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ソビエトの労働教育一布に関する課業を中心として 岩 崎 恭枝*

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(1)

茨城大学教育学部紀要(教育科学)32号(1983)45−56       45

ソビエトの労働教育一布に関する課業を中心として

岩 崎 恭枝*

(1982年9月30日受理)

Tpy瓜oBoe o6yqeHHe(rJlaBHblM o6pa30M o pa60Te c TKaHbK))

月cye HBacaKn

(Received September 30,1982)

は じ め に

ソビエトでは,労働教育は,知育,体育,徳育,美育,総合技術教育とならんで,全面発達を ささえる基本領域の1つとされてきた。それは,1918年に教育人民委員ルナチャルスキー(A.B.

∬yHaqaPCKK㊧の名によって公布された「単一労働学校の基本原則」の中にもみることができる。

「労働の導入は,注意力,精密性,鋭敏性などを大いに発達させるとともに,生徒たちの精神 的生長によい作用をおよぼしていく。手のよりいっそうの技術的な発達は,頭脳のもっとも重要 な,いくつかの中枢の発達を目的物にもたらすものである。・ 彼らの頭だけではなくて,身体 も,とりわけ手も……できるかぎり十分ひきいられねばならない。われわれが特に重要な意義を もたせるのは,新しい学校での教授の基礎となる労働が,生産的,現実的な労働でなければなら ないし,国の経済生活への生徒たちの現実的な参加でなくてはならない醜」

このように,労働は頭と手を有機的に結合させるものとして考えられ,教育と労働の結合がは かられてきた。しかし,その具体化に際しては,表1にみられるように,時代によってその比重 は変化している。現在では,週あたり2時間でほぼ安定しているといえるが,それよりも労働教 育の内容の問題が全面にでてきている。1977年12月に,ソ連邦共産党中央委員会および閣僚会 議決定r普通教育学校の生徒の教授と訓育ならびに労働への準備の改善について』が発表され,

その中で,現在の学校の「本質的欠陥」は,「生徒に対する労働教育ならびに職業指導が社会的 生産や科学技術の進歩の増大する要求に答えていない」ことにあるとして,労働教育の内容の改 善を示している。つまり,中等教育の段階で,ある種の職業を体験させ,その基礎的知識・技能 を身にっけさせること,正しく職業を選択させるための学校内外の体制を整えることなどが課題 とされ,具体的提案として,第9・10学年の労働教育の時間数を週4時間とすること,地域や 学校内における生産実習の場を整備すること,生産実習を質的に向上させること,職業指導を強 化すること,労働教育の指導者の資質の向上を組織的に行うこと,などがあげられている。

* 茨城大学教育学部家政科

(2)

表1 労働教育および生産実習の週時間数の変化

学年 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1932年労働 3〜4 3〜4 3〜4 3〜4

6 7 8 8

1933年労働

2 2 3 3 4 5 6 6

1934年労働 3〜4 3〜4 3〜4 3〜4 3〜4 3〜4

労働・塑像・図画 3 3 3

3〜4

1955年労働

1 1 1 1 2 2 2

生産実習 2 2 2

1959年労働

2 2 4 4 5 5 5 5 12 12

ユ2

生産実習(日数)    一π一

1968年労働

2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

1974年労働

2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

生産実習(日数) 5 5 5 22

1978年労働

2 2 2 2 2 2 2 2 4 4

生産実習(日数) 5 5 5 22

※  1937年から1955年まで独立教科としての労働教育は廃止されていた。

こうした職業指導を志向した労働教育のあり方は,必然的により総合技術教育としての基礎を さぐることとなる。

本論文では,現在のソビエトの労働教育の全体的な内容をまず概念し,その上で,以上述べて きたような労働教育のあり方が具体的にどのように示されているのか,1〜8学年における布に 関する課業に焦点をあてて考察したい。

1 労働教育の目的と内容

ソビエトの学校は,1〜3学年の初等教育段階,4〜8学年の中等教育段階,9・10学年の後 期中等教育段階の3段階に分かれており,労働教育もこれにあわせて区別される。

