職しないのか。就職=職業選択を大学生の重要 な進路選択と捉えた時、なぜ大学生が進路選択をしないのか、もしくはできないのか について大きな関心が寄せられる。
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なぜ進路選択しないのか、もしくはできないのかという進路不決断の課題は、我が 国でも大学生のみならず近年、多様な世代に見られる傾向ではあるが、本論文において は、大学生を調査対象として実証分析を行い、1.で述べた研究目的を明らかにして いる。
3.論文構成
本論文の章構成は以下の通りである。
第1章 本研究の目的 第2章 社会的学習理論 第3章 自己効力感 第4章 進路選択研究の展開 第5章 進路選択自己効力感研究
第6章 分析の枠組み
第7章 実証分析 第8章 本研究の要約と結論 各章の内容は以下の通りとなる。
第1章では本論文の序として、本研究の目的を中核に、本研究を行う背景と問題意識 について詳述する。
第2章ではBandura (1977a) を基礎にして、モデリングを中核概念とした社会的学習理 論を概観する。Bandura (1977a)は、人間の行動を包括的に説明するための理論は、認知 能力と行動能力の発達の過程を説明するものでなければならないとして、相互作用的 因果モデルによる認知的機能主義の立場に立った社会的学習理論を展開した。第2章で はその研究の背景と中核概念であるモデリングについて詳説する。
第3章では、社会的認知理論について本研究の中心である自己効力感を中核にBandura
(1977b) を基にして詳述していく。社会的学習理論から受け継がれた効力予期と結果予
期の概念から、新たに自己効力感の情報源として導き出された4つの情報源や自己効力 感の認知プロセスについても詳しく述べていく。また自己効力感と同様の概念につい ても研究の展開について記述すると共に、その後教育や医療など多様な分野で応用研 究が進む自己効力感の理論的応用内容についても詳しく研究を進める。
第4章では、進路選択研究の背景と展開の系譜をたどる。主に1940年代以降の進路選 択研究の流れを社会情勢や経済的背景などを基に検証し、Ginsberg et al., (1950)が展開 した、職業を選択する自由は我々の文化の重要な部分であると述べつつも、この時代 においては職業が自分自身の意志によってより、むしろ広範囲の社会的力(特に経済 力)によって決定されると主張した進路選択理論に対して、Super (1953)が課題を提起 した後、Ginsberg (1972)が修正した理論について概観する。またSuper (1957) における 職業成熟度の定義やCrites(1965)における職業的発達を測定する尺度、Holland &
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Holland (1977) による進路不決断等の研究プロセスなど進路選択研究の歴史的背景と
展開を概観する。
第5章では第3章で詳述したBandura (1977b) を理論的背景とし、1980年代から始まっ た進路選択領域における自己効力感研究の流れを辿る。この進路選択自己効力感にお ける研究では、進路選択における性差を研究したHackett & Betz (1981)を経て進路不決 断を進路選択自己効力感の概念で解決しようとしたTaylor & Betz (1983)の研究を中核 に進路選択自己効力感研究の展開を概観する。
そして北米、欧州、中東など多様な地域における進路選択自己効力感に関する研究を 明らかにした上で、新卒一括採用という特異な就職形態を保有する我が国における進 路指導研究並び進路選択研究の経過を検証する。最後にとりわけ富永(2000)以降、我が 国でより研究が深められてきた進路選択の構造に関し、進路選択能力と進路選択自己 効力感、進路選択行動の関係を富永(2008b)の研究を中核に解き明かす。同時に本論文 のテーマである、進路選択自己効力感はどうすれば向上するのか。また進路選択自己 効力感に正の影響を与える進路選択能力はどのように定義されるべきなのか。そして 進路選択能力や進路選択自己効力感は進路選択行動に正の影響を与えるのかについて 検討すると共に進路選択能力を進路選択スキル、進路選択マッチング、進路選択モチ ベーションという3因子から構成されるという背景についても詳述したい。
第6章では、第2章以降を受けて、進路選択における自己効力感の理論に依拠しなが ら、進路選択自己効力感をどのようにすれば向上させる事ができるのかという、リサ ーチ・クエスチョンについての分析の枠組みを構築する。前章の最後で述べた進路選 択能力は進路選択スキル、進路選択マッチング、進路選択モチベーションという3因子 から構成される、などの進路選択自己効力感に影響を与える進路選択能力の枠組みに ついての仮説を呈示する。また進路選択能力・進路選択自己効力感・進路選択行動の 相関関係についても仮説を呈示する。
第7章では、第5章で設定した仮説を検証するための分析を行う。分析の大部分は第4 章において設定される仮説において進められるが、分析の過程で明らかになった発見 事実についても言及する。
最後の第8章では、本研究の要約と結論を示し、今後の研究課題について展望を示し たい。
4.分析の枠組み
先行研究の検証により明らかになってきた課題は、進路選択において自己効力感が 重要な要素を示すことが明らかになってきたが、それではどのようにすれば進路選択 における自己効力感が向上するのかは明らかでないことである。また進路選択自己効 力感を媒介して進路選択行動に影響を及ぼす進路選択能力とは具体的に何かについて も研究が十分ではないことも明らかになってきた。そのためこれらの課題について分
