消費者行動研究の新展開(?): F. M. Nicosiaの「
消費社会学」
その他のタイトル New development in research of consumer behavior (II) : "Sociology of consumption"
proposed by F. M. Nicosia
著者 佐々木 土師二
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 11
号 2
ページ 99‑142
発行年 1980‑03‑28
URL http://hdl.handle.net/10112/00022891
研究ノート
消費者行動研究の新展開
( I l ) " '
― F . M. Nicosiaの「消費社会学」一一
佐 々 木 土 師 ニ
序
消費に関する社会学的研究は,一般に,消費者としての役割を果す場合の個人あるいは集団
(例えば世帯)の家計支出や購買行動の成立過程を,社会的諸要因と関連づけて明らかにすると いうものである。井関
( 1 9 7 4 )
が,消費に関する社会学的アプローチをレヴューした際に採用し た立場も,この一般的な形を踏襲するものであったと言える。井関は,消費主体の行動を意味す るものとして種々の用語があることを指摘した後に<消費者行動>を もっとも包括的な名辞 として用いて「消費主体の多次元にわたる複雑な行動のすべてを表わす」こととしたが,これを 分析的視点からみて<支出行動>と<購買行動>とに大別し,前者は( 1 )
貯蓄と消費の配分,( 2 )
消 費支出の配分,の2
レベルに,また後者は( 3 )
商品選択,( 4 )
店舗選択,( 5 )
銘柄選択,( 6 )
購入量・頻 度の決定,という4
レベルに分けられるとした。そして「社会学的分析をクローズアップするた めには, やむを得ない限定である」として, その<消費者行動>の意味から次のような側面を「慎重に除外した」としている (p.
46‑47) :
①
消費主体は,個人,家族,世帯であって,企業,組合,諸機関などの組織が行なう<消費 行動>については言及しない。②
一部の心理学者などが<消費行動>の用語によって意味する<財の費消あるいは使用行動>を含めない。<消費者行動>をあくまでも<選択行為>ないし<意思決定>そのものを意 味するものとする。
③
関心の焦点はミクロ・レベルでの<選択行為>である。集計値レベルに言及する場合で も,社会学的特性を担った消費者個人あるいは集団の,一定期間における<選択行動>の集 積およびそのパタンまでであって,一国全体のあるいは一地域全体の総消費量,特定商品の 総需要量などマクロ・レベルでの<総計された経済諸量の動き>は除外する。* 筆者は昭和5
2
年度関西大学在外研究員として米国C a l i f o r n i a大学 B e r k e l e y
校で消費者行動の研究に 従事しましたが,その約1
年間の滞在中にF r a n c e s c oM. N i c o s i a
教授から数々の示唆を得ることがで きました。その一部分として,Katonaの「心理経済学」の新展開についてはさきに発表しておりま
すが(佐々木,1 9 7 9 ) ,
本稿では,N i c o s i a教授自身が現在力を注いでいる新しい研究領域について,
論文や個人的討論を通して得た内容をまとめました。
N i c o s i a教授の御好意に感謝するとともに,この
ような機会を与えていただいた関西大学ならびに社会学部教授会に謝意をあらわすものです。関西大学『社会学部紀要」第
1 1
巻第2
号このようにして,井関は,その社会学的分析のレベルを明確化し,研究の対象領域を確定して いた。
ところで,最近,
F r a n c e s c oM. N i c o s i a
が提唱している「消費社会学( s o c i o l o g y o f c o n ‑ s u r n p t i o n )
」は,上記のように井関が社会学的分析をクローズアップするために意識的に除外し た側面を,逆に,積極的に取り込んで,むしろ,これらの側面へ焦点を合わせることによってそ の研究的領域としての独自性と有用性を主張する形で,構想されているものと言える。この
N i c o s i a
の「消費社会学」構想の出発点を求めれば1 5
年以上も前にさかのぽることがで きるが,その今日での性格を整理すれば,(i)
消費を 社会全体 の行動としてマクロ・レベルでとらえる;( i i )
その「消費行動」の成立過程を構造的にとらえ,社会学的変数によって説明する;( i i i ) •
消費 を 購入 面だけでなく多面的にとらえ, 生活の質 を明らかにする;という特徴を持つものである。確かに,従来の消費の研究にはなかったアプローチであり,今後 の展開を注目する意味があるものと言えるだろう。
しかしこの
N i c o s i a
の「消費社会学」は,彼の代表的著作C o n s u m e rD e c i s i o n P r o c e s s e s : M a r k e t i n g a n d A d v e r t i s i n g I m p l i c a t i o n s ( P r e n t i c e ‑ H a l l , 1 9 6 6 )
の邦訳『消費者の意思決定過 程』(野中・羽路訳,東洋経済新報社,1 9 7 9 )
の最終章の補遺論文「消費者行動の意思決定過程 のパラダイム—ニコシア理論再訪問」のなかで「Nicosia が精力的に開拓している領域」 (p.2 0 2 )
としてごく簡略にその性格が紹介されるにとどまっている。そこで,本稿では
N i c o s i a
単独の,および彼を中心とした共同執筆による論文・図書を通覧 し,また,その他の若干の関連研究にもふれて,彼が 開拓している領域 について,その構想 を整理し,その意義や問題点を考えてみたいと思う。I
消 費 社 会 学 の 提 唱 と そ の 研 究 的 背 景1 .
