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理科教育にお・ける思考に関すろ研究(第一報)
一一 fンプン糖化反応の証明方法についての思考の分析
自然科学教育研究室 高 野 恒 雄
§1.研究の意味
§2.調 査 方 法
(1)調査対象
②思 考 問 題
(3)採 点 基 準
§3.調査結果と考察
(1)思考問題に対する解答の実例
②得 点 分布
㈲ 各実験操作の案出率
㈲ 学業成績との相関
§4.結 び
§1. 研究の意味
理科教育の目標において,科学的方法の体得ということは,最も重要な位置をしめるも のであるといえる。児童,生徒,学生が単に理科的知識を吸収するに止まらずに,それを 駆使する能力,態度を養う必要があることは誰しも異存のないところである。そこでこの 科学的方法の内容を能力の面で分析すると,大別して観察能力,思考能力,技術的処理能 力の三つになるといえよう。そしてこれらの基本的能力の分析とその養成方法についての 研究は,理科学習指導法全般の進歩のために,その根底において寄与すべきものであると 考えられる。そのような意味で筆者は,これまでまず主として観察能力の問題に焦点をし ぼって研究を進めてきた。すなわち「理科教育における観察の機能に関する実験的研究」
と題して,児童,生徒,学生を対象とする,いろいろな種類の問題実験についての実験的 一 調査とその分析を行い,観察の機能それ自体および観察能力の養成方法についていくつか の結論をえてきた。(本紀要の第5号以下に発表してある。)
そこでこの観察に関する研究と並行して,本研究においては思考について実験的研究を 行い,以て理科学習指導の中心部門を追求していきたいと考えているのである。もちろん 観察と思考とは密接な有機的なつながりをもっているものであり,認識における感性的認 識から理性的認識への発展過程と結びつけて考えられるべさものであると思われるQ現在
の研究段階としては,観察と思考のそれぞれについて,その基本的な能力についての実験 的調査とその分析が主となっている。
本第一報においては,なるべく小,中,高校の教材に直接的関係のある一つの思考問題 をつくり,これを大学生,高校生,小学生などに与え,その解答によって思考能力を分析 したのである。思考問題としては,いろいろな程度のものをつくりうるが,まず始めにか なり高い程度までを含んだ思考能力を全体的に検討してみたいと考えて,多少難問といえ る問題を与えた。しかし解答は一つでなしに,いくつも出てくるので,出やすい解答も含 まれている。問題の要点は,ダ(唾)液がデンプンを糖に変化させることを証明しようと して行った一つの実験手続を示し,この証明の仕方は不十分であるから完全な証明法を考 案しなさいというものである。これに対する解答を統計的に分析してみたわけである。
§2.調 査 方 法
(1)調 査 対 象
茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学校,6年生48名。茨城県立石岡第二高等学校,普 通科2年生49名。茨城大学教育学部学生97名。計194名。
② 思 考 問 題
本研究に用いた思考問題は,つぎのようなものである。
「デンプンにヨードチンキを加えると紫色になる。また糖にベネジクト試薬を作用させ ると黄色になる。今ある人が,ダ液がデンプンを糖に変化させることを,疑い深い人に証 明しようとして,つぎのような実験を行った。
まず試験管の中に少量のデンプンを含む溶液を入れ,ヨードチンキを少量滴下して紫色 の液とした。これにダ液を加え,数分間暖めて反応させ,後冷却したところ,紫色は消え た。つぎにベネジクト試薬を作用させたら黄色に変った。従ってデンプンは変化してなく なり,糖になったとした。
この証明は不十分である。厳密な証明をするために必要にして十分な,上記以外の実験 操作とその理由をのべなさい。ただし上記以外の薬品は使わないこと。」
大学生には,この調査の意味を簡単に説明してから,このまま提示し解答をしてもらっ た。高校生には始めに問題を筆者が読み,問題の筋をわかりやすくしてやった。小学生に は担任の教師がこの文章の筋をていねいに図解によって説明して問題を与えた。なおこの 小学校6年生は約1ヵ月前にデンプン・ヨード反応について学習してあり,教師実験をみ てある児童たちであるQまたこの場合,デンプン・ヨード反応についての予備知識はもっ
