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書籍のメディア特性の違いが及ぼす読書行動の変化

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Academic year: 2021

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(1)

タイトル(英) Changes in reading behavior by media characteristics of books

著者 菅谷, 克行

雑誌名 茨城大学人文社会科学部紀要. 人文コミュニケーシ

ョン学論集

号 2

ページ 123‑144

発行年 2018‑03

URL http://hdl.handle.net/10109/13522

(2)

『人文コミュニケーション学論集』2, pp. 123-144. © 2018茨城大学人文社会科学部(人文社会科学部紀要)

  菅谷 克行

要旨

 本稿は、印刷書籍と電子書籍のメディア特性について整理し、その違いが読者に及ぼす影 響を読書行動の変化として捉え、読書行動観察実験を通じて考察した結果を報告することを 目的とする。電子書籍上の読書と印刷書籍上の読書は、似て非なるものである。特に、学び としての読書、文章読解、文章校正時の読みなど、知的活動の場面でその違いを感じること が多い。本研究では、その要因を書籍のメディア特性の違いにあると考える。具体的には、

従来の読書行動は印刷書籍のメディア特性に最適化されたものであり、異なるメディア特性 を持つ電子書籍では、その特性の違いにより読書行動に変化が生じるのではないかと考える。

そこで、実験協力者に電子書籍端末を約半年間貸与し、電子書籍上での読書に慣れてもらっ た後、読書行動観察実験と半構造化インタビューを実施し、読書行動の違いや変化を分析す ることとした。その結果、読書中に観察された行動内容やその度数分布に有意な差が認めら れ、印刷書籍と電子書籍との間で読書行動は同一ではないことが明らかになった。そして、

電子書籍のメディア特性を理解し、それに最適化した読書方略およびその教育を展開してい くことが、今後の電子書籍文化の普及のために必要な要素になるのではないかと考えた。

キーワード:電子書籍、文章読解、メディア特性、読書行動、知的環境、読書方略

1.

はじめに

 近年、紙に印刷された文章を読むよりも、パソコンやスマートフォンの画面上に表示され た文章を読む時間の方が長くなってきているのではないかと感じることがある。電子メール、

Web

SNS

から、議事録、資料、論文、電子書籍など、デジタル化された文字情報を画面 上で読むことに慣れてしまっている。そして、そのことをあまり気に留めていない。

 メディアはメッセージである

(McLuhan 1964)

。人の生活や行動(思考・認知・学習など の知的活動も含む)は、その時代のメディア・テクノロジーの影響を受けている。我々は、

意識的にも無意識的にも、メディア・テクノロジーに適応しながら生活・行動しているとも いえる。そのため、新たなメディア・テクノロジーが登場すると、これまでの延長線上に新 メディア・テクノロジーを捉え、行動を適応・最適化しようと試みる。それがうまくいき知

(3)

識やスキルの転化が成功する場合もあるが、うまく適応できず失敗する場合もある。新メディ ア・テクノロジーを高く評価しすぎてしまうことも問題であるが、旧メディア・テクノロ ジーに固執しすぎてしまって新たな側面に気付かなかったり、認めることができなかったり、

不安になったりして、新メディア・テクノロジーを低く評価しすぎてしてしまったり、攻撃 的に批判してしまったりすることも問題である。古くは文字・記録への批判から、近年のテ レビ、ゲーム、インターネットなどへの批判まで、メディア・テクノロジーに対する不安・

批判は多数存在する。

 もちろん、新たなメディア・テクノロジーを無批判・無条件に受容するのは正しい態度と はいえない。正しく批判的に捉えて、検討を重ねて評価することは重要かつ必要なことであ る。それと同時に、正しく肯定的に捉えて、その可能性を展望しつつ検討を重ねることも同 等に必要である。

 近年登場したメディア・テクノロジー(サービス)として電子書籍がある。多種多様な電 子メディア端末の登場や情報ネットワーク技術の社会への浸透を背景として、インターネッ トを利用した各種コンテンツ提供サービスは拡大の一途をたどっているが、その中でも電子 書籍サービスは、既に導入段階から普及段階へと少しずつ成長を続けている

(

出版科学研究

2017)

。特に、スマートフォンやタブレット端末など、新たなプラットフォーム向け電子

書籍市場は急成長している

(

電通総研

2015)

。そのため、書籍コンテンツを印刷媒体上で利 用するのか、それとも電子媒体上で利用するのかを、読者が自由に選択できる読書環境(知 的メディア環境ともいえる)が整ってきている。

 そこで教育現場に目を移したい。今やアメリカでは、経済学や工学など実際的分野の大学 入門教科書は、印刷本と電子本の併存となり、電子本の利用者のほうが多い状態へと急変し

つつある

(

赤木

2013)

また、タブレット端末やパソコン等を生徒に配布し、普通教室でデ

ジタル教材・教科書を用いながら授業をする学校も、世界各地で登場するようになった

(

村・石戸

2010)

。そして、そのタブレット端末等にインストールされているコンテンツは、

印刷教科書の内容に写真・動画・音声等を追加したマルチメディア教材である。このように 電子媒体の利用は、教育界や教育産業界でも注目されてきている

(

赤堀

2014)

 パソコンやタブレット端末を学習教材デバイスとして評価した研究

(

赤堀・和田

2012)

や、

総務省と文科省が中心となって推進してきた「フューチャースクール推進事業」「学びのイ ノベーション事業」

(

文科省

2014)

では、デジタル教材の有効性や実用性についての実証実験 も行われている。この実証実験では、マルチメディア教材のみならず、デジタル教科書と電 子黒板とを連携利用して、生徒間や教員生徒間の対話を促すための教育ツールとして有効で あることも示されている。

 デジタル教科書に対する問題点の指摘や懐疑的・批判的な意見

(

新井

2012)

はあるものの、

教育界におけるデジタル化は試行段階から実践段階へと移りつつある。

2016

6

月に開かれ た有識者会議「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議(第

8

回)」では、中間まとめ案

(4)

として、次期学習指導要領の実施に合わせてデジタル教科書を導入することが望ましい旨の 発表がなされ、早ければ

2020

年度からの導入が可能となる見通しが示された

(

文科省

2016)

当初は紙の教科書と併用する形での導入を基本方針とし、マルチメディア・コンテンツの部 分は副教材として位置づけるとしているが、将来的には全電子化教科書・教材の可能性も視 野に入れながら検討を続けるとしている。

 たしかに教科書の内容に準拠したマルチメディア教材は、教科によっては教育現場に多大 な貢献をするであろう。しかし、書籍が本来備えている文章を人が読解する行為(それは教 育現場のみならず日常的な読書における文章読解も含む)が、教育・学習に果たす役割も決 して小さくない。文章読解は、単に文字だけを処理しているわけではなく、文意から視覚的 に映像を頭の中に想起させたり、過去の体験に照らし合わせて考えてみたりする、非常に創 造的なプロセスである