消費社会学の構想1
「消費者」行動と「消費」行動1 9 6 2
年8
月に開催されたアメリカ社会学会第5 7
回大会のメイン・テーマは種々の応用研究分野 における社会学の理論や方法の役割を検討し評価することであったが,この大会の委員長P a u l
F . L a z e r s f e l d
から依頼されて,C h a r l e sY . Glock
とF r a n c e s c oM. N i c o s i a
が消費者研究 への社会学の適用の問題を論じる総括報告を行なうことになった。彼らは,消費者に関する社会 科学的研究の目ざましい発展を見て,何よりも緊急な課題とすべきことは,その量的増大に対応 すること以上に,過去の研究を評価し将来の研究を方向づけるための枠組みを構成することであ るという見解に立って,社会学の理論や方法が消費者研究に果してきた貢献と今後の可能性を論 評しようとした。この作業の出発点で,Glock & N i c o s i a
は,社会科学,とりわけ社会学にお ける消費者研究の基本的アプローチを2
区分して,( 1 )
個々の消費者あるいは消費単位の行動(ミ消費者行動研究の新展開(II) (佐々木)
クロ的行動
( m i c r ob e h a v i o r )
〕の理解に専念する立場,( 2 )
大量の消費者の行動〔マクロ的行 動(macrob e h a v i o r )
〕を取り扱う立場,があることを示した。そして,( 1 )
のミクロ的視点か らの消費者研究を 消費者行動(consumerb e h a v i o r )
の研究 と呼んだが( G l o c k & N i c o ‑ s i a , 1 9 6 3 , p . 2 2 ) ,
これと対照的な( 2 )
の視点からの消費者研究が 消費行動( c o n s u m p t i o n b e h a v i o r )
の研究 と呼ばれるのは翌1 9 6 4
年に発表された別論文においてである( G l o c k &
N i c o s i a , 1 9 6 4 , p . 5 1 )
。ここでは消費行動の研究が「消費者あるいは消費単位(ともに複数)の総 体( a g g r e g a t e s )
の,一定時点あるいは一定期間にわたる,行動の記述と説明を行なう」と性 格づけられているのに対して,消費者行動の研究は「個々の消費者あるいは消費単位(例えば家 族)の意思決定過程に焦点を当てている。それは常に一定時点あるいは一定期間にわたる,一つ の,あるいはそれ以上の選択行為を記述し説明する努力をすべて含む」と説明されている。具体 的な行動の例として,財・サービスおよびレジャー活動への金銭および個人的労力の投資,貯蓄. . . . .
や資産に関する意思決定,アイディアの購買などがあるが,その個人レベルでの分析は消費者行
. . . .
動の研究課題であり,その総体レベルでの分析が消費行動の研究課題であると述べている。
2
消費社会学の構想の進展消費行動に対するこのような着想が
N i c o s i a
による「消費社会学」の構想を導き出す出発点 になっているが,その構想の具体的な展開は,アメリカ・マーケティング協会の1 9 6 8
年秋季大会 でのGlock
との連名による研究発表においてにわかに見られるのである。この研究発表は,豊. . . . . . .
かな社会とそのような社会への移行段階における生活のスタイル
( s t y l e so f l i f e )
の重要性に 焦点を当てて,そのような社会的変動を反映するとともに促進させる社会経済的メカニズムとし ての マーケティングの機能 を分析する枠組を提起するものであるが, 「需要分析や経営経済 学よりもマクロ経済学のそれであり,心理学よりも社会学のそれである」( N i c o s i a & G l o c k , 1 9 6 8 , p . 5 1 0 )
という視点に立ち, その実証的分析の促進に貢献するディシフ゜リンとしての「消 費社会学」の必要性を強調している( p .5 1 7 )
。N i c o s i a
らが「消費社会学( s o c i o l o g yo f c o n ‑ s u m p t i o n )
」と明示した最初の機会がこの1 9 6 8
年論文であったと思われるが,その後も度重ねて「消費社会学」の必要性を主張する論文を発表しつづけて来た。
例えば, 1969年には消費者の“総体的な (aggregate)• 行動を考えるとき, 消費関数研究や 経済心理学(あるいは心理経済学)にはない 消費者研究への新しいアプローチ"が形成される
として,その性格を次のように述べている
( N i c o s i a ,1 9 6 9 , p . 1 9 ) :
① 分析の単位が社会
( s o c i e t y )
である。③
研究の課題は「ある社会がある消費パタンを示すのはなぜか。つまり,いかなる種類の社. . . .
会的・文化的価値観が(一定の技術的知識のもとで)いかなる種類の消費行動に結びついて いるか」というものである。
③
このアプローチが示唆することは,社会が豊かな状態( as t a t e o f a f f l u e n c e )
に達した関西大学『社会学部紀要」第1
1
巻第2
号. . . . . . .
場合には,特に,消費のパタン(つまり,生活のスタイル)の変化と社会的・文化的価値観 の諸変容との関係を理解しない限り,多くの経済的・社会的な問題が解決できない,という ことである。
この1
9 6 9
年論文では,産業社会学や宗教社会学の誕生を見てきているのに「消費社会学の徴候 は今のところ全然ない」( p . 1 9 )
とも述べているが,その後のN i c o s i a
の仕事には, 「消費社会 学」のアプローチの必要性を主張するだけでなく,そのディシフ゜リンとしての研究的枠組を明確 化する努力を精力的かつ多角的に展開する方向を認めることができる。N i c o s i a
は,また,1 9 7 3
年11
月に開催された消費者研究学会( A s s o c i a t i o nf o r Consumer R e s e a r c h )
の年次大会でT .H. Witkowski
と連名で報告しているが,その冒頭で,従来の消.
.