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ていない被検者でも,問題の文章の初めにこれについての説明があるから,問題の筋を理 解する上には特別さしつかえないものと考えられる。
さらに問題の実験の内客について付言するならば,まずベネジクト(Benedict)試薬 とは水14に硫酸銅(結晶水を含む)17.39,クエン酸ナトリウム1739および炭酸ナトリ ウム1009をとかした液であり,これを糖を含む液に作用させると還元反応が起き,黄色一・
赤色の呈色ないしは沈デンを生ずるのである。問題中に糖の検出試薬としてこのべネジク ト試薬を用いた理由は,他の試薬より検出操作が簡単であるので,問題の文章の本質的な 筋を乱すおそれが少ないと考えたからである。それから問題の文章に「これにダ液を加 え,数分問暖めて反応させ,後冷却したところ,紫色は消えた。」とあるが,ここで特に
「冷却したところ」と書いた理由は,デンプン・ヨード反応による紫色はダ液が存在しな くても温度を高くすると消える性質があるから,この退色と混同するといけないので,冷 却しても紫色は消えていることを確認させようとしたのである。(もっともこの混同は,
実験内容についての知識を既にもっている被検者にだけ起る性質のものではある。)
(3)採 点 基準
この思考問題を疑い深く,十分吟味して解答をつくるならば,つぎのような「必要な実 験操作」が案出されるはずである。この場合もちろん問題の意に従って,問題の文章中に のべられている実験操作は除いてある。まず「必要な実験操作」の各々の要点を表に示す と,第1表のようになる。
第1表 必 要 な 実 験 操 作
,番 号 実 験 操 作 1
i
臨レ液+ベネジク縢→変らない.
皿1ヨードチンキ+ベネジクト試斡変らな馬
Iv デンプン十ダ液→+ヨードチンキ→変らない。暖
1 冷
Ivノ 問題の通り実験→紫色消える+ヨードチンキ→変らない。
1 暖
l IV デンプン十ダ液→+ペネジクト試薬→黄色 冷
V デンプン+ヨードチンキ→紫色消えない。暖
i 冷
V1 デンプン→+ヨードチンキ→紫色g
冷
wi罷の通り蹴ただし暖めず長劇→結果は同じ.
可1他人のダ液でも実験してみる.
一
第1表に示した実験操作は,その要点のみを記したもので,これらの実験操作を少しく わしくのべればつぎのようになる。
(実験操作1)問題にのべられている実験手続を行っていく場合,最後にベネジクト試 薬を加えて黄色になるから糖に変化したと認めている。この場合もし始めからデンプンの 中に少しでも糖が含まれていたとしたならば,例え問題の実験手続によって糖が生成しな いと仮定しても,ペネジクト試薬によって黄色に変ることになる。そしてこの始めからの デンプン中における糖の存在は,他の実験手続には何らの妨害を与えないから,ごまかし の証明が可能になる。そこで初めにデンプンを含む溶液の一・部について,ベネジクト試薬 を作用させても黄変しないことを確認し,糖の存在を否定しておくことが必要になるわけ である。
(実験操作皿)実験操作1でのべた,予めデンプン中の糖の存在を否定しておくという ことは,問題にのべられている実験手続のほかのところで用いる薬品などの材料にも成立 する論理である。すなわち,そのものの中に糖が存在していないことを証明しておく必要 がある。それでまずダ液中における糖の存在を否定するために,ダ液にベネジクト試薬を 作用させて黄色に変らないことを確認しておく必要があるわけである。
(実験操作皿)実験操作1および∬におけると全く同じ論理で,実験手続の途中で用い る薬品ヨードチンキ中の糖の存在を否定するため,ヨードチンキにベネジクト試薬を作用 させて黄変しないことを確認しておく必要がある。この実験操作は常識で考えると,あま りにも神経質な疑いに基ずく確認操作であるといえるかもしれないが,問題にも「疑い深 い人に証明しようとして,つぎのような実験を行った。」と書いておいたので,「厳密な 証明をするために必要にして十分な実験操作」としては,加えなければならない一操作に なると考えられる。
(実験操作IV)実験手続の吟味をすると,まず必要な操作は,デンプンを含む溶液にヨ 一ドチンキを入れないでダ液だけを入れて,これを暖めて反応させ,後冷却してからヨー
ドチンキを加えて,紫色にならないことを確認すると{・うものである。すなわちヨードチ ンキを加えるのを前から後に時を移したわけである。この実験操作が必要な理由は,第一 に反応中にヨードチンキが変質または消失するかもしれないという疑問を否定するためで