(

酒井

2011)

 著者らの研究グループでは、これまで書籍メディアが文章読解に及ぼす影響や読解方略と の関係性等について、様々な実験や調査を通じて検討を重ねてきた

(

菅谷・長滝

2008,

中嶋・

菅谷

2013,

菅谷・関

2014

など

)

。これまでの研究で得られた主な知見を以下に示す。

・文章読解テストの結果から、印刷媒体と電子媒体の読解(テストの得点)には有意な差異 は認められない

・主観的評価から、印刷媒体上の読書と電子媒体上の読書は同一の読書行為とは認められな い(媒体の違いが読書行為に何らかの影響を及ぼしている)

・媒体を手に持って読書ができるか否かが、書籍の読みやすさを左右する要因の一つである 可能性が高い(手で持つことによって、媒体と目の距離感を無意識的に調整できることが 重要な要素)

・書籍の物理的存在感(ページの厚み)やレイアウトが理解を助けている

・媒体の違いによって、読解に対する集中度や没入感、疲労度に差異がある可能性がある

・電子書籍を用いることにより、書籍への書き込み行為に対する心理的抵抗感の軽減が認め られる(印刷書籍への書き込みには強い抵抗感のある者も、電子書籍へは抵抗感なく下線 やメモ等を書き込んでいた)

・教育機関に求められることとして、印刷書籍と電子書籍の両方が利用できる読書・教育環 境の構築、目的や内容に応じて印刷書籍と電子書籍とを使い分けることができる読書スキ ル教育の実施、子どもが汚損を気にし過ぎることなく自由に書籍への書き込みや読書痕跡 を残し書籍の積極的活用(より能動的な読書行動)を促す読書指導・教育の展開等があげ られる

・読書指導・教育の場で、印刷書籍と同時に適切に電子書籍を活用していくことが必要

・電子書籍の利用は、隙間時間での読書量が増加

/

減少したり、読書に集中できたり

/

できな かったりする等、読書行為全体に何らかの影響を及ぼしている可能性がある

(5)

 また、これまでの研究を通じて整理した各書籍媒体のメディア特性は、以下のとおりであ る。

① 印刷書籍のメディア特性:

 印刷書籍は、完成された固定型メディアであり物理的な実体を持つ。そのため、固定化さ れたページ・レイアウトや、書籍の厚み、紙の手触り、紙やインクの香り等、物理的存在感 が、読解や記憶の定着に一定の役割を果たしていると考えられる。また、書籍へ直接書き込 んだり、ページを折り曲げたり、付箋などを貼り付けたりすることが容易であるため、これ らの書籍に対する行為が、読書時の理解支援のほか、後で読み直したりする際の検索性向上 にも役立っている。そして、実体として個人が所有することができるというコレクション性 に優れるため、数世代にわたって知識・文化の継承に貢献してきた。

 しかし、物理的実体の性質の不利点として、汚損や破損、紛失、焼失のおそれがあること が指摘できる。また、それが出版物の場合、絶版により入手が困難となる状況もあることを ここに加えておく必要がある。

② 電子書籍のメディア特性:

 電子書籍は、常に未完成状態の非固定型のメディアといえる。換言すれば、物理的実体を 持たない書籍データであり、常にデータ更新の可能性を保持している。一つの書籍データを パソコン、スマートフォン、タブレット等、複数のデバイスで利用でき、書籍に対する汚損 や破壊の心配もない(たとえ一つのデバイスが故障・破壊したとしても、他のデバイスで書 籍データを利用し続けることができる)。

 電子書籍は、コンテンツのフォーマットによって、文字サイズやフォントの種類、行間な どを自由に調整できるリフロー型と、印刷書籍のようにページ・レイアウトを読者が変更す ることができない固定レイアウト型に分けることができる。リフロー型では、文字サイズ等 を読者が自由に設定できるので、ページの概念、レイアウトの概念がなくなる。そのため、

文章理解や記憶の定着のためには、何らかの工夫・支援方略が必要になる。

 また、実体のある書籍メディアを所有しているわけではなく、あくまで書籍データを使用 する権利を持っているにすぎないため、当該電子書籍サービスが中断・終了してしまうと書 籍コンテンツにアクセスできなくなり、書籍の利用ができなくなる可能性がある。

②−

1

 電子ペーパー表示電子書籍端末の特性

 表示画面が電子ペーパーの場合、上記電子書籍のメディア特性に、以下のような特性が加 わる。電子ペーパーは、紙と同様に反射光によって視認するタイプの表示テクノロジーのた め、紙に近い見え方となる。そのため、一般に目に優しいとされている。ただし、現時点で カラー表示ができる端末は出てきていないため、白黒表示のみとなる。また、表示切り替え

(6)

が遅いため、動画の利用はできなく、書籍コンテンツであっても一瞬の白黒反転が数ページ 毎に発生する。そのため、スマートフォン、タブレット端末、パソコンなどの画面(

LCD

画面)での閲覧や操作に慣れている人にとっては、操作時の反応・表示スピードに違和感を 覚え、誤動作をしてしまう場合がある。

②−

2

LCD

表示電子書籍端末の特性

 表示画面が

LCD

(液晶)の場合、上記電子書籍のメディア特性に、以下のような特性が加 わる。

LCD

は、バックライトの透過光によって文字を視認するタイプの表示テクノロジー のため、一般に目に負担がかかるとされている。輝度やコントラストを調整することにより 負担を多少軽減することは可能だとされるが、光源に視線を向けていることは変わらない。

ただ、パソコンやスマートフォン、テレビで採用されている汎用化された表示テクノロジー であり、カラー表示が可能、表示切り替えも速く動画再生も可能、そして何よりも、多くの 人にとって身近な見慣れた画面表示となっている。

 現在、電子書籍は未だ過渡期にあると捉えている。年単位で、テクノロジー面やサービス 面の改良が加えられ、新しい機能やサービスが登場したり消滅したりしている。そのため、

書籍のメディアとしての影響力を鑑みた場合、電子書籍に対する多角的かつ総合的な調査・

分析を継続する必要がある。本研究では、これまでの継続研究という位置づけで、電子書籍 のメディア特性の違いと読書行動との関係性について、読書行動観察実験と半構造化インタ ビューの結果から考察することを目的とする。

2.

研究の方法

 本研究では、電子書籍を利用することによって読書行動がどのような影響を受けるのかに ついて明らかにするために、読書行動を観察する実験を実施した。ここでは、その実験の方 法について説明する。

2.1.