費者行動の研究が焦点を当ててきたのは,個人消費者(あるいは消費者タイプ)であり,一つの プランドあるいは一組のプランド群のような具体的な対象物に関する個人の意思決定過程であっ た,と持論を繰り返すとともに,これと対照的なアプローチとしての「消費社会学」を次のよう に説明している:
われわれが「消費社会学」と呼ぶであろうこのアプローチでは,焦点は個人消費者や一定タイプの消費 者に合わされるのではなく,すべての消費者に,そして,ひとつの社会で生起しているすべての消費活動 に合わされる。その焦点は,また,社会的価値観,規範,制度(例えば家族)のような,消費活動の相互 関連要因(原因であるとともに結果であるもの)にも合わされる。このアプローチでの観察と分析の単位 は社会であり,社会の消費指向性
( c o n s u m p t i o no r i e n t a t i o n s )
の基底を成す様々なものである。( N i ‑ c o s i a & W i t k o w s k i , 1 9 7 5 , p . 8 )
種々の機会での主張や説明を踏まえて,
N i c o s i a
が「消費社会学」の視点と研究的枠組を総括 的に示したのがR o b e r tN . Mayer
との連名による1 9 7 6
年論文である。 この論文でN i c o s i a
& Mayer
は,( 1 )
マクロ的(社会全体の)消費の研究の必要性とその背景的条件,( 2 )
消費社会学 において基本的だと考えられる種々の構成概念の規定,( 3 )
消費社会学の研究領域とその貢献の方 向,という三つの問題を論じているが,それぞれについての結論部分が「消費社会学」の性格を 総括的に説明することになっている。これを要約すれば,次の通りになろう:①
個人消費者や種々の消費者タイプではなく,社会全体に焦点を当て社会的レベルの分析を 展開する( p . 6 6 )
。②
文化的価値観,制度とその規範,消費行動という3
組の変数群を研究する。加えて,これ ら3組の変数群の間の相互関係をも研究し,例えば(1)文化的価値観から制度を経て消費行動 へ到る関連,( 2 )
文化的価値観から消費行動への直接的な関連,( 3 )
消費行動から制度とか文化 的価値観への考えられうるフィードバック,などが具体的課題になる (p.69 )
。③
豊かな社会における消費の性質とダイナミックスを理解するための研究課題として,( 1 )
消 費行動に関連する文化的価値観,および制度とその規範を明らかにすること,( 2 )
社会の消費 の基底を成す社会変動の諸フ゜ロセスを明らかにすること,がある( p . 7 3 )
。消費者行動研究の新展開 ( I I )
(佐々木)3 「消費社会学」の限定的意味
初めての着想からの 1 0 余年間に次第に具体的な枠組を整えてきた「消費社会学」を, N i c o s i a
は前述のような研究的領域として限定的な意味で用いているが,この用法は彼独自のものであっ て,特定の 領域学 を表現するものとして一般化されている用語であるとは言えない。
例えば N e i l J . S m e l s e r も 消費社会学 ( s o c i o l o g yo f consumption)• という同ー用語を
用いたことがあった。 S m e l s e r( 1 9 6 3 ) は , A l f r e dM a r s h a l l から FrancoM o d i g l i a n i まで の消費理論の歴史的推移とそれに批判的な RubyTurner N o r r i s
ゃGeorgeKatona の所説 を概観し,消費理論における社会構造的変数の位置づけについて,次のような総括と展望を行な っている:
いかなる消費関数の構成においても一ー特定の一生産物についても,特定種類の生産物群についても, . . .
消費一般についても,あるいは,消費と貯蓄の比率についても一ー特定の社会学的変数が中心的決定要因 とみなされることはまったくない。社会学的変数のさまざまな組合せが,消費関数に関するさまざまな所 . . . . .
説のなかに入り込んでいるのである。適切な消費社会学 ( s o c i o l o g yo f c o n s u m p t i o n ) の発展のために 必要なことは三つの方向の知的活動を活発に遂行することである:第 1 は,消費者需要の変動のもっとも 重要な原因としてどの社会学的カテゴリーが寄与しているかを評価するために既存の家計資料,クロスセ クション・データ,態度データその他を再分析すること;第 2は,社会階層,ライフ・サイクル等の社会 学的変数にはっきりと焦点を当てた新しい研究を行うこと;第 3 は,消費者行動 ( c o n s u m e rb e h a v i o r )
に関する明確なモデルのなかに種々の社会学的変数を組み込む試みをすること。 ( S m e l s e r , 1 9 6 3 , p . 9 8 ) ここで S m e l s e r は,種々の社会学的変数が消費者需要や消費者行動の決定要因として適切に 位置づけられることが 消費社会学 の発展の必要条件であると述べているが,個人消費者か社 会全体かというような,消費者の . . . 集合の水準 に関する区別意識はな<, N i c o s i a らの言う 消費者行動も消費行動も共に包含していると理解される。
したがって,本稿で「消費社会学」という用語を使用する場合は, N i c o s i a が提唱する性格の 研究的領域であって, 消費に関する社会学的研究 を「一般的に」指すものではない。
2 . 消費者研究に対する社会学的関心 1 社会学者の関心の不足
Glock & N i c o s i a は,前述の通り, 1 9 6 2 年のアメリカ社会学会第 5 7 回大会で消費者研究に対 する社会学の貢献について論評を意図したが,真に 社会学 的な貢献を示すことはほとんど できなかった。
彼らはまず消費者行動の研究の伝統的方向を 2 分して,それぞれ 処方的伝統 ( p r e s c r i p t i v e tradition)• と 説明的伝統 ( e x p l a n a t o r ytradition)• と 名 づ け た % 処 方 的 伝 統 は 市 場 を 管 理し経済的利益を上げる目的で,操作可能な特定刺激に対する消費者反応を評価するために設計 された研究から成り立っているもので,消費者意思決定過程の存在を 一つの刺激と一つの反応 1) G l o c k & N i c o s i a の 2 論文 ( 1 9 6 3 , 1 9 6 4 )がまとめて再録されている 1 9 6 7 年論文では,さらに 記述
的伝統 ( d e s c r i p t i v et r a d i t i o n ) a を加えて, 3つの研究的伝統がある,としている。
関西大学「社会学部紀要』第
1 1
巻第2 号
との単純な(統計的な)結びつき としてとらえるだけにとどまるものとした。これに対して説 明的伝統は,消費者行動の成立過程を理解するための,より基礎的な関心によって行なわれる研 究から成り立っており,時間的経過のなかで相互に作用し合うネットワークを構成している刺激 に対して,反応として行為するものが消費者であると把握する。そこで,この説明的伝統に立つ 研究の課題は,選択行為に関連する多くの刺激を明らかにすることに加えて,その選択を生じさ せる刺激間の相互作用の過程を解明することであり,究極的には 過程モデル
( p r o c e s smodel)•
を構成することが目的であると考える。
. . . ( G l o c k& N i c o s i a , 1 9 6 3 , p . 2 2 )
ところで,従来の消費者行動の研究をふり返ってみて,彼らは,処方的伝統に立つ諸研究は社 会学ぬきで行なわれてきたと述べ (
. . .
p.22 ) ,
また,社会学が重要な貢献を果しうる説明的伝統の なかでも社会学者の消費者行動への関心は大きくなかった,と考えている( G l o c k& N i c o s i a , 1 9 6 3 , p . 2 7 ; 1 9 6 7 , p . 2 7 0 ) 。 . . .
Glock & N i c o s i a
は, 説明的伝統のなかでの消費者行動研究はインターディシフ゜リナリ・ア プローチ( i n t e r d i s c i p l i n a r ya p p r o a c h )
を必要とし,社会学,心理学,経済学などの単独の枠 組の内部での理解では不十分であるという立場であり,消費者行動にもっとも強く接近している ものとして,Columbia
大学のBureauo f A p p l i e d S o c i a l R e s e a r c h
のL a z e r s f e l d ,P . F .
を中心とする一連の研究,Michigan
大学のI n s t i t u t eo f S o c i a l R e s e a r c h
のK a t o n a ,G .