エス・ア・シャポリンスキー(CA』anOPMHCK嘘)によると,ソビエト学校における広義の 労働教育(Tpy几oBoe Boc皿TaHHe)は,1〜8学年においては労働教授(Tpy几oBoe o6yqeHHe)によ

って基本的に実践されるのに対して,9〜10学年におけるそれは,生産教授(npoK3Bo以cBeHHoe 06yqeHHe)によって行われるという。つまり,「労働教授は職業的志向をもちえないし,事実も

っていないのに対し,生産教授はつねに職業を志向する。何よりもまず,生産教授の語によって

      2)理解されるものは,実践的教授,すなわち職業的能力と習熟の形成である。」ととらえられてい

る。

      3)労働教育の実施にさいしては,1〜8学年までの共通の配慮として,次の2点がプログラム

の中に明記されている。

①25人以上のクラスの場合には,設備の有無にもよるが,2つのグループに分ける。

②労働に関する課業は,基本的に実践的な性格をもつものであるという原則から,理論的なご

(3)

岩崎:ソビエトの労働教育       47

とは25%以下におさえるべきである。

この第2の点は,教育と労働の結合をはかる場合に,単なる理論でなく実践にもとつくという 労働教育の基本的命題にうちあたる。しかし,反面,実践が強調されすぎると,単なる「ものづ

くり」となってしまう。

エヌ・カ・クループスカヤ(H.K. KpynCKa∬)は,こうした問題に対して,単なる「ものつく り」と,総合技術的な学習との相違を次のように述べている。

「裁縫を習わせる時,頭に何も食べ物を与えずに,子どもたちに何時間もの間,針目をそろえ たり,穴かがりをすることをさせるとしたら,これは手職の教授にすぎない。けれども,裁縫の 教授を,材料と道具の研究に結びつけて,同じ生産過程のいろいろな材料にはいろいろな道具が 必要であること,例えば,ある針はモスリン用に,他の針はラシャを縫うのになければならず,

また皮を縫うのには針ばかりでなくて錐のたすけをかりたりすることを,子どもたちにもはっきり とわからせるようにおこなうことができる。これはもう裁縫学習に対しての総合技術的なやり方

である。

・ミシンで縫うことによっても,いろいろに教えることができる。例えば,どうしてはずみ 車を廻し,どうして中がまをはめるかということだけを教えるとすれば,これは職人的な教授方 法である。だが,その同じミシン裁縫の教授を,材料の特質や,ミシンの構造,およびミシンと 他の機械との類似の研究に結びつけるならばこれは総合技術的な扱い方になる4)。」

このように,クループスカヤは,科学的な視野にたった労働教育にたいする総合技術的なとり 扱い方と,職人的なとり扱い方の原則的な相違を示している。ソビエトの労働教育はこの方向を めざして進んできたが決して成功裡におわっているのではない。むしろ,①労働教育の軽視,② 専門資格を有する教師が少く,しばしば物を作るだけになっている,③労働の知識と能力を適確 に定めた文献が少い,といった課題とたたかってきたといえる5乙しかし,日本でも,技術・家庭 科に対して実用主義的な「ものづくり」という批判6)がある現在ソビエトの実践は一つの示唆 を与えるのではなかろうか。

1. 1〜3学年における労働教育

1〜3学年の初等段階での労働教育は,「手の労働」(pyqHO貢Tpyπ)と呼ばれ,初歩的な労働 への準備教育とされている。その具体的な教育目的は次の3点である。

①子どもの労働経験を豊かにし,人々の生産活動や技術について知り,労働を愛する精神,す なわち,労働および労働者への共産主義的態度を育成する。

②労働能力,労働訓練などの基本となるものの増進,自分や友だちの労働を計画し,組織する 能力を増進する。

③労働の課業の中で,生徒の精神的・道徳的・美的・身体的な発達と育成をはかる7)。

この初等段階では,教育内容に男子・女子の区別はなく,大きく技術的労働と農業労働とに分 けられている。内容,時間配分は,表2に示した。

2. 4〜8学年における労働教育

4〜8学年の中等段階での労働教育は,男子・女子および都市・農村で区別され,4つのバリ

(4)