実験協力者と実験準備期間

 本実験に協力してもらった被験者は、大学生

8

名である。人文系の学部に所属しており、

全員同学年でもあるため、被験者の読書スキルは均質だと判断する。全員スマートフォンを 日常的に使用しているが、電子書籍用端末の利用経験はない。

 電子書籍端末を使用した読解実験を実施する前に、実験協力者に電子書籍端末での読書に 慣れてもらう必要があると考え、実験準備期間を設定した。それは、電子書籍の使用に慣れ ていないがために起こり得る様々な不具合や、それを起因とする読書行動への悪影響を避け

(7)

るためである。実験準備期間は約半年間(

6

7

ヶ月)とし、その期間中、実験協力者には 電子ペーパー表示電子書籍端末か

LCD

表示電子書籍端末のどちらか一方を貸与し、日常の 読書で使用するよう依頼した(各端末

4

台ずつ計

8

台を準備し、

8

名の実験協力者に

1

台ずつ 貸与した)。貸与した各電子書籍用端末は、以下のとおりである。

・電子ペーパー表示電子書籍端末:

Amazon Kindle Paperwhite (6

インチ、

300ppi, 205g)

LCD

表示電子書籍端末:

Amazon Fire6 HD (6

インチ、

252ppi, 290g)

 上記両端末とも、日常の読書場面での使用を想定し、携帯性を含めた書籍のサイズ感・重 量を留意して選び、スクリーンサイズ

6

インチ、重量

300g

以下のものとした。

2.2.

実験の手順

1

)実験準備期間:約半年間

 実験協力者全員に研究の目的と実験計画について説明し、実験協力の承諾を得た。その後、

電子書籍用端末(電子ペーパーディスプレイ端末、もしくは

LCD

ディスプレイ端末のどち らか)を貸与し、日常生活の読書で使用することを依頼した。

2

)電子書籍上での読書行動観察実験

 上記(

1

)の端末貸与から約半年経過ののち、読書行動観察実験を実施した。媒体による 読書行動の差異を観察することが目的であるため、印刷書籍と電子書籍をそれぞれ使用した 読書実験(各

1

回)を下記の手順で実施した。実験全体のデザイン時に、実験計画法に基づき、

カウンターバランスに配慮した。各実験は

1

名ずつ、研究室にて実施した。

2

1

)実験内容の説明と準備:

15

分程度

 まず、被験者に実験内容・手続きを説明し、本実験の目的を十分理解してもらった上で、

実験協力の承諾を再確認した。その後、ウェアラブルカメラ(

Panasonic HX-A1H-K

)を頭 部に装着してもらった(図

1

)。ウェアラブルカメラで撮影される範囲が、被験者の視線周辺 になるようにモニターで確認しながら角度等の調整をした。また、被験者の正面に設置した ビデオカメラの撮影範囲もモニターを見ながら確認し、被験者の行動が正確に映るよう調整 した。

2

2

)実験

1

で使用する書籍メディアの操作確認と設定:

5

分程度

(8)

 読書観察実験は計

2

回(印刷書籍使用

1

回、電子書籍使用

1

回)実施するが、カウンターバ ランスをとることから、実験

1

では印刷書籍を使用し実験

2

では電子書籍を使用する被験者 と、実験

1

では電子書籍を使用し実験

2

では印刷書籍を使用する被験者が存在する(表

1

参照)。

そのため、ここでは被験者に実験

1

で使用する書籍メディアの指示をし、電子書籍使用の指 示を受けた被験者には、実験で使用する電子書籍用端末(貸与した電子書籍用端末と同型の もの)の操作確認と各種設定(好みのフォント、文字サイズ、余白、行間、明るさの設定等)

を被験者自身にしてもらった。

2

3

)読書行動観察実験

1

(課題

1

):

30

分程度

 実験者が指定した印刷書籍もしくは電子書籍用端末を使用して、課題書籍の指定箇所

1

(課 題

1

)を

30

分間読書してもらった。実験中、電子書籍用端末の諸機能(ハイライト、メモ、

検索機能等)を使用することには制約を設けず、机上に準備しておいた白紙へのメモ、その 他の文房具等の使用も含め、できるだけ日常の読書行動(学びにおける読書)をそのままし てもらうように事前に依頼した。

 印刷書籍使用の被験者にも同様に、書籍への傍線引きやメモの書き込み、机上に準備して おいた付箋や白紙の使用などには制約を設けず、自由にしてよい旨を事前に伝え、できるだ け日常の読書行動をそのまましてもらうよう依頼した。

 なお、課題書籍は新書(教養本)とし、その

1

章分を指定し本実験

1

の読書課題とした。

課題書籍は、被験者の属性(人文系の大学生)をもとに、適切な内容・文章レベルとなるよ う配慮し、予備調査を経て選択した。

2

4

)課題

1

のレビューと休憩:

10

分程度

30

分間の読書終了後、読んだ箇所のレビュー(内容を簡潔にまとめて説明すること)を

5

分程度でしてもらった。このレビュー課題は、実験中、文章読解を意識した読書(学びとし

1 ウェアラブルカメラを装着し読書する様子

(9)

ての読書)の実施を被験者に促すことを目的としたもので、実験開始時に被験者に(読書後 に

5

分程度のレビュー課題があることを)伝えておいた。このレビューは、文章読解が確か になされていることを確認することのみが目的であり、レビューの正確度を測ること(基準 を設けた採点等)はしない。

 レビューが終わった後、

5

分程度の休憩を入れた。

2

5

)読書行動観察実験

2

(課題

2

):

30

分程度

 ウェアラブルカメラの装着・調整の後、上記読書実験

1

とは異なる書籍媒体の使用を指示 し(実験

1

で印刷書籍を使用した被験者は実験

2

では電子書籍を、実験

1

で電子書籍を使用し た被験者は実験

2

では印刷書籍を使用)、課題書籍の指定箇所

2

(課題

2

)を

30

分間読書して もらった。その他、手続き内容は上記(

2

3

)実験

1

と同じである。課題書籍は実験

1

と同 一であるが、実験

1

とは異なる章を指定し、本実験

2

の読書課題とした。

2

6

)課題

2

のレビューと休憩:

10

分程度

 上記(

2

4

)と同様に、

30

分間の読書終了後、読んだ箇所のレビューを

5

分程度でしても らった。レビューが終わった後、

5

分程度の休憩を入れた。

 各被験者が取り組んだ課題と使用端末の対応を表

1

に示す。

3

)半構造化インタビュー:

30

分程度

 以下の項目について半構造化インタビューを実施し、実験者と被験者のすべてのやりとり を音声データとして記録した。

・読書行動観察実験時の各書籍媒体およびコンテンツについての主観的評価

・約半年間の実験準備期間(電子書籍端末貸与期間)における電子書籍の利用状況

・電子書籍端末・サービスの評価

1 被験者が各課題で使用した書籍媒体 被験者 貸与した電子書籍 課題1 課題2

a 電子ペーパー 印刷書籍 電子ペーパー b 電子ペーパー 印刷書籍 電子ペーパー c 電子ペーパー 電子ペーパー 印刷書籍 d 電子ペーパー 電子ペーパー 印刷書籍

e LCD 印刷書籍 LCD

f LCD 印刷書籍 LCD

g LCD LCD 印刷書籍

h LCD LCD 印刷書籍

(10)

・約半年間の電子書籍用端末使用によって変化したと思われる読書関連行動

2.3.