を 中心とする諸研究,および,臨床心理学を基盤とするモチベーション・リサーチの立場を挙げて いるが,L a z e r s f e l d
グループの研究は社会学というよりも社会心理学の領域に属するものであ り( G l o c k& N i c o s i a , 1 9 6 3 , p . 2 3 ) ,
また,上記の三つの立場のなかで,. . . .
もっともボプュラー でないと評価している. . . . . ( G l o c k& N i c o s i a , 1 9 6 7 , p . 3 6 8 )
。さらに消費行動の研究については,社会学者は消費者行動に対するほどの関心さえ示していないと述べている丸
2
ビジネス社会との関連における社会学者の消極性消費者研究に対する社会学者の関心の不足の理由について,
. . . . Glock& N i c o s i a ( 1 9 6 4 )
は, 特に消費行動に関して,( 1 )
そのような行動に関する社会学的データを蓄積することが相対的に欠 けていること,( 2 )
ほとんどの社会学者がビジネス社会やその問題について反対感情を(敵意すら も)持っていること,を挙げていたが,後にこれらの点をさらに検討して,社会学は消費者とい う主題に関連がないということでは決してなく,次のような障壁があったためであると段階的に 詳説している( G l o c k& N i c o s i a , 1 9 6 7 , p . 3 8 1 ‑ 3 ) :
① ビジネス社会にとって,社会学よりも経済学や心理学の方が目につくものになった歴史的 要因がある一ー経済学や心理学は人間の現象についての試案的な着想を精密で検証可能な所
. . . . .
2 ) G l o c k & N i c o s i a ( 1 9 6 4 )
は,社会学者は消費者行動と消費行動という二つの行動の研究に貢献できる が,「ほとんどの社会学者は消費者行動に主たる注意を払う傾向があった」( p .5 1 )
とか,「概して,社会 学者は消費行動の研究には関係してこなかった」 (p.5 2 )
と表現している。消費者行動研究の新展開(II)(佐々木)
説に書き改めることができた最初のディシプリンであったし,この点で社会学よりもはやく マネジメントに寄与するものを持っており,マーケティングや消費者問題への関わりが促進 される情況があった。
R
ビジネス社会では消費者に関する研究の必要性が広く認識されていた‑マネジメントは 明快な解答が求められる緊急かつ即物的な疑問をもってマーケティング課題にアプローチす る傾向があり,このような疑問はなんらかの形でマネジメントが統制できるようなマーケテ ィング過程の諸要因(例えば価格,製品デザイン,広告など)を中心とし,消費者選択への これらの影響が関心事であったので,実験や実証分析にこれらの要因を取り込むことができ る心理学や経済学に有利な情況があった。③
マネジメントの要求に関連する程度においてディシプリン間の差異があった1 9 3 0 年代
末期からオヒ゜ニオン・リーダーシップ,影響の2
段階の流れ, リファレンス・グループなど の社会学的研究の成果が紹介されはじめると,これに対してマネジメントは熱心な関心を示 したが,これらの成果を実践的に利用することが困難であったため,その熱意は消滅し,か. . . .
えって,社会学的研究は,ごく僅かな企業だけが行なうことのできるぜいたくであると見ら れるようになった。
④
消費者研究の実施について,社会学者と経済学者・心理学者との間で態度の違いがあった 一社会学者は一般にこの分野の仕事に関心を示さなかったが,これは応用研究を見下す態 度があったためと言えるところがある。しかし,この態度は,経済学者や心理学者も持って いたものであり,特に社会学者だけに限られたものではない。むしろ問題となる要因とし て,社会学者の方が,ビジネス社会を疑いをもって見る態度が強かったこと,また消費者操 作のためにマネジメントが力を発揮するのを好ましくないと思っていたこと,を考えること ができるだろう。この態度の副産物として,社会学者は応用研究のみならず基礎研究でも消 費者に関するすべての研究を回避する傾向を持つようになり,その結果として,一般社会か ら,社会システムの機能のなかでの消費活動や消費者活動の位置を理解させるための洞察を 社会学は与えてくれない,と信じられてしまっているのである。Glock & N i c o s i a
(1964) があげる前記の二つの理由←~社会学的データの蓄積の不足と社会学者におけるビジネス社会への反対感情ー―ーを否定しながらも,
. . . . F o x a l l ,G . A . ( 1 9 7 4 )
が,社 会学者の側にビジネス社会と関わりを持つことに強いためらいがあったことが消費者研究から遠 ざかっていた理由になっていると見る点では,ある種の共通性がある (p.1 2 8 )
。3 社会学的研究の消極性と可能性
マクロ的であれミクロ的であれ,社会学の立場からの消費者研究が,経済学や心理学の立場で の消費者研究よりも,消極的な展開しか見せてこなかったことが指摘されることは少なくない。
N i c o s i a
は前記のConsumerD e c i s i o n P r o c e s s e s : M a r k e t i n g and A d v e r t i s i n g I m p t i c a t i o n s
関西大学『社会学部紀要』第1 1 巻第 2
号( 1 9 6 6 ) のなかで, 消費者意思決定過程の把握のために行動科学的知見を利用する際の難点にふ れて
行動科学の主要なディシプリンが消費者研究に対して果してきた貢献には程度の差がある。心理学者は もっとも積極的であるが,社会学者はごく小さな少数派を構成しているだけである。そして,現代西欧文 化における消費者の研究に対する人類学者の貢献はほとんど無に等しい。 ( p .7 3 )