表2 1〜3学年の労働教育の内容と時間配分 エーションをもつ糀つまり,都市の

年  時  間

授業のテーマ

1学年 2学年

     Tpy几),都市の女子には奉仕的労働3学年

技街的労働 59 56

54   (06cπy)KHBaB皿曲Tpy旦),農村の男

紙やボール紙による課業 21 17

12  女には,それぞれ農業労働(xo3Hh}

布による課業 9 10

12  cTBeHHLI勇TPy凪)が付加されている。

いろいろな材料による課業 19 15

14  男子に対する技術的労働には,木材

技術的な模型製作 10 14

16  加工および金属加工作業場での技術

農業労働 11 14

16    的な労働,電機技術,見学といった

教室での課業 6 3

4  内容が含まれている。女子に対する

学校農園での課業と見学 5 11

12  奉仕的労働の内容と時間配分は,次

計 70 70

70     ページの表3のとおりである。

この中等段階での労働教育の目的 は,以下の6点である。

①生徒に,技術,農業経済,奉仕的労働の各分野に関する人 において不可欠の知識および技 能をその最初のものとして与える。

②国民経済における生産の科学的・技術的基礎について知識を与える。

③建設の基礎知識や農村での経験を応用して,労働への創造的な志向を発達させる。

④労働への共産主義的態度や一般的な労働に対する教養を身にっけさせ,個性の全面的発達を

促す。

⑤生徒の職業への志向を決定させ,国民経済における種々の労働への興味を生徒に与える。

       9)⑥国民経済のなかのいくつかの主要な事柄に関する知識を与える。

このように,4−8学年の労働教育は,初等教育段階で獲得された技能と習熟を基礎にして,

9・10学年での労働・総合技術的知識および技能の強化と拡充のための基礎となるものであり,

また生徒が職業選択を自主的に行い,自己の特性を現すことを助けることを目的としている。

3. 9・10学年における労働教育

9・玉0学年の後期中等段階での労働教育は,「労働・総合技術生産実習」(Tpy即Bble Ho皿HTex一

      10)HHqecKHe npaKTHKyMLI)であり,主に,学習・生産コンビナート (yqe6Ho・npo肥Bo即TBeH一

HHe KoM6HHaTLI)で行われる。この段階では,男・女,都市・農村といった区別はなく,17の コースに分けられた実習を選択によって行うll)。17のコースには,以下のようなものがある。① 金属加工,②電気技術,③ラジオエレクトロニクス,④自動車,⑤機械製作,・製図⑥応用化学,

⑦木材加工,⑧建設,⑨布加工,⑩タイプ印刷,⑩トラクター技術,⑫蓄産,⑬作物栽培,⑭野 菜栽培,⑮果樹栽培,⑯林業,⑰農芸化学,である。

この段階の労働教育の基本課題は,①工業・農業に関する労働過程・労働内容について知識を 教授すること(理論教授),②自覚的な職業選択のための指導を行うこと(職業オリエンテーシ

ヨン),③選択した職種の初歩的な実践技能を教授すること(生産教授)の3っである12も

(5)

岩崎:ソビエトの労働教育      49

表3 4〜8学年の都市の女子に対する労動数育の内容

4 学 年 5 学 年 6 学 年

学習内容

時間数

学習内容

時間数

学習内容

時間数

導 入 1 導 入 1 導 入 1

食品に関する課業 11 食品に関する課業 11 食品に関する課業 11

台所の設備 1 マカロニ製品の料理 4 野菜料理 4

食事に対する理解 1 牛乳および乳製品の料理 5 肉・魚料理 7

サンドイッチと飲物 3 デザート 2

卵料理 3

じゃがいも料理 3

布に関する課業 48 布に関する課業 48 布に関する課業 48 材料学の基礎知識 6 材料学の基礎知識 6 材料学の基礎知識 6 機械学の基礎知識 10 機械学の基礎知識 8 機械学の基礎知識 8