分析対象データ

 本研究では、上記、電子書籍を使用した読書行動観察実験と実験後の半構造化インタビュー 調査によって

2

種類のデータを獲得した。各データの概要を以下に示す。

1

)読書行動観察実験中の被験者の視線周辺を、被験者の頭部に装着したウェアラブルカ メラで撮影した映像データ

A

と(図

2

、図

3

参照)、三脚で被験者の正面に固定されたビデオ カメラで被験者の読書中の動作・様子を撮影した映像データ

B

を獲得し、分析では、これら

2

つの映像データから被験者の読書中の行動を観測・特定することとする。

2

)読書行動観察実験後の半構造化インタビューにより獲得した発話データから、実験で使 用した各書籍媒体・コンテンツの主観的評価と、貸与した電子書籍用端末を約半年間使用し たことにより、日常の読書行動にどのような影響・変化があったのかについて明らかにする。

2 ウェアラブルカメラで撮影した映像データ(印刷書籍読書中)

3 ウェアラブルカメラで撮影した映像データ(電子書籍読書中)

(11)

3.

実験・調査の結果

3.1.

読書時に使用する媒体の違いによる読書行動の差異

 まず、読書行動観察実験時に獲得した映像データ(被験者装着ウェアラブルカメラと、正 面から被験者の動作を捉えたビデオカメラからの映像)から、被験者の読書中の行動を抽出 し分析する。読書中の行動を抽出するにあたり、予備調査とこれまでの読書方略分析の結果 を参考に、表

2

に示す

26

の行動とその分類を設定した。

 次に、本実験で獲得した映像データから、読書中に観測された行動を表

2

に基づいて特定・

抽出し、時系列に整理した(データの一部分を表

3

に示す)。そのデータを各被験者の読書行 動データとし、集計、比較分析した結果を以下で述べる。

2 読書中の行動とその分類

番号 行動内容 分類

1 1ページめくる(進行方向)

書籍媒体上の操作 2 1ページ戻る

3 複数ページめくる(進行方向)

4 複数ページ戻る

5 媒体へのハイライト・傍線 6 媒体への書き込みメモ 7 辞書(機能)使用 8 しおり使用

9 付箋使用(印刷のみ)

10 検索機能使用(電子のみ)

11 最後まで一気に進む 12 最初まで一気に戻る 13 元のページに戻る

14 画面にタッチする(電子のみ)

15 目次を確認する 16 本を閉じる

17 誤操作(電子のみ)

18 紙にメモをとる

書籍媒体外の行動 19 ペンを持つ

20 消しゴムを使う 21 目線を書籍から外す 22 媒体を持ち替える 23 頭や体を小さく動かす 24 姿勢をかえる

25 指・腕・身体をストレッチする 26 髪や頭部を触る

(12)

3.1.1.

印刷書籍使用時と電子書籍使用時の読書行動の比較

 全被験者(

8

名)の印刷書籍使用時の読書行動データと、電子書籍使用時の読書行動デー タを対象に、各読書行動の項目(表

2

参照)の度数を集計しグラフ化したものを図

4

に示す。

3 読書観察実験時の映像データから読書行動を時系列に抽出

4 実験で観測された読書中の行動 [度数]

動作数 時間 行動内容

1 0:00:40 読書開始

2 0:01:08 髪や頭部を触る

3 0:01:25 姿勢をかえる

4 0:02:20 ペンを持つ

5 0:02:39 姿勢をかえる

6 0:02:43 髪や頭部を触る

7 0:03:13 持ち替え

8 0:04:10 ペンを持つ

9 0:04:58 姿勢をかえる

10 0:05:23 付箋使用

… … …

(13)

 まず、実験で観測された行動の度数の総計は、印刷書籍

682

(一人あたり平均

85.3

、標準 偏差

46.7

)に対し、電子書籍

955

(一人あたり平均

119.4

、標準偏差

90.3

)であった。この集 計結果より、電子書籍の方が一人あたり約

34

動作多く観測され、散らばりも大きいことが 判る。つまり、電子書籍で読書する方が、読書中に動作量、動作項目ともに多くを要してい たことを示している。

 各動作を詳しく見ていきたい。図

4

から、両媒体使用時とも媒体上の操作、特に「ページ をめくる・戻る」に関する操作が多いことが判る。読書中はページめくり操作をしながら読 書を進めるので、当然の結果である。ただし、印刷書籍使用時の「ページめくり」度数と、

電子書籍使用時の「ページめくり」度数には

2

倍程度の差があることがグラフから見てとれ る。その要因として、印刷書籍は見開き

2

ページ分を一度のページめくり操作で進めること ができるが、電子書籍の場合は画面上に一つのページ分しか表示できないため、必然的に電 子書籍の方がページめくり操作度数が多くなってしまうのではないかと考えられる。見開き で

2

ページ分を読むことができる印刷書籍のメディア特性と、一つの表示画面という電子媒 体のメディア特性との違いが、このような差異として現れたと考えている。

 また、「媒体へのハイライト・傍線」「媒体への書き込みメモ」「紙にメモをとる」などの、

読解・定着を支援する行動の度数も多く観測された。それは、実験で読書後のレビューを課 したため、被験者は文章の読解と定着を意識的にしていたことが行動に現れたものと考えら れる。

 媒体間で比較した場合、「紙にメモをとる」行動は両媒体とも同様に多かったと見てとれ るが、媒体に対して直接操作を行う「媒体へのハイライト・傍線」や「媒体への書き込み・

メモ」に関しては、電子書籍使用時よりも印刷書籍使用時の方が多く観測されている。これ は、電子媒体上での操作性が影響していることと考えられる。

 特に「媒体への書き込みメモ」は、今回の電子書籍使用時では全く観測されなかった。媒 体に表示された文字上を指でなぞるだけのハイライトをつける操作と違って、電子媒体上に メモを入力するためには「メニュー」から「メモ」を選択した上で「スクリーン・キーボー ド」を操作する必要がある。そのため、紙媒体に「メモを手書きで書き込むこと」と、電子 媒体に「メモ機能を使用して入力すること」の間には、操作上の差異が大きいことと考えら れる。