と言い,インターディシプリナリ・アプローチの必要性と現実性のギャップを指摘していたが,
ディシプリン間での消費者研究への熱意の表われ方のアンバランス,特に社会学における消極的 姿勢を指摘する声は,もっと以前からあったのである。
かつて JamesN . Morgan ( 1 9 5 8 ) が第 2 次世界大戦終了後の約 1 0 年間における消費者行動に 関する実証的研究の莫大な文献目録を作成した時,そこに収めた多方面の領域一一経済学,家政 学,マーケット・リサーチ,農業マーケティング,心理学,社会学,医学・保健など一一ーの文献 の出所についてアペンディックスでコメントしていたが,社会学については次のように述ぺてい た:
社会学的研究について,少なくともどんなものがあるかということは S o c i o l o g i c a lA b s t r a c t s で十分 にカバーされている。奇妙なことに,社会学者は,さまざまな人間行動を説明するものとして,ファミリ ー・ライフ・サイクルと社会経済的地位という 2変数を使用した先駆者であるにもかかわらず,なんらか の経済的行動を従属変数に用いた社会学的研究というものは極端に少ない。住まい ( h o u s i n g ) とレジャ ー利用だけが例外であるように見えるが,この分野でも社会学者による研究は少ない。さらに,社会的お よび空間的な移動も研究されてきたが,その経済的意味はほとんど無視されてきている。 ( p .1 2 3 )
Morgan が「奇妙なことに」と言うように,社会学的な消費者研究の可能性と発展性を大き く期待することは,むしろ当然であると言えよう。 C h r i s t e nT . J o n a s s e n ( 1 9 5 9 ) は,社会学 は「集団および社会的状況における人間行動を取り出し,規定し,記述する」ものであり,人間 の性質,社会的相互作用,組織,文化などを研究課題としているので,マーケティングや消費者 行動の研究に対するさまざまな貢献がありうるとして,その分野を次のように提示して,主要な 研究業績を論評している:
(i) 人口研究ー一人口の数や種類,居住場所を明らかにする;
(ii)
消費者動機一ー動機は集団の産物であるが,社会階級,集団参加,余暇・レクリェーシ ョン活動などの研究を通して明らかにされる;態度測定法も役立つものである;
( i i i ) 人間生態学ー一人や制度の空間的・時間的な適応や分布の過程を分析するもので,宗教 的システムや地域的システムのダイナミックスの研究,人間の地域間移動やメッセージの 伝播などの空間的システムの研究がある;
( i v ) 集合行動ー集団や大衆の相互作用や大衆社会的情況の発展などの事実を取り扱う;
(v) 測定法と尺度化ー~方法論,測定法,尺度化,予測技法などでの貢献がある。
これらの分野での研究発表やマーケティング・リサーチヘの社会学者の参加などの直接的貢献
が期待できるだけでなく,「心理学や経済学のような他のディシプリンヘ社会学が影響すること
を通して」間接的にマーケティングや消費者研究に貢献することも期待している ( p .3 4 ) 。しか
消費者行動研究の新展開 ( I I )
(佐々木)し,この間接的貢献への期待は,社会学が心理学や経済学ほどに消費者研究に関わっていないこ とを告白していることでもあろう。
さらに最近では, R o b e r t s o n ,T . S . & Ward, S . ( 1 9 7 3 ) が,心理学は消費者行動研究の母 体的ディシプリン ( p a r e n td i s c i p l i n e ) の一つであり,これはアメリカ心理学会の第 2 3 部門が 消費心理学部門 ( D i v i s i o no f Consumer P s y c h o l o g y ) であることによっても示されていると 言う反面,社会学については「 L a z e r s f e l d や G l o c k& N i c o s i a がいるにしても,消費の役割
( c o n s u m p t i o n r o l e ) の分析はしてこなかった。学会誌や主要テキストを通覧しても,社会的事 象としての消費過程にーベつを与えているだけである」と述べている
(p.9) 。
以上のような社会学者以外の見方に対して,社会学者による最近の見解も紹介しておく必要が あろう。
F o x a l l ( 1 9 7 4 ) は次のように書き出すことによって,消費者行動に関する社会学的研究の現状 整理と将来展望を行なっている:
現代社会において商品やサービスがどのように買われ消費されているかということの研究は,正しく,
経済社会学の忘れられた半分 ( t h ef o r g o t t e n h a l f ) であると言えるだろう。生産の過程でお金を稼ぐ 種々の活動は社会学者によって決して無視されていないが,それらの活動の報酬の処理の仕方についての 研究は社会学的探究の実際的範囲の中にごく稀にしか入ってこなかった。この一つの結果が,産業社会学 は急速に拡張中の分野であるにもかかわらず,消費者購買行動に関する我々の理解への社会学の貢献を潜 在的なものにとどめているということである。また,もう一つの結果は,他の社会科学ー一特に社会心理 学や経済学,これらに加えて政治学や人類学ーーが,社会学の独自のアプローチが欠けているとは言え,
この分野の研究的作業のなかの不均衡に大きな部分を遂行しなければならなくなっているということであ る 。 ( p .1 2 7 )
そして F o x a l l は,結論的には,「消費者購買プロセスに関するわれわれの知識に対する最大 の貢献はビジネス・スクールや経営学部から生まれてきているが,自分自身のディシプリンを発 展させようと欲する応用社会学者による消費者研究から得られるものは,まだ非常に大きい」
(p.