エプロンの製作 32 ねまきの製作 18 ズボンの製作 14

パンツの製作 14 スカートの製作 18

見 学 2 見 学 2

電気技術に関する課業 10 電気技術に関する課業 10 電気技術に関する課業 10 部屋の照明回路 10

計 70 計 70 計 70

7 学 年 8 学 年

学習内容

時間数

学習内容

時間数

導 入 1 導 入 1

食品に関する課業 11 食品に関する課業 ll

練粉の料理 9 献立の立案 3

見 学 2 かんづめ 6

見 学 2

布に関する課業 50 布に関する課業 48 材料学の基礎知識 6 材料学の基礎知識 4 機械学の基礎知識 6 機械学の基礎知識 8 軽快な服装の製作 36 軽快な服装の製作 34

見 学 2 見 学 2

電気技術に関する課業 8 電気技術に関する課業 10

電熱器 8 電動機 4

電気と伝導装置 6

計 70 計 70

(6)

皿 1−3学年における布に関する課業

以上述べてきたように,労働教育の全体的な姿を概観したところで,最初にあげた問題意識 総合的な内容をめざしているという課題を,4−8学年の労働教育,そのなかの奉仕的労働とも 直接結びついている,布に関する課業をとりあげて,その内容を考察する。

      13)1981年版のプログラム      によれば,布に関する課業の内容は,教授内容,もっとも簡単な針

目やステッチ,対話のテーマ,観察と体験,活動や作品の例といった5つの項目にわかれて,各 学年ごとに書かれている。

第1学年(9時間)

教授内容

o植物性繊維の布(木綿,リンネル)についての初歩的な知識 布の基本的な用途(衣服や日常品に)

平織りの織り方

糸についての初歩的な知識(ぬい糸,かがり糸,ししゅう糸,太い糸,細い糸)

o直角の形をもつものの型紙づくり

布のしるしつけ,型紙の輪郭をうつす,糸でしつけをかける。

○ぬう道具と設備(ぬい針,はさみ,ゆびぬき,まち針)

これらを扱うときの安全のためのきまり,道具や材料の保管のきまり

oぬうこと,ししゅうのまえに:あたえられた糸をはかりとる,はりに糸をとおす,結び目

をっくる。

もっとも簡単なステッチやぬい方

なみぬい,かがりぬい,太い糸などであむ,ボタンをつける。

対話のテーマ

我々はどんな布を知っているか,布からなにができるか,我々はどんな糸を知っているか 体験と観察

平織りの布を観察(さらさ,ガーゼ,麻),用途や太さなどについて糸を比較する,植物 繊維の布や糸をあつめてノートにはる。

労働や作品例

おび,しおり,など

第2学年(10時間)

教授内容

絹や毛についての初歩的な知識,繊維工業の製品(布,糸,よりひも,細なわ,リボン)

与えられた図形の寸法に従って型紙をつくる(教師の指示に従って採寸する)

ステッチやぬい方

半返しぬい,本返しぬい,チェーンステッチ,ちどりがけ,簡単な民族模様や装飾のしし

ゆう

(7)

岩崎:ソビエトの労働教育       51

対話のテーマ

我々はどのような布製品を知っているか,絹や毛の用途  \ 体験と観察

    「

zと紙の比較(強さ,しなやかさ,構造について),布の糸や糸の構造,絹や毛など自然 の布や糸をあつめる,ステッチやぬい方の見本をあつめる。

労働や作品の例

朝食用ナプキン,小袋(ランチ用,タネ,ひきわりをいれるための)など。

第3学年(12時間)

教授内容

人工繊維の布と木綿,麻,毛,絹と比較,布のいろいろな織り方,たて糸,よこ糸,布の うらおもて,自主的な採寸による簡単な型紙をつくる。直線および曲線をもつ形の裁断と