 ここで、図

4

の結果(印刷書籍使用時と電子書籍使用時の各行動度数)をカイ二乗検定に かけてみたところ、印刷書籍使用時に観測された動作と電子書籍使用時に観測された動作の 間には有意差(

p<.01

)があることが認められた。そのため残差分析で各要素を調べてみた ところ、「

1

ページめくる(進行方向)」「複数ページめくる(進行方向)」「複数ページ戻る」

「媒体へのハイライト・下線」「媒体への書き込みメモ」に有意差(

p<.01

)が認められ、「ペ ンを持つ」「媒体を持ち替える」「頭や体を小さく動かす」の各要素にも有意差(

p<.05

)が 認められた。

(14)

 この結果からも、印刷書籍使用時と電子書籍使用時との間では、読書時の行動に違いが生 じていることが示された。両メディアの特性の違いが、ページめくりに関する項目と、媒体 への直接操作に関する項目に、明確に現れた結果といえる。

 次に、書籍媒体外の行動のうち、理解・定着支援の行動以外の

6

つの項目「目線を書籍か ら外す」「媒体を持ち替える」「頭や体を小さく動かす」「姿勢をかえる」「指・腕・身体をス トレッチする」「髪や頭部を触る」に注目したい。これらの項目は、身体的疲労度や集中力 の状態と関連がある行動と考えられる。

 図

5

に、ここで注目する項目のみを取り出したグラフを示す。「媒体を持ち替える」以外の

5

項目で、印刷書籍よりも電子書籍使用時の方が多くの度数を観測している。これら

5

項目 のうち、「目線を書籍から外す」や「頭や体を小さく動かす」は眼の疲労に関連していると 捉えることもできるため、各項目の観測度数が高かった電子書籍使用時の方が眼の疲労度が 高かったのかもしれないと推測する。

 加えて、「姿勢をかえる」「指・腕・身体をストレッチする」は、身体の疲労との関連があ ると捉えることができる。これらの各項目も、電子書籍使用時の方が観測度数が高かった。

そのため、電子書籍使用時の方が身体の疲労度も高かったことと推測する。もちろん、身体 の疲労が眼の疲労とも関連している可能性はあるので、上述のように各疲労度を明確に分け ることはできないが、少なくとも電子書籍使用時の方が、疲労度が高くなる可能性があるこ とについては示せたと判断する。

 さらに「髪や頭部を触る」という動作については、集中力が影響しているのかもしれない と考えている。もちろん、「髪や頭部を触る」ことが読書時の癖として、両媒体使用時とも に高い度数が観測されたのかもしれないが、観測度数は明らかに電子書籍使用時の方が高い。

そのため、電子書籍の特性が、集中力に関する何らかの影響を与えていることと推測する。

5 書籍媒体外の行動のうち疲労度や集中力に関係するもの [度数]

(15)

 ここで、図

5

の結果をカイ二乗検定にかけてみたところ、疲労度と集中力に関係すると考 えられる動作の観測度数は、印刷書籍使用時と電子書籍使用時との間で有意傾向(

.05<p<.10

であることが確認された。有意差が認められるほど大きな差異ではないが、それでも有意傾 向にあるということは、やはり電子書籍使用が疲労度や集中力に何らかの影響を及ぼしてい る可能性があると考えられる。

3.1.2.

電子ペーパー端末で電子書籍使用時と印刷書籍使用時の読書行動の比較

 本研究では、電子書籍媒体として電子ペーパー表示端末と

LCD

表示端末を使用して実験 を行った。これら

2

つの端末は、同じ電子書籍媒体とはいえ、上述したように、その表示テ クノロジーとしてのメディア特性は大きく異なる。そのため、電子ペーパー端末使用者の実 験データと

LCD

端末使用者の実験データとを分け、より詳細に分析を行う。まず本項では 電子ペーパー端末を使用して実験に参加した

4

名の被験者のデータのみに注目して分析を行 う。

 実験で観測された行動の度数の総数は、印刷書籍

379

(一人あたり平均

94.8

、標準偏差

26.2

)に対し、電子ペーパー書籍

473

(一人あたり平均

118.3

、標準偏差

41.6

)であった。こ の結果より、電子書籍の方が一人あたり約

24

動作多く観測され、散らばり具合も大きいこ とが判る。つまり、上記

3.1.1.

の分析の時と同様に、電子書籍で読書する方が、読書中に動 作量、動作項目ともに多くを要していたことを示している。

 各媒体の使用時に観測された動作の違いについて詳細に見るために、ここでは観察度数の 大きい順に上位

10

動作を比較することにより分析を行う。各媒体使用時の上位

10

動作を表

4

に示す。

 表

4

より、ページをめくる操作に関するものは両媒体ともに上位で現れており、上記

3.1.1.

の分析結果を裏付けている。使用媒体により順位が

2

以上変わった動作は「姿勢を変

4 観察された上位10行動の比較(度数が大きい順):電子ペーパー端末使用者 印刷書籍 順位 電子書籍(電子ペーパー)

1ページめくる(進行方向) 1 1ページめくる(進行方向)

1ページ戻る 2 髪や頭部を触る

髪や頭部を触る 3 1ページ戻る

紙にメモをとる 4 紙にメモをとる 複数ページめくる(進行方向) 5 姿勢をかえる

複数ページ戻る 6 複数ページめくる(進行方向)

姿勢をかえる 7 複数ページ戻る

媒体へのハイライト・傍線 8 頭や体を小さく動かす 媒体を持ち替える 9 媒体へのハイライト・傍線 目線を書籍から外す 10 目線を書籍から外す

(16)

える(印刷

7

位:電子

5

位)」である。これは疲労度や集中力に関係していると考えている動 作項目であり、電子媒体使用の方が印刷媒体使用時よりも上位に登場していることから、電 子ペーパーといえども、印刷媒体よりも疲労度が高いことを示しているのではないかと考え ている。

 また、片方でのみ登場している動作は「媒体を持ち替える(印刷

9

位)」と「頭や体を小さ く動かす(電子

8

位)」である。両動作とも、疲労度や集中度に関係するものと考えている 動作項目である。「頭や体を小さく動かす」動作は首や背中の疲れを取ろうとして行ってい るように見える動作であり、こちらも電子媒体の方が疲労度が高いことを示していると考え られる。他方、「媒体を持ち替える」動作については、疲労感によって媒体を持ち替えてい るのか、読書時の癖であるのか、他の動作の影響によるものなのか、なかなか判断が難しい。

印刷書籍のメディア特性から、見開きの状態で読書をしなくてはならないことが、読者の身 体に何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えている。

 以上より、紙に近い表示特性を持つ電子ペーパーではあるが、当然、印刷媒体とは異なる 特性も多く、それらにより印刷媒体上の読書と電子ペーパー上の読書は同じ読書行動とはい えないことと考えられる。

3.1.3. LCD

端末で電子書籍使用時と印刷書籍使用時の読書行動の比較

 本項では

LCD

端末を使用して実験に参加した

4

名の被験者のデータのみに注目し、上記

3.1.2.