ある。始めにヨードチンキを加えてしまっていたのでは,この疑問を否定することはでき 」
ない。第二の理由は,ヨードチンキ+デンプンー〉糖という反応の可能性を否定することで あり,第三には,ヨードチンキ+ダ液今糖の反応の可能性を否定することになるのである。
またこれらの理由から,この実験操作IVは実験操作IV!あるいはIV に置きかえることが できるQ実験操作IV!は問題にのべられている通りの実験手続をし(従ってヨードチンキ
高 野: 理科教育における思考に関する研究(第一報) 131 は前に加える)紫色が消失するのを認めてから,もう一度新たにヨードチンキを加えても 依然として変らないことを確認するという操作である。この実験操作は前記の第二の理由 における反応だけは,厳密にいうとその可能性を否定できないことになる。そこで採点に 当っては実験操作IV!は区別して統計とったが,第一および第三の理由は否定できること でもあるし,点数の計算には他と同じように1点としたのである。実験操作IV はデンプ ンにダ液を加えて,ヨードチンキを加えないまま暖めて反応させ,後冷却してから,ベネ ジクト試薬を加えて黄色になることを確認する操作であり,これは前記の第一から第三ま での理由の反応の可能性をすべて否定できるわけである。従ってこれら三つの実験操作の
うち,どれを行っても同じ意味をもつものと解釈し,採点においてはいずれも採用し,こ れらの操作が重複した場合には一つだけ採用することにしたのである。
(実験操作V)問題にのべられている実験手続において,ダ液を加える操作を抜いた実 験操作である。すなわちデンプンを含む溶液にヨードチンキを加えただけで,暖めて反応 させ後冷却しても,この場合には紫色は消えないことを確認することである。この操作の 必要な理由は,デンプン自体が実験手続中に変質しその結果として糖を生ずるのではない かという疑問を否定するためであり,そのためにダ液を加えないで反応させるわけである。
従ってこの操作は実験操作Vノに置きかえることができる。実験操作Vノはデンプンを含 む溶液に何も加えないで,これだけを暖めて反応させ後冷却し,つぎにヨードチンキを加 ㌧
ヲて紫色になることを確認する操作である。採点に当ってはこの場合も実験操作Wにおけ ると同様,実験操作VおよびV!のいずれを案出しても採用することにした。
(実験操作VI)これは問題の薬品その他の実験手続をそのまま行うことにおいては変り はない操作なのであるが,ただ暖めるという操作をしないのである。すなわち暖めなくて
もこの実験手続を行うとき比較的長時間かければ,紫色が次第に退色していくことを確認 する操作である。この理由は,問題にのべられている実験手続においては,暖めるという 操作のために熱によってデンプンを始めとするここに使った物質のいずれかが分解や変質
をして,その結果として紫色が退色したのではないかという疑問を否定するためである。
この操作によって熱は反応速度を高める目的だけに加えたのであって,ほかの反応をとも なうことはないと認めることができるわけである。ただしこの実験操作は,暖めなければ 全然反応はしないものと思っている人には案出できないものであり,解答しなくても仕方 のな㌔・ものではある。
(実験操作冊)この操作は最も意外な感のある変ったものであろう。自分のダ液ばかり でなく,他人のダ液でも実験してみるという操作は,自分のダ液が特殊なものであること
を否定して,ふつうの人の誰のダ液でもこのような反応を呈することを示すためのもので
ある。反応の普遍性を示すことになるわけである。
以ヒの七種の実験操作が案出されうるのであるが,大きく分類してみると実験操作1,
皿および皿はこの実験に用いる材料,薬品に対する疑問の検証であり,実験操作W,Vお よびVIは実験手続,すなわち実験操作の順序,配列にっいての吟味であり,実験操作V皿は 外側の観点から材料の吟味をしたものである。さらに付言するならばこれらの実験操作は 皆デンプンがダ液によって糖になることを証明する操作であって,糖以外に何か別のもの が一つあるいはそれ以上生成するか否かは証明できていない。しかしこれは問題の範囲を 出ていることでもあるので,問題にしないことにする。
結局前記の七種の実験操作になるわけであるが,この七っのうち一つの実験操作を見出 し記録することができた場合,これを仮に1点の得点とすると,各被検者がこの思考問題 において案出することができた実験操作の数を点数で表わすことができるわけである・実 際に採点する場合には,必ずしも明確なくわしい表現でなくても,実験操作の骨組が明示 されていればこれを得点に入れ,表現力のフアクターをできるだけ除くようにしたのであ