ぬうこと。

ステッチとぬい方

とじぬい,まつりぬい,ボタン穴などのかがりぬい,衣服の簡単な修理(つぎはぎ,つぎ あて),カギホックおよびスナップをつける方法。

対話のテーマ

紡績工場,織物工場にて,日常生活の中の布 体験と観察

いろいろな素材の布をみる(外見,太さ,透明度,平らさ),布のおもて,うらの決定,

いろいろな布の織り方を見る(拡大鏡をつかって),いろいろな素材の糸の強さの比較を

する。

活動や作品の例

衣服かけ,つぎあて,タオル,テーブルセンターなど

次に,以上のような内容をさらに単元としてみた3学年の授業例14)をあげてみる。4時間分15)

である。

授業のテーマ:布や繊維素材の構成 授業の対象:ピオネール帽子

教授の目的:柔かいリボン状のものさしで採寸すること,型紙を作成すること,製作過程の計 画化を教える。ぬう,はぎあわせ,裁断 ししゅうの練習をさせる。技術や日常生活の中 の布の応用についての知識を広げる。

教授過程:

1 授業のテーマを子どもたちに知らせる。

皿 作業台に,自主的にきちんと,布,糸,30cmのものさし,三角定木,型紙用の紙,し しゅうの絵を写す紙ハサミ,針さし(ぬい針,まち針がすでにさしてある),指ぬき,

へらを出す。材料や時間を経済的につかうよう注意する。

皿 仕事の計画をたてる。L見本をみてモデルをえらび布を選ぶ。2班ごとに友達の頭を

(8)

採寸する。型紙をつくる。3.布にぬいしろをつける。4.しるしにそってきる。

w 計画に従って自主的に作業をする。帽子につける記章をえらぶ。とじ縫いをする。かが る。折り込んでまつり縫いをする。縫い始めはていねいに縫う。

V クラス全員で,1.帽子をかぶってみんなにみせる。2悪いところを直す(使用しうるも のは4か5を与える16))。3.対話〈日常生活の中の布の応用> 4.人工素材の布をあつめ

整理する。

W まとめとして,子どもたちが新しいことを知り,できたかを確認する。また,天然素材 と人工素材の,斜線,曲線,直線による切断面の差がわかったか確認する。

こうした2_4時間の各題材を各学財7)に1つ以上おくことが望ましいとされている18㌔ソ ビエトのこの初等教育段階の労働教育の特徴を布による課業にかぎって,日本の家庭科教育の被 服教材と比較してあげるとすれば,まず第一に,年齢のことがあげられるだろう。ソビエトの1 年生は7才であり,ゆえに1〜3学年は7〜9才である。日本の2・3・4年生にあたる。この 年齢ですでに針をもたせて簡単な縫い方を教えている。それに対して,日本の場合,5年生から であり,およそ10・11才である。手先の巧緻性などの点から5年生からの家庭科教育が,特に針

      19)       として正答づけられているが,と糸と布で物を製作する技術など,「無理なく効果があがる」

根拠はうすいのではなかろうか。特に,技能の場合,実践することによって発達するし,また,

「子どもたちの感覚的・対象的労働活動は,生産的であり,外見上は労働の産物を受けとるため に行われるが,同時に,認識化つまり概念化されていく20)」とすれば低学年からの家庭科教育

も十分考慮に値するのではないだろうか。ただし,教育内容・方法に慎重な吟味はいると思うが。

第2の特徴は,第1学年から採寸し,型紙にふれている点である。日本では,型紙をつくるとい うことは小・中学校段階では削除されており,採寸も既製の型紙の補正ということでなされてい る。ソビエトでは,労働教育の他の課業,たとえば,いろいろな素材による課業や技術的な模 型製作などの中での,布による課業でとり扱われている以上の詳しい製図がなされており,子 どもたちは立体を平面になおすことになれているのかもしれない。第3に,1つの製作物を中心 に,技術と理解をまとあていることである。この点は日本と似ているが,対話のテーマにみられ るように,社会とのかかわりを考えさせているところに労働教育という特色がでているように思