と同様に分析を行う。

 実験で観測された行動の度数の総数は、印刷書籍

303

(一人あたり平均

75.8

、標準偏差

21.3

)に対し、電子ペーパー書籍

482

(一人あたり平均

120.5

、標準偏差

49.0

)であった。こ の結果より、電子書籍の方が一人あたり約

45

動作多く観測され、散らばり具合も大きいこ とが判る。つまり、上記

3.1.1.

3.1.2.

の分析と同様に、電子書籍で読書する方が、読書中 に動作量、動作項目ともに多くを要していたことを示し、特に、上記

3.1.2.

の電子ペーパー 端末使用被験者のデータに比べ、こちらの

LCD

端末使用被験者のデータは、印刷書籍と電 子書籍との間での動作度数の差異が大きい。このことから、印刷媒体と電子ペーパー媒体と の間のメディア特性の差異よりも、印刷媒体と

LCD

媒体との間のメディア特性の差異の方 が大きいのかもしれない。

 上記

3.1.2.

と同様に、各媒体の使用時に観測された動作の違いについて詳細に見るために、

観察度数の大きい順に上位

10

動作を比較することにより分析を行う。各媒体使用時の上位

10

動作を表

5

に示す。

 表

5

より、使用媒体によって順位が

2

以上変わった動作は「

1

ページ戻る(印刷

5

位:電子

2

位)」「媒体へのハイライト・傍線(印刷

4

位:電子

6

位)」「複数ページ戻る(印刷

7

位:電子

9

位)」「媒体を持ち替える(印刷

7

位:電子

9

位)」「目線を書籍から外す(印刷

9

位:電子

7

位)」

である。

(17)

 「

1

ページ戻る」操作が電子媒体使用時の方が上位にあるということは、読書中に前ページ に戻る操作を多くしたということである。その一方で、「複数ページ戻る」操作は印刷媒体 使用時の方が上位にある。そのため、これらのページ戻り操作の順位変動は何に起因するも のなのかを判断することは難しい。読みやすさや内容定着に起因するものなのか、集中力の 変化に起因するものなのか、その他の要因によるものなのか、検討を要する。

 「媒体へのハイライト・傍線」動作について印刷媒体使用時の方が上位にあるのは、その 媒体の操作性が起因していることと考える。

LCD

媒体上のタッチスクリーン操作は、一昔 前と比べると精度も高く容易になったが、書籍コンテンツ上で、自分がハイライトしたい文 字列に正確に指でなぞることができるかといえば、そうではなく、一文字ずれたり、一行ず れたりすることも多く、筆記用具で印刷書籍にハイライト・傍線を描く行動とは明らかに異 なる。そのため、このような順位の差異となって示された可能性がある。

 「媒体を持ち替える」と「目線を書籍から外す」行動は、疲労や集中力に関連していると 考えている。特に「目線を書籍から外す」行動が電子媒体使用時のデータ上位に来ることは、

LCD

表示画面の特性が起因していることと思われる。

LCD

画面上での読書は、たとえ

30

分 程度であっても、印刷書籍より疲労度が高いことが推測される。

 また、片方でのみ登場している動作は「媒体への書き込みメモ(印刷

6

位)」と「姿勢をか える(電子

5

位)」である。

 「媒体への書き込みメモ」が印刷媒体使用時データの方で上位に登場しているのは、やは り、印刷媒体が書き込みを容易にしているメディア特性を持つものであるからであろう。特 に、読解課題が示された読書において、本への書き込みメモは重要な読書方略の一つである。

メモを書き込むまでに余分なステップ(メニューから選択する等)が必要な電子媒体のメディ ア特性とは大きく異なるため、当然の結果であると考える。

5 観察された上位10行動の比較(度数が大きい順):LCD端末使用者 印刷書籍 順位 電子書籍(LCD 1ページめくる(進行方向) 1 1ページめくる(進行方向)

髪や頭部を触る 2 髪や頭部を触る

紙にメモをとる 3 1ページ戻る

媒体へのハイライト・傍線 4 紙にメモをとる

1ページ戻る 5 姿勢をかえる

媒体への書き込みメモ 6 媒体へのハイライト・傍線

複数ページ戻る 7 目線を書籍から外す

媒体を持ち替える 8 指・腕・身体をストレッチする 複数ページめくる(進行方向) 9 複数ページ戻る

目線を書籍から外す 媒体を持ち替える

指・腕・身体をストレッチする

(18)

 また、「姿勢をかえる」動作は疲労や集中力と関連があることと考えており、電子媒体使 用時のデータで上位に登場しているのは、電子媒体利用時の方が疲労が大きいためだと思わ れる。

 以上より、印刷書籍上の読書と

LCD

媒体を使用した読書とでは、観測された読書行動に 差異が大きく、同じ読書行動とはいえないことを示している。これは、印刷媒体のメディア 特性と

LCD

媒体のメディア特性が大きく異なることに起因していると考える。

3.2.

電子書籍用端末の日常使用により変化した読書関連行動

 読書実験終了後に、半構造化インタビュー調査を実施した。インタビュー調査では、今回 の実験時に感じた書籍媒体・コンテンツの主観的評価、約半年間にわたる準備期間中の電子 書籍端末・サービスの利用状況、電子書籍端末・サービスに対する評価、電子書籍端末を使 用することによる読書関連行動の変化、などについての回答を求めた。

 インタビュー中の実験者と被験者の全やりとりは音声データとして記録しておき、これを 発話データとした。発話データを分析した結果、以下の点が明らかになった。

1

)実験時の各書籍媒体使用状態と主観的評価

 今回の読書行動観察実験では、各書籍媒体の操作上のトラブルやエラーの発生はなく、比 較的スムーズな読書行動であった。読書行動観察実験直後のインタビュー調査においても、

実験時の電子書籍媒体に対する評価、コンテンツに対する評価ともに否定的な要素を含むも のはなかった。これらは、約半年間の実験準備期間で、電子書籍端末の使用に十分慣れたこ とが要因として考えられる。同時に、電子書籍媒体およびサービスも技術的安定期に入って きていることが要因の一つになり得ると考えている。