る。
§3.調査結果と考察
(1)思考問題に対する解答の実例
被検者の思考問題に対する解答は,具体的にはどのような形で出てきているかをみるた めに,実際の大学生の解答した文章を二つあげてみる。
まず本学教育学部初等教育科2年の男子学生のものをあげる。
「(1)デンプンを含む溶液が糖を含まないことを知るために,それにペネジクト試薬を加えて確か める。
② デンプンを合む溶液にヨードチンキを加え紫色となす。
㈲ ダ液そのものがデンプンでも糖でもないことを確かめるため,ヨードチンキおよびペネジク ト試薬を加えて反応しないことをみる。
㈲ デンプンにヨードチンキを加えて紫色になった溶液にダ液を入れずに数分間暖める。そして 紫色は消えないことをみる。
㈲ 紫色のデンプン液と紫色でない他のデンプンだけの溶液との各々にダ液を入れ,数分間暖め る。紫色のデンプン溶液は紫色が消え,他のデンプンだけの溶液はヨードチンキを加えても紫色に ならないことを確める。
(6)反応した液にペネジクト試薬を加えてみて,黄色になることをみる。」
この解答の②においてダ液そのものがデンプンを含まないことを確かめるためヨードチ
、
L
高 野:理科教育における思考に関する研究(第一報) 133
ンキを加えて反応しないことをみるという意味の操作がのぺられているが,これは不必要 なものである。また(5)においては,実験操作IVおよびWノがのぺられており重複してい る。しかし全体的によく念入りに吟味してあり,すぐれた解答といえる。この解答を採点 基準で採点すると,実験操作1,E, IVおよびVを案出していることになり,得点は4と
なる。
つぎは教育学部理科2年の女子学生のものである。
「2本の試験管の中に,デンプンを含む溶液をとり,その各々にヨードチンキとべネジクト試薬を 滴下する。するとヨードチンキを加えた方は紫色を呈し,ペネジクト試薬を加えた方は変化がない
ことを示す。これでサンプルには糖が含まれていないことが明らかになる。
っぎにダ液にベネジクト試薬を加えて糖の合まれていないことを明らかにし,またヨードチンキ にもベネジクト試薬を加えて変らないことを知った上で,紫色の溶液にダ液を加え数分間暖めて反 応させると紫色は消えた。この反応は暖めることによって,例えダ液が加えられていなくても紫色 は消えるが,その後冷却するとあるからそれでも紫色が消えるのはデンプンがなくなった証こであ
る。
また熱によって何かが糖に変化するのではないことを示すためには,暖めないで長い問反応させ てみる。その後でペネジクト試薬を作用させて黄色になるのを確かめる。」
この解答においては,前にあげた解答にもみられたことであるが,問題にのべられてい る実験操作もつけ加えてのべている。やはり全体的にはすぐれたものといえる。これを採 点基準で採点すると,実験操作1,皿,皿およびVIを案出していることになり,得点は4
となる。
以上の二つの例は,いずれもすぐれた解答といえる。このほかの多数の解答をみていく と,この思考問題がなかなかむずかしいものであることが感じられるのである。
(2)得点分布
大学生,高校生,小学生の被検者について,思考問題の得点と人数との関係をまとめて みると第1図のようになる。
第1図からわかるように木学生は得点1が最大多数をしめ,最高点は4点である。これ に対して高校生(2年)と小学生(6年)は得点0が最大多数をしめ,最高点はいずれも
2点である。平均得点では大学生が1.03,高校生が0・30,小学生が0・42となる。以上の事 実からまずいえることは,得点が非常に低いことである。いいかえれば思考問題がむずか
しいことになる。この思考問題は前にものべたように,かなり高い程度までを含んだ思考 能力を全体的に検討したいために,かなり難問にしてあるのでこのような得点の低さがあ
らわれたのであろうと考えられるQしかしそれにしても,このように得点が低いことは,
、
第1図 得 点 分 布 ノ00
乎級
80 犬学生 ゐ03 ・
人
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̲ 一一高灘 洗3°
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(多40)
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0 馬、.