われる。

以上述べてきたが,ソビエトでの労働教育が,どのように子どもたちに受け入れられているの か。問題があるとすればどんなところか,以後の課題としたい。

皿 4−8学年における布に関する課業

1〜3学年の労働教育は,すでにみてきたように,男女の別なく学ぶものとなっているが,こ の4〜8学年の労働教育は,男女別々の内容となっている。ここでは,女子に対する労働教育で

       21)ある奉仕的労働の中の,布に関する課業の内容を,1981年に出版された教師用の参考書       と

      22)1980年出版の生徒用副読本      に従ってみてみたい。

(9)

岩崎:ソビエトの労働教育      53

布に関する課業は,表3に示すとおり,材料についての基礎知礎,機械についての基礎知識,

衣服製作,見学と4分野から成っている。

まず,材料についての基礎知識の内容は,各学年以下のとおりである。

第4学年:布の原料の特性,布の製産の一般的原則,平織りの布と製作,布のおもてを決める。

第5学年:木綿と麻の特徴,いろいろな用途のあるカバー類に適した布。

第6学年:毛と絹の特徴,子どもの簡単な服に適した布,布製品の日常の手入れ。      一

第7学年:人工繊維の布の特徴,合成繊維の布の特徴,繊維関係の工場への見学。

第8学年:維糸の構造と用途による布の識別(総合的に行う)。

このうち,第5学年の内容をとりあげてみると,木綿や麻の糸になるまでの過程,消費傾向,

2つの素材の糸の比較,布の特徴の比較,用途の比較などがとりあげられている。

       23)機械についての基礎知識の内容は,各学年以下のとおりである。

第4学年:手動ミシンについて

上糸・下糸のかけ方,ミシンの頭部の各名称,ミシンをつかうきまりと方法,直

線ぬい。

第5学年:伝導ミシンについて

その内部構造と各部分の役割,ミシン針,故障の原因,安全なとり扱い。正しい

姿勢。

第6学年:電動ミシンについて その取り扱い方

ミシンの各部分の図と名称がかなり詳しくでているが,3学年にうまくわけて教えているので,

無理がなさそうである。また、ミシンについての知識と、ぬいあわせる技能とをあわせて行って

いる。

衣服製作の製作物についていえば,表3のとおりである。ここでは,第5学年のパジャマの製 作をとりあげてみる。教師用の参考書によれば,パジャマ製作の内容と順序は以下のようになっ

ている。

1.パジャマの基本型紙(方眼紙)について

下着やパジャマに適した布についての知識を一般化し,体系化する。

2.パジャマの基本的な構成について

製品の立体形とその展開図を比較しながら構造的思考を発達させる。

ある背たけと大きさでパジャマの型紙の各部を作ってみる。

3.パジャマの型紙の製作

できあがりとの相互関係についての知識を一般化する。

4.パジャマの型紙と裁断

左右対照のものの型紙,布の合理的な使い方について知識を補足する。

裁断の方法を教える。裁断のための準備について知らせる。

5.パジャマのえりの完成

6.そでの完成前みごろとうしろみごろをぬいあわせる。

ダーッによってふくらみをつけるということを理解し,方法を知る。

(10)

7.すその完成と最後の仕上げ

このように,まず型紙を作ることが日本と大きく違う。そこで,生徒用副読本にのっている型 紙製作の方法を,表4にあげる。その他,副読本には,製作の過程が8ページにわたって詳しく 説明されている。各段階のどの製作物もほぼこれと同じ過程で製作されている。

以上のような内容であるが,この布に関する課業で目的とされるものは2つある。1つは,生 徒の理論的知識と実践的な能力の向上であり,もうユつは職業オリエンテーションである。前者 は,対話や質問,評価カード,自己評価,生徒集団による評価,きちんとした労働によって身に