2

)電子書籍利用の割合と読書量の変化

 日常の電子書籍利用割合の平均は

33

%であるが、読書量は増加傾向にあることがわかった。

被験者

8

名の電子書籍利用割合(日常の読書で電子書籍を利用する割合)の内訳を表

6

に示す。

電子書籍利用が

50

%以上の(印刷書籍よりも多い)被験者は

3

名いるが、

50

%未満は

5

名(そ の内

10

%未満は

2

名)であった。興味深いことに、電子書籍利用が

50

%を超える

3

名の被験 者すべてが、電子ペーパー端末の貸与者であり、貸与端末のほか、スマートフォンでも電子 書籍を利用していた。

 電子書籍利用

10

%未満の被験者

2

名も、「貸与されるまでは絶対に紙の本が良いと思って いたが、実際に使用してみて、電子書籍も悪くないと思った」、「使い勝手は、思っていたよ りも悪くない」、「普段使用しているスマホでは、野外(の晴天時)では字や画像が見えにく くなってしまうのに対し、(野外で)電子ペーパーできれいに文字が見えた時には感動した」

等、今後の電子書籍利用に対する積極的な意見・態度を示していた。

(19)

 また、電子書籍を利用するようになって、読書量全体が増えたと回答した被験者が

5

名い た(表

6

)。読書量が増えた被験者の多くは、隙間時間(短時間)を読書にあてることが多く なったことを言及していた。読書量不変と回答した

3

名は「印刷書籍で読んでいたものの一 部が電子書籍に置き換わったという(使用メディアの)変化はあるが、絶対量は変わってい ないと思う」と回答した。ただし、この

3

名に普段の詳細な読書状況を回答するよう依頼し たところ、

3

名全員が日常から図書館や書店に足を運んで読書を楽しんでいることが判った。

つまり、この

3

名はもともと読書量が多い被験者であったため、自覚するほどの変化はなかっ たのであろうと考える。

 以上より、電子書籍の日常的な利用は、隙間時間を読書にあてることを促し、その結果と して読書量を増加させる可能性があることが判った。

3

)電子書籍利用による書籍との出合いの場の変化

 電子書籍を利用するようになって、書籍との出合いの幅が広がったことを言及する被験者 が多数いた。「書店で在庫切れ(もしくは絶版)の書籍と(電子書籍として)出合い、手に 入れた」、「電子書籍のみで展開している作品の中で、面白い作品と出合った」、「読了後に表 示されるオススメ本や、関連本の紹介から、新たな本に出合えた」、「読了直後にリコメンド された本を、その場ですぐに購入し読み始められた」、「(自宅にいながらにして)試し読み をしながら本を選べる」等、被験者の多数が、電子書籍の品揃えや流通性の良さに伴う書籍 との出合いについて、さらには、書籍入手につながるスムーズさについて言及していた。読 みたいと感じた本をすぐに入手できることは、読書の機会やモチベーションを逃さない上で も重要なことと思われる。

 また、「電子書籍で読んで、手元に置いておきたいと感じた作品は印刷書籍でも購入する。

電子書籍は本との出合いの場として利用している」と回答した被験者もおり、電子書籍と印 刷書籍のメディア特性を理解し、上手に利用していることが判った。

6 各被験者の電子書籍利用割合と読書量の変化

被験者 貸与した電子書籍 電子利用割合 読書量の変化

a 電子ペーパー 50 不変

b 電子ペーパー 60 増加

c 電子ペーパー 20 増加

d 電子ペーパー 60 増加

e LCD 10%未満 不変

f LCD 10%未満 不変

g LCD 20 増加

h LCD 35 増加

(20)

4

)印刷書籍と電子書籍の使い分け

 多数の被験者が、自分の生活や読書スタイルに合わせて、印刷書籍と電子書籍を使い分け るようになったことを言及した。「コミックや小説などでは電子書籍用端末を利用し、連載 小説ではスマートフォンのアプリを利用する」、「寝る前に読む時には電子ペーパー端末を利 用し、移動中の電車内等では(片手で操作できる)スマートフォンの書籍アプリを利用する」、

「長編作品は紙(印刷書籍)がいい」、「実用書は電子ペーパーで読んで、気になる箇所には ハイライトをつけておく。ハイライトの一覧表示で、その本の内容を復習する」、「ページを 行き来することが多い本は印刷書籍を使う」等、電子書籍端末を使いながら、そのメディア 特性に合わせた使い分け方法を身につけているようである。

5

)電子書籍に対する否定的要素を含んだ指摘

 日常的に電子書籍を利用することを想定した場合として、以下のような否定的要素を含ん だ意見があった。「ページ切り替え時のタイムラグ(一瞬の白黒反転)が苦手・気になる」、

「ページがうまくめくれなかったり(特にページの行き来や、数ページ前に戻る等)、メニュー 表示がすぐに出せなかったり、ハイライトしたい箇所(文字列)がずれてしまったりした時 には、イライラすることがある」、「読了後の満足感(読み切った感)は印刷書籍の方が上」

等、である。だからといって電子書籍の使用に対して、決して否定的な態度ではないとも言 及していた。

 たしかに表示や操作に関する違和感は、読書の妨げになり得る。また物理的存在感がしっ かりとある印刷書籍に対して、電子書籍の存在感はまったくない。これらの要素が、電子書 籍を意識的にも無意識的にも避けてしまう行動につながることは容易に想像できる。表示や 操作に関する違和感はテクノロジーの進歩に期待するしかないかもしれないが、物理的存在 感の欠如は、それを利点として捉え、多量の本で部屋を圧迫しない省スペース性と捉えたり、

多量の本を持ち運び可能としている携帯性と捉えたりして、その活用方法としての可能性に 目を向けると印象も変わってくるかもしれない。

4.

考察

 まず、読書行動観察実験時の映像データから、電子書籍操作上のミスや迷いの発生はほと んどなく比較的スムーズな読書行動であった。当初は、ページめくり操作や、ハイライトや メモの書き込み等で操作ミスが発生することも予想していたが、読書自体に影響を及ぼすよ うな操作上のトラブル・エラーはなかった。これは、近年の電子書籍テクノロジーの安定性 に加え、約半年間の電子書籍端末貸与によって、使用・操作に十分慣れたためと考える。

 ただし、ページを行き来する時に行き過ぎてしまったり、ハイライトしたい文字列の範囲

(21)

がずれてしまったりすることは少々発生していた。もし、これらのトラブルが頻発してしま う場合には、読書への集中力に影響を及ぼす可能性がある。実際、実験後のインタビュー調 査で、電子書籍操作上のトラブル・エラーの発生が、読書時のイライラにつながることを、