1 2 8 ) あるいは「今のところ(伝統的な経済理論の新しい定式化を図ろうという)この活動 は多くの社会学者の注目を引くようには見えないが,消費者行動研究の分野への貢献が社会学に 対する貢献であることを証明するようになると期待されうる」 ( p .1 3 3 ‑ 4 ) とも述べて,社会学 的な消費者研究の可能性を展望している。
3 . 経済学的消費理論に内在する社会学的発想 1 経済的過程の心理学的および社会学的解釈
社会的レベルの消費行動は「マクロ」経済学の立場で主に 消費関数 の研究として取り扱わ
れ,種々の社会ー~国,地域,階層などの集合体—における,またいろいろな時点における消費関数を比較分析するという形で行なわれてきた。その一般的手続きは,統計学的な理論と技法
に依拠して,ある集合体の消費行動の指標がなんらかの経済学的理論にもとづいて選ばれた他の
種類の総体的行動の指標と時系列的あるいはクロスセクション的に関連づけられ,通常,前者の
関西大学『社会学部紀要」第
1 1
巻第2
号消費行動指標を従属(被説明)変数とし,後者の他の行動指標を独立(説明)変数とした方程式 を構成する,というものである。このような消費関数によって,消費行動の変化や差異を予測す るための基礎がつくられるが,見出された経済的諸変数の関連性について理解を深めるために は,心理学的および社会学的な解釈を導入することが必要であった。
S m e l s e r ( 1 9 6 3 )
は「前世紀を通じて経済学における消費理論の歴史のほとんどは,需要とい う概念をなんらかの心理的あるいは社会的な構造(とくに前者)として解釈する一つの試みによ って特徴づけられてきた」が,この消費理論の今世紀における展開は,心理学的あるいは社会学 的な要因をその理論のなかに明確に組み入れる方向をさらに進めている,と述べている (p.9 3 )
。 このことは,国の経済発展にとって「達成動機」という心理的要因が重要な関わりをもつことを 実証的に示したDavidC . M c C l e l l a n d ( 1 9 6 1 )
が,経済成長に関する経済学者の説明を概観し て,「非常に興味あることだが,経済理論家自身が経済体系における変動の源泉がその体系それ 自体の外部にあるということを常に感じてきているようである」( p .1 1 )
と述べてM a r s h a l l
やMax Weber
の見解にふれた後で,ふたたび「現代の経済学者は,経済発展の基底を成す究極 的な力は,厳密に言えば,その経済学的範囲の外部にあるという信念になお一層固執するように なっている」( p .1 1 )
と述べていることとも一致している。ところでマクロな総体消費関数的な研究に心理学や社会学はどのような関わり方をしてきたの であろうか。
まず心理学の立場からは
GeorgeKatona
が心理学的要因を独立変数に導入した消費関数を 構成するという独自のアプローチできわめて積極的な取り組みを見せている(佐々木,1 9 6 7 , 1 9 6 8 , 1 9 7 9 )
。しかし,Katona
の研究では,購買意欲( w i l l i n g n e s st o buy)
を操作的に表わす 消費者センチメント指標 によって意味される「見通し( e x p e c t a t i o n )
」という心理的要因が 取り扱われるだけである。他では乗用車など具体的生活財の 購入意図( b u y i n g intention)•
や 購入計画
( b u y i n g plan)•
など一ーいわゆる anticipation—が主に経済学者によって導 入されることも少なくないが( J u s t e r ,1 9 6 4 , 1 9 6 9 ;
佐々木,1 9 6 8 ) ,
これは上記の 見通し と 同一領域に入る心理的要因である。このように心理学者による積極的なアプローチが
Katona
以外には見られないのは,Mc‑
C l e l l a n d ( 1 9 6 1 )
が言うように,ほとんどの心理学者は,彼らにとって経済学は基礎科学の一分野であるとは言えず,いつか将来に一般 的な心理学的原理が適用されうるかも知れない分野であると考えられていたので,経済学に大きな関心は 示さなかった
( 1 9 6 1 , p . 1 9 ) ;
という事情を背景としていたであろう。
他方,社会学者は,経済発展の研究では積極的な貢献を果しているが,消費理論の領域では消 極的な姿勢しか示していない,と言えるようである。
M c C l e l l a n d
は,経済発展の研究,特に 先進国と発展途上国の社会体系の比較分析における社会学者の貢献について,MaxWeber
や消費者行動研究の新展開
( I I )
(佐々木)Takot P a r s o n s
らの所説を紹介し,積極的な評価を下しており( 1 9 6 1 , p . 1 6 ) , Smelser
も経 済発展の社会学的側面について多面的な検討を行なっている( 1 9 6 3 , p . 9 9
ff.)。しかし,その
S m e l s e r
も,消費理論における社会学の貢献については消極的な評価しか示し ていない。S m e l s e r ( 1 9 6 3 )によれば,次のような情況が指摘できるという:
①
Keynes
理論も,それに批判的なDuesenberry
理論も,多くの社会構造的変数を消費 に集中的に関連づけているとは言えない (p.95 ) 3 '
。③
正統的な消費理論を批判するRubbyTurner N o r r i s
やGeorgeKatona
の心理学的 な接近でも,社会構造的変数が組み込まれていない( p .9 6 )
。③ 社会構造的変数に依拠する包括的な消費関数は未だ構成されていない。現にあるものは,
多数の,いささかばらばらな実証的研究が種々の社会学的カテゴリーによって分類された人 びとの貯蓄と支出のバタンに差異があるということを示しているに過ぎない (p.9
6 )
。Glock & N i c o s i a ( 1 9 6 7 )
は,消費理論のなかに社会学的理論が入っていない理由はむしろ 社会学者の無関心に帰すべきだと考える立場であるが (p.37 7 ) ,
社会学理論と経済学理論の交 流について概略次のように見ている:① 社会学者ができた最初の,ごく僅かな貢献は,有力な経済理論や経済的研究に社会学理論 を当てはめることであるが,このことは実際上は経済学者が経済的諸変数の間に見出してい
る諸関係を社会学的用語で解釈することである。
② 一般体系のレベルでの社会学,経済学の両理論の間に 親交関係 を結ぶための努力は,
例えば
P a r s o n sT . & S m e l s e r , N . J .
の 恥onomyand S o c i e t y ( 1 9 5 6 )
に認められる。⑧ この努力にくらべると,経済学者が消費行動の研究で取り扱っている日常的問題に対して 社会学的洞察を適用するための社会学者の努力は,弱いものであった。
このような社会学者の姿勢に当面して,経済学者の方では自分たちの解釈を試みるようになり,
その結果として,特定の経済的関係を説明するために,例えば
Duesenberry
の「デモンスト レーション効果」のような社会学的な考えがしばしば導入されるようになった,と言うのである( G l o c k & N i c o s i a , 1 9 6 7 , p . 3 8 7 ‑ 8 ) 。
2
消費関数への社会学的要因の組み入れ消費に関して経済学者が行なってきたように,社会学的に解釈することによって消費関数をよ りよく理解できるとすれば,さらに進んで,消費関数の構成にあたって社会学的意味が明確な関 数体系を構成したり独立変数を導入するということも考えられるであろう。このような社会学的 視点の組み入れ方について,