0 / 2 3 4 夕 得 莫・
被検者の思考問題に対する取りくみ方が常識的,惰性的であって,問題の骨組を明瞭にし それを掘りさげていって念を入れた吟味をするという鋭い思考態度ができていないことを 物語ると考えられる。なお筆者が既に行ってきている観察の研究に用いた問題実験(ヨウ
素の観察,水素の観察など)の観察得点においても,程度はこれほどではないにしても, . やはりかなり低かった。そうしてみると観察や思考のような基本的なものについての能力
は,これを十分に養うことはむずかしく,その指導はよほど注意深く行わなければならな いものと考えられるのである。
つぎに問題となるのは,思考の平均得点において小学生が0.42で高校生の0・30より高い ことである。この主な理由は,小学生は前にのべたように約1カ月前にデンプン・ヨード 反応について学習してあり,しかも念の入った教師実験が行われてあり,さらに思考問題
を与えられたときはていねいに問題の筋を図解して説明してやったという条件にあるとい えよう。また小学生の場合は案出した実験操作の理由についてはあまり強く要求しなかっ たので,興味深くいろいろな実験操作の組合せをつくっているのである。そのため意味の ない実験操作や,不必要なもの,重複しているものなども相当多くみられたのである。た だそれにしても小学校6年生でも,このような条件のもとではかなりの思考を行うことが できるということは注目に価するといってよい。
つぎに男女の得点の特ちようについてのべると,まず大学生の場合は男の平均得点がL
高 野: 理科教育における思考に関する研究(第一報) 135 08であるのに対して女は0.98であり,約10%程度男子学生の方が高い。その実際の得点と 人数の関係を男女別に示すと第2図のようになる。
第2図から,男子学生は 第2図 男女の得点分布(大学生)
高得点の人数が比較的多い 60
彩媒 とともに,0点という低得 人
̲も女子学生より多いこと 数40一
叢み;巖難炉初 \@ 、D \
@ 、
@ 、、 \
方が多い。つまり男子学生 、 、
@ 、℃一一一一 @一一噂一一_ _
0
ヘ両極端に多数をしめてい ・ / ㍉写臭3 4 夕
るわけである。
つぎに小学生について,男女別に図示すると第3図のようになる。
第3図男女の得点分布(小学生) 第3図から,小学生の場合は低 80
男
得点者は女子の方が多く,高得点
つまり小学生の場合には全体的に
人60
房4°) 転 男0.46,女0.38である。眠 眠 以上全体的にみて,思考問題の
場合には男子の方が女子よりも得
ZO \
\\ には,比較観察を除けば女子の方
、、 、、、一 が男子よりも得点が高かった。そ 0 0 一 / z 3
@ 得呉 うすると・比較観察というのは他
の単独観察に比べてその機能に思 考の成分が多く含まれているといってよいから,大体の傾向としては,思考は男子,観察 は女子という得点の優位が結論できるかもしれない。しかしこのことは速断は許せないこ とであるから,もっと多くの資料をえてから再び比較してみたいと考えている。
(3)各実験操作の案出率
前記の採点基準のところでのぺた七つの各実験操作について,その実験操作を案出でき た被検者は全体の被検者の何%にあたるか(これを操作案出率とよぶことにする)を求め
てみると,第4図のようになる。
第4図 各 実 験 操 作 案 出 率
4タ 闘口
づ奔3〃案
毒鮎
生 生 生 ム
率2・
二
冤
) /0 ≡
二 二
つ二
o ! ,
1 皿 皿 1V 「r W 「W 実験操作番号
第4図から,実験操作によって操作案出率に大きな差があることがわかる。実験操作W 羅コおよび1は特に操作案出率が高く,これについて皿,VおよびVIが比較的高く,皿および
皿は非常に低いことになる。
まず実験に用いる材料,薬晶に対する疑問に対する吟味である実験操作1,皿および皿 についてみると,操作案出率はこの番号の順に高い。これらの三つの操作は,いずれもそ れそれの材料の中あ糖分の存在をベネジクト試薬によって否定するための操作である。そ れがデンプン,ダ液,ヨードチンキの順に,次第に吟味が忘れられているわけである。こ のことはまずこの思考問題がデンプンの糖化反応についてであるから,材料の吟味として 最初に注目しやすいのは,出発点のデンプンそれ自体についてであることを意味する。そ のつぎにデンプンの糖化を起させるダ液に注目して吟味するのが,自然な順序である。ヨ 一ドチンキはデンプンの存在を検する薬品であるから,これについてまで疑問をもつこと は忘れやすいことなのであろうと考えられる。