被験者

2

名が指摘していた。これらより、安定性および操作性の向上は、電子読書媒体とし て重要な要素であることが確認できた。

 次に、印刷書籍上の読書行動と電子書籍上の読書行動は、同一のものではないことが改め て判った。特に電子書籍端末のメディア特性の一つである、表示画面の技術的制約が、ペー ジをめくる操作や、媒体に直接書き込むハイライト・メモの操作、それら操作時に発生する 表示のずれ等、読書時の行動に影響を与えていることが明らかになった。そして、これらの 要素が、読者の疲労感や集中力に影響を及ぼしている可能性があることも判った。

 これらの課題に対処するためには、電子ペーパーと

LCD

を含め、画面表示テクノロジー の進展に期待をするしかないが、本研究の結果で示された諸要素が、今後の電子書籍周辺の テクノロジー開発・改善に役立つことを願いたい。

 また、読書方略を書籍との出合い・購入から読了までの幅広い範囲で捉えた場合、電子書 籍の品揃え性や流通性が大きな利点になり得ることが判った。書籍との偶然の出合いはセレ ンディピティともいわれ、その人の読書生活を豊かなものにする。書店や図書館の本棚で興 味深い書籍に偶然出合うことと同様に、電子書籍でも偶然の出合いがあることを、複数の被 験者が言及していた。その中には、電子書籍サービスの一つである、リコメンデーション機 能や関連本表示が支援してくれることも含まれている。電子書籍を利用することで書籍との 出合いの幅が拡大し、その結果、読書量も増加する可能性がある。特に、自宅周辺に書店や 図書館がない場合には、電子書籍の流通性は大きな利点となることであろう。

 そして、電子書籍の携帯性向上は、移動時間や隙間時間を読書時間に変える可能性がある ということも明らかになった。電子書籍は、自宅の本棚や書店を携帯型電子端末に収めてい ると捉えることもできる。つまり、時間や場所を選ばず、読みたい本をいつでも購入して読 むことができる読書メディア環境を、我々は持ち歩いているといえる。今回の調査でも、多 数の被験者が電子書籍の日常利用によって、読書量の増加を経験していた。

 最後に、電子書籍の諸機能(ハイライト、メモの書き込み、アノテーション一覧表示等)

を使用することが、読解や内容定着に影響を及ぼす可能性があることを指摘したい。電子書 籍上に読書の痕跡を残すためには、ハイライトやメモの書き込み、しおり機能等を利用する ことが考えられるが、それらを日常の読書で使用している被験者と使用していない被験者が いた。日常的にハイライト機能等を使用している被験者は、実験中、読書後のレビュー時に ハイライト箇所の一覧表示機能を利用して、それらに適宜目を通しながら自身の理解・記憶 を想起し、レビューをまとめているように見えた。それに対し、日常的にハイライト等の機 能を使用していない被験者は、自らの記憶のみを頼りにレビューを述べていたため、印象と して残っている箇所のみの説明や感想を述べる程度となってしまい、レビューとしてのまと

(22)

まりに欠けるものであった。

 つまり、前者は電子書籍に適応した読書方略をとっていたのに対し、後者は電子書籍に適 応した読書方略を取れていなかったのではないかと考える。もちろん、頭の中で考えている ことをアウトプットする力も影響していることと思われるが、そのアウトプットを支援する 機能として電子書籍の諸機能を見直し活用していくことと、それらを含む電子書籍の諸機能 を有効に活用した電子書籍上の読書方略・教育を展開していくことが、今後の電子書籍文化 の普及には重要な要素になるのではないかと考える。

5.

むすび

 本稿では、印刷書籍と電子書籍のメディア特性について整理し、そのメディア特性の違い が読者に及ぼす影響を読書中の行動の差異・変化として捉え、読書行動観察実験と半構造化 インタビュー調査の結果をもとに考察した。

 読書行動観察実験の結果からは、読書中に観察された行動内容やその度数分布に有意な差 が認められ、印刷書籍上の読書行動と電子書籍上の読書行動は、同一ではないことが明らか になった。特に、書籍媒体上の表示や操作の特性を起因とする動作数の差異が大きいこと、

疲労や集中力との関連があると思われる動作数に差異があること等が判った。

 半構造化インタビュー調査の結果からは、電子書籍端末を使用したことによる読書関連行 動の変化として、電子書籍端末に対する評価が向上したこと、隙間時間を読書にあてるよう になり読書量が増加したこと、リコメンド機能や試し読み機能によって書籍に出合う機会が 拡張したこと、意識的に印刷書籍と電子書籍とを使い分けていること、表示・操作性に対す る改善点等が明らかになった。そして、電子書籍のメディア特性を正確に理解し、それに最 適化した読書方略およびその教育を展開していくことが、今後の電子書籍文化の普及のため に必要な要素になり得るのではないかと結論づけた。

 今後の課題として、メディア特性と読書時の疲労・集中力・注意力との関係、深い思考を 伴う読書時の行動と方略、アウトプットを意識した読書方略およびその支援方法、などに取 り組む予定である。

 最後に、電子書籍上の読書と印刷書籍上の読書は、やはり、似て非なるものである。書籍 のメディア特性が、我々の読書行動に様々な影響を及ぼしていた。やはり「メディアはメッ セージ」なのか。情報化社会、デジタル化社会などの言葉を聞く機会は減った。それは、す でにデジタル情報化された電子メディア環境に我々は身を置いていることを示している。

 デジタル情報化された社会、電子メディア環境に対し、しっかりと向き合って、その特性 を正しく理解し、検討・考察を続けなくてはならない。それが今後の知識・文化の継承、さ らに、新たな知的メディア環境の誕生につながるはずだと考える。

(23)

謝辞

 本研究の一部は

JSPS

科研費

26350307

の助成を受けた。また、本研究の調査・実験にご協 力いただいた皆様に、ここに記して謝意を表する。

参考文献

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赤堀侃司・和田泰宜 (2012), 学習教材のデバイスとしてのiPad・紙・PCの特性比較, 白鴎大学教育学部 論集, 6 (1) pp.15-34

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McLuhan, M. (1964), Understanding Media(邦訳「メディア論(栗原裕・河本仲聖訳:1987)」), みす ず書房

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  http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/manabi_no_innovation_report.pdf20171023日閲覧)

文部科学省 (2016), 「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議,

  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/index.htm20171023日閲覧)

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酒井邦嘉 (2011), 脳を創る読書, 実業之日本社

菅谷克行・長滝美都子 (2008), 教材としての電子書籍に関する一考察, 日本教育工学会研究報告集, JSET08 (5) pp.1-6

菅谷克行・関友作 (2014), 電子書籍の特性を活かした読書方略の検討, 日本教育工学会第30回全国大会 講演論文集, pp.433-434

出版科学研究所 (2017), 2016年の出版市場(紙+電子)を発表しました,

  http://www.ajpea.or.jp/information/20170125/index.html20171023日閲覧)

参照

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