Smelser
は,支出や貯蓄そのものを社会学的に意味づけて,その3) S m e l s e r ( 1 9 6 3 )によれば, 社会構造 とは複数の人間の間の反復的かつ秩序立った相互作用であり,
その基本的単位は役割と社会的組織である。社会構造の分析にあたっては,価値観,規範,サンクション
(報酬と罰,賞讃と制裁を含む統制)という三つの構成概念が特に重要である。
( p .2 7 )
関西大学『社会学部紀要」第1 1 巻第 2
号意味に関して共通性をもつ支出や貯蓄のカテゴリーを構成することを通じて,消費関数への社会 学的接近をはかろうとしているようである。
われわれの考えるところでは,種々の社会学的次元(社会階級,人種)に従って分類された消費者は,
それぞれ異なった仕方で社会の諸構造に関与している。これらの構造はそれらの消費者の支出パタンに,
全体レベル(例えば消費と貯蓄の比)でも,また細目レベル(例えば性的役割をシンボライズするために 用いられる消費者用品)でも影響を与えている。そこで,どんな特定消費者についても,性,婚姻上の地 位,年令,階層構造内での位置などに注目し,また種々の社会構造的情況へのその人の関与の仕方をシン ボライズするような支出や貯蓄の一定の 水準 および 種類 を決める。それから,このような情況に 付随しているこれらのものを集合することによって,一つの消費関数が,むしろ一連の消費関数群が,ぃ ろいろな需要理論に織り込まれるために再生されうるだろう。 ( S m e l s e r ,1 9 6 3 , p . 9 6 )
支出や貯蓄に内在する社会学的意味によって消費関数を再構成するという方向は, 社会学的 要因が消費関数の変数として明示的な形をとることを必ずしも意味していないが, Glock &
N i c o s i a ( 1 9 6 7 ) の考えは,心理学的要因を独立変数として導入している Katona の方法論に近 く,経済学的変数と社会学的変数を並列的に取り扱うことを意図するものであり,次のように述 べられているが,これは「消費社会学」の初歩的な提唱になっている
(p.3 7 7 ‑ 9 ) :
①
経済的諸変数の間の関係の基底にある社会的諸要因についての観念的解釈は,消費行動の 理解に向けてのほんの出発点にすぎないが,そのような解釈は実証的研究によって検証され るべき諸仮説の中核的部分を提示してくれる。
R
消費行動の性質についての理論を社会学者は構成すべきであり,その理論は実証的研究に よってテストされるべきである。
③
実証的研究のためのデータは,消費行動に関しては時系列的に蓄積されているが,これに 匹敵するような形で社会学的要因の変動は記録されていない。人口の社会的構成については 甚礎的情報が定期的に収集されているが,その人口の価値観,規範,習慣,風習などの変動 を記録したり評価するための根拠は定期的に集められていない。このために消費行動に対す る社会的諸要因の関連を研究するための基礎的データの利用が困難である。
④ 社会構造や社会的価値観の時系列的変動に関する十分な情報を持つことの必要性や有効性 を強調することは容易であるが,実際上,どのような種類の社会的データを定期的に収集す べきかを決めるためには慎重な検討と実験的試みが必要である。
⑥
第一段階として,社会構造や社会的価値観の変動が消費行動に与える影響のあり方を考え るべきであろう。消費行動に影響を与える社会的要因には,例えばライフ・サイクル,社会 階層,誇示的消費,社会的流動性,文化遅滞,同調性,達成指向性,ライフ・スタイル,等 々の社会学的概念によって意味されているものがあろう。
⑥
実際的なデータ収集のためには,これらの概念をより精密な命題に組み立てて総体的消費 行動との関連を示す必要がある。そうすればデータを集めるためのインディケータが明確化
されるであろう。
消費者行動研究の新展開
( I I ) C
佐々木)] I
消 費 社 会 学 の 社 会 的 必 要 性1
消費社会学の成立を求める社会的背景1. 豊かな社会の到来
社会学において消費者や消費現象の研究へ消極的な取り組みしか見られなかった理由は,ビジ ネス社会の必要性や評価に依存する実用的側面だけに限定されるのではなく,さらに根本的な理 由として,社会体制や生活体系の中での消費の重要性が科学的研究の関心を引くほど十分に大き くなかったということがある。消費現象の社会的意味の増大が,その社会学的研究の必要性を増 大させているが,そこには社会の変動や発展が深く関わっていると言わなければならない。
社会変動論的に見た時に現代社会の特徴を表現する言葉は数多いが,
N i c o s i a
は「豊かな社会( a f f l u e n t s o c i e t y )
」という表現を好んで用いている。そして,豊かな社会の中心的特徴をとら えるために「消費者としての」人間の役割や性質に注目し,「生活のスタイル( s t y l e so f l i f e )
」 を希求する消費者の努力を重視する。N i c o s i a & G l o c k
(19€\8) は,社会体系の質的な変化を追跡していくと,次の三つの状態を 識別できると言う (p.51 2 ) :
①
生存状態( s u r v i v a l
state)-—人びとは「生計を立てる」ために自らの行動を体系づけ る。個人でも集団内でも,人びとは一つの収獲から次の収獲までを生きていくことを主目的 として行動する。R
産業化状態( i n d u s t r i a l i z a t i o n
state)一~ りの目的は,最低限 の生存しうる程度の量の財を得ることから「一定の生活水準を確保する」ことへ変化する。文化的な意味で,人並みの生活というものは生存可能か否かということではなく,所有財の 質や量の程度という尺度でとらえられる。
③
豊かな状態( a f f l u e n c es t a t e )
ー一暮らし方(wayso f l i v i n g )
の探索や「生活のスタイ ルの追求」によって特徴づけられる。社会の関心は 財の量 から 生活の質 へ転換し,特定行為に対して付与されていた重要性は,以前ならば社会的に画ー的であったが,今日で
. . . . . . .
はそれが個人によって分化している。社会全体として,とりうる生活のスタイルの範囲の多 様化・多元化が急速に拡大する。
このような歴史的展開では,生計を立てる‑‑定の生活水準を確保する̲生活のスクイル を追求する,という行動的側面に加えて,他の多くの全社会的な諸要因ー一例えば,社会制度の 種類,それらの顕在的・潜在的な機能,テクノロジー,経済システム,社会的・文化的な価値 観,等々ーーや,これらの要因間の相互作用的関係も含めて,それぞれの社会的状態の特徴を総 合的・体系的にとらえることが重要になる
( p .5 1 2 )
。とりわけ豊かな社会では,人びとが希求する生活が, 量 の問題を解決することから 質 を確保することへと進化してきているが, 量 の追求が 質 の充実につながり,そこからさ
関西大学「社会学部紀要」第
1 1
巻第2
号らに一段とレベルの高い 量 の追求が生まれるというように 質 を 量 の発展であると認 識することが困難な情況にあって, 量の追求 と 質の確保.が対立的関係にならざるをえな いことが増えている,と分析している
( N i c o s i a& Mayer, 1 9 7 6 , p . 6 6 )
。このようなジレンマ の解決には,個人生活レベルからの発想ではなく,社会全体レベルでの問題の認識が求められ る,と言うのである。2 .