表4 型紙の製作過程

図の記号

名    称

計 算 式

実際の数値をいれた例 図   形

1

B 点Bで直角にする

2

BB1

  ク pジャマの巾の半分 胸囲÷2+0.5×ゆとり 38÷2+0.5×8=23

3

BH

パジャマのたけ 背たけ 84 oB B2   BL B3 X B5

4

BBIHIH BB1とBHの2つの

B4

線をもつ長方形をつく

r Fl

5

BB2

えり巾 くびまわり÷3+1 16.4÷3+1=6.5

6

BB3

うしろえりの深さ

BB2÷3

6.5÷3=2.2

7

孤B2B3

うしろえりの線,指定された線をとおってえり の線をひく

8

BB4

まええりの深さ

BB2+1

6.5+1=7.5

9

0 孤B2B4の中心 B2の点からとB4の

点から交差点をつくる。

H Hl

R=BB4

10

孤B2B4

まええりの線 0の点から孤をひく

7.5

11

Blr そでつけの長さ うでまわり÷2+ゆとり 23.9÷2+7=18.9

12 r点を通って水平線をひく

13

BIB5=F「1

そでの長さ n/B 6 6

14 B5「1 そでのはば

B5とr1の点を結ぶ

oB B2   Bl B葦 B5

15 r2 そでとわき線を結んだ

rr2 =rr1

6 B4

、、、

16

rlr2

補助線

r1とらの点を結ぶ

rF2 ,?

17 r3 切片「1F2を半分にし,1.5 cmの垂直線を

ひく。   1

18

孤rlr2

rl,r3,F2の点線を結ぶ

19

HIH2

下線にそってのばす n/B10・・d2 10 20

F2H2

わき線

r2とH2の点を結ぶ

21

H2H3

n/B=1.5…2 1:5

22 rH4

HH1の中点

23

HH4H3

ド線・H,H4,H3

? ひく  1

の点を通って,なめらかな

24 できあがった輪郭にそってもう一度なぞる。

(11)

岩崎:ソビエトの労働教育       55

つけられるという。後者については,①軽工業一布や縫製工業,住民への日常的なサービス,布 製品や衣服を扱う商業などについて知ること,②いろいろな布や布製品,衣服の創作における装 飾芸術の役割を知る,③4〜8学年の奉仕的労働と第8学年の経済地理とから繊維工業と農林経 済の関係を知る,の3点を学ぶことであるとしている㌘)

お  わ  り  に

以上述べてきたような女子に対する労働教育は,1957/58年度に上級学年むきの選択科目と して,そして1959/60年度からすべての一般教育学校の必須科目としてとりいれられた。まさ にく家政〉(八〇MOBOTCTBa)として女子のみの特性を強調する形で導入されたぎ5)それゆえに,

当時,「家政は女子だけのものか」という論議が多くみられた。例えば,次のような意見である。

「われわれの生活において,男性と女性の職業上の差別はないのに,学校ではいったいなぜに 子どもたちにこのことに慣れさせるのだろうか。一・・人はそれぞれに他人の手助けを受けずに自 分のことは自分でやらねばならぬ。したがって子ども時代にこのことを学ばせる必要がある急叫

「われわれは,少女のみがく家政〉を学ぶようなく労働教育〉のあり方に賛成できない。男の 子も同様に衣服や履物の手入れ,食卓を準備すること……の最少限の能力や習熟をもたなければ ならない。〈家政〉についての若干の知識を男の子たちが初等の諸学年で受けとるのは事実だが,

これだけではまったく不十分である1列

また,日々の生活において,家族が行き当るすべてのことは皆,男女の差のない範囲で知り,

処理することができなければならぬとして,①労働の訓練および労働の教授・学習は,男女同一 でなければならない。②家政コースは,裁縫や裁断の細目を選択課業としておこなうように広げ る必要がある,③婚姻,家旗後見などについての専門的な法律を第11学年に課すべきである捌 という提案がなされている。

その後,1967/68年度からく家政〉はく奉仕的労働〉と名称が変わり,依然女子向きではあ るけれども,「労働」を基礎とする方向を強め,現在に至っているといえる。

今後は,家政導入の背景,名称の変更等の背景をさぐることによって,さらにこの教科の特色 を明らかにし,また,総合技術教育からの教育内容の検討を深めていくことを課題としたい。

1)ア・ヴェ・ルナチャルスキー著 矢川訳『労働教育論』 (明治図書,1960)pp.37−42.