4 析を進めるための基本仮説を提示した。
提示された基本仮説は以下の通りである。
仮説1:進路選択能力は、進路選択スキル、進路選択モチベーション、進路選択マッチン グにより構成される。
仮説2:進路選択能力は進路選択自己効力感に正の影響を与える。
仮説2a:進路選択スキルは、進路選択自己効力感に正の影響を与える。
仮説2b:進路選択マッチングは、進路選択自己効力感に正の影響を与える。
仮説2c:進路選択モチベーションは、進路選択自己効力感に正の影響を与える。
仮説3 進路選択能力は進路選択行動に正の影響を与える。
仮説4 進路選択自己効力感は進路選択行動に正の影響を与える。
仮説5 進路選択能力により正の影響を受けた進路選択自己効力感は進路選択行動に正の 影響を与える。
これらの基本構造を図示したものが下記の通りである。
Fig 1 進路選択能力、進路選択自己効力感及び進路選択行動の関係図
進路選択能力 進路選択自己効力感
進路選択行動
出所:富永(2009).42pを基に筆者作成
これらの基本仮説を基にして、就職活動前の大学3年生を対象に実証分析を行った。
2012年4月より「職業選択と自己実現」という講義を行い、その講義の参加者に対し質 問紙により定量アンケートを実施した。データに欠損値のない30名を分析対象者とし た。さらに各講義中及び講義と次の講義の間に課題を課し、16種類で合計600サンプル の回答を得た。また進路選択行動に関する調査のために卒業前の大学4年生の2013年12 月から2013年1月の期間に就職活動後アンケートへの回答を求め上記調査対象者30名 の中より12名から質問紙による回答を得た。
これらの定量データ及び定性データをもとに仮説検証を行った。
5 5.本論文の貢献
本論文の理論的貢献としては以下の3点が挙げられる。
まず1つ目は進路選択行動に対して進路選択能力と進路選択自己効力感が正の影響 を与えていることが明確であるが、進路選択能力の構造を明らかにすることが求めら れる段階にある事であり、その進路選択能力を進路選択スキル、進路選択モチベーシ ョン、進路選択マッチングという3因子で明らかにしたことである。2つ目には進路選 択スキル、進路選択モチベーション、進路選択マッチングに解析された進路選択能力 のうち進路選択モチベーション、進路選択マッチングの2因子は進路選択自己効力感に 正の影響を与えたことが立証されたことである。3つ目には進路選択能力により正の影 響を受けた進路選択自己効力感が進路選択行動に正の影響を与えることが立証された ことである。
また実践的貢献としては、進路選択における教育として、付与すべき進路選択能力 が明らかになったことが挙げられる。進路選択スキル、進路選択モチベーション、進 路選択マッチングから構成される進路選択能力を教育の中で付与することが、進路不 決断に陥らないための進路選択教育の要素として有効である事が立証された。その上 で進路選択能力が、進路選択自己効力感の醸成に結びついていることの確認が求めら れることが挙げられる。既に述べている通り進路選択能力は進路選択自己効力感を媒 介として進路選択行動に正の影響を与える。その為進路選択能力を高める教育により 進路選択自己効力感が高まることが何よりも進路選択行動を促す意味では重要となる。
本研究においては進路選択スキル、進路選択モチベーション、進路選択マッチングの3 因子に構造解析された進路選択能力を付与すれば、進路選択自己効力感が高まり、そ の結果進路選択行動に正の影響を与えることが立証できたという点で、大きな実践的 貢献が得られたといえるであろう。
6.本論文の限界と課題
本研究では、進路選択における自己効力感を主題にして進路選択能力がどのような 因子にて構成されるのか、進路選択能力は進路選択自己効力感に影響を与え得るのか。
進路選択能力及び進路選択自己効力感は進路選択行動に正の影響を与えることができ るのかについて考察をすすめてきた。ただ本論文ではいくつかの課題が残る。
課題の1つ目は、進路選択能力と進路選択自己効力感、進路選択行動の関係について の一貫したデータがまだ乏しいことである。また進路選択能力と進路選択自己効力感 並びに進路選択行動の関係についてのデータ数も幾分乏しいといわざるを得ない。複 数年次において、複数の対象者を相手に実証研究が継続的に行われるべきであると考 える。
課題の2つ目は実証データにおける進路選択スキルが何故進路選択自己効力感と有 意な関係を見いだせないのかについても今後の課題となる。進路選択後の定性的分析
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においては、進路選択スキルが進路選択モチベーションなどに影響を与えることによ り、進路選択能力全体に影響を与え、その結果進路選択自己効力感に正の影響を与え ていると考えられるが、なぜ進路選択行動の前においては進路選択スキルが進路選択 自己効力感に正の影響を与えることが無いのかは、今後多様な検証がなされるべきで あろうと考える。
課題の3つ目は分析モデルの精緻化である。進路選択スキルを含めた進路選択能力の 構造を明らかにした上で進路選択自己効力感と進路選択行動との関係を明示できる分 析モデルが求められる。
課題の4つ目は進路選択行動の構造を明らかにする必要がある点である。進路選択能 力と進路選択自己効力感に影響を受ける進路選択行動とは具体的に何を意味するのか。
我が国の研究では、説明会参加者数や面接受験回数、内定社数などがその指標とされ る研究も見受けられるが、筆者の見解は質的に幾分異なるため、これら進路選択行動 の構造を明らかにする課題が残る。
以上のような課題については、データの蓄積が必要であり、本研究から得られた知 見を更に精緻に検証していく必要がある。