労働と貯蓄の社会的機能の変質N i c o s i a
は,社会が産業化状態から豊かな状態に移行するなかで 消費 の意味の変化と深く 関連する社会的な活動や制度として, 労働 と 貯蓄 に特に注目している。労働と貯蓄(し たがって,テクノロジーと投資)は産業化状態の社会ではもっとも重要な問題であって,これら に比較すると 消費 は付随的・派生的な問題にすぎなかった%ところが豊かな社会における 労働 の意味は大きく変化したと強調する。
社会が産業化状態にあった時期を経過する間に,生産性の向上が促進され,これは高所得化に よる自由裁量所得を増大させるだけでなく,労働を軽減化させてきた。その現われとしての労働 時間短縮は自由裁量時間を増やし非労働的活動である消費活動や余暇活動を増やした。この状態 は価値観の両面併立的
( a m b i v a l e n t )
な情況をつくり出す。生産性向上に結びつく 勤労重視 の価値を強調すればするほど 消費重視 や 余暇充実 の価値も強調する必要が生じてくるの である。こうして,自由裁量的な所得や時間の増大という産業化状態の帰結から,消費活動や文 化的価値観に新しい可能性が生まれ,さらには制度,規範,報酬や罰(サンクション)にも新し い可能性が生まれてくることになった。このような 新しい可能性 を探求するためには,産業 化状態をとらえる視点では不十分であり, 豊かさ 特有の社会的特徴をとらえる新たな視点を 設定することが求められると考えるのである。( N i c o s i a & W i t k o w s k i , 1 9 7 5 , p . 9 ‑ 1 1 )
このような新たな視点として「豊かな社会に 波長を合わせた
( t u n e ‑ i n ) "
」研究である消費 社会学を構想するのであるが,これを結論的に言っているのがN i c o s i a& Witkowski ( 1 9 7 5 )
による次の一節であろう:要するに,いま現われつつある豊かな社会は,すでに,労働がもはやその存立の唯一の重要な特徴では ないということを,言っている。産業化社会は,消費する権利を分配するために労働する権利があるとい うことを中心として社会そのものを体制化してきたが,豊かな社会は,消費する権利が労働する権利とす くなくとも同格であるという地点へ,事実上,接近してきている。われわれは,これらの全体的推移を正 しく認識し,生活の他の領域 宗教から政治までの,特に消費までの一ーにおける,その影響を理解す ることに努力を傾けなければならない。
( p .1 2 )
他方, 貯蓄 の問題に目を向けても,豊かな社会での貯蓄の目的が産業化社会でのそれと大 きく変ってきていると言える。産業化社会では,貯蓄は,将来起りうる不幸への備えのためであ
4)
その社会的背景に立って,これまでの社会学は,産業,労働,職業に大きな関心を向けてきたが,このことは決して不思議ではないと言う。
( N i c o s i a & W i t k o w s k i , 1 9 7 5 ,
p.9 )
消費者行動研究の新展開(II) (佐々木)
り,将来考えられる自己発展的投資への用意のためであった。しかし豊かな社会では,これらの 手段を個人がとるべき意味や必要性が減少してきている。不幸に備えるために社会福祉や社会保 障などの公的制度が整えられ,自己発展のために社会教育的訓練・学習制度が充実されてきてい る。個人的生活の改善や危険対処を社会的制度がカバーする程度の拡大に応じて,消費パタンは 将来指向的ではなく現在指向的になっていく。貯蓄に関する,上記のような 伝統的 な理由は 意味がなくなり,生活の時間的展望の短期化は,自由裁量的な所得や時間の増大とも結びつい て,より多くの人びとに,より多様な消費の可能性を探索させることになる。
( N i c o s i a& W i t ‑ k o w s k i , 1 9 7 5 , p . 1 2 )
3 .
消費を中心とする社会システムの構図産業化社会で見られた労働̲所得̲消費という因果的関係が今や変化してきていることを
N i c o s i a
は強調していた。例えば,消費パタンの多様化を所得によって説明したり予測すること が難しくなり,労働の機会や形態の自由選択性の拡大によって所得が消費に影響されるという現 象さえ認められるようになっていると言う( N i c o s i a & G l o c k , 1 9 6 8 , p . 5 1 7 )
。また,N i c o s i a
& Witkowski
が述べるように,将来生活の充実ー→貯蓄ー→消費の抑制,という図式も成り立 たなくなっている。社会はどのような方向に進んでいるのか;豊かな社会はどのような特徴をもっているものと見 るべきか;豊かな社会の体系的構造をどのようにとらえるか。………
このような問題を検討しようとする際に
N i c o s i a& Glock ( 1 9 6 8 )
は,社会が現に移行しよ うとしている状態について,明確な見解一致がないと見ている。この理由は,各人がとらえてい る社会的特徴が多様かつ部分的なものであるところから,豊かさの性質や影響についての見方も 断片的であり,相互に矛盾することさえある( p . 5 1 3 ) ;
このために,まず第ーに取り組むべき課 題は豊かさに向って移行しつつある社会を 概念化 することであるが,これは豊かな社会をシ ステム的に描き出すことである;その際に,豊かな社会のシステムを構成する諸側面のなかで,従来,注意が向けられなかったり正当な評価が与えられていなかった部分を考慮する必要がある として,次の諸点を強調している
( p . 5 1 6 ‑ 7 ) :
①
社会における消費者の役割の重要性が増大したこと一ー消費することはそれ自体が目的で はなく他の領域での行動の手段である,という考えや価値観を人びとは捨てており,その両 方に価値を認めるようになり,本質的に消費的な諸活動を拡大させてきている。自由選択的 な時間やお金を,いわゆる生産的活動に向けるのを減らし,非生産的活動に向けるのを増やしている。
R 消費の意味が変容していること一ー物質的所有への関心の低下,所有物への感情的執着の 減退,賃貸やリースの増大,伝統的な意味での 機能性 以外の製品特性の重視など,消費 活動の内容や目的が急激に変化している。
関西大学「社会学部紀要」第 1 1 巻第 2
号⑧ 消費者の新しい性格がつくられていること—美的あるいは倫理的な欲求の充足を求める
人びとが増えている。
言うまでもなく 消費 の強調であり,彼らは結論的コメントとして次のように述べている:
消費的な諸活動の性質や内容にみられる変化と,それに付随して起る社会の他の側面での変化は,新し い論点をつくり出すだけでなく,豊かさという性質に特有の社会的な諸特徴を明らかにする。 ( p .
517)2 消費社会学と公共政策
1.