2) 1皿anopHHcKH益, C A.ΦopMH K MeTo几LI npaKT班qecKoro npoH3Bo員cTBeHHoro o6yqeHHH B cpe八He厳 mKoJle, B KH. HoBa哀cKcTeMa Hapo几Horo o6pa30BaH∬∬BCCCP, c60pHHK耳oKyMeHToB H cTaTe藍, AnH PCΦCP, M.,1960, cTp.465.

3) nporpaMMbl BocbMHJIeTHoh HIKoJILI, Tpy耳oBoe o6yqeHKe.11pocBe田eH皿e,1978, cTp.4.

4) KpyncKaH, H. K. O noπHTexH四ecKoM o6pa30BaHHH. AnH PCΦCP,1959, cTp.188−189.

(12)

5)豊村洋子 ソビエトの家政科 その3.北海道大学紀要 22(1),197ユ年,p.148.

6)柴田義松著  『ソビエトの教授理論』 (明治図書,1982)pp.48−49.

7) nporpaMMLI BocbMH鵬THe益田KoJILI, Haqa∫1LHLIe KπaccL1. npocBe皿耳eHMe,1978, cTp.56.

8) nporpaMMH BocLMHJIeTHe益】皿KoJILI, Tpy凪oBoe o6yqeHHe。 npocBe皿瓦eH盟e,1978, cTp.

9) TaM氷e. CTP.3−4.

10)神谷栄司 学習・生産コンビナート『理代海外教育シリーズ5』(ぎょうせい,1981)pp.141−149.

11) nporpaMMH cpe几He益 HnくoJILI, Tpy凪oBLIe noJIHTexH琶qecKHe npaKTHKyMbl, npocBe1丑eH∬e,1978,

CTP.4.

12) Ta皿DKe. CTP.

13) nporpaMMbl BocLMHJIeTHe厳1111(oJlbl, HaqaJILHLIe KJIaccLI, npocBe田eHHe,1981,cTp.57.

14)Ma貢opoBa,14. r. H即. Tpy几oBoe o6yqeHMe B Haqan田LIx期accax. M.,1978, cTp.117.

15)初等段階の授業時間は40分である。ゆえにここでは40分授業が4回ということである。

16)ソビエトでは5段階評価をとっており,5が最高得点である。

17)ソビエトでは,4学期制である。

18)Ma勇poBa, H. r. H即. ToM)Ke. cTp.

19)家庭科教育学研究会編『小学校家庭科教育の研究』 (学芸図書,1979),p.27.

20)且aBLI几oB, B. B. BH几LI o60㎎eH朋Bo6yqeHHH. M.,1972, cTp.251−252.

21)Φe几opoBa, H・H』即.3aHπTH牙no o6c∫ly)KHBaIo1UeMy Tpy耳y B 4−8 KπaccoB, M.,1981,cTp,

22)JIa63HHa, A.∬.H几P.06c月y)KHBaK)皿田銘Tpy几, yqe6Hoe Hoco6He江JI∬5−ro K∬acca. M.,1980.

23)Φe凪opoBa, H. H. z几P. ToM)Ke. cTp.40−45.

24) TaM)Ke. cTp.34.

25)豊村洋子 ソビエトの家政科,その1.北海道大学紀要 20(1},1969,pp.97−98.

26)X皿e60BcKK軋B・A・OnporpaMMe noμoMoBo几cTBy,皿Koπa H Hpo盟3Bo凪cTBo. Ng3,1960. cTp.28.

27)MapTLIHoBa,0・C・yJlyq皿田TL npeno几aBaHHe旦oMoBo几cTBa B皿IKo皿e,夏∬Ko皿a H npoH3Bo凪cTBo. Ng8,

1963,CTP.74。

28) Bo6poB, K)・皿oMoBo耳cTBo以∫IH Bcex,1旺KoJla H npoH3Bo凪cTBo, Nol1,1960, cTp.

参照

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