つぎに実験操作の順序,配列についての吟味である実験操作W,V診よびVIについてみ ると,1Vが特に操作案出率高く, VおよびVIはそれに比べると低い。この実験操作IVが特 に高い理由について被検者の各解答をよんだとき察せられることであるが,問題の「試験 管の中に少量のデンプンを含む溶液を入れ,ヨードチンキを少量滴下して紫色の液とした
という文章において,ダ液を加えないうちに初めからヨードチンキを加えてしまうことに 対して心理的抵抗を感じるらしいのである。そこでここのところはあやしいと疑って,ヨ 一ドチンキを加える操作を後にのばすことを考えるようになると判断される。その結果実 験操作IVが生れてくることになるわけである。従って本当に実験操作IVを行う理由につい
高 野: 理科教育における思考に関する研究(第一報) 137
て考えて案出したのではない場合もかなりあるのである。そのためこの操作はかなり複雑 な理由をもっているにもかかわらず,操作案出率は最も高いのである。実験操作Vおよび Wはこれに比べると,遙かに忘れやすいことなのであろうと考えられる。
実験操作V皿(他人のダ液でも実験してみる)は,前にものぺたように変った操作であり・
ここまで注意する被検者は極めて少ない。この操作は思考能力のほかの機能にも関係する 注意を必要とするので,案出できないからといって思考能力が劣るとは一概にいえないも のと考えられる。
つぎに大学生,高校生および小学生の各実験操作の案出率を比較してみると,大学生と 高校生は操作案出率に大小の差はあっても大体傾向は一致している。すなわち大学生がよ く案出している操作は高校生も比較的よく案出しており,操作案出率が低いものについて はいずれも低い。ところが小学生の場合は傾向が一致しない。これは小学生には前述した
ような問題の与え方をしたので条件が異なっており,実験操作の勇敢な組合せを試みた結 果むだな操作も多く出たが,中には実験操作Vのように大学生を越える操作案出率を示す
ものが出てきたものと理解されるのである。
(4)学業成績との相関
思考問題の得点と学業成績とはどの程度の関係があるかをみるために,相関係数を計算 してみた。まず小学生については第2表のようになる。
第2表 得点との相関係数(小学生) これらの学業成績との相関は全教科,理科,算数科
陰教科成副+・・42 ともにかなり高いことがわかる。そしてその順位は理
理科成副 +・・51 科,算数科,全教科の順であり,自然なものと考えら
墜数科成劉+・・45 れる。
つぎに大学生の場合の学業成績との相関は第3表のよ うになる。
大学生の場合は条件統制の意味から,筆者の担当 第3表 得点との相関係数(大学生)
している講義のうち「理科教材研究」と「一般化学 一・ ハ化学成績 +0.43
」の両方を受講している学生について,両講義の成 珊教材研究成釧+・・13
績と思考問題の得点との相関を求めてみたのである。 その結果は第3表に示されているよ うに,「一一般化学」の成績との相関はかなり高いが,「理科教材研究」の成績との相関は あるかどうか疑わしい程度である。この場合の「理科教材研究」の成績は,理科の具体的 なことがらについてのテストよりも多分に教職教養的な理科教材の取り扱い方についての テストの方が大きな比重をしめていたので,余計に相関が低くなったのではないかと考え られるのであるQともかく純理科的な学科成績の方が,教職教養的な学科成績よりも相関
が高いといえよう。このことはまた小学生における相関の高さの教科別順位とほぼ符合す ると考えられる。それから全体的にみると小学生より大学生の方が相関が低いのは,観察 の研究における高学年ほど学業成績との相関が低くなる傾向と一致するのである。
以上から,思考問題の得点と学業成績との相関は全体的にはかなり高いといえるQそし てその程度は観察の場合と大差ないのである。
§4.結 び
以上は,デンプン糖化反応の証明方法についての思考問題を大学生,高校生,小学生に 与えたときの解答を分析して,思考力について考察したものであるが,今後は実際に実験
を行いながら思考させる場合や他の種類の思考問題についても研究していきたいと考えて
いる。
終りにのぞみ,本研究を行うに当り高校生,小学生を対象とする調査に便宜をはかられた 茨城県立石岡第二高等学校および茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一・小学校の職員の方々に 心から感謝の意を表する。なお小学生の調査に当って思考問題を与えるときの図解説明お
よび解答の整理に,筆者の妻,高野みち子(上記岩間第一・小学校教諭)の手をわずらわした。
〔後 記〕本研究は昭和31年5月3日,日本教育学会,第15回全国大会(於東京学芸大 学世田谷分校),教科教育部会において,講演発表してある。